転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第三十一話

 

「スー、スー…ん?…朝か」

 

 疲れから酒場のウェイトレス服のまま眠っていたシリウスは朝日に照らされて目が覚めた。腕の中ではポラリスがシリウスの指を握ってスヤスヤと眠っており朝から可愛らしい姿を見られてご満悦なシリウス。少しの間ポラリスの寝顔を眺めていたらポラリスが動き始めた。

 

「う~、ふえええぇぇぇ…」

「はいはーい、おしめ変えようね~」

 

 手早くおしめを替えてシリウスも手早く着替えた。

 

「ポラリス~おはよ~」

「ま~」

 

 頬擦りをしておはようの挨拶をする二人。

 シリウスはポラリスを抱いて洗濯をしに下へ降りた。いつものように洗濯を終えて干し終わると昨日サインを貰い損ねた半紙を持って朝食を取りにいった。

 

「おはようございます」

「ああ嬢ちゃん!おはよう!昨日は助かったよ!ありがとね!」

「いえ気にしないでください。後この半紙にサインの方を」

「おっとっと、すっかり忘れてたよ!…ほいっと!じゃあ朝食を持ってくるよ!」

「ありがとうございます」

 

 サインが書かれた半紙を貰って席に着き朝食が来るまでポラリスをあやしている。

 

「はいよお待たせ!」

「ありがとうございます。ああそうだ。昨日のウェイトレスの服は洗ってから返しますね」

「おやおやいいのかい!すまないね!そうそう!嬢ちゃんに渡すのがあったんだった!ちょっと待ってておくれ!」

 

 女将は奥へ入っていきすぐに袋を持って戻ってきた。

 

「昨日は大助かりだったからね!追加の報酬さ!」

「え?いやそこまでしなくても」

「いいんだよ!受け取っておくれ!」

「んー、分かりました。ありがとうございます」

 

 その後女将が持ってきたスープとパンの朝食を取り部屋に戻って荷物を持って部屋を出た。日課の素振りを終えた後、ギルドへ依頼終了の報告へ向かった。ギルド内は数人のハンターがいるだけで空いていた。

 

「おはようございます。ご用をどうぞ」

「おはようございます。依頼完了を報告に来ました」

「ではこちらに半紙をお願いします。…はい、確認しました。ではこちら報酬となります。お受け取り下さい」

 

 シリウスは受付にいた職員に依頼完了を報告し報酬が入った小袋を受け取った。受付を離れて空いていた椅子に座り報酬を確認している。

 

「今回の報酬。銅貨がひぃ、ふぅ、みぃ…五十枚。銀貨が一枚。150リクル。追加報酬。銅貨が無し。銀貨がひぃ、ふぅ、みぃ…三枚。300リクル。計450リクルって…女将さん、色つけ過ぎでしょ…」

 

 合計で本来の報酬の三倍もの報酬が手に入ったがシリウスは色をつけ過ぎの女将に対して若干呆れていた。いくら大助かりだといっても限度はあるはずだとシリウスは思っているが返そうとしても受け取らないのは目に見えているので渋々懐に入れる事にした。

 

「(まあ実際助かるけどね。今は少しでもお金が欲しいし)さて、今日も稼ぎますか」

「すいません、シリウス・ノクティーさんですね?」

 

 シリウスが依頼を受けようとした時、男性職員が声を掛けてきた。

 

「はいそうですが」

「ヴァレットさんから預かり物がありますのでこちらの方にサインをお願いします」

「預かり物?何だろうか…あ、サインですね。えーっと、はい」

「ありがとうございます。少々お待ちください」

 

 職員は小走りで受付の奥へ一度引っ込んで大きな袋を持って出てきた。

 

「こちらになります」

「ありがとうございます。さて、中身は何じゃろなっと」

 

 シリウスが袋の口を開けると大きな目と目が合った。

 

「ぬおっ!?」

 

 シリウスが仰け反ると袋の口からジャイアントアントの素材がいくつか出てきた。シリウス達がジャイアントアントの巣の調査へ向かった時に撃破した素材だった。

 ヴァレットは他のベテランハンター達と共に他に巣の出入り口が無いかを調査していてその時に回収された。他のハンター達にも渡しており依頼でギルドに来なかったシリウスに渡しておくように頼んでいた。

