森での調査はまだ終わらず続いている。
先程の戦闘以来魔物とは出会わずに済んでおり、リヤンは退屈そうにしているがミーリはホッと安堵の溜め息を付き、シリウスは面倒事が起きなくて安心している。
「…ん?止まれ」
それに最初に気づいたのはヴァレットだった。
「どうしました?」
「どしたの教官?」
「え?ま、また魔物?」
「聞こえないか?」
ヴァレットの言葉に三人は耳を澄ませた。風に乗ってわずかに人の声が聞こえてきたが、それと同時に金属音も聞こえた。
「人?それと金属音…誰かが戦っている?」
「ああ。それも複数だ。それに…」
ヴァレットは伏せて地面に耳をくっ付けた。
「…複数の足音。落ち着きが無い、かなり慌てている。それと他にも足音。こっちはかなりの重量のもの。数も多い…ジャイアントアントの群れに襲われているな。応援に行くぞ!」
「はい!」
「えっ!?行くの!?」
「さ、さっきよりいっぱいいるんでしょ!?」
「何しにここまで来たんだ!行かなきゃ置いてくよ!」
「ちょちょちょ!?こんなとこに置いてくなー!」
「はわわわ!?待ってよー!?」
尻込みしていたリヤンとミーリは慌ててヴァレットとシリウスの後を追った。
音のする方へ近づくにつれ人の怒号とジャイアントアントの鳴き声が聞こえ始めかなり厳しい状況だと分かった。茂みを超えた先ではハンター達とジャイアントアントの群れが死闘を繰り広げていた。
「踏ん張れ!仲間が来るまで何とか耐えるんだ!」
「仲間が来るまでっていつ来るんだよ!?」
「チクショウ!何でこんな目に!?」
「ギャアギャア煩い!死にたくなかったらさっさと武器を振れ!」
「くっそ!?矢が尽きちまう!?」
「も、もう魔力が…!?」
「最後まで諦めるな!矢が無くなったらその辺の石でも投げつけろ!このポーションを飲め!少しは魔力が回復する!」
付き添いのハンターが教導中のハンターを鼓舞しつつ前線で暴れて注意を自分に向ける事で何とか戦線を維持していた。ジャイアントアントはかなりの数がおり目視でも十数体以上おり、中には通常の倍以上の大きさのものもいる。
「こりゃマズい!お前達!無茶だけはするなよ!」
「了解!」
「わ、わかった!」
「わ、わかりました~!」
ヴァレットは剣を抜きジャイアントアントの群れに突っ込んでいき横合いから思いっきり斬りつけ、シリウス達は教導中のハンター達の方へ応援に向かった。
「ヴァレットか!?スマン!助かる!」
「気にするな!それより突っ込むぞ!」
「守りは!?」
「大丈夫だ!優秀な奴が一人いる!」
ヴァレットに優秀な奴認定されたシリウスは教導中のハンター達がいる所まで辿り着いた。全員返り血や土で汚れていて疲労が濃いものの五体満足で無事だった。
「二人が戦えるように援護するぞ!手伝ってくれ!」
「はあっ!?何なんだお前は!?」
「いきなり出てきてリーダー面するんじゃねえ!」
「お、おい!仲間割れしてる場合じゃ…!?」
「お前らちょっと落ち着け…!まだ終わってないぞ…!」
「うるせえ!黙ってろ!」
「こんな奴らの手なんか借りなくても俺らだけで十分だ!」
「ちょっと!何よその言い草は!?せっかく助けに来てあげたのに!」
「うるせえ!誰も助けてくれって頼んでねえよ!」
「何ですって!?」
「り、リヤンちゃん!?おち、落ち着いて!」
「お前、本当に落ち着けって!?」
シリウスの言葉に従わず反発する者にリヤンが噛みつき、ミーリと他の者が止めに入るが魔物がいなければ喧嘩に発展しかねないほどの険悪な空気が流れ始めた。
「すぅ…やかましいっ!!」
「「「「「!?」」」」」
シリウスが大きく息を吸って大声で怒鳴った。その大声に反発していた者や止めようとした者全員が驚いて動きを止めた。
「あーだこーだと小さい事でギャアギャア喚くな!今!どんな状況だ!分かったら黙って言う事を聞け!返事は!?」
「「「「「え、わ、分かりました?」」」」」
「声が小さいっ!」
「「「「「分かりました!」」」」」
シリウスの怒号に全員が背筋を伸ばして返事をし、その返事を聞いてシリウスは深い溜め息を吐いた。ちなみに怒鳴る前にポラリスが怖がらないようにポラリスの耳を塞いでいた。ポラリスは耳を塞がれて不思議そうな顔をしていた。
「ヤバくね、あの嬢ちゃん?」
「凄いとは思っていたが…まさかあそこまでとはな」
戦闘中の二人にもシリウスの怒号が聞こえており争いを止めて喝を入れたシリウスに驚いていた。まだ若いのにあそこまでの貫禄のある喝ができるとはこれっぽっちも思っていなかった。
「後ろは任せても大丈夫そうだな!」
「よし!突っ込むぞ!」
二人は互いに背中を守りながらジャイアントアントの群れに突っ込んでいった。
