クラン〈ルミナス・アステリズム〉の皆の事を知るために二人っきりで出かけてデートしようと決めたシリウス。だが初めにデートしたレーディはかなり重い感情を持っていたので前途多難だなぁとちょっぴり後悔していた。
二人目は熾烈なじゃんけんで一抜けして勝利したフィールだった。
「えへへ~♪今日はシリウスさんを独り占めです~♪」
嬉しそうにシリウスの手を羽で握っているフィールに連れられてシリウスはアールレディアの町中を歩いている。
今シリウス達が歩いている通りは住宅地の一角で所々にカフェなどが建ち並んでいる場所だ。フィールに連れてこられたのはハルピュイア御用達のカフェだ。店の中にはハルピュイア達が羽を手のように器用に使い軽食を食べたり、紅茶などを飲んで会話を楽しんでいる。ハルピュイアは彫りが深く濃い顔立ちで頬の半分ぐらいまで口が開けられるので傍から見れば結構怖く、店にはハルピュイアしかおらず他種族なのはシリウスだけだった。
「えへへ~♪ここのサンドイッチ、とても美味しいんですよ~♪」
「へー」
入ってきたエルフとハルピュイアのハーフであるフィールと人間のシリウスを店にいたハルピュイアの客達と従業員達は好奇と警戒の目で見ていたが、フィールは全く気づいておらずシリウスは無視していた。お互いに注文した品を受け取って空いている窓側の席に着いて食べ始めた。
「あ~。ん~♪美味しいです~♪」
「あむっ。おお、美味いな」
「シリウスさんのは何ですか?」
「私のは卵と燻製肉だな。一口食べるか?」
「いいんですか!?あ~♪」
「はいはい」
口を開けて食べさせてもらう気満々なフィールにシリウスは苦笑しながら食べさせた。しばらくの間互いに食べさせ合ってイチャつき甘い飲み物を飲んでのんびり過ごした。
「フィールってどこの出身なんだ?」
「私はシードールですよ。アールレディアみたいに色んな種族がいるんです~」
フィールが生まれたのはシードール共和国の西にある農村だった。レーディと違いフィールの両親は互いに愛し合っており、生まれたハーフのフィールも差別する事無く惜しみない愛情を注いでいた。幸せな日々がいつまでも続くと思っていたが、その幸せはいとも簡単に崩れ去った。
村の有力者だったハルピュイアの父親が病で亡くなった事で以前からハーフを気味悪がっていた村の皆はエルフの母親とフィールを拒絶し始めた。村八分に合い母親は心労で倒れてそのまま帰らぬ人となった。悲しむフィールに村の皆は追い打ちを掛けるように責め立てて人買いに売り払った。好事家の貴族に買われてコレクションとして飼われる事になり、人扱いされなくなってフィールの心は傷ついていった。その後飽きた貴族に売られ他のハーフの皆と共にブーナガストでオークションに掛けられそうになった時シリウスに助け出された。
「今まで悲しい事や怖い事はいっぱいあったけど、でもでも!お父さんとお母さんからいっぱい愛された記憶もありますし!友達もいっぱいいますし!何よりシリウスさんがいるから寂しくありません!」
自分の過去を話している時は寂しそうにしていたが、最後は今幸せだと言わんばかりに満面の笑みをシリウスに見せた。シリウスと話が聞こえていた周りのハルピュイア達はフィールの中々ハードな人生にも関わらず、今自然と笑えている事に感動で心を打たれて目頭や胸を抑えていた。
「あれ?どうしたんですか?」
「くぅ…!」
「胸が…!胸が痛い…!」
「何となく聞き耳立てたらとんでもなく重い話を聞いてしまった…」
「あんな風に笑ってるけど、重い過去を持ってるのね…」
「…よし、俺はもうハーフに偏見を持つの止めるわ」
「私も。違うのは見た目だけで中身は私達と一緒よ」