 

「そういえば後日回収するって言ってたな。すっかり忘れてた。そういや前に倒して剥ぎ取ったのもそのままだったな」

 

 薬草採取の依頼で倒したジャイアントアントの素材はすっかり部屋のオブジェと化していた。

 

「(あれで装備とかできるんだろうか?誰かに相談するか)気を取り直して、すいません。労働系の依頼をお願いします」

 

 その日もシリウスは労働系の依頼を受けた。

 午前に《荷運び》を、午後に《露店の売り子》の依頼をこなして合計で350リクルほど稼いだ。荷運びは子連れという事もあって軽めの物や小さい物を運ばされ、売り子は噂でそれなりに知名度があるので露店の前で声を上げるだけで続々と見ていってくれた。そしていつものように宿に戻って食事を取り眠った。

 翌朝。

 いつもの日課をこなして、昼頃にギルドに訪れるとハンター達が集まっていた。

 

「ん?おお、嬢ちゃんか」

「あ、ヴァレットさん。どうしたんですか?」

「ジャイアントアントの巣の調査が終わってな。これから討伐に向かうところだ。嬢ちゃんはどうする?」

「というと?」

「見るのも教導だと思ってな、希望者に声を掛けて回ってるんだが嬢ちゃんは行くか?」

「行きます。出発はいつですか?」

「大体一時間後ぐらいだな。その時にギルドに来てくれ」

「分かりました。準備してきます」

 

 今日の予定をキャンセルしてジャイアントアントの巣の攻略についていく事になった。

 急いで宿屋に戻り着替えて装備を付けた。装備の点検もして準備万端になったので少し早いがギルドへ向かった。

 ギルドではハンター達がどの出入り口から攻略するかを話し合っていた。

 

「(全ての出入り口から油を流して火を付けちゃダメなんだろうか?ダメなんだろうな)」

 

 少し時間が空き暇になったのでポラリスをあやしつつ脳内では物騒な攻略法を考えている。

 

「あ!シリウスちゃん!」

「あんたも来たのね」

「リヤン。ミーリ」

 

 リヤンとミーリも見学に参加するようでシリウスに近づいてきた。

 

「…ねえ。シリウス、変な事考えてなかった?」

「変な事?」

「こないだみたいに巣を爆発させる~とか水攻め~とか、そういうのよ」

「よく分かったな」

「考えてたの!?」

「全部の出入り口から油を入れて火を付ければ全員巣から出てくるだろ?」

「うわあ…あんたって、うわあ…」

「し、シリウスちゃん…そ、それは流石に…」

 

 シリウスが正直に話すと案の定二人はドン引きしていた。

 評判とか二次災害とか一切考慮しなければ確かに効率的ではある。効率的ではあるが誰もやろうとはしないし、何より絵面が酷すぎる。

 ジャイアントアントの巣を燃やし、燃えながら出てくるジャイアントアントやソルジャーアントを次々と斬り捨てる。巣の中でジャイアントアントの幼虫が生きながら燃やされ、全てが燃え尽きた後で高笑いするシリウス。

 

「待て。何で私が高笑いしてんだ。完全に悪役じゃねえか」

「だって、素材が大量に手に入ってウハウハじゃないのよ」

「そんな理由で笑ってたまるか」

「あ、あはは…」

 

 酷すぎる配役に物申すシリウス、あながち間違ってないと言い張るリヤン、それを苦笑いして眺めるミーリ。賑やかな話はヴァレットが声を掛ける事で終わった。

 

「お前達、そろそろ出発するぞ」

「了解です」

「はーい」

「分かりました」

 

 出発の時間となりベテランハンター達の後ろについて町を出た。森の中を歩いているとハンター達が数人ずつ固まって方々へ散っていった。

 

「全部の出入り口を同時に攻略するんですか?」

「よく分かったな、その通りだ。一つの出入り口から攻略したら他の出入り口からジャイアントアントが逃げちまうかもしれんからな。それを防ぐためだ。後ジャイアントアントの巣は入り組んでて迷路みたいになっててな。進んでいたらいつの間にか外に出ていた、なんてことも偶にあるのさ。後のために地図とかを作ってもすぐに拡張されちまうから、それなら一斉に攻略した方が早い」

「ふむふむ」

 