弱点である触角を斬り落として行動不能にしたり、ギリギリまで引きつけてから攻撃を回避して同士討ちさせたりとベテランならではの戦い方をしている。
「ほうほう、ああいう戦い方もあるのか…参考になる」
「ちょっと!?見てる場合じゃないでしょ!?」
シリウスが思わず技を盗もうと凝視しているとリヤンに叱られた。
「おっといかん。二人が囲まれないように回り込んでくるジャイアントアントをこっちにおびき寄せるんだ。ミーリとそちらの人は魔法で。他は石でも枝でも投げつけてこっちに引き寄せるんだ。流石に何度も投げつけられたらあっちも怒って向かってくるだろ」
「う、うん!頑張る!」
「分かった。ポーションも飲んだからまだ行けるぞ!」
「お、おう。分かった」
「…さっきのは怖かったが、俺らも頭に血が上り過ぎてた。すまん」
「い、いや。その、私も言い過ぎた、から。ごめん」
「石集めてきたぞ!投げまくれ!」
五人で石や枝を投げまくり、二人は魔法の準備に入った。
一つ二つが身体に当たった所で何ともなかったが、それが増えると流石に煩わしくなってきたのか数体ほどシリウス達に向かってきた。
「来たぞ!魔法、撃て!」
「「【マジックボルト】!」」
魔法使いの二人が放った魔法がジャイアントアント目掛けて真っ直ぐ飛んだ。二発のマジックボルトはそれぞれ違うジャイアントアントの頭部に当たり、一体は頭を吹き飛ばして倒し、もう一体は顎を吹き飛ばして悶絶している。
二体を押し退けるように残った三体がシリウス達目掛けて突進してきた。シリウス以外は大きく避けたがシリウスは引きつけてからサイドステップで避け擦れ違いざまに触角を一本斬り落とした。
「ギイィ!?」
「マジかよ!?」
「すげえ!」
「ぐぬぬ…!私だって頑張ればあれぐらい…!」
「よし、上手くいった」
対抗心を燃やしているリヤン以外はシリウスの技に驚いていた。
シリウスも出来るかどうかは分からなかったが、仮にミスしても相手の攻撃は当たらないし取り合えずやってみようと軽い気持ちでやった。思いのほか上手くいき、敵を一体行動不能にし、さらに皆の戦意向上にも繋がった。
「私だって負けないわよ!」
「よっしゃ!俺達も行くぜ!」
「俺だってやれば出来るはずだ!」
「矢が無くても戦えるんだ!やってやる!」
元々負けず嫌いなリヤンはさらに燃え、他のハンター達にも火が付いた。
無理に突っ込まずに相手の行動を見てから行動する。ヴァレットに教わった事を忘れずにリヤン達はジャイアントアントに突っ込んでいった。噛みつきや突進を回避してから触角や足を攻撃し動きを止めて殻と殻の間に剣を突き刺して止めを刺している。
ヴァレット達の方も順調に数を減らしておりシリウス達の周囲にいたジャイアントアントを倒し終えたのでそちらに加勢しようとした時、一回り身体が大きいジャイアントアントが鳴き始めた。
「キイイイィィィ!」
その声が鳴り響くと残っていたジャイアントアントがシリウス達に背を向けて一斉に同じ方向に逃げ出した。
「逃げた…?」
「逃がさないわよ!」
「待て、追うな」
「何でよ!?」
「追いかけたところでどうせ追いつかん。それに逃げる先はきっと巣だ。数十体のジャイアントアントとやり合いたいか?」
「うぐっ…さ、流石にその数は…」
「む、無理だよ~…」
「嬢ちゃんの言う通りだ。それに今回はあくまで調査だ。無理は禁物だ」
「よーお前達、生きてるかー?」
「生きてますよ!」
「そこは無事か?って聞くとこでしょうが!」
「はぁー、死ぬかと思った…」
「も、もう魔力も体力も無いぞ…」
全員が五体満足で生き残れたところで今後の方針を決める事になった。
「あのデッカイのはソルジャーアントだな。ジャイアントアントより戦闘に特化した魔物だ」
「あれが出てきたってことは巣も大きくなり始めてるとこ、か?」
「そう見て間違いないだろう。これだけでも調査としては十分だが…一応巣の位置も確認だけした方がいいかもな」
「おーい!」
「お?他の奴も着いたぜ」
「あいつらも無事だったか」
調査に来た全員が集合出来たところで方針を相談し合い巣の位置を確認して調査終了という方針に決まった。
「こっからは全員で行動する。可能な限り戦闘は避けて隠密で行くぞ」
ヴァレットの言葉に全員が頷き音を立てないように慎重に歩き始めた。
しばらく歩いていると洞窟を発見した。その洞窟の周りにはソルジャーアントが数体うろついており、ジャイアントアントが忙しそうに洞窟を出入りしていた。
「ここか…」
「結構な数のソルジャーアントが見張りにいるな」
「かなりの数が出入りしている。巣の中もデカそうだ」
