転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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お待たせしました。
続きをどうぞ。


第二十三話

 

 防衛戦から一夜明け朝がやってきた。

 住民達は日常が戻ってきたことに歓喜しながらいつもの日常を謳歌しており、兵士達は守れた日常を誇りに思いながら今日も町を守っており、ハンター達はゴブリンの戦いで消費した装備の補修や調達で懐が寂しくなる事に嘆いている。

 それぞれが日常に戻っている中でシリウスは目覚めた。

 

「…ん、朝か」

 

 目を開けてシリウスの視界に入ってきたのは天使の寝顔だった。

 

「ん"ん"…!娘が可愛い…!」

 

 ポラリスの愛らしい寝顔を見ただけですでにシリウスの母性は最高潮となっている。

 いつも見ているポラリスの寝顔だが母親になってから見ると雲泥の差だった。可愛らしさと愛くるしさを全て詰め込んだ、まさに天使としか言いようがない。シリウスは本気でそんな事を考えており、すでに親バカになっていた。

 ポラリスの可愛さに悶えつつもいつものようにおしめなどを準備していたら、ポラリスが身動ぎ始めた。

 

「ふえええぇぇぇ…」

「は~い、ポラリス~おはよう~♪おしめ変えようね~♪」

 

 おしめを変えるといういつもの行動でも普段の数倍の笑顔でしている。

 以前までのシリウスなら、

 

「ん~?ああ、おしめね。ちょっと待ってろよ~」

 

 と、笑顔は無く義務感マシマシでしていた。

 それが今では我が子の世話を笑顔でする母親に変わっている。

 

「は~い、できた~。ポラリス、おはよう♪」

「ま~♪」

「は~い♪ママですよ~♪」

 

 ポラリスにママと呼ばれるだけで喜びと嬉しさで胸が一杯になり満面の笑みでポラリスを抱き締めている。ポラリスを抱き締めたままその場をクルクルと回っており、ポラリスも楽しそうに笑っている。

 満足するとポラリスをおんぶ紐を使って背負いおしめと着替えを持って部屋を出た。水汲み場へやってきて血の付いたハンター用の服とポラリスの着替えとおしめを洗い始めた。笑顔で鼻唄を歌いながら洗濯しており、ポラリスも鼻唄に合わせて手足をバタつかせたり合いの手を入れたりしている。水汲み場にやってきた宿泊客が仲睦まじい様子を見て頬を緩ませている。

 

「よし、できた。血は落ちないって思ってたけど、割と簡単に落ちたな。いやー良かった良かった」

 

 洗い終わった洗濯物を持って部屋に戻り、物干し竿を使って干していった。

 

「よし終わり。ポラリス~お待たせ~。ご飯食べよっか~」

「あ~」

 

 ベッドの上で待っていたポラリスを抱き上げて朝食を取るために部屋を出た。

 酒場は客が疎らにいるだけで空いていた。

 シリウスとしては前世で言えば通学や通勤する人が起きるぐらいの時間帯に起きているつもりだが、この世界では夜明けかその少し後ぐらいから起き始める事が多い。このままでは寝坊助に見られるのではと若干危惧し始めたシリウスはもう少し早く起きるように心がける事にした。

 

「おはよう嬢ちゃん!疲れは取れたかい?怪我の方は大丈夫かい?」

「おはようございます女将さん。ええ、疲れは取れましたし痛みももうほとんどありませんよ」

「そうかい!それならいいんだけど無理は禁物だよ!」

「ええ、肝に銘じます。それから朝食をお願いします」

「あいよ!座って待ってな!」

 

 女将はいつもと変わらない笑顔で厨房へ戻っていった。

 シリウスは適当な席に座り、抱いていたポラリスを膝の上に乗せた。ポラリスはシリウスの手を掴んだり、叩いたり、おしゃぶりのように口に咥えたりと好き放題しているが、シリウスはそれを笑顔で許している

 

「おやおや、すっかり母親の顔になってるじゃないか」

「え?そ、そうですかね?」

「ああ。安心おし。あんた達は誰が見ても母娘だよ」

 