 ジャイアントアントの巣の攻略法を教えてもらいながら一団は森の中を進んでいる。歩き続けて以前シリウス達が調査で見つけた出入り口の手前までやって来た。

 

「着いたな」

「うへぇ…ウジャウジャいやがる」

「前見た時より数が多くなってるな」

「今日にして良かったな。もう少し後にしてればどうなってたことか」

「よし、全員配置につこう。作戦通りにな」

「「「「「おう!」」」」」

 

 ハンター達は三人一組になり出入り口を囲むように位置についた。

 内訳は魔法使いと弓使いと盾持ち。魔法使いと弓使いが遠距離から封殺してもし近寄られたら盾持ちが対処する作戦だ。隊長に就任したヴァレットが全員が配置についたのを確認して手を振り下ろした。

 作戦開始の合図だ。

 魔法使いが魔法を準備し出し一斉にジャイアントアントの群れ目掛けて放った。ジャイアントアントは頭や身体が吹き飛ばされ倒れる個体が続出し突然の襲撃に混乱している。

続けて弓使いが次々とジャイアントアントに矢を射かけた。無事な個体にも矢が何本も刺さり倒されてゆく。相手に何もさせずに一方的に攻め立ててゆく。

 

「すごいな…」

「ほへぇー…」

「はわぁー…」

 

 シリウスは感心しつつ何一つ見逃さないと戦場を見続けているが、リヤンとミーリが口を半開きにしてその光景を眺めていた。どう見ても何も考えていない間抜けな表情でそれを見たシリウスとヴァレットは密かに溜息をついた。地上にいたジャイアントアントはあっという間に排除され巣への突入ができるようになった。

 

「よし。予定通り盾持ちが前、その後ろに槍と弓だ。魔法使いは地上で待機を」

「「「「「おう!」」」」」

「何で魔法使いが潜っちゃダメなのよ?」

「どうしてだと思う?」

「いや教えてよ!」

「リヤンちゃん。これも教導だから」

「そうだぞ、二人とも考えろよ」

「何であんたもそっち側なのよ!」

「私は分かったからな。ヒソヒソ…こういう事ですよね?」

「正解だ」

「ぐ、ぐぬぬ…」

「魔法使いが潜らない理由…うーん…」

 

 二人は悩んでいるが正解は洞窟が崩れる可能性があるためだ。

 普通の洞窟なら魔法の種類を限定すれば問題は無いが今回の洞窟はジャイアントアントの巣だ。縦横無尽に拡張しているので地面や壁の強度が弱まっている可能性があるため魔法使いは全員地上で待機となっている。

 

「という訳だ」

「へー、そうなんだ」

「何であんたは魔法使いじゃないのに分かんのよ」

「ここの出来じゃないですかね」

「キー!腹立つ!」

 

 小馬鹿にしたような表情で頭を指差すシリウスにリヤンは腹を立てている。

 シリウスがリヤンと戯れている間にも巣に潜る準備が進められており、ハンター達は何本もの松明を用意し口と鼻を布で覆っている。

 

「どうして布で…いや、もしかして巣の中って相当臭います?」

「どうしてお前さんは何も言わなくても分かるんだ?」

「いや、ああやって覆えば誰だって分かりますよ」

「こっちの二人は分かって無かったみたいだけどな」

「そそそそそそんなわけ、ななななないじゃない」

「し、知ってたよ…?」

「こっちを見て言え。ったく…」

 

 シリウスの言う通りジャイアントアントの巣の中はかなり臭う。獲物を取ってきて巣にいる仲間と分け合うのだがその食べ残しや糞などが悪臭を放っている。大きな巣ほどそういうのが大量にあり中にはガスが発生し松明に引火して爆発したという事も何件かある。

 

「ヴァレット!こっちは準備できたぞ!」

「よし!行くぞ!」

 

 ヴァレットの掛け声でハンター達は隊列を組んで巣へと入っていった。シリウス達も持っていた布で口元を覆い後方を担当するハンター達と共に歩いている。

 巣の中は道が円形状になっており下がったり上がったりと複雑に入り組んでいる。横道も多く時折ジャイアントアントが飛び出してきて戦闘になったり、入ろうとしたら上から土が落ちてきたり、掘っている途中で止めた横道もあったりして迷路みたいになっている。先頭を進んでいるハンターが逐一紙に書き込んでおり、帰り道が分からなくなるという事態は避けられそうだ。

