アールレディアに到着して観光しながら宿屋を探していたシリウス達は、シリウスがかつてブーナガストで助けた元奴隷達と再会した。今は互いに自己紹介をしている。
「んじゃ、次はこっちだな」
「なら私から。私はエルフィナ・ノーゼルよ」
「し、シェネド・ノラ…」
「我はルジャナフスク・キイラ・エルヴェドーンである」
「レネちゃんはレネ・フォンテだぞー」
「ルジャナはそっちでいいのか?」
「構わん。シリウスの知己なのであろう?なら教えても支障はない」
「エルヴェドーン…確か数百年前に没落した伯爵家がそのような名前だったはずですが…」
「左様。我の事である。故に普段はルジャナ・ドーンとしておる」
「なるほど。承知しました」
「フログレス、どういう事だ?」
「俺、よく分かんなかった」
「何で名前が二つあるんだ?」
「つまり、彼の本当の名前の方を知られると些か面倒な事になるやもしれないので普段はルジャナ・ドーンと呼ぶようにと言っているのですよ」
「なるほど!」
「分かった!」
「そういう事か!」
「…本当に分かってるのか?」
「ふふふ、まあ大丈夫ですよ」
返事だけはいいホウルクァンドとコルベックとオヴェルに一抹の不安を抱いたシリウスだが、フログレスは微笑みながら大丈夫と言ったので信じる事にした。
「後はこの子達だな。この子がポラリス。アトリア。スピカ。カペラ。ウェズン。ハダル。リゲルだ。私の大事な子供達だ」
「う~?」
「あーい!」
「ぅぅ…」
「(プルプル)」
「ヒィン」
「シャー」
「ワン!」
シリウスがポラリス達を紹介するとポラリスは首を可愛らしく傾げ、アトリアとリゲルは元気いっぱいに返事をし、スピカは知らない人がいっぱいで怖くてシリウスの背中に隠れ、カペラはウェズンの頭の上で元気よく跳ね、ウェズンはカペラを落とさないように嘶き、ハダルはリゲルの頭の上で返事をした。
「可愛いです~!」
「あらまあ、可愛らしい子達やねぇ」
「魔物も子供にしてるのか?」
「そうだが?」
「シリウスは相変わらず変わってるねー」
「それは私が変人だって言いたいのか?」
「え?違うのか?」
「ちが……………わないな」
反射的に違うと言い掛けたシリウスだが、今までの行動を客観的に見て、エルフィナ達の反応を思い返してみると違わないように思えてきた。
「違わないんだ…」
「そりゃあ傍から見れば自分がやらかしてる事ぐらいは分かるさ。改める気は無いけど」
「ハッハッハ!シリウスはそれでいいさ!」
「そうそう!それで俺達も助かったんだからな!」
「応さ!シリウスはそのまま変人でいろよな!」
「誤解を招くような言い方をするんじゃない」
「「「ハッハッハ!」」」
ホウルクァンドとコルベックとオヴェルに背中と肩と頭をポンポンと叩かれているシリウスは物言いに苦言を呈しているが、三人は笑っているだけだった。
「それと…ピーニ、出てきていいぞ」
「あら、いいの?」
「大丈夫だ。皆は信用できる」
シリウスに言われてピーニがカバンの中から出てきた。
「ほう、妖精か」
「昔はあちこちにいたそうですが、今ではフェアンダリアの奥地にしかいないそうです」
「へー、初めて見た」
「こんなちっこいのがいるのかー」
「あらまあ、小さいなぁ。ベナレットとか気をつけな、潰してしまうかもなぁ」
「潰さないわよ!」
「妖精の羽って錬金術の材料になるし、高く売れるんだよねー」
「ピナレス、止めろ」
「そうですよ。シリウスさんは我々を信じて彼女の事を教えてくれたのです。その信用を損ねてはいけません」
「ごめん」
「いいよ別に」
素直に謝ったのでシリウスも許し、ピーニも特に気にしていないようだった。
「ヘッヘッヘ!今日は良い日だな!」
「そうだな!祝おうぜ!」
「さんせー!」
「腹いっぱい食いてえな」
「あまり手持ちに余裕は無いのですが…まあ、こういう日ぐらいは構いませんか」
「ふっ…ではどこでやる?」
「あー…俺達全員が入れる飯屋…」
「俺達はまあいいとしても、ベナレットとコースターとフーレとレーディがなぁ…」
「店によっては入れてもくれないしね…」
「店が壊れるからって、私が何したっていうのよ!」
