転生したらママになりました。   作:大神降ろし

133 / 136
今回も少し長めです。


第百三十三話

 

 リゲルの実の母親を召喚魔法で呼び出して正式に契約をしカノプスと名づけた後、精霊達にも名前を付けて契約したシリウス。精霊達は余程嬉しいのか未だにテンションが高くシリウスの周りを飛び回ってポラリス達に自分達の名前を教えて回っている。

 

「あにょね~、あたちはね~、ルースっていうんらよ~」

「あたちはね、あたちはね、ネプトだよ~」

「ラヌスだよ~!ラヌスだよ~!」

「あたちのにゃまえ~、トゥル~」

「あたち、メルクだよ~」

「わたし…ユテル…えへへ…」

 

 成長した事で雷の精霊であるユテルも話せるようになっており、お話ができるようになって嬉しそうにはにかんでいる。シリウスはその様子をほっこりとした表情で見守っていた。

 

「(可愛い…そういえば身体は一回り大きくなったけど、言葉遣いはそのままだな…可愛いからいっか)」

 

 ふと疑問に思ったシリウスだがそのうち変わるだろうと軽く流した。

 

「とうとうシリウスちゃんが精霊使いになっちゃった…しかも六人も…」

「バレたら面倒な事になるのは分かるけど、そこまでの事か?」

「いい、シリウスちゃん?私も精霊使いには一度会った事あるけどその人でも精霊は一人だけだったの。それなのに六人だなんて…バレたらとんでもない事になるんじゃないかしら…?」

「精霊使い、私は、見た事も、聞いた事も、無い」

「私が会ったその人は森の奥でヒッソリと暮らしてたわ。精霊使いだってバレて面倒事に巻き込まれたから逃げてきたって言ってたわ。最近じゃあ精霊を捕まえてるって噂も聞いた事があるわ。軍が新兵器を開発しようとしててそれに使うとかなんとか…」

「精霊を兵器にか。ふむ…恐らく精霊を魔石に封じて動力源とし、強力な、そうだな…マジックボルトのようなものを放つ兵器であろう」

「うちの子達は絶対に渡さんぞ!」

「何がうちの子達よ!やっぱりあんた碌でもない事考えてたわね!」

「碌でもないとは失敬な!私は本気だ!」

「…まさか、娘にしよう、とかは考えて無いわよ、ね…?」

「それはまだだ」

「まだ!?まだって言った!?駄目よシリウスちゃん!いくら何でも節操が無さ過ぎよ!」

「嫌だー!私はあの子達を家族にするんだー!」

 

 精霊達まで娘にしようと目論んでいたシリウスをエルフィナは何とか止めようとシリウスを説得しているが、シリウスは駄々を捏ねて抵抗している。ピーニは呆れたように溜め息を吐いていて、シェネドは未だにルース達を見ようと目を凝らしていた。

 

「…レネよ。耳を貸せ」

「何だー?」

 

 シリウスとエルフィナの攻防を見ながらルジャナフスクがレネの耳元で何かを呟くとレネは表情は変わらないものの目をキラキラさせて頷いている。

 

「おおー、いいなそれ。レネちゃんは賛成だぞ」

「よろしい、準備は怠るなよ」

「おー」

 

 二人の間で何かが決まり、レネは張り切って古城の中に戻っていった。

 

「もう!分からず屋なんだから!」

「へーん!私は諦めんぞ!…あれ、レネは?」

「掃除にでも行ったのであろう。何も言わずに動くのはよくある事だ」

 

 説得できず膨れるエルフィナと意地でも曲げず口がひん曲がっているシリウス。

 

「ふえええぇぇぇ…」

「うー!めー!めー!」

「ぅぅ…け、んか、だ、だめ…ぐすっ…」

「(プルプル)」

「ブルルル…ヒィン」

「シャー!」

「ワン!ウー!」

「だめ~」

「けんかだめ~」

「め~にゃの~」

「おこっちゃや~」

「みんにゃ、にゃかよち~」

「けんか…だめ…」

 

