転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第三十話

 

 魔法と魔戦技の授業を終えたシリウスは魔力の残量が半分を切ったため宿屋に戻る事にした。

 

「シリウスちゃん、今日はもう魔法使っちゃダメだからね。寝たら魔力は回復するから使うにしても明日からだからね」

「はい、分かりました。今日はありがとうございました」

「おーう、お疲れさん」

「ちゃんと休むんだよー!」

 

 セレムとゴルドに見送られてシリウスは宿屋に帰っていった。

 

「魔法に魔戦技か…覚える事がまた増えちったな」

「う~?」

「何でもないよポラリス。ママは頑張るからね~」

「ま~♪」

 

 夕食を終えて部屋でポラリスとイチャつきながら脳内で今後の日課を確認している。

 

「(魔法は寝たら回復するって言ってたな。寝る前にしても全快するのか?…夕食を食べる前ぐらいからやればいいかな?今朝感じた怠さ具合なら夕食食べて、歯を磨いてとかするぐらいなら問題無いしな。取り合えずそれで行こう。えー、朝起きたら洗濯して、その後朝食を取って、んで装備の確認。それから外で素振りして終わったら昼ぐらいまで勉強っと。ギルドに行って依頼のシミュレーションをして、何か疑問があったら誰かに聞く。時間が合ったらラトミシアさんとこに行ってお喋り。ついでに薬草関連についても質問。宿屋に帰って夕食まで勉強。それで就寝っと。実に健康的な生活だな…)…あ、そうだ。料理も覚えないと」

「う~?」

 

 可愛らしく首を傾げるポラリスに癒されつつポラリスのために料理を覚えると決意した事を思い出した。ハンター業と勉強に忙しくてすっかり忘れてしまっていた。

 

「うーん、どうすっかな…取り合えず料理の本でも探すか?でもどこでやる?宿屋じゃ絶対無理だし、そんな都合の良い場所なんて…あったわ」

 

 シリウスの脳裏に気怠そうにするラトミシアの姿が思い描かれていた。シリウスが頼めば二つ返事で快諾してくれそうだ。脳内シミュレーションではそうだった。

 

「…まあラトミシアさんがいいならそれでいいか。あの人、絶対栄養の事考えていないだろうし。…まさか台所、埃塗れとかじゃないよな?」

 

 一抹の不安を抱えつつ今後の予定は決まった。

 その後はひたすらポラリスとイチャつき、ポラリスの柔らかい頬をプニプニして癒され、お返しにポラリスから頬をプニプニされて癒され、ポラリスの額や頬や鼻の頭にキスをして喜ぶ姿に癒され、ポラリスに頬擦りをして笑う姿に癒された。

 寝る前からすでに完全回復したのではと思えるぐらい身も心も癒されたシリウスはあくびをしたポラリスと一緒にベッドに横になって眠りについた。

 翌朝、完全回復したシリウスはいつものようにポラリスのおしめを替えて洗濯して朝食を取った。日課の素振りを終えた後、勉強はせずにポラリスを抱いて町へ繰り出した。市場の方へ向かったシリウスは本屋を探して通りを歩いている。

 

「どこかなー、っと、あった。おおう…すげえ量」

 

 本屋は棚の一番上までびっしりと本が並べられており棚に入りきらなかった本が床に山積みになっていた。店主が無類の本好きで興味を持ったらジャンルなんてお構いなしに節操無く集め続けていたらここまで膨れ上がってしまい、店主も流石に集め過ぎたと反省して読み終わった本は売りに出す事にして本屋を開いた。売れ行きはそこまで良くは無いが元々趣味で集めた物なので店主は全く気にしていない。

 本屋に入ったシリウスは料理の本を探して店の中を回っている。

 

「料理、料理…全然見つからん。並びがぐちゃぐちゃでさっぱりわからん。すいませーん」

 

 棚はジャンルなど完全無視で適当に並べられておりどこにどんな本が置かれているのさっぱり分からない。シリウスは早々に諦めて受付で本を読んでいる初老の店主に声を掛けた。

 

「ん~?おや、お客さんがいたとは、これは失敬」

「すいません。料理関連の本は置いてないですか?」

「料理かい?それなら…おや、そのペンダントはハンターの。そうかい、なら確かこの辺りに…」

 

 店主は雑多に積まれた本の山から三冊の本を取り出した。

 

