転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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お待たせしました。
続きをどうぞ。


第二十四話

 

「うわあ~…」

「ま~」

 

 ハンター達に囲まれてやいのやいのと騒がれる事数分、集団は去ったがシリウスは疲れ切っていた。それを心配したのかポラリスが手を伸ばしている。

 

「はっはっは!気に入られて良かったな」

「何で助けてくれなかったんですか…」

「ああなったら俺の言葉なんて聞こえないさ」

 

 恨めしそうにヴァレットを見るシリウスだがヴァレットは肩を竦めるだけだった。溜め息を吐いてポラリスに頬擦りをして気力を回復させたシリウス。

 

「さて。しばらくは依頼も周辺の調査や町の修復の手伝いばかりだからな。今のうちに色々と教えとこうと思う。複数相手にする時の対処法とかな」

「はい、お願いします」

 

 ギルドのロビーでヴァレットによるハンター講習が始まった。

 

「まず複数相手の対処法だが、全員を視界の中に入れる事だ。そうすれば後ろからの奇襲なんかは防げる。気配を感じられるのならなお良い。それで一斉に襲ってきたらひとまず後ろに下がるんだ。バラバラに襲ってきても、連携して襲ってきてもその場留まる方が危険だからな。後ろに下がれば必然と一対一で対処できるはずだ。もっとも向こうがそれも織り込み済みっていう場合もあるがそこは臨機応変に対応するしかない。場合によっちゃ引くより前に進んだ方がいい時もあるが、腕にかなりの自信が無い限りは止めといたほうがいい。逆に向こうが留まったままならこっちから奇襲をかけるのも手だ。相手の虚を突けて上手くいけば一人ぐらいは倒せるかもしれん。基本的には待ちの姿勢が一番安全だが、状況によっては今言ったようにこちらから仕掛けるか、一旦引くかを見極めなければならん。それとどんな場合でも言える事だが絶対に焦らない事だ。焦ってしまえばそこから一気に崩されるぞ。分かったか?そこの陰から聞いてる後輩諸君?」

 

 ヴァレットが後ろを振り向くとバツが悪そうな顔をした数人のハンターが姿を現した。彼ら彼女らはヴァレットがかつて教導したハンターでシリウスの先輩だ。

 だが魔物を倒せるようになってからは段々と調子に乗るようになり、自分達だけでも十二分にやっていけるとヴァレットの教導を拒否した。ヴァレットはギルドからの要請と善意から教導をしていたので教導はそこで終わってしまった。

 その後しばらくは特に問題なく依頼をこなしていたが段々とミスが目立つようになっていき、依頼に同行した他のハンターもそのミスで怪我をする事が続出してきた。次第にチームを組んでくれる者がいなくなっていきあぶれた者同士で組んだはいいが、全員教導を途中で終えているので中途半端な知識しか持っていなかった。他のハンターからは嫌われており、今更頭を下げてヴァレットに教えを乞う事もできず、細々と依頼をこなしていた。

 

「ったく…色々と聞いてるぞ。制止を振り切って一人で突っ込んで結局ピンチに陥って助けられたり、他のハンターが狙っていた獲物を横から奪ったり、ポーションが無い奴に普通の倍以上の値段でポーションを売ったりとかな。他にも色々邪魔したり、怒鳴ったり、馬鹿にしたり、上げたらキリがねえぞ」

「「「「「…」」」」」

 

 ヴァレットが彼ら彼女らの愚行を呆れた表情を隠さずに指折り数え、心当たりがある事を言われると目を逸らしたり、俯いたり、肩を震わせたりしている。

 全員本当に反省しているらしく、反論せずに受け入れている。

 

「…はぁ~。お前ら、本当に反省してるか?」

「「「「「はい!すいませんでした!」」」」」

「…ったく。ならまず、迷惑を掛けた奴全員に頭下げてこい。それが終わったら教導再開だ」

「「「「「はい!ありがとうございます!」」」」」

 

 全員一糸乱れずヴァレットに深々と頭を下げてギルドを出ていった。それを見届けるヴァレットは優しく笑っていた。

 

「やれやれ。すまんな、待たせた」

「いえ。やっぱりヴァレットさんは優しいですね」

「やめろやめろ。ただ途中で放り出すのが嫌なだけだ」

「そういうことにしておきますね」

「おい」

 

