席に着いたセレムとシリウス。
「さて…今から魔法についての授業を始めます」
「お願いします、先生」
「先生…いい響き…んんっ、じゃあまずは…」
魔法とは生物全てが持つ魔力によって引き起こされる現象。
術式を思い描きイメージをしっかりと持ち魔力を込めると魔法が発動する。術式が正しくないと発動せず、術式が不完全なら必要な魔力が跳ね上がり、イメージがしっかりできていないと魔法は発動するが効果や威力が低下する。正しい術式を思い描き強固なイメージを持ち必要な魔力を込める、これが理想である。しかし術式を思い描きつつイメージをしっかりと持つのは中々に難しく、熟練者であっても必要魔力が少し多くなったり、効果や威力が若干低下したりしている。
術式とイメージの次に大事なのは魔力の制御である。これができないと必要な魔力が足りず魔法が発動しなかったり、効果や威力が低下したり、逆に込め過ぎて暴発したりする。必要な魔力が多い魔法ほど魔力制御が重要となり難易度も高くなる。過去に大魔法を使おうとして魔力制御に失敗し大爆発を起こしたケースもあり、その場所は巨大なクレーターとなり今は巨大な湖となっている。
魔力制御はそれほど難しくそれを補うのが杖である。杖は魔力制御の補助具であり媒介物でもある。魔力制御を補助してくれる他に魔法の効果や威力を増加してくれる。杖の種類によって魔力制御や威力上昇は変わり、魔力制御に特化した杖や威力上昇に特化した杖などもある。杖だけでなく指輪などのアクセサリーでも魔力制御の補助をしてくれる物があり、少ないが剣などの武器でも補助をしてくれる物もある。だが杖ほどの魔力制御の補助がしてくれないので自身の制御力によって各々使い分けている。
「―――という訳。ここまでは分かった?」
「まあ、大体」
「おお…あれを一回で分かるのか…おめえ、すげえな」
「あはは…(アニメやゲームのお陰とは言えない…)」
理解できた理由を心の奥底に隠し笑って誤魔化した。
「次は魔力の感じ方なんだけど…知らないよね?」
「ええ、全然」
「だよね~。本当は魔力を感じ取るのに結構時間が掛かるんだけど、もう一つの方法を取ります。そっちの方が手っ取り早いからね。シリウスちゃん、手を出して」
「これでいいですか?」
シリウスはセレムに言われた通りに手を出したらセレムに手を握られた。
「いくよ~…ほいっ」
「…ふおっ!?」
するとセレムの手から何かがシリウスの中に入ってきた。シリウスは悪寒に似たものを感じて奇声を上げた。
「あっはっはっは!そうなるよね~、私の時もそうだったから」
「い、今なんか、ゾワゾワってしたんですけど…」
「私の魔力を送ってシリウスちゃんの中の魔力を呼び起こしたの。ちょっぴりズルいけど他の人もやってるから大丈夫だよ」
シリウスは内から湧き上がる不思議な力に戸惑いつつ内心は結構はしゃいでいた。
「(これで私も魔法が…!ロマンが止まらない…!ど、どんな魔法を使おう?特化型にするか?万能型にするか?取り合えず武器エンチャは外せない…!)」
ワクワクが抑えきれずソワソワし出したシリウスを二人は微笑ましそうに眺めていた。
「(シリウスちゃん楽しそう…そうだよね、だってまだ15.6歳ぐらいだもんね。普段は大人っぽく見えるから勘違いしちゃう)」
「(ソワソワしてやがる…分かるぞ、その気持ち。やっぱロマンがあるもんな!)」
ソワソワしていたシリウスだったが二人の視線に気づき、恥ずかしくなり顔を赤くし咳払いをして誤魔化している。
「んんっ!…えーっと、それでどうやって魔法は使うんですか?」
「ふふっ。じゃあ次は実践ね。使う魔法は“ティンダー”だよ。この魔法は初歩中の初歩で皆この魔法から始めるの」
