転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

34 / 124
第三十四話

 

「むふ~♪」

「あ~♪」

「聞かなくても分かりますね、その顔を見れば。お粗末様でした」

 

 食事を全て平らげて大満足なラトミシアとポラリス。

 満足している二人を見ながらシリウスは使った食器や調理器具を洗って水気を拭き取り元合った場所に直した。

 

「明日の朝食は牛乳とパンとチーズがありますからそれを食べてください。昼と夜は頑張って何か買ってください。大丈夫です。怖くないですから」

「う、うん。分かった。が、頑張ってみる」

 

 片付け終わり食後のお茶を入れて二人で飲みながら話している。シリウスは何度もラトミシアの家に来たことがあるのでどこに何があるのか大体把握している。好きな食べ物の事など談笑していたが日も暮れてきたのでシリウスは宿屋に帰る事にした。名残惜しそうにするラトミシアが玄関先でいつまでも手を振って見送っていた。

 

「(本を見ながらだったがわりかし上手く作れたな。ポラリスもラトミシアさんも好評で良かった。脂っこい物が苦手で肉もそこまで好きじゃないらしいから魚と野菜をメインにして、野営でも作れそうな料理を作っていこう。後はそうだな…野営で使えそうな物を見てみるか。よし、明日は日課が終われば店にいって値段の確認をしてから採取系の依頼に挑戦だ。一人でもできるようにしないといけないしな)明日も頑張るぞ」

「あ~」

 

 今後の予定を立てた所で宿屋に着き部屋に戻って眠った。

 翌日、日課をこなした後予定通り野営の道具を見るため店を訪ねた。店の中は所狭しと物が置かれており、天幕や火打石、水を入れる容器や野営で使える料理器具、ランタンや魔物避けの臭い袋など様々な物が売っている。

 

「色々あるなー。しかし高い…まあ分かっていたけどさ」

 

 以前市場で色々見て回った時より値段は高く二割から五割ほど上がっている。

 野営の道具は壊れないように頑丈に作られていて落としたぐらいでは傷一つ付かない。天幕などには撥水加工が施されロウソクも長時間火が持つように作られており、色んな付加価値が付いているのでどうしても値段は高くなる。

 

「うーん…お、中々いいリュック。いや、背負い袋か?へぇー水を弾くのか、そりゃ便利だ。大きさも結構あるし私でも背負えそうだな。値段は、おうふ…2000リクル…でもなー…うーん…保留。おっ?ヤカンがある。こっちは鍋か。頑丈に作られてるのか。まあそりゃそうか。値段も高いなあ…鍋が500でヤカンが1000か。使い勝手は良さそうだけどなー。よし保留。天幕…テントの事か。こりゃ大き過ぎるな。一人か二人用の物は…あったあった。すいませーん。これ広げてみても?いい?ありがとうございます。よっと…ほっと…ふんふん、これぐらいの広さか。高さがこれぐらいっと。いいなこれ。そして値段も高い。3000リクルか。まあずっと使い続けるもんだし安物を買うよりはいいだろうしなあ…でも一旦保留で」

 

 それからも色々な品物を見ていいなあと思うものの値段が高い事もあって全部保留となっていく。何も買わずに悩んでいるシリウスを店主は初めは訝しんでいたが、首からハンターのペンダントが見えたので値段の確認に来た新人と分かり温かい目で見ている。結局何も買わずにシリウスは店主に頭を下げてから店を出た。

 

「うーん、高い…ローンもあるから手が中々出せない…金だ。金が要る。というわけで仕事だ」

 

 悩んでいたが最終的に金が必要に戻ってきたのでギルドに足早に向かった。ギルドに入り依頼が張られた壁に迷わず向かった。

 

「採取系、採取系…合った。薬草採取と植物採取?ああ、依頼人が花屋さんか。新しい花が欲しいと、ふーん…これにしよ」

 

 薬草採取より面白そうという理由で植物採取の依頼を受けたシリウスは受付から目標の花の特徴を教えてもらいギルドを出て正門から外に出て森の方へ歩いていく。

 依頼の花は森の奥にひっそりと咲いているらしく魔物もいて見つけるのはかなり難しい。取り合えず過去に確認された場所に向かおうとシリウスは森の中をズンズン進んでいる。腕の中のポラリスはポカポカ陽気でスヤスヤと眠っており、時々シリウスがポラリスを見るがその度に笑顔になっている。

 魔物と出会う事無く森の奥の方までやって来れた。依頼の花が過去に確認された場所は三つあり、いずれも倒木や巨木の陰にひっそりと生えていたらしい。

 

