転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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続きをどうぞ。


第二十一話

 

 ゴブリンとの戦いは人間が勝利した。

 だが勝ってもそこで終わりではなく負傷者の手当てや遺体の回収にゴブリンの死体の後始末などやる事はたくさんある。余裕がある者は既に動き出しているがまだ大多数はその場に座り込んでいる。ルゥトとゴルドはまだ余裕があるので負傷者を後方へ運んでいた。

 

「大丈夫か?」

「あ、ああ、すまねえ…足、引っ張っちまった…」

「気にするな。勝てたんだ。それで良しとしよう」

 

 腕と足をやられたハンターに肩を貸しながらルゥトは落ち込むハンターを励ましている。後方では既に数十人ほどの負傷者が手当てを受けており野戦病院さながらの慌ただしさとなっていた。

 

「ほれ、じっとしてろ」

「~~~っ!!もうちょっと優しく巻いてくれよ…」

「無茶言うな。それに痛いのは生きてる証だ」

「おい!布無いか!?血が止まらねえ!」

「ポーション持ってこい!急げ!」

「おい!寝るな!目を開けろ!」

「馬鹿野郎!てめえが死んじまったら嫁さんはどうするんだ!?さっさと起きろ!」

「ポーションぶっ掛けろ!それでもダメだったら雷の魔法をぶつけてでも叩き起こせ!」

「はーい、元に戻しますからねー。じっとしててくださーい」

「や、止めろ!?絶対痛いやつだから!?絶対痛いやつだから!?うわ、なにす、むぐぅ!?」

「はーい、これ咥えててくださいねー。行きますよー」

「むぅー!?むぅー!?むぐうぅ!?!?」

「はーい、腕は元に戻りましたー。次は足行きますよー」

「笑顔でやってるのが超怖え」

「それな」

 

 重傷者を必死になって治療している者や折れた足や腕を元に戻す者など全員忙しく動いている。

 

「忙しいところすまない。追加だ」

「わかった。こっちに運んでくれ」

「ああ。そこにゆっくり座るんだ」

「ああ、すまねえ…」

「気にするな。後は頼む」

 

 ルゥトは再び負傷者を運ぶべく戦闘があった場所へ戻っていった。木の棒と布で作った即席の担架で重傷者を運んだり、肩を貸して連れていったり、背中に背負って連れていったりと兵士もハンターも慌ただしく動いている。

 負傷者を全員運び終え救助した者達もようやく一息ついた。

 

「ふぅ…」

「よう、ルゥト。お疲れさん」

「ゴルドか。そっちも無事なようだな。良かった」

「たりめえよ。この俺様がゴブリン如きにやられるかってんだ」

「前から言ってるが、慢心は命取りだぞ」

「慢心じゃねえ。これは余裕さ」

 

 ルゥトとゴルドが軽口を言い合っているとセレムとレネイとミラミスが寄ってきた。

 

「ルゥト、お疲れ様」

「ルゥト、無事か?」

「ルゥ君、大丈夫?」

「ああ、皆お疲れ様。俺は大丈夫だ。ありがとう」

「おいおい、俺様には労いの言葉は無いのか?」

「あんた何言ってんの?」

「お前は殺しても死なんだろ?」

「ゴルドさんは頑丈ですし大丈夫ですよ」

「ひっでえ…いつもの事と言えばそうなんだが…」

 

 三人から冷たくあしらわれてゴルドは肩を落としている。

 それを仲良さそうで良かったとルゥトが勘違いしながら微笑んで見ている。〈ヴィクオール〉のいつものやり取りが見られたが長くは続かなかった。

 

「おーい!手が空いている者はゴブリンの死体を集めるのを手伝ってくれ!」

「こっちは仲間の回収を頼む!せめて綺麗にして埋葬してやりたい!」

 

 兵士とハンターがそれぞれ手伝いを要請しており動ける者は立ち上がり手伝いに向かった。

 

「俺も行くか」

「しゃあねえな」

 

 ルゥトとゴルドが手伝おうと立ち上がると町の方から一人のハンターが走ってきた。

 

「おーい!動ける者は何人か手伝ってくれ!町にゴブリンがいないか確認したい!」

「?どういうことだ、ゴブリンはここで食い止めただろ?」

「それが避難場所の近くまで来てたんだよ!幸いそいつらは倒されてるがまだいないとも限らねえ!」

「何だと!?」

「おいマジかそれ!?」

「くそ!?いつの間に抜けられた!?」

「おい!お前達も立て!すぐに町中を哨戒するぞ!」

 

 兵士とハンター達が慌ただしく動き出し、武器を手に持ち町の方々へ散っていった。

 

「…それにしても兵士もハンターも皆出払っていただろ?誰が倒したんだ?」

「あ、あいつか?あの化粧の濃いおっさん」

「お前、本人の前でそれ言うなよ…」

「いや、新人のハンターが一人避難していてな。そいつがやったらしい」

「はあ!?新人が一人で!?」

「おいおい!?流石に冗談だろ!?」

「いやいや、マジだって!?」

 

