転生したらママになりました。   作:大神降ろし

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第百三十九話

 

 ドウェルト騎士団でエルフィナが講義を開いたが、話の流れでシリウスが貴族の訓練生と模擬戦をする事になってしまった。模擬戦はシリウスの圧勝で終わったが、壁際で模擬戦を見ていた一人の訓練生が前に出てきてシリウスに声を掛けてきた。

 

「どちら様?」

「彼はフルド・ラドナス。剣術で優秀な成績を修めている訓練生です。成績上位者のリストに名前が載っていたので覚えています。それでラドナス訓練生。彼女に何の用だね?」

「ハッ!是非自分とも戦っていただきたく声を掛けました!」

「との事ですが?」

「えぇ…まだやるの?」

「やってあげたら?それでさっきと同じ試合形式でいいの?」

「いえ。真剣でお願いします」

「フルド!?」

「何言ってるのよ!?」

「危ないよ!?」

 

 平民の訓練生、フルドの言葉を聞いて仲間達が口々に止めようと説得し出したが、本人の意思は固く譲ろうとしなかった。

 

「まだ私、やるとは一言も言っていないんだが」

「そこをどうかお願いしたい!」

「えぇ…」

「まあまあ。シリウスちゃんにとってもいい経験になるわよ」

「…はぁ…やだなぁ、もう…」

 

 エルフィナに背中を押されて訓練場に置いてあった直剣を持って再び訓練場の真ん中にやってきたシリウスだがやる気の欠片も無かった。溜め息を吐きながら直剣を構えるフルドの真剣な眼差しを見て面倒臭さがドンドンと増してきて再び溜め息を吐いた。

 

「どうか本気でやってほしい。俺は強くなって皆を守らなければならないんだ」

「守らなければならない?はんっ、随分傲慢だな」

「何?」

「気が変わった。何かムカついてきたからマジでやってやる」

 

 フルドの無意識な上から目線の発言にイラっと来たシリウスは直剣を捨てて自分の剣を抜いていつもの構えを取った。左半身を後ろにしたフルドが見た事無い構えと幅広の黒い剣とシリウスの鋭い眼差しに息を飲むフルドだが負けじと睨み返している。

 

「では…始め!」

「はぁっ!」

 

 レイルンの合図とともにフルドはシリウスに駆け寄り剣を上段から振り下ろした。さっきの貴族の訓練生よりも早いがシリウスはそれを剣で優しく受け流してナックルガードで裏拳を放ったが、フルドは素早く剣を引き戻して刀身で受け止めた。

 

「ぐぅっ!?」

「ちっ」

 

 想像以上に重い一撃に手が痺れて苦悶の声を上げるフルドは勢いに逆らわずに後ろに下がった。シリウスは仕留めきれなかった事に舌打ちをしながら追撃せずにその場に留まった。

 

「何故だ?」

「ああん?」

「何故追撃してこない!?君の力量ならそれで僕はやられていた!何故手を抜く!?」

「うるせえなガタガタギャアギャア喚くな鬱陶しい」

「なっ…!?」

「自分の思い通りにならないからってヒステリック起こすな。お前、マジ嫌い」

 

 嫌悪感全開でフルドを睨みつけながら吐き捨てるシリウスにフルドは今までそんなに嫌われた事が無かったので絶句している。

 

「あいつ!フルドに何て事を!」

「ふざけるんじゃないわよ!」

「フルド君の悪口を言わないでください!」

「何も知らない奴が俺のダチを悪く言うんじゃねえ!」

 

 模擬戦の様子を見ていたフルドの友人達はフルドへの悪口を聞いて寄ってたかってシリウスを責め出した。シリウスはそれに何の反応も示さず只々冷たい視線を野次を飛ばす訓練生に向けた。訓練生はただそれだけで勢いを失いやがて誰も声を出せなくなった。

 

「ふんっ。おら、さっさと掛かってこい」

「くっ!舐めるな!【D・アクセル】!」

 

 フルドが魔戦技を使うと動きが素早くなり、シリウスの背後に回り込んで剣を振り下ろしたが、シリウスはそれを容易く防いだ。

 

「予測済みだ」

「くっ!?う、うおおおぉぉぉ!」

 

 今ので決めるつもりだったフルドは、あっさりと防がれて動揺するも引かずに押し続けた。唐竹、袈裟、薙ぎ、逆袈裟、突きと今まで教わった通りに剣を振り回すが、全てシリウスに最小限の動きだけで防がれている。

