無事に生まれた雷の精霊と仲良くなり、ポラリス達と他の精霊達とも顔合わせが終わり皆で楽しく遊んでいて、それを微笑ましそうに眺めているシリウスとエルフィナ。今は遊び疲れてシリウスとエルフィナの膝の上でお昼寝をしている最中だった。
「何度見ても飽きないわね。ほんと皆可愛いわー」
「だな(可愛い…エデンはやはりここにあった…いやいや、今はそんな事考えてる場合じゃない。精霊達の名前だ名前。でもなぁ…神様の名前しか出てこないんだよなぁ…ああいや、もう一個あったな。でもあの変身する方もな…なら神様の方が…でもそんな仰々しいのは…まんまにしなければワンチャン?短い場合はどうすれば…あれの場合は…いやこうすれば…こっちは、こうして…あれは…)」
膝の上で眠るポラリス達を優しく撫でながらも脳内では精霊達の名前を考えるのに忙しかった。脳味噌を捏ね繰り回して仰々しくなくて尚且つ似合う名前を吟味しているシリウス。
「精霊ちゃん達の名前を考えてるの?」
「うーむ…ん?ああ、中々良さそうなのが出てこなくてな」
「そう…ねえ、シリウスちゃん。今、二人っきりね」
「ん?まあ、そうだな」
「子供達は皆寝てるし、他の誰もここにはいないわ」
「それがどうかしたのか?」
「…ねえ、シリウスちゃん…私に話しておく事、無い?」
エルフィナは真剣な表情でシリウスを見つめており、シリウスが何か言うのを待っている。シリウスの中ではエルフィナは既にかなり大きな存在となっており、隣人や仲間よりも家族と言ってもいいほど近しい存在だ。これまで数えきれないほど助けてくれているエルフィナに色々と隠し事をするのはシリウスにとっても心苦しいものがあった。
「………まあ、エルフィナになら話してもいいか。突拍子も無い話になるけどいいか?」
「もちろん。全部受け止めるわ」
全て受け止める気のエルフィナを見てシリウスは話し始めた。
スピカの中に数百年前に実在した虚無の魔女、ウィクネシア・エーウィスがいる事。
ウィクネシアが禁術である転生の魔法【リインカーネーション】を使用した事。
その際に合ったズレが原因で正常に動作せず親和性の高い者に憑依になってしまい現在の対象者がスピカである事。
既に何度かウィクネシアと夢の中で話し合いアルヘナと名づけて娘にしようとしている事。
最近何故か会えずにいて機嫌を損ねてしまったかもしれない事。
シリウスはアルヘナに関する事を全て話した。エルフィナは魔女がスピカの中にいる事は察していたので真剣な表情で聞いていたが、シリウスがアルヘナと名づけて娘にしようと企んでいる辺りからキョトンとした顔になり、話が終わった頃には頭を抱えていた。
「これで全部だ…大丈夫か?」
「…ちょーっとだけ待って…」
予想していた事以外に予想斜め上の事を叩きつけられてエルフィナは中々受け止められずにいた。頭を抱えて唸っているエルフィナを見ながら、シリウスは隠し事を共有できて少しホッとすると同時に最大の隠し事を話していないので罪悪感も覚えていた。最大の隠し事、前世の記憶がありこの身体に魂だけが憑依している事だ。だがシリウスはこれだけは誰であろうと明かすつもりは無く、心の奥に閉まっておくつもりだ。アルヘナの話以上に荒唐無稽で混乱させる要因しかなく、下手に話が漏れると騒動の種になりかねないためだ。
「(この罪悪感とは一生付き合っていくか…)」
数分後、ようやく受け止める事ができたエルフィナは顔を上げたが、その顔は呆れたような表情をしていた。
「シリウスちゃん…お人好しで変わってる事は知ってるけどさぁ…いくらなんでも節操無さすぎじゃない?」
「失敬な。ちゃんと相手を見て選んでるよ」
「いや、でもさぁ…流石に魔女を娘にするのは…」
「魔女じゃない、アルヘナだ。アルヘナは何にも知らないから私が教えるんだ。私はそう決めた」
