続きをどうぞ。
依頼の場所へ向かうシリウスとポラリス。
大通りを通り居住区へ向かっている。居住区は道沿いに家々が密集して建っており、大きい道ならまだ大丈夫だが路地裏など細かい道に入ると迷子になりそうな作りをしている。幸い依頼の場所はそれなりに大きい道沿いなので迷子になる可能性は低そうだ。居住区に入って数分で依頼の場所に辿り着いた。家の前には荷馬車が止まっていて中には物がたくさん載っている。
「あの…」
「ん?はい何ですか?」
荷馬車を眺めていたらお腹の大きな若い女性に声を掛けられた。
「…もしかしてこちらの家の方ですか?」
「え?えっと、はい、そうですけど…」
「そうでしたか、失礼しました。依頼で来ました」
「え!?あ、あなたが?」
女性はこの家の住民で依頼主の奥さんだった。家の前に佇んでいるシリウスを不審がって恐る恐る声を掛けてきたようだ。シリウスが夫が依頼したハンターだと知り驚いている。
「メイ、どうしたんだい?」
「あ、あなた。ハンターの方が」
「ええ!?君がハンターなのかい!?」
「そうですけど…そこまで驚く事ですか?」
シリウスは解せぬと言わんばかりに眉間に皺を寄せている。少ないかもしれないが自分ぐらいの歳のハンターだっているだろうとシリウスは思っており実際いるにはいるが、赤子を抱えたハンターなんて世界中探してもシリウス以外はいない。
若い夫婦の驚きは正当な物だがシリウスの機嫌が損なっているので謝罪している。
「ご、ごめんなさい」
「ご、ごめんね。まさかこんなに若くて赤ちゃんまで連れてるから、驚いてね」
「…いえ、自分も過剰に反応し過ぎました。失礼しました」
お互いに謝り合ってこの事は水に流す事にして改めて依頼の説明に入った。
「依頼の内容は見ての通りで荷解きを手伝って欲しいのです。妻はこんなお腹ですのであまり動かしたくなくて…」
「私は大丈夫なんですけど、この人がダメだっていうもんですから」
「わかりました。まあ、こんな小娘ですのでそこまで重い物は持てませんが」
「ああいや、大丈夫ですよ。重い物は親戚に協力してもらって運んでありますので。後は食器とか服とかそういう軽い物だけですので」
大きい物などは既に運び終えて後は細々とした物だけのようだ。
ポラリスを背負い直して仕事に入った。奥さんの指示の元、食器を戸棚に入れ、服を棚に入れるなど細々とした生活用品を指示された場所に収納していった。旦那さんと協力して二時間あまりで収納しきった。二人には休んでいてもらってシリウスは箒と雑巾を持って家の中を掃除して周っている。
「…やっぱり僕も手伝うよ」
「いえ、これだけで報酬を貰う訳にはいきませんので。せめて掃除ぐらいはしないと」
「いやでも…」
「いいから座っていてください」
立ち上がろうとする旦那さんの肩を掴んで無理矢理座らせて掃除を再開している。強引なシリウスに何とも言えない表情をする旦那さんとあらあらといった感じで苦笑する奥さん。元々そこまで埃は溜まっていなかったので一時間ほどで掃除は終わった。
「いやあ、本当に助かったよ。荷解きだけじゃなく掃除までしてもらって」
「本当にありがとうございます」
「いえいえ、これも仕事ですので」
仕事も終わって夫婦に見送られながらギルドへ戻っていった。
ギルドに着くと依頼から戻ってきたハンターで賑やかになっていてハンター同士で楽しそうに会話している。その間をすり抜けて受付に向かった。
「すいません、依頼完了の報告に来ました」
「だから早すぎません!?ほんの三時間ほど前ですよ!?」
「三時間もあれば終わるでしょ?」
たかだか荷解きに大袈裟だなとシリウスは思っているが、若い男性職員はもっと家具を運び入れたりと一からの引っ越しの手伝いだと思っているので食い違いが発生している。何はともあれ半紙を職員に渡し報酬を貰ったシリウスは空いている席に座って早速中身の確認をした。
「銅貨は無し。銀貨が一枚。100リクル。荷解きならこんなもんか」
まだ日は高いがこれから依頼をこなすには微妙な時間なので大人しく帰る事にした。宿屋に着き部屋に戻って掃除をしていた時からお昼寝をしていて起きたポラリスをあやしつつ報酬で貰った薬草の本を読んでいる。