「こっちは野営用の料理、こっちは家庭用の料理が乗っとる。こっちは食べられる野草や木の実などが乗っとる本だ。どれにするかね?どれも一冊500リクルだよ」

「全部下さい。お代です」

「ほ!?全部かね?こりゃ驚いたわい。えーっと…うむ確かに貰ったぞい。ああ、この袋に三冊とも入れとくからの」

「ありがとうございます」

 

 どれも必要そうだったので思い切って三冊とも買ったシリウスは本の入った袋を貰い店を後にした。

 

「ポラリスがもうちょっと大きくなったら絵本を買うのもアリだな。さて、ラトミシアさん家に行くか」

 

 何度も行っているのでラトミシアの薬屋にはものの数分で辿り着いた。

 

「ラトミシアさん、いますか?あれ?」

 

 薬屋に入るといつもいる受付にラトミシアの姿は無かった。奥で薬の調合でもしているのかと思って覗いたがそこにも姿は無く住居スペースの方も見たがそこにもいなかった。

 

「うーん、出掛けていたのか。仕方ない、出直すか…」

「―――」

「…ん?」

 

 シリウスが出直そうとしたら住居スペースの奥から何か聞こえた気がした。気になって聞こえた方へ向かいドアを開けるとラトミシアがそこにいた。

 

「うぅ…」

「ラトミシアさん!?」

 

 ラトミシアが地面にうつ伏せで倒れて呻き声を上げておりシリウスは慌てて抱き起こした。

 

「え!?ちょ、どうしたんですか!?大丈夫ですか!?」

「…ぉ」

「え、何です?」

「お、お腹…空いた…」

「………」

 

一体何が合ったのかと心配したシリウスだったが開口一番出てきた言葉がお腹空いたであったので思わず真顔になり、ラトミシアのお腹が盛大に鳴りだしたのを聞いて力が抜けた。

 

「…はあああぁぁぁ。何やってんですか、本当に…」

 

 深い溜息をついたシリウスはラトミシアを担いで椅子に座らせ、ポラリスを抱っこからおんぶに変えて台所に立った。

 

「さて、ほとんどぶっつけ本番だが何とかするしかないな。食材は何がある?」

 

 食材が入っていそうな場所を徹底的に漁り、使えそうな食材を台所に広げた結果、マルイモやナガニンジンなどの保存がきく野菜が少々と塩とカチカチのパンぐらいしかなかった。

 

「これで何ができる?えーっと、本には…色々あるな。あーっと、えーっと…無難にスープにしとくか」

 

 食材が乏しいので何回か作った事があるスープにした。

 鍋に水を入れて火にかけている間にマルイモとナガニンジンを洗ってから皮を剥き手ごろな大きさに切り分けた。鍋の水が沸騰したところで切った野菜を鍋に投入した。火が通るのを待って適当に塩を振って味を調えて完成。

 

「手抜きスープの完成っと。いやマジで手抜きだなこれ。自分が食うのなら構わんが、流石に誰かに出すのは気が引ける」

 

 そう言いつつもこれぐらいしか作れなかったので申し訳ないと思いつつ皿にスープをよそってテーブルに突っ伏しているラトミシアに持っていった。

 

「ほら、できましたよ。手抜きで申し訳ないですが…」

「クンクン、ご飯の匂い…」

 

 スープと一緒に適当な大きさに切ったパンも置き、のそのそと起きたラトミシアの手に木匙を握らせた。

 

「あむ…美味しい」

「…まあ、お腹が空いてれば大体は美味しいはずか。パンもありますよ」

 

 ラトミシアは無心でスープと啜り、パンをスープに浸して食べている。シリウスはスープが無くなればお代わりをよそい、パンが無くなれば切って出した。

 

「むふぅ~、美味しかった。満足」

「はい、お粗末様でした。どんだけお腹が空いてたんですか?」

「気になってた本を手に入れて、それを夢中で読んでた。寝るのも、ご飯も、忘れてた。多分、二日は、経ってる」

「馬鹿ですか?いや、馬鹿でしたね。身体を綺麗にしてさっさと寝なさい」

「ひ、酷い…わ、私の事、き、嫌いに、なった…?やだ、捨てないで…」

「嫌いになってません。まだ友達と思ってます。友達の事を想って言ってるだけです」

「え、えへへ」

「照れてないで早く寝なさい」

 

