転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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さらに連投。


第三話

 

「…っ!?!?」

 

 手で口を抑えて悲鳴が出そうなのを必死で止める少女。

 心臓の鼓動は速くなり全身から冷や汗が滲み出ている。

 

「(ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!絶対ヤバイ!何あれ!?ゲームの中とかでしか見た事ないよ!?えっ!?もしかして魔物出るのここ!?)」

 

 入口横の壁に身を潜めているが、顔は青褪め涙目になり心は恐怖で埋め尽くされている。何とか動けているのは腕の中にいる赤子のお陰でもある。

 

「ふえっ、ふええぇぇぇ…」

「しーっ!頼む今は泣かないでいい子だからお願い静かにしていて」

 

 小声で今までに無いほど早口で赤子に静かにするよう懇願してあやしている。

 見たくはないがこっちに来られても困るので、物凄くビビりながら慎重に外を覗いてみた。

 全体的な印象は大きな虎だが、普通の虎とは違い身体は二回りほど大きく遠くからでもわかるぐらい筋肉が盛りあがっている。全身を血のように赤い毛に覆われており、普通の虎よりも顔は厳つくナイフより切れ味が良さそうな爪と牙を持っている。

 この魔物の名前は“ブラッドファング”。

 危険度がかなり高く訓練された軍人ですら犠牲者が出るほど凶暴だ。決まった縄張りを持たず獲物を求めてあちらこちらを移動しており、旅人や村が襲われ被害が続出している。その凶暴な魔物がここにいるのは、獲物を求めて彷徨っていると血の臭いを嗅ぎつけた所為である。

 鼻を動かして匂いを嗅ぎ、盗賊に殺された村人の死体に近付きそのまま齧りついた。

 

「~~~~~っ!?」

 

 少女は慌てて隠れて食事シーンを見ないようにしたが、食べている生々しい音が聞こえてきて再び吐き気に襲われていた。ここで吐いてはさっきの魔物に見つかりご飯にされると思い、何が何でも抑え込むという強い意志を見せて吐かずに済んだ。

 ここにいてはいつか見つかるので抜き足差し足で家の奥へ移動した。死体より魔物の方が数倍怖いので盗賊の胸に刺さっていたナイフを万が一のために抜き取った。

 幸いにも裏口が開いたままになっていたので抜き足差し足のまま外へ出た。このまま行けばと思ったのがいけなかったのか、落ちていた枝を踏んでしまい枝が折れる音がした。

 魔物も音に気付いたのか食べるのを止めて、匂いを嗅ぎながら周囲を見回している。

 

「!?(やっちまった!?何で古典的なミスするかな私は!?どうする!?どうする!?)」

 

 焦り過ぎて一人称が私になったがそれに気付く事なく必死に考えている。とりあえず近くにあった農具入れであろう小さな小屋に入りドアを閉めた。

 魔物も死体以外の匂いに気付き、少女が辿った道をなぞるように移動している。

 少女が立て籠もった小屋に来るのも時間の問題で絶体絶命の危機に陥っている。

 

「(走って逃げる?いや、すぐに追いつかれる…!小屋を出て遠くに石とか投げてその間に?匂いで追い掛けてくるだろうが…!)」

 

 考えても考えても手詰まり感しかなく絶望しかけており、ゆえに、それに気付いてしまった。

 腕の中にいる赤子。連れてきたが血も繋がっていない赤の他人。居なくても自分には全く影響は無い。

 

「ふええぇぇぇ…!」

「!」

 

 暗い感情が顔を覗かせ揺らいでいたが、赤子が泣きながら少女の手を掴んできた事で正気に戻った。

 

「(さっき…何考えてた!?私は何を考えた!?)」

 

 自分がやろうとした事に気付き愕然とし自分自身に怒りが込み上げてきた。

 

「クソがっ!子供を犠牲に自分だけ助かる?大人がそんな事したらダメだろうがっ!」

 

 自分がやろうとした事を恥じ、自分に言い聞かせるように叫んだ。そんなことをすれば当然魔物も気付き、唸り声を上げながら歩く速度を上げて小屋に近付いていった。

 

「いいぜ来いよ。こちとら一度死んだ身だ。やってやるよ。ただで死んでたまるかってんだ」

 

 吹っ切れて覚悟を決め、赤子を優しく壁際に置き立て掛けてあるピッチフォークを手に取った。ドアを蹴破りピッチフォークを構えると魔物も裏口から出てきた所だった。

 目が合い魔物は飛び掛かろうと身構え、少女は初めて受ける殺意に気圧されるが歯を喰いしばり耐えた。

 お互い隙を窺っていたが、合図をするように燃えていた家が崩れた。

 瞬間魔物は飛び掛かり、少女も駆けだした。

 

「ガアアアァァァ!!」

「アアアアァァァ!!」

 

 お互い叫び魔物は爪を、少女はピッチフォークを突き出した。

 爪は左肩を掠り、ピッチフォークは胸に刺さった。

 

「ガアッ!?」

「いぎっ!?」

 

 魔物は思わぬ手痛い反撃に怯み、少女は今まで体験した事の無いような痛みに襲われ、両者悲鳴を上げた。特に魔物は飛び掛かった分ピッチフォークが深々と刺さり放っておけば致命傷になるほどだ。

 

「うぎぎぎ…!うおおおぉぉぉ!!」

 

 肩の痛みとピッチフォークが刺さった時の衝撃で手が痺れているが自らを鼓舞するように吠えながらさらに突き刺した。

 勢いよく血が噴き出し少女にも掛かるがお構いなしにさらに深く突き刺す。魔物はさらに悲鳴を上げたが、その目は血走っており少女を切り裂こうと腕を上げた。だがその腕が振り下ろされる事は無く、口から大量の血を吐いて力尽き魔物の身体が少女目掛けて倒れてきた。

 

「へ?ぶふっ!?」

 

 咄嗟の事で反応できず少女はそのまま押し潰された。

 辺りは静まり返ったが少しして魔物の身体が少し動き出した。

 

「ぐぎぎぎぎっ…!ぶはっ!」

 

 少女の数倍はあるであろう魔物を渾身の力を込めて動かして何とか這い出てきた。少女は力尽きたように魔物の横に寝転がり、荒い呼吸を繰り返している。

 

「はぁはぁ、やって、ゼェ、やったぞ、はぁ、こん、ちくしょうが」

 

 左肩からの出血と魔物の返り血で全身血塗れで、押し潰されて泥まみれになり、後先考えず全力を振り絞ったので手足が痙攣している。

 恰好の付かない姿だが、少女は勝利し生き残った。

 

「はぁはぁ、つ、疲れた…ちょっと、休憩…」

「ふえっ、ふええぇぇぇ…」

「え、えぇ…こ、ここで、泣きますか…ちょ、ちょっと、待って…」

 

 赤子が泣き出してしまったので疲れ切った身体に鞭を入れて動こうとしたが、上手く立てなかったのでそのまま這って赤子の元へ向かった。

 何とも締まらない終わり方になってしまった。

 

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