「私はレイルン・ライランド。ドウェルト騎士団騎士団長の副官をしている者です。未来の騎士団員達のためにも引き受けていただけないでしょうか?」
「あらそう。でも関係無いわ。私は引き受けない」
「そこをどうかお願いしたい」
ギルドでエルフィナとレイルンが静かな攻防を繰り広げていた。
どうやらエルフィナがビリアにいる事に気づいた騎士団がエルフィナの知識と経験を訓練生や見習い達に教示してもらいたいのだが、エルフィナはそれをけんもほろろに断っている。後進の育成に関してそこまで興味は無く、騎士団というあまり融通が利かない相手といたくないのだ。そして何より教導をした結果、大切な人達を失った過去を持つエルフィナにとってはそれは地雷だった。
「冷たいだの薄情者だの好きに言いなさい。何と言われようと私はやらないわ」
「あなたにも何らかの考えがお有りなのでしょう。ですがこちらにも引けぬ理由がございます。引き受けていただくまでここに居させていただきます」
「何でそこまでするんですか?」
エルフィナが頷くまで付き纏う宣言をしたレイルンに流石にシリウスが理由を聞いた。
「あなたは?」
「この子は私の仲間よ。この子に妙な事したら許さないから」
エルフィナから厳しい視線に晒されているレイルンだが気にせずにシリウスを見つめている。レイルンから値踏みされるように見られているシリウスだが、視線を逸らさずにレイルンを見つめ返している。
「…ふむ、どうやらあなたも相当死線を掻い潜ってきたようだ。エルフィナ殿のお仲間ならお話しても構わないでしょう」
レイルンは引けぬ理由を話し始めた。
ドウェルト騎士団の団長は騎士団幹部の中から投票で選出されるのだが、選出された現在の騎士団長はかなり問題があった。騎士団長はオルティナ王国のとある侯爵の長男で自分に箔を付けるために裏工作を仕掛けて騎士団長に選ばれた。剣の腕など武はそこまで高くなくどちらかというと政の方が向いており、侯爵家や自分の伝手などを使って騎士団長の権限を強化させて私腹を肥やしたり、不正を働いたりとかなり好き勝手にしているが、王に目を付けられないように細心の注意を払っているので未だに騎士団長の座に就いている。自分の思い通りにならなければすぐに怒鳴るヒステリックと横柄な態度で誰からも嫌われているが、騎士団長と侯爵という立場があるので誰も逆らえず、一部の幹部と騎士団員は甘い汁を吸おうと媚びを売っており、誰かに通報しようとすればすぐにバレてしまうので皆息を潜めている。今回もエルフィナが来なければ周りに当たり散らかすのが目に見えているので、被害を最小限に食い止めたいレイルンはどうにかしてエルフィナを連れていきたいのだ。
「―――という事なのです。身内の恥を晒すのはお恥ずかしいのですが、隠したままでは考慮すらしてくれないと思いましたので」
「うわぁ…」
「思っていた以上に酷いわね…」
「私、行きたくない…」
シリウスとシェネドはドン引きしているが、エルフィナはある程度内情を知っていたのか驚きは少なかった。
「どうしてエルフィナなんですか?」
「訓練生は対人の経験はあるのですが、魔物との戦闘は少ないのです。普段はエルヴェの森で行うのですが最近は浅い所では魔物も出てこず、かといって奥へ向かうにはあまりにも危険。他の場所も魔物が出てくる場所までかなりの距離があるため教官達も頭を悩ませているのです。そこで魔物との戦闘経験が豊富なエルフィナ殿に口頭とはいえ知識を授けていただければと思いまして」
「でもその指示は騎士団長から出たんですよね?」
「騎士団長は己に箔を付けたいだけですので。エルフィナ殿を自分が呼び寄せたとなれば貴族間で一目置かれると思ったのでしょう」
「ほんと貴族っていうのは…はぁ…お昼頃に残りの仲間が戻ってくるからそれまで待っててちょうだい。相談するわ」
「申し訳無い。よろしくお願いいたします」
