ビリアの町を歩いていたシリウスとエルフィナだったが、先日訓練校で貴族の訓練生を倒した逆恨みで襲撃を受けた。二十人ほどいたが誰も彼もシリウスより弱かったので二人でボコボコにしたところで住民からの通報を受けて訓練校の教官達が駆けつけてシリウス達に深い謝罪をした後襲撃者達を連行していった。残されたシリウスとエルフィナは気を取り直して町中を歩き回り、屋台で買い食いしたり、服屋で着せ替えしたり、露店の装飾を見たりとデートを楽しんだ。一頻り歩き回った後、ルジャナフスク達の仕事も終わっただろうと一度ギルドへ戻るとちょうど報告し終えて報酬を貰ったところだった。
「お疲れ様。どうだった?」
「今回は本屋であった。以前と同じく片づけだけであった」
「いっぱい掃除してきたぞー。ピカピカにしてきたぞー」
「意外と、重い物、あった…辛かった…」
「そうか。頑張ったな」
「そちらはどうしていた?町中が騒がしかったのを記憶しているが」
「んっふふふー♪今日はねー、シリウスちゃん達とデートしてたの♪」
「!?!?」
エルフィナの言葉を聞いてシェネドは多大なショックを受けていた。
「まあ、それだけじゃないけどな」
シェネドに自慢するようにデートの内容を語るエルフィナを放っておき、今日起きた事をルジャナフスクとレネに話した。
「なるほどな。災難であったな」
「全くだよ。重い処分を下すって言ってたけど、あの学長だからあまり期待はできないし、どうせあいつらも反省なんてしないだろうし」
「だろうな。甘やかされて育った貴族の子弟など害悪以外の何物でもない。早々に奴らの手が届かない場所に移動する方がよいだろう」
「それなんだけどちょっと待っててくれる?」
一頻りシェネドに自慢して満足したエルフィナは席を立って受付に向かい、職員と二、三話した後、職員と共に奥の部屋へ向かった。
「何をしにいったのだ?」
「ギルドマスターに三人の昇級試験をさせるように直談判するってさ」
「ほう、そのような事が可能なのか…確かに実力を持っている者がいつまでも下のランクにいるのはギルド側にとっても良い事ではないな」
「どーいうことだー?レネちゃんにも分かるように言えー」
「ランクが上がるかもって事だよ」
「上がったらどうなるんだー?」
「今してる依頼よりもちょっと難しくなるけど報酬も多くなるんだ」
「へー」
「うぅ…差を、付けられた…昇級試験…私も、するの…?」
「だろうな。シェネドだって魔物倒せるだろ?いけるいける」
「うぅ…自信、無い…」
「シリウスちゃーん、皆もこっちに来てー」
軽く事情を説明していたらエルフィナが手を振って皆を呼んでいた。エルフィナに付いて奥の部屋に入るとギルドマスターがいた。
「初めまして。ビリアのギルドマスターを勤めております、ルディオ・アースラと申します」
ギルドマスター、ルディオは眼鏡を掛けた物腰の柔らかい長髪の青年だった。思っていたよりもかなり若いギルドマスターにシリウスは驚いて固まっていたが、すぐに正気に戻った。
「これはご丁寧に。四級ハンターのシリウス・ノクティーと言います。お忙しい中時間を作っていただいてありがとうございます」
「おやおや…まさかハンターの方でここまでの礼儀作法ができる方がいらっしゃるとは…おっと、失礼。どうぞお掛けください」
シリウスの丁寧な挨拶にルディオは驚きながらも席に座り、シリウス達も向かいのソファーに座った。
「先ほどそちらのエルフィナさんからお話は伺いました。そちらの…ルジャナ・ドーンさん。レネ・フォンテさん。シェネド・ノラさん。あなた達の昇級試験の件ですが、お受けになる意志はございますか?」
「うむ」
「やるぞー」
「あ、え、えっと…や、やります…」
「分かりました。ではお三方にはこちらの依頼をお願いします」
ルディオが手渡してきた依頼書にはヒュージモスの討伐が書かれていた。
ヒュージモスは体長が二mほどの巨大な蛾である。鱗粉には吸い込んでしまうと身体が痺れて動けなくなってしまう強力な毒が含まれており、空を飛んで鱗粉を撒いてくるので剣士など前衛にとってはかなり厳しい相手となっている。普段はエルヴェの森とは別の森であるヘンゼの森の奥にいるが、時折森の外に出てくる事があり、他の町からビリアの町にやってきた旅人が街道沿いに数体目撃したのを聞いて町から今回の依頼がやってきた。