 どちらも全く譲らず睨み合っていたが、それを見たポラリス達とルース達は二人が喧嘩をしていると思い泣いたり、頬を膨らませたり、二人の間に割って入ったり、顔に張り付いたりして総出で止めてきた。

 

「んぶっ…大丈夫。喧嘩じゃないよ~」

「あらあら…ごめんねー。ママとおばちゃんは仲良しよー」

 

 顔に張り付いたルース達を丁寧に引き剥がしたシリウスと泣いたり膨れたりしているポラリス達を撫でているエルフィナは一瞬目配せをして仲良しアピールをして皆を安心させた。その甲斐合ってかポラリスとスピカは泣き止み、アトリアは笑顔になり、カペラ達は引っ付き、ルース達も笑顔で二人の回りを飛び回っている。

 

「シリウスちゃん、この事はまた後でね」

「分かった。だが私は曲げんぞ」

「絶対曲げさせてみせるわ」

 

 一瞬真面目な顔で睨み合った二人だがすぐに元に戻りポラリス達をあやしていった。すると古城の方で何かが盛大に崩れたような音が鳴り響いた。

 

「うおっ、何だ?」

「何かが崩れたような音がしたけど」

「えっ?何の、音?」

「ええい、今度は何をやらかした」

 

 ルジャナフスクはすぐにレネの仕業だと悟り足早に古城へ戻っていき、気になったシリウス達もルジャナフスクの後を追って古城へ向かった。断続的に聞こえる音の発生源の部屋を覗いてみると積み上げられていたであろう箱や何に使うか分からない物が崩れ落ちていて部屋中に散乱していた。部屋の中にいるレネはそれに見向きもせず何かを探して物を拾っては放り投げ、拾っては放り投げを繰り返しており部屋の中が悲惨な事になっている。ルジャナフスクはさっきからレネが放り投げる物をひたすらレビテーションで浮かせては床に下ろしている。

 

「ええい、止めんか馬鹿者。物を放り投げるでない」

「どこだー。あれはどこにいったー」

「聞いておるのか貴様」

 

 ルジャナフスクの静止に耳を傾ける事無くレネはひたすら物を放り投げて何かを探している。

 

「お、おー。あったぞー」

「やっと止まったか…全く…何を探していたのだ?」

 

 レネが見せてきた物は何ら変哲もない袋だったが、シリウスはどこかで見た事があるような気がした。

 

「なーんか見た事があるような…?」

「…あれじゃない?シリウスちゃんのマジックバック」

「…ああ、そういやそうだな。レネも持ってたんだな」

「それか。確かに必要だが、部屋をここまでする必要など無かったではないか」

「…ぬおっ。部屋が散らかって…誰がこんな事を…」

「貴様だ!この馬鹿者が!」

 

 レネのすっと呆けた発言に流石にキレたルジャナフスクはレネの脳天に拳骨を落とした。

 

「痛い!何すんだコノヤロー!」

「やかましい!」

 

 レネも黙っておらず掴み合いに発展した。シリウス達はルジャナフスクの圧勝で終わるだろうと思っていたが普通に拮抗していた。

 

「毎回毎回余計な手間を増やしおって!今日という今日は灸を据えてやるわ!」

「にゃんだと!レネちゃんがいなかったら何もできないくせに!」

「あーあー…始まっちゃった…」

「ふふふ、二人共、仲良しねー」

「え?喧嘩、してるけど…?」

「喧嘩するほど仲が良いって言うからな」

「それにルジャナフスクが本気で怒ったらこんなものじゃ済まなさそうだし」

 

 ルジャナフスクとレネは怒っているもののシリウスとエルフィナには二人がじゃれているようにしか見えなかった。

 

「う~」

「うー!めー!めー!」

「…け、んか…し、てる…?」

「(プルプル)」

「ブルルル…ヒィン」

「シャー!」

「ワン!ウー!」

 