「んだなぁ…おわ、壊すつもりねえのに…」
「うぅ…ご、ごめんよぉ…」
「私は、別に気にしてない」
「パーティーするのか?ならレネちゃんがご飯を作るぞー」
「あー…それもあり、か?」
「確かにいっそ自分達で飯を作るのもアリっぽいな」
「でもええの?うちら、人数も多いし、ようけ食うのもおるよ?」
「レネちゃんに任せろー」
「なら俺も手伝うよ」
「あ、えっと…ぼ、僕も…」
「ならレネとヘイゼルとフーレと私で料理を作るとして…場所はどこでする?」
「ここでしたら駄目なのかな?」
「どうだろうな…あっ、警邏だ。ちょっと聞いてくるわ」
パーティーを開く場所で悩んでいたらそこにちょうど警邏が通りかかったのでハルマスが聞きにいった。二、三話したと思ったらすぐに戻ってきた。
「いいってさ。ただ火元に気をつけてちゃんと後片付けはしろって」
多種多様な種族が住んでいるアールレディアでは食事処で宴をするには建物が小さくて全員が入りきらないという事が間々あるので、こういう東屋で宴をするというのは珍しい事ではなく火元の注意と後片付けさえすれば簡単に許可してくれる。
「まあ当然だな。よし、場所も確保できた」
「それじゃあ手分けして食材を買いにいくか」
「私も行きます!」
「俺も俺も!」
「肉!肉が食いてえ!」
「酒も!」
「うちは魚がええなぁ」
「新鮮なお野菜を!」
「あー、君達。少し落ち着きなさい」
次々と要望が出てフログレスが落ち着かせてから、買い出し班を組み分けして送り出した。
「そういえば皆さんは今夜の宿はお決まりですか?」
「いや、まだだ」
「人間用の宿屋を捜してる最中なの」
「この町は広いですからね。しかも入り組んでいる所もありますし、ここで暮らしている人でも迷子になる事は珍しくないそうですよ。みんなが戻ってくるまでまだ時間はありますし、良ければ案内しますが?」
「本当?助かる」
「決まったら教えてねー」
「オイラ達はここで待ってるぜ」
留守番役のイグロイとピナレスとレーディに見送られ、シリウス達はフログレスに付いていった。先ほどの東屋から中くらいの通りを五分ほど歩き、そこから路地に入ってさらに五分ほど歩いた所に宿屋があった。
「ここですね。〈海の灯火〉という名前で人間用の宿屋ですが、食堂はどの種族でも入れるので結構人気の宿屋です」
「へー」
「こんな所があったなんて知らなかったわ」
「クンクン…美味しそうな匂い」
「ここであれば先ほどの場所からもほど近い。通りからも然程離れていない故に治安の方も良い方に入ろう」
「ここに泊まるのかー?」
シリウス達は〈海の灯火〉に入ると左手の食堂の奥の厨房から良い匂いが漂ってきた。
ルジャナフスクの言った通り、通りからも離れていないためここを選ぶ人も少なくない。アールレディアは様々な種族が集まり、その中で諍いも頻繁に起こるため警邏は他の町と比べてかなり多くいるが、それでも広大な町全てをカバーできず、路地裏など寂れた場所では良からぬ事を考える者が少なくない。通りから離れれば離れるほどそういう者は多くおり、アールレディアを治める者達も頭を悩ませている。
「いらっしゃーい!泊まり?食事?」
「泊まりよ。三人部屋と二人部屋一つずつあるかしら?」
「あるよー。一人一泊1000リクルだよー」
「んー…どのくらいにしとく?」
「それなりにいるつもりだけど…うーん…」
「…取りあえず七日ぐらいにしときましょうか。はいこれ」
「あいよー。三人部屋は二階の奥ねー。二人部屋はその向かいだよー。鍵はこれねー。食事は外か食堂でー、洗濯は一階の奥の井戸でねー」
間延びする独特な話し方をするポックルの店主から鍵を貰って部屋へ向かった。部屋は人数分のイスとテーブルとベッドと棚の基本セットの他に花瓶に花が生けられていた。やや奥まった所にあるので窓からの景色は建物しか見えないが、ちょうど三人部屋の下に厩舎が見える。シリウス達は荷物を置き、必要な物だけ持って部屋を出て宿屋の外で待っていたフログレスとウェズンと一緒に先ほどの東屋に戻った。
東屋では残ったイグロイとピナレスとレーディがパーティーの料理を作るための焚き火の準備をしていた。