 ヴァレットはツッコむがシリウスは取り合わずポラリスをあやしていた。何を言っても無駄と察して溜め息を付いた。

 

「はぁ~…もういい。続けるぞ」

「わかりました」

 

 一時中断していた講義が再開された。次の講義内容は魔物との戦い方や外での歩き方などだった。

 

「いいか?魔物と戦う際は一点だけを見ずに全体を見ろ。まあ、これはどんな奴が相手でも言える事だが、とにかく全体を見て戦え。そうすれば次にどこが動くかとか予備動作が見えるはずだ。例えば突進してくる時は足に力が入る。それから勢いをつけるためにやや姿勢を低くする。こういう予備動作が見えてくる。どんな行動が来るかわからない予備動作もある場合もあるがこういう時は最大限警戒しろ。予想も予測もできないものが来るかもしれないと思っていつでも防御や回避ができるように備えろ」

「次は外の歩き方だ。前にも言ったが全方位に気を向けなきゃならん。と言ってもこれは森の中の話だ。街道とかなら比較的安全だからそこまで気を張らなくてもいい。もちろん無警戒はダメだからな。街道でも魔物は出てくる時は出てくるし、盗賊とかも出る時もある。遮蔽物、岩とか茂みとかだな。そういうのが在ったら念の為気を付けておけ。盗賊とか亜人とかが待ち伏せしてる場合がある。俺も何回か待ち伏せされた事が合ってな。そん時はもう大混乱だった。護衛の商人達はパニックになって逃げるわ、ハンター達は分断されて苦戦するわ、騒ぎを聞きつけて魔物もやって来るわで、そらもう大変だった。そうならないように違和感が合ったら近づかないようにしておけ」

「ふむふむ。戦いの時は全体を見る。違和感があれば近づかない」

「そうだ。他にも色々あるがひとまずそれを覚えておけ。他は追々教えていく」

 

 ヴァレットの講義は仕事を終えたハンター達が戻って来るまで続いた。

 

「はー、疲れた」

「もう少しで町も元通りになるな」

「そっちは調査だったんだろ、どうだった?」

「ああ。逃げ出したゴブリンは見つけて討伐はしてるんだが、如何せん数が多くてな」

「しかも四方八方に逃げてるからどんだけいるのかわからん」

「調査してたら奴らに襲われた村を何個か見つけてよ…酷いもんだぜ」

「マジかよ…クソがっ」

 

 町の修繕と周辺の調査をしていたハンター達が戻ってきた。

 町の方は順調だが調査の方は数が多いので難航しており、さらにどこに逃げたのかもわからないのでまだまだ掛かりそうだった。

 

「皆戻ってきたな。今日はこんなもんにしとくか」

「はい。今日はありがとうございました」

 

 ヴァレットに礼を言い席を立つシリウスに戻ってきたハンター達が気づいた。

 

「ん?お、嬢ちゃん。いたのか」

「おお!町の英雄様じゃないか!」

「え"!?ちょ、なんすかそれ!?」

「あれ聞いてない?皆助けられたって言ってたよ?」

「そうそう。避難場所の前で大立ち回りしたって聞いたぞ?」

「あれ?俺はボスと一騎打ちしたって聞いたぞ?」

「私は襲われそうになった子供達を身を挺して守ったって聞いたよ?」

「おいおいどれだよ?」

「はっはっは!またいつものおばちゃん達が盛りに盛ったのか!」

「ああ、納得した。あの人達ならやりかねんな」

 

 シリウスが知らない間にとんでもない噂が町中に広がっていた。

 明らかに話が盛られておりまとめるとシリウスは避難場所に攻め込んできたボスとゴブリン達をバッタバタと薙ぎ倒した英雄となっていた。

 

「誰ですかそれ!?何でそんなになってるんですか!?」

「あ~嬢ちゃん、諦めろ」

「あの人達は悪気が合ってやってる訳じゃないんだけどな…」

「どっかで話が変な方向に転がっていくんだよな…」

「確かヴァレットも凄い噂にされてたよな?」

「ああ…俺の髪の毛が無いのは仲間を庇って呪いを受けた所為っていうのになったよ…そんな呪い受けた記憶無いんだけどな…」

「はっはっは!良いじゃねえか、美談になってよ!」

「良くねえよ!」

 