 

「かなり深いな…これでまだそこまで大きくないんですよね?」

「おう。こいつは、そうだな…中の下ぐらいだな。噂じゃ上の上は山の中とその下を全部掘ってるらしいぜ。中にいるジャイアントアントの数も尋常でないぐらい多くて巣の攻略を諦めてこれ以上大きくならないようにするのが手一杯って聞いたことがある」

「うわぁ…」

「ジャイアントアントだけじゃなくてソルジャーアントだろ、コマンダーアント、ジェネラルアント、アントキングとアントクイーンなんてのもいるらしい。強さも尋常でないぐらい強くてハンターと軍を両方相手取って勝つぐらい強いらしいぜ」

「絶対出会いたくないですね、そんなのと…」

「それに比べりゃここなんて楽勝よ」

「油断するな。そういうのが命取りになるんだぞ」

「分かってるよ」

 

 後方で一緒に歩いているハンターと話しながらシリウスはポラリスをあやしながら巣を見回している。腕の中のポラリスも口元を布で覆われておりシリウスに抱き着いて大人しくしている。

 

「な、何であんたは、そんなに、お、落ち着いてるのよ…」

「ひーん…怖いよー…」

 

 シリウスはかなり落ち着いているがリヤンとミーリはかなり怯えている。帰り道が分からなくなり、暗がりから突如ジャイアントアントが飛び出してきたり、遠くからジャイアントアントの鳴き声が聞こえたりでもう一杯一杯だった。二人ともシリウスの服を掴んで離さずミーリにいたっては既に半泣きだった。

 

「そんなに怯えんなよ。逸れなきゃ大丈夫だよ…まあ、地面や天井が崩れたら終わりだが」

「そんな不安になるような事言うなー!」

「うわーん!もうやだー!おうちかえるー!」

 

 シリウスの失言でプチパニックを起こし始めた二人は目尻に涙を浮かべながらシリウスに抱き着いた。

 

「…後ろがうるせえな」

「新人共が騒いでるんだろ?」

「こうもうるさかったら気付かれちまうな」

「どっちにしろもうすぐ最深部だ。あんま変わらねえよ」

「俺らにもあんな時があったな」

「そういやそうだな。初めての巣は中々怖かったぞ」

「俺の時なんて分断されたぞ。泣き喚いてた記憶しかねえよ。そん時の先輩には迷惑掛けちまったな…」

 

 ハンター達は騒いでいる新人を見て自分達もああだったなと過去を振り返っている。和んだ空気が流れていたがそれもすぐに終わりを迎えた。天井から音が聞こえ始め今にも崩れそうになり始めた。

 

「ヤベッ!崩れるぞ!」

「マジか!?お前ら走れ!」

「リヤン!ミーリ!走れ!」

「「いやあああぁぁぁ!?」」

 

 シリウス達の頭上が崩れ大量の土砂が落ちてきたが、事前に警告されたので何とか生き埋めにならずに済んだ。通路に土砂が流れ込んだと思ったらジャイアントアントも巻き込まれて落ちてきた。転がりながら落ちてきて地面に叩きつけられ藻掻いていたのでシリウスは小剣を抜いた。

 

「ふんっ!」

「ギイィ!?」

 

 小剣を逆手に持ち目に突き刺した。ジャイアントアントは痛みで暴れるがシリウスはお構いなしにさらに深く突き刺した。ジャイアントアントは次第に動きが鈍くなっていき最後には動かなくなった。

 

「…よし」

「ふへぇ…すげえな」

「俺らより早く動いて急所を一突きか、やるな…ん?」

「おーい!」

 

 頭上から声が聞こえ見上げると上の通路に別の出入り口から侵入したハンター達がいた。ハンター達は斜面を滑り降りてきて合流した。

 

「よう。そっちも無事だったか」

「おうよ。ジャイアントアントが数体いたぐらいで特に問題はねえぜ」

「そうか。となれば一番奥に団体さんがいるってことだな」

「魔法がねえのがちっとばかし辛いが、まあ何とかするか」

 

 十数人ほどのハンター達は全員気合いを入れ直して最深部へと入っていった。

 

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