転生したらママになりました。   作:大神降ろし

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第百三十五話

 

 何も無い夢の中でシリウスはアルヘナとスピカの二人と談笑していた。

 暗闇だけではスピカが怖がるという理由でアルヘナに注文を付けて夢の中に小屋を建てさせた。小屋の中はモコモコでフワフワなぬいぐるみが多数あり、床もモコモコの絨毯が敷かれモコモコのベッドも置かれており割とメルヘンチックになっている。小屋の外もメルヘンな牧場風になっており、空もそれに合わせて綿あめみたいな雲が流れるようになった。今は現実も夜なので夢の中も夜になっており、綺麗な満天の星空となっている。

 シリウスからあれやこれやと細かい大量の注文を入れられてプリプリ怒り文句を垂れながらもアルヘナは全てやり遂げた。

 

「こんな風にこき使われるなんて初めてだぞ…」

「いやぁ、悪いね。でもおかげで過ごしやすくなっただろ?」

「過ごすだけならこんなにモコモコしてなくてもいいではないか!」

「えー、可愛いのに。スピカも可愛い方がいいよね?」

「もふもふ…もこもこ…」

「ほらぁ」

「そいつが好きなだけだろうが!普段過ごすのはわしだぞ!?」

「アルヘナはモコモコは嫌だったか?」

「普通でいいわ!態々モコモコじゃなくても構わんわ!」

 

 今はアルヘナは外や小屋の作製で疲れ切ってベッドで寝転んでシリウスの言葉に怒っており、スピカは絨毯の上で座っているシリウスの膝の上に座ってぬいぐるみのモフモフを堪能している。

 

「ふふふ…まあ真面目な話、流石に真っ暗な空間でずっと一人ってのも寂しいだろ?少し可愛くなったけどこれなら過ごしやすくなったじゃん」

「これを少しと言うか貴様…まあ、暗闇だけでは味気ないのは事実…変えるのも手間だからこれで我慢してやる」

「素直じゃないな~アルヘナは…それと貴様じゃなくてママと呼びなさい」

「絶対呼ばんわ!」

「というよりこの前呼んでくれたじゃ~ん。ほら、もう一回言って?」

「言うか!」

「言えよ~。言わないとギュ~ってしてナデナデしちゃうぞ~?」

「貴様ぁ…!」

 

 いつまで経っても母上殿と言ってくれないアルヘナに業を煮やしたシリウスは手をワキワキさせながら期待に満ちた目でアルヘナを見ている。スピカはいたずら小僧のようにニタニタと笑うシリウスと悔しそうな顔をするアルヘナを興味深そうに交互に見ていた。

 

「…(ゴニョゴニョ)」

「え、何て?」

「~~~!ええい、母上殿!これでいいな!わしは寝る!」

 

 顔を真っ赤にしながらシリウスの事を母上殿と呼んだアルヘナは不貞寝しようとしたが、喜びに満ち溢れたシリウスがスピカを抱き抱えたままベッドに跳び乗ってきた。

 

「ふおっ!?な、何の真似だ!?」

「アルヘナ~♪んっへへへ~♪」

「や、止めろー!離せー!」

「かあ、さま…」

「んっふふふ~♪スピカ~♪」

 

 喜びのあまりシリウスはアルヘナとスピカを同時に抱き締めて交互に頬擦りを繰り返した。アルヘナは全力で抵抗し、スピカは恥ずかしそうにしながらもされるがままだった。三人でイチャついていたが、小屋の外が明るくなり始めてシリウスとスピカの身体が浮き始めた。

 

「ひぅっ…!?」

「大丈夫だよスピカ。起きるだけだから。また夜に寝たらここに来れるよ。アルヘナ、また夜に来るよ」

「もう来るな!」

「もう、素直じゃないんだから…プライドとかあるかもしれないけど、ママにはお見通しなんだから意地とか張らなくてもいいのに」

「意地なんて張っとらん!毎度毎度抱き着きおってからに!」

「…ぁ、かあ、さまに、だ、だき、しめ、ら、れるの…い、や…?」

「あ?」

「ひぅっ…!?」

 

 スピカがおずおずとアルヘナに尋ねると絶賛不機嫌なアルヘナはドスの利いた声で返答したのでスピカは怯えてシリウスに抱き着いて顔を隠した。

 

「こらアルヘナ。スピカは妹なんだからそんな口調は駄目だぞ。泣いたらどうするんだ」

「ただ反応しただけではないか!」

「もっと優しく且つマイルドに反応しなきゃ」

「ええい、細かい注文ばかり…!」

「次来る時までの宿題な~」

 