 だがポラリス達はそう見えず喧嘩してると思っているのでまた膨れたり、服を咥えて引っ張ったりして止めようとしている。

 

「む?いや、喧嘩ではない」

「おおん?何だ何だ?止めろー、引っ張るなー」

 

 その甲斐合ってルジャナフスクもレネもすぐに喧嘩を止めた。

 

「う~、じ~」

「じぃじ!めー!」

「…ふ、ふたり、とも…」

「じぃじ?」

 

 ルジャナフスクの方を見てポラリスとアトリアは喧嘩は駄目と膨れているが、それよりも二人が言った言葉にルジャナフスクは反応した。

 

「じぃじ、とはどういう事だ?」

「あー…んー…多分お爺ちゃん、って事だと、思うけど…嫌だよね、ごめん。この子達にも言っとく」

「いや、別に構わんが…じぃじか…そのように呼ばれるのは初でな。些か戸惑った」

「う~?」

「じぃじ!」

「ぁ、ぅ…えっと…」

「スピカ~。言っても良いってさ」

「ぁ…ぅ…ぉ…お、じい、さま…?」

「……………まあ、構わん。好きなように呼ぶとよい」

 

 お爺ちゃん扱いされて戸惑ったルジャナフスクだが、そう呼ばれて存外悪くない気分だったので好きに呼ばせる事にした。恐る恐るルジャナフスクの事をお爺様と呼んだスピカを撫でながら許可するとポラリス達がジッと見つめているのに気づいたので同じように撫でると嬉しそうにニコニコしだした。笑顔なポラリス達を見ていると心の奥がほんのり温かくなるのを実感したルジャナフスクはレネ以外には分からないぐらい僅かに口角を上げている。

 

「あ~♪」

「あーい♪」

「ぁぅ…」

「ふっ…」

「ポラリス~、アトリア~、スピカ~、お爺ちゃんができて良かったね~」

「おん?坊ちゃま、笑っとる?」

「笑っていない。それよりも探し物が見つかったのなら早く片づけんか」

「全く、こんなに散らかしてもう…」

 

 レネの発言にイラっとしたルジャナフスクだったがグッと耐えてポラリス達を撫で続けた。そう、ポラリスとアトリアとスピカを同時に。

 

「…なあ、何かおかしくない?」

「何がだ?」

「どう見てもおかしいでしょうが!あんた手が三つもあるじゃないの!?」

 

 シリウスが何かおかしいと思っていたらピーニが盛大にツッコんだ。今のルジャナフスクは右腕が二本あり、ポラリスとアトリアを同時に撫でていたのだ。

 

「これか。先日の物品召喚の応用だ」

 

 ルジャナフスクが右腕のローブを捲り上げると肘の辺りに拳大の魔法陣があり、そこから右腕が召喚されていた。

 

「我の魔力で操っている故に自在に動かせる。無論ここより魔法を放つ事も可能だ」

「へー、すげー。一本しか出せないの?」

「いや、まだまだ出せる。限界まで出した事は無いが、少なくとも五本は出せる」

「五本同時って難しくない?」

「分割思考など容易き事。他にも並列思考、高速思考もできる故、何ら問題無い」

「へー、いいなー。私も分割思考使えたらなー」

「分割思考使って何するの?」

「もちろんポラリス達の事。一個だけなら一人ずつだけど、八個もあれば皆の事同時に考えられるじゃん。最高じゃん」

「そんな事考えるのはあんたぐらいよ…」

「シリウスちゃんらしいわね」

 

 ピーニは呆れ、エルフィナは苦笑しているが、シリウスは分割思考を会得すればやる気満々だった。

 

「会得は不可能では無いが、八つの思考は脳の方が持たぬ故不可能であろう。仮に会得してもしばらくは酷い頭痛に悩まされるぞ」

「なら無理か。残念」

 

