「あぁ~…癒される~…」
「やってきて早々何なのだ全く…」
夢の中のモコモコなメルヘン空間でアルヘナに会った瞬間、シリウスは無言でアルヘナを抱き上げてモコモコベッドに倒れ込んだ。一頻りアルヘナに頬擦りをしてようやく人心地が付いてきた。
「今日は色々あってな…」
「見ていたから知っている。訓練生とはいえあれしきの力量とはな。程度が知れるわ」
「アルヘナの時は違ったのか?」
「わしが生きていた時は何とか騎士団はできておらんが、その辺に奴ら以上の屈強な一般兵などゴロゴロしておったわ。平和ボケして質が大分落ちておるようだな」
「まあ、常日頃から危機に晒されていないと平和ボケするのは仕方が無いけどな」
「強くなろうとする意志があればいくらでも強くなれるわ。母上殿のようにな。じゃが奴らにはそれが無い。あのような無様を晒すのは当然の事だ」
「アルヘナ~♪」
アルヘナの言葉に嬉しくなったシリウスはアルヘナを撫でながら頬擦りをしており、アルヘナは抵抗する事無く好きにさせていた。
「じゃが貴族の子弟を負かしたのは少々面倒になるかもしれんぞ」
「まさか親に泣きつく気か?下に見ていた女のハンターにボロ負けしたから何とかしてくれって言って?」
「正直には話さずに母上殿が悪者であるように言うじゃろう。そして自分はそれを止めようとしたともな。そうなれば面子のために貴族は動くじゃろう。まずはあの太った学長に事実確認という名の詰問を行い、権力を盾にして母上殿を拘束するよう命じるはずじゃ。あんなに媚びを売る男じゃ。貴族の命には逆らおうとする気は無いじゃろう」
「うっわ、面倒」
「あくまで可能性じゃが非常に高確率で起こる事じゃ。早めに動いた方がよいぞ」
「そうだな。起きたら皆にも話すよ。アルヘナ、ありがとな」
「これぐらい別によい」
シリウスに礼を言われて少し恥ずかしくなったアルヘナは赤くなった顔を見せないようにそっぽを向いた。シリウスのためを思って言ってくれたのはシリウスも分かっているので感謝を込めて優しくアルヘナを撫でた。
「…ところでだ。今更だがあやつ、スピカは呼ばんでよかったのか?」
「毎回呼べば疲れるかなって思ってさ。呼んだ時の翌日とかちょっと疲れた顔してたし」
「それは母上殿にも当て嵌まるが?」
「私はいいんだよ。皆を愛でてたら疲れなんて吹き飛ぶし」
「良くはない。母上殿に何かあればチビ共はどうするのだ。エルフィナとかいう者に任せるのか?それでもチビ共は泣き喚くぞ」
「うぅん…でもそれだとアルヘナが一人ぼっちになっちゃうし」
「わしは別に構わん。今まで散々一人であったのだ。それに態々会いに来なくても念話で会話できよう」
「念話で話はできるけ、私はちゃんと顔を見てお話したい」
「お話って何だ、お話って。我儘を言うな。ここに来るのは二、三日に一度、良いな?」
「えぇ…ぶぅ~…」
「ぶうたれるな、全く…」
毎日でもここに来たいシリウスだったがアルヘナに諭されて渋々頷いた。その後も話していたが、起きる時間になったのでアルヘナと別れてシリウスは目覚めた。微妙に残る疲れを感じながらもいつものように皆を起こさないように引き剥がしてから着替えた。ポラリス達が起きてきて身支度を整えている間にエルフィナとシェネドも起きたので部屋を出て朝食を取りに下に降りた。酒場には既にルジャナフスクが席に着いていてレネが朝食を持ってきたところだった。
「おはよう。ちょうどよかったな」
「二人共、おはよう」
「おはよぅ…」
「あ~」
「じぃじ!れーね!おはよー!」
「ぁ…ぉ、お、はよ、う…」
「うむ」
「おはよー。さあさあ、朝からレネちゃん特製料理をたんと食べるといい」
朝の挨拶が済むとレネが作ってくれた昨日のミズガイから取った出汁で作ったスープと賄い用に取ってあった肉の切れ端を塩と香草で味付けした肉の香草焼きとパンを食べ始めた。
「朝から美味しいご飯を食べられるのは幸せねー」
「レネのご飯、世界一。美味しい」
「うーむ、どうやったらこう美味しく作れるのか…今度教えてくれ」
「何だとー。レネちゃんの仕事を盗る気かー」
「いやいや、ママなのに子供達のご飯を作れないのは問題だから作れるようになりたいだけだよ」