「スピカちゃんの事は?」
「スピカにした事は確かに許せないけど、そのおかげで私とスピカは出会えたから。複雑だけどアルヘナがスピカにちゃんと謝ればそれでお終いだ。スピカには私からちゃんと説明する。あの子なら納得してくれる、はず。多分。きっと…受け入れて、欲しい…なったらいいなぁ…」
「自信が無いのね…まあ、確かにスピカちゃんからすれば複雑よね…うーん、でもアルヘナがいなかったら黒目黒髪じゃなかったかもしれないけどその辺りは?」
「それを言われると何も言えない…」
「…もしもの話は止めましょうか。大事なのは今だし」
「そうしてくれ」
「で、シリウスちゃん。アルヘナを娘にするのは止めないのね?」
「当然」
「…はぁ~…シリウスちゃんは言い出すと聞かないからね…」
「すまんね、頑固で」
「本当よ、もう…〈人食い〉の時と結界の時もアルヘナが助けてくれたのね」
「ああ。〈人食い〉の時はアルヘナが動きを教えてくれなかったら速攻でやられてたし、結界の時も通れるようにしてくれなかったらここには来れなかった」
「それに関してはお礼を言うべきだけど…うーん…虚無の魔女…いえ、魔女って思うから駄目なのよね。いっそスピカちゃんの双子のお姉さんって思えれば…」
「私の中じゃアルヘナはもうスピカの双子の姉だな」
「それなら何とか、いけ、る?うーん…もうちょっと時間が掛かるかも」
「のんびりでいいさ。まだ外には出てこれないし。そのうち外に出られるようにするけど」
「でもそんな凄い魔力に耐えれる身体って用意できるの?」
「分からん。でもルジャナフスクに事情を説明すればワンチャンあるかもしれない」
「あー、まあ確かに…でもそうなるとアルヘナの事を話さないといけないけど」
「もう凄腕の魔法使いがいるってバレてるからいけそうだけどな」
アルヘナに関するこれからの事を話している時、エルフィナの中に素朴な疑問が浮かんだ。
「ねえシリウスちゃん。今更だけど、どうして皆を育ててるの?」
「うん?どゆこと?」
「いや別に責めてるんじゃないのよ。ふと気になって…その…言い辛いけど、皆とは血が繋がっていないじゃない?カペラちゃん達は魔物だったり動物だったりだし。だから何か理由があるのかなぁって思ってね」
「ほとんど成り行きだったんだが…理由、ねぇ…」
エルフィナの疑問にシリウスは視線を上げてその時の事を思い出している。
この世界にやってきた時の事。
ポラリスと初めて会った時の事。ポラリスを一瞬とはいえ見捨てようとした時の事。ポラリスにママと呼ばれた時の事。
アトリアと初めて会った時の事。アトリアの酷い状態に激しい怒りを覚えた時の事。アトリアにママと呼ばれた時の事。
カペラに初めて会った時の事。カペラを何気なく助けた時の事。カペラと契約して大好きだと言われた時の事。
スピカに初めて会った時の事。スピカをただ助けたいと思った時の事。スピカにかあさまと呼ばれた時の事。
ウェズンに初めて会った時の事。ウェズンの母親を看取った時の事。ウェズンにお義母さんと呼ばれた時の事。
ハダルに初めて会った時の事。ハダルに餌と間違われて噛みつかれた時の事。ハダルと契約して懐かれた時の事。
リゲルに初めて会った時の事。リゲルの母親を看取った時の事。リゲルの母親の魂の存在に感づいて懐かれた時の事。
アルヘナに初めて会った時の事。アルヘナの過去を知った時の事。アルヘナに怒られながらも拒絶されなかった時の事。
子供達に関する事は全て覚えているシリウスはその一つ一つを丁寧に思い出しながらその時芽生えた感情の名前を探している。
「私は…そうだ。何とかしたいって。助けたいって思って。ああ、そうだ。助けたかった。暗い顔にしたくなかった。ずっと笑顔でいてほしい。そう思って助けたんだ。ただそれだけだ」
視線を戻したシリウスの目には子供達を守るという強い意志が宿っていた。