 シリウスは女将の言葉に嬉し恥ずかしい気持ちになり頬を赤く染めて頬を掻いている。

 

「ふふふ…さあ、ご飯食べて今日も元気にいきな!」

 

 テーブルに野菜のスープとパンを置き女将は厨房に戻った。

 

「んんっ…さて、いただきますっと。ポラリス~、あ~ん」

「あ~」

 

 気を取り直してポラリス用のスープを掬ってポラリスに食べさせた。

 一掬いずつ丁寧に食べさせており、口の周りが汚れればその都度布で拭いてあげている。愛する我が子を甲斐甲斐しくお世話しており、手間も苦労も厭わなず行っている。ポラリスの美味しそうに食べる姿を見て、それだけで充足感に満たされている。

 慈愛に満ちた笑顔でポラリスのお世話をしてポラリスの食事が終わるとシリウスは自分の朝食を食べ始めた。

 

「うっま…やっぱり料理もできるようにならないとな…練習するしかないか」

 

 ポラリスに美味しい物を食べさせたい、自分が美味しい物が食べたいという思いが半々ぐらいの割合でシリウスの中に生まれたので料理を覚える事が決まった。詳しい事はまたその内に考えるとして今は朝食を楽しむ事にした。

 

「ごちそうさまでした。ポラリス、美味しかった?」

「あ~♪」

「そっか。それは良かった(料理、絶対覚えよう)」

 

 ポラリスの笑顔を見て絶対に自分が作った料理でこの笑顔を引き出してみせると誓った。女将に皿を返し朝食代を支払った後、部屋に戻り出かける支度をした。結局使わなかった依頼の薬草を持ってギルドへ報告に向かった。宿を出てギルドへの道を歩きながら町の様子を見てみると、昨日の今日でほとんど日常に戻っていた。門の周りや壁の上は現在大工達が修理しており、それ以外はほとんど町の建物の被害は無かった。

 しかし人的被害はそれなりに出ており、特に兵士の被害が一番多かった。シリウスが通りを歩いているとかなりの数の住民が外へ向かっているのを見つけた。

 

「ん?何だ?」

 

 シリウスが近寄ってみると皆手に花を持っており、集団の中央には棺を抱えている男達もいたのでシリウスはそれを見て葬式だと察した。今から町の外にある墓場で埋葬が行われるのだ。

 先頭を司祭が歩き、その後を皆が沈痛な面持ちで歩いており、泣いている者も少なくは無い。

 

「…ん?おお、嬢ちゃんか」

「あ、ヴァレットさん」

 

 参列者の中にヴァレットがいてシリウスに気づいて声を掛けてきたのでシリウスは横に並んで歩き始めた。

 

「大分無茶したみたいじゃないか。状況的に仕方が無いところが多いからあまり言わんが今後は気をつけろよ」

「すいません。これからは気をつけます。それで、その…どなたかお知り合いが?」

「ああ。前に教導したハンターや飲み仲間の兵士とかな…」

「…その、心中お察しします」

「すまんな。俺はこのまま墓場まで行くが嬢ちゃんはどうする?」

「そう、ですね…見知った人はいないかもしれませんが、お花ぐらい手向けさせていただきます」

「そうか。すまん、ありがとう」

 

 シリウスはヴァレットに並んだまま墓場まで付いていった。墓場ではすでに何十もの墓穴が掘られており、埋葬の準備は整っていた。

 

「それでは始めましょう」

 

 司祭の一声で葬式は静かに始まり順次棺が埋葬されていく。一つ、また一つと棺が埋められていく中で抑えられない嗚咽が周囲から聞こえ始めている。

 全ての埋葬が終わり墓の前に皆が花を供えていきシリウスも花を貰い一つの墓に供えた。

 

「神よ。今あなたの元に無垢なる魂が参りました。どうか御身の海の如く広く深い愛でお包みください。志半ばで散った勇士達よ。安らかに眠りたまえ」

 