「ならいいぞー」
最近料理を作る事が無く、宿屋の料理かレネの料理しか食べていないのでポラリス達に料理を作った時に美味しくないから食べないという事態を避けるためにレネに料理を教えてもらう事にした。朝食を取り終えるとルジャナフスクとレネとシェネドのハンターのランクを上げるためにギルドへ向かい依頼を探す事にした。以前上手くできなかったシェネドは嫌がったが、シリウスと一緒に依頼ができないのも嫌なので渋々付いていった。
「ああ、エルフィナさん。ちょうどよかった。昨日の依頼主から報酬を預かっています」
「あら、早いわね」
ギルドに入った時、職員がエルフィナを見つけレイルンから預かった報酬を渡してきた。ルジャナフスクとレネとシェネドが掲示板で依頼を吟味している間にエルフィナは報酬を確認し始めた。
「まずは金貨が十枚。それと―――」
「待った。一時間程度話しただけで金貨十枚?おかしいだろ」
「気にしちゃ駄目よシリウスちゃん。それに向こうにも面子があるのよ」
「…はぁ…面子とか、面倒臭え…」
「本当にね」
エルフィナは手渡された報酬をテーブルの上に並べた。金貨十枚が入った小袋の他に何かしらの書類と手の平サイズの何かが五つ入っていた。
「それ何だ?」
「こっちの書類は食糧とかの物資を買うときに店側に渡せば騎士団持ちになるの。こっちのは通行手形ね。偶にだけどハンターの証でも入れてくれない所もあるから、これを使えば入れてくれるわ」
「へー」
エルフィナがレイルンに付けた注文は三つ。
オルティナ王国内で使える通行手形の発行と講義は今回限りである事とこれ以降の頼みは聞かないという事だ。物資の代金持ちと金貨十枚はレイルンの方から提案されエルフィナが承諾した。
「騎士団の方はこれで大丈夫ね。後は…」
「訓練校の方か。ああ、そうだ。昨日の夜アルヘナが言ってたんだけどな」
シリウスは昨夜アルヘナから教えてもらった懸念をエルフィナに伝えた。
「…確かに、その可能性は高いわね。町中では目立つから来ないとは思うけど…いえ、それも希望的観測ね。町中でも来るかもって思ってた方がいいわ」
「だよなぁ。見栄の為なら下民の私達なんてどうなろうと関係無いんだろうよ」
「だから貴族は嫌いなのよ。早めに町を離れた方がいいわね…あー、でもルジャナ達のランク上げもあるし…こうなったらギルドマスターに直談判して昇級試験早めてもらおうかしら…」
「それ、駄目なんじゃない?」
「それが意外とそうでもないのよ。ギルドの規則の中にランクが低いハンターでも高い実力を持ってるってギルド側が判断したら昇級試験を早めたり、試験無しで昇級させたりするって書いてるのよ」
「へー…そういや、私もそんな感じだったな。昇級試験受けたの王都ので初めてだった」
「そういえば言ってたわね」
「戻ったぞ」
「レネちゃん達はまた掃除とか片づけに行ってくるぞー」
「わ、私は、荷物の整理。薬師の店だから、重い物とかは、無いはず」
「頑張ってねー」
「いってらー」
「!?つ、付いてきて、くれない、の…?」
「あのねぇ…いいシェネド。いつまでもシリウスちゃんにおんぶにだっこしちゃ駄目でしょうが。もしシリウスちゃんがいない時とかどうする気?」
「し、シリウス…いなく、なる、の…?」
「例えばの話よ。シェネドは少し自立心を持ってもらわないといけないわ。さあ、行ってきなさい」
エルフィナの厳しい言葉を聞いてシェネドはガックリと肩を落としながら依頼へ向かった。
「ふっ…では我らも行ってくる」
「頑張るぞー」
「いってらー…私達はどうする?」
「そうねぇ…依頼をしてもいいけど、折角だから町を見て回りましょうか」
ルジャナフスクとレネとシェネドを見送ったシリウスとエルフィナはギルドを出て外で待っていたウェズンを連れてビリアの町に繰り出した。
「んー…えいっ」
「ん?何だエルフィナ?」
「んっふふふー♪何でもなーい♪」
ウェズンにポラリス達を乗せて空いているシリウスの左腕にエルフィナは思い切って抱き着いた。抱き着かれたシリウスは特に拒否する事無くエルフィナの好きにさせているとエルフィナは満面の笑みで抱き着いたまま町中を歩いている。エルフィナの行動に首を傾げながらシリウスはポラリス達が落ちないように右手で支えながら歩いている。