「おーう、お帰りー」
「こっちは問題無かったぜ」
「宿はどこに…?」
「〈海の灯火〉ですよ」
「ああ、あそこか!あそこの飯も美味いんだよな」
「へっへー。今度遊びにいってやろー」
「ん?ああ、いつでも来い。レーディもな」
「…私も、いいのか?」
「もちろん」
「う~?」
「おー…」
「…ぅ…?」
「(プルプル)」
「ブル?」
「シュー?」
「ワフ?」
シリウスとレーディが話していたらポラリス達がレーディをジッと見つめていた。ポラリス達は今まで人間以外の種族に会った事が無く、ここに来るまでの間ずっとあちらこちらをキョロキョロと眺めていた。その見てきた中でも見た事が無い四つの種族が混じっているレーディを物珍し気に見ていた。
レーディの見た目は顔はエルフだが、右顔面がドラゴニュートの鱗で覆われており、左顔面の目の周りには羽毛が生えている。右腕はドラゴニュート、左腕はミノタウロスとなっており、背中には一対の大きな翼が生えている。本来ならハルピュイアであれば腕が羽になるのだが、レーディの場合は背中にハルピュイアの要素の大半が集中しており、腕には羽毛が少し生えているだけだった。ドラゴニュートの尻尾が生え、右足がミノタウロス、左足がドラゴニュートと腕とは逆になり、服で隠れているが胴体はミノタウロスの獣毛やドラゴニュートの鱗やハルピュイアの羽毛が混ざって生えている。
レーディもポラリス達の視線に気づいているが、自分の異様さを理解しているので目を合わせれば泣くと思い視線を合わせようとしなかった。ポラリスとアトリアはジッと見ていたと思ったら徐にレーディに手を伸ばし始めた。
「お?ふふ、どうやらレーディに興味があるみたいだ」
「え?い、いや、でも…ど、どうしたらいいか…け、怪我でもさせたら…」
「大丈夫だって。ほら」
シリウスはオロオロするレーディを無視してポラリスとアトリアを抱っこさせた。レーディは腕の中にいるポラリスとアトリアを怪我させないように細心の注意を払って抱っこしている。ポラリスとアトリアはそんなレーディをジッと見ていたが、すぐに笑ってレーディに抱き着いた。
「あ~♪」
「あーい♪」
「ふふふ、二人がレーディが優しくて良い人って分かったみたいだな」
「私は、優しくなんて…」
「そうやって二人が怪我しないように抱っこする人が優しくない訳無いだろ」
レーディは困惑しながら自分に笑顔で抱き着くポラリスとアトリアを見て、シリウスを見てを繰り返していたが、恐る恐る二人をほんの少し力を入れて抱き締めてみるとポラリスとアトリアは嬉しそうな声を上げながらレーディに笑顔を向けた。レーディは二人の姿を見て目を見開き、ほんの僅かだが口角を上げて笑った。
シリウスはそれを温かい目で見守り、スピカは抱き締められているポラリスとアトリアを見ながらレーディを見ており、カペラとウェズンとハダルとリゲルもレーディををジッと見ていた。意を決してウェズンが恐る恐るレーディに近づいて匂いを嗅ぎ、ウェズンに続いてリゲルも同じくレーディの匂いを嗅いでいる。近づいてきたウェズンとリゲルにレーディは緊張して硬直しており、好き勝手に匂いを嗅がれている。やがて危険は無いと分かったのかウェズンはレーディに寄り添い、リゲルは舌を出してレーディの周りを走り回っている。どうすればいいか分からずオロオロしているレーディにシリウスは笑いつつスピカを抱っこしたままレーディに近寄っていった。
「ま~」
「ままー!」
「ママですよ~♪スピカ、この人は大丈夫だよ」
「…ぅぅ…」
レーディから受け取ったポラリスとアトリアを抱っこしながら、レーディを怖がってシリウスの服に顔を押し付けているスピカに声を掛けた。レーディはリゲルに飛びつかれて思わず抱っこしたら顔をペロペロと舐められ、ウェズンに撫でてと言わんばかりに頭を押し付けられて撫でている。見た目とは裏腹にオロオロしているレーディをスピカはジッと見ており、カペラはそのスピカを見てからシリウスの頭の上から跳んでレーディの頭の上に移動し、頭の上に乗られたレーディはカペラを落としてはいけないと完全に動きを止めた。皆を気遣うレーディを見てスピカも顔を上げてシリウスから下りてレーディを下からジッと見上げた。スピカの様子を見てカペラはレーディの頭の上から下りてウェズンとリゲルにも声を掛けてレーディから離した。レーディは見上げてくるスピカを見て膝を付いて恐る恐る頭を撫でた。レーディの手が近づいてくる時スピカは怖くなって目をギュッと瞑ったが、頭を撫でられる感触に目を開けた。傷つけないようにおっかなびっくりスピカの頭を撫でるレーディの姿を見てスピカの中からレーディに対する恐怖が小さくなっていった。
