転生したらママになりました。   作:大神降ろし

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第百四十三話

 

 昇級祝いの翌朝、シリウス達は荷物を持って宿屋を出て西門前まで来ていた。今は商人の馬車とその護衛や依頼へ向かうハンターらと共に門が開くのを待っている。

 ちなみに昨夜の夕食はルジャナフスクとシリウスが頑張ったおかげで何とか完食した。

 

「まだお腹が重い気がする…」

「もう、食べ過ぎよ。あんなに無茶するから」

「凄く、美味しかった」

「祝い故にあれこれ言いたくは無いが、次する時はもう少し減らせ」

「えー…しょうがないなぁ」

 

 世間話をしながら門が開くのを待っているとようやく門が開き、他の人達と共に外に出た。他の人達は旅路を急いでいるのか早歩きで移動しているが、シリウス達は急ぐ理由は無いのでのんびりと会話しながら歩いている。

 

「次の町はどんなとこなんだ?」

「次の町はフォドロンって言ってね、王国の二大食料庫って言われるぐらい豊かで肥沃な土地で畑とかがいっぱいあってご飯が美味しいのよ。ちなみに二大食料庫のもう一つはターエルね」

「へー。アールレディアまでは?」

「アールレディアはその次ね。でもフォドロンに寄らずにこのままアールレディアに行く事もできるわ。ここからフォドロンまでは三日ほどでそこからアールレディアまではさらに三日ぐらいね。このままアールレディアに行く場合は五日ぐらい掛かるわ」

「そうか。うーん…どうしようか…皆はどう思う?」

「美味しいご飯、興味がある」

「我はどちらでも構わん」

「ご飯は十日分はあるぞー」

「どれだけ買ったのだお前は」

「ちなみにフォドロンは収穫期になると祭りを行うわ。後、そうね…二、三ヵ月ぐらいかしらね。その時になったらフォドロンの町中の食堂の中でどこが一番美味しかったかを競ったりするわ。その時にしか食べれない特別なご飯とかもいっぱい出るわよ」

「収穫祭か。フォドロンはその時に行くでも良さそうだな。シェネドはそれでもいいか?」

「特別なご飯、今から、楽しみ」

「涎を拭きなさい。ならこのままアールレディアに行くって事で」

 

 シリウス達はフォドロンには寄らずにそのままアールレディアに向かう事にした。時折旅人や行商人と擦れ違いながら景色を楽しみつつのんびりと歩いている。ビリアの町にほど近い街道沿いなので魔物が出てくる事は無く順調に進み、夕暮れ前には野営地に無事辿り着いた。野営地には既に先に付いていた他の人達が天幕を張っていたり、焚き火をおこして夕食に準備をしていた。シリウス達はその人達から付かず離れずの位置に荷物を下ろして天幕を張り焚き火をおこした。レネは早速夕食の支度に取り掛かり、ルジャナフスクは自分達の天幕が入るだけの結界を張り、シリウスとエルフィナとシェネドはやる事が無くなった。

 

「暇だ…」

「そうね…シェネドとピーニは本を読んでるし、どうしましょう…」

「ま~」

「ままー」

「かあさま…」

「(プルプル)」

「ヒィン」

「シャー」

「ワフ?ワン!」

「あしょぼ~」

「にゃでて~」

「わたちも~」

「おにゃかしゅいた~」

「ねむねむ…」

「あそぶ…」

 

 やる事が無いのでシリウスとエルフィナは甘えてくるポラリス達と自由奔放に過ごすルース達の相手をする事にした。シリウスは甘えてくるポラリスとアトリアとスピカとハダルとネプトとラヌスの頭を撫で、眠ってしまったメルクはカペラが枕になって上げ、エルフィナは遊びたがるルースとユテルをリゲルが背に乗せて走り回るのを見守り、お腹が空いたトゥルはウェズンに連れられて夕食を物凄い勢いで作っているレネの所に向かった。

 

「おん?どしたー?」

「ブルル」

「うーん?お腹が空いたのかー?しょうがないなぁ…ほれ」

 

 レネはナガニンジンを一本手に取ってウェズンの口元に持っていったがウェズンは首を横に振った。

 

