転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第三十二話

 

 巣の最深部へと到着したハンター達。

 そこにはジャイアントアントが大量におり地面だけでなく壁や天井にも張り付いていた。ジャイアントアントの群れの中に身体が大きいソルジャーアントも数体混じっており、群れのさらに奥にはお腹の大きなジャイアントアント、マザーアントが鎮座している。マザーアントの周囲には卵がいくつもあり、その周りには空になった卵が複数あった。

 ジャイアントアントとソルジャーアントは侵入者に対して威嚇するように顎をカチカチ言わせたり、鳴き声を上げている。

 

「結構な数がいやがるな!」

「ソルジャーアントも混じってやがるぞ!」

「上にもいるぞ!気を付けろ!」

「全員固まれ!逸れるとやられるぞ!」

「よし!行くぞ!」

「「「「「オオオォォォ!!」」」」」

「「「「「キイイイィィィ!!」」」」」

 

 ハンター達の雄叫びとジャイアントアント達の咆哮が同時に響き渡り両者が激突した。

 ハンター達は常に複数で動き盾持ちが抑えている間に周りの者が目を刺したり触角を斬り落としたりして行動不能にしている。倒れたジャイアントアントが盾となり後ろのジャイアントアントの行動を阻害している。それでも回り込んで来るがその僅かな間に体勢を立て直して迎え撃っている。シリウス達も武器を抜き回り込んで来るジャイアントアントを迎撃している。

 

「倒す必要は無い!触角を斬り落とせばいい!」

「分かってるわよ!とりゃあ!」

「ミーリ!魔法は使うなよ!」

「う、うん!えい!えい!」

 

 魔法が使えないミーリは短剣を握っており、シリウスが隙を作ってその間に触角を斬り落としている。戦いは熾烈を極めているが若干ハンター達の方が優勢に傾いている。

 

「おい!大丈夫か!?」

「俺達も行くぞ!」

 

 さらに他の出入り口から侵入した別のハンター達も合流し徐々に戦線を押し上げている。地面に倒れ藻掻いているジャイアントアントにも止めが刺されていき、ハンター達の優勢は確実なものになっていた。

 

「よし勝ったわね!」

「リヤンちゃん、まだ早いよ」

「フラグを立てるんじゃない…って、さっそく回収かよ」

 

 リヤンの言葉に不安を掻きたてられたシリウスが辺りを見渡すと一体がこちらに向かってくるのが見えた。一体のソルジャーアントがシリウス達目掛けて突進を仕掛けた。

 ソルジャーアントはジャイアントアントより身体が大きく殻も相当硬く顎の力も強くて人なら真っ二つになるほどの凄まじさを誇る。それだけでなく前足も発達していて殴られれば軽く吹き飛ばされるほどだ。一体とは言え六級のハンターではかなり苦戦する相手である。

 

「そーら、来たぞ!」

「デカっ!硬っ!無理っ!」

「わひゃー!?」

 

 攻撃を仕掛けたリヤンは大きさにビビり、小剣を振るって殻の硬さに驚き、背を向けて逃げた。ミーリは最初から逃げ出していてソルジャーアントは二人を追いかけている。

 

「ええい!世話の焼ける!」

 

 シリウスは悲鳴を上げながら逃げ惑う二人を助けるためにソルジャーアントの足に攻撃した。当然弾かれるがソルジャーアントの注意を引けて狙いをシリウスに変えた。

 鳴き声を上げながらシリウスに近づき真っ二つにしようと顎を広げて噛みつこうとしている。シリウスは噛みつきを伏せて回避し身体の下から殻と殻の間に小剣を突き刺した。

 

「ギィ!?」

 

 だがソルジャーアントはジャイアントアントより硬く先端が僅かに入った程度だった。シリウスは素早く小剣を抜き取ってソルジャーアントから距離を取った。ソルジャーアントも手傷を負った事でシリウスを油断ならない相手と定め闇雲に突進するのを止めて隙を窺っており、シリウスも迂闊に攻めずに待ちの体勢だ。

 両者が睨み合い動きを見せずにいるが焦れたソルジャーアントが動きだした。噛みつきを止めて前足をシリウスに叩きつけようと振り下ろしてくる。シリウスは後ろや横に跳んで回避したり、振り下ろされる前足に小剣を横薙ぎに振るって軌道を逸らしてその反動で横に跳んで避けている。何度振り下ろしても当たらないシリウスにソルジャーアントは苛立ちが募ったのか両足を高く上げて勢いよく振り下ろした。地面に叩きつけられ土煙が上がりシリウスとソルジャーアントの姿が見えなくなった。

 

「シリウス!?」

「シリウスちゃん!?」

「何だ!?どうした!?」

「シリウスが!?ソルジャーアントに!?」

「何だと!?クソっ!今行くぞ!」

「頼むから死んでくれるなよ!」

 