 できそうならやってみようかなと思っていたシリウスだったが、ルジャナフスクの言葉を聞いてスッパリ諦めた。

 

「しかし分割思考を覚えようとするとは。シリウスは向上心があるのだな」

「あれば便利だし、結果的にポラリス達を守れることに繋がるなら覚えない選択肢は無いし」

「必要に駆られたから覚えるのが普通で、便利だからと覚えようとするものではない。昔はシリウスのようなものが少なからずいたのだが、今では見る影も無い。気概の無い者ばかりだ。嘆かわしい」

「シリウスちゃんみたいな人は百年に一人ぐらい希少よ。仕方が無いわ」

「いや、言い過ぎだろそれ。もうその辺で止めてくれ」

 

 ルジャナフスクとエルフィナに褒めに褒められてむず痒い思いをしているシリウスは二人を止めようとしている。

 

「こらー、邪魔だぞー。手伝わないなら出てけー」

「お前は本当に…はぁ…」

「もう、口が悪いわよ。ポラリスちゃん達が真似したらどうするの」

「にしても、本当に散らかってるな。手伝うか」

「えー…」

「頑張んなさいよー」

「お前も手伝うんだよ」

 

 一抜けしようといたピーニと嫌そうなシェネドを引っ張って片づけに参加させた。部屋中をひっくり返したぐらいの散らかりようだったが、総出で片づけしたおかげで一時間ほどで片づけれた。片づけが終わり食堂に移動してお茶を飲んで一息付く事になった。

 

「思ったより早く片づいたなー」

「そもそもお前があんなに散らかさなければいいだけだろうが」

「レネちゃんは袋を探してただけだ」

「そういや何でマジックバックを探してたんだ?」

「それはー…何でだっけか?」

「何で忘れるのよ…」

「クッキー、美味しい」

「ヴァー…坊ちゃまに何か言われたから探してた気がするような、しないような…」

「どっちだよ。ルース、ネプト、ラヌス、トゥル、メルク、ユテル、食べてもいいよ」

「「「「「「わ~い」」」」」」

 

 何で探していたか覚えていないレネにツッコみつつ、ルース達にクッキーを渡していった。

美味しそうに食べるルース達を見つつ、ポラリス達にクッキーを食べさせている。シリウス達の視点からはルース達はテーブルの上に座ってクッキーを食べているが、エルフィナ達の視点からはクッキーが宙に浮いて少しずつ無くなっていくというポルターガイスト的な現象が見えていた。

 

「何も見えないぞー」

「あーん。私も可愛い精霊ちゃん達が見たーい」

「クッキーが、独りでに、無くなっていく…怖い…」

「我には動物が食べている様子が見えるがな」

「私はクッキーが球体に吸い込まれていくのが見えるわ」

「幼女が美味しそうに食べているしか見えないんだがな…」

「「「「「「おいち~!」」」」」」

「あ~♪」

「おーちー!」

「お、いし…♪」

「(プルプル)♪」

「ヒィン♪」

「シャー♪」

「ワフ♪」

 

 クッキーを食べて喜ぶ愛娘と家族を見てシリウスはほっこりしている。

 

「そうそう、言い忘れてたわ。シェネド、二日後に出発するわよ」

「えぇ…もう…?」

「ここにどれだけ滞在してると思ってるの?流石にこれ以上は駄目よ」

 

 まだ蔵書室の本を読み切っていないシェネドは縋るようにシリウスの方を見るが、シリウスは苦笑しながら首を横に振った。残念そうに肩を落とすシェネドだったがそれなら一冊でも多く読もうと思い至り、お茶を一気飲みしてクッキーを口の中に詰め込んで蔵書室へ走っていき、ピーニもクッキーを持ってそれに付いていった。

 

「もっと味わっていけよな」

「もう。ポラリスちゃん達が真似しちゃうじゃないの」

「二日後か。食料など物資は持っていけるだけ持っていくとよい。我とレネだけ故、余りまくっておるのでな」

「いいのか?助かる」

「レネよ。明日シリウス達に食料を渡しておけ。なるべく日持ちする物をだ」

「分かったぞー」

 