 余りにもチョロ過ぎるラトミシアの将来が不安になるが取り合えずそれは置いておく事にした。身体を拭きにいったラトミシアを見送った後、シリウスは使った食器と料理器具を綺麗に洗って水気を拭き取って置いてあった場所に直した。戻ってこないラトミシアを見に行ったら身体を拭き終わった後に眠気が襲ってきたのか、半裸の状態で座り込んで寝落ちしており、溜息をつきつつ服を着させて足元が覚束ないラトミシアを寝室まで連れていきベッドに放り込んで寝かしつけた。

 予定が大幅に狂ったが今回の事でラトミシアのヤバすぎる生活を把握できた。

 

「二日に一回は行くか。あの食材を見ても多分ほとんど自炊してなさそうだから台所を使っても大丈夫そうだな。次行くまでに本で勉強しておこう」

 

 ラトミシアの家には食材がほぼ無かったので次に行く時に買い込んでから向かうと決めたのでその視察のため市場へ向かうため家を出た。市場は相変わらず奥様方で賑わっておりあちらこちらで客引きのため商人が声を張り上げている。

 シリウスは食材の種類や値段を確認しながら人混みの中を歩いている。

 

「あれカボチャか?デッカ…こっちはトマトっぽいな、キャベツもまんまだ。うわあ、ピーマンが青い…いや、これパプリカか?赤、黄、青って揃ったな。じゃあピーマンは、良かった、こっちは普通だ…大体は知ってるのと同じっぽいな」

「こっちは肉か。すっごいデカいブロックで売ってるな。牛系の塊肉か、うわ高っ。3000リクルって。相当良い肉なのか?えーっと、こっちは…鳥系か。七面鳥の丸焼きでしか見た事無いぞ、こんな姿。しかもデカい。値段は、1000リクルか。丸々一羽だから高いのか。おお、こっちはお手頃価格だ。うん、皆もこっちを買ってるな。鳥系のもも肉、一つ30リクル。うん?魔物の肉か?食べれるんだ。おっふ、蟲系の肉って…ジャイアントアントの肉…嫌だなあ、食いたくねえ。けど安い。一つ15リクル」

「魚か。海は無さそうだから川魚だろうな。絶対ヤバイ見た目して…してた。うわあ、おっかねえ顔。牙も凄いな。ああ、こいつがカミツキウオか。前食ったな。そいでこっちは…うーん、全身真っ青。…え?身も青いの?食べて大丈夫?脂が乗ってて酒が進む?気にならないと言えば嘘になるけどまた今度で。名前は…アオウオってまんまかよ。おお、ようやく普通の魚に出会えた」

「…ん?おお、チーズだ。乳製品もあるんだな。日持ちするっぽいし持ってても良さそうだな。調味料は無いのか?…お、あったあった。げっ、たっか…一瓶500リクルって…しかもちっせえ。そういえば昔は胡椒とかって宝石並みの価値が合ったとか書いてあったような。それならこれでも安い方、なのか?こっちは香草か。醤油とか味噌とか調味料が無い分香草で補ってるのか?」

 

 時々ヤバイ見た目の食材などがあるが概ねシリウスが知っているのと同じだった。野菜は問題は無いが肉の方は食べられる魔物の肉も混じっており種類が増えていて魚も同様だった。どの肉や魚が良いのかは流石に聞いてみなければ分からないが種類と値段は確認できたので市場を離れた。

 

「(10~50リクルぐらいの値段の物で買い集めれば問題無いとして、日持ちできそうなのがパンとチーズぐらいなんだよな…冷蔵庫とかも無いから作り置きとかも出来そうに無いし…合っても電子レンジが無いから冷えたまま食う事になるのか。ダメだな。飯は温かくないと。置いとくとしたらスープとかシチューみたいに温め直しができる物だけか)」

 

 通りに置かれたベンチに座って料理について色々と考えている。そこを何日か外で過ごせるぐらいの大荷物を持ったハンター達が通っていった。

 

「(旅か…。流石にずっとこの町にいるってのもな。ターエルは良い町だし好きだけど、もっと色々見て回りたいという思いもある。乗り合いの馬車も合ったし都市から都市に行くぐらいなら危険は少なそうだけど。他の町の事も聞いてみるか。そうなれば必要な荷物も多くなるな。今持ってるカバンじゃ入りきらないかもしれんし、他の物資も必要だ…まーた金が飛ぶ。いくらあっても金が足らん。どんな世界でも結局は金か…嫌な真理だ)」

 

 誰もが悩む問題に直面して溜息をつくシリウス。

 何をするにしてもお金が必要だ。今は40000リクル程持っているがハンター用の服と靴のローンも残っているので金稼ぎは急務とも言える。

 