 リヤンもミーリもハンター達もシリウスが重傷であると思い込んでおり水薬を片手に土煙に向かって走り始めようとしている。

 もちろんシリウスは無事である。

 振り下ろされる前に横に跳んで回避している。跳んだ方向がリヤン達のいる所の逆側だったので土煙に隠れて見えなくなっただけだった。土煙のおかげでソルジャーアントはシリウスを見失っている。触角があるので数秒もあればシリウスの居場所を特定できるが隙を窺っていたシリウスにとってその数秒は好都合だった。土煙の中に突っ込みソルジャーアントの触角を斬り落とした。

 

「ギイィ!?」

「うお!?」

「なんだなんだ!?」

 

 突如暴れ出すソルジャーアントに驚き距離を取ったハンター達はシリウスの無事な姿を確認した。

 シリウスは暴れるソルジャーアントの目を正確に突き刺した。たまらず倒れ込むソルジャーアントだがジャイアントアントよりも生命力は強いのでまだ生きていた。顎を広げたのでシリウスは小剣から手を離して噛みつきを回避した。

 距離を取った後に腰に刺している短剣を抜き再び駆けだした。再び噛みつこうとするソルジャーアントの顎をスライディングで回避し攻撃が来る前に立ち上がって無事な方の目に短剣を突き刺した。

 

「ギイイイィィィ!?!?」

 

 視界が無くなり激痛に悶え苦しみ地面に力無く倒れるソルジャーアントはそれでもまだ生きていた。シリウスは止めを刺すべく刺さったままの小剣をさらに押し込んだ。ビクッと痙攣するように動いた後ソルジャーアントは息絶えた。

 

「ぶはあああぁぁぁ…あ~、しんど…」

 

 倒した事を確認した後、シリウスはようやく一息ついた。

 戦っている間に自分でも何とかなると思っていたがやはり初見相手では中々緊張した。時間もかかり過ぎた所為で余計な体力も使って、反省点が多い戦いとなった。

 

「やはり魔法と魔戦技の習得しなきゃな…さてポラリスはっと」

「ま~」

「…どうして君はそんなに肝っ玉が据わってるの?」

 

 かなり激しく動いたり、大きな音がしたりしたがポラリスはケロッとしていた。口元を布で覆われて洞窟に入ってからはシリウスに抱き着いてただジッとしていた。シリウスの腕の中がどこよりも安全だと信じているので何が起きようとへっちゃらだった。

 

「ん?どわあ!?」

「「シリウス(ちゃん)!!」」

 

 シリウスの姿を見た瞬間リヤンとミーリが走り出してシリウスに抱き着いた。

 

「このバカっ!心配ばっか掛けて!でも、ふ"し"て"よ"か"った"よ"~!!」

「うわーん!シリウスちゃん!良かったよー!」

「え!?ちょ、お、落ち着け!なんだなんだどうした?」

 

 号泣しながらシリウスの無事を喜ぶ二人にシリウスは何が何だか分からず取り合えず泣き止ませようとしている。

 

「…えれえもの見ちったなあ…」

「ああ、見ちった…」

「あれで六級?どんな詐欺だ?」

「何であんな動きができるんだ?」

「確か毎日素振りしたり、敵をイメージしてそれと戦ったり、本で魔物の事を勉強したとか言ってたような…」

「いやだから、そんなのができる六級なんていやしないのよ」

「あそこにいるじゃないか」

「あんなのは六級じゃない!俺は認めねえ!」

「…なあ、俺達で五級に昇級するようギルドに推薦してみるか?」

「それは良いな。それならこいつも認めるだろうさ」

「うるせえ!」

「なんだ~?妬いてるのか~?」

「そら妬くだろう。自分にできない事をして、自分よりカッコイイ姿を魅せられちゃ、そりゃ妬くさ」

「ええい!うるさいうるさい!討伐は終わったな!俺は帰るぞ!」

「ガハハハッ!こりゃ良い肴ができたな!」

「今日の酒は美味くなりそうだな!」

「おーい!粗方剥いだぞー!」

「こっちの確認も済んだ!もういないぞ!」

「よーし!帰るか!」

 

 マザーアントを倒して卵も残らず潰し巣は完全に攻略した。

 ジャイアントアントも粗方倒し生き残った僅かなジャイアントアントは逃げ去っていった。ハンター達は剥ぎ取った大量のジャイアントアントの素材を背負って洞窟を後にした。

 

「落ち着いたか?」

「うん…」

「ぐすん…」

「全く…取り乱し過ぎだ。後、周りに敵がいないからといって私ばかり見てるんじゃない。絶対にいないって保証は無いんだからな。それと他の人ばかり働かせんな。お前達は何しにここまで来たんだ。見学?たわけ。本当に見てるだけのバカがどこにいる。後な…」

「もう勘弁して~…」

「うわーん、ごめんなさーい…」

 

 ようやく泣き止んだリヤンとミーリだったがシリウスがいい機会だからと二人のお粗末過ぎる行動に物申している。ほとんど説教になっていて、しかもどれもこれも思い当たる事しか無いので二人は再び泣きそうになっていた。

 