フィールの姿を見て店にいたハルピュイア達は皆考えを改め、シリウスは目を軽く擦って落ち着きを取り戻した。
「んんっ…いや、フィールが良い子だなぁって思っただけだ」
「???」
頭にクエスチョンマークをいくつも浮かべるフィールに苦笑しながらシリウスは誤魔化すようにフィールの頭を優しく撫でた。シリウスに頭を撫でられてフィールは気持ち良さそうに目を細めている。
「さて、次はどこに行く?」
「~♪次はお買い物です!」
それからフィールはシリウスをあちこちに連れ回して互いに着せ替え人形にしたり、フルーツたっぷりのクレープもどきを食べさせ合ったりして楽しいデートを満喫した。
フィールとのデートの翌日。次のデートの相手はムツキだ。
「ふふふ…今日はうちがシリウスはんを独り占めなんやなぁ」
「そんなに嬉しいのか?」
「そりゃあもちろん嬉しいでぇ。ふふふ…」
にこやかに笑うムツキと並んでシリウスは港方面に向かっている。港には当然船が泊まっているが、一つとして同じ物は無く他国から来た交易船が多数並んでいた。荷下ろしをする船員達や積み荷を確認する役員とそれを見守る船長がいて皆忙しそうに働いていた。
「ほへー…凄いな…」
「せやろぉ。ここは色んな国から毎日船が来るさかい、アールレディアで一番忙しい場所って言われとるんよぉ」
「へー」
忙しそうに働いている人達の邪魔にならないように遠巻きから見ながらシリウスとムツキは港の傍にある市場へと向かった。外国から仕入れた珍しい品物や近海で獲れた新鮮な魚介類が売られており、住民達の他にハンターや商人などが挙って買いに集まってくるアールレディアでもっとも賑やかな場所だ。
「ムツキは何か買うのか?」
「せやねぇ…ずっと探しとるんやけど、ぜーんぜん見つからんのよぉ…」
「どんなのだ?」
「刀っちゅう、まあ、サーベルに似た片刃の剣なんやけど。何本かは見つけたんやけど、中々しっくりくるもんが無くてなぁ…」
「へー…(刀なんてあるのか。という事は日本的な国が海の向こうにある…つまり日本食が食べられる!アールレディアなら日本食専門店があってもおかしくはない!探さねば!…いや、いやいや、今はムツキの方が優先だ)」
「外国のもんやからこの辺歩いとったら見つかるかなぁってちょっと前からうろついてるんやけど…ぜーんぜん見つからんのよぉ」
露店に広げられている外国製の珍しい武器防具を見て回っているが、ムツキお目当ての刀が置いてある露店は見つからなかった。
「見つからんな…」
「せやねぇ。まあ、かまへんよ。顔馴染みの人にええ刀持ってくるよお頼んどるから。今回は来てへんみたいやし、このままお昼でも食べよおか」
あらかたの露店を見て回ったが刀は見つからなかったのでそのまま昼食を取る事にした。ムツキ行きつけの店である日本食専門店に入るとシリウスにとっては懐かしい匂いが漂ってきた。
「おー…いい匂い(あー、この匂い、懐かしい…)」
「シリウスはんには馴染み無いやろうけど、向こうの料理は中々美味いでぇ。うちはいつものでなぁ。シリウスはんもうちと同じでかまへん?」
「ああ、いいぞ。ムツキの出身ってここの料理の国なのか?」
「せやでぇ。海の向こうにあるヤマト皇国っちゅうとこや」
海の向こうの大陸、バルティカ大陸の奥地、山を幾つも超えた所にある国がヤマト皇国だ。ヤマト皇国はシリウスの前世の戦国時代真っ只中の日本に酷似しており、里山と田んぼなど日本の原風景が広がっている。
