転生したらママになりました。   作:大神降ろし

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第百四十四話

 

 アールレディアへ向かう道中で盗賊に襲われ掛けて、魔物に襲われた乗り合い馬車の御者と客達を助けたシリウス達。彼らからの直接の依頼でアールレディアまで護衛する事になったので客達の前後を固めて歩いている。今はフォドロンとアールレディアの中間の野営地に向かっている。

 

「いやぁ、あんた中々やるな!俺もよぉ!若い頃ハンターをやってたんだけどな!その時はバリバリだったんだぜ!盗賊とか魔物を千切っては投げ、千切っては投げの大活躍よ!怪我で引退しちまったけどその時の勇姿をあんたにも見せたかったぜ!」

「はあ…」

 

 その道中でシリウスは乗り合い馬車の客の一人の男にやたらと話し掛けられていた。自身の過去をこれでもかと自慢しており、シリウスは怪訝な表情をしながら生返事をしている。シェネドは大声を上げながらグイグイくる男に怯えてシリウスとウェズンの陰に隠れ、エルフィナは目が笑っておらず威圧感を男に叩きつけているが、男はシリウスに夢中で効いていなかった。

 男はシリウスを一目見て気に入り、何とかして手に入れようと自身の過去を盛りに盛って自分に興味を持たせようとしている。男は確かにハンターではあったが万年六級のハンターで魔物との交戦も数えるほどしかなく、その戦いもビビりにビビッて泣き喚きながらただ我武者羅に剣を振るっただけで魔物は仲間が倒しただけだった。無理矢理も一瞬考えたがシリウスの実力も高く、さらに周りにいるエルフィナとルジャナフスクの実力も考えると返り討ちに合うのが関の山と考えを放棄してシリウスをナンパする事に集中している。既に男の中では手に入れた後の事ばかり考えられており、あられもない姿のシリウスが脳内に映し出されていて興奮していた。

 何やら興奮し出して鼻息も荒くなっている男にドン引きしているシリウスは視界の端に男の下半身の一部が見えた。見えてしまった。その瞬間シリウスは男を汚物を見るような目で見始め、男の様子に気づいたエルフィナも笑顔を消して本格的に排除しようと短剣に手を伸ばし始めたが、それよりも先に動いたものがいた。

 何やら寒気がし出した男がシリウスの方を何気なしに見るとシリウスの背後にほんの一瞬だが、半透明の巨大な狼が男に牙を剥きながら睨んでいる姿が見えた。

 

「ひぃっ…!?あ、あはははは…!い、いやー、不安を紛らわすためとはいえ色々と話し掛けちゃって悪かったな!」

 

 男はもっともらしい言い訳をしだしてイソイソとシリウスから距離を取って前の方に逃げていった。

 

「キッモ」

「本当ね。ごめんねシリウスちゃん。もっと早く追い払えばよかったわ」

「いいよ別に(何で急に離れたんだろうか…私を見たっていうより少し外れたような…後ろ?私の後ろにはシェネドだけだが…ん?ああ、いや、もしかして…カノプス、お前か?)」

 

 シリウスが自分の内側にいるカノプスに意識を向けると鼻を鳴らしながらそっぽを向くカノプスを感じた。

 

「ふふっ、そうか。ありがとな」

「シリウスちゃん?」

「カノプスが助けてくれたみたいだ」

「カノプス?…ああ、召喚魔法の…え?シリウスちゃんが呼び出さなくても出てこれるの?」

「さあ?一瞬だけなら姿ぐらい見せられるんじゃないのか?」

 

 ナンパ男が離れたので怯えていたシェネドも安心したようにシリウスの隣に移動し、唸って威嚇していたウェズンとハダルとリゲルもようやく落ち着いた。乗り合い馬車の客達の中には子供や老人もいるので歩みは遅かったが、日暮れ前には野営地に何とか辿り着いた。今回の野営地は川のすぐ傍で水の補給は容易いものの川に住む魔物の狩場や魔物の水飲み場でもあるので危険な場所だが、ルジャナフスクの結界があるのでエルフィナはここを選んだ。客達は疲れ切っていて持っていた荷物を下ろして休憩しており、その間にシリウス達は天幕を張り焚き火をおこして夕食の準備に取り掛かっていた。

 