「あー、レーディがイチャついてるー」
「い、イチャついてなど…」
「ヘッヘッヘ!照れるな照れるな!」
「恥ずかしがらなくてもよいではないですか。では私も」
フログレスがシリウスに抱っこされているポラリスとアトリアに近づくと二人はレーディの時のようにフログレスをジッと見た。フログレスは柔らかい笑みを浮かべながら二人を見ており、ポラリスとアトリアも笑ってフログレスに手を伸ばし始めたのでフログレスは二人の頭を優しく撫でた。
「あっ!?ズリい!」
「私もー」
「ふふふ…」
「(皆と仲良くなって良かったが…何故か少し寂しい気持ちでもある…そうか。これが子供の成長を見守る親の気持ちか)」
ポラリス達が自分以外の人達と仲良くなる姿を嬉しさ半分寂しさ半分で見つめるシリウス。その何とも言えない気持ちが分かる者はここには一人しかいなかった。
「シリウスちゃん。今、嬉しくて寂しいでしょ?」
「…まあ、エルフィナには分かるか」
「ええ。でもね、子供っていうのは少しずつ親から離れていくものなの。寂しくても祝ってあげなきゃ駄目よ?」
「…ああ。そうだな」
これからこういう気持ちが何度も訪れると思うと少し気持ちが落ち込むシリウスだが、エルフィナが肩に手を置いてくれたおかげで自分は一人じゃないと分かり少し持ち直した。
「かあ、さま…?ど、した、の…?」
「(プルプル)?」
「ブル?」
「シュー?」
「ワフ?」
「ん?いや、何でもないよ」
「シリウスー、作るぞー」
「はいよー。皆、ママはご飯を作ってくるからフィナおばちゃん達と待っててね」
レネに呼ばれたのでシリウスはエルフィナにポラリス達を任してパーティーのための料理の準備に取り掛かった。やがて買い出し班も続々と戻ってきたのでヘイゼルとフーレの四人で料理を作り始めた。
「おぉ…すげえ技術だな…」
「す、凄い…そんなやり方が…」
「レネは料理上手だもんな」
「そうだぞー。レネちゃんは凄いんだぞー」
レネの熟練された調理を披露している間、買い出し班はフログレスの前で正座して説教されていた。
「君達ねぇ…何で高級食材ばかり買ってくるんですか…手持ちに余裕は無いって知ってますよね…?」
「「「「「すいませんでした…」」」」」
「「「「「ごめんなさい…」」」」」
買い出し班はシリウスと再会できてうれしくて、ついいつもは買わないような高級食材をたくさん買ってきてしまった。買ってきた食材の山を見た瞬間フログレスから表情が消え、そのフログレスを見た買い出し班は大人しくその場で正座した。
「ラーゼル…あなたまで何をしてるんですか…」
「すまん…つい…」
「アスティードも止めてくださいよ…」
「わりぃ…」
「はぁ~…皆さん、罰として料理ができるまでそのままで。しれっと食材を整理しているベナレットとバロッドもですよ」
「えぇ!?」
「そんなぁ!?」
「足が痺れちまうよ!?」
「というか、もう結構、来てるんだが…!」
「しもたなー」
「反省してましゅ…」
「何で私も!?」
「私はちゃんと止めた…」
「この場合の止めるというのは買うのを阻止するという意味です。ですのでバロッドの言い分は通用しません」
「…私、正座できないのだけど…本当にどうしろと…?」
正座をして足が痺れて苦しむ買い出し班を見て苦笑しているシリウスはレネとヘイゼルとフーレの四人でドンドン料理を作っていった。買い出し班が正座をして一時間後、顔が真っ青になって苦悶の表情を浮かべるも何とか耐えている買い出し班に待ちに待った瞬間がやってきた。
「できたぞー」
「や、やっとか…」
「あ、足があああぁぁぁ…!?」