「…うん、激ムズだわ。なにこれ、超細かい。何で根っこは薬で、茎は毒で、上から二番目の葉は薬なんだよ。どんなトンデモ植物だよ全く。後、色がトンデモナイな。葉っぱから根っこまで全部青色とか。うわ、こっちの薬草ヤベェな…なんか肉塊みたいでグロい…お、こっちはザ・薬草だな。良かった、普通のもあった」
この世界のトンデモ植物に戦々恐々としつつも役に立つはずなのでドンドン読み進めていく。ポラリスも参加して夢中になって読んでいて気が付いたら外は暗くなっていた。
「…おっと、もうこんな時間か。ポラリス~ご飯食べるぞ~」
「あ~」
そうしていつものように酒場でご飯を食べて、歯を磨いて、ベッドで仲良く並んで眠った。
翌朝、今日は武器と靴ができる日なのでそれに合わせてハンター用の服を着た。
また大騒ぎされても困るのでフードを被ってポラリスを外套の中に隠してコソコソと宿を出た。本人は至って真剣に隠密しているつもりだが、日の高い朝に黒い外套を被って早足でコソコソと移動する姿は非常に目立っていた。それでも通報されないのは治安が非常に良い事とハンターの店の方へ向かったからハンターだと思われたからだ。
まずは近い方から向かう事にしマロスとコニーの店に足を運んだ。店に入るとちょうどミネアがコニーと楽しそうに話しているところだった。
「いらっしゃい…あらあらまあまあ!すごく似合ってるじゃない!」
「そうでしょそうでしょ!すごい似合ってるでしょ!」
ミネアとコニーは手を取り合ってはしゃいでいた。
シリウスは何とも言えない表情でそれを見ている事しかできなかった。
「…えー、それで頼んでいた靴の方はどうなりましたか?」
「うふふ、とっておきのが出来たわよ~」
コニーは奥から靴を持ってきて受付の上に置いた。魔物の革をメインに使われたブーツでシリウスが今着ているハンター用の服にも合うように作られている。
「泥で汚れてもすぐに洗い流せるようになっているわ。もちろん悪路なんかでもへっちゃらよ。それに頑丈に作ってるからそのまま蹴っても早々壊れないから安心してね」
出来上がった靴は服と同様にどう見ても駆け出し用ではなかった。
シリウスはこの後言われる言葉を容易く予想できて遠い目をしている。
「その…二人が張り切っちゃってね。色んな素材を使っちゃって…その、うん、ごめんなさいね」
「…いえ、何となく想像つきましたから。それでお代は?10000リクルですか?」
「………うん」
「はあああぁぁぁ…」
予想してたのでそこまでダメージは無かったがこうまで予想通りだと深い溜め息も付きたくなった。コニーは非常に申し訳ない表情をし、ミネアは自分もやってしまった手前気まずくなり顔を逸らしている。服の時もそうだが10000リクルも払えない事も無いのだが大金故に二の足を踏んでいる。眉間に皺を寄せ頭を抱えながら悩んでいるシリウスを心配してポラリスが手を伸ばしている。
「コニー、コニー」
「なにミネア?」
「支払いを分割にしてあげなさい。あたしもそうしたから」
「はっ!?その手があったわね!」
ミネアはコニーに小声で耳打ちしているが残念ながらシリウスに丸聞こえだった。呆れた表情をしているシリウスにコニーは必死の交渉を始めた。コニーだけが白熱した交渉の末、1000リクルの十回払いとなりミネアの時と同様に支払うタイミングはシリウスに一任、町を出る際は残りを一括払いで成立した。
安堵の溜め息を付くコニーにシリウスは最初の支払いの1000リクルを支払い、その場で履き替えた。サイズはピッタリで履き心地も抜群だ。値段以外文句無しに仕上がっておりシリウスは満足げに頷いている。
「本当にごめんなさい。二人は今、他の仕事で手が離せなくて…後でみっちりお説教しておくから」
「いやもういいですよ。では私はこれで」
「あら、もう行くの?」
「ええ、用事がまだありまして」
二人と別れて次は鍛冶屋に向かった。鍛冶屋に向かう道中でも他のハンター達に注目され自然と早足となった。
「おい、誰だあれ?」
「見ない顔だが…別嬪だ…」
「なーんかどっかで見た気もするんだが…」
