転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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お待たせしました。
ターエル防衛戦の始まりです。
それではどうぞ。


第十八話

 

 町に迫るゴブリンとそれを迎撃するハンターと兵士達。

 ゴブリン達は陣形など組まずにただ整列している。すると中央から明らかに他より身体が大きいゴブリンが数体でてきた。

 ゴブリンは子供ぐらいの身長しかないが、人間でも時折普通より大きい人間がいるのと同じでゴブリンにも普通より大きいゴブリンが出てくる事がある。大きいという事は他の普通の大きさの者より力が強く、今までのボスを倒して新たなボスとなる事がよくある。

 

「「「「「グオオオォォォ!!」」」」」

「「「「「ゲギャギャギャ!!」」」」」

「「「「「グギャギャギャ!!」」」」」

 

 ボス達が手に持つ武器をターエルに向けて吠えると配下のゴブリン達が一斉に吠え出しターエル目掛けて突進していった。

 木でできた粗末な盾を構えて真っ直ぐ突き進むゴブリンと木の板を頭の上に持ち上げて進むゴブリンがいる。明らかに弓を警戒している姿で、それらに囲まれて木の枝で作られた梯子を持ったゴブリン達もいる。ゴブリンは亜人としては知能がそれなりに高く稚拙ながらもこうやって戦術を使う事もある。

 

「盾など使いおって生意気な!」

「こりゃ弓は後だな。魔法隊!準備はいいか!?」

「いつでも!」

「こっちもだ!」

「凄いのをお見舞いしてあげるわ!」

「よし!魔法、撃てー!」

「【ファイアーボール】!」

「【ライトニング】!」

「【フレイムアロー】!」

 

 ハンター達が魔法を唱え、火の球や雷や火の矢がゴブリン達に降り注いだ。

 

「「「「「ギギャアアアァァァ!?」」」」」

「「「「「ギギィ!?」」」」」

 

 火に焼かれ、雷に貫かれてゴブリン達は阿鼻叫喚に陥っている。魔法相手では木でできた盾などは無意味でむしろ延焼して火傷を負うゴブリンが多数いる。

 

「よし!浮足立っている今が好機!弓構えー!撃てー!」

 

 隊長の掛け声と共に一斉に矢が放たれ、混乱しているゴブリン達に次々刺さっている。だがゴブリン達もやられっ放しではなく短弓を構えて撃ち返してきた。半分以上は届かなかったり壁に当たったりしているが、十数本は壁の上に届いている。

 

「う、撃ってきた!」

「危ね!?」

「ぐあっ!?」

「くっ!怯むなぁ!撃ち続けろっ!負傷者は後ろに下がれ!」

 

 矢の応酬が続いている間にもゴブリン達は落ち着きを取り戻し再び壁に取りつこうと前進している。矢と魔法で防ごうとするが数が多く壁に取りつかれた。ゴブリン達は壁に梯子を掛けて登り始めたがその上から石が落ちてきた。

 

「グギャ!?」

「ギャギャア!?」

「おら!くらえ!」

「この!この!」

 

 石を投げ付けられ落ちていくゴブリンだが、それに怯む事無く次々と登っていくゴブリン達。必死に応戦していたがついにゴブリンに登られてしまった。

 

「グギャアアアァァァ!」

「うわぁ!?来たぁ!?」

「来るな!?来るなあああぁぁぁ!?」

「落ち着け!手隙の者は登ってきたゴブリンを倒せ!他はそのまま撃ち続けろ!」

 

 一体、また一体と壁の上に登られ、慣れていない兵士はそれだけで混乱し隊長の命令も聞こえない状態だった。

 

「なにやってんだあああぁぁぁ!」

「グギャアアアァァァ!?」

 

 壁の上に登られた事を察知して急行したゴルドが斧でゴブリンを叩き斬った。そのまま次々とゴブリンを斬り倒していき兵士達が立ち直る時間を稼いでいる。

 

「大丈夫か!?落ち着いて相手の動きを見ろ。そうすれば対処できる」

「わ、わかった」

 

 ヴァレットが混乱した兵士を落ち着かせ、ゴルドの手助けに向かった。ゴルドとヴァレットに続いてハンター達が続々と壁の上にやってきた。

 

「半分は上に!もう半分はこのまま待機!」

「俺は上に行く!」

「おう!ここは任せろ!」

 