「そう…後悔は?」
「無い。この子達を助けた事に一切後悔は無い」
「この子達を助けた事で悪意が押し寄せてきても?」
「当然だ。そんな悪意、全部私が打ち払ってやる」
エルフィナの問いにシリウスは力強く答えている。
「私は例え何度繰り返してもこの子達を助ける。私はこの子達の母親だ。絶対に守り切ってみせる」
そう締め括ったシリウスの姿は血が繋がっていなくても母親そのものだった。
「すぅ、すぅ…う~…」
「うにゅぅ…んー…」
「んぅ…ぅ?」
「(プルプル)」
「ブル…」
「シュー」
「ワフゥ…」
「起こしちゃった?ごめんね。よしよし」
話していたらポラリス達が目を覚まし始めたのでシリウスはすぐに笑顔で撫でている。ぐずついていたポラリスとアトリアや寝惚けていたスピカとリゲルやすぐに起きたカペラとウェズンとハダルも撫でられて気持ち良さそうに目を細めてシリウスに甘えている。さっきまでの覚悟が決まった真剣な表情よりもポラリス達と接している笑顔の方がシリウスには似合っていた。
「ふふふ…シリウスちゃんはそっちの方が合ってるわ」
「何の話だ?」
「んふふー、何でもなーい」
「ば~」
「ふぃーばぁば!」
「おば、さま…」
「(プルプル)」
「ブルル」
「シャー」
「ワフ」
「はーい、フィナおばちゃんですよー♪」
シリウスとエルフィナに甘えるポラリス達を撫でていると精霊達も起き出した。
「うに~…」
「おはよう、なにょ~…」
「あ~、なでなでしてりゅ~」
「ずりゅ~い」
「あたちもなでて~」
「はいはい、ふふふ」
「精霊ちゃん達も起きたの?」
「ああ。今私に甘えてるよ…そうだ。ルジャナフスクに雷の精霊の事を言わないと。後、あの事も言っておくか」
精霊達も起きたところでルジャナフスクに報告と相談があるので皆を連れてルジャナフスクの所へ向かった。ルジャナフスクの部屋に向かう途中でティーセットを持ったレネと会ったので一緒に向かった。
「入るぞー。入ったぞー」
「それ、言う意味無くね?」
「せめてノックしましょうよ…」
相変わらずフリーダムなレネに苦笑しながらルジャナフスクの部屋に入った。部屋の中は大量の本の他に用途不明な実験器具などがテーブルの上に所狭しと置かれており、地下室で見た淡く光る石も部屋の隅に置かれていた。
「レネか。お茶なら空いている所に置いておけ」
「客だぞー」
「客?ああ、シリウスとエルフィナか。何用だ?」
「雷の精霊はちゃんと生まれたよ。それと召喚魔法について教えてもらいたくてね」
「ふむ、そうか。召喚魔法であったな。確か…これだな」
シリウスの頭の後ろに隠れている雷の精霊を一瞥したルジャナフスクは本棚から一冊の本を取り出した。
「ふむ…よし、覚えた。では庭へ行くぞ」
召喚魔法の手順を確認したルジャナフスクと共にシリウス達は庭へ向かった。庭に出たルジャナフスクはどこからか取り出した杖で地面に複雑な魔法陣を描き始めた。その魔法陣はシリウスが覚えた術式のどれにも当て嵌まらない見た事も無い術式だった。
「…すっごい複雑だな」
「よくこんなの覚えられたわね…」
「これぐらい容易い。これよりも複雑なものなぞまだまだある。これでよい。シリウスよ、陣の中心に立て。子供達はエルフィナに渡せ」
「分かった。皆~、少しだけ待っててね~」
ポラリス達をエルフィナに預けて魔法陣の中央に立った。
「では始める」
ルジャナフスクが魔法陣に杖を突き立てて魔力を流すと魔法陣が輝き始めて起動した。すると魔法陣に描かれた文字が浮かび上がり新たな魔法陣へと変化し、二つの魔法陣が回転し始めた。
「我の後に続いて唱えよ。【我、古の盟約に従いここに願わん】」
「【我、古の盟約に従いここに願わん】」
「【我が内に宿りし魂よ。我が呼び掛けに答えよ】」