「ふむ、随分と話が早いな」
「ルジャナ・ドーンさんはアースドラゴンを倒したと聞きましたので元々早めるつもりだったんですよ。ただキチンと依頼をこなす人かどうかを確認するために少し間を空けたのですがそれも杞憂だったようです。レネ・フォンテさんとシェネド・ノラさんは実力の方は分からなかったのですが、エルフィナさんより少なくとも六級相当の実力はあると太鼓判を押されたのでお三方に受けていただこうと思いまして」
「なるほど。依頼の方は受諾しよう。出発は何時?」
「なるべく早い方がいいので明日にでもお願いします」
「了解した。二人もそれでよいな?」
「いいぞー」
「そ、それって、私達三人だけ…?」
「いえ、エルフィナさんとシリウス・ノクティーさんも同行しても構いませんよ。ただ、一応昇級試験なので過度な手助けはお控えください」
「分かってるわ。余程の事が無い限りは手は出さないわよ」
「分かりました」
ギルドマスターの執務室から出たシリウス達はそのままギルドを出て宿屋へと戻った。
「何を倒すんだー?」
「ヒュージモスという魔物だ。空を飛び毒の鱗粉を撒いてくる。我とレネは毒の類は効かんから問題は無いが、三人は近づかないようにしておけ」
「確かに空から鱗粉を撒かれたら前衛は厳しいよな。今回は魔法主体でいくか」
「森の中なら何とかなるんだけど、平原じゃあねえ…」
「じゅ、呪法で…」
「駄目よ。街道から近いんだから人が見る可能性があるわ。心配しなくてもマジックボルトで何とかなるわよ」
「でも、まだ、自信無い…」
「大丈夫だ、何とかなる。いざとなったら私達がいるから気楽に行け」
「うん…」
魔法に自信が無いので呪法でいこうとしたシェネドだったが、呆気なくエルフィナに駄目だしされて禁止された。シリウスに励まされるもののやはり自身が無く俯いている。
「さあさあ、シリウスよ。ご飯を作りにいくぞ。付いてこーい」
「あーれー」
「いってらっしゃーい」
レネに引っ張られたのでポラリス達をエルフィナに預けてシリウスはそのまま厨房まで引き摺られていった。
「それではレネちゃんの料理教室を始める」
「わー(パチパチ)」
「何だ何だ?」
「何か始まったぞ?」
レネの発言に三角巾とエプロンを着けたシリウスだけが反応して拍手しているが、宿屋の料理人達はレネのテンションに付いていけていないので何が何だか分からない状態だった。だが、いざ料理教室が始まるとシリウスだけでなく宿屋の料理人達もレネの説明を真剣に聞き始めた。二時間ほどのレネの料理教室は宿屋の料理人達も唸るほどのものばかりで早速実践している。シリウスもレネに手取り足取り教えてもらい、夕食の一品のシチューを作ってみれば、以前作ったシチューよりも明らかに上達していた。
「では先生。味見をお願いします」
「うむ、苦しゅうないぞー。あむっ…うむ、合格」
無事レネに合格を貰ったのでできた夕食を持って厨房を出た。酒場に行くとエルフィナ達が席を確保していたのでそちらに向かった。
「お待たせ~」
「ま~」
「ままー!」
「かあさま…」
「(プルプル)」
「シャー」
「ワフ」
「「「「「「ごはん~」」」」」」
「ふふふ。皆がお利口さんにしてたからママが美味しいご飯を作ってくれたわよー」
「止めろ、ハードルを上げるんじゃない」
エルフィナの言葉を聞いて目をキラキラさせてシリウスを見るポラリス達。いつも作るシチューよりかは出来は良いもののハードルを上げられて途端に自信が無くなったが、今からレネに作ってもらうのは時間と迷惑が掛かるので渋々シチューをテーブルの上に置いた。今日の夕食はレネが作った香草で味付けしたカミツキウオの蒸し焼きとシリウスが作った野菜と肉のシチューだ。
「あら美味しそう。あむっ。うん、美味しいわ」
「あむっ。!!はぐっ!あぐっ!」
「うむ。良い味だ」
「美味いぞー」
