転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第三十七話

 

 シリウスがボスを撃破し大怪我を負ってから三日後。

 シリウスは病院のベッドの上でポラリスと戯れつつ暇を持て余していた。

 

「…暇だ。今まで毎日動いていたから余計に暇に感じる…」

「ま~」

「どうした、ポラリス~ほ~ら、むぎゅ~」

「ま~♪」

 

 ポラリスを抱き締めながらどう暇を潰そうかを考えている。

 シリウスが病院に担ぎ込まれて治療を受けて起きた後色んな人が見舞いに来てくれた。ヴァレットにミネア、マロスにコニーと二人に連れてこられたマイロ、ラトミシアに宿屋の女将まで見舞いに来てくれた。見舞いに来た人は皆無茶し過ぎだとシリウスを叱って、無事で良かったと安堵の表情をしていた。コニーは涙目になりミネアは男泣きでラトミシアはシリウスに縋り付いてさめざめと泣いた。ヴァレットからは状況的に仕方が無いとは言え無茶をし過ぎだと懇々と説教をされた。

 色んな人に心配を掛けたシリウスは反省しできるだけ無茶はしないと誓った。できるだけじゃなく絶対するなと言われたが撤回はせず状況によっては無茶する気満々だった。

 リヤンとミーリは毎日シリウスの見舞いにやってきた。シリウスとポラリスの着替えを宿屋から持ってきてくれたり、シリウスが退屈しないように色んな本を持ってきてくれたりと甲斐甲斐しく世話をしてくれた。

 入院初日と二日目は痛みも合ったので大人しくしていたが、痛みも引いてきた現在はジッとするのにも飽きてきた。

 

「シリウスちゃん、来たよー」

「怪我の具合はどうなのよ?」

「ああ、普通に動かせるしもうほとんど痛くないな。何も無ければ明日には退院だと」

「ほんと!?良かった~」

「ま~」

「ポラリス~ママは元気だよ~」

「ま~♪」

「相変わらずね…」

「ふふふ」

 

 腕に包帯が軽く巻かれているがほぼ直っているシリウスはポラリスを抱き締めて頬擦りをしている。それを呆れたように見るリヤンと微笑ましそうに見るミーリ。

 

「退院したら鍛錬しないとな。ずっと寝てたから鈍ってる」

「あんた、まだ強くなるの?」

「当たり前だ。というよりどれだけ強くなってもそれより強い奴なんてゴロゴロしてるさ」

「まあ…確かに」

「魔戦技も覚えたいんだがこの町じゃ教えられる人がいないし、使える人も教えれるほど上手くないからって断られた」

「魔戦技!使えたらカッコイイもんね!」

「なので魔法から覚えようと思う。というわけでミーリ。魔法を教えてくれ」

「ふえ!?わ、私!?で、でも私そんなに覚えてないよ~」

「覚えてる分だけでいい。ちなみにティンダーとレビテーションは覚えてるからそれ以外で頼む」

「ちょ、ちょっと!?魔法使えたの!?」

「ああ。言ってなかったか?」

「聞いてないわよ!」

「そうだったか…まあそれは置いといてだ」

「ちょっと!?」

「ミーリ、教えてくれないか?」

「い、いいけど…でも私、教えた事無いし、説明とか、下手だから…」

「大丈夫だ。私はミーリを信じてる」

「!!」

 

 自信なさげに俯くミーリにシリウスは殺し文句を言った。ミーリは顔を上げてシリウスの顔を見ている。憧れているシリウスからの信じている発言にミーリの心は燃え盛っていた。

 

「が、頑張る!私!頑張る!!」

「ミーリが、ミーリが燃えてるわ…!って!?どこに行くの!?」

 

 張り切っているミーリはそのままの勢いで病院を飛び出していった。

 

「多分、魔法の事が書かれてる本を取りに行ったんだろう。術式とかも覚える必要があるからな」

「ぐぬぬ…!私を放って先に行って…!」

「なら魔力の制御の練習をしてみたらどうだ?魔戦技は魔力を使うからどっちにしろ必要だろ?」

「はっ!?確かに!」

「まずは自分の中にある魔力を感じ取る事から始めないといけないがな。魔力は感じ取れるか?」

「全然分かんない!」

「だろうな。まあそれもミーリが持ってくる本に書かれてると思うからその時に知ればいいか」

 