「えーっと、ひぃ、ふぅ、みぃ…大人五人子供一人。よし」

「レネよ。まさか全員分の夕食を作る気か?」

「え?違うのか?」

「レネ、別にそこまで気を回さなくてもいいのよ。彼らだって食料は持ってるんだから」

 

 御者と客達を助けた時からレネは全員分の夕食を作る気満々でいて、その時からずっと夕食の献立を考えていた。エルフィナとルジャナフスクに言われたレネは夕食の準備を一旦止めてシリウスの方を向いた。

 

「(何で私を見る)レネは料理を食べてほしいのか?」

「そうだぞ。皆疲れてるからレネちゃんの料理を食べたら元気になるぞ」

「そっか…なら私も手伝うか」

「シリウスちゃん、本気?」

「疲れてる人達のためにレネが作りたいって言ってんだ。それを手伝うのも友達だしね」

 

 ポラリス達をエルフィナに預けてシリウスはレネと一緒に夕食の準備に取り掛かった。

 

「もう…シリウスちゃんは甘いんだから」

「はぁ…まあ、よかろう。悪い事でもあるまい。好きにさせておこう」

 

 口では呆れたように言うエルフィナとルジャナフスクだが、シリウスとレネを見る目は優しいものだった。御者と客達はそれぞれ荷物から毛布を取り出したり、夕食である干し肉とパンを取り出して食べたりしており、美味しそうな匂いを漂わせながら夕食を作っているシリウスとレネの方を羨ましそうに見ていた。

 

「…うん。良さそうだな。こっちはできたぞ」

「レネちゃんもできたぞー。ご飯の時間だー」

 

 今日の夕食は昼間に大量に獲れたジャイアントアントの肉の串焼きと野菜とソーセージがゴロゴロ入った温かいシチューとパンだ。レネはシリウス達に夕食を配った後、御者と客達の方を向いて首を傾げている。

 

「食べないのかー?」

「「「「「え?」」」」」

「ん?」

 

 お互いキョトンとした顔で見つめ合っていたが、子供がおずおずとレネに近寄った。

 

「食べて、いいの?」

「いいぞー。器持ってこーい」

 

 子供は笑顔になり、母親の所に戻って器を持って母親の手を引いて戻ってきた。レネは母親と子供の器にたくさんシチューをよそって串焼きも渡した。その様子を見ていた他の者達も自分もと器を持ってレネの元にやってきた。

 

「うめえ!」

「こんなに美味いもの食べた事無い!」

「美味いのぉ。身体に染み渡るわい」

「美味しい!えっ!?使ってる食材はその辺で売ってる物なのに何でこんなに美味しいの!?」

「おお!こんなに美味しいのは初めてですぞ!」

「美味しいねお母さん!」

「ええ、本当ね。いっぱい食べなさい」

「まだまだあるからお代わりも自由だぞー」

 

 美味しいそうに食べる御者と客達を見てレネは満足そうに頷いている。美味しい夕食をお腹いっぱいに食べて御者と客達は笑顔でお腹を擦り、その様子を見たレネは嬉しそうにポカポカな雰囲気を出しながら片づけをし、そのレネの様子を見てシリウス達も微笑ましそうに笑っていた。結界もあるので御者と客達は魔物の心配をする事無く毛布に包まって眠り、シリウス達もそれを見届けた後天幕に入って眠った。

 翌朝、起きた御者と客達にも朝食を振る舞い、食べ終わると天幕を片づけて出発した。その日は幸いにも道中で盗賊や魔物と出くわす事無く歩き続ける事ができた。シリウス達だけならその日の夕方にはアールレディアに着いていたが、客達の中に老人や子供もいたので安全面を考慮して途中で野営する事にした。

 そして翌日の昼前にようやくアールレディアが見えてきた。

 

「あ!見えた!お母さん!見えたよ!」

「ええ。やっと着いたわね」

「盗賊に出くわし、魔物に襲われた時はどうなるかと思ったわい…」

「思わぬ出費があったが…いや、命が助かっただけマシだな」

「随分時間掛かっちゃった。パパとママ、心配してるかなぁ…」

「着いたら組合に事情を説明して、それから…はぁ…今から頭が痛い…」

「…なあ。ここから見えるだけでも相当デカくない?」

「そりゃあ王都よりも大きいからね。オルティナ王国最大の都市にして世界最大級の交易都市でもあるし。住んでる人も多分王国で一番多いと思うわ」

「ふへー…」

「…あそこがあのように大きくなるとはな。時代の移り変わりというものは早いものだな」

「おー、おっきいなー」

 