 司祭の祈りの言葉と共に皆が手を合わせて祈った。

 夫が、子供が、友が、仲間がどうか安らかに眠るように。

 葬式が終わり司祭は一足先に戻り、住民も祈りが終わった者から町に戻り始めた。シリウスはヴァレットの祈りが終わるまで待っていた。

 

「…すまんな、待たせた」

「いえ。もういいんですか?」

「ああ。次は酒でも供えてやるさ」

 

 葬式が始まる前よりは幾分か晴れた顔付きをしているヴァレットと共に町に戻りギルドへと向かった。

 ギルドの中では職員が大量の書類を運んでいたり、他の職員に色々と指示を出していたりと忙しそうに動き回っていた。魔物による町への襲撃は年に何回かはあるもののここまでの規模の物は初めてだったので、その事後処理はいつもより数倍はあった。それでも昨日よりは落ち着いている方で昨日なんかは正に戦場だった。止まっていた依頼の方も数は限定されているものの再開しており、ハンター達が受注して出かけたりしている。現在の依頼は周辺の調査や町の修繕などでほとんどが襲撃関連のものだ。

 シリウスは一通り終わって一息ついている職員に話しかけた。

 

「お疲れの所すいません。依頼完了の報告に来ました」

「いえいえ、大丈夫ですよ。ではこちらに指定物をお願いします」

 

 受付にいたベテラン職員に依頼の薬草を渡した。

 職員は依頼の物かを確認し数を数えている。

 

「はい、確認しました。ではこちらが報酬となります。お受け取り下さい。依頼の品は後日こちらで依頼人に届けますのでご安心ください」

 

 シリウスは報酬を受け取り空いている席に座って中を確認した。

 

「今回の報酬。銅貨は無し。銀貨がひぃ、ふぅ、みぃ…五枚。500リクルか」

「採取系の相場は大体500リクルぐらいからだからな。それに数も少なくて近場だからそんなもんだ。これがもっと森の奥だとか、希少な代物だったら、そうだな…5000リクルぐらいするかな」

「そうなんですね。あ、これヴァレットさんの分です」

 

 シリウスは銀貨を三枚、ヴァレットに渡そうとするがヴァレットがそれを阻んだ。

 

「いやいい。取っとけ」

「いやいや、そういう訳には」

「いいんだ。まだ色々と入用だろ?俺の方はまだ貯えがあるから大丈夫だ。その代わりと言っちゃなんだが、もう少し嬢ちゃんの教導を続けてもいいか?」

「いや、それは願ったり叶ったりですけど…本当にいいんですか?」

「ああ」

 

 ヴァレットに言われて渡そうとした報酬を自分の財布に入れた。

 

「ああ、良かった。まだいらしてたんですね」

「どうしました?」

 

 先程受付にいた職員が何やら書類を持ってシリウスに近づいてきた。

 

「実は貴方にお伝えする事が二点ございまして。まず一つ目。ゴブリン討伐の褒賞金が出ましたのでお納めください」

「え?いや別に私はそのために戦った訳じゃなくて」

「理解しております。実態把握のために調査し、証言をしていただいた方々からもその旨を聞き及んでいます。しかし、結果的にではありますがゴブリンと交戦、これを撃退した事で防衛戦へと参加とギルドは判断いたしました。それに証言をいただいた方々からもぜひ貴方に渡してほしいとの嘆願もありましたので」

「えー…うーん…わかりました。有難くいただきます」

「ではこちらを。褒賞金の1000リクルでございます。こちらの方に受け取りの署名をお願いします。代筆も可能ですが」

「代筆をお願いします(いかんな…そのうち文字も書けるようにしなくちゃ)」

「かしこまりました」

 

 シリウスは男性職員に代筆してもらい褒賞金の入った袋を貰った。

 

「それでもう一つは?」

「もう一つはシリウスさん、貴方のランクの昇級に関してでございます」

「ん?ランクは上げるには依頼を指定数こなして昇級試験に受からねばならないのでは?」

「おいおい、まさかそういうことか?」

「ヴァレットさん?」

「ヴァレットさんはお気づきになられましたか。ええ、シリウスさんの仰る通り。通常であればそうなんですが、今回シリウスさんは図らずもゴブリンを七体討伐しました。それとヴァレットさんからお聞きしたところ、ゴブリン一体とジャイアントキャピラー一体を討伐したとの事でしたのでギルドは昇級の資格ありと判断いたしました」

