転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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続きをどうぞ。




第十七話

 

 ヴァレットとシリウスに加えて五人のハンターが森の中を駆けている。

 ゴブリンの大群がターエル近郊に迫っている事を知らせるべく大急ぎで町に戻っている。ヴァレット達ベテランハンターは悪路でも走り慣れているが、新人ハンターであるシリウスはそうはいかない。荷物を持ってもらっても誰よりも遅く、ポラリスも抱えているので全力で走れずドンドン遅れている。

 

「…仕方がない。失礼!」

「え?ぬおっ!?」

「「「ああっ!?」」」

「マジか…」

「ああ~…やっぱこうなるか」

 

 シリウスは青髪の青年に横抱き、つまりお姫様抱っこで運ばれている。女性陣は悲鳴に似た声を上げ、ヴァレットは驚きで目を見開き、金髪の大男はこうなるのではと思っていたのか呆れた表情を浮かべている。

 そしてシリウスは恥ずかしくて顔を赤くする…

 

「ふえええぇぇぇ…」

「おお~、よしよし。大丈夫だぞ~」

 

 …事も無く見知らぬ人が近くにいる事で泣き出したポラリスをあやしていた。

 

「むっ?泣かせてしまったな、すまない」

「ああいえ、大丈夫ですよ。ちょっとビックリしただけですので」

 

 お姫様抱っこをしている方もされてる方も現状に特に疑問を持っておらず、甘酸っぱい空気など一切無く普通に会話をしていた。女性陣はそれを見て力が抜けたがそれでも羨ましいのか視線を外さず、ヴァレットと金髪の大男はこんな時に何しているのかと溜め息を吐いている。割と深刻な事態が迫っているのに妙に抜けた空気のまま森を抜けて町へと向かっている。

 

「…ん?どうした、そんなに慌てて?」

「ゴブリンだ。ゴブリンの大群が近くまで来ている。すぐに警戒を」

「な、何!?っそうか、大移動か!分かった!すぐに鐘を鳴らす!」

「おーい皆!急いで町に入れ!ゴブリンが近くまで来てるぞー!」

 

 青髪の青年が門番にゴブリンの接近を知らせると門番は鐘を鳴らしに走ったり、町を出入りする人に声を掛けたりとにわかに騒がしくなった。鐘は緊急事態を知らせるものでそれが鳴りだすと声の届かない場所にいた人達はギョッとした顔になった後、大急ぎで町に逃げ込むように走っている。町の人達や詰所にいた兵士やハンター達にもその音が届き町中があわただしく動き始めた。

 

「全員装備を整えて壁の上に移動しろ!急げ!」

「「「「「ハッ!!」」」」」

 

 詰所にいた兵士達が外に全員並んで隊長が指示を出した後、弓矢や槍を取りに走り出した。

 

「俺達はギルドに急ぐぞっ!」

 

 シリウス達は通りを走りギルドを目指した。ギルドに着くと既にハンター達が集まり始めていた。

 

「どうした!何事だ!」

「ゴブリンの大群だ。近くまで来ている」

「っ、大移動か!」

 

 白髪の初老の男性に青髪の青年は事態を告げた。

 

「ターエルにいる全ハンターに告ぐっ!ターエル支部ギルド長から緊急依頼だっ!ゴブリンから町を守れっ!」

「「「「「オオオォォォ!!」」」」」

 

 ギルド長が拡声器状の魔具を使いターエルにいる全ハンターに声を届けている。ハンター達は装備を持って広場に集まり数人がリーダー役となってそれぞれ配置を決めている。

 

「俺は北側に付く」

「私達は西側に行くわ」

「ならワシ等は東に行こう」

「俺達は南側に付く。何かあれば伝令を走らせてくれ」

 

 どの方角から来るかわからないので全方位を警戒すべく担当エリアを決め動き始めた。

 

「皆、俺達は南側だ。急いで準備するぞ」

「俺も行こう。嬢ちゃんは住民と避難しとけ。間違っても来るなよ」

「大丈夫、わかってますよ。自分では足手まといですから」

 