 

「(僕と同じぐらいの歳なのにこんなに差があるのか!?一体どれだけ訓練を積めばここまで…!?)」

 

 フルドの猛攻を容易く受けるシリウスにフルドは動揺を隠せなくなっていき、太刀筋も乱雑になってきた。

 

「【D・スラッシュ】!」

「(虚幻流…じゃなくてもいいか)【強撃】」

 

 魔戦技を使った大振りの一撃だったが、シリウスが放った強撃と衝突して拮抗している。

 

「なっ!?」

 

 フルドが本気で放った魔戦技の一撃を相殺されて尚且つ押し切れないという光景が目に入り、動揺して固まるという大きな隙を見せてしまった。シリウスがそれを見逃すはずが無く、フッと力を抜いて剣を受け流しながら横へズレて、体勢を崩したフルドのがら空きの胴体目掛けて思いっ切り殴った。

 

「がはっ!?」

「「「「「フルド(君)(さん)!?」」」」」

 

 アダマンタイトのコーティングがされたナックルガードで力いっぱい殴り飛ばされてフルドは受け身を取る事ができずに地面に叩きつけられた。

 

「勝負ありね」

「ですな。そこまで!」

 

 フルドが倒れた事で模擬戦はシリウスの勝利で終わった。殴られた箇所を抑えて呻くフルドを心配してフルドの友人達が駆け寄り介抱するのを尻目にシリウスはエルフィナ達の所に戻った。

 

「シリウスちゃん、お疲れ様。そんなに彼、嫌いだったの?」

「無意識か知らんが上から目線なのが気に入らなかった。ちょっとスッキリした」

「ま~」

「ままー」

「かあさま…」

「は~い、ただいま~」

「(プルプル)」

「シャー」

「ワフ」

「うん、ただいま。ここを出たら出してあげるからもうちょっとだけ待ってね」

「こんなの認めないわ!大体真剣勝負なのに剣を使わずに殴るなんておかしいでしょ!」

 

 ポラリス達を抱っこしてカバンの中にいるカペラ達を軽く撫でていたら聞いた事がある声が聞こえてきた。そろそろ本格的に帰りたいシリウスだったが、まだ帰れない事を察し溜め息を吐きながら振り開けると町に入った時にアトリアに怒鳴ってきた少女、ペリネがシリウスに剣を向けていた。

 

「おい、何の真似だ?」

「今度は私が相手よ!さっさと抜きなさい!」

「フォクトー訓練生。剣を収めよ」

「副長!しかし!?」

「勝負は既に決している。先の模擬戦もどこにも不正などは無かった。真剣での勝負だが、剣以外で勝敗が決まる事などよくある事だ。もう一度だけ言う。剣を収めよ」

「くっ…!」

「あー、もういいよ。やるならさっさとやろう。但し私は素手だけどな」

 

 色々と面倒臭くなってきたシリウスは早く帰るためにペリネの勝負を受けたが剣を抜こうとはしなかった。

 

「なっ…!?ば、ば、馬鹿にしてー!」

 

 完全に虚仮にされていると頭に血が上り、ペリネは怒りのままシリウスに斬りかかった。

 

「【スパークウェブ】」

「はっ!?ぎゃあああぁぁぁ!?」

 

 真っ直ぐ突っ込んでくるペリネ目掛けてシリウスはスパークウェブを放ち、ペリネは雷の網に包まれて悲鳴を上げた。

 

「ペリネ!?」

「魔法だって!?」

「そんな…!?魔法使いだったなんて…!?」

「ば、馬鹿な!?」

「我らは、剣士でもない者に…」

「こ、こんな事、あり得ん…!?」

「なんと…!」

「そ、そんな馬鹿な…!?」

 

 訓練生だけでなくレイルンとアルレフと教官達もシリウスが魔法を使った事に驚きを隠せずにいた。特にシリウスに模擬戦で手も足も出なかった貴族の訓練生はダメージが大きく、自身や矜持が傷つけられて膝を付いている。

 そんな彼ら彼女らを尻目にシリウス達は要件が済んだと帰っていった。

 魔法と魔戦技、両方を扱う事はほぼ不可能で使えたとしても相当時間が掛かるというのが常識であったためにそれが覆される事態を目の当たりにして誰も動けずにいたが、レイルンだけは正気に戻り慌ててシリウス達を追い掛けていった。