「ブルルル」

「違うのかー?ぬーん…」

「レネよ。どうやら精霊が腹を空かせているようだぞ」

「そうなのかー?じゃあこっちだー」

 

 レネは千切ったパンを出来かけのシチューに少し浸して皿の上に置いた。

 

「わ~い」

「おお。独りでに宙に浮いて消えた」

 

 トゥルは嬉しそうに笑顔でレナから貰ったパンを頬張っている。レネはそれを見届けた後、再び猛烈な勢いで、尚且つ丁寧に夕食を作っていき三十分後には夕食ができあがった。今日の夕食は燻製肉のステーキとマルイモとナガニンジンのシチューとパンだ。

 

「いただきます。ポラリス~、あ~ん。あむっ、うまっ」

「んー、美味しいわー」

「あぐっ!はぐっ!」

「うむ」

「うーまーいーぞー」

「うっま!うっま!」

「「「「「「おいち~♪」」」」」」

 

 今日も今日とて美味しい夕食に舌鼓を打つシリウス達を野営地にいる他の者達は羨ましそうに見ていた。魔物避けを使っているものの匂いがする食事を作れば魔物が寄ってくるかもしれないので夕食を薄いスープとパンと干し肉で済ませている者がほとんどだった。少し離れた場所にいる商人の護衛はシリウス達の料理魔物が寄ってこないか心配で周囲を警戒しつつ、眉間にシワを寄せながらシリウス達を睨んでおり、その視線の意味をシリウスとエルフィナとルジャナフスクはすぐに察した。

 

「ふん」

 

 ルジャナフスクは不躾な視線を送ってくる商人の護衛に不機嫌そうに鼻を鳴らしながら杖を呼び出して地面に突き立てた。するとシリウス達の周りにだけ張ってあった結界の範囲が野営地全体にまで広がった。半透明の何かが野営地全体を覆い、他の者達は何が起きたのか分からず右往左往しているが、商人の護衛達は自分達の周りにも結界が張られたとすぐに分かり、バツの悪そうな顔をしており、護衛達のリーダーは他のメンバーの頭を殴ってからルジャナフスクにペコペコと頭を下げていた。

 

「全く…」

「そういえば食事の匂いに釣られて魔物が寄ってくる事もあったな…」

「シリウスちゃんの場合はポラリスちゃん達のご飯を作らないといけないからしょうがないけどね」

「魔物避けじゃ、駄目なの?」

「偶にそれを気にしないのもいるのよ。だから鳴子も設置してるのよ」

「うまうま。ん?何かあったのかー?」

「焚き火してるんだから魔物は寄ってこないでしょ?」

「あら、火を恐れない魔物もいるわよ。だから外で野営する時は焚き火と魔物避けと鳴子が必須なのよ」

 

 夕食を食べ終えるとレネは片づけをし、ルジャナフスクは本を取り出しながら焚き火用に集めた枝の横に座った。

 

「…もしかしなくても火の番をする気?」

「そうだが?我の身体はお前達より無茶が利く。ここ数日で十分な休息は得たから気にするでない」

「気にするなと言われても…」

「ここのところずっと二人に頼りっぱなしだし…」

「レネちゃんは気にしてないぞー」

「我もだ。できる者がする。それで問題あるまい」

「…はぁ~…無理だけはしないでよ」

「分かっておる。代わってほしければ言う」

 

 食事の準備に結界、そして火の番まで何から何まで頼りっぱなしなのでシリウスとエルフィナは良心が咎めているが、ルジャナフスクとレネは何も気にしていない様子だった。やる事が無いシリウスとエルフィナは甘えてくるポラリス達とルース達の相手をし、シェネドとピーニは本を読んでいた。やがてポラリス達とルース達があくびをしたので、渋るシェネドとピーニを天幕に引っ張ってシリウス達は眠り、荷物の整理をしていたレネも天幕に入って眠った。

 翌朝、夜通し起きていたルジャナフスクに挨拶しながらレネの作った朝食を食べ、天幕を片づけて出発した。他の者達は既に出発しており、出発する直前にルジャナフスクにお礼を言っていた。

 