 リヤンと話しながらしばらく待っているといくつかの本を持ってミーリが帰ってきた。

 

「ぜー、ひー、も、持って、ぜー、来た、よ、ひー」

「そんなに全力疾走しなくても大丈夫だぞ」

「何やってんのよあんたは…ほら、水」

「んぐっ、んぐっ…ぶはあ!」

「落ち着いたか?」

「う、うん。ありがと」

「それで、どんな本を持ってきたのよ?」

「あ、うん。えっとね、こっちは魔力制御の本で、こっちが初心者向けの魔法の本。それからこっちは下級魔法の本だよ」

「ほうほう。それはぜひとも読まねばなるまい」

「うへえ…分厚い。そして文字がビッシリ…」

「リヤンは取り合えずこの本を読みながら実践しな」

「うげえ…」

 

 シリウスから渡された分厚い本に始める前から心が折れそうになっているリヤンだった。そんなリヤンを放置してシリウスはミーリの魔法講義に集中した。

 

「ティンダーとレビテーションは覚えてるから、次はこの魔法かな。“ライト”。明かりをともす魔法だよ」

 

 ライトは明かりとなる光を作る魔法だ。ティンダー同様、危険性はほぼ無いので初心者向けの魔法だ。

 

「えっと、これが術式だよ」

 

 外側から四角、四角の中に九十度ずらした四角とまだまだ初心者に優しい術式である。

 

「ふぅー、よし、やるか」

 

 シリウスは手を前に出して集中し出した。

 

「(術式…よし。イメージ…よし。魔力…よし)【ライト】」

 

 シリウスの掌に魔法陣が一瞬出た後、光の球が出てきた。光の球は淡く光っており光源としてはやや頼りない光を放っている。シリウスが徐々に魔力を込めると光が強くなり直視すると眩しく感じるぐらいまでになった。

 

「はわ~!すご~い!一回でできるなんて思わなかったよ!」

「そうか?術式も簡単だしイメージもしやすいから簡単だろ?」

「そんな事無いよ!できない人は中々できないんだよ!…ちなみに私です」

「あ…ごめん」

 

 前半はテンション高く喋っていたが後半は消え入りそうな声で自白した。居たたまれなくなったシリウスは思わず謝罪した。何とも言えない空気となったがそれは長くは続かなかった。

 

「…うわーん!全然分かんなーい!」

 

 元々勉強などが得意ではないリヤンが早々に投げ出した。

 

「んんっ。取り合えずミーリはリヤンを手伝ってやってくれ。私はこっちを読んでるから」

「あ、うん。分かった」

 

 ミーリはリヤンを教えるために少し離れ、シリウスはミーリが持ってきた初心者向けの魔法の本を読み始めた。大体はセレムに教えられた事が書かれていたが復習がてらそのまま読んでいる。

 

「(復習は大事だしな。それに読んでても飽きないし)」

「リヤンちゃん、これはね…」

「ひーん、もうやだー」

「もう…ほら頑張って。魔戦技を使うには魔力が無いと使えないよ」

「うわーん」

「あーあー、泣いちゃってまあ…ほーら、頑張れー」

「もっとちゃんと応援しろー」

「ここで頑張らないと強くなんてなれんぞー」

「ちくしょー!」

 

 シリウスの投げやりな応援に文句を言いつつ再び勉強を始めた。シリウスはティンダーやレビテーションの魔法を効率良く且つ素早くできるように使っては消しを繰り返している。時折ライトの魔法も使い魔力が体感で半分を切るまで練習した。その後は夕方までポラリスをあやしつつ本を読み進めたり、ミーリを手伝ってリヤンの勉強を見たりした。

 

「今日はこれで終わりだな」

「そうだね」

「きゅー…」

「リヤンもこの様だからな」

「あ、あはは…じゃあ、また来るね」

「ああ、気を付けてな」

「うん。ほらリヤンちゃん、帰るよ」

 

 ミーリは頭から煙を出しているリヤンを引き摺るように帰っていった。二人が帰った後もシリウスは夕食の時間まで読書を進めた。病院特有の味の薄い夕食を取った後はポラリスと遊び、母娘仲良く寄り添って眠った。

 

「…ふむ、腫れも引いた。どこか痛い所は無いかい?」

「いえ、無いです」

「よし、これで完治だ。退院しても大丈夫だよ」

「ありがとうございました」

「お大事に」

 