「木の陰にひっそりとね。木がたくさんあるなー」

 

 森なので当然木がたくさんある。この中のどれかの木の陰にいるらしいのだが、確認していくだけでも途方もない時間が掛かりそうだ。安易にこの依頼を受けた事を若干後悔し遠い目になりながら花を探し始めた。木の陰を確認し無ければ次の木に、をひたすら繰り返しもはや作業になってきた頃にようやく見つけた。依頼の花は太陽に照らされて黄金色に輝いているとても綺麗な花だった。

 

「や、やっと、見つけた…ようやく苦行から解放される…」

 

 依頼の花を根っこから丁寧に取り上げて回収した。余裕があれば目についた薬草を採ろうと思っていたが疲労困憊なので真っ直ぐ町に帰る事にした。疲れ切っているがそれでも周囲の警戒は怠らずポラリスもあやしている。

 

「あ?…この疲れてる時に来るかね、ったく」

 

 警戒をしていたおかげで木の上の微かな音に気づけた。

 見上げればいつぞや見たフォレストエイプがこちらを見ていた。やる事が無くて暇だったがシリウスを見つけたので甚振って遊ぼうとニヤニヤしていた。

 

「ちっ。笑ってんじゃねえぞ、クソ猿がっ」

 

 笑うフォレストエイプに苛立ち口調が荒くなるシリウス。

 小剣を抜き臨戦態勢に入るとフォレストエイプが仕掛けてきた。木の上から硬そうな木の実をシリウス目掛け投げつけた。シリウスは余裕を持って回避していき当たりそうな物は小剣で弾いている。教導をしてくれるハンター達の教えと鍛錬が身を結んでいる。フォレストエイプは木の実の他に枝も投げているが当たらないので段々と苛ついてきている。遂に我慢できず木の上からシリウス目掛け飛び降りてきた。シリウスはバックステップで避けた後、すぐに前に飛びだしフォレストエイプの顔面目掛け小剣を突き出した。

 

「ムギャッ!?」

「ちっ!」

 

 フォレストエイプはギリギリで直撃を避け目の近くを掠めていった。痛みから片目をつむり憤怒の表情でシリウスを残った目で睨みつけている。シリウスは右半身を前に出し構えたまま動かなかった。

 シリウスはポラリスを抱いているのでどうしても一つ一つの動作が遅くなる。誰かに預けようにも知り合いは仕事で忙しかったり、ポラリスが懐こうとしなかったりして預けれずにいる。最近は当たらないように動けばいいかなと思い始めており、それ込みでの戦闘を模索している。ハンター達からも助言を貰い後の先を取る、カウンター狙いの戦法に辿り着いた。鍛錬をしてるものの非常に難しく、未だに形すらなっておらず、今は教えられた例の一つを模して戦っている。

 フォレストエイプは怒りのままにシリウスに突っ込んできたが走りながら拾った石を投げてきた。シリウスはフォレストエイプから目を離さず石を横に一歩ズレる事で回避し、腕を振り上げたフォレストエイプの懐に潜り込むように入った。フォレストエイプの攻撃は外れシリウスは目の前の身体に思いっきり小剣を斬り上げた。

 

「グギャアア!?」

 

 胴を斬られ痛みから倒れ込むフォレストエイプにシリウスは頭目掛けて小剣を突き刺した。一瞬硬直したがそのまま力尽きた。

 

「ふぅー…教えが生きたな。良かった良かった」

 

 教えられた通りに動けて安堵したシリウスは小剣を引き抜いた。

 本来ならフォレストエイプの死体は燃やした方がいいのだが、森の中なので延焼の可能性があるのでそのまま放置する事にした。魔物の死体は大体は他の魔物の餌になるが偶に仲間が死体を見つけ仇討ちに来る事もある。シリウスがターエルに来た時にも遭遇しているのでできるだけ見つからないように茂みの中に隠しておいた。臭いでバレるかもしれないが何もしないよりマシと思う事にした。討伐の依頼なら耳など一部を持って帰るのだが採取の途中で出くわしただけなので剥ぎ取らなかった。

 フォレストエイプの素材は使える所が特に無い。牙も爪もそこまで硬くも鋭くもなく、唯一毛皮ならなめせば使えない事も無いが臭いがキツイので人気は低く、ハンターからも不人気で出くわしたらただウザいだけの魔物と思われている。

 

「また絡まれてもつまらん。さっさと帰るか」

 

