転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第三十六話

 

 フォレストエイプのボスとの一騎討ちで辛くも勝利したが重傷を負い気を失ったシリウスは、助けにきたハンターに背負われて町に戻ってきた。

 

「おうお帰り。どうd、って!?どうしたんだ!?」

「わりい!後でな!」

「急患だ!どいてくれ!」

 

 門番はハンターに背負われたシリウスを見て驚いているが、説明する時間すら惜しいのでそのまま駆け抜けた。余裕の無い表情で全力で走るハンター達に通りにいる人達は何事かと皆見ている。ハンター達は大急ぎで大通りを駆け抜けギルドの横にある病院に入った。

 

「急患だ!」

「!!こちらに!」

 

 受付に座っていた病院の職員が即座に対応して奥へ通された。声を聞いて既に準備を始めていた医者が気絶しているシリウスを診察する。

 

「腕が酷い…それに、腹も殴られてるな。ん?これは…肋骨も折れてる。すぐに治療を始める」

「皆さんは部屋から出てください」

「先生!頼むぞ!」

 

 後の事を頼みハンター達はロビーに戻った。

 

「シリウスは!?」

「シリウスちゃんは大丈夫なんですか!?」

「落ち着け。今、先生が治療してる」

「この病院の先生の腕はピカ一さ。だからきっと大丈夫さ」

「もう俺達に出来る事は無いな。後は先生を信じよう」

「ま~…ふえええぇぇぇ…」

「ポラリスちゃん…」

 

 病院に来るまでずっと泣き続けているポラリスはシリウスのいる方に向かってずっと手を伸ばしている。抱いているミーリは優しく抱き締めているがポラリスは泣き止まずずっと手を伸ばしていた。その痛々しい姿に誰もが沈痛な表情をする。

 

「はぁー、こればっかりはな…」

「先生よー、早く治してくれよー…」

 

 その場にいる者では誰もポラリスを泣き止ませる事ができずシリウスが戻ってくるのを待つ事しかできなかった。ポラリスの泣く声しか聞こえないロビーで待つ事数十分、奥の処置室から医者がでてきた。

 

「!!先生!どうだった!?」

「嬢ちゃんは無事か!?」

「シリウスは!?」

「大丈夫なんですか!?」

「お、落ち着け。まずあの子は無事だ、生きてる。治療も概ね終わった。安静にしてれば完治する」

 

 医者の言葉にその場にいた全員が胸を撫で下ろした。

 

「よかった、よ"か"った"よ"お"お"お"ぉぉぉ」

「ふえええぇぇぇ…よかったよー」

「はぁー…良かった」

「あの怪我を見たら、もしかしたらって思っちまったもんな」

「無事なら何でもいい。とにかく良かった」

「今はまだ寝てるが…まあそこの赤ん坊ぐらいなら一緒にいても構わない」

「おっ?良かったな、早くママの所に連れていってやんな」

「ぐすん…そ、そうですね」

 

 ミーリは泣いているポラリスを抱いて処置室に向かった。処置室のベッドの上に病院着に着替えさせられたシリウスが眠っている。両腕は包帯が巻かれ動かないように頑丈に固定されており、病院着の下も包帯だらけだ。

 痛ましい姿に言葉を失うミーリ、付いてきたリヤンもショックを受けた表情をしている。

 

「ふえええぇぇぇ…ま~…」

 

 ポラリスが眠るシリウスに手を伸ばしているのでミーリはシリウスの傍に置いてあげた。

 

「ま~…ま~…」

 

 ポラリスはシリウスの顔や身体を触ったり叩いたりして起こそうとしている。

 

「―――…っ」

 

 我が子の呼ぶ声が聞こえたのかシリウスの手が僅かに動き、目が薄っすらとだが開いた。

 

「シリウスちゃん!」

「シリウス!」

 

 起きたシリウスを心配して駆け寄るリヤンとミーリだが、シリウスは二人の声に反応せずすぐ傍にいるポラリスに視線を向けた。

 

「ポ、ラリ、ス…ぐぅっ…!」

「ま~…」

 

 泣いた跡が残っていて涙目なポラリスを抱き締めようとするが腕に痛みが走り身体も力が入らなかった。ならばと頭を何とか動かしてポラリスに近づくとポラリスの方から頭に抱き着いてきた。

 

「ま~…」

「大、丈夫、大丈、夫…」

 

 消え入りそうな声でポラリスをあやすシリウス。今まで見た事が無いシリウスの弱々しい姿にリヤンとミーリは言葉も出なかった。

 二人が見てきたシリウスは誰よりも堂々としていて、誰よりも細かい所にも気づく、口には出さないが自分達にとって憧れだった。そのシリウスがここまでボロボロになって今にも消え入りそうな声を出す姿になるなんて想像だにしなかった。