「ち、ちょっと、待って…!ほんと、動けない…!」
「う、動けないですぅ…」
「あたたた…これはきついなぁ…」
「これでよかったのかしら…?」
「へっへー、ほーれ、ツンツン」
「止めろおおおぉぉぉ!?」
「ぬわあああぁぁぁ!?」
ピナレスが悪い顔でホウルクァンドとコルベックの足を突っつき、二人は悶え苦しんでいた。ちなみにバロッドは蛇の下半身を折り畳んで傍から見れば正座しているようにはしていたが、痺れなどは全く無かった。買い出し班は産まれたての小鹿のように足を震わせながらも何とか席に着いた。
東屋のテーブルの上にはレネ達が作ったご馳走が並べられている。
ラッシュボアの上位互換であるレッドボアの分厚いステーキ、アングリーベアの肉を分厚く切った焼肉、アールレディア近海で取れた様々な海鮮のパエリア、チーズと燻製肉がタップリ入った熱々のピザ、フォドロンで取れた野菜をタップリ入れた野菜シチュー、同じくフォドロンで取れた野菜を茹でた温野菜サラダ、外国から輸入した豆を使ったポタージュ、アオウオを丸々使ったアクアパッツァ、カミツキウオの香草焼き、魚介をタップリ入れたペスカトーレ、様々な形のパン。
買い出し班が美味しそう!や食べたい!と思って値段を見ずに購入した高級食材はレネ達の手によってご馳走に生まれ変わった。
「うほー!うまそー!」
「早く食おうぜ!」
「全く…君達は反省していないようですね…」
「うえっ!?い、いやいや、ちゃんと反省してるぜ!?」
「そそそそうだぜ!もうしないって!だ、だから、お預けなんて事は…」
「ああ、それもありましたね」
「「藪蛇ー!?」」
「まあまあ、買っちまったものは仕方が無いだろ?ほら、これなんか美味そうだぜ?」
「ご飯の時ぐらい険しい顔は止めようぜー」
「はぁ…まあ、確かに。折角の祝いの席ですしね。これ以上とやかく言うのは止めましょう」
「「ほっ…」」
「ではそろそろ乾杯といくか」
ラーゼルの言葉で全員が酒や果実水が入った杯を持ってシリウスを見た。
「知ってた。あー…腹ペコ達がいるから手短に。こうして皆と無事に会えて嬉しく思う。それを祝して、乾杯!」
「「「「「乾杯!」」」」」
シリウスの音頭でパーティーが始まった。杯を打ち付け合って酒や果実水を飲んだ後、勢いよく料理に食らいついている。
「うめぇ!」
「肉!肉うまっ!」
「んー♪この魚、ええ焼き加減やねぇ♪」
「茹でただけなのにこの野菜、美味しいです!止まりません!」
「このポタージュ美味しい!」
「あっつ!?でもうっま!」
「このチーズタップリのピザもたまらん!」
「このシチュー、うんめえなぁ。いくらでも食えるだ」
「青いお魚美味しいです!止まらないです!」
「このパエリアは魚介の味が染みていて美味しいですね」
「こっちのパスタもイケるぜ!」
レネ達が作った料理は皆に大好評で笑顔でドンドン食べていっている。エルフィナ達も笑顔で食べており、シリウスはポラリス達にシチューを食べさせているのでまだ手を付けていなかった。
「シリウスさんは食べないんですか?」
「子供達が先だ。皆が食べ終わったら食べるよ」
「それじゃあ冷めちゃいます!そうだ!私が食べさせてあげます!はい、あ~ん!」
「(ピクッ)」
「くぅ…!先を、越された…!」
「シリウスー、レネちゃんの料理を食べるのだー」
フィールがシリウスの口元に料理を持っていくのを見てエルフィナは一瞬だけ反応し、シェネドは匙を噛んで出遅れた事に悔しがり、レネは追加の料理を作りながら食べるように言っている。
「あー…うまっ」
「えへへ~♪は~い、あ~ん♪」
「あー!フィールがシリウスにあーんしてるー!」
「何ですって!?」
「あらまあ、抜け駆けとか酷いなぁ」
「この野菜も美味しいですよ!」
「…」
「あなたも行けばいいじゃない」
「い、いや、私は…バロッドは?」
「私は別にいいわよ」
「ハッハッハ!大人気だなシリウス!」
「酒が進むぜ!」
「人を肴代わりにするんじゃ、むぐっ、モグモグ」
女性陣から餌付けするように次々と食べさせられて、それを男性陣は楽しそうに酒の肴にしている。いつの間にかエルフィナとシェネドも混ざってシリウスに食べさせており、ポラリス達がお腹いっぱいになった頃にはシリウスも満腹になっていた。
