転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第二十六話

 

 ターエル近郊の森の中をハンターの一団が進んでいる。

 付き添いのハンターが三人おり、講習中のハンターが十人いる。付き添いのハンターは五級と四級でこの辺りはもはや庭みたいなものなのでかなり落ち着いているが、講習中のハンター達はまだ数えるぐらいしか来ていないので緊張で身体が固まっていたり、頻繁に辺りを見回していたり、教えられた事を小声で繰り返し呟いていたりしている。

 そんな中でシリウスは完治した左腕にポラリスを抱え、右手は小剣の柄に置いているが割と落ち着いていた。

 

「いいい、いいこと二人とも!?こここ困ったら、わた、私を、いつでもたたた頼りなさい!?」

「り、リヤンちゃん、お、落ち着いて、うぅ…怖いなぁ…」

「(自分以上に混乱している人がいれば冷静になるって本当だったんだなぁ…)」

 

 リヤンはプチパニックを起こし、ミーリはプチパニックになっているリヤンを見て段々と不安が大きくなっていた。そんな二人がいなくてもシリウスは教えられた通りに動けば大丈夫だろと考えていたが、二人のおかげで普段通りでいられた。

 

「二人とも、取りあえず深呼吸しろ。まだ先は長いのにこんなとこで取り乱してもしょうがないだろ?」

「「すぅ…はぁ…すぅ…はぁ」」

「よし、落ち着いたな。まず先頭はリヤン、ミーリは真ん中、私は後ろだ。リヤンは前と

上と下を見てろ。上は時々でいいが下はちゃんと確認してくれよ。ミーリは左右だ。そこまで頻繁にキョロキョロしなくていいからな。後ろは私が見てるから」

「ぐぬぬ…私が言うセリフだったのに…!」

「う、うんわかったシリウスちゃん。ごめんね、役に立たなくて…」

「いや気にしてないから」

 

 二人を落ち着かせた後、テキパキと指示を出し立ち位置を決めた。

 指示された事で自分の役割をこなそうと二人はさっきより落ち着いて行動している。

 

「やっぱこの嬢ちゃんはすげえな」

「ヴァレットの教導にも一番真剣に取り組んでるんだろ?」

「ああ。前にチラッと見たが鍛錬でもすげえ真面目にやってたぞ。一個一個の動作をゆっくり確認しながらやってた」

「おいおい、もうそれ玄人がすることじゃん。ヤベエな」

「ああ、ヤベエ」

 

 最後尾で付き添いのハンターがさっき見たシリウスの指示を見て高評価を付けたが、その評価がヤベエなので高いのか低いのか分かり辛かった。

 

「…この辺りだな。さて、ここから三手に別れる。そっちは任せたぞ」

「あいよ」

「任された」

 

 ターエルから出て数十分ほどで依頼の場所に着いた。

 見渡す限り森で見通しが悪く茂みから魔物に奇襲される可能性も大いに有り得るほどだ。ヴァレットの号令で決めていた班に別れ、それぞれの班に付き添いのハンターが付き各々違う方向へ歩いていった。

 

「俺達はこっちだ。俺は後ろにいるが手出しはしないからな。お前達で何とかしろよ」

「だ、大丈夫よ!蟻んこぐらい私に掛かれば、あっという間よ!」

「り、リヤンちゃん、ダメだよ、もっと慎重にならないと」

「…不安だ、大丈夫かこれ?」

「まあ、私が見てるんで何とかしますよ」

 

 ヴァレットは物凄く不安になったがシリウスがいるので何とかなるかと思い直した。

 立ち位置は先ほどシリウスが言った通り、先頭がリヤン、真ん中がミーリ、後ろにシリウスだ。ヴァレットはシリウスの少し後ろにいる。

 

「さっきも言ったけどリヤンは前方の警戒と痕跡の確認を。ミーリは左右の警戒と痕跡の確認。私は後ろの警戒をする。何か質問は?」

「ぐぬぬ…いつの間にかリーダーを取られていた…!」

「ま、まあまあ、今度リヤンちゃんがしたらいいじゃない。えっと、痕跡ってどんなのを探せばいいの?」

「足跡とか地面の違和感とかかな。土が掘られたり茂みが倒されてたりとか、そんな感じ」

「(うーん、あの嬢ちゃんは言う事無しだな。後は戦闘だけだが、こっちも多分大丈夫だろう。問題はこっちの二人だが、うーん…まだ何とも言えんな)」

 

 シリウスは今のところ文句無しの満点だが、自信過剰気味なリヤンと自己主張が弱いミーリは評価が低い模様。

 立ち位置を決め移動を開始した四人。

 先頭を歩くリヤンは小剣で茂みを切り払いながら進んでおり、何もなく退屈な事に口を尖らせつつもシリウスに言われたように警戒と痕跡探しはしている。ミーリは時々でいいと言ったのに頻繁に左右を確認しており、痕跡探しをしている余裕すら無い状態だ。シリウスは後ろを気にしつつもミーリの代わりに左右の痕跡探しをして、時々全方位を確認しながら歩いている。