 アールレディアまではまだ距離はあるがそれでも分かるぐらいの大きさを誇っており、シリウスとシェネドは驚いていた。ここまで来れば魔物の襲来もほとんど無く、巡回の兵士もいるので御者と客達も安心して歩いている。アールレディアが見えた丘から歩く事一時間、ようやく門まで辿り着いた。検問の列に並び順番を待ち、三十分ほどで順番が回ってきた。

 

「次の者。身分を明かせる物は?」

「こちらです」

「ふむ…ん?乗り合い馬車組合?馬車はどうした?」

「それが、ここに来る途中で魔物に壊されてしまい…」

「なんと…災難であったな。後ろの者は客か?」

「はい」

「では身分を明かせる物を」

 

 客達は身分証を門番にそれぞれ見せて二、三質問を受けた後町に入っていった。

 

「それにしてもよく無事だったな」

「偶々こちらのハンター様達に助けていただきまして」

「ほう、ハンターに…ふむ…」

 

 門番はシリウス達を一人一人観察するように見てきた。

 

「何か?」

「いや、失礼。最近問題行動を起こすハンターが増えてきてな。ところでつかぬ事を聞くが、いくらで護衛を?」

「10000リクルよ」

「…なるほど重ね重ね失礼した。法外な報酬を要求する悪徳な者もいてな。念の為だ。ペンダントも確認した。通ってよし」

 

 許可を得たのでシリウス達はアールレディアへ入っていった。

 そこには多種多様な種族が行き交っており、違う種族でもにこやかに話し合う姿がそこら中で見られた。アールレディアは〈全種平等〉の理念を掲げており、アールレディアの領主、クルフォール公爵は先祖代々その理念を忠実に守り続けている。種族が違えば文化も違い、住む環境も異なっているのでアールレディアの町は木造や石造やレンガ作りが入り交じり、サイズも大中小、デザインも種族毎に異なり、多種多彩な住居が建ち並んでいる。人間の隣にウェアウルフとミノタウロスが住んでいたり、ジャイアールとケンタウロスが談話していたり、ウルスとボアルスとコボルトの子供が遊んでいたり、ドワーフとドラゴニュートが一緒に酒を飲んでいたり、エルフとポックルが並んで歩いていたりと平和な光景が広がっていた。もちろん他種族で文化の違いで喧嘩になる事もよくある事で今もシリウス達から少し離れた場所でレオネスの男とレパルドの男が些細な口論から壮絶な殴り合いに発展していた。周りにいる人達はこういう事は慣れており、巻き込まれないようにすぐに離れて様子を伺い、中には喧嘩を肴に酒を飲んだり、野次を飛ばす者もいる。喧嘩は警邏が来て両者の頭に拳骨を落として気絶するまで続けられた。アールレディアの兵士はこういった他種族との喧嘩の仲裁をよくするため他の町とは違い一人一人かなりの強さを誇っている。気絶した二人はそのまま警邏に連れていかれて、野次馬達も解散し喧嘩をして荒れた場所は周りの人達が慣れた手付きで片づけていた。

 

「凄いな…」

「ほへー…」

「多種多様な種族がいるな。このような光景は他では見られんだろう」

「おー、色んなのがいるぞー」

「ここがアールレディアよ。世界中から色んな種族が集まる場所。ここでは迫害や排斥は起こらないから行く当ての無い人達が安寧を求めてやってくるわ。人が増える毎に増築が繰り返されて今ではオルティナ王国最大の都市になったわ。今も増築は続けられてるからそのうち世界最大の都市になるのもそう遠くは無いわ」

「いやはや!こうやってここまで来れたのはあなた方のお陰です!本当にありがとうございました!」

「いいのよ、気にしないで。それじゃあ気をつけてね」

 

 御者と客達はシリウス達に頭を下げてそれぞれの目的地へ向かっていった。シリウス達は取りあえず宿を取るために歩き始めた。

 アールレディアの道はかなり大きく取られていて馬車が四台は並んで通れるほどあるが、人通りがとても多いので半分は実質歩行者用になっている。人混みに流されたら迷子になるのは確実なのでシリウスはウェズンの手綱をしっかりと握ってすぐ傍に付き、シェネドはシリウスの真後ろに陣取って服を掴んでおり、ルジャナフスクは物珍し気にあちこちを見ているレネの腕を掴んで一人で勝手に行動しないようにしている。宿屋だけでも多数あり、その中から人間用の宿屋を探すのは中々骨が折れそうだった。