ムツキはヤマト皇国の貴族に当たる大名がメイドに当たる女中に手を出した事で生まれた。父親はムツキを気味悪がって認知せず知らぬ存ぜぬを貫き、母親は初めの方は懸命にムツキを育てていたが、育児と仕事の両立は難しく無理をして身体を壊し寝込むようになり、最期はムツキに産まなければよかったと恨み言を言い残して亡くなった。女中が死んだ事を知った大名は父親が自分である事を知られないようにするために人買いに口止め料込みで高値で売り払って追放した。人買いはヤマト皇国を出て幾つかの国を周った後に海の向こうの大陸、ローレンシア大陸にあるオルティナ王国でならムツキを高値で売れると知り船に乗った。アールレディアに着く前に船を乗り換えて違う港からオルティナ王国に密入国し、奴隷商人にムツキを売り払った。
「そっからはあちこちにたらい回しにされてなぁ、最後にブーナガストやったっけ?そこに行ったんや。そこでシリウスはんに助けられたっちゅう訳や」
「そうだったのか」
「…なあ、シリウスはん。うちの名前ってどんな字やと思う?」
「ん?」
「向こうの字やとな、うちの名前は月が無いって書いて無月って書くんよ。うちが生まれたのが月が無い夜やったからっておかんが言ってたんやけど、最後の最後でな、うちに言ったんよ。お前の人生に光が差す事は無いって。だから無月って付けたって。うちの事、初めっから好きや無かったんやなぁ…」
「そんな事無い」
自分の名前の由来を寂しそうに話して俯くムツキの顔をシリウスは両手で包み込んで顔を上げさせた。
「シリウスはん?」
「ムツキの人生に光が差さないって?そんな訳あるか。ムツキの母親を悪く言うのは気が引けるが、そいつの目は節穴過ぎる。ムツキの字は無月じゃなくて新年の初めの月の睦月だ。睦み合う月、皆と仲睦まじく過ごす月っていう意味だ。皆と仲良くなれるムツキなんだから、ムツキの人生は光り輝いてるに決まってるだろ」
鼻が触れ合うほどの至近距離でムツキの目を真っ直ぐ見てシリウスは言い切った。絶対にそうだと信じ切っており、その想いを真っ向からぶつけられたムツキは目を見開いてシリウスから目を離せなかった。
「…ほんまに、そう思っとるん?」
「ああ。誰が何と言おうとだ」
「…シリウスはんはズルいなぁ。そんな風に言われたら信じてまうやん」
「おう、信じろ。私の言った事が間違ってなかったっていつか分かる」
「お待たせしましたー!」
「お、きたきた。ほら、早く食べよう(日本食キター!)」
ふっくら炊かれたお米、豆腐とワカメっぽいものが入った味噌汁、大根おろしが付いた焼き魚、艶がある出汁巻き卵、そしてお新香の焼き魚定食がシリウスとムツキの前に置かれた。ムツキは定食に手を付けようとせず、箸を初めてとは思えないほど上手に操り焼き魚をほぐしてお米と一緒に掻き込んだり、味噌汁を啜ったりして幸せそうに微笑んでいるシリウスをジッと見つめていた。
「(ほんまにズルいわぁ…うちの心、掻き乱すだけ掻き乱しておいてそのままやなんて…そんなん言われたらうち、本気にしてまうで…)」
「ん?どした?」
「随分と箸使うん上手いなぁ。どっかでなろたん?」
「何かで覚えた気がする!」
前世云々は話せないので堂々と胸を張って誤魔化す気満々なシリウスを見て、ムツキはポカンと呆気に取られた。
「…ふ、ふふふ…あはははは!な、何なんそれ!あはははは!」
ツボに嵌まったのかムツキはお腹を抑えて笑っている。
「ふふふ…はぁ…もう、色々考えてたうちがアホみたいやないの…」
「笑え笑え。ムツキは笑った方が似合ってる」
「…ほんまに、もう…出汁巻きもらいっ」
「あっ!?私の出汁巻き!?」
シリウスに盛大に心を掻き乱されてちょっとモヤっとしたムツキはシリウスの出汁巻き卵を奪って食べた。ムキーっと怒っているシリウスの顔を見てムツキは出汁巻き卵を頬張りながら愉快そうに笑っている。
