転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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お待たせしました。
続きをどうぞ。


第二十五話

 

「うぅ…」

「そんなに落ち込まなくても。私は気にしてませんよ」

 

 あの後、正気に戻ったラトミシアが醜態を晒したと気づき、恥ずかしさのあまりテーブルに突っ伏している。シリウスが慰めているものの中々戻らず、仕方なしに強力な助っ人にお願いする事にした。

 

「よ~し、ポラリス。ラトミシアお姉ちゃんの頭をナデナデしてあげて」

「う~?あ~」

 

 ポラリスは可愛く首を傾げたがシリウスがラトミシアに近づけると傍に来たラトミシアの頭をポンポンと撫でた。撫でたというより叩いたといった感じだったがそのおかげでラトミシアはノロノロと顔を上げた。

 

「うぅ…ポラリスちゃん、ありがとね」

 

 顔を上げたが恥ずかしさは消えておらず未だに顔は赤くなっていて、シリウスと目が合うと途端に挙動不審になっている。

 

「もう。気にしてないって言ってるじゃないですか」

「そ、そうは、いっても…うぅ…」

「はいはい!この話題はおしまい!ほら、冷めちゃいますから飲みましょう。ね?」

 

 このままではまたテーブルに突っ伏すと判断したシリウスが強引に軌道修正した。

 お茶は紅茶の類でさっきまでは湯気が出ていたが少し冷めだしている。

 

「そ、そうだね」

「じゃあいただきます。ん…あ、美味しい」

「ほ、ほんと?え、えへへへへ…」

 

 それなりに良い代物なのでかなり美味しくシリウスは自然と笑顔になっている。ラトミシアも喜んでくれたとわかり笑顔になっている。

 

「あ~、あ~」

「ん?ポラリスも欲しいの?あーでもポラリスにはまだ早いかな」

「あ…わ、忘れてた。え、えっと、な、何か無かったかな?み、ミルク?いや、あれは確か、結構前の奴だった気が…」

「…ちゃんと整理しときましょうよ」

「あう…ごめんなさい」

 

 古くなった牛乳が異臭を放って若干固形化している有様を想像したシリウスが苦言を呈すと、急所に当たったらしくラトミシアは項垂れた。

 欲しがるポラリスだが流石に一歳児に紅茶はマズいのではとシリウスは考えて、お茶菓子の方を与える事にした。お茶菓子はシフォンケーキみたいな見た目でフォークで切り取るととても柔らかく、見た感じも赤ちゃんが口にしても大丈夫そうだった。念の為シリウスが先に食べると蜂蜜の味やお酒の風味も無かった。

 

「ん、美味しい。ポラリス~、あ~ん」

「あ~。あ~♪あ~♪」

 

 余程美味しかったのか満面の笑みで手足をバタつかせて喜んでいる。その笑顔を見てシリウスは慈愛に満ちた表情になり、ラトミシアもポラリスが喜んでいる顔を見て顔を綻ばせている。

 しばらくの間、ポラリスに食べさせてそれを笑顔で眺めるというのが続いた。ポラリスが満足したところでシリウスとラトミシアも紅茶とケーキを楽しんだ。

 

「ん~美味しい」

「う、うん、そ、そうだね。け、結構な値段、したけど、か、買った甲斐は、あ、あった」

「え、そんなに高いんですか?」

「た、確か…500、だったかな?こ、紅茶の方は1000ぐらい、した気も」

「おっふ。想像以上だった」

 

 ラトミシアがコミュ症のボッチなのをシリウスは察していてシリウスから話題を振っている。

 

「普段はどんな事してるんですか?」

「え、えっと、お、お客さんが来るのを、待ちながら、ほ、本を読んでるかな。あ、あとは、く、薬を調合、したりとか」

「…もしかしてずっと家にいるんですか?」

「え?そ、そうだけど」

「たまには外に出た方がいいですよ。身体にも悪いですし」

「で、でも、外、怖い。人、怖い」

「大丈夫ですって。何なら付き添いましょうか?」

「うぅ…さ、最初だけ、お願い、します…」

 