 

「こりゃあ探すのも一苦労だな」

「そうね。前来た時から結構時間が経ってるから、私がその時に泊まった宿屋がまだやってるか分からないしね。まあ、まだ時間はあるし観光がてらゆっくり探しましょう」

 

 シリウス達が今歩いている所は露店が多く並んでおり、商品を見たり、値段交渉をしている客達がごった返しており、シリウス達も並べられている商品を眺めながら歩いている。

 

「へー、色んなの売ってるな」

「ふわぁ~、これ綺麗です~」

「…ん?」

 

 どこかで聞いた事のある声が聞こえてきたシリウスは声のした方を見てみるとそこにはハルピュイアの女が露店の装飾を見ていた。通常のハルピュイアは顔の彫りが深く結構濃い顔をしており、女でも人間から見たら美人とは中々言えない見た目をしているが、そのハルピュイアの女はシリウス達がここに来るまでに見たハルピュイアよりも美しくエルフのように耳が尖っていた。

 

「う~、でも高いです~。安くしてくださ~い。具体的には端っこの0を無くしてくださ~い」

「あんた、値切りの才能は無いね…駄目に決まってるだろ。帰んな」

「うぅ…駄目でした~…ピナレスみたいにはいきませんでした~…」

 

 ハルピュイアの女は肩を落として露店を離れてトボトボと歩き出した。シリウスはウェズンの手綱を横にいたエルフィナに渡してそのハルピュイアの女に近づいていった。

 

「シリウスちゃん?」

「はぁ~…シリウスさんもまだ来ないし…最近良い事何も無いです…」

「そんな悲しい顔をしなくてもいいだろ?」

「あぁ…ついに幻聴まで聞こえてきました…私ったらダメダメです…」

「幻聴じゃないっての。いいから後ろ向け」

「後ろ?」

 

 ハルピュイアの女は後ろを振り返ると視界にシリウスが映し出された。

 

「フィール、久しぶり。元気だったか?」

「―――」

「おーい?どうした?」

「シ"リ"ウ"ス"さ"ん"!」

「ぬおっ!?」

 

 シリウスがブーナガストで助けた元奴隷の一人、エルフとハルピュイアのハーフであるフィール・ニーレディに声を掛けるとしばらく固まっていたが、再起動した瞬間ブワッという音がしそうなほど号泣しながらシリウスに抱き着いた。

 

「う"わ"~ん"!け"ん"か"く"し"ゃな"い"て"す"~!や"っと"あ"え"ま"し"た"~!」

「ちょっ!?お、落ち着け!このままだと―――」

「ふえええぇぇぇ…」

「びえええぇぇぇ!」

「ひぅ…!?」

「ほーら泣き出した!ポラリス~、アトリア~、スピカ~、大丈夫だよ~。ほら、フィールも泣き止めって」

「う"わ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ん"!」

「…駄目だこりゃ」

 

 ポラリス達をあやしているシリウスだが、フィールはどうしようもないと諦めて泣き止むのを待つしかなかった。シリウスの事情をある程度知っているエルフィナは何となくあれ関係かなと思い、シェネドは只々オロオロして、ルジャナフスクはシリウスの知己かと収まるまで静かにし、レネは首を傾げていた。

 

「落ち着いたか?」

「グスン…はい」

「そうか。そろそろ放してくれ」

「ヤです!」

「ぬおっ!?ぐ、ぐぬぬぬ…!」

 

 数分後、ようやく泣き止んだフィールはシリウスに強く抱き着いているフィールは羽だけでなく足も使ってシリウスに抱っこ状態になって抱き着き、シリウスは慌ててフィールを抱き留め、たたらを踏みながらも何とか持ち堪えた。その間フィールは満面の笑みでシリウスに抱き着き頬擦りまでしている。

 

「シリウスちゃーん、そろそろ説明が欲しいなー」

「だ、抱き着いてる…」

「知り合いのようだな」

「んー?誰だー?」

 

 何となく察してるが今の状況を面白くなく圧を感じる笑顔をするエルフィナにシリウスに抱き着いているフィールにショックを受けているシェネドに対して、ルジャナフスクは冷静にシリウスに尋ね、レネは呑気に首を傾げていた。

 