「へー、ちゃんとお礼言ったんだ」

「うむ。商人の護衛らは謝罪もしておった」

「実質火の番をしてもらったようなものだしね。そりゃあそうよ」

 

 昨日と同様急ぐ旅でもないので代わり映えのしない街道をのんびりと歩いている。そのまま二日ほど歩き続け、フォドロンへの分かれ道を曲がらずにアールレディアへと向かった。分かれ道を真っ直ぐ向かってから翌日、代わり映えのしない景色にシェネドは飽きてきた。

 

「まだ、着かないの…?」

「なーに言ってるのよ。ハンターはほとんどが移動よ。ほら、シャキシャキ歩く」

「うえー…」

 

 エルフィナに叱られているシェネドに苦笑しているシリウスはふと何かが近づいてくる音を聞いた。

 

「シェネド。お待ちかねの何かが来たようだぞ」

「え?」

「…あらほんと。何か来るわね」

「…馬のようだ。それなりの数が来ておる」

「何か来るのかー?」

「せーっかく日向ぼっこしてたのに…」

 

 愚痴を溢しながらピーニはカバンの中に戻り、念の為ルジャナフスクとエルフィナが前に出た。シリウス達の進行方向から馬に乗った集団が駆けてきて、シリウス達の前で止まった。馬に乗った集団は皆貴族の家紋が入った鎧を身に付けており、どこかの貴族の私兵のようだった。

 

「お前達!そこで止まれ!」

 

 シリウス達に声を掛けてきたのはその中でも一際目立つ鎧を着た若い青年であからさまにシリウス達を見下している事から貴族の子弟のようだった。

 

「何者だ?身分の明かす物を見せよ!」

「いきなり随分なご挨拶だな」

「全くね。少なくても明かさなければならない理由を先に話してもらわないと」

「平民如きが貴族である僕に意見するな!」

 

 対応しているルジャナフスクとエルフィナに怒鳴りつける貴族の子弟を見て、何を言っても会話にならないと肩を竦めるエルフィナ。その行動に貴族の子弟は苛立ち口を開こうとしたので、シリウス達は面倒ながらもハンターの証のペンダントを見せた。

 

「ハンターだと?嘘を付くな!子連れのハンターなど見た事も聞いた事も無い!貴様ら、僕を騙そうとしているのか!?」

「そんな訳無いでしょうが。探せば子連れのハンターだって他にもいるわよ」

「ええい黙れ!怪しい奴らめ!そのペンダントもどこかで盗んだ物だろう!」

「ふえええぇぇぇ…」

「びえええぇぇぇ!」

「ひぅ…!?」

「よしよし、怖いね~。大丈夫、ママがついてるよ」

 

 大声で怒鳴りまくる貴族の子弟にポラリスとアトリアとスピカは怯えて泣き出してしまい、シリウスは優しくあやしている。

 

「こ奴らは盗賊共の仲間だ!捕らえよ!」

 

 話すら聞こうとしない貴族の子弟の命令で貴族の私兵らは槍を突き付けながら馬を下りてエルフィナ達に近づいている。

 

「どう対処する?」

「貴族相手だから力尽くっていうのもね…いざとなったらそうするけど、可能な限りは避けたいわ。多分ここにいるのは盗賊関係だと思うけど…」

 

 エルフィナに推察通りこの貴族の子弟は最近領内で暴れまわっている盗賊を捕まえるためにここ数日街道沿いを警邏していた。盗賊らを自分の手で捕まえたとなれば他の貴族達に大きな顔をできると意気込み、父親を説得して出発したはいいが、盗賊の目撃情報があった場所を中心に警邏していても盗賊は見つからなかった。苛立ちばかりが募っていたところでシリウス達を見つけ、見るからに怪しいルジャナフスクと見た事も聞いた事も無い子連れのハンターのシリウスを見て盗賊の仲間だと思い込んで今回の蛮行に走ってしまった。槍を突き付けながら近づいてくる私兵達にどう対処するか思案しているエルフィナだったが、後ろから聞こえてきた音で中断された。

 