 たわい無い話をしていて、ふと話題が無くなった辺りでシリウスは考えていた事を話し始めた。

 

「ところで、一つお願いがあるんですけど」

「な、なに?」

「文字の読み書き、教えてもらえませんか?」

「…え?」

 

 ラトミシアは初めての友達からのお願いにどんな難題でも掛かって来いと言わんばかりに内心気炎を上げていたが、文字の読み書きというあまりに小さなお願い事にキョトンとした顔になった。

 

「も、文字の読み書き?そ、そんな事で、い、いいの?」

「ええ。実は文字を書く事ができなくて。お願いできそうな人がラトミシアさんぐらいしかいなかったもので」

「!!わ、私が教える!ま、任せて!」

 

 ラトミシアは椅子から立ち上がってシリウスのお願いを快諾した。

 頼れるのが自分だけ。

 その一言でラトミシアは無限にやる気が湧いてくる心境になっている。シリウスはラトミシアの心境が手に取るように分かってしまい、いつか騙されないかと心配になってきた。

 

「(チョロ過ぎないこの人?大丈夫?)」

「文字の読み書き…ならまずは、絵本とかから。確か昔の物があったはずだからまずそれから。後は紙とペン。使ってないのがあるからそれで。絵本が終わったら…」

 

 シリウスがラトミシアの将来の心配をしているとは知らずに予定をドンドンと立てている。ラトミシアの独り言はポラリスが眠ってシリウスが紅茶を三杯、お代わりするまで続いた。

 

「ご、ごめんなさい…む、昔から考え出すと、止まらなくて…」

「いえいえ、気にしてませんから」

 

 日が落ちてきたのでシリウスは帰る事にして、ラトミシアは玄関まで見送りにきた。

 

「じゃあまた来ますね」

「う、うん…!ま、またね」

 

 また来るという言葉に表情を明るくするラトミシアに手を振りながらシリウスは宿屋へ向かった。

 

「うーん、お土産まで貰っちゃった。本当に大丈夫かなあの人…まあ、しばらくは私がいるから何とかするかな。取り合えず明日から勉強会の始まりだ」

 

 残っていたシフォンケーキをお土産にくれたのは嬉しいがやはりラトミシアの将来が心配になるシリウスだった。少しでもラトミシアに危機感を持たせようと思いながら宿屋への道筋を歩いている。宿屋に戻ったシリウスはいつものように夕食を取り部屋に戻って歯を磨いた後、ポラリスと一緒に寝た。

 そして翌朝、起床し朝食を取った後、何時から始めるとは聞いていなかったが早い方がいいだろうと早速ラトミシアの店へ向かった。

 店に付くとそこには休業の看板が掛かっていた。

 

「えぇ…店を休んでまでする普通…」

 

 ラトミシアのあらぬ方向への暴走にシリウスはかなり引いている。これでは店の中もどうなっているか分からないと戦々恐々としながらもドアをゆっくりと開けた。

 

「!!い、いらっしゃい!ま、待ってたよ!」

「…」

 

 玄関で主人の帰りを待つ落ち着きの無い犬のようにソワソワしながら行ったり来たりしていたラトミシアが、ドアが開いた音に反応して普段のだらけた動きに反して機敏に反応した。シリウスを確認すると表情を明るくして歓迎している。

 店の中は特に変化は見られなかったがラトミシアは違った。

 頭に熱血と書かれたハチマキをして、度が入っていない伊達眼鏡を掛けて、白いブラウスに黒いミニスカートを着て、手には差し棒のような物を持っていた。恰好はまだ分かる。形から入るために女教師風になろうとしたのはまだ理解できる。だが頭のハチマキは一体何なのだ。むしろそれはシリウスがする物だろう。