「はぁ…エルフィナには話しただろ。ブーナガストの事だ。そこで少し前にちょっとあってな」

「ちょっとじゃありません!シリウスさんは私達の命の恩人なんですから!あっ!皆もいますよ!早く会いましょう!こっちです~!」

「あーれー…」

「あ、ちょっ…もう。まだ聞きたい事があるのに」

「あ、し、シリウス…!ま、待って…!」

「連れていかれたな」

「待てー。シリウスを返せー」

 

 エルフィナ達はフィールに連れていかれたシリウスを追っていった。

 ハルピュイアは腕が羽になっているが、フィールは器用に羽の先端でシリウスの手を握ってニコニコしながらどこかへと連れていこうとしている。シリウスの手を優しく引っ張るフィールにシリウスは抵抗する事無く引っ張られている。共に過ごした時間は短く、まだどういう人となりかは完全に把握していないが、今のフィールから感じられる雰囲気からフィールが善人なのは分かっているのでシリウスは好きにさせており、握られている羽を握り返すとフィールはシリウスの方を見て嬉しそうにはにかんでいる。

 フィールに連れられてシリウスがやってきたのは柱と屋根だけで壁が無い東屋のような場所だった。アールレディアは多種多様な種族がおり、人口も多いのでこういったちょっとした休憩所が至る所に作られていた。

 

「皆~!大変、大変ですよ~!」

「ん?フィールじゃないか。どうい…あっ!?シリウス!」

「えっ!?シリウス!?どこどこ!?」

「ほ、本当に!?ちょっ!?か、髪とか乱れてない!?」

「やっと来たな!おせえぞ!」

「そうだ!待ち草臥れたぞ!」

「こっちから迎えにいこうかって言うぐらい待ったぞ!」

「本当に来たんだ…」

「だから言ったろ?シリウスは必ず来るって」

「おやおや…皆さん、嬉しいのは分かりますが少し落ち着きましょう」

「そうだな。見ろ、赤子が泣いてるぞ」

 

 かつてシリウスが助けた元奴隷の皆はシリウスにまた出会えて嬉しさを爆発させているが、その大声でポラリス達がびっくりして泣いてしまった。

 

「ふえええぇぇぇ…」

「びえええぇぇぇ!」

「うぅ…」

「よ~しよし。大丈夫だよ~」

「あちゃー…やっちまった…」

「うるさくし過ぎたな…」

「もう大丈夫ですよ~。ほ~ら、こちょこちょ~」

 

 シリウスがあやし、フィールが羽でポラリス達を撫でて泣き止ませようと試みていた。その甲斐あってポラリス達は泣き止み、フィールの羽を気持ち良さそうにしていた。

 

「シリウスちゃーん。私は聞いたからある程度は分かるけど、シェネド達はチンプンカンプンよー」

「ん?ああ、そういや言ってなかったな。実はな…」

 

 シェネドとルジャナフスクとレネには説明していなかったので改めてブーナガストでの出来事を話した。

 

「し、シリウス…そんな事してたんだ…」

「中々綱渡りな事をしたな」

「助けた事は良い事じゃないのかー?」

「我らから見れば違法な事でも貴族が絡むと合法になるのはよくある事だ。そのような事をされれば貴族から見れば顔に泥を塗られたと感じても不思議ではない。その貴族の規模にも寄るが、報復として刺客が送られるのはほぼ確実だ。その刺客は現れたのか?」

「ああ。ルーデニックとテトラニーアと王都でな。ルーデニックの方は上手い事撒いてきたが、テトラニーアでちょっと一戦やり合っただけ。王都は中々の騒ぎになったな」

「あれね。〈人食い〉とか裏組織とかも絡んできて、大変だったわね。それでその後にシェネドと会って、刺客達も全員倒したわね」

「そちらにも来たのか」

「やっぱりそっちにも?」

「ああ。アールレディアの近くで追いつかれてな。何とか時間を稼いで警備隊に助けてもらった」

「そっか。無事で何よりだよ」

 

 シリウスは皆と会話していたが、ふとエルフィナ達に紹介していなかったと思い立った。

 

「そういや、ちゃんと紹介してなかったな」

「そういやそうだったな」

「シリウスはー、私達全員の名前、覚えてるー?」

「当たり前だろ。じゃ、端っこから…ラーゼル・エルザンド」

「うむ」

 

 ウェアウルフとリザードマンのハーフであるラーゼル・エルザンドは優しく微笑みながら静かに頷く。

 