「世辞はいいよ。本当に大丈夫かな…」
「ま~」
「は~い。仕方が無い…ポラリス~、あ~ん」
「あ~。あ~♪」
エルフィナ達は美味しいと言ってくれているものの不安で仕方が無かったが、一口食べたポラリスは満面の笑みで喜んでいたので大丈夫そうだと胸を撫で下ろしたシリウスはドンドン子供達に食べさせていった。
「アトリア~、あ~ん」
「あー。あーい♪」
「スピカ~、あ~ん」
「あー……♪」
「カペラ~、あ~ん」
「(プルプル)♪」
「ハダル~、あ~ん」
「シャー♪」
「リゲル~、あ~ん」
「ワフ♪」
「「「「「「おいち~♪」」」」」」
美味しい夕食でポラリス達とルース達は笑顔のまま食べ進め、その笑顔を見て酒場にいる他の客達も癒されていた。
「美味しかったわねー」
「この味好き。また作って?」
「んー…じゃあ昇級試験合格したら作るよ」
「ん。頑張る」
「何だとー。レネちゃんの仕事を盗る気かこんにゃろー」
「いや別に盗る気は、ちょっ、揺らす、力強、おう、おう」
「今食べ終わったところであろう。止めんか」
レネに肩を掴まれて前後に揺らされて首がガクンガクンと揺らされたシリウスだがルジャナフスクが止めてくれた。少しふらついているシリウスだがシェネドがやる気を出しているのでそれで良しとしといた。各々の部屋に戻り明日の準備を整えた後シリウス達は眠った。シリウスはアルヘナの所に向かおうとしていたが、寝る直前にアルヘナに夢の中に来るのは二、三日に一度と言われた事を思い出して、明日は念話で会話しまくると誓いながら渋々そのまま眠った。
翌朝、身支度を整えて朝食を食べ終わったシリウス達は荷物を持って宿屋を出て西門の前までやってきた。
「私とシリウスちゃんはほとんど見てるだけだから忘れないでね」
「分かっておる。準備はよいな?」
「おー」
「大丈夫」
「よろしい。では行くとしよう」
ルジャナフスクが先頭に立って西門を出て、レネとシェネドがそれに続き、その後ろをシリウスとエルフィナがウェズンと共に続いた。長閑な街道を歩く事一時間、旅人がヒュージモスを目撃した場所に辿り着いた。
「この辺りだな。ふむ…あの森から来たのだな」
「森に入って、全部倒すの…?」
「いや、そこまでは依頼書に記されておらん。街道に出てきた分を倒すだけでよい」
「坊ちゃまー、何か飛んできたぞー」
「む?」
レネの指差す方を見ると森の方からヒュージモスが五匹飛んでくるのが見えた。
「来たな。迎撃の用意だ。レネよ、これを使え。近づいてきたらこれで追い払うのだ」
ルジャナフスクは物品召喚で長柄の棍棒を取り出してレネに渡した。
「我は右の三匹を狙う。シェネドは左の二匹を狙え」
「わ、分かった」
「うおー、いくぞー」
レネは棍棒をブンブンと振り回しながらヒュージモスの方へ歩いていき、その間にルジャナフスクは魔法の準備を速やかに終わらせた。
「【フリーズランサー】」
ルジャナフスクは魔法を唱え無数の氷の槍を放って瞬く間に三匹のヒュージモスを撃ち落とした。
「こらー、こっち来るなー」
残った二匹は仲間を倒したルジャナフスクに襲い掛かろうとするが、レネが棍棒を振り回してそれを阻止している。その隙を付いてシェネドは杖を構えて狙いを定めていた。
「ま、【マジックボルト】!」
シェネドが放ったマジックボルトはヒュージモスから大きく外れてしまった。
「あうぅ…」
「シェネド、落ち着け。目を瞑って深呼吸しろ」
やっぱり駄目だと俯くシェネドの後ろからシリウスが語りかけた。シェネドはシリウスの言う通りに目を瞑って深呼吸を何度も繰り返した。
「そら、ゆっくり目を開けて、杖を構えて。そんなに力まなくていい。もっと力を抜いて…そう。さあ、術式を思い出して魔力を込めるんだ。そうだ。狙いは手前のヒュージモスに…もう少し下に…今だ」
「【マジックボルト】!」
シリウスの言葉の通りにマジックボルトを放つと見事ヒュージモスの胴体に命中した。ヒュージモスは地面に落ちて藻掻いていたが、レネが近づいて思いっ切り棍棒を振りかぶって叩き下ろした。グチャッと嫌な音と共にヒュージモスは潰れ、残ったヒュージモスは森の方へと逃げていった。
