転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第二十八話

 

「「「カンパーイ!」」」

 

 シリウスが泊まっている宿屋の酒場でシリウスとリヤンとミーリの打ち上げが始まった。

 

「んぐっ、んぐっ、プハー!やっぱり仕事終わりの一杯は格別ね!」

「言い方がおっさんぽいぞ」

「美味しけりゃそれでいいもーん。お姉さーん!お酒もう一杯ちょうだい!」

「えへへ、美味しいね~」

 

 リヤンとミーリが飲んでいるのは果実酒でシリウスは果実水だ。ポラリスのお世話があるのでリヤンがどれだけ言っても酒だけは絶対に飲もうとしない。一度だけ舐める程度に飲んだ事はあったが盛大に咽たので、それ以来進められても断ってきた。

 

「飯も食えよ。酒ばっかりだと悪酔いするぞ」

「分かってますよーだ。それに言われなくても美味しいからいっぱい食べちゃう!」

「あーん。ん~♪美味しい~♪」

「ポラリスも食べよっか。あーん」

「あ~」

「シリウスちゃんも食べなきゃダメだよ。はい、あーん」

「いや、自分で食うから」

「あーん」

「…あー」

「えへへ、美味しい?」

「ああ」

「えへへへへ♪」

「ふふーん。私も食べさせてあげるわ!さあ、口を開けなさい!」

「お前、自分が嫌いな物を押し付けようとしてるだろ」

「ギクッ!そ、そんなわけないじゃない、へ、へんなこといわないでよ」

「棒読みじゃねえか。おら、食わせてやるから口を開けろ」

「や、止めろー!」

 

 お互いに食べさせあったり無理矢理食べさせたりと三人なりに打ち上げを楽しんでいる。ご飯が美味しいので二人の酒もドンドン進み顔は真っ赤になっている。

 

「おしゃけ、おいしいー!」

「んぐっ、んぐっ、ぶはー。えへ、えへへへへ」

「飲み過ぎだろ。そろそろ止めとけ。明日が辛いぞ」

「いやー!もっとのむのー!ちくしょー!あいつらぜったいゆるさない!」

「また始まった。これで何度目だ?」

 

 リヤンは酔っ払うと自分を捨てた家族への恨みつらみを吐き出す癖がある。

 リヤンは寒村の生まれで土地はやせ細っており今日を生きるのもやっとな生活をしていた。リヤンの家族は子沢山でとてもではないが全員を養う事は出来ずにいた。その村では動けなくなった老人や子供を売って口減らしをしており、リヤンの両親も例外ではなかった。リヤンは幼い弟妹達が売られていくところを何度も見ており、それが自分にも訪れると理解していた。そしてリヤンの番となり売られる際に両親が浮かべた歪んだ笑みを見てリヤンの中で色々と吹っ切れた。人買いの目を盗んで逃げだし丘を超え、森を抜け、平野を駆け抜けて、とにかく体力が続く限り走り続けた。疲労と空腹で倒れていた所をターエルに帰る途中だったハンターに助けてもらった。それからはターエルの孤児院で過ごし村では考えられないほど心穏やかに過ごした。

 だが心の奥底には両親の歪んだ笑みがヘドロのようにへばりついていた。何の価値も無い子供だったから捨てられたと思っており、価値が無ければまた捨てられると思うようになってしまった。勝気な性格は内に秘める焦燥感を隠すためにリヤンが演じていただけだ。本当は臆病で泣き虫な性格でこうやって酔っ払った時に本来の性格が出てくる。

 

「あいちゅらのちぇいで、わたしは!わたしは!う、うぅ…ちがうもん。わたしはできるこだもん…」

「また始まった、はぁ…ああ、そうだな。リヤンは出来る子だ。えらいえらい」

「ひぐっ、うわーん!しゅてないでー!」

「捨てない捨てない。ほら泣かない泣かない」

 

 シリウスに泣き叫びながら抱き着くリヤンを慣れた手つきで頭を撫でている。何度も体験している所為でやや投げやりに言っているが捨てる気は全く無かった。

 