「う、うわぁ…すげえ数…」
「さっきの数でもきつかったのに…」
「俺達だけじゃ無理だなこれ…」
「あの洞窟にこの数倍はいるんだろ?無理だよ」
「うーん…夜に巣の中に忍び込んで火攻めすればワンチャン…?いや、かなり広いだろうから無理か。なら爆破して生き埋め?多分普通に地面から出てくるな…あ。水攻めなら一網打尽できそうだな」
「し、シリウスちゃん…」
「うわぁ…流石に引くわ…」
「解せぬ」
各々がジャイアントアントの数に戦慄している横で真面目に攻略法を考えていたシリウスだったが、その内容があまりにも外道過ぎたのでミーリとリヤンから引かれていた。
「こりゃ早めに潰さないと面倒な事になるな。よし、戻るぞ」
ヴァレットの言葉に皆は素直に従い来た道を音を立てずに戻り始めた。
幸運にも帰りの道中ではジャイアントアントに出会わずにすみ無事にターエルに帰る事が出来た。
「やっと町に着いた…」
「色々あり過ぎて疲れたぞ…」
「なんだ?何か合ったのか?」
「こっちはジャイアントアントを二体倒しただけだが…」
「俺達の方は一団に出くわしてな。マジで死ぬかと思ったぜ」
「マジかよ…よく無事だったな」
「ああ、付き添ってくれた人のおかげさ。後、あの嬢ちゃんもかな?」
「あん?誰の事だ?」
「ほら、あの赤ん坊を連れてる…」
「ああ、あの子か。あの子がどうしたんだ?」
「実はな…」
ギルドへの道中で他のハンターが色々と話している横でシリウスは今日の夕食に思いを馳せていた。
「今日は何を食おうかな?」
「ま~」
「ポラリス~どうした~」
「オンとオフが違いすぎるでしょこれ…」
「あはは、まあいいじゃない。それより私もお腹空いちゃった」
「そうね。いっぱい動いたからお腹空いたわね。早くギルドに報告しに行きましょ」
皆、好き勝手喋りながらギルドへ向かった。
「お疲れ様です」
「おう、今戻った。調査の方だがソルジャーアントを複数確認した。早めに対処した方が良さそうだ。場所は、ここだ」
ヴァレットは受付にいたベテラン職員に調査結果を報告している。職員は真剣な表情でヴァレットと意見交換しながら、ギルド長への報告書を書いている。
「わかりました。近々ジャイアントアントの巣の討伐依頼が出ると思いますので受注の方をお願いできますでしょうか?」
「もちろんだ。俺の方からも色々声を掛けておく」
「ありがとうございます。それではこちらが今回の報酬となります」
職員から報酬が入った大袋を貰いヴァレットは皆が待っている所まで戻ってきた。
「おう、待たせたな。今回の報酬の3000リクルだ。一人当たり…いくらだ?」
「230リクルですね」
「お、おう。早いな嬢ちゃん…えー、230、っと。ほら、取りに来い」
ヴァレットは素早く計算したシリウスに驚きつつ、一人ずつに小分けした報酬を渡していく。3000リクルを13人で割ると10リクル余るのだがヴァレットはその10リクルをネコババせずこっそりとシリウスの分に入れておいた。
「お前ら、今回の依頼で色々と学べたと思うがそれを忘れるなよ。じゃあこれで解散。お疲れ」
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
ヴァレットは付き添ってくれたハンター達と飲みに行き、他のハンター達も拠点に帰ったり飲みに行ったりしている。
「じゃあ私達も解散で」
「えーいいじゃない、飲みに行きましょうよー」
「ええい!ウザがらみするな!お前は酔ったら面倒くさいんだ!」
「いーやーよー。ミーリは?ミーリも飲みたいよね?ね?」
「え?あー、んー…私も一緒に飲みたいなー、なんて」
「ミーリ、お前もか…はあ、好きにしろ…」
「っし!さあさあ行きましょう!美味しいご飯とお酒が待ってるわ!」
「えへへ、ゴメンね」
根負けしたシリウスは酔っ払った二人を介抱する未来が容易く見えてゲンナリするが、笑っているリヤンとミーリを見るとそれでもいいかと思えてしまった。
今までずっと一人でいた。
周りにはポラリスがいて、ミネア、マロス、コニー、ヴァレットなど良くしてくれる人は割といるが対等な立場の人はいなかった。別にその事に不満など無かったが、心のどこかで寂しく思う事もあった。
だが最近はラトミシアとリヤンとミーリという友人ができた。その事実がどうにも嬉しくついついお節介を焼いたり、こうやって流されたりしてしまっている。今でも自覚できるぐらいシリウスは笑っていた。
「やれやれ。私も存外寂しがり屋だったみたいだな」
「ま~。う~」
「ふふっ。ポラリスもいるしな。もう寂しくないよ」
シリウスに手を伸ばすポラリスに頬擦りをした後、先を行く二人の友人を追いかけた。