 

「そんなに驚く事かね?」

「驚く事よ。私は見慣れたけど普通ならあり得ない事だからね」

「ルゥトさんは使ってたけどな」

「あれでも相当時間が掛かるから戦闘中では中々使えないはずよ。でもそうねぇ…鍔迫り合い中ならいけそうね」

「シリウスは、やっぱり凄い…!」

「そんなに凄くは無い。私より上なのはいくらでもいる。それに私は器用貧乏だから特化した相手には弱いんだ」

「確かにね。手数と速度なら私が上だし、魔法ならルジャナの方が上だしね」

「我はある意味ズルをしていると言ってもいい。我と比べてはいかん」

「お、お待ちください」

 

 厩舎で預かってもらっていたウェズンと合流して訓練校を後にしようとした時、追い掛けてきたレイルンがシリウス達に追いついた。

 

「本日はありがとうございました。そして色々と申し訳無い」

「別にいいわよ。それよりも約束はちゃんと守ってちょうだい」

「もちろんでございます。報酬はまた後日ギルドの方にお持ちいたします」

 

 レイルンに見送られてシリウス達は訓練校を後にして宿屋へと戻っていった。

 一方、固まったまま動けなかった教官達や訓練生はようやく正気を取り戻していた。

 

「まさか、こんな事があるとはな…」

「魔戦技使いでもあり、魔法使いでもあるとは…」

「魔法と魔戦技を両方使うなんて今まで例は無いんじゃないか?」

「いや、確か上級のハンターで魔法と魔戦技を使う者がいたはずだが」

「ああ、俺も知っている。だがあれは付与魔法だからできる事だろう。攻撃魔法は流石に無理がある」

「彼女はどうやって使い分けているんだろうか…?」

 

 教官達が先ほどのシリウスの事を話しているのを一部の訓練生は聞いていたが、フルドは未だに項垂れており友人達はペリネを介抱しながら心配そうに付き添っていた。

 

「俺は…」

「フルド…」

「フルド君…」

「フルドさん…」

「おい、元気出せよ。一回負けたぐらいでへこたれるなよ」

「うぅ…」

「ペリネ、あんた大丈夫なの?」

「まだ、痺れ、てる…」

「これを機に突っ込む癖は直しなさい。まあ、あれを初見で避けるって言えないけど」

「あれはなぁ…予想できないよなぁ…」

「あの人、どれだけ器用なんだろう…」

「デカい剣を片手で振り回してたし、腕力も相当あるな」

「【D・スラッシュ】を【強撃】で相殺してたしね」

「同じぐらいの威力の魔戦技だがフルドの力なら押し切れるはずなんだがな。あんなちっこいのにどれだけ力持ちなんだよ」

「フルドを殴り飛ばしてたしね」

「フルドの猛攻も全部防いでたな。僕ならあっという間にやられるのに。彼女は高い実力を持ってるんだな」

「力が強くて、冷静な判断力を持って、魔戦技が使えて、魔法も使える」

「…改めて聞くと、何だ…ズルいな」

「けっ、どうせ生まれ持った才能なんだろ。それを見せびらかして才能の無い俺達を見下してるんだ」

 

 誰も彼も好き勝手にシリウスの事を話しているが好意的な者は多くは無かった。貴族の訓練生は魔法使いに負けた事が余程堪えているのか悔しそうな表情をしながら終始無言で他の貴族の訓練生も声を掛けられずにいた。そんな風に噂されているとは知らないシリウス達は宿屋へと戻ってきて各々のんびりと寛いでいた。

 

「疲れた…もう今日は動かん。子供達とイチャつく」

「あらあら、ふふふ…」

「私は、読書。今日中に、読破する」

 

 シェネドは部屋に残って読書に勤しみ、シリウスとエルフィナは厩舎へ向かいポラリス達とルース達と目一杯遊ぶ事にした。厩舎前のスペースでウェズンに乗って散歩しているポラリス達とルース達をルジャナフスクは部屋から見ていた。

 

「あの様子では食事の事を忘れておるな。さて、どうするか…」

「戻ったぞー」

「どこに行っておった?」

「今日の夕食は私が作るぞー」

「待て。本当に厨房を借りたのか?」

「ちっちゃい子供がいるから貸してくれって言ったらいいって言ってたぞ」

「…なら、まあ、よいか」

 