ビリアの町はレンガ造りの町並みが広がっており、シリウス達が今まで通ってきた町並みと大きくは変わらなかった。他の町との違いはドウェルト騎士団の存在ぐらいで町中を警邏するのも全て騎士団が担っている。普段ならもっと多くの騎士団員がいるが、現在のオルティナ王国は戦争数歩手前な緊迫した状態であり、主要な騎士団員達は全て前線へと赴いている。そのためビリアの町に残っている騎士団員は少なく、戦闘経験が乏しい者か訓練生ぐらいしか残っていなかった。
「前来た時、といっても数年前だけど、その時に比べたら騎士団員の数も少ないわね」
「やっぱ皆前線に行ってるんだな」
「そうね。だからこんなのも許してるのよ」
シリウス達の十mほど後ろに数グループに別れている集団がシリウス達を尾行していた。実はギルドを出た直後から尾行している事に気づいたエルフィナだったが、あまりにもお粗末な尾行に呆れてどうせ大した事は無いと優先度を下げていた。少ししてからシリウスも尾行に気づき、エルフィナの方を見ると呆れた表情を浮かべていたので危険性は低めだと判断して放置していた。
尾行しているのは昨日シリウスに敗れた貴族の訓練生とその取り巻き達だ。シリウスに負けた事が認められずあれは何かの間違いだと、何か卑怯な手を使ったに違いないという事を証明するためにシリウスとエルフィナを尾行しているのだ。だがシリウスとエルフィナだけでなく通行人達ですら分かるぐらいお粗末な尾行で非常に目立っており、今も通行人が二度見するほどだった。
「あれで隠れてるつもりなのかねぇ…」
「そうなんでしょうね…はぁ…折角のデートが(ボソッ)」
「何か言ったか?」
「どうしようかなって」
「そうだなぁ…このまま無視するか、どこかに誘い出してボコすか、どっちかかな?」
「ボコすって…一応貴族よ?」
「女にボコボコにされた挙句親に泣きつくなんて恥ずかしくないんですかって煽ればいけるんじゃね?」
「それは……………あら、いけそうね」
「ならそれでいくか。数は…二十はいないけど、二人じゃちょーっとキツいかな」
「そうね。ポラリスちゃん達もいるし…行き止まりの路地裏ならいけるかしら?」
「そうだな、それでいこう。いざとなったら魔法と魔戦技で蹴散らそう」
町中を歩くのを止めてちょうど良さげな路地裏を探す事にした。お粗末な尾行をする貴族の訓練生を引き連れるシリウスとエルフィナを心配して通行人達はシリウス達を見たり、警邏に報告するために移動したりしていた。
「どうやら警邏を呼びにいってくれるみたいね」
「ならボコした後は楽そうだな。あそこはどうだ?」
「あら、ちょうど良さそうね。ここでやりましょうか」
突き当たりが行き止まりの路地裏を見つけシリウスとエルフィナがそこに入ると誘い出された事に気づかずに尾行していた貴族の訓練生はほくそ笑みながら路地裏に入っていった。するとそこには呆れた表情を隠そうとしないシリウスとエルフィナが待ち構えていた。
「本当に来たよ…」
「なーんにも考えて無いわね…」
「チィッ!バレていたか!」
「バレていても構わん!奴らは袋のネズミだ!」
「逃がすなよ!広がれ!」
貴族の訓練生はシリウス達を逃がさないように取り巻き達を使い路地裏を封鎖した。
「ふっ、これで逃げられまい」
「這い蹲って謝れば許してやらん事も無いぞ?」
「なーに言ってんだか…」
「謝る訳無いだろ。何言ってんだ?」
「何だと!?」
「自分の実力が低いのが悪い。おまけにこんな闇討ち紛いな事をして…本当に器がちっせえなおい」
「貴様ぁ!」
「謝れば許してやろうと思っていたがもう許さん!」
「我らを愚弄した事後悔させてやる!やれ!」
シリウスが倒した三人の貴族の訓練生の命で取り巻き達が一斉にシリウス達に襲い掛かった。だがやる気のある者は全体の半分ほどで、他の者は命令には逆らえず止む無くという者でやや後方に位置して申し訳無さそうな顔をしていた。
「ふんっ」
「ていっ」
「ぐわぁ!?」
「がはぁ!?」