 翌日、医者の診察を受けて念願叶って退院する事ができた。数日だけとはいえ何もせずベッドの上にいるのは性に合わなかったのでようやく退院できて内心晴れ晴れとしている。着替え等が入った荷物を持ってポラリスを抱いて病院を出た。

 

「あ、シリウスちゃん!」

「退院できたのね!?」

「ああ、もうすっかり良くなった」

「良かった~」

「もうあんな事止めてよね。心臓に悪いわ」

「善処する」

「…それって止めないって事よね。前に聞いた事があるわ」

「もう!シリウスちゃんダメ!絶対ダメ!」

「善処する」

「もー!」

 

 リヤンとミーリがいくら言っても善処するとしか言わないシリウス。もちろん今回のような事が起きないように動くつもりだが、同じような場面に出くわせば躊躇無く今回と同じように動くつもりだ。ミーリの小言を聞こえない振りをしながら宿屋へと向かった。二人と共に宿屋に入るとちょうど女将が受付にいた。

 

「嬢ちゃんじゃないかい!?もう動いても大丈夫なのかい!?」

「はい、ご心配をおかけしました。もう大丈夫です」

「そうかい良かったよ。なら、今夜はご馳走しないとね!楽しみにしておくれよ!」

「いやいやいや、そこまでしなくてもいいですって。いや、あの、ちょっと!?」

 

 シリウスの言葉を最後まで聞くことなく女将は厨房へ入っていってしまった。今から料理の仕込みをするのだろうが出てくる料理がとんでもない量になりそうな予感がする。

 

「リヤン、ミーリ。悪いが手伝ってくれ。多分、夕食食いきれないかもしれん」

「そ、そんなに出てくるの?」

「そこの三人掛けのテーブルがいっぱいになるぐらい出てきても私は驚かんぞ」

「んー、まあいいけど。タダで食べられるなんてお得ね!」

「おい」

 

 リヤンの発言に突っ込みつつシリウスは部屋に入り荷物を置いた。数日ぶりの部屋だが女将が掃除してくれたのだろうか、綺麗に保たれていた。宿屋を出た後、退院した事を報告するためにギルドへ向かった。

 大通りを歩いていると道行く人から視線を感じ、シリウスは横目で見ると何故か自分を指差してヒソヒソと話していた。

 

「…何故か視線を感じるんだが?」

「あー、それは…」

「うーんと、えへへ…」

 

 リヤンとミーリに聞いても曖昧に笑うだけで答えてくれなかった。きっとろくでもない噂が広がっていると悟り何とも言えない表情になったシリウス。そのままの空気でギルドに着いた一行。

 

「…ん?あ!?嬢ちゃんが来た!」

「え!?」

「なにぃ!?」

「もう大丈夫なのか!?」

「うぇ!?ちょ、ま、あばばばば!?」

 

 ギルドに入った瞬間、ハンター達に詰め寄られて取り囲まれた。矢継ぎ早に無事を確かめられてプチパニックになっている。ヴァレットなど見舞いに行った者達から無事だと聞いてはいたがそれでも心配になっていた者もそれなりにいた。

 

「あーあー」

「やっぱりこうなったね…」

「おいおい、お前ら落ち着け。嬢ちゃんが目を回してるぞ。それにそろそろ…」

「ふえええぇぇぇ…」

「赤ん坊が泣く、って遅かったか」

 

 ヴァレットが止める前にポラリスが泣き始めてしまい詰めよっていたハンター達は我に返った。

 

「よしよし。ポラリス、大丈夫だよ」

「あ、ごめん」

「またやっちまった…」

「だから言っただろ…」

「それもっと早く言えよ」

 

 シリウスがポラリスを泣き止ましている間にハンター達はいつも通りの空気に戻った。

 

「それにしても無事で良かったな」

「ほんとほんと。グッタリした姿を見て私、泣きそうになっちゃったもの」

「あんな無茶はもうするなよ」

「善処します」

「あ、これ聞かないパターンだ」

「お前なぁ…」

「善処します」

 

 ヴァレットや他のハンター達が言ってもシリウスの心は変わらなかった。実際シリウスの考えている事も理解はできるがそれでも無茶は止めて欲しかった。

 