 ハンター達は部隊を別け半分は壁の上の救援に向かった。

 壁の上は登ってきたゴブリンとの死闘が繰り広げられているが若干人間側が優勢である。ゴブリンは人間の子供ほどの身長しかなく力も個体差はあるものの人間と真正面からやれば敵わない。体格でも力でも負けているが身軽な動きで攻撃をかわしておりそして対処の難しい足元からの攻撃で人間を翻弄している。さらに複数で当たっており人間側にも被害が出ている。

 

「ええい!ちょこまかと!」

「ぐわあ!?」

「ちい!離れろ!大丈夫か!?」

「くそ!油断した!だがまだ行ける!」

「前に出過ぎるな!一体ずつ確実にやれ!」

「それじゃいつまでも持たねえぞ!?」

「だが他に方法は無い!やるしかないんだ!」

 

 手慣れたハンターであっても数の暴力に押され徐々に被害が拡大している。そしてついに兵士とハンターの隙を突かれて突破を許してしまい内部に入られてしまった。

 

「はいらっしゃい!」

「ギギャア!?」

 

 だが待機していたハンターに出待ちされて即行で倒された。

 

「さあドンドン来るぞ!気合いを入れろ!」

「「「「「オオオォォォ!!」」」」」

 

 ゴブリン達は壁の上で戦う者と町に侵入する者と別れて行動しだしている。一度空いた穴を埋められず次々と町に侵入を許しているが、下で待機していたハンター達によって水際で食い止められている。剣で切り裂き、槍で突き、斧で叩き斬り、鎚で潰し、魔法で吹き飛ばしている。だがいかに彼らが強くても波のように押し寄せるゴブリンに徐々に疲弊していっている。

 

「くっ!?ここまでやるとはな!」

「やはり数は如何ともし難いな…!」

「ぼやいている場合か!?」

 

 全員目の前の敵に集中しており、それゆえに気づけなかった。

 数体のゴブリンが物陰に隠れてハンター達の隙を付き町の奥へ走っていった事に誰も気づかなかった。

 ゴブリン達との死闘が繰り広げられている中、シリウスはようやく子供達を泣き止ませる事ができた。

 

「ぜー、ぜー…た、助かりました…」

「ひー、ひー…き、気にしないで…」

 

 手伝ってくれた薬師の店主にお礼を言うが二人とも疲労困憊で息絶え絶えになっていた。二人が呼吸を整えている間も子供達を見ているが、皆不安そうな顔をして二人の服を掴んでいるものの泣く事は無かった。

 数分後、ようやく落ち着いた二人。

 

「ふぅ…ところで、何で避難しないの?」

「いや、今ごった煮状態でして…」

「…あー、あそこには、行きたくないね…」

 

 呼吸が落ち着いたので前と同じように途切れ途切れに話すようになった薬屋の店主。未だに避難場所に入れない町民達で溢れているのを見てシリウスの言葉に納得し、少し離れた所で子供達と共に地面に座っている。

 

「それにしても…大荷物ですね」

「ん?まあ、あれもこれもって、詰めてたら、こんなになってた。他の人は、誰も手伝ってくれなかった。悲しい」

 

 避難する場合は必要最低限の荷物を持つのが普通なのだが、薬屋の店主は真逆を行っていた。大きなリュックサックみたいなカバンにこれでもかと詰め込まれており、それとは別に両手にもパンパンになったカバンを持っていた。中身は薬草やポーションの他に、手に入れるにはかなりの労力と時間が必要になるぐらい貴重な本や薬品が入っている。そんな貴重品を置いたままにするのはできず、カバンに詰めに詰めたところこんな大荷物となってしまった。

 

「…ん?」

「どした?」

 

 シリウスは薬屋の店主と話していたらそれに気づいてしまった。

 会話しながら先程と同じように大通りを何気なく見ていたシリウスだったが、そこに緑色の影を見つけてしまった。数体のゴブリンが武器を持って辺りを見回していた。

 

「!?」

「え?ほんとどした?…!?」

 

 焦燥に駆られた表情で立ち上がったシリウスを見ていた薬屋の店主はシリウスの見ている方向を見て表情を凍らせた。二人を見て子供達も視線を向けてしまい、そしてゴブリンを見つけてしまった。

 

「うわあああぁぁぁ!?」

「ママあああぁぁぁ!?」

「ちょ!?み、みんな、おち、落ち着いて…!?」

 