「や、やった…!」
「そうだ。シェネド、お前はやればできるんだ。もっと自信を持て」
「えへへ…!」
喜ぶシェネドの頭を撫でると頬を赤くしながらはにかんでいる。
「一匹逃げたな。追った方がよいのだろうか?」
「まあ、これだけなはずは無いしね。一応どれだけいるか確認しときましょうか。っと、その前に討伐したっていう証を取っとかないとね」
エルフィナは短剣を抜いてヒュージモスの触角を切り取って回収した。改めてシリウス達は逃げたヒュージモスを追って森の方へ向かった。
一方その頃ギルドではちょっとした騒ぎが合った。
「それは本当ですか?」
「はい!先ほど訓練校の教官に会って確認しました!対魔物との戦闘経験を積むために訓練の一環としてヘンゼの森へ向かったと!」
「はぁ~…森で訓練する時は報告してくれってあれだけ頼んだのに…」
「どうしましょう?確か昇級試験でヘンゼの森に向かってるハンターが…」
「…今から向かっても間に合わないでしょうね。問題が起きない事を祈るしかありません」
どうやら訓練の一環として教官と訓練生らがシリウス達が向かっているヘンゼの森に向かっているようだった。今から馬を走らせても到底間に合わず、ルディオは互いが鉢合わせて問題が起きない事を祈るしかできなかった。
ヘンゼの森に入ったシリウス達は周囲を警戒しながら進んでいる。ルジャナフスクが先頭に立ち、続いてレネとシェネド、最後尾にシリウスとエルフィナが続いている。
「む?」
「おん?どしたー?」
「いたの?」
「この音は…」
「それなりの数の足音…若い男女の声…何かしらね…嫌な、いえ、面倒な予感がするわ…」
ルジャナフスクとシリウスとエルフィナは僅かに男女の集団の声を聞いたが、それと同時に面倒事の予感がした。だがこれだけ音を立てているのでヒュージモスがそちらに行かない訳がないので仕方が無く音のする方へ向かった。
「ええい!魔物との戦闘経験を積ませようと来たがいいが、こうも飛ばれると手も足も出せん!」
「この鱗粉も厄介だな!お前達!絶対に吸うなよ!」
「あまり前に出過ぎるな!必ず複数で当たれ!」
「クソッ!下りてこい!ぶった切ってやる!」
「よくも仲間を!」
「待て!前に出るな!」
「うおおおぉぉぉ!」
シリウス達の想像通り、そこにいたのは訓練校の教官と訓練生らだった。魔物との戦闘経験を積ませるためにヘンゼの森に来たが、そこでヒュージモスと遭遇して交戦を始めたが、空を飛び毒の鱗粉を撒いてくるヒュージモス相手には飛び道具がほとんど無い訓練生には荷が重かった。ジャンプして斬りかかってもヒラリと避けられて逆に体当たりされたりストロー状の口で突き刺されて返り討ちにあっている。今も仲間がやられて激昂した一人の訓練生が跳んで斬りかかるも避けられてストロー状の口を突き刺されていた。ヒュージモスは突き刺した訓練生から体液を啜り、訓練生はみるみるうちに痩せ細っていく。
「あ…あぁ…」
「止めろぉ!」
「おい、しっかりしろ!」
「クソッ!またやられた!」
犠牲者が増え続け苦戦している訓練生らをシリウス達は木の影から見ていた。
「あーあー…取り乱しちゃって、まあ…」
「陣形は乱れて、指示を無視して突出して返り討ち、それを見て士気はだだ下がり。これは駄目ね」
「少なからず戦線は崩壊し、撤退もしくは全滅だな」
「おー、さっきの虫がいっぱい飛んでるなー」
「あ、あんなにいたの…?」
「数は我の魔法でどうとでもなるがどうする?態々助ける必要があるか?」
「え!?」
「おん?助けないのかー?」
ルジャナフスクの発言にシェネドは信じられないような目でルジャナフスクを見て、レネは不思議そうに首を傾げていた。
「…まあ、酷いって言われるかもだけど態々助けないといけない理由は少ないな」
「確かにね。弓とか持ってきてたらかなり違ってたかもしれないけどそれすら無いし。単純に彼らの準備と対策不足が原因だし。それを私達が尻拭いしなきゃいけない理由は無いわ。ここで彼らを見捨てても私達が責められる事は無いわ」
ハンターの世界では何があっても全て自己責任が原則だ。