「えへへ、えへへへへ」

「こっちもか…ほら、ミーリ。こっちにおいで」

「えへへ」

 

 ミーリはひたすら笑いながら飲んでいたが、シリウスに抱き着くリヤンを羨ましそうに見ていた。こっちも何度も体験しているので慣れたようにミーリを呼び寄せた。ミーリは笑いながらシリウスの傍にやって来て抱き着いた。

 ミーリはリヤンと違いそれなりに裕福な商家で生まれ育った。両親と弟の四人家族だったが両親は弟の方ばかり可愛がっていた。弟は商家の跡取り息子として溺愛されていたが姉のミーリには期待されておらず、商人としての才能が弟にはあってミーリにはそれが無かった事が後押ししていた。いつからか両親との会話も無くなっており、弟からは出来損ないを見るような蔑んだ目で見られた。そんな生活に耐えられず誰にも言わずに荷物を纏めて家を出た。知り合いを頼ってターエルまでやってきて一人で暮らし始めた。

 両親と弟には思うところはあるものの恨んではいない。ただ自分も愛して欲しかった。ミーリが思うのはただそれだけだ。いつもは心の奥に仕舞っているが酔っ払っているのでその欲求が表に出ている。シリウスはその事に気づいており、ミーリの好きなようにさせている。

 

「よしよし。ミーリは頑張ってるよ。えらいえらい」

「!えへ、えへへへへ」

 

 シリウスがミーリの頭を撫でながら褒めるとミーリの笑顔は三割増しで輝きシリウスにを抱き締める力も強くなった。

 右にリヤン、左にミーリ、膝の上にはポラリス。これでシリウスが男だったら嫉妬の視線が四方八方から襲うが、中身はともかくシリウスは女なので代わりに微笑ましい視線が襲ってくる。シリウスの経験上、二人が寝つくまでこの拷問は続くので完全に諦めた目で二人を撫で続けている。

 撫で続ける事数分、ようやく眠った二人。泣き疲れて寝たリヤンと幸せそうな顔で眠るミーリ、そして膝の上でシリウスのお腹に抱き着いて眠るポラリス。可愛らしい寝顔を見せるポラリスに悶えつつ、二人を引きはがそうとするがビクともしなかった。

 

「うん知ってた。はぁ~、これもまたかよ…」

 

 何度も体験しているのでこうなる事は薄々分かっていた。ポラリスをおんぶ紐で抱っこし、二人の肩を持って担ぐようにしながら運び始めた。

 

「ふんっ!ま、ったく!寝る、まで!飲むな、ってんだ!」

 

 文句を言いながらも二人を部屋まで運びベッドに寝かせた。装備を外して靴を脱がせた後、シリウスも装備を取った後ベッドに寝転んだ。三人で使うには狭いものの疲れているのでそのまま寝る事にした。

 翌朝。

 床に正座するリヤンとミーリ。

 二人とも酒を飲んでも記憶が残るタイプでシリウスに抱き着いた事もバッチリと覚えている。顔を真っ赤にして俯く二人を取り合えず無視してポラリスのおしめを替えているシリウス。替え終えた後、ようやく二人を見た。

 

「…まあ、あれこれ言うのは既に何回も、何回も!したからこれ以上は言わん」

 

 何回もというのを強調して言うと二人はビクッと肩を震わせている。

 

「ああ、これだけは言っておくか。二人とも、飲み過ぎだ」

「ひゃい、しゅみましぇん…」

「ごめんなしゃい…」

 

 消え入りそうなほどか細い声で謝罪するリヤンとミーリ。

 その後、逃げるように帰っていった二人を見送りいつものように洗濯を始めた。慣れた手つきで洗い部屋に戻って干した後、朝食を取りに下へ降りていった。いつものように朝食を取った後、部屋に戻り装備の点検を始めた。

 

「パッと見、刃毀れとか歪みとかは無し。血も拭き取った。ショートソードヨシッ。破損無し。汚れも拭き取った。篭手ヨシッ。洗い残し無し。後は乾くのを待つだけ服ヨシッ。全部ヨシッ」

 

