「「「誠に申し訳無い!!」」」
「はぁ…」
ヘンゼの森でルジャナフスク達の昇級試験のために魔物を狩りにきたシリウス達だったが、訓練校の教官と訓練生らも魔物との戦闘経験を積むために訪れていてシリウス達と鉢合わせた。遠距離攻撃に乏しい訓練生らは負傷者を多数出して危機に陥っていたが、それを見掛けたシリウス達が魔物を倒して、結果としてだが訓練生らを助けた。
だがプライドを傷つけられた訓練生らはシリウス達を責め立てて、見た目だけなら怪しいルジャナフスクを糾弾するとレネがキレて、ルジャナフスクが止めるまで暴言を吐いた訓練生らを木や地面に投げ続けた。メイドが胸当てなど装備を付けている訓練生を軽々投げ飛ばす光景を見て固まっていた教官らは、レネが大人しくなったと同時に正気に戻り、シリウス達にスライディング土下座を敢行した。
ルジャナフスクはレネを慰めるのに忙しく、よく見れば昨日シリウスとエルフィナが襲われた時に襲撃してきた訓練生らを回収しにきた教官だったので再びエルフィナが対応した。
「貴族の訓練生だけが問題だと思ってたけど…まさか平民の方にも問題があったとはねぇ…」
「もう、本当に申し訳無い…」
「このような事が無いよう日々教育しているのですが…いえ、言い訳ですな。申し訳無い…」
教官らは情けなくて涙目になっており、流石にエルフィナもさらに責め立てるのは気が引けた。
「はぁ…もういいわ。後はそちらが対処してちょうだい。私達は帰るから」
「さあレネ、元気を出せ。見よ。そのような顔をして子供達も心配しとるぞ」
「…うん、分かった。うおー、レネちゃんふっかーつ」
「よしよし、もう大丈夫だよ。ほら、レネも元気になったよ」
レネが俯いているのを見てポラリス達は心配そうにレネをずっと見ていた。ルジャナフスクに促されていつものレネに戻り、ポラリス達にも笑顔が戻った。
「あ~、う~」
「れーね!」
「ぅ…だ、いじょ、ぶ…?」
「大丈夫だぞー。レネちゃんは元気になったぞー」
「あ~♪」
「あーい♪」
「わ、わ…!」
レネは心配してくれたポラリス達を纏めて抱き上げて高い高いしながらクルクルと回っている。
「いやー、めんごめんご。ちょーっとイラっときちった」
「全然構わんよ。レネがキレなかったら私がキレてたし」
「あれは、向こうが、悪い」
「今日の夕食は豪華に行くぞー。レネちゃんの本気を見せてやるー」
「あら、それは楽しみね」
「エルフィナ、終わったのか?」
「ええ。割く時間がもったいないし。さっ、帰りましょう」
「ま、待ってくれ!」
諸々が終わってさあ帰ろうとなった時、聞いた事のある声が聞こえた。空気を読まずにシリウス達を呼び止めたのは治療を受けて動けるようになったフルドだった。
「ラドナス!もう何も喋るな!」
「これ以上彼女らの手を煩わせるな。どれだけ我々が迷惑を掛けたと思っている…」
「申し訳ありません。ですがどうしても聞きたい事が…!」
「黙れ!それ以上口を開けば謹慎にする!」
「あー、いいよ。面倒事はさっさと終わらせるに限る。答えるけどその代わりにもう二度と私達に関わるなよ」
面倒臭い態度を隠そうとせず冷たい視線を送ってくるシリウスにフルドは一瞬怯んだがすぐに持ち直した。
「君のその強さはどうやって身に付けたんだ?俺は皆を守らなくてはならない。だから剣を取った。君も守りたい人がいるから剣を取ったんだろう?俺と同じくらいの歳なのに君は俺より強い。この差は何なんだ?教えてくれ!」
「ふんっ、何だそんな事かよ。簡単だ。あんたみたいな英雄的思考が無いからだよ」
フルドは故郷の村で大人よりも強く、村に近寄ってきた魔物も一人で打ち倒すほど強かった。村の近隣で暴れまわり物資を奪っていく盗賊団もフルドが中心となった自警団で壊滅させた。村の人々や仲間は彼を讃え、次第にフルドの中に自分は他の者よりも強い、自分が皆を守らなくてはならないと思うようになっていき、より皆を守るために強さを求めて付いてくる仲間と共にドウェルト騎士団の門を叩いた。