 依頼の花も無事だったので急ぎ気味で帰る事にした。

 幸いにも以前のようにフォレストエイプが追い掛けてくる事は無く無事に町まで戻って来れた。ギルドへ真っ直ぐ向かい受付で依頼達成を報告し依頼品を渡した。報酬の入った袋を受け取り空いている席に座って中を確認する。

 

「今回の報酬。銅貨は無し。銀貨がひぃ、ふぅ、みぃ…六枚。600リクルか。まあまあだな。うーん…まだ時間はあるけど、少し疲れたしなあ…情報収集でもするか」

 

 ギルド内の一部屋に魔物の行動、他の町の状況など様々な情報が置かれている。他の町では公開していなかったりするがターエルではハンターに限り可能な限り公開している。シリウスは他の町の状況が書かれた紙を適当に取り、空いている席に座って読み始めた。ポラリスをあやしながら情報を頭に叩き込んでいき、読み終わったらまた別の紙を取り読み始めている。時々休憩がてらポラリスと戯れてリフレッシュしてまた別の紙を取って読み続けた。

 情報収集は基本とシリウスは思っており、他のハンター達も時々この部屋に来て読んでいく事はあるがシリウスほど熱心に読む者はそういない。どこまでも熱心で真剣なシリウスに先輩のハンター達は感心し、同期は負けるかと奮起し、後輩はあんな風になりたいと憧れを持っている。そんな風に思われている事に全く気づいていないシリウスは夕方まで情報収集をし続けた。

 

「今日はこんぐらいにしとくか。近場の事も色々分かったし」

 

 大きく伸びをして凝り固まった身体を解し、ポラリスを抱いて宿屋へ帰る事にした。夕食を取り部屋でポラリスと遊んでから眠った。

 

翌日、日課を終えて再びギルドを訪れたシリウス。壁に貼られた依頼の前に立ち吟味している。

 

「昨日は疲れたからさっさと帰ったが今回は少し粘ってみるか。さーて、どれにするか…」

「これなんてどう?〈希少植物の採取〉」

「いやリヤンちゃん。それ私達じゃまだできないよ」

 

 いつの間にかリヤンとミーリが横にいて受ける依頼を一緒に選んでいた。

 

「…何でお前達も来る事になってんだ?」

「いいじゃないのよ別に。三人でやった方が効率いいでしょ?」

「いやあ、別に…」

「何でよ!?」

「うーん…あ!これとかどうかな?」

 

 シリウスがリヤンで遊んでいたらミーリが一つの依頼を持ってきた。依頼は〈薬草採取〉と普通の採取系の依頼だが薬草の数が多かった。

 

「何々?〈先のゴブリン防衛戦でポーションを無償で渡したおかげで在庫が乏しいので材料を持ってきて欲しい。多ければ多いほど構わない。その分の追加報酬も約束する〉か。取れば取るほど報酬が増えるのか」

「いいわねそれ!それにしましょう!」

「えぇ…やっぱついてくんの…?」

「何でそんなに嫌そうなのよ!?」

「だって、ねぇ…魔物が出てきたらまた突っ込むんでしょ?それでまた私が尻拭いするんでしょ?」

「ふぐぅ…!」

「あー、んー…ゴメン、リヤンちゃん。何も言えないや…」

「うぐぐ…!事実だから何も言い返せない…!」

 

 言葉という目に見えない刃がリヤンに刺さっていく。いつもの元気が無くなり凹んでしまったリヤンを見てミーリが何かを訴えるようにシリウスを見る。

 

「はぁ~…魔物を見ても突っ込まない。私の言う事を聞く。それなら連れていってもいいぞ」

「ぐぬぬ…!分かったわよ!」

「復唱しろ復唱」

「んぐぅ…!魔物を見ても突っ込まない!シリウスの言う事を聞く!」

「よろしい。で、ミーリも付いてくるんだよな?」

「うん!」

「なんて清々しい笑顔。はぁ~、分かった分かった。じゃあ三人でその依頼を受けよう」

 

 色々あったが結局三人で〈薬草採取〉の依頼を受ける事になった。依頼の紙を受付に渡し三人でギルドを出た。途中で市場に寄って追加の袋を各自購入した。三人とも取れるだけ取る気満々だった。

 町を出て森へ向かいしばらく歩くと薬草の群生地に辿り着いた。

 

「よーし!取りまくるわよ!」

「全部取るなよ」

「うん分かった」

 

 三人で薬草を引き抜いて次々と回収していった。ある程度取った後、次の群生地へ向かいそこでまた回収していく。五回目の場所替えで森の奥までやってきて、袋は予備も含めてパンパンになった。