「【我が内に宿りし魂よ。我が呼び掛けに答えよ】」
「【我、汝と縁を結ぶ者。我、汝と契約を求めし者】」
「【我、汝と縁を結ぶ者。我、汝と契約を求めし者】」
「【この契約を是とするならば我が前に現界せよ】」
「【この契約を是とするならば我が前に現界せよ】」
ルジャナフスクに続いて詠唱すると魔法陣が目を開けていられないぐらい眩しく輝き、凄まじい魔力が溢れて大気を揺るがしている。
「後は召喚獣の呼び名を決めてそのまま呼び出すだけだ」
「(呼び名決めるの!?今!?そういうのは早く言ってよ!?ぬおぉ…!時間が無い!な、何か思い浮かんだのを言うしかない!)」
ここに来て唐突な名付けを迫られて焦りに焦るシリウスは咄嗟に心に浮かんだ名前を叫んだ。
「【来たれ!疾風の氷牙!カノプス!】」
光と魔力が最高潮に達し辺りは光に包まれた。光が治まりシリウスが目を開けるとそこには白く淡く光る成体のドラコウルフがいた。
「!!ワン!ワン!」
その姿を見たリゲルは嬉しそうに鳴きながらドラコウルフに駆け寄った。ドラコウルフは周囲を見回していたが、リゲルを視界に捉えると穏やかな雰囲気を出してリゲルを迎えた。リゲルはドラコウルフに抱き着くように飛び掛かり顔をペロペロと舐めており、ドラコウルフはそれをただ静かに受け入れている。
「成功した…」
「術式も魔力も詠唱も問題無いのだから当然だ」
「ん?あんなに凄い魔力だったのに私の魔力そこまで減ってないぞ?」
「最初の召喚魔法はかなりの魔力を使うのだ。シリウスの魔力では些か不安だったのでな、今回限り我が半分担った。魔力残量はどうだ?」
「あー…ちょうど半分、ぐらいかな?え?半分でこれなの?」
「そうだ。一人でしておれば今頃倒れておったかもしれんぞ」
「マジかよ…ありがとう」
「よい」
「ちょっと!?今の魔力何なのよ!?」
「す、凄い魔力を、感じた…!」
「今、召喚魔法を使ったのよ」
「召喚、魔法…!?」
「…あ、あー…そういえば確かあの時…なるほどね。あんな凄い量の魔力感じたの初めてよ」
「召喚魔法は力ある魔物の魂が無ければ会得不可能故、今ではほとんど廃れていると言っても過言ではない。知らぬのも当然だ」
リゲルと実の親の感動の再会を見つつ、シリウスは懐から何かを取り出してハダルに向き合った。
「ハダル。大事な話があるんだ」
「シュー?」
「まずこれ見て」
シリウスがハダルに見せたのはハダルの実の親のジャイアントスネークの牙だった。ハダルは首を傾げながらその牙に近づき舌をチロチロと出しながら匂いを嗅いでいる。
「シュー?シャー」
「よく分からないけど懐かしい気がする、か…それはね、ハダルの実のお母さんの牙なんだ」
「シャ?」
「うん、お母さん。そして、そのハダルのお母さんを私は殺した」
シリウスはエルフィナとの話でいつまでも逃げては駄目だと嫌われるのを覚悟の上で全てを話す事にした。シリウスの話をハダルは何も言わずにただ黙って聞いていた。話が終わり沈黙が流れる中、シリウスはハダルを見る事ができず俯いてしまった。
「(情けない…この期に及んでもまだ嫌われたくないって思ってる…嫌われるのが怖くて顔を上げずにいる…覚悟したんだろうが、シリウス・ノクティー。だったら腹を決めろ。顔を上げてハダルを見ろ)」
「シャー」
「…え?」
自分自身に言い聞かせて意を決した時、ハダルに母さんと呼ばれて思わず顔を上げたシリウス。反応できずに言葉を失っているとハダルが目の前までやってきた。
「シャー」
再び母さんと呼ばれてようやく我に返ったシリウスの心の中に芽生えたのは、ハダルの実の親を殺した自分が本当にハダルの母親になってもいいのかという迷いだった。ハダルに手を伸ばし掛けたが、手を下ろして俯くシリウスにハダルは自分から近づきシリウスの身体に跳び乗ってシリウスの顔に頬擦りをした。