 持っていた素材を置いて担当エリアへ走っていったヴァレット達を見送ってからシリウスは素材を引き摺りながら宿屋に戻った。

 宿屋では宿泊客や従業員が急いで荷物を纏めて避難しようとしている。

 

「ああ嬢ちゃん!無事だったのかい!?なら急いで準備しな!ゴブリンが来るよ!」

「わかりました。どこに避難するんですか?」

「町の中央の館だよ!皆、そっちに向かってるからすぐにわかるよ!急ぎな!」

 

 女将は慌ただしく必要最低限の荷物を纏めていたので、シリウスも急いで部屋に戻った。素材は部屋に置いていく事にし薬草は怪我人が出たら使えるかもしれないので持っていく事にした。服など掴んでカバンに突っ込んで急いで宿を出た。

 避難する人の後に付いていき町の中央にある町長の館へ向かった。現町長は初代町長の意志を受け継ぎ町のために尽力している極めて善性ある男性で、今回のような町に危機が迫った時は避難場所として自分が住む館を指定している。もちろん館一つでは入りきらないので町の中央付近の建物に分散させている。

 

「落ち着いて!まだ場所はありますから!」

「そろそろこちらは満員になります!そちらの建物の方へ向かってください!」

「おい!早く入れろよ!ゴブリンが来てるんだぞ!?」

「止めろ!押すな!」

「うちの子を見かけませんでしたか!?金色の髪の女の子なんですけど!?」

 

 避難場所は住民達が集まりギルド職員や役所の職員が必死に避難誘導をしているが危機が迫っているので皆パニックを起こしている。シリウスは巻き込まれないように集団から少し離れた所で待機している。

 

「こりゃヤバイな…完全にパニックになってる」

「ふえええぇぇぇ…」

「ああ、大丈夫。ポラリス~、大丈夫だよ~」

 

 シリウスは人々の怒号で泣き出したポラリスをあやしながらその場を離れた。離れると言っても中央付近に留まっており、ただ怒号をポラリスに聞かせたくなかったので離れている。

 あやしながらガランとした大通りを見ていると先程避難してきた母親が叫んでいた迷子らしき子供が泣いているのを見つけた。時々避難してくる人もいるが誰もが自分の事で手一杯らしくチラッと見たがそのまま通り過ぎている。手隙なのは自分だけだし泣いている子供を放置できるほど薄情では無いのでシリウスは泣いている子供に近づいた。

 

「どうした~、大丈夫か~?」

「うえええぇぇぇん…!ママぁ…!」

「うーん、こりゃダメですね…よしよし、大丈夫。お姉さんが一緒にいてあげるから」

 

 金髪の可愛い女の子がシリウスの声に反応する事無く泣いており、シリウスはそんな子を優しく頭を撫でている。撫でられて一瞬ビクッとした女の子はシリウスを見た。優しい笑顔で頭を撫でてくれるシリウスを見て女の子はべそをかきながらも泣くのを止めた。

 

「ママと逸れちゃったのか?」

「ひっく、ぐすっ、うん…ママぁ…!」

「うんうん、大丈夫。お姉さんが一緒にいてあげるからな。落ち着いたら一緒にママを探してあげる」

 

 女の子の手を引いて歩きだそうとしたが、ふと居住区の方を見たらまた泣いている子供がいた。見てしまった以上放置できないので女の子の手を引いたままその子の元へ向かった。そしてその子も慰めて歩き出そうとしたら泣き声が聞こえ、向かうとまた子供を見つけて、を繰り返して計七人の迷子を抱える事になった。

 皆べそをかいており、それに釣られてポラリスも半泣きになっておりシリウスは天を仰いでいる。

 

「(私も泣きたい…)」

「ひくっ…」

「うぅ…ママぁ…!」

「よしよし。パパとママはきっと見つかるから」

「ぐすっ、うあああぁぁぁん!」

「ママぁ!うわあああぁぁぁん!」

「おっふ、また大合唱…あ~ほらほら、大丈夫だから、な?」

「ふえええぇぇぇ…」

「ポラリス、お前もか…ヘルプミ~」

 