ティンダーは指先から小さな火を出す魔法だ。
現代で言えばマッチやライターみたいなものであり、危険性もほぼ無いので魔法の初心者が使うにはピッタリの魔法だ。
「術式はこれね」
「超分かりやすい」
術式は魔法陣だったり文字の羅列だったりするが、今回のティンダーの術式は魔法陣でしかも三角形だけというシリウスのような初心者にも優しいお手軽さ。
「この術式を正確に覚えて頭の中で思い描くの。その後に指先から火が出るイメージをしてね。それから魔力を指先辺りに集中させて、それから魔法の名前を呼ぶの。それで魔法が発動するよ。今回のティンダーの必要な魔力はとっても低いから、そうだね…このコップの中の水がシリウスちゃんの魔力だとすれば、ほんの一滴だけ指先に込めるぐらい、かな。それで一回やってみて。出てこなかったらちょっとずつ魔力を増やしていくの」
「分かりました」
シリウスは深呼吸をしてから指を一本立てて集中し出した。
「(術式…さっきの三角形を思い浮かべて。イメージ…指先からちっちゃい火が出る。魔力…指先に水の一滴ほど。…そして名前を呼ぶ)……【ティンダー】」
先程授業で習った魔法の手順を守りながら魔法の名前を呼ぶと、シリウスの指先から小さな魔法陣が一瞬出て火が灯った。
「で、できた…」
「おおー!やった!成功だよー!」
「おお、一発でできるとはな。やるじゃねえか」
セレムは自分の事のように喜んでシリウスに抱き着き、ゴルドも一回でできたシリウスを褒めていた。初心者にも優しいティンダーの魔法だが、感覚を掴むまで出来ない者もそれなりにいる。
「よーし。じゃあそのまま魔法は維持して魔力をちょっとずつ増やしてみて。危なくなったらすぐに止めてね」
「分かりました」
セレムに言われた通りに少しずつ魔力を増やすと、指先の火が少しずつ大きくなっていった。そのまま大きくしていったがある程度大きくなった辺りで止めた。
「っ…!(これ以上は危険だな)」
「(私が言わなくても上限手前で止めた…この子、やっぱり凄い)」
魔法には込めれる魔力の上限が存在し、それ以上込めると術式が耐えきれず壊れてしまい、行き場を失った魔力が暴発してしまう。シリウスは直感的にそれを感じ取って上限の手前辺りで魔力を込めるのを止めた。とてもではないが初心者ができる芸当ではなく、セレムは心の中で称賛している。
「ふぅ…ってどうしました?」
ティンダーの魔法を消してシリウスは一息付いていると拍手が聞こえてきた。音がする方を向くとセレムが目をキラキラさせながら手を叩いていた。
「すごいすごーい!すごいよシリウスちゃん!天才!天才だよ!魔法の才能があるよ!」
「ちょ、そ、そんな大袈裟な…」
「いやあ、大袈裟じゃねえと思うぜ。普通なら一回でできたり、一回でギリギリ止める、なんて芸当できないぜ」
「えぇ…いや、直感で止めた方がいいって思っただけで」
「そういう直感を持っていない奴が圧倒的に多いんだよ。持ってたとしても相当の場数を積まねえとここだ!って囁いてくれないしな」
ゴルドもシリウスを褒めておりシリウスは何とも言えない表情で立ちすくんでいた。
「よーし!この調子でドンドン行こー!」
「おいおい。魔力の方は大丈夫なのか?」
「ダイジョーブ!ティンダーの魔力消費は魔法の中で一番低いから!上限まで増やしても1が2になるぐらいだから!というわけでシリウスちゃん!今度の魔法は“レビテーション”だよ!」
「何となく分かりますがどんな魔法ですか?」
「物を浮かす魔法だよ!これが術式!ティンダーより複雑だけど大丈夫だよ!」
セレムが話した通り、レビテーションは物を浮かす魔法だ。