 そんな話が聞こえてきてルゥト達はとある少女が頭に浮かび、同じく話を聞いていたヴァレットはとある少女だとほぼ確信した。

 

「おい!その新人って茶髪の少女だったりするか!?」

「えっ?あ、ああ、そうだが」

「マジかよ…嬢ちゃん、無茶し過ぎだ…」

「え?何だヴァレット、知ってるのか?」

「知ってるも何も今俺が教導してる最中だ。ハンターになって一週間も経っていない。依頼も労働系を数件、採取系を一件こなしただけだ」

「ガチの新人じゃねえか!?」

「そんな新人がゴブリンを倒したって?一人で?」

「嘘だろ…あ!魔物と戦った経験がいっぱいあるとか?」

「いや、俺と一緒にいた時はジャイアントキャピラー一体とゴブリン一体だけだ。その前はブラッドファングを相打ちで倒したらしいが」

「ブブブブラッドファング!?」

「いやいやいや!?え!?いや、え!?」

「おかしいだろ!?いや待て、最近ハンターになったって言ってたよな。ということはブラッドファング倒したのって…」

「ああ、ただの村娘の時だな。もっとも本人はただ運が良かったと言ってるが」

「「「「「…」」」」」

 

 その場にいたハンター達が絶句していた。

 ブラッドファングはそれほど脅威であり、明確な目的でもない限り近づかないとハンターの間では常識みたいなものだ。出会ったが最後、良くて後遺症が残る重傷、悪ければ餌となるブラッドファング相手に相打ちとは言え勝利したのだ。

 ハンター達の中でシリウスの株がドンドン上がっていく。

 

「…あー、皆?そろそろ仕事に戻らないか?いや、気持ちは良く分かるが…」

「「「「「はっ!?」」」」」

 

 ルゥトが遠慮気味に提案するとハンター達は正気に戻った。

 ハンター達は慌ててゴブリンの後始末や兵士とハンターの遺体の回収に向かった。

 

「ハッハッハ!あの嬢ちゃんすげえな!」

「なに笑ってんのよ!ゴブリンが一体なわけないでしょ!怪我してたらどうするのよ!?」

「やけにあの少女の肩を持つな」

「当ったり前でしょうが!あんな健気な子、気に入るに決まってるでしょうが!」

「お、おお…そうか」

「うぅ~、大丈夫でしょうか?」

「報告に来たって事は他にも誰かいるはずだからきっと大丈夫さ」

 

 セレムはシリウスが怪我をしていないかと騒ぎだし、ミラミスは不安そうにシリウスの身を案じておりルゥトはミラミスを優しく励ましている。

 

「どうする?後始末とかは結構な数が向かったから様子は見に行けるぜ?」

「そうだな…皆はどうする?」

「気になる!」

「どっちでも構わん」

「気になります!」

「なら、行くか」

 

 意見を聞いた結果、シリウスの様子を見に行く事になり、ルゥト達は避難場所へと向かった。避難場所では危機が去ったと知り外に出てきた住民達が一ヵ所に集まって騒いでいた。もちろん中心にいるのはシリウスである。

 

「よう、悪いな。ちょっと通るぜ」

「すまない、通してくれ」

 

 ルゥトとゴルドが人垣を掻き分けて中心に向かうと案の定、目をグルグル回して混乱しているシリウスがいた。

 左腕を吊り方にも包帯が巻かれており服も血で汚れている。予想以上の痛々しい姿に目を見張る五人の姿をシリウスが見つけた。

 

「ん?あ、どうも」

「…あー、うん「あ、どうも、じゃなーい!」セレム、落ち着け」

 

 混乱していたが見知った人を見つけ少し安心して取り合えず挨拶したシリウスだったがそれがセレムに火を付けた。怒りの表情を浮かべながら大股でシリウスに近づくセレムを見てシリウスを囲っていた住民達はビビッて道を開けた。

 

「き、み、は!何でこんな無茶をするの!?」

「うぇ!?い、いや、だって戦えるの私しかいなかったので…」

「だからって!こんなにボロボロだし!死んじゃったらどうするの!?」

「ま、まあ、多少は無茶したっていう自覚はありますけど…」

「多少どころじゃなーい!」

「でもあそこで行かなかったらポラリスが危なかったんですよ。それにまだ避難できていない人もいっぱいいましたし、迷子の子供達もいましたから」

「むぐっ…それを言われると」

「セレム、そこまでだ。気持ちは分かるが状況的に取れる手段は無かった。本人も反省しているしもう許してやれ」

「むぅ…分かった」

 

 ルゥトに窘められお説教が終わり安堵の溜め息を付いたシリウス。

 自分の事を心配して言ってくれるのは分かっているが、衆人環視の中での説教は勘弁してほしかった。

 

「しかし…その傷、結構深いな」

「嬢ちゃんなら一体程度ならそんな怪我しないはずだしな…おう、ゴブリンは何体いたんだ?」

「えーっと、確か七体だった、かな?」

「な、七体!?」

「はあ!?おまっ、ええ!?」

「えええぇぇぇ!?」

「!?」

「はわわわわ!?」

「「「「「えええぇぇぇ!?」」」」」

 