楽しい昼食を終えて二人は再び港の市場を歩き出したが、今度はムツキがシリウスの手を握っていた。シリウスは握られても特に反応せず自然と握り返し、ムツキは嬉しそうに耳をピコピコ動かしていた。その日はムツキのお目当ての刀は見つからなかったが、ムツキの心は満たされていた。
そしてムツキとのデートの翌日。三人目はベナレットだ。
「ようやく私の番ね。待たせ過ぎよ」
「すまんね。代わりに今日一日付き合うから勘弁してくれ」
「…ふ、ふんっ。連れ回してやるから覚悟しなさい」
頬を赤く染めながらそっぽを向くベナレットにシリウスはテンプレなツンデレに苦笑しながら付いていっている。
ベナレットと訪れたのは服飾関連が集まる通りでそれぞれの種族に対応した専門店が建ち並んでいる。エルフとジャイアールのハーフであるベナレットは見た目は二m半ほどあるエルフなのでエルフ専門店では小さすぎ、ジャイアール専門店では大きすぎるのでいつもは布と糸を買ってきて自分で服を作っている。今日も布と糸の買い足しにここを訪れたので店頭に並べられている服には目も暮れずにズンズン進んでいる。
「見なくていいのか?」
「別にいいわよ。どうせ着れないし」
「見るだけならタダだろ?それに服を作るのなら参考になるんじゃないか?」
「…まあ、確かに。それは、そうだけど…」
「んー…ならどの店にするかね」
シリウスは近くにあったジャイアール専門店を入り口からそっと覗いてみた。ジャイアールは三mから五mほど身長があり、人間と違い身体だけでなく皮膚も頑丈なので蛮族みたいな服をもっぱら着ている。アールレディア以外に住むジャイアールは動物や魔物の毛皮で作った服を一枚着ているだけなのが多く、中には腰蓑のみな強者もいたりする。店の中は他種族にも配慮されてちゃんとした物も置かれているが概ね蛮族みたいな服が置かれている。今のベナレットの服はエルフが着るような清楚で露出が少ないものなのでジャイアールの服はベナレットには合わなさそうだった。
「ここは駄目だな。やっぱエルフ専門店の方が良さそうだな。後は人間用とか」
「初めっからそのつもりよ。いい、シリウス。ジャイアールは不潔で品の欠片も無い野蛮な奴らだからぜーったいに近づいちゃ駄目よ!」
「い、いや、そこまで言わなくても…」
「いーえ!言い過ぎなんかじゃないわ!ほら!あそこ見なさい!」
ベナレットの指差す方にはジャイアールが三人並んで歩いていた。身長が五mほどある巨人が並んで歩いているので道行く人達は自然と道を空けている、ジャイアール達は礼や詫びの一つも言わずむしろ少し威張りながら歩いていた。大声で中々際どい会話をしており、周りの人達は眉を顰めて見ているが気にも留めず歩き去っていった。
「ジャイアールはああいう連中ばっかりよ。むしろさっきのはまだマシね」
「おおぅ…あー…何というか…うん…」
あまり種族に対する差別などはしたくないシリウスだが、今見た光景が割とジャイアールの日常だとベナレットから教えられて何とも言えない表情で口を噤むしかなかった。
ベナレットはシードール共和国の人里離れた山奥で生まれた。ベナレットの母親はエルフでとある部族を率いていたジャイアールの父親に捕縛された。虜囚の身になった母親に待っていたのは部族の長から乱暴される地獄の日々だった。見も心もズタズタにされたエルフの母親はその時にベナレットを身籠ったが、ハーフと言えどジャイアールの血が混じっている赤子をエルフが産むのは無理があった。文字通り身が引き裂かれる激痛を感じながらもベナレットを出産したが母親の身体は出産に耐えきれずそのまま亡くなった。産まれたベナレットは部族の長である父親の命でハーフと言えども育てば雑用ぐらいはできるだろうと使用人達に育てるよう命じたので命を長らえる事ができ、ベナレットが三歳の時まで暴力を受ける事無くスクスクと育った。