「シャー」
「…ほんとに、良いの…?私が母さんで…?」
「シャー」
頬擦りしながら母さんと呼ぶハダルにシリウスは涙を流しながらそっと抱き締めた。
「ワン!ワン!」
その様子を見たリゲルが吠えているが、シリウスは何となくズルいと言っている気がするだけで詳細は分からなかった。
「シャッシャッシャッ」
「ウー!ワフ!ワン!」
「(プルプル)」
「ブルル…ブルブル」
優越感に浸って笑うハダルを見てリゲルは怒り、それを見てカペラはやり過ぎとハダルを諫め、ウェズンはリゲルに契約したらお義母さんとお話しできるよと言っている。
「ワフ!?ワウ…クゥ~ン…」
リゲルは最初はその手があったと早速シリウスの元に向かおうとしたが、すぐに立ち止まりドラコウルフの方を向いた。シリウスを見て、ドラコウルフを見てを繰り返していたがどうすればいいか分からなくなり俯いてしまった。リゲルはシリウスと契約していっぱいお話したいと思っているが、それをすれば実の母親であるドラコウルフに悪いと思って俯いているのだ。
「グル」
そんなリゲルの心は母親にはお見通しだった。ドラコウルフは何かをリゲルに伝えるとリゲルはパァっと表情を明るくしてドラコウルフの顔をペロペロと舐めた後シリウスの元に走った。
「ワン!ワフ!」
「リゲル?どうしたの?」
シリウスに飛びついて契約しようと言っているリゲルだが、シリウスには何かを訴えているとしか分からなかった。
「(プルプル)」
「え?契約?」
「ブルル…」
「私ともっとお話したいから?リゲル、本当?」
「ワン!ハッハッハ!」
カペラとウェズンが代わりに言ってくれたおかげでようやくリゲルの言いたい事が分かった。シリウスはチラッとドラコウルフの方を見るとドラコウルフも頷いている。
「そっか、分かった。ピーニ、頼む」
「はいはい。契約の内容は一緒でいいのよね?」
「ああ。意思疎通だけでいい」
ピーニは慣れた手付きで魔法陣を描いて契約が完了した。
「ワン!ワン!ハッハッハ!」
「おおぅ…怒涛の勢いで聞こえてくる…ほらほら、落ち着いて。ちゃんと聞こえてるよ」
聞こえる、お話できる、嬉しい、とリゲルの声が怒涛の勢いでシリウスに押し寄せてきた。
「ワフ!」
そしてリゲルはシリウスを母ちゃんと呼びながら嬉しそうに飛びついている。
「…リゲル。リゲルにはもうお母さんはいるでしょ?」
シリウスはドラコウルフの方を見ながらそうリゲルに伝えた。
「ワフ!ワン!」
するとリゲルはドラコウルフの方を見てママと呼び、シリウスの方を見て母ちゃんと叫んだ。
「…あなたはそれでいいの?」
「グル。ウォン」
シリウスはリゲルからそう呼ばれるのはもちろん大歓迎だが、自分の一存では決められないのでドラコウルフの方を見て確認すると穏やかな表情で頷いており、母親が二人で困る事があるのかと逆にシリウスに聞いてきた。
「いや、私は全然構わないけど…リゲル、本当にいいの?」
「ワン!」
うんと元気よく返事をしたリゲルにシリウスは嬉しそうに笑いながらリゲルを撫でた。
「あー…勝手にカノプスって名前を付けたけど良かったの?」
「ウォン。グルル」
「それも込みで託した?それにカノプスも悪くないって?そうか。ならこれからも宜しくな、カノプス」
現代日本ではカノプスはりゅうこつ座の一つでりゅうこつ座で最も明るい恒星で太陽を除くとシリウスに次いで二番目に明るい恒星だ。
勝手に名前を付けた事に不安を覚えていたシリウスだったがドラコウルフ、カノプスはむしろその名前を気に入っていた。カノプスを撫でていたシリウスだったが、カノプスの身体が足先から薄くなっている事に気づいた。
「ん?え!?ちょ、消えかけてるんだけど!?」
「召喚時間の限界が来ただけだ。召喚獣にもよるが大体十分程度で召喚獣は消える事になる。消えると言ってもシリウスの中に帰るだけだから再度の召喚は可能だ。だが再度の召喚には数日の時間を要する事になる」