 シリウスの残念な物を見る目に気づかずにラトミシアはシリウスの手を引いて中に入れた。昨日お茶会した所まで連れてこられるとそこも様変わりしていた。テーブルの上には本が十冊以上あり、紙も数十枚以上置かれている。そこまではいい。

 問題は壁に貼られた横断幕やお祝い事のような飾り付けがされている事だ。

 百歩譲って横断幕は、まあ許そう。勉強頑張れと応援していると解釈すればまだ許そう。だがお祝い事のような飾り付けはダメだ。一体何を、誰を祝うというのだ。

 

「…ラトミシアさん」

「な、なに?あ、これ?う、うん。昨日、色々と、が、頑張った」

「……………そうですね、頑張りましたね」

 

 褒めてと期待に満ちた表情をシリウスに向けてくるラトミシアにシリウスは色々と諦めて褒めた。割と雑な褒め方だったがラトミシアは気づかず褒められたことを喜んでいる。色々と見ない事にしたシリウスは用意された席に着いた。

 

「じゃ、じゃあ、これから、じゅ、授業を、は、始めます」

「お願いします」

「あ~」

 

 授業が始まるとさっきとは打って変わって真面目に教え始めたラトミシア。

 シリウスも文字の読み書きは早急に会得しなければ今後に多大な影響を及ぼしかねないと理解しているので真面目に取り組んでいる。絵本を教科書に黙々と書き取りを行っている横で、ポラリスは窓から入ってくる日光でお昼寝をしている。黙々と勉強を続け、何度か休憩も挟みながら夕方になるまで勉強は続いた。

 そのおかげでやや崩れているものの自分の名前を書けるようになり、簡単な単語ぐらいなら書けるようになった。

 

「今日はありがとうございました」

「う、ううん、ぜ、全然、大丈夫。わ、私も、結構、た、楽しかったから」

 

 お礼を言うシリウスにラトミシアは頬を赤くして照れている。

 

「でも、流石にお店は開けたほうがいいですよ。何人か店の前まで来た感じでしたし」

「え?お、お客さん、来てたの?し、知らなかった…」

 

 ラトミシアは気づかなかったがシリウスはわずかに足音と話し声が店のドア辺りからするのを聞いていた。

 

「まあ、基礎は教えてもらいましたし、教材も貰いましたからもう授業は…週に二回ぐらいにしましょうか」

「う、うん!ちゃ、ちゃんと準備して、ま、待ってるから!」

 

 もう授業はしなくていいとシリウスは言おうとしたが、泣きそうな表情をしたラトミシアを見て軌道修正した。途端に表情を明るくして嬉しそうにするラトミシアを見てシリウスは苦笑している。

 

「(まあ、授業じゃなくてお茶会にしてもいいし、別にいっか)じゃあ今度は、そうですね…三日後とかは大丈夫ですか?」

「ぜ、全然、大丈夫!お、お店も、閉めるから、も、問題無し!」

「いや、お店は開けた方が…」

「だ、大丈夫だから!」

「(…もういいや)まあそれならいいですけど。ではまた三日後に」

「う、うん!ま、待ってるから!」

 

 説得を諦めたシリウスはラトミシアと別れて宿屋に戻り今日の勉強した箇所の復習を始めた。

 

「予習と復習はしないとダメだよな、ふぅ…頑張るかー」

 

 内心、勉強なんてしたくないと思ってるが文字が書けないと後々に響いてくるので我慢して勉強している。夕食を取った後もしばらく勉強を続けポラリスが欠伸をした辺りで切り上げて就寝した。

 それからシリウスは勉強会がある日はラトミシアの店へ行き文字の勉強をし、勉強会が無い日はギルドへ行きヴァレットからハンター講習を受けている。

 ハンター講習は迷惑を掛けた人達に謝罪してきたハンター達も同席している。ゴブリンを単独で撃破という新人としては偉業を成し遂げているシリウスにかなり敬意を払っていて最初から好意的に接してきたので、シリウスも横の繋がりを持つ重要性を理解しているので仲良くしており、今では友人となっており時々酒場で酒無しで飲んだり、ギルドで借りた木剣で鍛錬をしたりしている。