 指差し確認しながら点検を終えたシリウスは小剣を腰に差し、ポラリスを抱いて部屋を出た。宿屋の裏手の路地へ行き、前もって置いていた籠にポラリスを入れた後、小剣を抜き素振りを始めた。

 上段に構えて振り下ろす。それをただひたすら繰り返している。

 

「九十八…九十九…百っと、ふぅ…」

 

 規定数を振り終えて布で汗を拭った後、ポラリスを抱いて右半身を前にして再び素振りを始めた。今度はただ振り下ろすのではなく剣術の振り方に沿って振っている。

 唐竹、袈裟切り、逆袈裟、右薙ぎ、左薙ぎ、右切り上げ、左切り上げ、逆風、刺突。

それらをゆっくりと動作を確認するように振り、一通り振り終えれば今度は速度を上げて振り始めた。ポラリスに当たらないようにしつつほぼ戦闘時と同じ速度で振るっている。

 これがシリウスが新しく始めた日課であった。

 

「シッ!ふぅー…これぐらいにしておくか。ポラリス、大丈夫だった?」

「あ~」

 

 ポラリスを抱いての戦闘を想定した鍛錬なのだがポラリスが嫌がったり、痛がったりしていないかだけが気掛かりだった。

 当の本人はケロッとしており笑顔でシリウスに手を伸ばしていた。シリウスは笑顔になりポラリスに頬擦りをしてそれに答えている。小剣を仕舞い汗を拭き取りながら部屋に戻った。

 部屋に戻ると今度は本を取り出し文字の勉強を始めた。こちらも日課で毎日コツコツ続けた結果、時間は掛かるもののこうやって本を読めるぐらいまで成長した。手を伸ばして甘えてくるポラリスの相手をしつつ昼まで勉強し続けた。

 昼食を取りに外へ出かけ適当な出店で昼食を購入し適当な場所で食べてギルドへ向かった。

 ギルドにはどんな依頼があるのか、こういう依頼ならどうすればいいかなどを思考するためにほぼ毎日向かっている。依頼書を見ては小声でブツブツと呟き、何か分からない事があれば強面のベテランハンターに臆する事無く聞きにいっている。

 その熱心な姿を見てベテランハンターは親身になり、アドバイスの他に自分が体験してきた事を惜しみなく伝えている。文字が書けるようになってきてからはメモまで取っているが、まだそこまで丁寧に書けないので後で見返してもミミズがのたうったような汚い字で非常に読み辛かったり判読できなかったりする事もある。

 アドバイスの他に鍛錬にも付き合ってくれ、ギルドの裏手の鍛錬場で木剣や本物の剣で打ち合ったりしている。スポンジのように教え伝えた事をドンドン吸収するので皆熱が入り教える者がドンドン増えている。

 

「四足歩行の魔物の攻撃は大体噛みつき、引っ掻き、体当たりの三つが多い。噛みつきは前に向かいながらするから後ろに下がるか横に跳べばいい。引っ掻きはほとんどが上からの振り下ろしだ。たまに横から薙ぎ払ってくる奴もいる。身体がデカい奴だと振り下ろしで地面をぶっ壊す事があるから気を付けろ。体当たりは引きつけてから避けろ。早めに避けたら修正してくるから出来るだけ引きつけてから避ける方がいい」

「よいか!武器は己の手足の延長!己の身体と一体化させて振るうのだ!分かったか!何?分からない?たわけ!幾百幾千振るい続けろ!さすれば自ずと理解できよう」

「ハンターしてるとね、やっぱり人とかとも戦う訳よ。その時はね、相手の目を見るの。大体はどうしても次に攻撃する所を見ちゃうから、そこを往なすなり防ぐなりしてから反撃。これが鉄則ね。それからね、相手によるけど防具付けてたり、鱗とか持ってるのもいるわけよ。そういう時は、関節部分を狙うの。そこはそんなに硬くないからそこを攻撃すれば後は楽勝よ」

「外で気をつける事?そうだな…常に気を配るのと音と匂いを頼りにする、かな。変な音が草木が風に揺られる音に僅かに混じって聞こえたりするし、魔物とか盗賊とかが近づいてきたら独特の匂いがするから割と早く気づけるよ。あ、でも風上なら無理か。うーん…ま、結局常に気を配る、に戻るわけだ」