 眉間に皺を寄せているアルヘナに別れを告げてシリウスとスピカは夢から覚めていった。シリウスが目を開けるといつもと同じようにポラリス達とルース達とエルフィナとシェネドがシリウスに抱き着いて寝ていた。

 

「(うん、いつも通り。っていうかポラリス達とルース達はいいんだけど、何でエルフィナとシェネドも抱き着いてるんだ?あれか?近くにある物に抱き着く癖でもあるのか?)」

 

 女心が分かっていないシリウスは的外れな考えをしつつ皆を起こさないようにゆっくり引き剥がして起き上がり着替え出した。

 

「すぅ、すぅ…う~…ふえええぇぇぇ」

「うにゅぅ…うー…びえええぇぇぇ!」

「んぅ…ぁ…ぁぅ…」

「は~い、おしめ変えましょうね~」

 

 いつものようにポラリス達のおしめを変えていると、ポラリス達の泣き声でカペラ達とルース達やエルフィナ達も起きてきた。

 

「(プルプル)」

「ヒィン」

「シュー」

「ワフ…」

「うに~…」

「おきたにょ~」

「ねむねむ…」

「おにゃかしゅいた~」

「にゃでて~」

「おきた…」

「うぅん…シリウスちゃん、おはよぅ…」

「ねむい…あと五分…」

「もう朝なの?」

「は~い、スッキリ~。ポラリス、アトリア、スピカ、カペラ、ウェズン、ハダル、リゲル、ルース、ネプト、ラヌス、トゥル、メルク、ユテル、エルフィナ、シェネド、ピーニ、おはよう」

「ま~♪」

「ままー♪」

「かあさま…」

「(プルプル)♪」

「ヒィン♪」

「シャー♪」

「ワフ♪」

「「「「「「おはよ~にゃの~」」」」」」

「ママですよ~♪」

 

 いつもと同じように甘えてくるポラリス達とルース達を抱き締めるシリウス。だがスピカはキョロキョロと周りを見回して誰かを捜しているような素振りを見せていた。

 

「あら、スピカちゃん、どうしたの?」

「おば、さま…ある、へな、は…?もふもふ、と、もこもこ、は…?」

「アルヘナ…?シリウスちゃん、スピカちゃんって昨日…」

「ああ、私と一緒にアルヘナに会った」

「大丈夫だったの?」

「もちろん。ちゃんとスピカに謝ったし。次はちゃんとした口調をさせないとな。スピカ、泣きそうになってたし」

「そうだったのね。スピカちゃん。アルヘナ、ちゃんは怖くなかった?」

「…こ、わく、ない…ひと、り、ぼっち、は、やだ…」

 

 エルフィナの質問にスピカは首を横に振りながら答えた。シリウスに引き取られるまでずっと一人ぼっちだったスピカはその辛さが分かるので多少口調が荒くてもアルヘナの事は怖くなかった。…いや、やっぱり少し怖かった。アルヘナの口調とその目付きを思い出してスピカは少し震えていた。

 

「あらあら、ふふふ。大丈夫よ、よしよし」

「ほらシェネド、早く起きて着替えろ。置いてくぞ」

「うぅー…」

 

 寝惚けてうつらうつらしているシェネドを急かし食堂へ向かった。いつもより少し遅れて食堂へ着くと既にルジャナフスクとレネが席に着いていた。

 

「遅いぞー」

「すまん、少し遅れた」

「気にするな。誤差の範疇だ」

 

 プンプンと膨れるレネをルジャナフスクが諫めて朝食を取り始めた。

 

「ゆっくり、のんびり、安全に食べるご飯、これでしばらく、お預け…」

「そう言うなって。次の町に着く前での辛抱だ」

「次の町のビリアには森を抜ければすぐよ」

「でも、四日は、掛かる…」

「四日ぐらい我慢しなさい」

 

 文句を垂れるシェネドだったがエルフィナにピシャっと切り捨てられてガックリと首を落とし、シリウスは苦笑しながら頭を撫でてあげた。

 

「坊ちゃまー、いつ言うんだ?」

「まだだ。今少し待て」

 

 朝食を取り終えたシリウス達は部屋に戻り、部屋を簡単に掃除した後荷物を持って部屋を出た。

 外に出るとルジャナフスクとレネが待っていたのだが先ほどと恰好が違った。ルジャナフスクは何故か一回りほど大きくなっており、黒を基調とした余所行きの服の上から黒のローブを纏い、仮面舞踏会で付けるような仮面を付けて立っていた。レネの方はいつものメイド服だが背中に大きなリュックサックを背負い、腰にはマジックバックを二つぶら下げている。 