エルフィナは動く理由は無いと言い切り、シリウスもその言葉に理解を示している。ルジャナフスクもそれに同意するように頷き、レネは取りあえずルジャナフスクに従うつもりだが、シェネドはオロオロしてどうしたらいいか分からなかった。
「……………しゃあない。行くか」
「ふふふ、言うと思った」
「え?え?」
「助けるのか?」
「このまま見捨てたら後味が悪いし、何よりこの子達の情操教育に悪い」
シリウスは最初から助けるつもりでいてエルフィナもそれをすぐに見抜いていたが、ハンターの事をまだよく分かっていないシェネドに理解してもらうために敢えて見捨てるような発言をした。
「でもねシェネド。ハンターは自己責任が原則。それを怠った人を態々命を懸けてまで助ける義理は無いのよ。今後もこんな事があるかもしれないけどすべては助けられない事は覚えておきなさい」
「…え、エルフィナも、み、見捨てた事、ある、の…?」
「ええ。何度もね。でも後悔は無いわ。もし助けていたら私はここにいなかったかもしれないしね」
現実を知ったシェネドはショックを受けているが、エルフィナはそれに何も言わずに短剣を抜いて戦闘態勢に入った。
「幸い森だから私は前に出るわ。皆は彼らと合流して援護してちょうだい。私は裏から回り込むわ」
「分かった。無理するなよ」
「もちろん」
エルフィナはヒュージモスを背後から奇襲するために別行動を取り、シリウス達は各々武器を手に取って訓練生らに合流すべく移動を開始した。
「【D・ウェイブ】!」
「ピギュ!?」
「はぁ、はぁ…」
「無理するなフルド!」
「もう何発も撃ってるよ!それ以上は!」
「はぁ、はぁ…だが、ここで踏ん張らないと…!」
斬撃を飛ばす魔戦技を何度も放ってヒュージモスと戦っていたフルドであったが、既に魔力残量は三割を切っていて立つのもやっとな状態になっている。仲間に庇われながら下がるが、そこを一匹のヒュージモスが空中から襲い掛かろうとしていた。
「マズい!」
「くっ!やってやるわよ!」
「く、来るなら来なさい!」
「はぁ、はぁ…皆、駄目だ…!」
ストロー状の口が伸ばされようとした時、横から火の玉が飛んできてヒュージモスに当たった。
「ギュウウウゥゥゥ!?」
「な、何だ!?」
「これって…魔法!?」
「誰かいるのか!?」
火だるまになって地面に落ちたヒュージモスを尻目に訓練生らは魔法が飛んできた方を見た。そこには一昨日前に見た四人、シリウス達が立っていた。
「ファイアーボールは流石にマズかったな…」
「森に延焼するやもしれんから控えた方がよいだろう」
「だな」
「おらー、あっち行けー」
「あれは、ぬいぐるみに、いないの?」
「あれはカッコよくない。だからいらない」
「そ、そうなんだ…」
「レネは角とか生えてる方がいいもんな」
「そうだー。角はカッコいいぞー」
「何で、分かるの…?」
シリウス達は特に緊張する事無く自然体で訓練生らの方に寄っていった。
「そなたらは下がるといい」
「な、何だよお前らは!」
「こっちは訓練なの!下がる訳無いでしょ!」
「こちらは依頼で来ている。既に満身創痍と見るがそれでも戦うというのか?それでも構わんが窮地に陥っても我は助けんぞ」
「なっ…!?」
ルジャナフスクの発言に言葉を失っている訓練生を放ってルジャナフスクはヒュージモスの前に立った。
「まずは数を減らそう。【フリーズランサー】」
「だな。シェネドは撃ち漏らしたのを狙ってくれ。【ロックダーツ】」
ルジャナフスクとシリウスは魔法を唱え、氷の槍と石の礫がヒュージモスに襲い掛かった。氷の槍で串刺しになったり、石の礫に打たれて数匹のヒュージモスが地面に落下した。それでもまだまだヒュージモスはおり、鱗粉を撒き散らしながらシリウス達に襲い掛かろうとしている。
「【マジックボルト】!」
「カッコよくないのはあっち行けー」
シェネドは一匹ずつ狙いを定めてマジックボルトで撃ち落としており、レネは近づこうとするヒュージモスを棍棒を振り回して近づけさせないようにしている。
「せいっ!」
「ピギュ!?」