 子供達の大合唱が始まりそれを収めようとシリウスは奔走しているが、終わったと思ったら不意に誰かが泣き出してそれに釣られて、を繰り返している。

 再び天を仰ぎ助けを求めるシリウスだったが、残念ながら天はシリウスを見放した。

 

「…なにこの状況」

 

 だが人はシリウスを見放さなかった。

 声がした方を向くといつぞやにシリウスが依頼で訪れた薬屋の店主が大荷物を持って立っていた。

 

「ヘルプミ~」

「?」

 

 シリウスと薬屋の店主が子供達を泣き止ませようと奔走し避難が遅々として行われていない中、壁の上や門の近くでは兵士やハンター達が集まって迎撃準備を整えている。

 弓が使える者は全員壁の上に集まり、壁の上には矢の他に石が大量に集められていて、屈強な男達も投石の準備をしていた。

 

「っ!来たぞー!南側だー!」

 

 見張りに付いていた兵士の声に現場に緊張が走った。

 森の奥からゴブリンが次々と現れ百を超えてもまだ出てきている。

 

「おいおいおい!?どんだけ出てくるんだよ!?」

「とんでもない数だな…きっといくつかの大移動が重なって合流したんだろう…」

「そんなことってあり得るのか!?」

「過去に何回かはあったらしいが…」

「今はそんな事言っても仕方が無い!それより気合い入れろ!」

「ほ、ほんとに勝てるのか…?」

「泣き言を言うなっ!今更どこへも逃げられん!戦うしかないのだ!」

 

 弱音を吐く新兵に喝を入れる隊長だが隊長も内心不安を感じている。今までも何度か魔物やゴブリンの襲撃はあったがここまでの規模の物は初めてだった。

 

「…すまんがあんたらが頼みだ。任せてもいいか?」

「もちろんだ」

「こんないい町をあいつらに滅茶苦茶にされてたまるかってんだ」

「任せてちょうだい。全力でぶっ放すわ」

「ゴブリンなんて俺達の敵じゃねえぜ!」

「そうだ!俺達の住む町に手を出した事を後悔させてやろうぜ!」

「皆!必ず守りきるぞ!」

「「「「「オオオォォォ!!」」」」」

 

 魔物退治のプロフェッショナルであるハンターだがゴブリンとも幾度も戦った事がある者が多い。気合十分なハンターを見て怖気付いた兵士達も恐怖を感じつつも目に力が入っている。

 その間にもゴブリンの数はドンドン増し、数百を超える数にまで膨れ上がった。その数百を超えるゴブリンは戦闘要員で後ろの方には年老いたゴブリンや子供のゴブリンなどの非戦闘員もいて総数では数千ほどいる。

 ハンターの言葉通りいくつかの大移動が重なり、それぞれの群れのボス同士の協議の結果、連合を組み近隣の町を攻める事になった。すでにいくつかの村が襲撃され壊滅している。

 ゴブリン達は住処としてターエルに目を付けこうして奪い取ろうと集まっている。ターエル周辺は山の幸が豊富で肥沃な大地もあり、数千を超える数を食べさせる事も可能だ。実はゴブリン達は物資の余裕があまり無くターエルを落とせなければ飢える者も出始めるほどまで追い込まれている。そのため必ずターエルを手に入れると不退転の覚悟を持ったゴブリンも多くいる。

 どの世界でも、どんな種族でも、家族を食べさせていくために必死になるのは万国共通である。

 

「報告!東側にもゴブリンが接近!数は約百!」

「報告!西側にゴブリンを発見!数は五十あまり!」

「ほ、報告!北側にゴブリン!数は木々に遮られて正確な数は不明ですが数十はいるとのこと!」

「っ!奴ら、どうあってもここが欲しいらしいな」

「それだけ向こうも追い込まれているやもしれん」

「確かにな…あれだけが全部じゃねえ。後ろにもっといるはずだ」

「それだけの数を食べさせるにはここが必要不可欠か」

「…じゃあなに?あいつら、決死で向かってくるってこと?」

「だ、大丈夫なんですか?」

「…正直かなり厳しい戦いになるかもしれん」

 