 今日もヴァレットのハンター講習があるが昨日からゴブリンの調査が一段落したので町の外でハンター講習が行われる予定だ。シリウスはハンター用の服に着替え先日整備し終えた小剣を持ちギルドへ向かった。

 ギルドではヴァレット以外が既に集まっていた。

 

「あ!シリウスちゃん来た!」

「こっちこっち!」

 

 桃色の髪の少女と赤色の髪の少女がシリウスに気づき呼んでいる。

 

「お待たせ」

「遅いわよ。もう皆いるわよ」

「いやいや、ヴァレットさんいないからセーフ」

「まあまあ、間に合ったからいいじゃない」

 

 桃色の少女は白いローブを着て杖を持っている魔法使いで、赤色の少女が胸当てと篭手と具足を付けて小剣を持っている剣士だ。

 桃色の少女はミーリ・アシェルト、赤色の少女はリヤン・ファートという。

 ハンター講習でシリウスと仲良くなった二人だ。同性で年齢も近い事から他のハンターより特にシリウスと親しくしている。

 

「あ~」

「あ、ポラリスちゃん、おはよう」

「あんた連れてきたの?誰かに預ければよかったじゃない」

「そうしようと思ったけど預かってくれそうな人が忙しくて手が離せなくてさ。それにポラリスも離れたくないって」

「ま~」

「ママですよ~」

「あんたはほんとに親バカね…」

「ふふふ」

 

 リヤンが言ったようにシリウスも誰かにポラリスを預かってもらおうとしたが、ラトミシアはお客さんの注文で水薬の調合で忙しく、ミネアとマロスとコニーも町の外から注文が入り忙しく、シリウスの知り合いで預かってくれる人がいなかった。何よりポラリスがそれを嫌がり、シリウスが預かってくれる人を探そうとすると泣いて抗議した。シリウスが何度も説得を試みたが泣くポラリスには勝てず連れて行く事にした。

 呆れた表情を隠さないリヤンとシリウスとポラリスが抱き合う姿を微笑ましそうに眺めるミーリだった。

 

「よう、集まってるな」

 

 三人で喋っていたらヴァレットがギルドの奥から戻ってきた。シリウスを含め教導を受けているハンター十人がヴァレットの前に集まった。

 

「今日は前言ったように外での実践講習だ。ギルドからの依頼でジャイアントアントの調査、これをする」

 

 ジャイアントアントと聞いて皆はソワソワしだし、隣にいる者と話し出す者もいる。

 

「静かに。まだ話は終わってない。調査する範囲は森の中でかなり広いから三つの班に別けて調査する。それぞれに付き添いのハンターが同行するから安心しろ。じゃあまずは班を作れ」

 

 十人いるハンター達は三つの班に別れ、シリウスはミーリとリヤンの三人で組む事にした。

 

「お前さん達の付き添いは俺だ。…って嬢ちゃん、その子も連れてくのか?」

「あ、ヴァレットさん。いやあ、預かってくれる人が皆手が離せなくて」

「うーん、タイミングが悪かったな…万が一の時は、俺が手を出すか、もしくは俺がその子を持つでいくか」

「すいません」

「気にするな」

「えー教官。シリウスに甘ーい。差別だー、ブーブー」

「り、リヤンちゃん…」

「いやいや、だってよ、赤ん坊を危険に晒す訳にはいかんだろ?」

 

 リヤンから冗談交じりで文句が飛んでくるがヴァレットは正論で往なしている。

 

「よーし、組み終わったな。調査する場所までは固まって行くぞ。じゃあ出発」

 

 班を組み終えたのを見計らってヴァレットを先頭に出発した。

 シリウスにとって二度目の外での依頼だ。前みたいになりませんようにと内心祈りながら皆の後を追った。

 

 

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