「た、助けてくれー!」

「盗賊だぁ!?」

「ひぃ!?い、命だけはぁ!?」

「もっと!もっと早く走れよぉ!」

「ひぃ!?こっちに来ないでぇ!」

「ヒャッハー!根こそぎ奪えぇ!」

「ゲッヘヘヘ!今回は当たりだぜぇ!」

「女だぁ!可愛がってやるぜぇ!」

「「「「「「ギャハハハハハ!!」」」」」」

 

 下卑た嗤いをしながら盗賊達は逃げる乗り合い馬車を追い掛け回していた。

 

「ぼ、坊ちゃま!盗賊です!」

「隊長と呼べ!って、何ぃ!?ようやく来たか!?おのれぇ!我らの気を逸らすとは!」

「最初っから違うわよ」

「突撃だー!続けー!」

 

 エルフィナの言葉を聞く事無く貴族の子弟は私兵を連れて盗賊達に突撃していった。シリウス達は道端に寄り、乗り合い馬車は勢いよく通り過ぎていき、盗賊達は貴族の私兵と激突した。

 

「おらおらぁ!貴族がナンボのもんじゃい!」

「こちとら泣く子も黙るアンガル盗賊団だぞ!」

「てめえらの身包みも剥いでやる!」

「「「「「うおおおぉぉぉ!」」」」」

 

 シリウス達の事はすっかり忘れて貴族の私兵達は盗賊団と激闘を繰り広げている。

 

「行ってもよさそうだな」

「そうね。さっさと行きましょう」

「えっ!?い、いいの?」

「私達の事なんてすっかり忘れてるわよ。それに見たところ割と善戦してるから大丈夫よ。それにほら」

 

 エルフィナが指差す方を見てみると貴族の私兵の歩兵達が大急ぎで駆けつけてきた。

 

「いたぞ!」

「もう戦いが始まってる!」

「我々も続け!」

 

 貴族側の援軍が到着して盗賊団が不利になると思われたが、盗賊団の方も別動隊が到着した。

 

「遅いから来てみたらとんでもない事になってるじゃねえか!」

「ありゃあナディラン子爵の家紋だ!最近俺らを付け狙ってる連中だ!」

「ここ最近追い掛け回してるのはてめえらか!」

 

 互いの援軍が到着して数は五分五分となり接戦が続く中、シリウス達は静かにその場から離れていった。

 

「い、いいのかなぁ…?」

「大丈夫大丈夫。むしろあそこに割って入る方が危ないって」

「そうね。盗賊団の方は言わずもがな。貴族の方も私達を味方だとは思わないだろうし。下手したら両方から攻められる可能性もあるからこれでいいのよ。仮にあの貴族が私達を盗賊団の仲間だって決めつけてもその頃にはアールレディアに入ってるから何の問題も無いわ」

「戦力は拮抗しておったが、装備は貴族側が充実しておった。その差で勝敗は決まるであろう」

「ほっとくのかー?」

「ああいう手合いはほっておくのが一番よ」

 

 そのまま歩いていき、貴族と盗賊の争う音が聞こえなくなるぐらい離れた辺りで前方から叫び声が聞こえてきた。そこには先ほどシリウス達の横を走り抜けていった乗り合い馬車が無残に壊されており、御者と客達がジャイアントアントの群れに襲われ掛けていた。

 

「ひいいいぃぃぃ!?」

「だ、誰かぁ!?助けてくれぇ!」

「死にたくない!死にたくないよぉ!」

「やだぁ!来ないでぇ!」

「お母さん!」

「あ、あぁ…!?どうしたら…!?」

 

 ジャイアントアントにジリジリと追い詰められており誰もが叫んでいた。必死に助けを乞う者、ぜ都央氏発狂寸前の者、子供だけでも何とかしようとする者。そのうちの母娘の姿を見てシリウスが即座に剣を抜いた。

 

「マズいな。行こう」

「そうね」

「こっちは、助けるんだ…」

「こちらは戦う術を持たん一般人だ。放っておく訳にはいくまい」

「助けるのかー?」

「ほんと人間って面倒臭いわね…」

 

 短剣を抜いたエルフィナが先行して一番近くにいたジャイアントアントの頭部に短剣を突き立てた。

 

「ギイイイィィィ!?」

「ギィ!?」

「ギギィ!」

 