「お前もか、実は俺もだ」
「それにしてもカッコイイわね…」
「くっ…この私が少しとはいえときめくなんて…!」
「あんたは何と戦っているのよ…」
後ろで聞こえてくる会話を無視しつつ鍛冶屋へ急いだ。前と変わらず金属を叩く音が聞こえシリウスは鍛冶屋に入っていった。
「失礼します」
「あ?…誰だあんた?」
「三日前に来た小娘です」
「はあ?…ああ、そういや来てたな。ふんっ、見た目だけは一端か」
こちらも前と変わらず口が悪い頑固な職人だった。
「まあいい。そこに置いてある」
店主が言った先のテーブルに短剣が二本と一対の篭手が置いてあった。
篭手は注文していないので他の人の物だろうと短剣の方を手に取り抜いてみた。見た目は片刃の短剣で刀身はブラッドファングの爪を丁寧に研磨されており灯りが反射するほど磨かれている。重さもシリウスが思っていたよりは軽く持ち手も握りやすくなっており、軽く振ってみてもすっぽ抜けるような事は無かった。二本とも同じように作られておりシリウスは両腰のベルトに引っ掛けた。
なんとなく篭手の方を見ると、見覚えがある素材が使われているのに気付いた。
「あの、この篭手…私が渡した牙使ってます?」
「ふんっ、見りゃわかるだろうが。さっさとそれ持ってけ。金は全部で3000だ」
シリウスが篭手を持ってよく見てみると、篭手の外側に牙が付けられていて咄嗟に腕を掲げるとちょうど牙に当たる位置に付いている。盾も魔具も持っていないシリウスにとって生命線にもなるような代物を貰って、シリウスは店主の印象を頑固な職人から頑固で不器用だが優しい職人に改めた。付けてみると見た目より軽くサイズの方もシリウスにピッタリで知らないうちに誰かからサイズを聞いていたようだ。
「ありがとうございます。お金はここに置いておきますね」
「さっさと行け。邪魔だ」
シリウスの方を見ようともせず仕事に戻っているが、シリウスは深々と頭を下げた後お金を置いて鍛冶屋を出た。
防具は揃ってはいないがそれでも最低限の装備は整ったので、シリウスは町の外の依頼を受ける事にした。ギルドへ向かい中に入って壁の依頼書を眺めている。
「いっぱいあるなぁ…えっと、採取系、採取系…あった。薬草集めか、ちょうどいい。…内容も問題無さそう。これにしよ」
他のハンターからの視線を感じつつも無視しながら依頼を手に取って受付に向かった。
依頼は《薬草集め》。足を怪我した薬師の代わりに薬草を集めるという依頼で指定された薬草を一定数集めれば依頼達成だ。
「すいません、これお願いします」
「はい。こちらは町の外での依頼となります。失礼ですが外での依頼は初めてで?」
「?はい」
この前のベテラン職員が受付にいたので依頼書を渡せばいつもと違う対応をされた。
「新人のハンターが外の依頼を受ける際は、慣れるまでベテランのハンターに付き添っていただくようギルドから推奨させていただいてます。これは新人の死亡率を下げるための処置故ですのでご理解ください。どなたか知り合いのハンターはおられますか?」
「え?あ、あー…知り合いというか、名前と顔を知ってるだけというか…そんな人ならいますが…」
「その方のお名前と可能ならランクの方もお教えくださいますか?」
「えっと、ヴァレット・イグナーさんで、確か四級って言ってました」
「ああ、ヴァレットさんですか。彼ならピッタリですね。彼は新人の教導に積極的に協力してくれているのですよ」
「そうなんですね(だから世話好きだったのか)」
「ああ、ちょうどいらっしゃいました。ヴァレットさん!」
話をしていたらちょうどヴァレットがギルドに入ってきたので職員が大声でヴァレットを呼んだ。ヴァレットは他のハンターに挨拶しながら受付に来た。
「よう、俺に用事か?」
「おはようございます、ヴァレットさん。実は新人の教導をお願いしたいのです」
「ああ、構わねえよ。受けてる依頼もねえからな。で、新人っていうのは…」
「ええ、こちらの方です」
「どうも、ちょっとぶりです」
「やっぱり嬢ちゃんか…外に行くのか?依頼は…ああ、これならまあ…一応装備も揃ってるみたいだし。…うん、なんとかなるか」