 気合十分なレネは張り切って厨房へ向かい夕食を作りにいった。ルジャナフスクはレネを見送った後、時折窓の外で遊ぶシリウス達を見ながら荷物の中から何かを取り出して作業をしている。

 

「うーむ…やっぱり外で遊べる玩具を考えねば…村とか町の子供って何で遊んでいるんだ?」

「そうねぇ…追いかけっこしたり、枝で兵隊ごっこしたり、木に登ったり、石を投げて的当てしたりとかかしら?」

「どれも皆にはまだ早そうだし、カペラ達とルース達は参加できなさそうだな…柔らかいボールがあればなぁ…」

「あー、確かに…それなら布と綿で作ってみれば?確かぬいぐるみ作りの余りがあったでしょ?」

「でもそれ、外じゃ使えないだろ?ウェズンが蹴っても大丈夫なぐらい頑丈で、ポラリスに当たっても痛くなくて、壁に当たっても弾むぐらい柔らかくて軽いボールがあればなぁ…」

「そんな都合の良いのは流石にね」

 

 シリウスは前世の幼児用のボールを思い描いて欲しがっており、エルフィナは高望みするシリウスに苦笑している。無い物ねだりしても仕方が無いので今ある物で何とかしようと思いながら、ふと先ほどの事を思い出した。

 

「そういえば騎士団が使っていた、何だっけか…Dなんとかって何だったんだ?」

「ああ、あれは“ドウェルト流”っていう魔戦技よ。ドウェルト騎士団で習う魔戦技で騎士団を創設した初代騎士団長が使っていた魔戦技なの」

「リクオン派と何が違うんだ?」

「大まかには同じだけど細かく別れていない感じかしらね。リクオン派なら武器種で使う魔戦技は変わるけどドウェルト流はどんな武器種でも同じ魔戦技を使うわ。例えば棍棒でも斬撃の魔戦技を放ったりね」

「へー」

「ま~」

「ままー!」

「かあさま…」

「(プルプル)」

「ヒィン」

「シュー」

「ワン!」

「あしょぼ~」

「はやく~」

「こっち~」

「うんしょうんしょ」

「ふに~」

「あそぶ…」

「おっと。話は後だな」

「そうね。はーい、今行くからねー」

 

 エルフィナと話し込んでいたが話を中断してシリウスを呼ぶポラリス達とルース達の元へ向かった。日暮れ前まで遊び続けて、ウェズンと一旦別れ皆の手を綺麗に洗った後、シェネドとルジャナフスクと合流して酒場に向かった。

 

「…はっ!?しまった…ご飯の事、すっかり忘れてた…」

「…あ、あー…そういえばそうだったわね。今朝のゴタゴタで忘れてたわ」

「美味しいご飯、ぷりーず…」

「それなら安心せよ。ほれ、料理人が来たぞ」

 

 ルジャナフスクの指差す方を見るとレネが大量の料理を両手いっぱいに持ってやってきた。

 

「できたぞー。さあさあ、いっぱい食うといい」

「え?借りれたの?」

「ポラリス達の料理が作りたいって言ったら貸してくれたぞ。後、作ってたら色々聞いてきたのがうるさかったぞ」

 

 宿屋の厨房でいつものように料理をしていたレネだったが、数百年の知識と経験を持っているのでその鮮やかで流れるような作業は、宿屋の料理人達も驚きを隠せないほどレベルが高いものだった。事あるごとに作業内容を聞いてきたのでいつもより時間が掛かってしまいレネは不満そうに膨れている。

 

「ここの料理人には向上心があるようだな。厨房を使わせてもらったのだ。多少は大目に見てやれ」

「むう…坊ちゃまがそういうなら我慢してやる。それはそうと、さあさあ食べるといい」

 

 テーブルの上には持ってきた食材と厨房がくれた食材で作られてレネ特製料理が並べられている。

 

「このでっかいのは何だ?」

「ミズガイだぞ。蒸して食べれば美味しいぞ。こっちのはラッシュボアの肉を薄く切って何枚も重ねてから揚げたぞ。ポラリス達とルース達のはこっちだぞ。食べて大丈夫そうなの全部入れたシチューだぞ」

 