フルドの言う皆を守るとは目に映る人全てを指しており、一方シリウスは家族、ポラリス達のみを指している。フルドの中の優先度は平等で家族も友人も赤の他人も全て助けるのに対して、シリウスの中の優先度はポラリス達家族が最優先であり他の人は余裕があれば助ける程度でしかない。そういったフルドの英雄的思考や無意識な上から目線をシリウスは嫌っている。
「英雄的思考?どういう事だ!?」
「答えるのはここまでだ。後は自分で考えな」
「待て!まだ話は―――!」
「そこまでだ!これ以上迷惑を掛ける事は許さん!」
「ですがまだ聞きたい事が!」
傍から静観していた教官は話は終わったと判断してフルドを止めた。フルドはシリウスの言った事を理解できていないのか問い質そうとしているが、教官に止められ無理矢理引き剥がされた。
「彼、視野が狭いのね。それにしても英雄的思考…確かに他より強い力を持っていたらそんな考えにもなるかもしれないわね」
「英雄なんてならない方がいい」
「シリウスは、英雄が、嫌いなの?」
「別になりたい奴はなればいいけど私はゴメンだな。英雄ってあれだろ?皆が思う言動から少しでも離れたら責め立てられる称号の事だろ?」
「…それはちょっと…いやでも…うーん…まあ、そういう一面も無い事は無い、かなぁ…」
かなり穿ったシリウスの物言いだが、強ち間違いという訳でも無いのでエルフィナは返答に困りルジャナフスクを見た。
「シリウスの言葉に間違いは無い。過去にも偉業を成し遂げて英雄と持て囃された人間がいたが、他種族との融和を人々に説いたところ、裏切り者と罵られ処刑された者もいる。人々の英雄とはこうあるべしというものから離れれば一転して責め立てられる。英雄とはそういうものも孕む存在なのだ」
「怖い…私は、英雄じゃなくていい…」
「あくまでそういう一面もあるというだけだ。英雄自体は悪いものでも無い」
「そうそう、私が英雄が嫌いってだけの話だ。この話は終わり。早く帰ろう。今晩は昇級祝いだ。シェネドは何が食べたい?」
「あ、えっと、えっと…!」
「うおー、いっぱい作るぞー」
「我らが食べれる量にしておけよ」
「これで三人は六級になるから町を出ても問題無いわね」
怪我の治療などで忙しい訓練生らを放っておいてシリウス達はヘンゼの森を出て町へと戻っていった。町に着きギルドに向かうと入り口でギルドマスターのルディオが待っていた。
「ああ、戻られましたか?」
「あら、どうしたの?」
「いえ、少しお聞きしたい事がありまして。ヘンゼの森で誰かと出くわした、なんてことは…」
「あったわね。言い訳を聞きましょうか」
「ありましたか…申し訳ありません。こちらが把握したのは既に皆さんが出発した後でした。依頼先でハンターと訓練生が鉢合わせて諍いが起きる事が何度かあったので訓練校に魔物討伐するために外に出る際は連絡するよう何度もお願いしているのですが、残念ながら現実はこのような有様でして…」
「なるほどね…まあ、今回の件は連絡を怠った訓練校側が悪いしこれ以上言わないわ。それとこれね」
「…はい、確認しました。では受付へ参りましょう」
ルディオにヒュージモスの触角の入った袋を渡し、確認し終えるとギルドに入り受付へ向かった。ルディオは受付にいる職員と二、三話すと職員は受付にしたから六級のペンダントを三つ取り出した。ルジャナフスクとレネとシェネドが持つ七級のペンダントを回収し、六級のペンダントを三人に渡した。
「それとこちらが報酬です」
ルディオから報酬を貰い無事に昇級試験を終えた。ロビーのテーブルで報酬を確認すると20000リクルも入っていた。
「多い様に見えるのだが」
「多分迷惑料も入ってるんでしょ。貰っときましょう」
「そうか。では分配を…4000リクルずつだな」
「さて、無事皆は六級になったから明日にでも出発しましょうか」
「えぇ…もう…?」
「これ以上ここにいたらまた変なのに絡まれるわよ?」
「それはやだ」
「でしょ?このまま食料とか買いにいきましょう。お金は全部向こう持ちだから」
「おおー、ならいっぱい買うぞー」