レイルンはシリウス達に一礼した後、ギルドの奥の部屋へ向かった。残されたのは正直行きたくないシリウスとシェネドと頭を抱えるエルフィナだった。
「はぁ…どうしましょう…」
「聞いただけで受けたくないけどな…」
「私なら、断る。行かない」
「私だって行きたくないけど、そうなるとさっきの人がずっと圧を掛けてくるわよ?」
「それは、やだ…」
「あの人も苦労人っぽかったな」
「そうね。顔から疲れが滲み出てたし、目の下に隈もあったわね。日頃から無理難題を吹っ掛けられてるみたいね」
「やだねぇ、ああいう中間管理職は・・ところで仮に受けるとして、何を教えるんだ?」
「数時間程度じゃあ何も身に付かないから、基本的な事と一番気をつけないといけない事を教えるつもり。シリウスちゃんは大丈夫だけど、受けるとなったらシェネドもちゃんと聞いておくように。大切な事よ」
「えぇ…」
三人で駄弁っていたら予定より早くルジャナフスクとレネがギルドに戻ってきた。
「む?いたのか」
「あら、もう終わったの?」
「うむ。昨日我らが返った後に依頼主が少し片づけていたらしくてな。細かな配置換えだけで終わった」
「レネちゃんはピカピカにしてきたぞー」
「へー、頑張ったんだなー。取りあえず報告してきたら?こっちはちょっと厄介事があって」
「ふむ?分かった」
ルジャナフスクは受付へ向かいサインの入った半紙を渡して報酬を貰い戻ってきた。
「いくら入ってたー?」
「後にせよ。それで厄介事とは?」
エルフィナはレイルンが話していた事を全てルジャナフスクとレネに話した。
「なるほど。確かに厄介事だな」
「エルフィナは行きたくないのか?」
「そうね。行きたいか行きたくないかで言えば行きたくないわね」
「なら断ろう。うん、それがいい。レネちゃんが言ってきてやろう」
「引き受けてくれるまで帰らないって言ってるのよ」
「よし、ならレネちゃんパンチで追い払おう。任せろ、行ってくる」
「待て待て、早まるな」
「これ、引き受ける以外に選択肢無くないか?」
「…やっぱりそう思う?はぁー…やりたくないわー…」
全身からやりたくないオーラを出しながらエルフィナは立ち上がってレイルンが待つ部屋へ向かった。数分後、エルフィナとレイルンがロビーに戻ってきてレイルンはシリウス達に一礼してからギルドを出ていった。
「それで?」
「今日のお昼にでもやってほしいって。かなり急だからこっちからも色々と注文を付けてやったわ。皆も連れていけるようにしといたから悪いけど付き合ってちょうだい」
「それは全然構わないけど」
「私も、いい」
「我も構わんぞ」
「レネちゃんもいいぞー」
シリウス達はギルドを出てドウェルト騎士団の訓練校へ向かった。
訓練校は騎士団の本部の隣に建てられている。レンガ造りの三階建ての大きな建物がいくつもあり、だだっ広い運動場や屋内の訓練場などがある。訓練生はここで寮生活をしながら騎士になるために厳しい訓練に耐えながら日夜励んでいる。普段は訓練生の掛け声や教官の怒号が聞こえたり、運動場で走る訓練生などが見えるが。今日はほとんどの訓練生が屋内の講堂に集められていた。
「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
入り口にはレイルンが待っており、一緒に付いてきたウェズンを訓練校の厩舎で一時的に預かってもらってから、シリウス達は訓練校の中へ入った。
「まずは学長の元へご案内します」
「それ必要?私は講義をしてほしいって言うから来たのよ。おべっかとか聞きにきたんじゃ無いわ」
「誠に申し訳無い。ですが学長は騎士団長の一派に一人でして」
「ああ、いいわ。もう分かったから、何も言わないでちょうだい」
「申し訳無い」