 甲殻を貫き一撃で倒れた仲間を見て、周りのジャイアントアントは即座に狙いを御者と客達からエルフィナに切り替えて襲い掛かった。エルフィナ目掛けて群がるジャイアントアントの側面からシリウスは斬りかかった。

 

「ギィ!?」

「シェネドとルジャナは後ろから援護!レネはその人達を守ってくれ!」

「わ、分かった!」

「心得た」

「任せろー」

 

 ターエルにいた頃と違い、蛇腹剣はジャイアントアントの甲殻をいとも簡単に斬り裂いた。何体かはシリウスの方を向き襲い掛かるも後ろからシェネドとルジャナフスクが放ったマジックボルトが命中した。

 

「もっと、凄い魔法でも、いいんじゃないの?」

「あまり強力なものを使えばジャイアントアントが塵一つ残さず消滅する。それにシリウスとエルフィナにも危害が及びかねん」

「シリウスちゃん!ソルジャーアントも来たわ!気をつけて!」

「ああ!」

 

 シリウス達がジャイアントアント達を倒していると平原の向こうからジャイアントアントとソルジャーアントの増援が来るのが見えた。それだけでなくシリウスが見た事が無い魔物も後ろにいた。

 

「コマンダーアント!あれもいるなんて!」

「やっぱりソルジャーアントより強いのか!?」

「そりゃあね!甲殻も硬いし魔法に対して耐性を持ってるから気をつけて!」

 

 ソルジャーアントよりも一回り大きく、分厚い甲殻に覆われているコマンダーアントが短く鳴くとジャイアントアントとソルジャーアントは左右からシリウス達を挟み込むように二手に別れた。

 

「挟み撃ちにする気ね!」

「そちらは我に任せよ【フレイムトルネード】」

 

 ルジャナフスクが杖を振って魔法を唱えると炎の竜巻が生まれ、左側から回り込もうとしていたジャイアントアント達に襲い掛かった。

 

「「「「「ギイイイィィィ!?」」」」」

 

 ジャイアントアント達は宙に浮いて炎に巻かれ、地面に落ちる頃には黒焦げになっていた。

 

「すっげ。後で教えてもらおう」

「流石ね。こっちも負けてられないわ!」

 

 エルフィナは瞬動を駆使して次々とジャイアントアントとソルジャーアントを斬り倒していく。シリウスもエルフィナが撃ち漏らしたソルジャーアントの触角を斬り落とし、痛みで悶え暴れるソルジャーアントの頭部を斬り落としている。シェネドは後ろからひたすらマジックボルトを放ち、レネはシリウスとエルフィナを無視してシェネドや怯える御者と客達に近づいてきたジャイアントアントを棍棒で叩き潰していた。

 

「【ライトニングフォール】」

 

 残った増援もルジャナフスクが放ったライトニングフォールに打たれて地面に倒れた。コマンダーアントは怒ったように牙を鳴らし、ルジャナフスク目掛けて突進してきた。シェネドがマジックボルトを放ち当たっているものの大して効いておらず、ますます怒り狂っていた。

 

「き、効いてないよぉ!」

「問題無い。我に任せておけ」

 

 ルジャナフスクは向かってくるコマンダーアントの前に立ち塞がった。

 

「【エナジーウェポン】」

 

 ルジャナフスクが魔法を唱えると杖の先端から魔力でできた大鎚が現れた。

 エナジーウェポンは魔力で武器を作る中級魔法である。ルジャナフスクがしたように杖の先端から作る事もできれば、手の平から作る事も可能な近接魔法だ。

 

「ふんっ!」

「ギィ!?」

 

 ルジャナフスクはそれで思いっ切りコマンダーアントの横っ面を殴り、コマンダーアントは地面に倒れた。かなりの衝撃でコマンダーアントの牙の一つが折れたが、それでも立ち上がろうとしていたのでルジャナフスクは魔力でできた大鎚を大斧に変化させコマンダーアントの頭部に振り下ろした。硬く魔法耐性を持つ甲殻であったが、ルジャナフスクの怪力もあってコマンダーアントの頭部は斬り落とされた。

 

「何あれかっけぇ!後で絶対教えてもらおう!」

「…ホント、シリウスちゃんって男の子みたいよね」

 