「食べ切れる分だけにしておけ」
「必要だから、って言えば、魔法の本とかも…!」
「買うにしても一冊にしとけ。あんまりあれこれ買うと後で面倒な事になるぞ」
ドウェルト騎士団との交渉で物資の代金を騎士団持ちにしてもらうようにしていたので常識の範囲内であれば買いたい放題となっている。シリウス達はギルドを出て市場へ向かうとレネは水を得た魚のように食料を次々と購入していき、ルジャナフスクは余計な物を買わないようにレネに付いていった。シリウスとエルフィナとシェネドは食料以外の物資を買うために別行動を取った。
「まあ、正直買う物は無いんだけどね」
「魔物避けとかは…ああ、ルジャナが結界を張ってたな…」
「お鍋とか食器とかも買い替えなくても大丈夫そうだし、天幕とかもそうだしね」
「ルジャナとレネがいたら途端に楽になるんだが、やる事が無くなる…」
「そうね。それに甘えるのは悪いとは思うんだけど…」
「今度言ってみるか?」
「実はもう言ってみたの。そしたら片手間で張ったものだから大した労力は掛かっていないから気にしなくていいって言ったり、レネちゃんの仕事を盗る気かーって言われちゃった…」
「諦めるしかないか…」
「かもね…」
ルジャナフスクとレネがいたら快適な旅になるのだが、それに頼り切りというのは駄目だと思っているが、どちらも完全に善意でしているのでシリウスとエルフィナは諦めるしかなかった。やる事が無いのでシェネドが要望している魔法の本を見にいくために本屋に立ち寄った。本屋は所狭しと本棚が置かれ、隙間が無いほどビッシリと本が並べられており、本棚に入りきらずに床に置かれているほど大量の本が売られていた。
「ふおおおぉぉぉ…!」
「目を輝かせてるわね」
「本読むの好きだもんな。まあ、一冊ぐらい買ってくか」
鼻息を荒くして興奮しているシェネドが暴走しないように見張りながらもシリウスとエルフィナも本を眺めている。ポラリスとアトリアとスピカも大量にある本を興味深げに眺めていた。ちなみにカペラとハダルとリゲルは全く興味が無くカバンの中や外で暇そうに待っているウェズンの背中で昼寝をしている。
「(魔法関連の本…この辺か。といっても別に必要無いな。何冊か持ってるし、ルジャナから本を借りるか教えてもらえばいいし…そういや空を飛ぶ魔法とかあるのかな?宙に浮く魔法はあるからありそうだけどな。今度聞いてみるか。こっちは歴史関連か。おっ、虚無の魔女の本だ。どれどれ………止めた。アルヘナの事を悪く書いてるだけだった。気分悪い。料理の本も持ってるし、レネに教わればいいな。スルー。お?オルティナ王国の町の歩き方…へー、その町の特産品とか名所が書かれてるな。しかも図解付きで簡単だけどその町近辺の地図も載ってる。これいいな。買おう。後は絵本とかがあればいいんだけど…これか?…うわぁ…絵が怖い。内容も重めだ。却下。もっとポップでチャーミーでハッピーなのじゃないと。自分で描くか?前世の童話を参考にすれば何個かはいけそうだけど…絵、ちゃんと描けるかなぁ…)」
「シリウスちゃん?難しい顔をしてどうしたの?」
「絵本とか童話が欲しいけどこんなのしかない」
「あら、懐かしい。私もこれを読んであげたわ」
「えぇ…内容重くない?話も暗いよ」
「そう?最後は笑顔だからいいんじゃない?それにこういうのは教訓も書かれてるから教育にもなるし」
「えぇ…」
シリウスが持っているのは英雄ビリアンの生涯を描いた絵本だ。リアル寄りの絵が描かれていて、それなりにぼかしてはいるものの殺人や裏切りなど子供に聞かせるには戸惑う内容がそれなりに書かれており、最後には家族に看取られているシーンもありシリウス的にはどう見ても子供用の絵本には見えなかった。
「もっとこう、ハッピーエンドな絵本は無いのか?」
「うーん…特には思い浮かばないわね…例えばどんなの?」
「破天荒なお姫様レーネ姫と騎士団長ルジャナの淡い恋の物語とか、悪い魔女シェネドロに連れ去られたレーネ姫を騎士団長ルジャナが取り返してその後結婚して幸せになる話とか、そういう感じの」