訓練校の教官達にも騎士団長の息が掛かった者がいるため講義だけして帰るという事はできなかった。挨拶をせずに講義だけして帰れば挨拶すらしてこないと難癖を付けられるかもしれないのでエルフィナも溜め息を吐きながらレイルンに付いていった。
「失礼します。学長、エルフィナ殿御一行をお連れしました」
「おお、よくぞおいでくださいました。私、本校の学長をしております、アルレフ・エヴァーテンと申します。英雄と名高いエルフィナ様をお招きできて光栄の至りでございます」
「…いえいえ、未来の騎士達のためならこれぐらい構わないわ」
レイルンの案内で学長室に入ると恰幅の良い初老の男性が媚び諂うような厭らしい表情で揉み手をしながらエルフィナを歓迎した。その表情を見てエルフィナは眉をピクッと動かしたが、すぐに取り繕い社交辞令満載で会話し出した。学長のアルレフの厭らしい表情と言動を見てシリウスは険しい表情を自覚し、シェネドは嫌な事を思い出して青褪めてシリウスの後ろに隠れ、ルジャナフスクは目を細めてレネを隠すように腕を組んでいる。あらかじめレネには静かにしているように言い聞かせていたので、レネは大人しくルジャナフスクの影から覗くだけに留まっていた。しばらくアルレフによるおべっかに付き合っていたエルフィナだったが、段々と取り繕うのも限界がきて眉がピクピクと動き、ローブで隠れている握り拳もプルプルと震えていた。
「…学長、エルフィナ殿もお忙しい中時間を作ってくれています。そろそろ」
「む?おお、確かに。では講堂の方へご案内いたしましょう」
エルフィナの様子に気づいたレイルンが機転を利かしてアルレフを促してようやくおべっかが終わった。アルレフとレイルンの案内で講堂前に着き、中を覗くと訓練生の大半が講堂に集まってガヤガヤと騒いでいた。
「何で俺達集められたんだ?」
「特別講師を招いたとは聞いたが…」
「私は魔物の対処法って聞いたけど」
「なら上級のハンターさんかな?」
「どんな話をしてくれるのかな?楽しみ!」
「はっ。ハンターなどという下民の話など聞く価値など無いわ」
「然り。我らの手に掛かれば魔物など一蹴できるわ」
「話なら貴様らだけで聞けばいい。我らには必要無い」
「おい、言い過ぎだ。態々来てくれる方に失礼だろう」
「そうよ!謝んなさい!」
「貴様、平民の分際で貴族に意見するか!?」
「我々の恩情でここに居られる事が分かっていないようだな!」
「身の程を弁えよ!」
平民出身の訓練生と貴族の子弟の訓練生が言い争い睨み合っていた。この訓練校は貴族でも平民でも入る事ができるので貴族と平民の間で諍いがかなり多く起こっている。学校側は平等だと謳っているが、やはり貴族の権力の前には弱く教官達もあまり強く注意できずにいるのが現状だ。
「…ねぇ、帰っていい?」
「お気持ちは分かりますが、何卒ご辛抱を」
貴族と関わりたくないエルフィナが本音を零して帰りたがるが、レイルンが押し留めている間にアルレフが扉を開けたので逃げる機会を失ってしまった。深い溜め息を吐いたエルフィナは諦めて講堂に入った。入った瞬間アルレフとレイルンと一緒にいるエルフィナに視線が殺到するが、エルフィナは一切怯まず澄ました顔で教壇へ向かって歩いていき、シリウス達は扉のすぐ横に並んで立った。
「諸君!今日は特別講師に来ていただいた!かつてこのオルティナ王国の英雄と謳われた偉大な伝説のハンターチーム〈グローミナス〉の〈緑風〉の異名を持つエルフィナ様だ!」
アルレフから過剰な紹介をされ再び眉をピクッと動かしたエルフィナだが、多くの視線があるためすぐに取り繕って笑顔で教壇に立った。
「エルフィナ・ノーゼルよ。皆に魔物の対処法などを伝授させてほしいって頼まれたので来たわ。早速だけど話していくわね」
事前にレイルンからどの程度の魔物に対する知識を教えているかを聞いていたのでそれ以外の基本や応用を話しながら、講堂にいる訓練生を一人一人見て実力などを測っている。