自身から程近い物限定ながらも浮かせる事ができる魔法だが、離れた所にある物は対象外で重量物だと魔力消費が多くなり、さらに一定時間毎に魔力を消費し続ける。人も浮かせる事はできるが簡単に振り解かれてしまう。レビテーションの術式はティンダーと同じ魔法陣だが、先ほどより少し難易度が上がっている。と言っても外側から丸、四角、丸という初心者に優しい術式である。
「そうだな~…よし、じゃあこのコップを浮かせてみて」
「分かりました」
セレムが指定したコップに対してシリウスは掌を向けて集中し出した。
「(さっきのティンダーで要領は掴んだ。術式、イメージ、魔力)…【レビテーション】」
先程と同じように魔法の名前を呼ぶと掌から魔法陣が一瞬出てコップは僅かに浮いた。だが込めた魔力が少なかったからか、1cmにも満たない程度しか浮かなかった。シリウスはそれを見て少しずつ魔力を増やしていくとコップは上昇していき10cmほどまで浮かび上がった。
「やったー!できたー!凄いよー!」
「マジかよ…あれ?魔法ってこんなに簡単にできるもんだっけか?」
セレムは再びシリウスに抱き着いて喜んでおり、ゴルドは驚愕して魔法の難易度に疑問を覚えていた。もちろん魔法の難易度は高めだが、アニメやゲームなどから知識だけはあるシリウスにとっては詠唱が無い分まだ楽だった。内心、中二病的な詠唱が無いだけ全然マシと思っている。
「よーし!じゃあそのまま浮かせてちょっとずつ自分から離してみて。ゴルドにコップを渡す感じで」
「分かりました。行きますよ」
「おーう」
離れた位置に座っているゴルドに浮かせたコップを移動させるイメージをすると、コップはイメージ通りに動き出した。込められた魔力が少ないので移動する速度はゆっくりだが確実にゴルドの方に移動している。熟練者が行えば二.三秒で到達するところを、十数秒ほどかけて到達した。
「よっと。無事に到着したぞ。お前さん、本当に初心者か?」
「凄いよ!もう本当に凄いよ!それしか出ないよ!凄ーい!」
語彙力を失って喜ぶセレム、初心者とは一体と哲学的な難問に直面しているゴルド、ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶセレムを見て苦笑しているシリウス。
「…まあ、嬢ちゃんが初心者かどうかはもうこの際だから投げるとしてだ。そろそろ魔力はヤバイんじゃねえか?」
「っは!?そうだった!シリウスちゃん、大丈夫!?」
「あ~、ちょっと怠いぐらいで特に異常はありませんね」
「ダメだよ!怠い時点で異常アリだよ!いい!?魔力が減ると体調が悪くなるの!」
魔力は残量によって体調に変化が起きる。
3割を切ると眩暈と頭痛に襲われ、2割を切ると歩くのがやっとになり、1割を切ると意識を保つのがギリギリになってしまう。当然残量が0になると気絶し、何度も0になれば平時の体調も悪化し寿命にも影響を及ぼすほど。
「分かった!?魔力はね!半分切ったらもう使っちゃダメ!シリウスちゃんの今の怠さは半分か4割ぐらいなんだよ!」
「これぐらい止めた方がいいんですね。分かりました、気をつけます」
「本当に気をつけてよ?ちなみに魔力量を増やすには今ぐらいで止めた方がいいんだよ。ほんのちょっぴりだけど増えるからね」
「へぇー、そうなんですね(よし、これから毎晩使って少しずつ増やそう)」
今後の日課が増えたところで本日の魔法の授業は終わった。
「ところで戦士の人が使える、こう、なんというか、技能?みたいなのって無いんですか?」
「ああ、それならあるよ」
「あるんですか」
「そっちはゴルドの方が詳しいから。というわけでゴルド、早く教えなさいよ」
「おっと、俺様の出番か」
ゴルドは酒を置いてシリウスの近くに座った。