 ミズガイは体長が50㎝ぐらいある巨大貝で正式名称はスプラッシュクラムといい、大きいものでは1mを超える事もあるれっきとした魔物だ。名前の通り水を吐き出して獲物を撃ち落とし捕食する生態をしており、人に当たれば骨が折れるほどの威力を持っている。またそれを使って水中を高速で動き回る事もでき、罠を使わなければ中々捕まえる事ができないが、その肉はとても柔らかくてジューシーなので好む者も多い。生息域が限られているので市場に出ればそれなりの値段で売られるが、今回レネの調理を教えてもらった報酬として貰ったので早速調理したのだ。

 その通称ミズガイの酒蒸しとラッシュボアのミルフィーユカツと色々な野菜を入れたシチューが今日の夕食だ。もちろん自称できるメイドであるレネはポラリス達とルース達の分の夕食を忘れずに作っていた。

 

「美味しそう…!あむっ。ん~♪」

「やっぱりこの味ねー♪とっても美味しいわ♪」

「うむ」

「いただきます。ポラリス~、あ~ん」

「あ~。あ~♪」

「アトリア~、あ~ん」

「あー。おいちー♪」

「スピカ~、あ~ん」

「あー……♪」

「カペラ~、あ~ん」

「(プルプル)♪」

「ハダル~、あ~ん」

「シャー♪」

「リゲル~、あ~ん」

「ワフ♪」

「「「「「「おいち~♪」」」」」」

「あむっ。うん、やっぱこの味だ」

「うっま!この貝とってもジューシーね!こっちのカツもうっま!いくらでも食べれるわ!」

「うまうま。流石レネちゃんだ」

 

 酒場の一角で酒場のメニューに無い夕食を堪能しているシリウス達だが、その姿は常連の注目を集めていた。

 

「あれ、美味そうだな…」

「ミズガイじゃねえか。俺あれ好きなんだよな」

「あのカツも美味そうだな」

「こっちにまで美味そうな匂いが漂ってくる…涎が止まらねえ…」

「おーい!あそこのテーブルに出てるミズガイ、俺にもくれ!」

「俺はカツの方だ!」

「すいませんお客さん。あれ、無いんですよ」

「ええ!?何でだよ!?」

「あそこに出してるって事はあるんだろうが!」

「あそこのメイドさんが作ったものでうちらは作ってないんですよ」

「嘘だろ…」

「っていうか何でメイドがここにいるんだよ…」

「食いてえなあれ…」

 

 物欲しそうな視線をあちらこちらから感じながらもシリウス達は無視して夕食を平らげていった。

 

「ごちそうさまでした。皆、美味しかった?」

「あ~♪」

「あーい♪」

「うん…♪」

「(プルプル)♪」

「シャー♪」

「ワフ♪」

「「「「「「おいちかった~♪」」」」」」

「そっかそっか」

「美味しかったわねー」

「毎日、食べたい」

「なら明日も作るぞー」

「明日も借りるつもりか?なら後で店主と交渉せねばな」

 

 酒場にいる客からの羨ましそうな視線を無視したり、そもそも気づいていなかったりしているシリウス達は酒場を後にした。ルジャナフスクとレネは宿屋の店主と泊っている間厨房を借りれるかの交渉へ向かい、エルフィナとシェネドは部屋に、シリウスは厩舎の方へ向かった。

 

「ヒィン」

「ウェズン、ご飯は食べた?」

「ブルル」

「美味しかった?そっか」

 

 頭を擦り付けて甘えてくるウェズンを一緒に眠れない分いつも以上にいっぱい撫でて甘やかしまくっているとポラリス達とルース達も自分を撫でてとアピールしてきたので皆を抱き締めて甘やかしまくった。デロデロに蕩けるぐらい甘やかしてシリウスも満足しウェズンを寝かしつけてから部屋に戻った。部屋では既にシェネドがベッドで寝ており、エルフィナも寝間着に着替えて椅子に座って本を読んでいた。

 

「ウェズンちゃんはもう寝た?」

「ああ、寝かしつけてきた。私達も早く寝よう。ポラリスとアトリアはもう寝ちゃってる」

「あらあら、ふふふ…」

 

 シリウスに抱き着いて眠っているポラリスとアトリアは何の不安も無いぐらい穏やかな表情で眠っていた。スピカも眠そうに目を擦り、ハダルとリゲルも欠伸をしているのでシリウスは素早く寝間着に着替えてベッドに潜り込み、いつものようにポラリス達とルース達とエルフィナに抱き着かれながら眠った。だがシリウスはこれからアルヘナとの心温まる交流が待っているので内心ウキウキしながら目を瞑った。

 

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