「え!?じゃあ試験は?」

「ございません。今回の防衛戦が試験に相当すると判断いたしました」

「い、いや、いやいやいや!?それでいいんですか!?」

「はい。少なくとも上は問題無しと致しました」

 

 思わぬところで望外の幸運に恵まれたがシリウスは意外な展開に驚きを隠せなかった。だがヴァレットは当然だと言わんばかりに頷いている。

 

「まあ確かに。昇級試験も大体魔物を四、五体ぐらい倒すっていうのがほとんどだからな。今回のだったら試験する必要も無いか」

「ええ、仰る通りで。依頼の指定数はまだ足りませんが、そこを曲げても問題は無いと判断いたしました」

「まあ、しばらくは俺が教導するからそこも大丈夫だろ」

 

 職員はヴァレットと二、三話した後一礼して仕事に戻っていった。

 

「ええ~、こんなので昇級…?ありえない…」

「残念、これが現実さ。悪い事は、まあ、無い事は無いんだが、ほぼほぼ無いし受け入れとけ。向こうの準備が整ったら晴れて六級に昇級だ」

 

 こんな事で昇級していいのかと頭を抱えているシリウスだがヴァレットはあっけらかんとしている。

 ヴァレットの言う通りデメリットは他のハンターからの嫉妬ぐらいだがシリウスは前世の知識でそれが一番面倒くさいと思っている。陰口を叩くや無視されるのは良い方で、依頼の邪魔をしたり店で物を買えなくするなど露骨な嫌がらせや、最悪は魔物に見せ掛けて消される、などを危惧している。シリウスの危惧は無いとは言わないが、シリウスが思っているレベルには早々ならない。ましてやターエルでは良心的な人の方が多いので、むしろそんな目に合っている者がいれば徒党を組んで助けるほどだ。

 メリットはより高額の依頼を受けれたり、住民からの信頼が下のランクより高くなったり、より上質な装備を手に入れれたりとそれなりにある。さらに上に行けば行くほど名声が手に入り、一番上の一級になれば英雄扱いされるほどだ。

 

「なあ、さっき聞こえたんだけど…その子、ランク上がんの?」

「ああ。ギルド創設以来最速じゃないか?」

「「「「「えええぇぇぇ!?!?」」」」」

 

 話を聞いていた周囲にいたハンター達が驚きの声を上げているが内心納得もあった。複数のゴブリンと一人で戦えるようになるのはもっと上のランクになってからがハンターの常識だったので、それを覆したシリウスをギルドがそのままにしておくはずがないと思っていた。

 

「マジかよ!?嬢ちゃんすげえな!」

「かあー!こりゃすぐ追い付かれちまうぜ!」

「いや、俺達なんかあっという間に追い抜いちまうって!」

「きぃー!強くて綺麗で可愛いなんて!?一個ぐらい私にちょうだい!」

「あんたは何言ってんのよ…」

「はいはい。向こうに行きましょうね~」

 

 それはそれとしてワイワイ騒ぐのが好きなハンター達がシリウスを囲んで褒めちぎっている。一部は妬んでいるが冗談交じりなのは誰が見ても明白なので軽く流している。

 ヴァレットは集団から少し離れた所で目だけを動かして辺りの様子を探っている。先程の会話はすでにロビー内にいたハンターには聞こえており、嫉妬に狂って怪しい行動を取る者がいないか確認している。幸いな事に誰もが驚き、凄いと思っている面持ちで嫉妬の感情を表に出している者はいなかったのでヴァレットは胸を撫で下ろしている。集団に囲まれてアワアワしているシリウスを見てヴァレットは軽く笑いながら眺めていた。

 




司祭の祈りの言葉はよくわかっていない作者がそれっぽい言葉を並べただけの似非ですのでご容赦ください。
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