「(皆、シリウスちゃんより弱いわね。何人かは頑張ればいい戦いはできそうだけど、それでもシリウスちゃんの方が上ね)」
真剣に聞く者もいれば、退屈そうにする者、見下して聞こうともしない者もいる中でエルフィナは淡々と話していった。
「―――とまあ、こんな感じね。後は実践して覚えていけば身に付いていくわ。地味で大変かもしれないけど怠ると手痛いしっぺ返しがあるから気をつけなさい」
一時間ほどで講義は終了し訓練生からは拍手が送られた。
「ふんっ!英雄だの伝説だの言われているが大した事はないな!」
「どんな話をするかと思えば、まるで役に立ちそうにも無い事ばかり。時間の無駄であったな」
「平民と違い我らにはそのようなものは必要無い!」
拍手をしたのは平民の訓練生だけで貴族の訓練生はエルフィナを鼻で嗤い罵倒していた。
「貴様!いい加減にしろ!」
「お前達のような奴がいるから俺達の評判も悪くなるんだぞ!」
「謝りなさい!今すぐに!」
「黙れ平民がっ!」
「今まで大目に見てきてやったが、それも今日までだ!」
「我らを愚弄した事、後悔するがいい!」
「止めんか貴様ら!いい加減にしろ!」
為になった事を話してくれたエルフィナに対しての罵倒にキレた平民の訓練生は貴族の訓練生に詰め寄り、貴族の訓練生も平民の訓練生の言葉に怒り心頭となり、今にも暴動が起こりそうな一触即発な雰囲気となってしまった。流石に教官達が諫めようと声を張り上げて間に割って入るが、両者とも頭に血が上っていて耳に入っていなかった。
「や、止めんかお前達!我が校の恥を晒すな!」
「本当に面倒臭い事になったわね…」
「誠に申し訳無い。平等に扱うように言っているのですがあまり効果が無く…結果は見ての通りでございます」
「なまじ剣の腕があるから余計に増長してるのかもね。といっても誰も彼もあの子以下だけど」
「あの子とは…彼女の事ですかな?」
エルフィナの発言にレイルンは少し考えて騒動を呆れたように見ながらポラリス達をあやすシリウスを見た。
「ええそうよ。毎日決まった型と魔戦技を鍛錬し続けてるから相当のものよ。身内贔屓も込みだけど騎士団員にも引けを取らないと思うわ」
「それは、凄いですな…」
エルフィナの言葉を全て鵜呑みにする気は無いが、それでも相当の実力を持っているとレイルンは判断した。レイルンはその場では一番冷静で客観的に判断したので受け入れたが、頭に血が上っている者達にとってはそれは火に油を注ぐ行為だった。
「おい貴様!今何と言った!?」
「我らがその女に劣っているというのか!?」
「あら、聞こえてたの?ならハッキリ言ってあげましょう。彼女はこの場にいる誰よりも強いわよ」
「何だと!?」
「エルフィナ、止めてくれ。私を巻き込まないでくれ」
シリウスが慌てて制止しようとするが、エルフィナは聞こえないフリをして訓練生にハッキリと言った。
「ふざけるな!我らがそこの女より劣っているはずが無い!」
「そうだ!いい加減な事ばかり抜かしおって!」
「あら、だったらハッキリさせてみる?あなた達と彼女で模擬戦をすれば分かるわ」
「よかろう!我らの力、見せつけてやろう!」
「え、エルフィナ様!?お、お待ちください!」
「お前達、何を勝手に決めている!?」
「うん、待とうか。私はやる気、これっぽっちも無いんだけど」
当事者にされたシリウスと騒ぎを鎮めようとしていたアルレフと教官達も止めようとしたが、エルフィナは訓練生と講堂を出ていってしまい、アルレフと教官達も急いで後を追った。
「…これ、私も行かないといけないのか?先に帰っちゃ駄目か?」
「話の流れでは行かなければならんだろうな。別に行く義務は無いが、行かなければエルフィナの立場が無くなるが、どうする?」
「それ聞かされて行かない訳にはいかないじゃん。はぁ…ったく、しょうがねえな」