 予想を遥かに超える数にルゥト達と話を聞いていた住民達は声を張り上げて驚いている。

 新人のハンターが相手していい数ではなかった。

 

「―――なさい」

「え?」

「そこに座りなさーい!」

「ひぇっ…は、はい」

 

 再びセレムに火が付きシリウスに正座を要求し、シリウスはその剣幕に素直に従った。

 

「仲間がすまないな。だが、俺も一言二言、言いたい事ができた」

「あ~、嬢ちゃん。諦めな」

「お前が悪い」

「うぅ~、無茶し過ぎです!ちゃんと反省してください!」

 

 周りに味方はおらず、住民達も再び怒ったセレムにビビッて距離を取っており、大人しく説教される道しかシリウスには残っていなかった。

 数十分後、ようやく説教が終わり解放されたシリウスだったが搾られ続けてぐったりしていた。そんなぐったりしたシリウスにポラリスは心配そうに手を伸ばしている。

 

「うぅ…ポラリス~。私の味方はお前だけだよ~…」

 

 慰めてくれたポラリスを抱き締めているシリウス。微笑ましい光景だが兵士とハンター達がやって来た事で長くは続かなかった。

 

「お?戻ってきたな。よう、どうだった?」

「ああ、町中見てきた。やっぱり何体か潜んでいた」

「やれやれ、器用な連中だったわ。壁の僅かな突起を掴んで二階にいたり、樽の中に入っていたり、ボロ布を纏って路地裏に隠れていたりと…まあ、ハンターさん達が全部見つけてくれたがな」

「隠れるのは上手いが痕跡を残したままだったからな。ましてや洞窟や森じゃないんだ。丸分かりさ」

 

 案の定ゴブリンが町に潜んでいたがそこはその道のプロであるハンター。

 ゴブリンの足跡や物を動かした跡などを逃さず見つけ周辺を調査したところ、隠れていたゴブリンを発見、そのまま退治している。

 住民達も話を聞いており、潜んでいたゴブリンがいなくなったと知り、安堵の溜め息を付いている。

 

「良かった…これで家に帰れる」

「一時はどうなる事かと」

「いやー良かった良かった!」

「にしても…こんなに大騒ぎしちまうとはな…」

「あー、確かにな。何人か怪我人も出たって?」

「ああ。殴られたり、こけて踏まれたりしてな」

「ダメね、私達…」

「そうだな…自分の子供を守るために戦った奴がいるのに」

「それと比べて俺達って…情けねえ…」

「ほんとな…」

「そうね…」

 

 パニックを起こしていただけの自分達と我が子を守るためにゴブリンに一歩も引かずに戦ったシリウスを比べて情けない気持ちになっている住民達だった。

 

「シリウスちゃん!大丈夫!?」

 

 そこに避難場所から出てきたミネアがシリウスを発見した。

 背中に大荷物を背負ったまま猛ダッシュで近づいてきたミネアは近くでシリウスの姿を見て愕然とした。

 

「な、な、な…!?し、シリウスちゃん!?どうしたのその怪我!?ま、まさか!?」

「あ~、そのまさかです、はい」

「~~~~~!!おバカ!!何でこんな無茶を…!うぅ、うおおおぉぉぉん!ごめんねえええぇぇぇ!」

 

 怒りより先に気づかなかった自分の不甲斐なさと戦わせてしまったシリウスに対して申し訳なさに涙が溢れ出し号泣し出した。あまりの号泣っぷりにシリウスと住民達はドン引きしており、二、三歩後ろに下がった。

 

「ごめんねえええぇぇぇ!私が不甲斐ないばかりにいいいぃぃぃ!うおおおぉぉぉん!」

「い、いや…あの、気にしてないので、ええ。取りあえず…泣き止んで?いやほんとに」

 

 結局ミネアが泣き止んだのは数分後だった。

 何時ぞや見た涙と鼻水の所為でメイクが崩れ化け物みたいになっており、その場にいる全員が微妙に視線を逸らしている。

 

「ぐすっ…本当にごめんなさいね」

「いや、まあ、うん。全然構いませんよ」

 

 シリウスも顔を見ないようにミネアに釣られて泣きそうになっているポラリスをあやしている。

 

「シリウスちゃん。私、頑張るわ。もうこんなみっともない姿は見せないって今、ここに誓うわ!」

 

 ミネアは声高々に宣言した。

 それは住民達の心にも届き、そして思った。

 自分達ももうあんな醜態は晒さない、強くなろうと。

 

「…はい、頑張ってください。あと序でに、その、メイクが崩れた顔も見せないようにしていただけるとありがたいんですが…」

「!?!?い、嫌あああぁぁぁ!?見ないでえええぇぇぇ!?」

 

 ついさっきまで心に響く事を言っていたミネアだったが、シリウスに指摘され自分の惨状に気づき野太い悲鳴を上げながら自宅へと走って逃げていった。

 シリウスが言った余計な言葉で場の空気は何とも言えないものになってしまった。

 

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