「いぃっ!?つぅ~…!」
赤子をあやして泣き止ませた後、左肩の傷口を破いた服を包帯代わりにして巻いている。やった事が無く不恰好になってしまったがとりあえず応急処置はできた。
「後で綺麗にしてからちゃんと巻こう…さ~て、これからどうするかね…」
壁を背にして床に胡坐をかいて座り込み、赤子を足の上に乗せてあやしながらこれからの事を考えている。
少女が置かれている状況はかなり悪い。
見知らぬ土地に一人。頼れる人物はいない。所持品及び所持金ゼロ。赤子を抱えている。戦闘能力及び戦闘経験は無い。詰み一歩手前である。
絶望的な気分になり頭を抱える少女だが、赤子が触れてきた事でギリギリで持ち直した。
「はぁ~…なりふり構っていられないか…しゃあない、漁るか」
「う~?」
死線を乗り越えた事で色々と吹っ切れた少女は火事場泥棒をする事にした。
現代日本では犯罪行為だがここは異世界、そんな法律はないのである。
持ち主も亡くなっており所有権は宙に浮いているので持ち出しても何の問題も無い。
「まずは自宅…自宅でいいのか?それと傷の手当と着替えだな。いちち…」
痛む肩を庇いながら赤子を抱き上げ、少女の家へ向かった。
記憶を頼りに少女の自室へ向かい、ベッドの上に赤子を置いた後居間に戻った。物入れの中から切り傷に効く軟膏を見つけ、キッチンから水が入った桶を持って自室へ戻った。
血と泥で汚れた服を脱ぎ、包帯代わりに巻いた服の切れ端を慎重に取った。綺麗な布を水に浸し、傷口を優しく拭き血を落とし、軟膏を塗り込んだ。
「ぬぐおおおぉぉぉ…っ!」
痛みに何とか耐えながら軟膏を塗り綺麗な布をガーゼ代わりに当てて、その上から布を巻いていった。さっきよりは上手く巻けて素人ながらもとりあえずの処置はできた。
服も新しいのをタンスから取り出して着替えた。さっき着ていた服と同じようなデザインの服だがタンスには似たような服しかなかった。
少女は赤子を抱き上げたが、ふと赤子の恰好を見てみた。少女の上着をおくるみにしているがその下は何も着ていない。
「赤ちゃん用の服、どっかにないかな?」
今はまだ大丈夫そうだがこのままでは風邪を引くかもしれないと思い、先に赤子の服を探す事にした。
自宅を出て燃えていない家に入っていった。そこには当然村人の死体があるが、吹っ切れた少女はチラッと見ただけで特に反応を見せなかった。
…が、やはりまだ怖いのか若干距離を取り可能な限り見ないようにしている。
「んんっ、気を取り直して…ヒャッハー略奪だー」
「う~?」
どこぞの世紀末にいるモヒカンが言いそうな台詞を棒読みで呟き、本人曰く略奪を開始した。
堂々とタンスや引き出しを開けて中を物色しており、役立ちそうな物を見つけると大きな布を風呂敷にして包んでいる。全て物色し終えると次の家へ向かい、その家が終わるとまた次の家へ、それを繰り返している。全て略奪し終えて自宅へ戻った頃には、辺りはすっかり暮れその頃には火も消えており真っ暗になっている。
事前に死体を端に寄せてある程度片付けた居間にある暖炉に火打石で火を付けて、戸棚の中にあったロウソクにも火を付けてテーブルの上に広げた略奪品を改めている。
「うーん、集め過ぎたか?服に布、料理器具に残っていた食料、金っぽい硬貨に売れそうな何かの毛皮、後は履き心地良さそうな靴と大きめのカバン。全部入るかこれ?」
あれもこれもと集めたは良いが明らかに二人分にしては多すぎた。
少し減らそうと略奪品を吟味し出した少女の傍らには、新しい服を着せてもらった赤子が少女に手を伸ばしていた。幸運にも赤ちゃん用の服を置いていた家がありそこから数着拝借してきた。少女はチラッと赤子を見て左手であやしながら略奪品を整理している。
「…よし、何とか入ったな。あー、腹減ったなぁ…何か食うか」
カバンに略奪品を詰め込み終わったら空腹を感じて夕食を取る事にした。
暖炉の上に水の入った鍋を敷き、炊事場に盗られずにすんだ野菜や燻製肉を適当に切って鍋に突っ込んだ。それとは別に赤子用のご飯も作っており、水の入った小さめの鍋の中に芋や野菜を入れてクタクタになるまで煮ている。自分用の食事は雑に木で出来たお椀に注いだが、赤子用の食事はそこからさらにすりこぎ棒で細かく磨り潰している。
「うーん…これくらいか?離乳食作った事なんて無いからなぁ、多分…いやそもそも離乳食食べさせて大丈夫なのか?まだ乳離れできていないとかは勘弁してくれよ…」
不安になりながらも見た目はどうにか離乳食ができあがった。
木のスプーンで離乳食を掬い赤子の口元に持っていった。
「ほーれ、ご飯だぞー。あーん」
「う~?」
持ってこられた離乳食を見て不思議そうに首を傾げていた赤子だが、徐に口を開けて食べた。
「お、おぉ。大丈夫そうだ、良かった…ほーい、あーん」
口をもごもご動かした後飲み込んだのを確認して胸を撫で下ろした少女は自分の食事を後回しにして赤子の食事を続けた。赤子もお腹が空いていたのか用意した食事を全部食べて満足そうにしていた。
「よしよし全部食べたな。あっ、背中叩いてゲップさせないといけないんだっけか?」
少女は赤子を抱き上げて背中を慎重に叩いていたら、赤子の口から可愛らしいゲップが出た。赤子の口元を拭いた後、少女は冷めてしまったスープを温め直してから硬そうなパンと共に食べ始めた。
「いただきます。うーん、雑に作った割にはまあまあな仕上がり。にしてもかてえなこのパン…あっ、スープに浸せばいいのか」
あっという間に食べ終えて、使ったお椀とスプーンは水の入った桶に入れた。鍋にはまだスープが残っており明日の朝食にする予定。
「えー、明日はこいつの家族のお墓を作って、そんで飯食ってから村を出る。うん、これでいいな。道は…ま、まぁ道沿いに行けばどっかに着くだろ。多分…」
明日の予定を確認した後、赤子を見ると眠そうにうつらうつらとしていた。
「なんか眠くなってきたな…ふぁ~、私も寝るか」
赤子が眠そうなのを見ていたら少女も眠気を感じたので、暖炉の火を消してロウソクを持ち赤子を抱き上げて自室へ向かった。
寝床は藁を敷き詰めその上から布を敷いただけの粗末なベッドである。記憶の中の柔らかい布団とは雲泥の差だが床で寝るよりマシだと判断している。赤子をベッドの上に置いた後、ベッドの脇にある戸棚の上にロウソクを置き火を吹き消した。少女もベッドに入り掛け布団代わりの布を赤子にも掛けた。赤子は既に夢の中に入っており小さな寝息を立てている。
「(転生したと思ったら赤子を拾って、村が襲われて、魔物に襲われる。何でこんな目に合うんだよ。全部夢だったら、いいの、にな…)」
少女は赤子を軽く抱き締めながら眠りについた。
とりあえずここまでです。