 

「流石にもう取れんな。よし、帰るか」

「そうだね。これぐらい合ったら十分だよね」

「ふっふーん♪大量大量♪」

 

 依頼された数を遥かに超えるぐらい取ったのでかなりの追加報酬が期待できる。リヤンは笑顔を隠さず、ミーリは普段よりも笑顔が明るく、シリウスはいつもと変わらず。それどころか森の奥に鋭い視線を向けており、何かに警戒していた。

 

「シリウスちゃん?どうしたの?」

「シリウス?」

 

 燥いでいた二人は様子のおかしいシリウスに声を掛ける。シリウスは返事を返さずただ森の奥を睨んでいる。

 

「(何だ?何かに見られてるような…敵意っぽいのもあるな。昨日の猿が見つかったか?それの報復だとしても随分距離があるような…様子を窺ってる?…ん?増えた?音も僅かだが聞こえる…ヤバそうだ)…二人とも急いでここから離れるぞ」

「「え?」」

「いいから、急げ。でも走るなよ」

 

 シリウスの真剣な表情に二人はヤバイ状況と知り素直に従った。帰り道を無言で早歩きで歩いているが、シリウスが感じ取った気配はドンドンと近づいてくる。

 

「(マズいな。こっちを囲むように動いてやがる)しゃあない!二人とも走れ!」

 

 シリウスが叫ぶと同時に走り出し二人も走り出した。最早隠れる事もせず感じていた気配が大きく動き出した。

 

「「「「「ムギャアアアァァァ!!」」」」」

「フォレストエイプ!?」

「あんなにいっぱいいるなんて!?」

「ちっ!とにかく走れ!」

 

 十数体はいるフォレストエイプの群れが三人を囲むように木の上を飛んで移動している。今はまだ囲まれていないがどう考えても町に着く前に囲まれてしまう。

 

「くっそ!とにかく町の近くまで何とか移動するぞ!」

 

 楽観的だが町の近くまで行けば他のハンターが気づいて応援に来てくれると思い走っている。三人は懸命に走ったが遂に先回りされて前方を塞ぐように三体のフォレストエイプが下りてきた。後ろからも迫ってきており完全に包囲されるのも時間の問題だった。

 

「ミーリは魔法!リヤン!とにかく数を減らすぞ!囲まれたら終わりだ!」

「わ、分かった!」

「ええい!やってやるわよ!」

 

 ミーリは魔法を準備し始め、シリウスとリヤンは小剣を抜き走り出した。

 

「「「ムギャア!」」」

「うるせえ!このクソ猿が!」

「ギャア!?」

「口悪っ!?口が悪いわよシリウス!」

 

 初めて見た時からフォレストエイプの顔が気に食わないシリウスは罵倒しながらフォレストエイプを斬りつけた。リヤンはシリウスの暴言にビックリしつつ殴りかかってきたフォレストエイプを避けながら斬りつけている。

 

「【マジックボルト】!」

 

 ミーリはリヤンの後ろから迫っていた一体に魔法を放った。魔法の接近に気づくのが遅れてそのまま直撃し、フォレストエイプは倒れた。仲間が倒されて一瞬固まった残りの二体だったが、その一瞬が命取りになった。隙を見逃さなかったシリウスと偶々斬りかかったリヤンがそれぞれ斬りつけて倒した。二体のフォレストエイプが地面に倒れた所で残りのフォレストエイプが集まった。どのフォレストエイプも仲間をやられて怒りに満ちており、牙を剥いて威嚇している。すぐに襲ってこないのは指示が無いからだ。

 後ろから身体が二回りほど大きいフォレストエイプのボスがゆっくり出てきた。蓄えた髭と所々に傷がある歴戦の猛者という印象があり、シリウス達を見る目にも侮りは一切無い。己の縄張りを荒し、部下も手に掛けた不届き者を睨みつけ殺意を高めていく。

 

「ヒィ…!」

「あ、あああ…!」

 

 リヤンとミーリはボスの出す殺気にあっさりと飲まれ恐怖に蝕まれている。シリウスだけは負けじと睨み返しているがボス抜きに考えてもあまりにも分が悪過ぎた。必死に思考を巡らせているがどう考えても詰み一歩手前だ。小剣を握る手に汗が流れ、ポラリスを抱く腕にも力が入る。

 

「(いざとなれば特攻して二人とポラリスを逃がすしかないか…!だが)最後まで諦めてたまるかっ…!」

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。