だが雑用をさせられるようになると貶されたり、物を投げられたりと態度が一変した。父親にどうしてと泣いて聞いたところ、ベナレットがハーフだからだと、ハーフにはあらゆる権利は無い事を上から目線で懇切丁寧に教えられ、死ぬまでジャイアール達の雑用をさせられるのだと教えられた。ベナレットは絶望から涙を流したが、ジャイアール達はそれを見て下卑た声で嗤った。それを聞いた時ベナレットの中で怒りが芽生え、いつか必ずここから逃げ出してやると心に決めた。
それから数年ほどはジャイアール達の雑用を苛められながらもこなし、脱走に使えそうな物をこっそりと盗んで機を窺っていたが、遂にその時はやってきた。
他のジャイアールの部族との抗争で監視の目が無くなったのを見計らってベナレットは見事脱走に成功した。もう何にも縛られる事は無いと自由を満喫していたが、ベナレットは世間を知らなかったため他種族の村を訪れたところ、村人達からジャイアールが攻めてきたと思われて攻撃を受けた。何でどうしてと混乱するベナレットは瞬く間に捕縛されて、整い過ぎているジャイアールを気味悪がった者達の手によって人買いに売られた。それからは珍しがった貴族に買われたが飽きて売られたり、商人に買われて劣悪な環境で重労働させられていたが見下したという理不尽な理由で売られて各地を転々とさせられた。買われて粗末に扱われて売られる度に怒りを募らせ続け、いつか何十倍にして返してやると心に決めていた時にシリウスに助けられた。
「後は知っての通りよ」
「そうだったのか」
「…それだけ?普通は同情とかするでしょうがっ」
「ベナレットはそういうのは望んでないだろ?だからしない」
「…あっそう」
ただジャイアールの粗暴な生態を知ってもらうために話しただけで同情してほしくて話した訳では無い事はシリウスにも分かっていたので軽く流すと、ベナレットは理解してもらえて嬉しくなったがそれを隠すためにそっぽを向いて素っ気ない態度を取った。ツンデレな対応に理解があるシリウスがベナレットを見て苦笑しながらエルフ専門店に入った。
そこにはシリウスが想像していたエルフの服が多く並べられており、今も数人のエルフが服を見ていた。客達と従業員は店に入ってきた人間のシリウスを見て怪訝な顔をし、エルフとジャイアールのハーフのベナレットを見て驚いていた。
「な、何だあの者は…!?」
「ジャイアール…!?」
「いや、奴らのように粗暴な雰囲気を感じないが…」
「顔立ちこそは我らエルフではあるが…」
「…もしや噂のハーフの連中か?」
「た、確かにそう考えれば辻褄は…」
「…失礼ですが、客ですかな?」
客のエルフ達はベナレットを見てコソコソと話し、従業員のエルフは客かどうかの判別が付かなかったので直接尋ねてきた。聞き方こそは丁寧ではあるが何だか上から目線で聞きにきていて若干ムッとしたが、エルフだからそんなものかとすぐに気を取り直した。
「ええ、客です。買うかはまだ決めてませんが」
「…そうですか。どうぞご覧になってください」
答えたのが人間のシリウスだったので目を少し細めた従業員だったが、一応客ではあるので一礼して下がっていった。
「…なあ、エルフって皆ああいう感じなのか?」
「ええ。同族以外は見下しているわ。だからエルフも嫌いなのよ」
「もう少し声は小さくな。聞こえたら面倒だ」
チラチラと友好的ではない視線を送ってくる従業員と客達から背を向けてシリウスとベナレットは並べられている服を見始めた。シリウスが手を取ってベナレットに似合うかを見ていき、ベナレットも気に入ったデザインの物は形状をメモしていき、ある程度見終わった後はそのまま店を出た。