 ヴァレットはそんな三人を見て心の中で採点している。

 やはり高評価なのはシリウスで次点はリヤン、そしてミーリという順番だ。リヤンは警戒と痕跡探しをしているが茂みを切り払う音が魔物を呼びかねないので評価は少し落ちている。ミーリは余裕が無く左右の警戒もただ見るだけで碌に確認をしておらず、痕跡探しもできていないので一番評価は低い。

 ヴァレットはそう評価を付けていたが、何かに気づいたように顔を上げた。が、特に何かをしようとはせずただ静観している。

 次に気づいたのは全体を見ていたシリウスだった。

 

「!リヤン、止まって」

「え?何でよ?」

「前。何かいる」

「(やっぱ嬢ちゃんは気づいたか。何で前にいる奴より先に気づくんだ?)」

 

 シリウスはリヤンを信用していないわけではない。ただ経験不足なので見落としがあるかもとさり気なくフォローを入れていたら先に気づいただけである。

 リヤンがその事を指摘する前に前方の茂みが音を立てて動いている。

 

「!!ほ、本当にいる!?」

「ぴぃ!?な、何が来るのぉ…」

「二人とも武器を構えて、一歩後退」

 

 リヤンが慌てながらも小剣を抜いて、ミーリは怯えながら杖を抱えて一歩下がると同時にシリウスが小剣を抜いて一歩前に出た。ヴァレットは剣の柄に手を置いていつでもフォローできるようにしている。

 茂みの奥からジャイアントアントが三体出てきた。すでにシリウス達の事を捕捉しており顎を鳴らしながら近づいている。

 

「ミーリ、魔法!リヤン、行くぞ!」

「ひゃ、ひゃい!」

「わ、わかってるわよ!」

 

 シリウスの指示に素直に従ってミーリは魔法を、リヤンは小剣を握り直してシリウスと一緒にジャイアントアントに向かっていった。

 最初に接敵したのはシリウス。

 ジャイアントアントが顎で噛み付こうとするのを一歩下がって回避し、次の行動に出る前に小剣を思いっきり横に振り抜いて触角を斬り落とした。

 

「ギイイイィィィ!?」

 悶え苦しんで暴れるジャイアントアントの身体が他の仲間にも当たりよろめいたり、倒れたりして大きな隙ができている。

 

「リヤン!」

「わかってるっての!おりゃあああぁぁぁ!」

「あっバカ!?」

 

 リヤンは倒れて隙だらけになっているジャイアントアント目掛けて逆手に持った小剣を思いっきり突き刺した。小剣は頭に突き刺さったが思ったより刺さらず、中途半端な所で止まっている。ジャイアントアントは刺された痛みで暴れ、リヤンは剣を離さずそのまま振り回されている。

 

「うわああああぁぁぁ!?」

「バカ!手を離せ!」

 

 シリウスが叫ぶも小剣は抜けてリヤンは吹き飛ばされて地面に叩きつけられた。

 

「げふっ!?」

 

 乙女が出してはいけない声を上げているが無事だった。

 刺されたジャイアントアントと触角を斬られたジャイアントアントはまだ痛みに悶えているが、まだ一体残っている。怒ってシリウスに突進してきたジャイアントアントをシリウスは横に跳んで回避した。ジャイアントアントは回避されたと分かるとすぐに止まって再び突進しようとするがその前にシリウスが前に出た。シリウスは小剣を振り上げて触角を斬り落とし、小剣を手の中で逆手持ちにしてジャイアントアントの目に目掛けて突き刺した。

 

「ギイイイィィィ!?」

「ふんぬっ!」

 

 触角を斬り落とされた痛みと目を刺された痛みで苦しむジャイアントアントに目もくれずさらに小剣を押し込んだ。ジャイアントアントは大きく痙攣した後、地面に倒れ動かなくなった。

 

「【マジックボルト】!」

 

 ミーリが準備していた魔法が発動した。

 【マジックボルト】は魔法使いが最初に覚える攻撃魔法である。拳大の魔力の塊を飛ばす魔法で、魔力の消費量は低く威力も高くは無いが使い勝手が良いので熟練者でも使う者は少なくない。

 マジックボルトが杖の先から放出され、触角を斬り落としたジャイアントアントへ真っ直ぐ飛んだ。ミーリは頭を狙ったが逸れてしまい胴体に命中した。

 

「ギイィ!?」

 

 真ん中の足と胴体の一部を吹き飛ばされてジャイアントアントは痛みのあまりにその場に倒れた。

 

「ナイスミーリ!はあ!」

 

シリウスはその隙を逃さず倒れたジャイアントアントの上に飛び乗り殻と殻の間に小剣を突き刺した。ジャイアントアントはしばらく藻掻いていたがやがて力尽いた。

 

「あと一体…!」

「リヤンちゃん大丈夫!?」

「いたた…こんの~…!蟻んこが~!!」

 

 痛みに耐えて立ち上がったリヤンが怒りの爆発させてそのまま突っ込んでいった。

 若干ふらついているものの立ち上がったジャイアントアントも怒りの鳴き声を上げながらリヤンに突っ込んでいった。

 