「さてさて、嬢ちゃんが言ってるのは魔戦技ってやつだな」
「魔戦技…」
魔戦技とは魔力を用いて繰り出される技の総称である。
武器に魔力を込めて威力の高い一撃を放ったり、短時間ながらも属性を付与したり、足に魔力を込めて普通より素早く動いたりなど様々な事ができる。
「こっちは魔法みたいに術式が無いがそう簡単には会得できないぜ。ひたすら練習あるのみよ」
「どうやって覚えるんですか?」
「誰かに師事して教えてもらうか、道場で教えてもらうかのどっちかだな」
「道場?」
「魔戦技を教えてくれるそんな場所があるのさ。残念ながらこの町には無いが王都とかもっとデッカイ都市なら一つや二つぐらいあるぜ」
かつて魔戦技を開発した者には多くの弟子がいた。
それぞれがオリジナルの魔戦技を開発しそれを後世に伝えるために道場が開かれた。当時は道場の数だけ流派が存在しそこで学んだ者が新たに魔戦技を開発してまた流派が増えていった。そんな群雄割拠をくぐり抜けた流派が今の主流となっている。
「まあどんな流派かは行けば分かるさ。今は魔力が減ってるから教えれねえが、そうさな、見せるぐらいならできるか」
「是非見せてください」
「よし、なら外に行くか」
シリウスはゴルドの後に付いていきギルドの裏手にある鍛錬場へ向かった。鍛錬場には数人のハンターが木剣を持って鍛錬をしていた。ゴルドは空いているスペースに標的となる丸太を置いた。
「さて何を使うか…流石にここで威力が高いのはダメだよな。だがあんまり地味なのもなあ…まあ初歩的なのにするか」
ゴルドは持っていた斧を上段に構えた。
「行くぜ!魔戦技!【剛撃】!」
斧が光った瞬間、ゴルドは斧を丸太に振り下ろし、丸太は轟音と共にバラバラに粉砕された。
「まっ、こんなもんだ」
「すご…」
「うわぁ…相変わらずの馬鹿力…」
「すげえ…あれが〈大酒喰らい〉、いや〈鉄砕き〉か…」
「あれだろ。素手で鉄を砕いたって言う…」
「ゴブリンの時は魔戦技無しでボスを真っ二つにしてたぜ」
「ヤベエな。さすが〈ヴィクオール〉」
シリウスだけでなく鍛錬場にいた他のハンターもその威力に驚いていた。
「おいおい、そこまで驚く事か?この【剛撃】はどっちかっていうと初歩に近いぞ」
「いや、初歩でそこまで粉砕すれば誰だって驚きますよ」
シリウスの言葉にその場にいた面々が頷いている。
「うーん、そんなもんかねえ?まあいいか。取り合えず今見せたのが【剛撃】だ。斧や鎚を使う奴が覚えるぞ」
「剣ではできないんですか?」
「できねえ訳じゃ無いと思うが、少なくとも俺は見た事がねえな。【剛撃】を剣でやったら剣が折れちまうかもしれんからな。剣でやるんだったら【強撃】ってのがあるぜ」
【剛撃】は斧や鎚などの重量がある武器の魔戦技で、【強撃】は剣などの比較的軽い武器の魔戦技だ。どちらの魔戦技も瞬間的に威力を高める物だ。斧で【強撃】を放ったり剣で【剛撃】を放ったりもできない事は無いが、前者は【剛撃】よりも威力が出ず、後者は【強撃】より威力は出るが剣が持たない可能性があるので誰もしていない。
「今見せた【剛撃】とかさっき言った【強撃】とかにはさらに威力が高い魔戦技とかもあるぜ。その辺はまあ、会得してから学ぶんだな」
「はい、ありがとうございました」
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
「何でおめえらも礼言ってんだ…?」
シリウスだけでなく他のハンターもゴルドの話を聞いていたので頭を下げて感謝した。ゴルドは何故感謝されたのかわからず首を傾げていた。
魔法や魔戦技のここは違うんじゃないか、などのご意見がありましたらご指摘お願いします。