「ウォン」
「二日もあればまたできるって言ってるけど…」
「ほう。相当気に入られたのだなそのドラコウルフに。召喚獣との絆を深めれば次の召喚までの時間が短くなる。書物には最短で半日というのもあったな。それと次の召喚は先ほどみたいに長い詠唱はいらん。呼び出した時点で正式な契約が完了したのでな。次からは簡略化した術式と詠唱だけでよい。魔力も、そうだな…今のシリウスであれば四割といったものか」
「四割か…まあ、それぐらいなら、何とか…」
「クゥ~ン…」
「グル」
「リゲル、大丈夫だよ。また会えるから」
悲しそうな声を上げるリゲルを安心させるためにカノプスは鼻先でリゲルを撫で、シリウスもリゲルの頭を撫でた。
「ウオオオォォォン」
カノプスは遠吠えをした後静かに消え、シリウスの中へと帰っていった。リゲルは少しの間寂しそうにしていたが、また会えると言ったカノプスとシリウスを信じてシリウスに飛びついた。
「ワフ!」
「おっと、よしよし」
「ま~」
「ままー!」
「かあさま…」
「(プルプル)」
「ヒィン」
「シャー」
「はいは~い、ママはここですよ~♪…ん?カペラ、今何て…?」
「(プルプル)♪」
いつものように甘えてきたポラリス達を抱き締めているとふとカペラがいつもとは違う事を言っていたことに気づいて聞き返した。カペラは少し恥ずかしそうにしながらもはっきりとシリウスの事をははと呼んでいた。
「~~~!カペラ~!そうだよ~!ははですよ~!」
「(プルプル)♪」
カペラは自分だけずっとシリウスと名前で呼んでいたので、これを機にちゃんと呼ぼうと決意してシリウスの事をははと呼んだのだ。可愛い可愛い愛娘がまた増えた事にシリウスの心はお祭り騒ぎとなっていた。アルヘナ以外の子供達から母親と認識されて幸せいっぱいなシリウスは緩み切った顔でデレデレしていた。
「んへへ~♪」
「あーあー、だらしない顔をして…」
「シリウス、幸せそう…」
「ふふふ」
「何で嬉しそうなんだ?」
「子供達から母親と認められたからだろう。子供達を愛でるのは構わんが精霊達がどうするのだ?」
「んんっ…ちゃんと名前は考えてきたよ。っと、その前に…他の子達は私と一緒にいるって言ったけど君はどうする?」
シリウスは名前を付ける前にまだ確認していない雷の精霊に尋ねた。雷の精霊はシリウスを見て、精霊達を見た後、フヨフヨ浮いてシリウスの顔に抱き着いた。返事は無かったがシリウスにはそれだけで十分だった。
「そっか、分かった。一緒にいよう。は~い、皆~、並んで~」
「は~い」
「にゃあに~?」
「どちたの~?」
「あしょぶ?」
「おひるね?」
「ふふふ、それは後でね。皆にね、名前を付けたいな~って思ってるんだけど、どう?」
「「「「「ほちい~!」」」」」
シリウスが言った途端、目を輝かせながら精霊達はシリウスに殺到した。未だ言葉を話せない雷の精霊も目をキラキラさせてシリウスに抱き着いている。
「ぬおっ。わ、分かったから、落ち着いて。ちょっ、ぶふっ」
「ほちいの~!」
「ちょうらい!」
「あたちも~!」
「にゃまえ~!」
「ちゅけて~!」
「!!」
シリウスは落ち着かせようとしているが、精霊達は興奮しておりシリウスの顔に六人の精霊が殺到して名前を欲しがっている。精霊達が何故ここまで名前を欲しがっているかというと、名前を付けてもらえばシリウスとずっと一緒にいられると思っているからだ。契約して力を貸す事も何ら疑問に思っておらず、むしろシリウスがいらないと言っても力を貸す気満々であった。鼻息が荒い精霊達を見て、どうしてこんなに興奮しているのか分からないシリウスだが、兎にも角にも落ち着かせない事には始まらないので四苦八苦しながら精霊達を落ち着かせていった。数分後、何とか精霊達を落ち着かせる事ができたが、精霊達は名前をくれるのを今か今かと待ち侘びていた。
