転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第三十九話

 

 宴会から数日経った森の中。

 シリウスは現在森の幸の採取をするための護衛の依頼を受けている。

 

「ハアッ!」

 

 シリウスは気迫の篭った掛け声と共に剣を振るった。

 

「ピギュ!?」

 

 ジャイアントキャピラーは頭部を真っ二つに切り裂かれて倒れ、シリウスは剣を振るって血を飛ばした。

 

「よし。大分この剣にも慣れてきたな」

 

 シリウスが持っている剣は以前鍛冶屋に製作を依頼したソルジャーアントの牙の剣だ。直剣のように真っ直ぐではなく逆に反っている曲剣のような形状だ。長さも重さもショートソードよりあり受け取った当初は上手く振るえなかったが、日課の鍛錬以外でも振るい続けた結果片手で振るえるようになった。

 

「この篭手も思ってたより重くないし、剣を振るうのにも邪魔にならないし良い事尽くめだな」

 

 右腕にはソルジャーアントの甲殻で作られた篭手が付いている。シリウスが想定していたよりも軽く腕を動かすのにも違和感は無かった。少し前にはぐれのフォレストエイプ一体と戦った時に殴りかかってきたので篭手で受け止めてみても凹んだり歪んだりする事も無く、逆にフォレストエイプの方が痛がっていた。シリウスの腕にも多少は衝撃が伝わったが十分許容範囲内だった。

 ちなみに掛かった費用は剣が4000リクル、篭手が2000リクルの合計6000リクルだった。

 

「お、終わりましたか?」

「ええ。もう大丈夫ですよ」

 

 モンスターが現れてから木の陰に隠れていた依頼主である恰幅の良い中年男性がおっかなびっくり出てきた。はぐれのフォレストエイプと遭遇し倒した後に木の上から落ちてきたジャイアントキャピラーを倒したところだ。普段ならリヤンとミーリもいるのだが二人はヴァレットの座学の教導のため不在で今回はシリウス一人だ。難易度的にもシリウス一人で大丈夫そうだったのでそのまま依頼を受けた。

 

「いやあ、助かりましたよ。少し前までゴブリンとかジャイアントアントとかがいたので中々取りに来れなかったのですよ。ハンターさんのおかげです」

「いえいえ」

 

 周囲を警戒しつつ依頼主の採取を後学のために観察しながら会話を楽しんでいる。

 

「それにしても子連れでハンターとは…中々大変では?」

「まあ、そう思う時もありますがもう慣れました。それに預けれそうな人達も忙しそうですし、何よりこの子が離れたがらないので」

「ま~」

 

 甘えるようにシリウスに手を伸ばすポラリスの頭を優しく撫でてあげるシリウス。母娘の仲睦まじい様子を見てほっこりする依頼主。その後は時折シリウスが採り方のコツなどを聞いたりしながら採取が続けられた。依頼主の持つ背負い籠が一杯になった辺りで町に戻る事になった。

 

「いやあ、今日は本当にありがとうございました。これでしばらくは採取に行かずに済みそうです」

「いえ、これも仕事ですから」

「少しですけど良かったらどうぞ。本当にありがとうございました」

 

 本当に助かったらしく終始ニコニコしていた依頼主から甘酸っぱい木の実が入った小袋を貰った後別れてギルドへ依頼達成の報告に向かった。受付にいた職員に依頼主からサインを貰った半紙を渡して報酬を受け取った。

 

「今日の報酬。銅貨は無し。銀貨がひぃ、ふぅ、みぃ…十枚。1000リクル。意外と多かったな」

 

 特に苦戦するような場面に合わずに済んだが、この依頼が出された時期はまだゴブリンやジャイアントアントがいた時期だったので報酬は高めに設定されていた。平時ならば700~800リクルほどとなる。シリウスは貰った木の実を摘まみながらこれからどうするかを考えている。

 

「(どうすっかな~…あ、そうだ。ボス猿の毛皮の事をミネアさんに相談しよう。後ナイフの方も依頼しとくか)」

 

 ボスの毛皮はどこに使おうかと悩んでいて部屋に置きっぱなしにされている。本職に聞けばアドバイスをくれるはずと思い早速部屋に戻り素材を持ってミネアの店に向かった。道中ですれ違う人達から気軽に挨拶されシリウスはすっかり町の人気者になっていた。

 

「ミネアさーん、いますかー?」

「あらシリウスちゃん!いらっしゃい!」

 