「そうとなれば稼がなくては」

 

 ベンチから立ち上がりギルドへと向かった。

 

「すいません、労働系の依頼をお願いします」

「かしこまりました。依頼はこちらになります」

 

職員が取り出した依頼は《商品の仕分け》《皿洗い》《露店の売り子》《側溝の掃除》《荷運び》だった。

 

「どれにするか…ん?この依頼って…よし、この依頼にします」

 

 シリウスが選んだのは《皿洗い》の依頼だ。

 依頼の場所はシリウスが泊っている宿屋でバイトの子が体調不良で寝込んでいるため急遽募集を掛けたらしい。職員から貰った半紙を持って宿屋へ向かった。昼過ぎなので宿屋は閑散としており女将は受付で書類の整理をしていた。

 

「おや嬢ちゃん、お帰り」

「どうも女将さん。依頼を受けて来ました」

「おやおや!嬢ちゃんが受けてくれたのかい。こりゃ頼りになるね!仕事の説明をするからこっちに来ておくれ!」

 

 女将に連れられて奥の厨房に入った。厨房はかなり広く十人ほどが調理しても余裕があり、また床や調理台は清潔にされている。厨房の奥まった場所に皿洗い場があるがまだ洗われていない皿などが積まれていた。

 

「いつも頼んでいる子が寝込んじゃってね。あたしも朝からやってたんだけど他の仕事も合ってね。すまないけどよろしく頼むよ!」

「分かりました」

 

 女将は他の仕事に向かいシリウスはポラリスをおぶって袖を捲り上げた。

 

「よし、やるか」

 

 石鹸を泡立てて皿の汚れを落とし水で洗い流し布巾で水気を拭き取る。ひたすら無心でそれを繰り返していたら二時間足らずで終わった。近くにあった汚れた鍋やフライパンも洗って最後に厨房の掃除もしておいた。

 

「うーん、これで全部か?もっと時間が掛かると思ってたが…女将さーん、終わりましたよー」

「…おや!もう終わったのかい!?いつもの子ならもう一時間ぐらいは掛かるんだけどね!」

「いや、無心でしてたらいつの間にか終わっただけですので。ところで夜の時間帯の方はしなくていいんですか?」

「ええ!?いやいや、夜の方はもっと大変だから!?そっちは大丈夫だよ!」

「でも人手がいないのでは?私で良ければしますよ」

「ううん…確かに募集は掛けてるけど中々来ないし助かるっちゃ助かるけど…本当にいいのかい?」

「ええ」

「…それじゃあ頼もうかね。夕暮れになったらまた来てくれるかい?」

「分かりました」

 

 数時間ほど時間が空いたのでその間ポラリスの御機嫌取りをする事にした。無心で皿洗いをしていた時、何度かシリウスを呼んでいたのだが全く応答が無く不貞寝をしていた。目覚めた今も私不機嫌です!と言わんばかりに頬を膨らませている。可愛らしいポラリスの仕草に内心ノックアウトされつつも構い倒す事にした。

 

「(我が子が可愛くて辛い)んんっ、ポラリス~、ごめんね~。ほ~ら、高い高~い」

「う~」

 

 最初はどれだけ構われても頬を膨らませたままだったポラリスだが、高い高いから始まり、くすぐり、手遊び、玩具などを駆使すれば笑顔になっていった。

 

「いないいない、ばぁ~」

「キャッキャッ♪」

「ふぅ…ようやく笑ってくれた」

 

 一時間の死闘を繰り広げてようやく機嫌が直ったポラリスに頬擦りをするシリウス。疲れた様子を見せるシリウスだが心地良い疲れでありそのおかげでポラリスが笑ってくれるのなら安いものだと思っている。時間までシリウスに抱き着いてご満悦なポラリスを撫でつつ本を読んで勉強をする事にした。

 日が傾き始めたところでシリウスはポラリスを抱いて酒場へと向かった。

 

「女将さん、来ましたよ」

「ああ嬢ちゃん!悪いね!無理言って!」

「いえ大丈夫ですよ」

「それじゃあまずはこいつに着替えておくれ!私服だと客だと間違われるかもしれないからね!」

 

 女将から渡されたのは何故かウェイトレスの服だった。白を基調とした清楚な服で下は膝丈のスカートだ。ちなみにミネア製である。

 