 

「え?どしたんそれ?どっかに行くのか?」

「レネちゃん達も付いてくぞー」

「「「…えぇ!?」」」

「クックック…」

「いぇーい。サプライズ大成功ー」

 

 まさか一緒に来るとは夢にも思わずシリウス達は驚きの声を上げた。今朝までそんな素振りは一切無かったので余計に驚いているシリウス達を見てサプライズが成功しクツクツと笑うルジャナフスクとピースサインをするレネ。

 

「え?な、何で?」

「レネちゃん達が付いていったら駄目なのか?」

「い、いや、駄目じゃないけど…付いてきてくれたら助かるけど…どして?」

「友達だからだぞ」

「…それだけ?」

「それ以外に何かあるのか?」

 

 とても不思議そうに首を傾げながら問い掛けてくるレネに困りルジャナフスクの方を見るとまだ笑っていた。

 

「クックック…いやなに、シリウス達に付いていけば退屈せんと思ってな。レネに提案したら快諾したぞ」

「本当にそれだけ?」

「いや、大部分はそれだが他にもある。実はそろそろ別の場所に移ろうと思っておってな」

「誰も来ないから良い立地じゃないの?」

「初めはそうだったのだが、警備のために放った人形兵が噂になってしまってな。時折ハンターらしき者達がうろつくようになったのだ。あれは失敗だったな」

「あちゃあ…」

「でもいいの?ここを放置して?かなり貴重な物とかいっぱいあるのに」

「心配いらん。昨日の時点で外にいる人形兵は全て結界内に回収した。結界も誰も入れぬように強固な物を何重にも掛け直した。これで入れる者がおるのなら見てみたいものだ」

 

 シリウスやエルフィナに気づかれる事無く全ての準備を終えていたルジャナフスクに二人は両手を上げて降参した。

 

「ここまで本気だと断れないわね…」

「だな…分かったよ。行き先はアールレディアだけどいいのか?」

「構わん。どこであろうとシリウス達に付いてゆくだけよ」

「レネちゃんはどこまでも付いていくぞー」

 

 ルジャナフスクとレネという頼もしい仲間が増えシリウス一行は五人となった。古城を後にして結界を出て振り返るとそこには何も無かった。

 

「…よし。結界は正常に稼働しておる。問題無い」

「うおー、行くぞー」

 

 レネは張り切って歩き出したがルジャナフスクは数秒ほど古城の方を見て感慨に耽っていたが、振り返りシリウス達の後を追った。

 

「そういや、何で大きくなってるんだ?」

「これか。これは戦闘用の人形を改造したものだ。ちょうど我が入れるぐらいの大きさとなっておる。我はこの中にいる」

「どういう事?」

「よく、分からない…」

「ああ、そういう事ね(強化外骨格とかパワードスーツみたいなもんか。え、何それ。めっちゃかっけぇ)」

 

 エルフィナとシェネドは首を傾げていたが、シリウスはすぐにSFのパワードスーツみたいなものと理解した。

 

「シリウスちゃん、分かったの?」

「その人形の中にルジャナフスクが乗り込んでるというか、その人形を着込んでるとかそんな感じだろ?」

「そうだ。ふむ、一度出るか」

 

 ルジャナフスクが立ち止まると身体の前面が開き中からルジャナフスク本体が出てきた。

 

「うわぁ…」

「ひぇ…」

「おぉ…」

「何故そんな反応をする」

「いや、だって…人の中から人が出てきたら、そりゃあねぇ…シェネドなんか怯えてるし」

「かっけぇ…!」

「…何故かシリウスちゃんは興奮してるけど、普通は私達の反応が正しいからね」

「だろうな。過去に何人か見られた事はあるが、エルフィナ達の反応ばかりだった。中には攻撃してくる者も少なくはなかった」

「レネちゃんも何でか襲われたな。レネちゃんパンチでワンパンだったけどな」

「待て。それは聞いておらんぞ。何時の事だ?」

「うぁー…何時だっけ?」

 

 ルジャナフスクがレネに問い質している間、エルフィナとシェネドはシリウスに質問していた。

 

「シリウスちゃんは何ですぐに分かったの?」

「朝まではいつもと一緒だったし、中からルジャナフスクの声が聞こえたから何か着込んでるのか、乗り込んでるのかって思っただけだぞ(本当は違うけど)」

「何で、怖くない、の…?」

「何でって?」

「だって、人が、パカッて…」

「いやあれ人形だから。人が開いたらそら驚くけど人形だから」

 