 残ったシリウス達はのんびりお茶を楽しんだ。お茶を飲み終わったルジャナフスクは研究の続きをするために部屋に戻り、レネは夕食の準備に取り掛かり、シリウスとエルフィナはポラリス達とルース達と部屋に戻り夕食まで遊ぶ事にした。皆でぬいぐるみ遊びをしたり、ポラリスのハイハイの練習を皆で応援したり、シリウスとエルフィナに甘えて撫でてもらったり、ルース達がピカピカ光って踊るのを眺めたりと皆で楽しく遊んだ。日が暮れてきた辺りでレネが呼びにきたので食堂へ向かうとシリウス達の分の食事の他にルース達の分の食事もちゃんと用意されていた。

 

「わ~い」

「ごはん~」

「おいちそ~」

「おにゃかしゅいた~」

「はやく~」

「ごはん…」

「はいはい、皆ちゃんと座ってね。態々この子達の分もありがとね」

「レネちゃんが勝手にやっただけだぞ。気にするな」

「ま~」

「ままー」

「かあ、さま…」

「(プルプル)」

「ブルル」

「シャー」

「クゥ~ン…」

「お腹空いたね~。ご飯食べようね~」

 

 シェネドとピーニとルジャナフスクも食堂にやってきたところで夕食を食べ始めた。シリウス達はフォークなどを使っているが、流石にルース達のサイズのフォークなどは無かったのでルース達は素手で食べており、手はもちろん口の周りや身体も汚れてしまっている。

 

「「「「「「おいち~」」」」」」

「あーあー、すっかり汚しちゃって…ほーら、こっち向いて。手もちゃんと拭こうね」

 

 流石にそのままにしておく訳にはいかなかったのでナプキンで皆の口と手を拭いていった。

 

「「「「「「うにゅ…えへへ~」」」」」」

「(自然で育ったからマナーとか知らないのも当然か。その辺は追々教えていくか)しょうがない。ルース、あ~ん」

「あーん」

「ま~、う~」

「はいはい。ポラリス~、あ~ん」

 

 自分の家族になったルース達を野生児のままにさせる訳にはいかないのでルース達も食べさせる事にした。当然ポラリス達もご飯を強請ってくるのでシリウスは大忙し。両手にフォークとスプーンを持ってあっちこっちにひたすら食べさせている。

 

「こらー。レネちゃん特製料理を食べないとは何事だー。口を開けろおらぁん」

「だから多い、むぐっ。モグモグ」

「はーい、シリウスちゃん。次はこっちよー」

「ゴクン。ちょっとま、もごっ。モグモグ」

 

 両手が塞がっているシリウスをエルフィナとレネが左右から交互に次々と料理を食べさせていっている。手遅れたシェネドはシュンとしながらチビチビと食べ、ルジャナフスクは完璧な食事マナーで静かに食べ、ピーニはひたすらがっついて食べている。

 

「げふぅ…食い過ぎた…」

「おらぁん。まだ残っとるぞ。口を開けろおらぁん」

「はいはい、その辺にしてあげなさい。皆はお腹いっぱいになったかなー?」

「あ~♪」

「あーい♪」

「う、うん…」

「(プルプル)♪」

「ヒィン♪」

「シャー♪」

「ワフ♪」

「「「「「「おにゃかいっぱい~♪」」」」」」

「精霊達もお腹いっぱいって言ってるわ」

「全く…精霊達も子供にする気か。ただでさえ三人と四体も抱えておるというのに。その子達を疎かにしてしまうぞ」

「げっふ…そ、そうならないようにするけど…」

「シリウスちゃんだからちゃんと気をつけるとは思うけど…一度ポラリスちゃん達に確認してみましょうか。ポラリスちゃーん、アトリアちゃーん、スピカちゃーん、カペラちゃーん、ウェズンちゃーん、ハダルちゃーん、リゲルちゃーん。あのね、ママはルースちゃん達とずっと一緒にいたいって思ってるけど、ポラリスちゃん達はどう思ってる?」