 何故こうなったのか?簡単だ。自分達が弱かったからだ。

 自分達が弱かったからシリウスが一人で戦い、そして傷ついた。自分達が何もできなかったからシリウスが一人でやり、そして倒れた。もし自分達も戦えたら。もし自分達に何かできたら。そんなIFばかり頭を過ぎる。

 ずっと泣いていたポラリスはシリウスに抱き着いて安心したのかそのまま眠った。幾分か寝顔も穏やかになったのでシリウスも少し安心して眠りたかったが、まだやらなければならない事が残っていた。

 

「「…」」

 

 後悔に満ちて泣きそうな顔をしているリヤンとミーリ。二人をどうにかしないと寝るに寝れなかった。

 

「はぁ…次、は、一緒に、やる、ぞ…」

「「!!」」

 

 気にするなとか安易な言葉は掛けず次は一緒にやるぞと励ました。見捨てられるかもと思っていた二人にとってその言葉は救いだった。

 

「~~~!!つ、次は!シリウスの出番なんて無いから!私一人で全部片づけちゃうから!見てなさいよ!」

「し、シリウスちゃん!わた、私も!頑張るから!シリウスちゃんの足を引っ張らないぐらい頑張るから!」

 

 シリウスに発破を掛けられ涙を流しながらも力強く宣言した。

 二人の前向きな表情を見たシリウスは口角を上げて軽く頷いた後目を閉じた。涙を拭いた二人は処置室を後にした。

 

「…お?やっと出てきたな」

「随分いい顔になってるじゃねえか」

「へへっ。頑張れよお前ら」

「え!?ま、まさか…」

「そりゃおめえ、ドア一枚だけなんだし声もデカかったからな。丸聞こえだったぞ」

「やれやれ…そういうのは病院でして欲しくないんだけどな」

「あ、あばばばば…!?」

「は、はわわわわ…!?」

「あーあ、バグっちゃったよ」

「ハッハッハッハ!今日はいい酒が飲めそうだぜ!」

「ヴァレットにも言っとかなくちゃな。教導をキツクしてやってくれって」

「「それは止めて!?」」

「「「「「ハッハッハッハ!!」」」」」

「病院だから静かに、って聞いてないな…」

 

 医者が溜め息を吐いているがそれに気づかずハンター達は笑っていた。

 一方、森の中では逃げ出したフォレストエイプ達を追いかけていたハンター達がある程度退治し終えて帰路についていた。

 

「何体か逃がしちまったな…」

「しょうがねえよ。数が数だしな」

「まあ、あの数じゃ大した事は出来ねえよ」

「森の奥でひっそり暮らすだろうからしばらくは安心だな」

「にしてもよー、あの嬢ちゃん、ヤベエな」

「ああ。チラッと見たけどボスを一人で倒したっぽいんだろ?」

「ボスって…おいおい!?五級が十人ぐらいで組んでも返り討ちに合ったっていうあのボス猿か!?」

「そのボス猿だ」

「は?つまり、あの嬢ちゃんは、五級のハンター十人を返り討ちにするヤバイボス猿を一人で倒したって事か?」

「しかも六級でな」

「…ヤバくね?」

「ああ、ヤバいな」

「ヤバイ」

「ヤバすぎだろ」

「お前ら…ヤバイ以外に無いのかよ…」

「じゃあお前は何かあるのかよ?」

「……ヤバいな」

「だろ?」

 

 シリウスの評価。ヤバイ。以上。シリウスが聞いたら何とも言えない表情をする評価を付けられていた。

 だが彼らがそう評価するのも致し方が無い事だ。

 シリウスが倒したボスはここ数年、ターエル周辺の森に君臨しここら一帯を支配していた。魔物のトップに君臨し徐々にではあるが支配領域を広げておりハンターとも激しい攻防を繰り広げていた。部下はハンターでも倒せるがボスが出てくると全て返り討ちに合い被害が増えていった。唯一ヴァレットが仲間と共に策を練り、装備を整えて挑み、ボスに手傷を負わせて退けた事があるが、それでもヴァレット達は全治一ヵ月ほどの重傷を負った。

 シリウスが勝てたのは後ろではなく前に出た事、そして運だ。少しでも臆して後ろに下がってればシリウスは死んでいた。ボスとの戦いでシリウスが取った行動はその場での最適解を引き当てており、それを引き当て続けたおかげで死なずにすんだ。もしどれか最適解を引き当てられなかったらシリウスは死んでいた。それほどボスは強く狡猾だった。

 ハンター達はシリウスの強さに驚きつつ森の中を歩いており、シリウスとボスが戦った場所まで戻ってきた。そこには死闘の跡とボスの死体が残っていた。

 