「あのバカっ…!くらええええぇぇぇ!」

 

 シリウスは考えも無しに突っ込んだリヤンに悪態を付きつつ、持っていた小剣をジャイアントアント目掛けて投げた。回転しながら飛ぶ小剣は刺さらなかったが、それでも気を逸らす事はできその隙にリヤンは懐まで入れた。

 

「おりゃあああぁぁぁ!」

「ギイィ!?」

 

 シリウスと同じようにジャイアントアントの目に勢いよく突き刺した。小剣は深々と突き刺さりジャイアントアントはその場に倒れた。

 最後の一体を倒して辺りは静かになりリヤンの荒い息遣いだけが残った。

 

「や、やってやったわよ、ぜぃ、ぜぃ、こんちくしょう…」

「り、リヤンちゃん、大丈夫…?ポーション飲む?」

「だ、大丈夫よこれくらい。ま、まあ、ちょっと背中が痛いけど」

「無茶し過ぎだ、このバカ」

 

 投げた小剣を回収したシリウスがリヤンを叱りだした。

 

「な、なによ!?誰がバカですって!?」

「お前だ、このバカ。何で考え無しに突っ込んだ?私が気を逸らさなかったら最悪死んでたぞ」

「うぐっ…」

 

 自分でも分かっていたらしくシリウスに指摘されて言い淀むリヤン。

 

「確かに。最後のは良くなかったな。嬢ちゃんが機転を利かせて剣を投げたから勝てたようなもんだ。どんな時でも常に考えろって俺は言ったと思うんだが?」

「うぅ…」

 

 戦闘が終わった事で後ろで待機していたヴァレットがリヤンの行動を批評し始めた。

 前々から感情任せな行動が多かったリヤンにヴァレットは考えて行動するよう口酸っぱく言っていた。以前までのリヤンなら反発して言う事を聞かなかったが、如何に自分が考え無しに行動していたかを自覚した今はちゃんと聞き入れている。

 

「わ、わかってはいるけど…中々直らないわよ…」

「…まあ、あまり同じ事を言われるのもあれか。とにかく心の隅でもいいから覚えとけよ」

「うん…」

 

 自分でもダメな行動だったと自覚しているのでいつもの元気が無くなっていた。

 ミーリは何て声を掛ければいいかとアタフタとしており、シリウスは戦闘が始まった辺りから静かにしてシリウスに抱き着いていたポラリスをあやしている。

 

「ま~」

「ポラリスは将来大物になるな。さて…落ち込むのは後にしろ。まだ先は長いぞ。それとも~ビビっちゃったんですか~?」

「…だーれがビビってるですって!?」

「うわぁ…ふ、二人とも…」

「それで元気になるのかよ…」

 

 短い付き合いながらもシリウスはリヤンの性格を熟知しているので軽く煽ればすぐに反発して元のリヤンに戻った。煽るシリウスとそれで元に戻るリヤンに何とも言えない表情をするミーリと単純すぎるリヤンに呆れているヴァレット。

 

「さーて、この蟻んこどうします?」

「あ、ああ。まあ放置、だな。調査はまだ続くし違う日にでもギルドの奴らと回収するさ」

「了解です。ほら行くぞ」

「ちょっと!?まだ話は終わってないわよ!?」

「あーはいはい、そうですねー今日はいい天気ですねー」

「誰も天気の話なんてしてないわよ!?」

「あ、あはは…」

 

 喚き散らすリヤンとそれを適当にあしらっているシリウスにミーリは苦笑するしかなかった。

 ヴァレットは戦闘時と戦闘後のシリウスの言動をこれまた高く評価していた。

 

「(俺から言うまでもなく他の二人に的確な指示を出した。短い指示だったがそれゆえ分かり易い。複数相手の時の対処法をしっかり守りながら目の前の相手の動きを的確に読んで行動した。他がミスってもすぐにカバーに入り、相手に隙が出来れば逃さずに動いた。咄嗟の行動でもあの場面で剣を投げるのも決して悪くは無い。石を拾って投げても間に合わなかったかもしれんし、石程度なら反応しなかったかもしれん。終わった後も周囲を警戒していたし、仲間の失態を敢えて突き付けた。後から言っても逆効果かもしれんからな。直後なら記憶も鮮明だから言い訳も苦しい。その後のケアも完璧だった。仲間の性格を熟知して敢えて煽ったな。)やれやれ、本当に百年に一人の逸材かもしれんな」

 

 ベテランハンターのヴァレットから見ても文句の付け所が無いぐらいシリウスは行動していた。

 

「はいはい、行きますよー」

「こらっ!置いてくな!」

「待ってよ~」

 

 リヤンの抗議を軽く流しながらシリウスは森の中を進み始めた。そのシリウスの後を慌てて追いかけるリヤンとミーリ、それを微笑ましそうに見ながら追いかけるヴァレット。

 魔物がいる森の中でそこだけが気の抜けた空気が漂っていた。

 

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