シリウスとエルフィナは襲い掛かってきた者の拳を容易く避けてカウンターで蹴り飛ばした。後ろにはポラリス達がいるので倒した者には目もくれず二人は前に出て積極的に攻勢に出た。エルフィナは相手を引き付けるように派手に動き回り、伸びた腕を掴んで振り回し他の者にぶつけたり、巻き添えを増やすように蹴り飛ばしたりしている。対してシリウスは殴り掛かってきたのを避けてカウンターに腹を殴って下がってきた頭を地面に叩きつけたり、攻撃を避けて伸びた腕を掴んで背負い投げをして地面に叩きつけたりと地味だが確実に潰して数を減らしている。
「何をしている!たかが二人だぞ!」
「この役立たず共が!」
「貴様らもさっさと行け!後ろのガキを捕まえてこい!」
「…はぁ…分かりましたよ」
「ちくしょう…何でこんな…!」
「よせ。今は耐えるしかない」
命令されて渋々ポラリス達を狙うやる気の無い取り巻き達であったが、それは逆効果だった。
「あ?」
「はあ?」
命令は戦っている二人にも聞こえていて、傍にいた者にも聞こえるぐらい何かが切れる音がした。
「があああぁぁぁ!?」
「がはぁ!?ごぼぉ!?」
先ほどまでと違い戦い方が荒々しくなり、エルフィナは殴り掛かってきた者の腕を掴んで関節を強引に外し、シリウスは顔面を掴んで地面に叩きつけた後頭を思いっ切り踏みつけている。突如様子が変わったシリウスとエルフィナに取り巻き達は二人の逆鱗に触れてしまったと理解したが既に遅かった。
「ふんっ!おらぁ!」
「ごはぁ!?」
「はあっ!せいっ!」
「げふぁ!?」
「たった二人に一体何を梃子摺っている!」
「この役立たず共が!誰のおかげで訓練校に通えているのか分かっているのか!?」
「クソッ!おい!お前とお前!今のうちに後ろのガキ共を捕まえてこい!」
「そ、そんな!?無理よ!」
「あ、あんなのに近づけば…!い、嫌!」
「黙れっ!お前達の家など簡単に潰せるんだぞ!それでもいいのか!あぁ!?」
「うぅ…」
「くっ…!」
貴族の訓練生に脅されて二人の取り巻きの女達は他の取り巻き達がシリウスとエルフィナにボコられている隙をついてポラリス達の前までやってきた。
「う~?」
「にゃあにー?」
「ひぅ…!?」
「うぅ…ごめんね…」
「私達も逆らえないのよ…」
ポラリス達に触れようとする二人に気づいたシリウスが魔戦技を使って駆け寄ろうとする前に動いた者達がいた。
「(プルプル)!」
「ヒヒーン!」
「シャー!」
「グルルル!ガウ!」
「わひゃあ!?いたたたた!?」
「げふぅ!?」
カペラとウェズンとハダルとリゲルが二人に体当たりをして地面に倒し、ハダルとリゲルはそれぞれ鼻と手に噛みつき、ウェズンは背中を踏みつけている。カペラはもっと酷く片方の女の髪の毛の上に陣取りジワジワと髪の毛を溶かしていた。
「あっちは心配なさそうね」
「そうだな。カペラが大分えげつない事してるけど」
頼もしくなった子供達に成長を感じて嬉しい反面少し寂しい気持ちになったシリウスは、気を取り直して襲ってきた訓練生を殴り倒した。
「ええい!どいつもこいつも役に立たん!」
「通報があったのはここか!?」
「あっ!騎士団だ!」
「こっちです!ここの奥です!」
「なっ!?今の声は教官か!?」
「馬鹿な!?何故バレた!?」
「平民が通報したのか!おのれぇ!余計な真似を!」
拙い尾行をされていたシリウスとエルフィナを心配した通行人が警邏に報告し、訓練の一環として訓練生と町中を警邏していた教官達の耳にもそれが入り、一部の訓練生がいなかった事を思い出してまさかと思って急いで駆け付けたのだ。
「貴様らぁ!ようやく見つけたぞ!」
「恥の上塗りをしよって!ただではおかんぞ!」
「黙れ!平民風情が我らに指図するな!」
「もうよい!貴様ら全員我がヘイヴェル家の力で潰してくれるわ!」
「あなた達が首謀者ね?潰れるのはあなた達よ!」
「がはぁ!?」
「ぐわぁ!?」
襲ってきた取り巻き達を全て倒したエルフィナは、首謀者の貴族の訓練生のうち二人の後頭部を掴んで地面に叩きつけた。
「クソクソクソッ!クソがぁ!全部お前の所為だぁ!」
「喧しいわぁ!」
「ぶごぉ!?」