「やれやれ…まあいい。良くは無いがとりあえず横に置いておこう。嬢ちゃんが倒したボスだが裏の倉庫で預かってもらってるぞ。多分要請すれば剥ぎ取りもしてくれるはずだ」

「剥ぎ取りもしてくれるんですか?」

「現場では自分達でするが、今回のように持って帰った場合は多少金は掛かるがしてくれるぞ。今回は特別でタダでやってくれるそうだ」

「そうですか。それならお願いしようかな」

「案内しよう。こっちだ」

 

 ヴァレットに付いていきギルドの裏手の倉庫に入っていった。中には氷漬けにされたボスの死骸と職員が数名と魔法使いが一人いた。

 

「ああ、シリウスさん。ご無事で何よりです」

「どうも。預かっていただきありがとうございます。剥ぎ取りもしてくれると伺ったのですが」

「ええ。本来なら料金が発生しますが今回は特別に無料でやらせていただきます」

「ではお願いします。後学のために見学しても?」

「もちろん構いませんよ」

 

 シリウスに対応した職員がハンターに目配せをすると魔法使いが杖を振るって氷を溶かした。他の職員がボスに近寄り解体用のナイフで剥ぎ取りを始めた。皮を剥ぎ取り、牙を抜き、爪を取る。淀みなく流れるように解体されていきあっという間に終わった。

 

「おお…凄いですね」

「ありがとうございます。剥ぎ取った素材は綺麗に洗浄した後にお渡しします。それともう一つ、お伝えしたい事がございますのでこちらへ来ていただけますでしょうか?」

「ええ、構いませんよ」

 

 職員の後に付いていきヴァレットと共にギルド内の一部屋に連れられた。部屋には椅子とテーブルがありテーブルの上には書類と袋が置かれていた。

 

「どうぞお座りください。まずはフォレストエイプのボスの討伐、おめでとうございます」

「ありがとうございます」

「ボスには我々も対処に苦慮しておりまして、他の町に応援を要請すべきかと議論するほどでした。今回シリウスさんのお陰でハンターの皆さんや町の安全も飛躍的に向上しました。ですが同時に問題もできまして…」

「何かあったんですか?」

「はい。実はボスの討伐は四級以上限定の依頼でして。今回は不意に遭遇したので違反等は無い事は早々に決まったのですが…何分六級の方が成し遂げるとは誰も予想だにしておりませんでしたのでどう対応したものかと…」

「あー…何かすいません」

「いえいえ、シリウスさんには何の落ち度もございません。今回はギルド長や他の者らと相談した結果をお話しさせていただこうとお招きいたしました」

 

 職員はテーブルの上に置かれた袋をシリウスの前に置いた。

 

「まずはこちらを。ボス討伐の依頼の報酬でございます。依頼は受けておられませんが討伐しましたので渡すべきと判断しました」

「ありがたいんですけど…本当にいいんですか?」

「勿論です」

 

 シリウスはかなりの額が入っているであろう袋を内心おっかなびっくりしながら受け取った。

 

「それともう一点。シリウスさんのランクを六級から五級に上げる事が決定いたしました」

「え"?ま、また上がるんですか?ボス猿倒しただけですよ?」

「そのボス猿はランクを上げるほどの相手だったのさ」

「ヴァレットさんの言う通り。今まで五級のハンターの方が幾人も犠牲になられました。討伐された方には莫大な報酬とランクを上げる事が決まっていました。こちらがボス討伐の依頼書です」

「えーっと、〈ボス討伐の暁には討伐に関わった全てのハンターのランクを上げる〉。た、確かに書いてますね。後、報酬の桁がヤバイ事に…」

 

 職員がシリウスに差し出した依頼書には40000リクルの報酬が書かれていた。

 

「そんだけボス猿はヤバイって事だよ。お前さん、自分がやった事がどれだけあり得ない事かいい加減理解しろ」

「ちなみに報酬の方は少し増額されておりまして、45000リクル入っております。増額分は我々の感謝の気持ちですのでお気になさらず」

「………」

 

 シリウスは完全に固まってしまいポラリスがペチペチ叩いても中々戻ってこなかった。

「あーあー、固まっちまった」

「うーん、こちらの書類にサインをいただこうと思ったのですが」

 

 職員の持つ書類は昇級に関する書類だ。サインする事で晴れてシリウスは五級となる。

 ハンター史上最速の記録であり恐らくこれから破られる事の無い記録となる事間違いなしだった。

 

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