「もう、食えん…」
「すまない…」
「いや、いいよ別に。皆もお腹いっぱいになったみたいだし」
満足そうに笑顔なポラリス達を撫でるシリウスをレーディは横からジッと見ていた。
まだ食べている者はいるがそれぞれが宴を自由に満喫している。エルフィナとフィールとベナレットとムツキとサリーナは何やら内緒話をしていたり、シェネドとヨジェットとフーレは魔法談義をしていたり、ルジャナフスクとラーゼルとフログレスは道中の旅の出来事を話し合っていたり、レネは未だに食べるホウルクァンドとコルベックとオヴェルに料理を持っていったり、ピーニとピナレスは満足そうにパンパンになったお腹を撫でながら寝転んでいた。
「あの三人、まだ食べるのか…」
「彼らは大食漢だから…その、迷惑、ではなかったか?」
「何が?」
「その…こんな所まで来させた事とか…今だって、シリウスの予定とかも聞かずに宴を開いたり…」
「ぜーんぜん」
ブーナガストからアールレディアまでかなりの距離があり、約束した所為でこんな所まで来させてしまったとレーディは気に病んでいたが、シリウスは何て事は無い様に答えた。
「元々色んな所に行こうって思ってただけだからどこかに行こうとか決まってなかったし。それに道中も結構楽しかったから。この子達にも会えたしね」
シリウスの膝の上でまったりしているポラリス達の頭を優しく撫でるシリウスの顔は、本当に何も気にしていなさそうだった。
「そういや、皆はここで働いてるのか?」
「ああ。皆、ハンターになって依頼をこなしている。その…他とは違うから就ける職は限られてるから」
「そっか」
「…シリウス。その…こんな事を言われて困るかもしれないけど…」
「ん?何?」
レーディは何かを言おうとしているが、決心が付かないのか口をモゴモゴさせて中々言葉にしなかったが、シリウスは急かす事無く待ち続けた。
「わ、私達と一緒にチームを組んでくれないか!?」
意を決してレーディが言うがその声は大きくて他の皆にもその言葉が聞こえた。皆は会話を止めてシリウスを注視して反応を待った。
ブーナガストから逃げ出してアールレディアに来るまでの間に皆が何をしたいかと話し合っていた時、レーディはシリウスといたいと願った。ハンターであるシリウスと一緒にいるために皆でハンターとなりチームを組む事を夢見ていたが、アールレディアに来てハンターになり少し余裕が出た事でシリウスが本当に加わるか分からない事に気づいた。シリウスの都合を考えず独り善がりな考えをしてしまい、これでは自分達を無理矢理生み出して見世物にして飽きて端金で捨てた貴族と変わりないとレーディは己を責めた。自己嫌悪に陥り心の奥に閉まっていたが、今日シリウスやポラリス達と過ごした事でその想いが心の奥から顔を覗かし、無視できないほど大きくなりついに本音を打ち明けた。
「え?私は別に構わないが」
「そ、そうだよな。こんな事突然言われたら…って、え?」
シリウスはこれまた何て事は無い様に了承したが、レーディは受け入れられた事をすぐには認識できなかった。
「私は別に構わんぞ。あっ、シェネドとルジャナとレネはどうする?」
「わ、私も別に、いい…」
「我も構わん。この者達とも気が合いそうだ」
「レネちゃんもいいぞー」
「ちょっとー、シリウスちゃん、私はー?」
「エルフィナは何も言わなくても来てくれるだろ?」
「~♪」
シリウスの言葉に嬉しくなったエルフィナはシリウスに抱き着いて頬擦りをしており、突然抱き着かれたシリウスだがエルフィナの好きにさせていた。
「「「「「うおおおぉぉぉ!!」」」」」
「「「「「やったあああぁぁぁ!!」」」」」
シリウスの言葉を聞いて皆は喜びを爆発させ歓喜の声を上げた。隣の者とハイタッチしたり、抱き合ったりして喜びを露わにしており、レーディは静かに涙を流していた。
「おいおい、何も泣かなくても」
「す、すまない…でも、止まらないんだ…」
再会を祝したパーティーであったが思いがけずレーディの願いが叶い、嬉し涙はしばらく止まらなかった。