 それぞれ足を止めて話しているが今いる場所は結界の外。普通の声量で話しているので当然話し声は森の中に響き渡っており、それを聞きつけて魔物達が集まり始めていた。

 

「…!話は後みたいね」

「そのようだ」

 

 シリウスとエルフィナは武器を構えたがルジャナフスクが二人の前に出た。

 

「我がやろう。どの程度使えるか知りたいであろう?」

「そりゃあ知りたいけど…手伝うぞ?」

「構わん。ランドラプターが十五匹程度、何の問題も無い」

 

 物品召喚で杖を呼び出し数歩前に出たルジャナフスク。ルジャナフスクが呼び出した杖は先端に複数の魔石が埋め込まれており、その先端もメイスのように太くなっていた。

 茂みから飛び出してきたランドラプターは威嚇しながら一番近くにいるルジャナフスク目掛けて駆け出してきた。

 

「【グランドスパイク】」

 

 ルジャナフスクが杖で地面を叩きながら魔法を唱えると地面から無数の岩の杭が飛び出してきた。半分ほどのランドラプターが岩の杭に貫かれたが、後ろにいたもう半分は岩の槍を跳んで回避した。

 

「【フリーズランサー】」

 

 ルジャナフスクは杖を軽く振り魔法を唱えると今度は無数の氷の槍が空中にいるランドラプターに襲い掛かった。避ける事もできずランドラプターは氷の槍に次々と貫かれていった。

 あっという間に十五匹のランドラプターを片づけたが、戦闘音を聞きつけて森の奥から地響きと共に巨大な影が姿を現した。

 

「グオオオォォォ!」

 

 姿を現したのはアースドラゴンでルジャナフスクを視界に捉えると猛然と突っ込み始めたが、ルジャナフスクは冷静に杖を構えた。

 

「【ライトニングフォール】」

 

 ルジャナフスクが魔法を唱えるとアースドラゴンの真上に魔法陣が現れて複数の雷が落ちてきた。雷は直撃しアースドラゴンは声を上げる事無く地面に倒れ動かなくなった。

 

「もう終わってしまったか…この程度では我が実力を示せぬではないか」

「いや、十分伝わったから」

「瞬殺だったわね…」

「凄すぎ…」

「おおー…ドーンってなって、ビューンっていって、ズドーンってなったぞー」

 

 僅か三つの魔法を放っただけでランドラプターとアースドラゴンを蹴散らし、それだけでルジャナフスクの高い実力が知れた。

 

「…周囲にはもういなさそうね。今の雷の音でこっちを窺っていた魔物も逃げていったみたいだし。荷物になるけど剥いでく?ランドラプターの爪はそこそこ売れるし、アースドラゴンは竜種だから装備にしても優秀だし全身高値で売れるわよ」

「そんじゃあ剥いでくか。皆、ちょっと待っててくれ」

 

 ポラリス達をシェネドとレネに預けてシリウスとエルフィナはランドラプターとアースドラゴンの剥ぎ取りを行った。ランドラプターとアースドラゴンの牙と爪と鱗と皮を剥いでいき、アースドラゴンは肉や骨や血なども何かしらに使えるので全身を解体していった。

 

「何とか解体できたけど…多過ぎるわね…」

「ランドラプターは全部持っていけるけどアースドラゴンは無理じゃね?」

「そうね…残念だけど大半は置いていく事になりそうね」

「レネちゃんに任せろー。バリバリ持ってくぞー」

「持つって…かなりの量があるわよ?」

 

 シリウスとエルフィナの荷物に詰めれるだけ詰めたがそれでも全体の一割程度で大半の魔物の素材が残ってしまった。残った素材をレネが張り切ってマジックバックに詰め込んでいった。どう見ても50㎏以上の量があったがレネのマジックバックに全て収まってしまった。

 

「おいおい、全部入ったよ」

「いやいやいや、絶対50㎏以上は合ったわよ!?」

「シリウスのより、凄い」

「どうだ、凄いだろー」

「お前が威張るな。このマジックバックはピュヒュルメル・エルナッデが作った逸品だ。通常の物の十倍の容量を誇る」

「十倍って…500㎏って事?初代すげー」

 

 シリウスが持つマジックバックの十倍の効果を持つマジックバックをレネが二つ、ルジャナフスクが一つ持っており、計三つも所持していた。ルジャナフスクのマジックバックのおかげでアースドラゴンの素材を全て持つ事ができたので再び出発した。