 先程より酷く錯乱したように泣き出した子供達の声は避難できずにいる町民達にも届いた。

 

「!?なんだ…!?うわあああぁぁぁ!?ゴブリンだあああぁぁぁ!?」

「嘘だろ!?あいつら何やってんだよ!?」

「入れろ!?早く入れろ!?」

「そこ退けよ!?」

「み、皆さん!?落ち着いて!?落ち着いてくだ、がっ!?」

「うるせえ、退け!」

「入れて!?入れてよおおおぉぉぉ!?」

 

 混乱がさらに激しくなり誘導していたギルド職員や役所の職員が止めるものの逆に殴り倒された。建物に雪崩れ込むように入ろうとして互いに押し合って、ほとんど暴動になっている。

 その怒号が聞こえたのかゴブリン達は避難場所の方を向き真っ直ぐ向かっている。この町では戦える者は兵士とハンター以外にはほとんどおらず、今この場に戦える者はたった一人しかいない。

 シリウスは腕の中のポラリスを見た。

 泣きそうな顔をしておりシリウスの服をギュッと力強く握っている。それだけシリウスを信頼し心を許している証拠だ。

 それを見てシリウスは覚悟を決めた。

 

「…すみません。この子をお願いします」

「え?ちょ、ちょっと…な、何する気…?」

 

 ゴブリンが迫ってきてパニくっていた薬屋の店主は覚悟が決まった表情でシリウスからポラリスを託された。混乱している頭では何も考えられず素直に受け取ったが、絶対良からぬ事をしようとしている事だけは分かった。

 

「ま、待って…!ほ、ほんとに、何する気…!?」

「決まってるでしょ?」

「ま、まさか…!?」

 

 羽織っていた外套を脱ぎ捨て、小剣を抜いたシリウスを見て薬屋の店主は察してしまった。誰もが恐慌状態に陥っており、誰もが自分の事だけを考えている中で、シリウスはたった一人でゴブリンに立ち向かおうとしているのだ。

 

「だ、ダメだよ…!?あ、危ないよ。ほ、ほら、他のハンターが、きっと来てくれるからさ…!」

「それっていつ来ます?それよりあっちが来るのが早いですよ」

「で、でも…!」

 

 シリウスの身を案じて必死で止めようとするがシリウスは止まろうとしなかった。

 

「あー!あー!」

 

 薬屋の店主の腕の中にいるポラリスが泣き喚きながらシリウスに手を伸ばしている。

 ここまで泣くのは二人が初めて出会った以来だった。それからは泣いてもシリウスが優しくあやし、不安になったり怖くなってもシリウスが抱き締めてくれた。そんなシリウスが自分を置いてどこかへ行く。

 いやだ。いやだ。そばにいて。だきしめて。

 そう言うように泣きながらシリウスに手を伸ばしている。

 

「ほ、ほら。この子も、行かないでって、言ってるよ…?」

「…」

「だ、だから。ね?」

「…その子を守るために行くんです」

「っ!」

 

 シリウスの言葉に薬屋の店主は二の句を告げられなかった。

 そしてシリウスは後ろ髪を引かれる思いを振り切るようにゴブリンに向かっていった。

 

「!だ、ダメ!」

「あー!あああぁぁぁ!!」

 

 遠くなっていくシリウスをポラリスはただ泣いて手を伸ばすしかできなかった。

 後ろの方でポラリスの泣く声が聞こえる。

 泣かせてしまったという後悔が生まれるが、シリウスは足を止めなかった。ポラリスを守るためにはこれしか思いつかなかった。

 ゴブリンと戦う事に恐怖はある。森で戦った時と違い味方がおらずあの時より数も多く、さらにポラリス以外に守らなければならない対象も多い。

 それでも足は止まらなかった。自分が死ぬかもしれない事よりもポラリスが傷つく事の方が怖かった。

 

「すっかり絆されちゃったな…最初は厄ネタだって思ってたのに」

 

 自分のチョロさに笑いが込み上げてくるが、そのおかげで充実した日々を送ってこれた。ポラリスを守る。そう考えると絶望的な状況でも無限に力が湧いてくる気がしてきた。

 

「こっからは通さんぞ…!」

 

 シリウスは気合いを入れ直してゴブリン達に突撃していった。

 シリウス対ゴブリン数体、たった一人での無謀な戦いが今始まる。

 




いつもより短めですがキリが良いので今回はここまでです。
いいところで切ってしまい申し訳ない。
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