 店に入るとミネアが受付で売り上げを数えていた。ジロジロと見るのも失礼と思いシリウスはすぐに視線を切ったがチラッと見えただけだが金貨が数十枚ほど見えた。

 

「(結構稼げるんだな…いや、素材代で大半消えるか)今日はちょっと相談がありまして」

「あら、いいわよ。私で良かったら力になるわ」

 

 ミネアは売り上げを袋に入れて受付の下に置いた。

 

「実はこれなんですけど…」

「あらいい素材!ふむふむ…表面は硬いけど柔軟性はあるわね…ちょーっと通気性は悪いけど防具として見るなら許容範囲内ね」

「予想以上の高評価。これで防具を作りたいと思ってるんですけど、どの部分にしようか迷っていて…ヴァレットさんは左腕はどうかって言ってたんですけど」

「うーん、そうねえ…大きさは十分…この辺をこう…ここはああして…」

 

 ミネアは真剣な表情で広げた素材を手にブツブツと呟きながら考えている。時々シリウスの身体に合わせるようにしたり、メジャーで長さを緻密に測ったりしている。

 

「…うん。これならいけるわね。私だったら上着にするわ」

「上着ですか?」

「ええ…こんな感じね」

 

 ミネアは紙に完成予想図を描いて見せてくれた。そこには現代で言う半袖のベストが描かれていた。

 

「おお…こんな感じになるんですか…」

「ええ。この大きさなら上半身を覆えるぐらいあるから左腕だけなんて勿体無いわ。でも余ったら左腕の分もできそうね。どうする?」

「…ちなみにいくらぐらい掛かりそうですか?」

「うーん、大部分の素材は持ち込みだから…裏地に通気性のいい素材を使って…3000リクルぐらいかしらね」

「…よし。これで製作をお願いします」

「任せてちょうだい!そうね…今は特に急ぎの仕事は無いから五日もあればできると思うわ」

「分かりました。お願いします」

 

 シリウスはミネアに素材を預けて店を後にした。

 

「後は鍛冶屋だな」

 

 ボス猿の爪で予備のナイフを作ってもらうために鍛冶屋へ向かった。

 

「失礼します」

「ああ?…またお前か。今度は何だ?」

「この素材で予備のナイフを作って欲しいんですけど」

「ふんっ、見せてみろ…強度は十分。研磨すれば鋭くなるな。ふん、いいだろう。三日後に来い」

「お願いします。それと武器防具の手入れの道具が欲しいんですけど、ここで売ってますか?」

「ああ?…ちっ、ちょっと待ってろ」

 

 鍛冶屋の店主は舌打ちしながら奥へと向かった。筋骨隆々で強面の店主がする舌打ちは初見の人が見ればかなりビビるがシリウスは特に何も感じなかった。不機嫌そうなのと口が悪いのがデフォルトな不器用な職人だと理解しているからだ。

 

「ほらよ。やり方は他の奴らから教わるんだな。それを持ってさっさと失せろ」

「お代は?」

「ナイフの時にまとめて請求する。さっさと行け」

 

 武器防具の手入れをする道具が入った箱を渡されて店から追い出された。

 

「これで素材はオッケーっと。後は野営の道具と魔具だな。魔具は後で買うとして野営の道具はどうすっかなー」

 

 歩きながら野営の道具を買うかどうかを悩んでいるシリウスだが、悩んでいても仕方が無いので取り合えず店へと向かった。店に入るとハンターらしき客が数人いて商品を物色していた。チラッと見た後シリウスも商品を物色し始めた。

 

「やっぱ高いな…うーん」

「ん?あ、嬢ちゃんだ」

「ああ?おお、本当だ」

「あ、どうも」

 

 聞き覚えのある声に振り向いた一人のハンターがシリウスに気が付いた。シリウスも何度か話した事のあるハンターだったので挨拶した。

 

「どうしたんだ、こんな所で?」

「野営の道具を買おうと考えていたんですが、どれも高いし色々あってどれにしようか迷ってまして」

「分かる、分かるぞ。俺も最初に買った時は相当悩んだからな」

「天幕に魔物避けだろ。それに料理器具とかもいるからな。金がいくら合っても足らねえよ」

「背負い袋も忘れてるぞ。あれが無いとマジで苦労するぞ」

「それに食料と水もいるからな。どれだけ厳選したって大荷物になるよな」

「嬢ちゃんでも持てそうでたくさん入る背負い袋は…お?これなんてどうだ?詰めたら4.5日分は入るぞ」

「天幕はこれがよくね?三人用だけど軽いし、雨とか風とかにも強いし、それでいて値段も控えめだ」

「鍋はこいつがいいぞ。頑丈だけど軽くてしかも結構量も作れるからオススメだぞ!」

「お悩みでしたらこちらはいかがでしょうお客様!こちらは鍋とフライパンとヤカンの他に蓋やヘラなど調理一式がセットになっております!しかもこのように小さく纏める事もできてオススメですよ!」