「…いや何で!?」

「いやー、探したんだけどね。それしか無くて、申し訳ないけどそれで我慢してくれないかい?その分報酬には色を付けるからさ!」

「ぐむぅ…うぅ、分かりましたよ…」

 

 着るだけで報酬アップの話を聞いて断ろうとしたが悩みつつ了承した。渋々奥で着替えて厨房に入っていった。

 

「おやおや!似合うじゃないか!もっと女の子らしい服を着ればいいのに、勿体無い!」

「うぅ…スース―する…ハンターをしてるんですからオシャレは二の次です」

「うーん、言ってる事は分かるんだけどね。まあそれはいいさ!さあ、仕事だよ!」

 

 慣れないスカートに違和感しかないシリウスは頬を叩いて気合いを入れ直して皿洗いの仕事を始めた。ちなみにポラリスはスヤスヤと寝ているので機嫌が悪くなる事は無い。

 次から次へと引っ切り無しにやってくる皿を無心で洗い続け何とか皿が足りない状況を回避している。

 

「やってもやっても終わらん…これもある種の苦行か…」

「今日はやけに忙しくないか!?」

「ああ!?いつもと変わらんだろう!?」

「喋ってる暇があるんならさっさと料理を作りな!」

「「へ、へい!」」

「まったく…嬢ちゃん!悪いけど皿洗いは一旦置いといて配膳の方を手伝ってくれないかい!?団体客が来てね!運ぶもんが多いんだよ!」

 

 洗っても洗っても減らない皿に愚痴を溢し始めたシリウスだったが女将の言葉で我に返った。

 

「っは!え?何です?」

「配膳を手伝っておくれ!」

「えっ、あっはい」

 

 正気に戻ってすぐに指示を出されたので何が何だか分からなかったが、取り合えず理解はしたので指示に従った。他のウェイトレス達のやり方を見て料理を零さないようにしつつ迅速に運び始めた。

 

「はい、シチューとパンお待たせしました」

「お、来た来た」

「おーい!こっちの酒はまだかー!」

「はい!ただいま!」

 

 厨房と酒場を何度も往復し料理や酒を運び、空いた皿やジョッキを下げたり、注文を受けたりと考える暇もないぐらい忙しく動いている。

 

「シチュー5!ステーキ2!果実酒3!エール5!入りました!」

「はい!ステーキとエールお待たせしました!」

「はーい!ただいま参ります!」

「空いてる皿をお下げします!」

「ありがとうございました!」

「ねえ、あの子スゴクない?」

「うん。新人っぽいけど、大活躍」

「でもさ、背中に赤ちゃん背負ってるけど、どっかで見た事ある気が…」

「あ、あんたも?実は私も」

「あ。酔っ払った客があの子のお尻触ってる」

「うわあ…痛そう…」

「全力で足を踏み抜いたわね」

「ここはそういう店ではありませんって…あんな真剣な表情で言われたら頷くしかないわよ」

「うん、他の客も大人しくなったわね。スゴイわ」

「あんた達!サボってないでさっさと働きな!」

「「「す、すいません!」」」

 

 他のウェイトレス達が目を見張るほど八面六臂の大活躍なシリウスだが、そんな視線を気にしている余裕すら無くある程度配膳を終えたら厨房へとんぼ返りして皿洗いを再開した。

 

「ちょっと配膳している間にこんなに溜まって…!ええい!やってやんよこんちくしょおおおぉぉぉ!」

 

 山のように積まれた皿やジョッキを相手に孤軍奮闘し続ける事数時間。シリウスは精根尽き果てて客がいない酒場でテーブルに突っ伏している。

 

「あー…うー…」

「ま~」

 

 突っ伏すシリウスを心配してテーブルの上にいるポラリスがシリウスの頭をポンポンと撫でている。ポラリスの優しさに感動していたら女将が料理を持ってやってきた。

 

「いやあ!今日は大助かりだよ!余り物で悪いが食べておくれ!今回は無料でいいよ!」

「あー…ありがとうございます…」

 

 女将からシチューとパンの他に余ったステーキと焼き魚を貰ったので手を合わせて食べ始めた。

 

「うめぇ…ポラリス~…あ~ん」

「あ~」

 

 疲れた身体に沁みるような美味しさで少しだけど持ち直した。空腹と疲労であっという間に食べ終えて使った食器を洗って拭き取った後は部屋へ戻った。ベッドに腰掛けると一気に眠気に襲われて着替える事もせずにそのまま眠った。

 

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