「最後までずっとチラチラ見てきてたな」
「あいつらは自分達が全ての種族より上だって無意識に思ってるのよ。個人なら仲良くなるのはできるけど一族と仲良くなるのは無理ね。絶対一人二人は異議を唱えてくるのが出てくるわ」
シリウスの想像通りエルフは傲慢な者が多く排他的なので他種族と仲良くなる者は少数派だ。
シリウスとベナレットが店を出て布などを扱う店に向かう道中で先ほど見掛けたジャイアール達が歩いてくるのが見えた。余計なトラブルを避けようとシリウスはベナレットを連れて脇の方に移動しようとしたらジャイアール達がベナレットを見つけた。
「ああん?おい見ろよあれ!」
「何だぁ?ぶっは!」
「ガハハハハ!何だあれ!?あんなちっちぇえジャイアールなんて見た事がねえぞ!」
ジャイアール達は自分達よりも一回りも小さいベナレットを指差して笑い転げていた。ジャイアールは子供でも三mを超える者もおり、二m半ぐらいのベナレットはジャイアールにとっては嘲笑の的だった。ベナレットはイラっとしたが、それ以上にカチンときたシリウスがジャイアール達の方へ歩いていった。
「おい」
「「「ガハハハハ!」」」
「聞けよこら!」
「いっで!?」
「あん?」
「何だこのチビ?」
シリウスの声が聞こえないぐらい嗤っていたのでシリウスはジャイアールの脛を思いっ切り蹴って注意を向けさせた。
「木偶の坊風情が私の友達を馬鹿にしてんじゃねえよ」
「んだと!?」
「ふざけやがって!」
「踏み潰してやる!」
「シリウスに手を出すんじゃ無いわよ!」
「がっはぁ!?」
足を上げてシリウスを踏み潰そうとしたジャイアールをベナレットは懐に飛び込んで顎目掛けて強烈なアッパーカットを放った。顎にクリーンヒットしてジャイアールは宙を舞い地面に叩きつけられて気絶した。
「兄弟!?」
「てめえ!」
「させるかよ。【スパークウェブ】」
「ぎゃあああぁぁぁ!?」
ベナレットに向かおうとしたジャイアールをシリウスがスパークウェブを放って痺れさせて膝を付かせた。
「や、やろう…!」
「くたばれぇ!」
「ごほぉ!?」
注意を逸らしている隙に残ったジャイアールの鳩尾にベナレットが渾身のストレートを放った殴り飛ばした。殴り飛ばした先に膝を付いたジャイアールがいて巻き添えに遭い、ピンボールのように二人共気絶しているジャイアールの上に落ちた。三人共見事に目を回しており、鮮やかな手並みのシリウスとベナレットに周りの人達は思わず拍手していた。
「よし…逃げるわよ!」
「何で!?」
「警邏に見つかったらあれこれ根掘り葉掘り聞かれて一日が潰れるわ!」
「それは勘弁だな!逃げよう!」
ベナレットはシリウスを抱えて猛スピードで走り去っていった。数分後、警邏が騒ぎを聞きつけて駆けつけ、周りの人達から事情を聴いた後ジャイアール達を捕まえて連れていった。ジャイアール達はこの辺りで騒ぎばかり起こす問題児だったので一部始終を見ていた人達が気を利かしてシリウスとベナレットの事を黙っていてくれたので二人は追われる事は無かった。
「まっ、偶にはこんな騒がしい日も悪くないか」
「あんた何言ってるのよ?」
「何でもないよ。ほら、布と糸を買いにいくんだろ?私もいくつか買おうっと」
「ふーん…あ、あ、あと…その…お、怒って、くれて…あ、あ、ありがと…」
「気にすんな」
顔を真っ赤にしながら消え入りそうな声でシリウスにお礼を言うベナレットにシリウスは内心ツンデレご馳走様ですと思って見ていた。その後シリウスとベナレットは目的の物を無事に購入でき、シリウス行きつけのルアンマとトリージャのカフェでのんびりしながらデートを楽しんだ。