 ルジャナフスクが使ったエナジーウェポンに目をキラキラさせながら大興奮しているシリウスにエルフィナは呆れつつもシリウスらしいと苦笑している。そうしている間にもシリウスとエルフィナは残ったジャイアントアントとソルジャーアントを倒していっている。

 

「これで、最後!」

「ギイイイィィィ!?」

 

 最後の一匹を倒し、周りを確認するがどこにも生き残りはいなかった。

 

「終わったみたいね」

「だな。馬車の人達も全員無事そうだ」

「や、やった…!私も、活躍できた…!これで、立派なハンター…!」

「おおー、お肉がいっぱいだ。取るぞー。今日は焼肉だー」

「この魔物共は剥ぎ取るのか?」

「そうねぇ…コマンダーアントは剥ぎ取るとして…ソルジャーアントは…うーん…それなりには売れるけど…」

「一体分ぐらいなら持てるぞ」

「レネちゃんは肉なら持つぞー」

「我も運べるが?」

「…うん、二体ぐらい剥いでいきましょうか」

「あの…」

 

 倒した魔物をどうするかで話し合っていたら御者が恐る恐るエルフィナに声を掛けてきた。

 

「ああ、ほったらかしにしてごめんなさいね」

「い、いえいえ!助けていただいてありがとうございます!おかげさまでお客さんも全員無事でした!ただ…」

 

 御者はジャイアントアントによって壊された馬車と痛々しい傷跡がある馬の死体を見て顔を俯かせている。シリウス達は今いる場所はフォドロンからおよそ一日半ほどの位置でアールレディアとほぼ中間の位置だ。御者と客達は行こうと思えばどちらの町にも行けるが、先ほど盗賊と魔物に襲われたばかりで道中また襲われるのではと不安でいっぱいだった。そして彼らの目の前には先ほど魔物を討伐したハンターがおり、期待してしまうのは当然であった。

 

「その…助けていただいてこんな事を言うのは気が引けるのですが…えっと…」

「何かしら?言ってもらわないと分からないのだけれど」

「…どうか我々を護衛していただけないでしょうか?また盗賊や魔物に襲われるのではと思ってしまって…」

「それならさっきの貴族に助けを求めたら?」

「いえ、あの貴族の方は、その、悪い方に有名でして…対価に何を言われるか…あっ、ほ、報酬の方は私から皆さんを説得しますので、何卒…!」

 

 エルフィナは御者が言う前から何が言いたいのか分かっていたが、初めから依頼で護衛するならともかく、準備も無い状態での護衛は難易度が上がるので敢えて突き放したような話し方をした。

 

「うーん…皆はどう思う?何の準備もしていない状態の護衛はかなり難しいけど」

「私は構わないけど。今日と明日だけなら何とか」

「私は、どっちでも…」

「んー?食料ならまだまだいっぱいあるぞー」

「我もどちらでも構わんが…我らを雇う報酬はどれだけ出すつもりだ?」

「あ、え、えっと…み、皆さんと相談してきます!」

 

 御者は命の危機が去って安心して座り込んでいる客達の元に走っていった。

 

「別に報酬とかいらないけど」

「駄目よ。その辺はちゃんとしておかないと後々後悔するわよ」

「護衛ともなると前後左右と人員を配置するのは基本だが、我らは数が少ない故に前後だけを固めるでよかろう」

「そうね。ルジャナとレネが前、私とシリウスちゃんとシェネドが後ろかしらね」

「お待たせしました!」

 

 御者は客達を説得し報酬を集めてきてエルフィナに差し出した。客達も命には代えられないとそれぞれ出せるギリギリまで金を出したのだ。

 

「10000リクル入っております。少ないですがこれで何卒…!」

「相場より少ないけど…まあ、いいでしょう」

「おお、ありがとうございます!」

「早速で悪いけど出発するわ。暗くなる前に野営地に着かないと」

「我が先頭に立つ。付いてまいれ」

 

 エルフィナの言葉を聞いて御者と客達は荷物を持って立ち上がり、ルジャナフスクとレネの後を追って歩き始めた。シリウス達も客達の最後尾と共に歩き出し、一行はアールレディアへ向かった。

 

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