「ふぅ…じゃあまずは火の精霊ちゃんから。君の名前はルースだよ」
「ルース…あたちのにゃまえ…」
ルースは火星をラテン語で読んだマルスから取った名前だ。
名付けた瞬間、火の精霊、ルースの身体が光りだし身体が一回り大きく成長していた。
「ふぁ!?何か大きくなったんだけど!?」
「契約する事で下位精霊から中位精霊に成長したのだ。と言っても成りたてであるからほとんど下位と変わらんがな」
「わ~い、わ~い。わたちのにゃまえ~」
「…中身は変わらないみたいだな…よし、水の精霊ちゃん。君の名前はネプトだよ。さあさあ、ドンドン行こう。風の精霊ちゃん。君の名前はラヌスだよ。よし次。土の精霊ちゃん。君の名前はトゥルだよ。後二人。氷の精霊ちゃん。君の名前はメルクだよ。ラスト。雷の精霊ちゃん。君の名前はユテルだよ」
海王星のラテン語読みのネプトゥヌス、天王星のラテン語読みのウラヌス、土星のラテン語読みのサトゥルヌス、水星のラテン語読みのメルクリウス、木星のラテン語読みのユピテル。
それぞれから取った名前を精霊達に次々と付けていった。精霊達全員に名前を付け終えて少し大きくなって喜んで飛び回る精霊達を見ていたシリウスだったが、突如シリウスの身体に異変が襲った。
「…ふおっ!?」
「シリウスちゃん!?どうしたの!?大丈夫!?」
悪寒にも似た震えがシリウスの全身を駆け巡り変な声を上げたシリウスを心配してエルフィナが駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫…ただ、滅茶苦茶ゾワゾワしてるだけ…いや、何かめっちゃ魔力増えてるんだけど…」
「複数の精霊達と契約したためであろう。契約すれば精霊と繋がる故、精霊の魔力が分け与えられるのだ。もちろん逆も然り。故に精霊も契約者の魔力で成長する。本来契約する精霊は一体なのが普通であるが、今回は六体と契約した故増える魔力が多くなるのは当然だ。先ほどの震えも増えた魔力が原因であろう。しばらくの間震えは続くやもしれぬが、代償としては破格なものであろう」
「ま、まあ、確かに…これだけで魔力が増えるのなら、そうだろうけど…うぅ…ゾワゾワするぅ…我慢するしかないけどさ…私に良い事尽くめだけど、これ以外にデメリットとか無いの?」
「精霊を裏切ったりしなければそのようなものは無い。そも、精霊を感知し、そこから契約できるほど仲良くなれる者なぞ早々おらん」
「妖精やエルフは?元々感知できるんでしょ?」
「妖精は精霊と共生している故比較的契約できる者は多いが、そもそも妖精側が契約を必要としておらん場合が多い。エルフ共は精霊を崇拝しておる故契約なぞできん」
「へー…ピーニも契約はしてないのか?」
「してないわよ。確かに仲が良い精霊とかは故郷にはいたけど、別に契約なんてしなくても毎日会ってるんだからいらないわ」
「ふーん、そんなもんか」
名前を貰ってはしゃぎ回っている精霊達を見てほっこりするシリウス。
「(ふむ…名前を付ける。つまり私はこの子達の名付け親。つまりそれは母親と言ってもいいのでは…?………いや、いやいや、落ち着けシリウス・ノクティー。まだこの子達に確認していない。取りあえずは…家族だな。うん、家族だ。家族が増えた。うん、良い事だ)」
一人何かに納得してうんうんと頷くシリウスを、また変な事を思いついたと冷たい目をしているピーニと苦笑しているエルフィナが見ていた。シェネドとレネは何とか精霊を見ようと目を凝らしており、ルジャナフスクは飛び回る精霊達を何気なしに見ていて、ポラリス達は飛び回る精霊達に手を伸ばしたり、興味深そうに見つめている。
その場は穏やかで平和な時間が流れていた。