「そこまで慎重になります?いや、楽観的よりは全然いいですけど…」
ヴァレットがかなり真剣に考えているのを見てシリウスは思わず質問した。
「まあ、確かに考えすぎってのもわかる。俺自身も気にし過ぎではって思う事もあるしな。でもな、何があるかわからねえのが外の依頼だ。薬草集めでも魔物に襲われる事もよくある事だしな。森は魔物達のテリトリーだ。何かあってからじゃ遅い。こうなるかも、ああなるかもって考えてそれに可能な限り備える。俺はそう考えている」
物凄く考えていて、石橋を叩いて渡るように色々な想定をして備える。ハンターの鑑のような考え方だった。
シリウスは感心し思わず拍手するほどだ。それに便乗して他のハンター達も拍手したり声援を送ったりしているが、大半はからかい混じりだ。
「ひゅー!カッコイイー!」
「さすがヴァレットー!」
「やめろやめろ!恥ずかしいわ!」
「おいおい!いい歳したおっさんが照れんなよ」
「そうだぞ。気持ち悪いだけだぞ」
「んだとっ!こいつっ!」
「いてててて!?」
周囲のからかいに反撃し出したヴァレットと痛がるハンターだがほとんどじゃれ合いみたいで一通りじゃれ合ったら自然と解散した
「ふう…悪い、待たせたな。とりあえず準備するか」
「わかりました」
「ではお二人で依頼を受けるということでよろしいですね?」
「はい」「ああ」
「わかりました。採取系は指定された物を一定数採取しそれをギルドに持ち込んでいただければ依頼完了となります。こちらが今回の指定物となります」
職員から渡された紙には薬草の簡単な絵と特徴、必要個数が書かれていた。
ヴァレットと共にギルドを出て互いに準備を整える事にした。
「そうだな…今から一時間後に正門前に集合しようか。必要な物は薬草を入れる袋と採取するためのナイフぐらいだな」
「わかりました。では後ほど」
ヴァレットと一旦別れてシリウスは一度宿屋に戻った。部屋に入りカバンの中を一度全部出して、ポラリスの着替え一式と布とお金の入った小袋と水袋をカバンに入れ腰のベルトに鉈を刺して部屋を出た。薬草を入れる袋はちょうどいい物が無かったので市場で適当な物を買い、ポラリス用にちょっとしたおやつも買って正門前に向かった。少し早く着いたが既にヴァレットは到着していた。
「おう。もう着いたのか」
「ええ。それよりすごい装備ですね…」
「ん?そうか?」
ヴァレットは不思議そうに首を傾げているがシリウスにはガチガチのマジ装備に見えた。
背中に丸く大きな盾を持ち、いつも付けている胸当てではなく金属の鎧を着て、腰のベルトには長剣と小剣と短剣が刺し、後ろ腰のポーチにはポーションをこれでもかと詰め込み、足元に置いてある袋には予備の武器などが入っている。
どれだけ備えているんだとシリウスは思った。
「嬢ちゃん、まだ武器とか持てるか?」
「え?ええ、一つぐらいなら」
「そうか。ならこれをやろう」
ヴァレットが差しだしたのは袋に入っていた予備の小剣だった。
「予備だが手入れはちゃんとしてある」
「いやいや、受け取れませんって」
「いや、持っとけ。その短剣も悪くは無いがやっぱり攻撃を受けるには心許ないし、その鉈は正直論外としか言えん。それにこのショートソードは安物だから気にするな」
「いやそういう問題は無くて…ああ、もう。わかりました、ありがとうございます」
真剣な顔をしているので受け取るまで差し出し続けるヴァレットが容易に想像できたのでシリウスは折れるしかなかった。
渡された小剣は使い込まれているもののヴァレットの言う通りちゃんと手入れもされていて刃毀れなどは無く重さもシリウスでも振るえるほどだ。左だと抱えているポラリスに当たるかもしれないので小剣を右の腰に刺した。全ての準備が整ったので二人は正門から外へ出た。
「おう、ヴァレット。依頼か?」
「ご苦労さん。ちょっくら森に行ってくるぜ」
「気を付けてな~」
門番に見送られながら二人は森へ向かった。
ようやくハンターらしい仕事ができるのでシリウスは内心ワクワクしながらヴァレットの後に続いている。だがそのワクワクも消える出来事が訪れようとしている事にはまだ誰も気づいていない。