何もかも上手くいかずヒステリックを起こした首謀者の貴族の訓練生の一人はシリウスに殴り掛かったが、シリウスはそれをあっさりと避けて顔面にカウンターのストレートを叩き込みそのまま地面に叩きつけた。叩きつけられた貴族の訓練生は鼻の骨と前歯が折れて痛々しい様子で気絶している。
「うぅ…」
「痛えよぉ…」
「血が、血が出てる!?死んじまう!?た、助けてくれぇ!」
「ひーん…痛いよぉ…」
「あ、あぁ…わ、私の髪の毛が……………でも、これはこれで…?」
シリウス達を襲った取り巻き達は全員シリウスとエルフィナの手でボコボコにされ地面に倒れて呻いている。痛みに呻く者ばかりでポラリス達を狙った二人の女も痛みを訴えたり、手鏡を見て絶望していた。
「くぅ…!我が校の恥ばかり晒しおって…!穴があれば入りたい…!」
「起こってしまった事を嘆いていても仕方が無い。とにかくこの馬鹿共を回収して治療し反省部屋に叩き込む。まずはそれからだ」
「…はぁ…そうだな。お前達!この馬鹿共を拘束しろ!何か言ってきても無視だ!急げっ!」
「「「「「は、はい!」」」」」
シリウスとエルフィナの一方的な蹂躙に言葉を失っていた訓練生は教官の声で正気に戻り襲撃した訓練生をロープで拘束していった。
「な、何をするんだ!?」
「教官が捕まえろって言ってるんだ。だから縛ってるのさ」
「悪いのはそこの三人よ!私は脅されただけで!」
「その言い訳は教官にしなさい」
「血が出てる!?死んじまうよぉ!?助けて!助けてぇ!」
「落ち着け!少し切ったぐらいで死ぬわけないだろ!」
「埒が明かん!先に止血するぞ!」
「オラ立て!」
「関係無い俺達まで迷惑掛けやがって!」
「ぐぅ…!き、貴様らぁ…!」
「我らにこんな事してただで済むと…!」
「お前らが親に何か言うのは勝手だが、そうなったらここであった事、あちこちに言い触らすぞ?」
「そうなったらお前達の家の評判はガタ落ち。その原因のお前達は何て言われるかな?」
「なっ…!?」
「脅す気か…!平民風情が…!」
「その言葉は聞き飽きたぜ」
「さっさと連れてこうぜ。オラ、さっさと来い!」
「完全に伸びてるな、こいつ」
「うわぁ…血だらけだ…」
「鼻と前歯が折れてる…しばらく大変そうだな、こいつ」
「けっ!当然の報いさ、こんなの」
何やら喚く襲撃した訓練生に耳を貸す事無く縛り上げて次々と連行していった。
「誠に申し訳無い!」
「一度ならず二度までも…本当に申し訳無い…」
一方教官達は被害者であるシリウスとエルフィナに深々と頭を下げて謝罪していた。
「全く…いくら貴族だからといって甘やかしすぎよ。だから今回みたいな事が起こるのよ。私達だから良かったもののこれがもし住民だったらどうするの?やった張本人は知らぬ存ぜぬを貫くか、開き直るかもしれないけど、その尻拭いをするのはあなた達学校側よ。その辺分かってる?」
「仰る通りかと…」
「今回は流石に彼らも一線を越えました。今までのようになあなあで済まさせません。必ず重い処分を下させます。誠に申し訳無い」
シリウスでは面倒臭がって適当に流すと判断してエルフィナは教官達を厳しく追及していた。エルフィナの想像通りシリウスは怒りより面倒臭さが勝っているので学校側で適当にしておいてもらおうと考えていた。そのシリウスはポラリス達の元に駆け寄り無事を確かめていた。
「皆、怪我はない?大丈夫?」
「ま~」
「ままー!」
「かあさま…」
「(プルプル)」
「ヒィン」
「シュー」
「ワフ!」
「「「「「「らいじょぶ~」」」」」」
「ふぅ、良かった…カペラとウェズンとハダルとリゲルは怖くなかった?」
「(プルプル)」
「ブルル」
「シャー」
「ワフ!ワン!」
「全然怖くなかった?そっか。でも無理はしないでね」
「私がいたんだから大丈夫に決まってるでしょ?」
「それでもだ。心配なものは心配なんだよ」
いざとなったらピーニがルース達以外の精霊にお願いして追い払う手筈になっていたが、そうなればピーニの事がバレてさらに面倒な事になる可能性もあったのでそうならなくて良かったとシリウスは胸を撫で下ろしていた。これで一件落着、とはならないだろうなぁとシリウスとエルフィナは内心思っており、これ以上面倒事が起きないように祈るしかなかった。