「ったく…取り合えずこれぐらいにしておくが、私がいなくなったらどうするつもりだったんだ?」

「うぅ…そ、その時は他の人に手伝ってもらうし…というか今何て?」

「きゅう…皆で一緒に行動するから…え?シリウスちゃん、今何て言ったの?」

「取り合えずこれぐらいに?」

「「その後!」」

「私がいなくなったら?」

「「どういうこと!?」」

「そのまんまだが?私が他の依頼でいない時や、町を離れている時はどうする気だ?」

「あ、ああ、そういう…他の人と一緒にするから大丈夫よ」

「ほっ…パーティー募集すれば何人かは来てくれるはずだから」

「(そうとるか。本当に町から離れるつもりなんだがな)それならいいが、二人とも危機感というのが足りて無くてな…」

「いや~!もうお説教はコリゴリよ~!」

「うわ~ん!もう許して~!」

「だが断る。まだまだ言いたい事はあるんだからな」

「「いや~!!」」

「…あいつら元気だな」

「若いっていいよな」

「俺らにもあんな時代があった…はずだ」

「やめろ、心にクる」

「そんな辛気臭い話は止めてもっと明るい話をしようぜ」

「そうだそうだ。例えばそうだな、今日の稼ぎはいくらになるとかさ!」

「元々の報酬はいくらだっけか?」

「ソルジャーアントもいるからな、その分危険度と報酬も上がってたはずだ」

「あー、確か30000リクルだったかな」

「一人頭だと…おい、今日何人で来たっけ?」

「えーっと、俺らと新人達を合わせて…三十人、だったか」

「結構集めたのな」

「出入り口が多かったからな。念には念をいれたらしいぜ」

「なら一人1000リクルか。計算が楽で助かったぜ」

「そこに素材も入れると2000前後だな」

「まあ、そんなもんだな」

 

 ジャイアントアントの巣の攻略は巣の大きさや出てくる魔物の種類によって危険度と報酬が上下する。今回はソルジャーアントが出現した事で危険度が上がり五級以上のハンターのみと限定されていた。シリウス達はヴァレットの要望と五級のハンターが複数いた事で特別に参加が許可された。

 報酬は20000リクルが基本だがそこから巣の規模次第で報酬額も上がっていく。報酬は高い様にみえるが巣の攻略はそれなりの人数で行うのが普通なので平均一人当たり1000リクルほどが報酬となる。そこからジャイアントアントの素材を売却してトータルで1500リクルから2000リクルが最終的な報酬となる。

 

「―――という訳だ、分かったか?以後気をつけろよ」

「「…」」

 

 シリウスの説教はようやく終わりリヤンとミーリは真っ白に燃え尽きていた。シリウスは燃え尽きた二人を尻目に今後の事を考えている。

 

「(ソルジャーアントの方がジャイアントアントより硬いはずだよな。ならその素材を使って装備を作ってもらって、余った素材は売ってしまおう。さっき聞こえた話なら私達にも報酬が貰えるっぽいから素材の売却分も合わせて…1500ぐらいにはなって欲しいな。労働系の依頼は報酬が低いから今度は採取系の依頼を受けてみよう。ゴブリンとジャイアントアントはしばらくはいないだろうから危険も少ないはずだ。出てきてもあの猿、フォレストエイプだったか?あれぐらいだろうし。後はカバンとかだな。いや、この際リュックみたいに背負った方がいいかもしれん。入れる物はポラリスと私の着替えだろ?食料、水、毛布、布に後は…何だ?うーん…誰かに聞くか。ああそうだ。帰ったら市場で食材買ってラトミシアさんのとこに行かないと。あの時、食材使ったからもう食べる物が無くなってるかもしれん…飢えてないよな?嫌だぞ。入ったらまた倒れてるなんて状況は。献立は何にする?バランス良く考えねば…野菜はサラダか野菜炒めかシチューにして後は魚か肉…そういえば嫌いな物ってあるんだろうか?ベジタリアンという可能性も捨てきれん。うーん…仕方が無い。今回は見送ろう。そうだ。シチューにしてチーズを入れるのはどうだろうか。それなら食べ応えがあるし、余ったら翌日に温めて食べる事もできるな。よし、それでいこう)」

 

 今後の予定を頭の中で次々と立てていてもポラリスをあやす手は休まず動いていた。シリウスに手を伸ばしていたので頭を撫でたり、頬をプニプニしたりしてイチャついている。

 

「…おい見ろよ」

「ん?なんd、おぉ…」

「何て慈愛に満ちた表情だ…」

「あいつがソルジャーアントを倒したって誰が信じる?」

「可憐だ…」

「お?惚れたか?」

「な、何を言ってる。そういうのではない」

「ああ、分かってる分かってる」

「何も分かってないだろ…!」

「…その優しさを私達にも向けてほしいんだけど」

「無理だな」

「ふえーん…どうしてぇ…?」

「二人とポラリスが同等だと思ってるのか?」

「「思いましぇん…」」

 

 ポラリス>>>友人という図式は覆らなかった。当然である。

 

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