 次々に入る報告からゴブリン達の厳しい状況を把握したが、それによりゴブリン達がなりふり構わず襲ってくる事が判明した。

 想像以上に厳しい戦いになる事にハンター達は険しい表情を浮かべ、兵士達は青い顔を浮かべる者も出始めている。

 

「(この空気、マズいな…仕方が無い)…皆!聞いてくれ!」

 

 青髪の青年が場に漂う絶望感を払拭するために声を張り上げた。

 

「確かに状況は悪い!ゴブリン達は決死の思いでこちらに向かってくる!数も今まで戦ってきた中でも群を抜いている!」

 

 青年の言葉に気の弱い者はさらに顔色を悪くし今にも倒れそうになっている。

 

「だが!ここには俺達がいる!俺達“ヴィクオール”が!ここにいる!」

 

 青髪の青年が言ったヴィクオールと言う言葉に反応する者が出た。

 

「ヴィクオールだって!?知ってるぞ!王都の凄腕ハンターのチームだ!」

「じゃ、じゃあ!あんたがあの“四剣のルゥト”か!?」

「なんだ?凄いのか?」

「凄いなんてもんじゃねえ!属性付与の魔法を四つも使えて剣も滅茶苦茶強いんだぞ!?」

「噂じゃ軍の強い奴相手にも勝ったって話だぞ!」

 

 ハンター達が語る青髪の青年―――ルゥト・エルグリードの数々の逸話を聞き兵士達の目に希望が戻ってきた。

 

「ならそこのデッカいのが“大酒喰らいのゴルド”!?」

「おい!?何で俺だけそっちの方なんだよ!?“鉄砕き”でいいじゃねえか!?」

「え、いや…だって俺そっちの方しか聞いた事ないし…」

「聞いた話じゃ酒場の酒全部飲み干したって言ってたぜ?」

「マジかよ…ヤベエな」

「何で俺だけこんな扱いなんだよおおおぉぉぉ!?」

 

 金髪の大男―――ゴルド・リッドンは自身のオチ扱いに納得いかず嘆き叫んでいた。場の空気がいい感じにかき乱され漂っていた絶望感もかなり薄まった。

 

「ははっ…皆、いつも通りやろう。そうすればいつも通り勝てる。気負う事は無い。例え強い奴が出てきても俺達、ヴィクオールが何とかする。だから大丈夫だ!必ず勝つぞっ!」

「「「「「オオオォォォ!!」」」」」

 

 ルゥトの言葉にその場にいた全員が拳を上げて吠えた。絶望は消え、絶対に勝つという希望が生まれた。

 

「ふぅ…上手くいって良かった」

「ま、まあ、良かったと思うぞ?」

「そ、そうね」

「ルゥ君、とっても良かったよ♪」

「そうか。君達にそう言ってもらえてよかったよ」

「「「…」」」

「やれやれ、こっちもいつも通りか…」

 

 金髪の女性―――レネイ・ピュリア・リーネンドと銀髪の女性―――セレム・ルドフスクが頬を赤く染めながら少しどもりながら褒めて、薄青髪の女性―――ミラミス・リウルトが優しく微笑みながら褒めて、ルゥトは褒めてくれた三人に微笑みながら礼を言うと三人は顔を赤くして顔を背け、ゴルドはいつものやり取りを見て苦笑している。

 ご覧の通り、レネイとセレムとミラミスはルゥトに好意を持っており、ルゥトはそれに全く気づいていない。

 普通なら痴情の縺れでギスギスした空気になるが、そんな空気を僅かにでも醸し出すと喧嘩をしているとルゥトが勘違いして仲裁してくる。喧嘩の原因は言えず黙ってしまうがルゥトが喧嘩はしないでくれと悲しそうな表情で言い出すので三人はそういう空気は出さないと協定を結んでいる。やるにしてもルゥトが見ていない所で喧嘩しており、その時はゴルドがあの手この手で何とか収めている。

 

「さて、俺達も配置に付こう」

「おうよ」

「わかった」

「任せて」

「頑張ります!」

 

 特に気負う事なく自分のすべきことをするためにそれぞれ配置に付いた。

 町を守るための戦いが始まる。

 

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