「むしろそっちの話を私が聞きたいぐらいなんだけど。今聞いただけでもドキドキするんだけど」
「即興で考えただけだぞ?」
「悪い魔女シェネドロって…何で私がそんな配役なの…?」
「だから即興で考えただけだって。本当に描く気ならちゃんと変えるよ」
「シリウスと、エルフィナは?」
「私達も出すのか?なら森の狩人フィーナと旅の魔法使いシウスが騎士団長ルジャナに同行するとかなら浮かんだけど」
「よくそんなに浮かぶわね…」
「簡単なあらすじしか浮かばないけどな。そろそろ買って出るか。さっきから視線が痛い」
買うのか買わないのかどっちにするんだと言わんばかりに店主から視線が突き刺さっているのでシリウスとシェネドはそれぞれ一冊ずつ購入した。
「シリウスちゃん達は何を買ったの?」
「王国の町の歩き方の本だ。色々書いてるから便利そうだしな」
「私は、魔法の歴史の本。作られた時の、背景とかが書いてる。面白そう」
買った本の事を話しながらルジャナフスクとレネに合流するために市場の方に戻るとそこには大量の食料を購入して満足そうにしているレネと溜め息を吐いているルジャナフスクの姿があった。どこかから借りたのか手押し台車があり、その上に山のように食料が積まれており、その様子に周りの人達もどよめいていた。
「あーあー、あんなに買っちゃって…」
「次の町に行くのにあんなにいらないのに…」
「ふへー…」
野次馬に混じって山積みの食料を眺めていたら、レネがシリウス達に気づき手を振ってきたのでルジャナフスクとレネの所に向かった。
「これ、どしたん?」
「次の町へ行くための分と今日のご馳走の分だと言って聞かなくてな。止めたのだが次から次へと買いおった。どれだけ使う気だお前は」
「大丈夫、レネちゃんに任せろ。全部使い切ってみせるぞ」
「そういう事を聞いておるのではない。全く…」
「あはは…」
「…まあ、買っちゃったものはしょうがないわね」
「これだけのご馳走…楽しみ」
手押し台車を引きながらシリウス達は宿屋へと戻っていったが、小柄なメイドが一人で山積みされた食料が載った手押し台車を引いていったのでその場にいた人達は驚きを隠せなかった。ざわついている後ろを気にする事無くシリウス達は宿屋へと戻り、食料の量で宿屋の料理人達を驚かせながらもシリウスとレネが夕食の準備に取り掛かった。
「いっぱいあるなぁ…五人分と子供達の分でも多過ぎないか?」
「大丈夫だぞ。五人のうち三人は大盛りだぞ」
「えー…ルジャナとレネと…後は?」
「シリウスだぞ?」
「えっ!?私!?何で!?」
「レネちゃん特製料理を腹いっぱい食うのだー」
「え、えぇ…嘘だろマジか…いや、美味しいから結構食えるけどね。でも…うーん…食い切れるかな…」
「さあさあ、レネちゃんの料理教室を始めるぞー」
大量に食べさせられる事がいつの間にか決定していて動揺しているシリウスだが、レネは構わず料理教室を開始した。前回は口頭とレネが作る工程を見せるだけだったが、今回はシリウスに実際に作らせながら改善点を指摘していくスタイルでいくようだった。
レネちゃんの料理教室の様子を一部抜粋してお送りする。
「違うぞ。そこは一気にグワーってするのだー」
「一気にグワー…あー…こう、か?」
「そうだぞー」
「塩はポッピッパッでいいぞー」
「ポッピッパッ…えーっと…ぽっ、ぴっ、ぱっ、か?」
「もっと大胆にいくのだー」
「横から汁が出てくるまで待つのだぞ。そしたらひっくり返すのだ」
「汁が出てくる…んー…よく見えん…」
「もっと近寄るのだー」
「熱い熱い!火が近い!あっ、あっつ!」
「くぬおおおぉぉぉ…!かったいなこれ…」
「おん?そうか?これはこう、ドーン」
「ぬおっ!?真っ二つに…」
擬音ばかりの説明だったり、力任せだったりとシリウス以外なら匙を投げるような料理教室だったが、シリウスは擬音の説明も何となく理解したので特に問題無く料理教室は進んだ。
「ふぅ…何とかできた…」
「できたぞー。運ぶぞー」
「え、もうそんな時間?意外と時間掛かったな…」