「え?あ、えっと…」

 

 次から次へとオススメを紹介してくれるハンター達にシリウスは戸惑っていた。そこに店主も売れるチャンスと見て商品を勧めてくる。戸惑いつつも勧められた商品を一つ一つ見て品質と値段を確認し時折質問したりして購入する物を選んでいった。

 

「背負い袋と天幕と料理器具セットと水袋と魔物避け。取り合えずこの五つで」

「毎度ありがとうございます!全部で10700リクルですが、今回は特別に10000リクルとさせていただきます!」

「え、いいんですか?」

「店主よ~、どうせならもっとドーンと値引こうぜ」

「もう一声!」

「いやいや勘弁してください。こっちも商売なんですよ」

「ああいや、それでいいですよ」

 

 ハンター達がもっと値引こうとしたがシリウスがそれを制止して店主に10000リクルを支払った。

 

「まずそれで野営してみて足りなかったり欲しい物が合ったら買えばいいぜ」

「食料の方はなるべく日持ちする物を選ぶといい。日持ちしない物はその日のうちに食べとけよ」

「魔物避けは袋から出して使うんだぞ。かなり臭いから天幕から離れた所に三つ、最低でも二つは置いとけよ」

「天幕を使う場所は皆が使ってる所がいいぞ。どこにも無かったらできるだけ目立たない所を使うんだぞ」

「分かりました。色々とありがとうございます」

 

 助言をくれたハンター達と別れて一度宿屋へと戻る事にした。部屋に荷物を置いた後下級魔法の本を持ってギルドへ向かった。攻撃系の魔法の術式は一応覚えたが試す機会が中々無く、ギルドへ行けば魔法が使えるハンターが誰かしらいるだろうと思い立ったためだ。ギルドにはそれなりの人数のハンターがいた。

 

「ああ~、言いたくねえな。でもなあ…はぁ…すぅ、すいません!少しいいですか!」

「おお?」

「なんだなんだ?」

「嬢ちゃんだ。どうした?」

 

 シリウスが大声を出すとハンター達が一斉に振り返った。

 

「この中で魔法が使える人がいれば是非ご教授いただきたいのですが!」

「魔法だってよ」

「お前の番だ。行ってこい」

「強制かよ…いやいいけどよ」

「魔法ならあたしも使えるから教えてあげる」

「…仕方が無い。これも後進のためだ」

 

 シリウスの頼みに数人の魔法使いが快く引き受けてくれた。

 

「すいません、無理を言って」

「あー、気にするな。どうせ暇だし」

「そうそう。それにシリウスちゃんの頼みならこれぐらい何てことないわ」

「ふん。あくまで致し方なくだ。そこは勘違いするなよ」

「そう言うわりには頼まれて嬉しそうにしてたじゃないか」

「ほんと?エルフは素直じゃないんだから」

「やかましい!そんな事実は無い!」

 

 シリウスは魔法使い達とギルドの裏手の鍛錬場へと向かった。

 

「さて、何の魔法を使いたいんだ?」

「初歩の攻撃系の魔法ですね。取り合えず術式だけは全部覚えてきたんで。ただ初めて使うんで誰かに監督してもらおうと思って」

「ほーん、攻撃系ねえ…ん?」

「それなら何の魔法がいいかな?…え?」

「まずはマジックボルトからでいいだろう…は?」

 

 魔法を教えようとしていた魔法使い達はシリウスの発言に疑問を抱いた。

 

「待て。今何と言った?」

「?誰かに監督してもらおうと」

「その前だ」

「術式だけは全部覚えてきたんで」

「「「全部!?」」」

 

 挑戦しようとした者はいたが結局覚えきれなかった初歩の攻撃魔法を全部覚えたと言ったシリウスに全員驚愕していた。

 

「いやいやいや!?え!?マジで!?」

「ほんと?ほんとのほんとに全部覚えたの?」

「はあ、多分。ちょっと危ういところもありますけど」

「…ふぅ、落ち着け。まだ慌てるような時ではない…取り合えず一通り使ってみろ。まずはそれからだ」

 

