森の中を茶髪の少女が歩いている。
腕の中には少女の上着をおくるみ代わりに着せた赤子が抱かれている。
道順は分かるが、慣れない土地と歩きなれていない森の所為で数十分経っても未だに村に辿り着けていない。
「森、森、森。見渡す限り森しか見えん…道、間違えたか?」
「う~?」
「ん?何でもないぞー、ほーれほれ」
不思議そうな顔で少女を見上げる赤子を適当に誤魔化しながらあやしつつも若干不安が過ぎっている。不安に駆られながらも草木を掻き分けていたら、ようやく土でできた道に出る事ができた。
ようやく事態が好転し歩きやすくもなったので、少女は安堵の溜め息を吐いた。
…と思ったがここに来て重大な事態に気付いてしまった。
「やっべ、こいつの家族とかにどう説明しよ?絶対中身が違うってバレちまうよ」
間違いなく自分達の娘が、自分達が知っている娘じゃなくなっていると家族は感づくだろう。そうなれば村中に広がりあっという間に村八分にされ追放される、もしくは私刑にあいそのままDeadEndなんてことにも成りかねない。
「転生したと思ったら即行でゲームオーバーとか全く笑えん…!くっ!何か、何か無いか…!?」
少女は焦り出し顔を顰めて必死に打開策を考え出し、歩く速度が極端に落ちた。
少女の焦った顔を見て赤子は段々と泣きそうな雰囲気を醸し始めぐずり始めた。
「ふええぇぇぇ…」
「あぁ、泣くな泣くな、俺?だって泣きたいのに…ん?」
赤子が泣きそうなのをあやしていたら、少女は何かに気付いた。
ゆっくり歩いていたが気が付いたら村が見える所までやって来ていたのだが、その村の様子がどう見てもおかしかった。
見える所まで近付いたというのに生活音や話し声なども聞こえず、人の気配すら無い。そして最大の違和感がどこからどう見ても明白だった。
「煙?えっ?火事?」
黒い煙が村のあちらこちらから上がっており、何かが燃える臭いが伝わってくる。
少女は慌てて村へ向かい、村の入り口近くに合った岩の陰から様子を窺った。
そこには地獄が広がっていた。
鋭利な刃物で背中を斬りつけられた男性の死体。首を切り落とされた女性の死体。尖った物で何度も刺された老人の死体。生きながら焼かれた黒焦げの死体。
死体、死体、死体、死体の山がそこには在った。
「っ!?うぐっ…!?」
それらを見て認識した瞬間、喉の奥から胃液がせり上がってきた。少女は蹲り口を抑えて吐き気に必死に耐えていた。赤子は既に半泣きでぐずっているが、少女がそれに構う余裕は無かった。数分後、何とか吐き気が治まったが顔色は悪く身体は小刻みに震えている。
「ふーっ、ふーっ(落ち着け。大丈夫だ。こう思え。あれはただのリアルな人形。ドラマでよくある死体の人形。見なければいい。大丈夫だ)」
「ふええぇぇぇ…っ!」
「ふーっ、んぐっ、だ、いじょ、ぶだ。大、丈夫」
泣いている赤子に声を掛けながらあやしつつ、自分にも言い聞かせて平静を取り戻そうとしている。さらに数分後、ようやくある程度落ち着いてきたのでノロノロと立ち上がった。
村の惨状を確かめるためにおそるおそる村の中に入っていった。
道端に転がる死体、燃え落ちた家、未だに燃えている家、壊された柵、完全に壊滅状態だ。地面には大勢が歩いたかのような足跡や馬の蹄の跡が残されており、人間の集団に襲われたようだ。車輪の跡のような物もあり荷車みたいな物があったらしく村の外へ続いており明らかに何かを略奪している。状況からこの村は盗賊の集団に襲われ村民は皆殺しにされ、金目の物や食料などを略奪されたようだ。
少女は死体に近付こうとせず大回りしながら村の奥へ進んでいった。誰か生き残りがいないかという僅かな可能性と、この少女の事が分かるような何かは無いかという可能性を確かめるためだ。
少女の記憶を頼りに自宅であろう家へと向かった。幸運にも家は燃えていなかったが、ドアは壊されていてここも漏れなく襲撃にあっている。
ゆっくりと家の中を覗いたがすぐに視線を天井に向けた。
分かっていた事だったが少女の家族であろう死体が二つ転がっていた。
それだけでなく盗賊であろう男の死体が一つあった。
おっかなびっくりゆっくりと家の中に入り、死体の顔を見ないようにしながら死体を見てみた。胸にナイフが突き刺さっており、少女の父親が家族を守ろうと決死の覚悟で抵抗したのであろう。
だが今の少女には家族の記憶は無くただの死体としか見れていないので若干の罪悪感が芽生えている。
「(この二人ぐらいはちゃんとお墓作ろうかな?)ん?」
未だに死体に慣れておらず、口を開くとまた吐き気が出るのではと思い、心の中でキチンと埋葬しようと決めた。
そうしていたらふと外から音が聞こえた。
燃えている音ではなく何かが動くような、そんな音が外から聞こえている。
「(生存者がいた?いや、人の歩くような音じゃないな…動物か?牛とか馬ならいいんだけど。熊とかじゃないよな?)」
人が歩くような音ではなく、もっと重量のある生物が歩くような音が外から聞こえている。連れていかれずに残った家畜か、血の臭いに引き寄せられた動物か、できるなら前者であって欲しいと思いながら少女は家の外を見た。
家畜か、動物か、そのどちらでも無かった。
「グルルルル…」
そこにいたのは腹を空かせた化け物だった。