「フィール・ニーレディ」

「はい!えへへ~」

 

 エルフとハルピュイアのハーフであるフィール・ニーレディは嬉しそうにはにかんでいる。

 

「イグロイ・ディナード」

「へっへっへ!おう!」

 

 リザードマンとミノタウロスのハーフであるイグロイ・ディナードは照れくさそうに鼻の下を擦っている。

 

「ベナレット・イーニア」

「ふ、ふんっ。一応覚えていたようね」

 

 ジャイアールとエルフのハーフであるベナレット・イーニアは頬を赤くしてそっぽを向いている。

 

「ハルマス・ライジェット」

「おうさ!」

 

 ドラゴニュートとケンタウロスのハーフであるハルマス・ライジェットは爽やかに笑っている。

 

「ピナレス・フェンフット」

「そうだよー」

 

 ポックルとケットシーのハーフであるピナレス・フェンフットは朗らかに笑っている。

 

「ヨジェット・ハンレフ」

「へへへ、覚えてくれてるなんて」

 

 コボルトとドワーフのハーフであるヨジェット・ハンレフは照れながら頭の後ろを掻いている。

 

「バロッド・カーバンド」

「私達の事なんて覚えてても仕方ないのに…変な子ね」

 

 バフォメットとナーガのハーフであるバロッド・カーバンドは悲観的な発言をしながらシリウスをただ見つめている。

 

「ディラール・ウェルフラント」

「そうだ!覚えててくれてありがとう!」

 

 二足歩行の馬の種族であるローシャンと人型の鳥の背中に羽が生えている種族であるフォッゲルのハーフであるディラール・ウェルフラントは熱く答えながらお礼を言っている。

 

「ヘイゼル・イヴェロア」

「いやぁ~、覚えててくれるっていうのは嬉しいもんだなぁ」

 

 ボアルスとゴリオンのハーフであるヘイゼル・イヴェロアはヨジェットと同じように照れて頭の後ろを掻いている。

 

「ムツキ・カルメット」

「ふ、ふふふ…ウチを覚えてくれてるなんて嬉しいわー」

 

 ルナールとラビニーのハーフであるムツキ・カルメットは手で口元を隠しながら笑っている。

 

「ホウルクァンド・バルベルデ」

「そうだぜ!嬉しいぜ!」

 

 フォッゲルとウルスのハーフであるホウルクァンド・バルベルデは両腕を上げて喧しく吠えている。

 

「コルベック・ダリントン」

「そうだ!やったぜ!」

 

 ミノタウロスとボアルスのハーフであるコルベック・ダリントンはホウルクァンドと同様両腕を上げて喧しく吠えている。

 

「オヴェル・ガーディリー」

「おいおい!俺も覚えてくれてるのか!」

 

 レパルドとピテクスのハーフであるオヴェル・ガーディリーは大口を開けて笑っている。

 

「アスティード・フェイルノー」

「ハッハッハ!そうだぜ!」

 

 レオネスとローシャンのハーフであるアスティード・フェイルノーは歯を剥き出しにして笑っている。

 

「フログレス・ステイラー」

「ええ。ふふ…中々嬉しいものですね」

 

 ゴリオンとフーレンのハーフであるフログレス・ステイラーは静かに微笑んでいる。

 

「コースター・ハルトマー」

「ほっほっほ。おでの事も覚えでぐれでるんだなぁ」

 

 ラクーンとジャイアールのハーフであるコースター・ハルトマーは大きなお腹を揺らしながら笑っている。

 

「サリーナ・ヴァイツェル」

「そうですよ。ふふっ、嬉しいです」

 

 ラビニーとレパルドのハーフであるサリーナ・ヴァイツェルは笑顔でシリウスを見つめている。

 

「フーレ・オ・ス・レッテ」

「お、おいらも覚えてくれてるなんて…何かすまねえな」

 

 唯一半人ではないエレファールのフーレ・オ・ス・レッテは申し訳なさそうに大きな身体を小さくしている。

 

「最後にレーディ」

「ああ」

 

 エルフとハルピュイアとミノタウロスとドラゴニュートの世界で唯一のクォーターであるレーディは口角を少し上げてシリウスを見つめている。

 全員の名前を言い切ったシリウスに皆はそれぞれ反応は違うものの嬉しそうにしていた。ブーナガスト近郊の廃村で立てた約束は数ヵ月経ってようやく果たされた。

 

 

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