そこにヒュージモスの背後からエルフィナが木の上から奇襲し、ヒュージモスは突如現れたエルフィナに驚いて固まっている。その隙を逃さずにシリウス達は各個撃破していき、十数匹ほど倒した辺りで生き残った数匹のヒュージモスは森の奥へと逃げていった。
「終わったな」
「この触角を千切ればいいのかー?」
「ええ。それで倒した事の証明になるわ」
「他に使える素材は無いのか?」
「ヒュージモスは鱗粉ぐらいね。その鱗粉も薬じゃなくて毒に使うものだから額は低めよ」
「なら触角を取ってそのまま放置か」
「森の中だから火が使えないしそうなるわね。まあそのうち魔物が食べてくれるわ」
負傷者が多数いる訓練生らを尻目にヒュージモスの触角を取ったシリウス達はそのまま帰ろうとしている。
「おい!何勝手に帰るんだよ!」
「そうだ!誰も助けてくれって言ってないぞ!」
「僕達だけでも切り抜けられたのに余計な事を!」
「止めろお前達!」
教官が止めるもプライドを傷つけられた訓練生には届かず、寄ってたかってシリウス達を責め立てている。シリウスとエルフィナとルジャナフスクはあまりの残念さに深い溜め息を吐き、シェネドは怯えてウェズンと一緒にシリウスの背中に隠れ、レネは思いっ切り膨れて不機嫌になっている。
「よく言うよ。怪我人を大勢出しといてさ。私達が介入しなかったら何人かは確実に死んでたのにな。何てこんなに責められるんだ?」
「騎士になる自分は特別でこの程度の魔物ぐらい華麗に倒せるのにそれの邪魔をしたから、とか思ってるんじゃない?」
「やれやれ…程度が知れるな。この有様では騎士団の未来は暗いな」
「なっ…!貴様ぁ!」
「というかお前!怪しすぎるだろう!」
「全身を覆う黒いローブにその仮面!何か罪を犯したからしてるんだろ!そうに決まっている!」
「罪人よ!罪人がいるわ!」
「捕まえろ!」
「お前らいい加減にせんか!」
「それ以上口を開くんじゃない!」
教官らが必死に止めているが、一度火が付いてしまえば中々消えずあっという間に業火となり訓練生らを駆り立てていく。見た目だけなら怪しいルジャナフスクを罪人と決めつけて捕まえようと押し寄せようとしている。あまりの態度にシリウスは米神に青筋が立ち、エルフィナは氷のように冷たい目となり、怯えていたシェネドも眉間にシワを寄せている。言われているルジャナフスクはやれやれと言わんばかりに溜め気を吐き、特に何とも思っておらず適当に流して怒っているシリウス達を宥めようとしたが、それより先に行動を起こした者がいた。
「ぬおっ!?な、何をする!?」
「坊ちゃまを…」
「な、何だ?」
「坊ちゃまを悪く言うなー!」
「うわあああぁぁぁ!?」
ルジャナフスクを悪く言われてキレたレネが近寄ってきた訓練生の一人を持ち上げて投げ、投げられた訓練生は他の訓練生にぶつかった。レネはそれに目も暮れず詰め寄ろうとした他の訓練生に掴み掛り同じようにポンポンと投げた。
「うわあああぁぁぁ!?」
「きゃあああぁぁぁ!?」
「や、やめ、ぬわあああぁぁぁ!?」
投げ飛ばされる訓練生は木や地面に叩きつけられて痛みで呻いているが、レネは止めようとせずに一度投げた訓練生をもう一度投げようとしたが、それをルジャナフスクが止めた。
「レネよ。もういい。止めるんだ」
「離せぇ!離せぇ!」
「もういい。お前の気持ちはよく分かった。だからもういい」
「…よくない。何も知らないのに坊ちゃまが悪く言われるのは嫌だ」
「よいのだ。他の有象無象に何を言われても我には何も響かん。我にはレネがいる。レネは我の事を一番理解しているのだろ?我はそれで十分だ。だから、もうよいのだ」
「…うん」
俯くレネの頭をルジャナフスクは優しく撫でている。
普段はふざけたり、ルジャナフスクを軽く扱ったりしているレネだが、本当はルジャナフスクの事を心の底から大切に思っており、ルジャナフスクもまた同じようにレネの事大切に思っている。
数百年以上一緒にいて形成された深い家族愛。
その絆は誰であっても切れる事が無いほど固いものだった。
俯くレネを撫でるルジャナフスクの仮面から見える目はとても優しいものだった。