 エルフの魔法使いに言われたのでシリウスは少し離れた所に置いてある丸太に手を向けた。

 

「(術式…イメージ…魔力…)よし。【マジックボルト】」

 

 シリウスの掌から拳より少し小さい魔力の塊が放たれて丸太に直撃し、当たった箇所が削られていた。

 

「うーん。ミーリのより威力が小さい」

「…初めてやってできたのに文句言ってるよ」

「なーにこの子?天才?」

「…あー、恐らく込めた魔力が少なかったんだろう。次からは少し多めでやってみろ。では次だ」

「分かりました。すぅ、ふぅ…【ファイアーボール】」

 

 アドバイスを受けシリウスは次の魔法を唱えた。

 ファイアーボールは拳より少し大きい火の球を放つ魔法だ。初心者の魔法使いがマジックボルトの次に覚える事が多い魔法でもある。

 シリウスの掌から拳大の火球が放たれて丸太の削られた箇所に当たり丸太は二つに割れてそのまま燃え始めた。

 

「よしよし。いい感じだ」

「「「…」」」

 

 その後も水の塊を飛ばすバブルブロー、真空の刃を放つエアカッター、石を飛ばすストーンダーツ、冷気を放つコールドウインド、一本の雷を放つライトニングを次々と唱えた。途中で魔力が半分を切ったがエルフの魔法使いが無言で魔力回復の水薬を渡してきたので礼を言って飲んだ。味は何とも言えなかったが魔力は回復したのでそのまま続行した。

 

「ふぅ…これで全部だな」

「「「…」」」

「あの…?」

 

 無表情のまま無言で立つ三人にシリウスが声を掛けているが反応は無かった。

 

「…あれだけ使えて、初心者とかお前、ふざけてんのか?」

「これが才能の差か…」

「…お前に教えれる事は何も無い」

「え"っ!?何で!?」

 

 キレられたり、何故か落ち込んでいたり、呆れたように見られたりと色々と教えてもらう気満々だったシリウスだが何も無いと言われてしまい戸惑っている。もちろん三人は初心者だから教えれるところは教えようと思っていた。術式が間違っていたり、イメージがしっかりできていなかったり、魔力が足らなかったり、逆に魔力が多かったりする事が初心者によくあるミスだ。だがシリウスは教えられる事が無いぐらい完璧だった。術式を完璧に覚えて、魔力制御もほぼほぼ完璧で、イメージも前世でのアニメやゲームを想像すれば容易くできた。そんな事ができる初心者などいるはずがない。三人がキレたり、落ち込んだり、呆れたりするのは当然だった。

 シリウスが望んだ魔法講座はわずか十数分ほどで終わった。若干肩を落としたながら鍛錬場からギルドへと戻ってきた。

 

「おん?早いな。もう終わったのか?」

「ええ…何故か怒られました」

「??」

「おいおい。どういうことだ?」

「どうもこうもない。あの娘に教えられる事が無い。ただそれだけだ」

「???」

 

 よく分かっていないハンター達は機嫌が悪かったり落ち込んでいたりする魔法使いをそっとしておこうと距離を取った。

 

「…ふぅ。気を取り直してっと。武器防具の手入れのやり方、教えてもらってもいいですか?」

「おおぅ…唐突に変わったな…いやいいけどな」

「武器防具の手入れ?道具はあるのか?」

「はい、ここに」

「よしよし。それならまずはな…」

 

 復活したシリウスは他のハンター達に武器防具の手入れのやり方を教えてもらう事にした。道具の一つ一つを説明を受けて、実際に自分の剣を使って手入れを行った。シリウスは包丁のように砥石を使って磨くと思っていたが、汚れを拭き取り、欠けていたり歪んでいたりしないかを確認し、気になる箇所があれば小さな砥石で磨くという感じだった。

 

「道具が充実して腕もあるんだったら、金鎚で叩いて直したりもするけどな」

「素人がやれば折れるかもしれんからな。これぐらいの手入れでも十分さ」

「ふむふむ、なるほど」

 

 何事にも熱心かつ真剣に取り組むシリウスに自身らが知っている事を惜しげもなく教えるハンター達。

 後進がスクスクと育つのを見ると何だか嬉しく思えてくる。ヴァレットが教導を熱心にするのを理解したハンター達は自然と笑顔を零している。

 

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