 

 エルフィナの言葉を聞いてポラリス達はテーブルの上でお腹いっぱいで満足そうな表情をしているルース達を見た。既に何度も仲良く遊んでいるのでポラリス達の中では家族と言っても過言ではない存在で一緒にいる事に何の問題も無かった。

 

「あ~、う~」

「あーうー!」

「…ぁ、ぅぅ…」

「(プルプル)」

「ブルル」

「シュー」

「ワフ」

 

 今もポラリスとアトリアはルース達に手を伸ばし、スピカは二人みたいにはできず伸ばし掛けたが恥ずかしくなって俯き、カペラはスピカの代わりに身体から小さな触手を出して手招きし、ウェズンは顔を寄せて近くにいたユテルを鼻先で撫で、ハダルはそのまま近寄ってメルクに頬擦りをし、リゲルはトゥルを咥えてスピカの近くへ持っていった。ルース達も笑顔でポラリス達と戯れておりエルフィナの懸念は心配無さそうだった。

 

「大丈夫そうね。それにシリウスちゃんならポラリスちゃん達を疎かになんかしないし」

「だが状況次第ではそうなる可能性も捨てきれないのでは?」

「そうなりそうだったら私から一言言えば大丈夫よ。私はシリウスちゃん達にずっと付いていくつもりだし」

「…なら構わん」

 

 ルジャナフスクなりにポラリス達を心配しての発言だったが、エルフィナの言葉を信じて引き下がった。その後レネがデザートを作ろうとしたが流石に皆お腹がいっぱいなので何とか阻止して部屋に戻った。

 

「ぬぅ…ようやくマシになってきたと思ったら眠気が襲ってきた…」

「召喚魔法を使って疲れた後でお腹いっぱいになって満足したからじゃない?今日はもう寝たら?」

 

 程よく疲れてお腹が満たされたので既に眠たくなったシリウス。何とか眠気と戦っていたがかなり劣勢でドンドン瞼が下がっていく。

 

「ほらほら、今日はもう休みなさい。ポラリスちゃん達は私が見てるから」

「ぬぐぐ…!わ、私は眠気程度に、負けな…スヤァ」

 

 エルフィナにベッドに横にされた途端、抗えない眠気に襲われて秒で寝てしまった。

 

「寝ちゃった」

「ま~?」

「ままー?」

「かあ、さま…?」

「(プルプル)?」

「ブル?」

「シュー?」

「ワフ?」

「どちたの~?」

「ねてりゅ~?」

「やら~」

「おきて~」

「あしょぼ~」

「おきて…」

「ママはね、ちょっと疲れちゃったみたいなの。だから寝かせてあげましょ。ママの代わりにフィナおばちゃんがいるから安心してね」

「精霊達の方は私が見ておくわ」

 

 エルフィナはポラリス達を撫でながらシリウスから少し離れた所に連れていき、ポラリス達をあやしていった。ルース達の方はピーニが面倒を見てくれているのでエルフィナはシェネドとポラリス達が眠たくなるまで一緒に遊んだ。

 

「…お?夢の中かここ?アルヘナ~、どこ~?ママが来たよ~」

 

 先に眠ったシリウスは数日ぶりに夢の中へやってきたのでアルヘナを探し回っている。いつもなら来た時点でアルヘナが現れていたのだが今回は中々出てこなかった。呑気にアルヘナを探していたシリウスだったが先日考えていた事が不意に蘇った。

 

「(はっ!?そうだった!アルヘナに嫌われてるかもしれないんだった!何でこんな大事な事忘れてたんだ!)うわーん!ママが悪かったから出てきてくれー!」

「―――ええい!さっきから喧しいわ!」

 