「…改めて見てもやっぱおっかねえな」

「確かにな。フォレストエイプじゃなくて違う魔物だって言われても俺は驚かんぞ」

「木を引っこ抜いて振り回したんだろ?そんな事今までやってこなかったぞ」

「そん時はそんな事しなくても余裕だったんだろう。嬢ちゃんの時は本気だったんだろうな」

「ボス猿を本気にさせる六級の嬢ちゃんって、やっぱヤベエな…」

「そうだな…」

「まあ、それは置いておいてだ。取り合えずこの死体だけでもどうにかしないとな」

「やっぱり持って帰るのか?」

「ああ。ギルドに報告もしないとだが、ボスの素材とかは嬢ちゃんのもんだからな。ちゃんと保管しておいてやんねえと」

「そろそろ他の奴らが応援に…お、来た来た」

 

 その場で待っていると荷車を引いて数人のハンターがギルドの職員を連れてやってきた。

 

「よう、悪いな。ここまで来てもらって」

「いえ、構いませんよ。これも仕事ですし。それでこちらですか…」

「ああ。フォレストエイプのボスだ」

「…報告に合った個体と特徴が一致しますね。確かに確認しました」

「さて、確認が終わった所でこいつを運びますかね」

「よーし、お前ら!集まれ!」

「手を離すなよ。一、二、三!」

「ふぬおおおぉぉぉ!」

「お、重いー!手が、手が千切れるー!」

「ふ、んばれ…!もうちょい…!」

「よーし、もうちょっと…そこ!ゆっくり下ろせー」

 

 道具も何も無いので人力でボスの巨体を荷車に乗せた。本来はその場で剥ぎ取って死体は燃やすのが一般的だが、その権利者のシリウスは重傷で治療中だし、森の中で火を使う訳にもいかないので取り合えずギルドで保管する事となり、ハンター達は荷車を引いて町に向かった。町に入りギルドへ向かう道中で道行く人は荷車に乗せられている魔物を見てギョッとしていた。

 

「ちょ、ちょっと!あれあれ!」

「ん?どうs、って!?何だあれ!?」

「うわあ…おっかねえ…」

「あんなデカいのがいたのか…知らなかった」

「聞いたところによると、さっきの大きな音ってあいつの仕業らしいよ」

「さっきの…ああ、魔物の吠える声の事か。え?あんなのが町の近くにいたって事か?」

「マジかよ…こわっ」

「一歩間違えたら町に来てたって事よね…」

「倒してくれたハンターは町の英雄だな!」

「一体誰が倒したんだろうな?」

 

 ボスを見て住民達があれこれと好き勝手に話し、一体誰が倒したのかと話し始めた。すぐにシリウスが倒した事が判明し、噂が町全体に広まるのも時間の問題だった。また尾鰭が付きシリウスが頭を抱えるような噂になるかもしれない。

 

「また噂好きのおば様達がとんでもねえ噂にしちまうかな?」

「やりそうだな。いや、やるな。間違いなく」

「あの嬢ちゃんが知ったら頭抱えるんじゃないか?」

「ハッハッハッハ!簡単に頭に浮かぶな!」

 

 色々と噂が広がる中ハンター達はギルドへと入っていった。ボスの死体はギルドの裏手にある倉庫に腐敗しないように魔法で氷漬けにされて入れられた。

 

「…それで?ギルドとしてはどう対応を取るんだ?」

 

 ギルドの受付では話を全て聞いたヴァレットが職員に問い掛けていた。

 シリウスがやってきた事、七級でゴブリン数体討伐、六級となってジャイアントアントの巣の攻略に参加しソルジャーアントを単独討伐、どちらも普通のハンターではできないしやらない事ばかりだった。そこにさらにフォレストエイプのボスの単独討伐が追加された。

 ボスの討伐はギルドからの依頼として出されていて、四級以上というラインも敷かれていた。それでも誰も受けず、受けたとしても返り討ちに合い被害が続出しており、会議では他の都市の上位ハンターの派遣を要請すべきかと議論までされていた。

 

「その、ですね…ギルドとしてもこんな事は初めてなものですから…どう対応したものかと皆頭を抱えております」

「まあ、だろうな…」

 

 職員もヴァレットもどうしたものかと頭を抱えていた。やった事は違反でも無いので処罰は無くむしろ称賛されて然るべきなのだが、前代未聞過ぎてどうしたらいいのか誰も分からなかった。

 

「取り合えず…ボス討伐の報酬を報奨金として渡すとか、後はランクを上げるとかじゃないか?」

「…それしか、ないですよね。それも前代未聞なのですが…」

 

 職員は溜め息を吐きつつもその方向で相談する事にした。奥へと入っていった職員を見送りつつヴァレットも溜め息をついている。

 

「やれやれ…嬢ちゃん、やり過ぎだ」

 

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