 噂好きのおば様達が話しているうちにドンドンと話が大きくなっていくらしく、ヴァレットや他のハンターもとんでもない噂の対象になった事があった。

 

「あはは…私はそろそろ行きますね」

「おう、またな」

「ばいばーい」

 

 ハンター達に別れを告げてシリウスはギルドを出て鍛冶屋へ向かった。鍛冶屋に向かう道中も以前と変わらないぐらいに戻っており、通りもハンター達が行き交う日常に戻っていて賑わいを取り戻していた。鍛冶屋に向かうのは三度目なので迷う事無く鍛冶屋に辿り着いた。

 

「失礼します」

「ああん?何だ、おめえか…」

「どうも。今日は武器の整備をお願いに来まして。あと、これも」

 

 シリウスは腰にぶら下げていた小剣と短剣を取り出して机の上に置き、カバンから壊れた篭手を取り出した。

 

「ゴブリンの攻撃を受けて壊れてしまって…すいませんでした」

「はあ?何で頭下げてんだ?」

「いや、せっかく作ってくださったのに早々に壊してしまったので…」

「…お前は馬鹿か?そんなもんは消耗品だ。それにそいつは二撃持てば御の字ぐらいのもんだ」

「いやでも…」

「この話は終わりだ。装備を置いてとっとと失せろ」

 

 鍛冶屋の店主はシリウスの話を聞かずにさっさと追い出した。

 

 「うーん、怒らしたかな?いや、二撃持てばいい方って言ってたからそのうち壊れるって思ってたのかな?まあ、考えてもしゃあないか。二、三日したらまた来るか」

 

 追い出されてしまったので大人しく宿屋に戻る事にした。部屋に入りベッドに腰掛けてポラリスをあやしながら何をするか考えている。

 

「な~にしよっかな~?ポラリスと遊ぶかな?また薬草図鑑見るのもありか?いかんな、やる事がそれぐらいしかない。文字の練習もな~教えてもらうところからだしな~。教えてくれそうな人…女将さん、は今忙しいだろうし…ミネアさん、アリかもな。同じくマロスさんとコニーさんもイケそう、かな?後は薬屋の店主さんかな?…そういえばあの人の名前聞いてないな。また遊びに行くって言ったし、顔を出すついでに聞いてみるか。まあ、取りあえず…ポラリス~♪」

「ま~♪」

 

 手を伸ばしているポラリスを抱き締めて頬擦りするシリウス。

 予定は決まったがまずはポラリスとイチャつく事にしたシリウスは笑っているポラリスにこれでもかと構い始めた。頬擦りから始まり、全身を擽ったり、玩具で遊んだり、手遊びをしたりと一頻りイチャついた。

 

「むふ~♪満足♪さて、行くか」

「あ~♪」

 

 満たされた顔をしたシリウスは笑顔満点なポラリスを抱いて薬屋に向かう事にした。

 宿屋から出て薬屋までの道を歩くシリウス。一度行ったきりだが意外と覚えていて何度か立ち止まって確認したが無事に辿り着いた。薬屋に入ると以前と同じように店主が受付にダルそうに座っていた。

 

「いらっしゃい…!?あ、あ、き、来てくれたんだ…!」

「はい。約束しましたから」

 

 薬屋の店主はダルそうな表情を一変させ喜色満面となりシリウスに駆け寄った。シリウスの手を引いて奥の住居スペースへと連れていき椅子に座らせた。

 

「こ、ここで座って、ま、待ってて」

 

 薬屋の店主はお茶やお茶菓子を持ってくるためにキッチンへと向かった。

 店主にとって客人が来るのは初めての事だ。

 いつも来るのは水薬などを買いにくる客ばかりで、友達とお喋りしたりお出かけしたりなどした事が無かった。寂しい気持ちになっていたがこんな自分に誰も振り向いてくれないと諦めて自分から殻に籠り始めた。