 大声で泣き喚くシリウスにアルヘナはキレながら出てきた。

 

「アルヘナー!ごめんよー!」

「はぁ?何が、って!抱き着くなー!」

 

 アルヘナを見た瞬間シリウスはアルヘナに抱き着いて謝っている。何が何だか分からないアルヘナは引き剥がそうとしているが、シリウスの抱き着く力が強くて引き剥がせなかった。兎にも角にも落ち着かせない事には何も始まらないので何で自分がこんな事をと思いながらもシリウスを宥める事にした。

 

「はぁ、はぁ…よ、ようやっと、落ち着いたか…」

「あー…ごめんね?取り乱しちゃって」

 

 数分後、ようやく落ち着いたシリウスだがアルヘナは疲労困憊だった。グッタリと横たわっているアルヘナに罪悪感を覚えたシリウスはアルヘナの傍に座りアルヘナの頭を膝の上に置いた。

 

「…おい、何だこれは」

「何って…膝枕?」

「そういう事を聞いておるのではない。何故しておるのかと聞いておるのだ」

「いやぁ…私の所為でアルヘナに迷惑掛けたから…お詫び?みたいな?」

「何故疑問形なのだ…もう、よい…」

 

 相当疲れたのかツッコむ気にもなれなかったアルヘナだが、内心落ち着くのを実感していた。

 

「(ええい、何なのだこれは。何故こうしていると心が落ち着く)」

「ん?どうした?」

 

 チラッとシリウスを見ると目が合いシリウスが首を傾げている。アルヘナは何も答えずに目を逸らしたが、シリウスは特に反応する事無くアルヘナの頭を撫でている。

 本当はアルヘナも分かっていた。

 自分を虚無の魔女のウィクネシア・エーウィスではなくただのアルヘナとして接してくるシリウスに絆されている事に。

 シリウスが訪れて他愛のない話をするのを楽しみにしている自分がいる事に。

 自分を娘にして母として接してくるシリウスに反発しながらも温かなものを感じていた事に。

 遠い過去に見た仲の良い家族に憧れていた頃の事を思い出した事に。

 今の今まで虚無の魔女としての矜持が認める事を許さなかったが、シリウスと会う度にそれがドンドン削れていく事に。

 

「(ふんっ…虚無の魔女たるわしがこんな娘に絆されるとはな…焼きが回ったものだ…だが、これでいいと思う自身もいる)」

「アルヘナ?本当にどうした?…はっ!?や、やっぱり私に怒って…!?」

「怒っておらん。最近呼んでおらんかったのは考え事に集中しておったからだ」

「そ、そう?良かった…」

 

 相当不安に思っていたシリウスは安堵の溜め息を吐いている。シリウスから不安そうな表情が無くなり笑顔が戻ったのを見たアルヘナは、心の中でシリウスの笑顔が戻ってきて安心していた。

 

「……………はぁ~(認めるしかない、か)」

 

 深い溜め息を吐いたアルヘナに首を傾げているシリウスだったが、ふと身体が浮かび上がるのを感じた。

 

「もう起きる時間か?やれやれ時間が経つのが速いな。また来るからな~」

 

 笑顔なシリウスに背を向けるアルヘナだがシリウスは何も言わずに手を振っていた。

 

「………またな。“母上殿”」

「!?!?!?」

 

 背を向けたままアルヘナが最後の最後に言った一言にシリウスは固まりながら夢から覚めていった。

 目を開けたシリウスが初めに感じたのは歓喜だった。確かにアルヘナから聞いた母上殿という言葉。自分にくっ付いて眠るポラリス達やルース達がいなかったら雄叫びを上げながらガッツポーズするほど内心荒れ狂っていた。

 

「んっへへへ~♪(やっべ…超嬉しい…)」

 

 皆が寝ている中で一人気持ち悪い声で笑っているシリウス。その笑い声にピーニが起きてドン引きされている事に気づかないままシリウスはしばらく笑っていた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。