「こっちが薬草。それでこっちが毒草。見た目ほとんど一緒でしょ。でもね、一個だけ違いがあるの。さあ、どこでしょうか?…お、正解!そう。毒草の花の色が若干濃いの。他の毒草も大体は色が濃いのが多いからそこを見ちゃえば分かるわよ。あ、でもでもたまに色が薄い種類のもあるからそこは気を付けてね」

「他の町に行く時、その日に着くのが一番いいが、まあそれは無理だな。そこで野宿をするわけだが可能なら他の奴らが使っていた所を使った方がいい。そういう所は危険が少ないからな。でも出来るだけ野宿をする前に周りを確認しておけよ。そこを狙って罠を張る奴なんかもいたりするからな。野宿をする時は火を絶やすなよ。人とかは引き寄せちまうが火が無いと魔物とかが寄ってきちまうからな。後はそうだな…少し離れた辺りにテントを囲むように紐の付いた鳴子を置くのもいいぞ。何かが近づいてきたらすぐに分かるからな、結構便利だぜ」

「…よし、嬢ちゃんの教導はお前らに任せた」

 

 魔物の対処法、武器の扱い方、人型との戦い方、外で気をつける事、薬草と毒草の見分け方、外で野宿する場合のしなければならない事などなど。

 教導しているヴァレットの出番が無いぐらい熱心に教え込んでいる。事実これを見たヴァレットが教導役を任せるほどだった。

 

「あっ!シリウスちゃんいた!」

 

 チーム〈ヴィクオール〉の一人であるセレム・ルドフスクもその一人である。シリウスに起きた境遇にチームの誰よりも悲しみ力になりたいと願ったセレムが動かないはずが無かった。

 依頼の盗賊団の討伐はおおよその位置を特定しており近々討伐に赴く予定だ。その僅かに空いた時間を使ってシリウスに教えられる事は教えておこうと熱心に伝えている。

 

「シリウスちゃん、今時間ある?あるなら前から言ってた魔法の事教えるよ?」

「本当ですか?是非お願いします」

「任せといて!こっちだよ!」

 

 防衛戦が終わってから少し経った後にシリウスは〈ヴィクオール〉の面々と改めて自己紹介をし、その時にセレムから提案していた。魔法だけでなく他の面々も自分が教えられそうな事は教えようとシリウスに申し出ていた。シリウスは終始申し訳なさそうにして遠慮していたが全員が、特にセレムが押しに押したのでシリウスはつい承諾してしまった。

 〈ヴィクオール〉がギルドから借りた一室へセレムはシリウスを連れていった。その部屋は盗賊団のアジトはどこかと探すための作戦室として使われている。地図を広げ調べた結果を書き込んでいき範囲をかなり絞り込むところまでいけたので、後はその範囲の中で怪しい所をしらみつぶしに探すだけとなった。

 ルゥトとレネイとミラミスが物資の調達へ向かっており部屋にはゴルドが残っていた。

 

「ん~?おう、嬢ちゃんじゃねえか」

「どうもゴルドさん。昼間からお酒は止めた方がいいんじゃないですか?」

「馬鹿野郎。飲みてえ時に飲むんだよ」

「ゴルド、授業の邪魔。あっち行って」

「あん?授業?」

 

 ぞんざいな扱いをされたゴルドだが慣れているのかスルーしている。

 

「今から魔法の事を教えてくれるんですよ」

「うげえ…聞くだけで頭が痛くなってくるぜ」

「ちょっと!何よそれ!」

「だってよ、魔力の制御だのイメージだの俺には小難しすぎてわかんねえよ。まっ、俺は嬢ちゃんの授業を肴に酒でも飲んでるからよ」

「ここで飲むなっつってんのよ!…ああもうっ!シリウスちゃん、こいつはほっとこ」

 

 セレムは説得を諦めてシリウスの手を引いてゴルドから少し離れた所に座った。

 これからゴルド曰く、小難しい魔法の授業が始まる。

 

 

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