 毎日をダラダラ過ごしていたある日、シリウスが依頼で訪ねてきた事が切欠で変わり始めた。こんなに怠けている自分を見ても何も言わず、変な視線も向けてこず、自分の言葉足らずも察してくれた。そんな人は初めてでつい追加報酬を弾んでしまった。

 また来てくれないかなと思っていた時にゴブリンの襲撃があり避難したところ再び出会えた。大変だったが共同作業もして距離もさらに縮まったと思ったら、ゴブリンに襲われそうになった。アタフタとするだけの自分と違い、覚悟を決めてゴブリンと戦ったシリウスの姿は今尚目蓋の裏に焼き付いている。

 華麗さには程遠い泥臭い戦い。だけど我が子を守るために命を賭けて戦う母親の姿。

 その姿がどうしようもなくカッコよかった。

 その後に勇気を振り絞って誘えば本当に来てくれたので、もしも友達が来た時のためと買っておいたそれなりのお値段のするお茶とお茶菓子を使う時が来た。ちなみに買った後にいつ来るんだと、そもそもできるわけ無いだろと落ち込んだ。

 

「ちゃ、ちゃんと、も、持て成さないと。そ、それで、も、もしかしたら、ととと、友達にな、なってくれるかな?へ、へへへ…」

 

 他の人が見れば引くような気味の悪い顔で笑っているが本人は気にしていない。

 湯を沸かし、買った時に聞いた方法で慎重にお茶を入れ、比較的綺麗そうな盆にお茶とお茶菓子を乗せて戻った。

 

「お、お、お待たせ…」

「いえいえ、全然待ってませんよ」

 

 店主が戻ってくるとシリウスは膝の上に乗せたポラリスと遊んでいた。

 

「あ、相変わらず、な、仲が良いんだね…」

「ええ。娘ですから」

 

 テーブルの上にお茶などを置いた後、店主はポラリスにゆっくり手を差し出してみた。ポラリスはその手と店主の顔を交互に見た後、恐る恐るその手に握った。

 

「お、おお…」

「ポラリスも覚えてるみたいですね」

 

 店主はゴブリンの襲撃の時にシリウスから渡された事はあったが、その時はほとんどパニック状態だったのであまり覚えておらず、赤ちゃんの手の柔らかさに驚いている。ポラリスも店主に抱っこされた時はずっと泣いていたので覚えていないが、何となく見た事がある人だったのでそこまで怖がらずにいる。

 

「あ、ポラリスって、言うんだね。え、えっと、い、良い名前、だね」

「でしょ。…あ。そういえば自己紹介していませんでしたね」

「…あ、そ、そういえば、そうだね」

 

 お互い名前すら知らなかった事に今気づいた。

 

「では改めて。シリウス・ノクティーと言います。こっちはポラリスです。よろしくお願いします」

「あ、えっと、わ、私は、ラトミシア・パナート、です。よ、よ、よろしく」

 

 緊張でプルプルと震えながら店主、ラトミシアは頭を下げた。緊張で震え汗も出て目も忙しなく動いているラトミシアの姿を見てもシリウスは何も言わずにいた。

 

「(やっぱりボッチだなこの人、いやラトミシアさんは。いかにも高級品っぽいお茶とお茶菓子だし、初めての友達候補だから全力でおもてなししているのかな?…まあこうやってお茶会してるし、もう友達か)これで私達、友達ですね」

「…え?とも、だち?」

 

 シリウスの言葉に呆けたような表情をするラトミシア。

 

「?違うんですか?」

「!?ううん!と、ととと友達だよ!?友達!」

 ラトミシアは勢いでシリウスの手を強く握って友達だと強調している。

 生まれて初めて友達ができた。

 その事実が脳に染み渡り全身が歓喜に包まれ天にも昇るような気持ちになっている。高々友達ができただけでかなり大袈裟だがラトミシアは全く気にしておらず、何となくラトミシアの内心を察しているシリウスは大袈裟だなと思うだけで気にしていない。

 

「友達、友達。うえへへへへ…♪」

「(あーあーもう、だらしない顔になっちゃってまあ。涎も出てますよー)」

 

 色々と酷い事になっているラトミシアを温かい目で見ているシリウスだった。

 




作中のヴァレットの講義内容ですがにわかな作者が足りない頭で考えたものなので間違っているかもしれません。
ご了承ください。
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