できあがった料理を酒場に持っていくとエルフィナ達が席に着いて待っていた。だがエルフィナとルジャナフスクの膝の上にいるポラリス達は半べそを掻いていた。
「ま~…ふえええぇぇぇ…」
「ぐすっ…ままー…」
「…ぐすっ…」
「えっ!?どうしたの!?大丈夫!?」
「いやー、一緒に遊んでいたんだけどね。途中から寂しがったのかママーって言いだして…」
「手を尽くしてあやしたのだが泣いてしまってな」
「ごめんね。よしよし、大丈夫だよ。ママはここにいるよ」
夕食より先にポラリス達をあやすのが先決なシリウスは三人をギュッと抱き締めて背中をポンポンと優しく叩いている。スンスンと鼻を鳴らしながらシリウスに抱き着くポラリス達だったが、少しすると泣き止んで笑顔を見せシリウスに甘えだした。
「ま~♪」
「ままー♪」
「かあさま…」
「は~い♪ママですよ~♪」
「(プルプル)」
「ブルル」
「シュー」
「ワン!」
「にゃきやんだにょ~」
「いっぱいよちよちしたにょ~」
「がんばったにょ~」
「むぎゅ~」
「あたちも~」
「なでて…」
「カペラ、ウェズン、ハダル、リゲル、ルース、ネプト、ラヌス、トゥル、メルク、ユテルもポラリスとアトリアとスピカをあやしてくれてありがとね」
「もう!料理なんてレネに任せたらいいのに!おかげで私もクタクタよ!」
「そういう訳にもいかんだろ。まあ、ピーニもありがとな。ほら、いっぱい食いな」
抱き着いてくるトゥルとメルクを好きにさせ、ユテルの頭を撫でながら席に着いた。テーブルの上にはポラリス達をあやしている間にレネが料理を並べてくれていた。
気性が荒い暴れ牛の魔物であるレイジングブルの分厚いステーキ、皮も身も青いアオウオを丸々一匹使ったアクアパッツァ、チーズをたっぷり使った熱々のグラタン、新鮮で様々な野菜のサラダ、野菜と肉のクリームシチュー、甘いスクワッシュのスープ、いつの間にか作っていたレネ手製のパン、そして一口サイズに切られた様々な果物。
テーブルを二つくっ付けてギリギリ載るぐらいのご馳走の数々に目を輝かせるシェネドとピーニとポラリス達に対して、ルジャナフスクは天を仰ぎ、エルフィナは顔が引き攣っていた。
「し、シリウスちゃん…」
「何も言わないでくれ。私も気づいたらこんなになってたんだから」
「こんなにどうするというのだ…」
「凄い…!美味しそう…!」
「じゅるり…」
「いっぱい食えー」
酒場にいる他の客も思わず二度見するほどの量だが、作ってしまったものは仕方が無いと食べ始めた。
「美味しい。美味しいけど…量がね…」
「あぐっ!はぐっ!美味しい!あぐっ!はぐっ!」
「シェネドはもうちょっと落ち着いて食べなさい」
「うっま!うっま!止まらないわ!うっま!」
「全く、こんなに作りおって…旅の分は大丈夫であろうな?」
「ちゃんと確保してるぞー。おらぁん、口を開けろー」
「もごっ、ムグムグ」
「あ~♪」
「おいちー♪」
「……♪」
「(プルプル)♪」
「ヒィン♪」
「シャー♪」
「ワフ♪」
「「「「「「おいち~♪」」」」」」
ポラリス達とルース達に食べさせたり、口の周りを拭いたりしているのでシリウスは食べていないが、レネに無理矢理食べさせられていた。エルフィナが機転を利かしてすぐ傍の窓からウェズンが顔を出せるようにしていたのでウェズンも夕食に参加できており、口の中がいっぱいのシリウスから美味しい野菜を食べさせてもらって嬉しそうにしている。流石にルジャナフスクから何度も注意されていたので量は加減されているが、食べ終わるとすぐに食べさせられるので口の中はほぼ常にいっぱいで何も喋れずにいる。
ハムスターみたいに口の中がいっぱいなシリウスにエルフィナは苦笑し、シェネドとピーニは美味しい夕食に夢中になり、ルジャナフスクはレネとポラリス達とルース達の様子を見ながら静かに食べ進め、レネはひたすらシリウスに食べさせている。
酒場にいる他の客達はその様子を物珍し気にチラチラと見ているが、シリウス達にとってはいつも通りの賑やかで楽しい夕食となった。