溜め息を吐きながらシリウスもエルフィナ達の後を追い、ルジャナフスクはオロオロしていたシェネドとポケ~っとしていたレネを引き摺ってシリウスの後を追った。屋内の訓練場に着くと既に貴族の訓練生三人が木剣を持って準備ができており、他の訓練生も壁際に居て観戦する気満々であった。
「あ、シリウスちゃん」
「何か言う事は?」
「し、シリウスちゃん?」
エルフィナに圧を掛けるようにニッコリと笑いながら近づくシリウスにエルフィナは戸惑っていた。
「…て」
「て?」
「てへぺろ♪」
「反省の色が無さそうだな」
「いたたたたたっ!?ご、ごめんなさーい!」
笑って誤魔化そうとするエルフィナにシリウスはエルフィナの頬を捻りながら思いっ切り引っ張った。
「ったく、当事者ほったらかしにして勝手に決めるんじゃない」
「ひーん…痛いよー…」
「ば~」
「ふぃにゃばぁばー」
「おばさま…だ、いじょ、ぶ…?」
シリウスの気が済むまで捻ったり引っ張ったりされてエルフィナの頬は赤くなっていたが、それを見てポラリス達が心配そうに声を掛けている。
「おい女!早くしろ!」
「我々をいつまで待たせる気か!」
「うるせえな、いつまでも待ってろよ。はぁ…エルフィナ、子供達を頼む」
「分かったわ。ごめんね」
「もういいよ」
ポラリス達をエルフィナに預けてシリウスは木剣を持って訓練場の真ん中に向かった。
「ようやくか、待たせおって…!」
「平民如きが貴族を待たせるとはどういう了見だ!」
「はいはい。そういうのはいいからさっさと掛かってこい…この木剣軽すぎない?」
「貴様ぁ…!もはや我慢ならん!」
「加減などせんぞ!」
「我らに吐いた暴言、後悔させてやる!」
訓練場の真ん中に立っていた三人の貴族の訓練生は一斉にシリウスに襲い掛かった。シリウスは冷静に一人目の唐竹を横に一歩ズレて避け、二人目の突きをサイドステップで避け、三人目の右袈裟を横にズレて避けた後、三人目の左肩を木剣で力強く叩いた。
「ぐあっ!?」
「貴様ぁ!」
一人目が再び剣を振り上げて向かってきたので、シリウスは木剣の腹を肩を抑えて蹲る三人目の首に引っ掛けて一人目に向かって押し出した。
「ぐおっ!?」
「うおっ!?」
「うおおおぉぉぉ!」
一人目と三人目がぶつかっている間に体勢を立て直した二人目が剣を突きの形にしたまま突進してきた。シリウスは半歩横にズレた後、通り道に木剣を置いておくと首に見事に木剣がぶつかり二人目はもんどりうって倒れた。シリウスはぶつかり合って揉みくちゃになっていた一人目の頭に木剣を振り下ろしてトドメを刺した。
「があっ!?」
「はい終わり」
模擬戦はシリウスの圧勝で終わり、木剣で叩かれて痛みに呻く訓練生を放ってシリウスはさっさとポラリス達の所へ戻っていった。模擬戦の一部始終を見ていた他の訓練生はシリウスの圧倒的な試合運びに唖然としていた。
「む、無傷で…!?」
「何という鮮やかな試合運びだ…!」
「行動一つ一つに迷いが無い…!凄い…!」
「ば、馬鹿な…!?」
「我らが…貴族がハンターなどという下民如きに…!」
「な、何かの間違いよ!私達が負けるはずが無いわ!」
「複数相手に常に視界に入れ続けて冷静に対処する。うむ、教本のお手本と言わんばかりに見事なものだ」
「な、何という…!?この事が彼らの親にバレたらマズい事に…!?」
「ほう…エルフィナ殿の言葉に偽り無しか…」
「シリウス、凄い…!」
「ほう。未熟な訓練生とはいえ無傷か」
「おー、凄いぞー」
「シリウスちゃーん、お疲れ様ー」
勝って当然と思っているエルフィナ以外は驚嘆の声を上げていた。
「…すまない!少しいいだろうか!?」
甘えてくるポラリス達を撫でていたら一人の訓練生が前に出てきてシリウスに声を掛けてきた。まだ面倒事が続くのかと溜め息を吐きながら振り返るとそこには何かを決意した訓練生がいた。何を言うのか大体想像が付いたシリウスは再び深い溜め息を吐いた。