 先頭をエルフィナとルジャナフスクが歩き、その後ろをシリウスとシェネドとレネが付いていっている。エルヴェの森は庭みたいなものと言わんばかりに鬱蒼とする森をズンズンと進むルジャナフスクがいるだけでシリウスとエルフィナの負担が減り、行きと違って会話やポラリス達の相手ができるほど余裕が生まれている。ピクニックみたいにのんびりと森の中を歩く事数時間、夕暮れが近づいてきたので野営する事にした。

 

「野営はここで良いのか?」

「ええ。枝は集めたし、鳴子と魔物避けを置くわ」

「いや、必要無い」

 

 ルジャナフスクは杖を呼び出して地面をたたくと半円の透明の膜が野営地を覆った。

 

「魔物避けと認識阻害の結界を張った。これで心配いるまい」

「…それ、すっごい便利ね」

「その代わり習得難易度は高く、魔具でも代用できる故、覚える者は僅かだがな」

 

 ルジャナフスクのおかげで野営もかなり楽に設営できた。夕食はレネがパパっと作った野菜がゴロゴロ入ったシチューと焼いたランドラプターの肉とパンだ。

 

「私、天幕しか張ってないんだが…」

「私もよ。手持無沙汰過ぎてずっとポラリスちゃん達を撫でてたわ」

「ご飯、美味しい」

「あのトカゲの肉も美味しいわね!」

「うまっ、うまっ」

「あまり食べ過ぎるなよ。まだ先はあるのだからな」

 

 今までの緊張感は何だったのかと言うほど快適な野営で美味しい夕食を堪能するシリウス達だったが、シリウスとエルフィナはあまりにも違い過ぎて戸惑っていた。

 

「火の番は我がやろう。身体は人形故、数日寝ずとも問題無いのでな。アールレディアまでまだ先は長い。ゆっくりと休むといい」

 

 火の番もルジャナフスク一人がすると言い、天幕を張った以外何もせずに終わってしまった。

 

「こうやる事が無いと何だかモヤモヤする…」

「そうね。今までは何かしら動いていたから余計にね」

「私は、楽なの、好き」

「いいじゃない別に。たまにはダラダラしても」

「ピーニはいつもダラダラしてるじゃないか」

 

 天幕の中であまりの手持無沙汰に甘えてくるポラリス達をこれでもかと撫でながらボヤくシリウスとエルフィナだが、シェネドは楽でいいとルジャナフスクから借りた本を読んでいる。時々エルフィナが天幕から顔を出して周囲の気配を探るが、結界に覆われているので魔物の気配は一切しなかった。外で火の番をしているルジャナフスクはどこから持ってきたのか椅子に腰掛けて本を読んでいた。何もする事は無いと分かりいつもより少し早いがポラリス達が眠っているのでシリウス達も寝る事にした。

 就寝後、シリウスはスピカを連れて夢の中のアルヘナの元を訪れていた。

 

「アルヘナ~、来たぞ~」

「来たか、母上殿」

「ンンッ!」

 

 小屋に入ると同時にアルヘナに母上殿と呼ばれクリティカルヒットしたシリウスは愛が溢れないように鼻を抑えている。一方アルヘナはいつもやられっ放しなのは性に合わず、何をしてもシリウスに言い包められるのである意味開き直っていた。

 

「どうした母上殿、鼻を抑えて。とにかく入るといい母上殿。今日は何をするのだ母上殿。ほれ、早く教えてくれ母上殿」

「ゲフッ!グフッ!ゴフッ!ガハッ!」

「か、かあさま…!」

 

 アルヘナはニタニタと笑いながらシリウスの事を母上殿と連呼しており、呼ばれる度にシリウスはクリティカルヒットして瀕死になっていた。さらに抱き抱えているスピカがシリウスを心配そうに見上げてくる顔がトドメとなりシリウスはその場に仰向けに倒れた。もちろん倒れる際にスピカに衝撃がいかないように配慮しながら。倒れたシリウスの表情は緩みに緩み切っており幸せそうだった。

 

「クッフフフフ!母上殿の言う通り意地など張らんでもよかったな」

「かあ、さま…!」

「心配いらん。ほれ、顔をよく見てみよ」

「…?わ、らって、る…」

「そういう事よ。さっきのはいわば母娘の交流みたいなものよ。クッフフフフ!」

 

 愉快に笑うアルヘナ、幸せそうな表情で気絶しているシリウス、シリウスを心配して揺り起こそうとしているスピカ。アルヘナの笑い声だけが夢の中で響き渡っているが、そこに悪感情は無く夢の中は平和だった。

 

 

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