ギルドでハンター達から色々と教わったシリウスは礼を言ってギルドを後にした。
「まだ夕食には時間があるな。なら日持ちする食料を見に行くか」
シリウスは市場の方へ向かうと市場はピークは過ぎたがまだ客が多くいる時間帯だった。シリウスは行き交う人とすれ違いながら露店の食料品を眺めている。
「この辺は生鮮食品ばっかだな。パンとチーズぐらいか?露店じゃなくてちゃんとした店の方に行ってみるか」
しばらく露店を見ていたがお目当ての物は中々見つからなかったので周辺の建物の方へ向かった。食料品を扱っている店に片っ端から入って、品質や値段を確認してどのぐらい持つのか店員に聞いて回った。一時間ほど掛けて目に見えた店は全て入り終わり宿屋に戻る事にした。
「(お湯を掛けたら具アリのスープになるキューブは買いだな。味も何種類か合ったからそれなりの数を買っておくか。マルイモとナガニンジンもそれなりにもつから買ってスープに入れるか。いざとなればそのまま齧ればいいし、磨り潰せばポラリスも食べれるだろう。後は干し肉とか干し野菜とパンを買えば食料の方はいいな。水は村から持ってきたのと新しく買ったのを合わせれば数日は余裕だろうから問題無し。野営道具も買ったし背負い袋もそれなりに大きいのを買ったから全部入るだろ。着替えとかは…ポラリスのも合わせてもう何着か買っておくか。結構な重さになりそうだな…というか、荷物を持ったままで剣とか振れるのか?…後でちょっと練習するか)お馬さん、ぱっかぱっか~♪ワンちゃんも来たぞ~♪」
「あ~♪う~♪」
色々と考えながらポラリスと遊んでおり、ポラリスも楽しそうにシリウスが持つ木の玩具を捕まえようとしている。楽しそうにしているポラリスを見てシリウスも慈愛に満ちた表情を浮かべている。
「(玩具、もう少し買うか…?同じ物ばかりだと飽きるかもしれんし…明日にでも覗いてみるか…いや、何か自分で作って…でもできるか?いやしかし…)」
自分で作るか、新しく買うかと他人が知ればどうでもいい事を真剣に悩み始めた。そんな事を考えつつ夕食までポラリスと遊び続けた。
実はこの時シリウスは色々予定を考えたり、ポラリスと遊んだりして現実逃避をしていた。町を離れて色んな所へ行くと決めたが、それを誰にも伝えていなかった。流石に何も言わずに出ていくのは気が引けるので伝えるつもりではいたが、それを言った時の事を考えると気が重かった。故に色々考えたりポラリスと遊んで現実逃避をしていた。
「…さて、そろそろご飯を食べますかね。ポラリス~ご飯食べに行こうか~」
「あ~」
日も暮れて夕食時になったのでいい加減現実逃避を止めてポラリスを抱いて下に降りていった。するとちょうどリヤンとミーリが宿屋に入ってきた。
「あ"ー…疲れたわ…」
「あ、シリウスちゃん」
「お疲れ。リヤン、おじさんみたいな声を出すな」
「誰がおじさんよ!」
「はいはい。ほら、ご飯食べるぞ」
「ちょっと!?待ちなさい!」
「ふふふ」
二人のじゃれ合いをミーリは笑って眺め二人の後を追った。酒場はいつもみたいに賑わっており給仕をしているウェイトレス達も忙しなく動いている。空いている席につき二人や周囲の人達と世間話をしながら料理が来るのを待った。
「もう座学は嫌ー…」
「もう、リヤンちゃんったら…」
「たわけ。そういう知識が無いといざという時に困る事になるぞ。ちゃんと勉強しろ」
「うえー…」
「まあまあ、リヤンちゃんも頑張ってるから。ほら、ご飯がきたよ」
シリウスが座学は嫌だと愚痴るリヤンを説教していると料理が運ばれてきた。
「ごっはんー♪ごっはんー♪」
「今日も美味しそー」
「…まあ、説教もこのぐらいにしておくか。さて、いただきます」
「シリウス、いつもそれ言ってるわね。何なの?」
「あー、食事の挨拶みたいなもんだ」
「何か意味があるの?」
「確か…命を頂きます、だったかな?とにかく食材に対しての感謝みたいなもんだ。」
「へー…深いわね」
「すごいね…」
「まあうろ覚えだけどな」
他愛もない話をしながら食事に舌鼓を打っている。一通り食べ終えて話している時にシリウスは切り出した。
「…なあ、ちょっと真面目な話していいか?」
「何よ、改めちゃって」
「どうしたの?」
「私…町を出ようと思ってる」
「「……………」」
「…?」
「「えええぇぇぇ!?」」
「「「「「えええぇぇぇ!?」」」」」
「!?」
「!?ふえええぇぇぇ…!」
リヤンとミーリはもちろん、話が聞こえた周囲の人達も驚きの声を上げた。突然の大声にポラリスはビックリして泣き始めた。
「お、おいおい。何もそこまで驚かなくても。よしよし、大丈夫」
「これを驚かなくて何に驚けって言うのよ!?」
「な、何で!?どうして!?」
「じじじ嬢ちゃん!?何でだ!?」
「まさか誰かに苛められてるとか!?」
「行かないでくれよー!」
「俺の、俺の癒しがー!」
「おめえのじゃねえ。座ってろ」
シリウスの発言に酒場全体が阿鼻叫喚に陥っている。
「とにかく落ち着け。ちゃんと説明するから」
シリウスが声を掛けて何とか話を聞けるぐらいには落ち着かせた。
「ふぅー…それで?何で出てくって言ったのよ?」
「ああ。前から考えていたんだけどな、他の町とか知らない場所に行ってみたくてな。密かに準備を進めていたのさ」
「そ、そんな…な、なら!私も!」
「二人ともハンターのランクは六級だろ?せめて五級は無いと不安が残る。それにまだ教導の方も終わってないんだろ?」
「そ、それは…で、でも!」
「ら、ランクなんただの目安じゃない!それに教導も終わってなくても別に…!」
「そうやってまた色んな人に迷惑を掛けるのか?」
「!?そ、それは…」
「…別に今生の別れじゃないんだ。ちょっと離れるだけだろ?そこまで騒ぐことでもない」
「「……」」
リヤンとミーリはシリウスが町を離れる事を嫌がるがシリウスの気持ちは変わらなかった。逆に諭されて反論もできず俯く事しかできなかった。
「寂しくなるが…嬢ちゃんが決めた事だ。俺達がとやかく言えねえな」
「そうだな…むしろ門出を祝わねえとな」
「寂しいよ~」
「泣き言言うな」
「そうだ。笑顔で見送ってやるのが大人だろうが」
周りで聞いていた人達はシリウスがいなくなるのは寂しいがシリウスが決めた事にとやかく言う事は無かった。酒場の雰囲気は段々と戻りつつあったが、シリウス達がいる席はお通夜のように静まり返っている。シリウスは自分の所為で微妙な空気になってしまったのでどうにかしようと考えているが、中々良い方法が浮かばず苦い表情をしている。リヤンとミーリは同じような心境で自分達が付いていくと足手まといになるのは理解していたが、それでもシリウスと離れたくなかった。
「何だい辛気臭い顔をして!」
「あ、女将さん」
そんな暗い空気を察して女将が顔を出してきた。
「嬢ちゃん、町を離れるって?」
「ええまあ。色んな場所に行ってみたくて」
「なるほどね。それであんた達は嬢ちゃんから離れたくないって?」
「「…」」
「やれやれ…あんた達、甘ったれるんじゃないよ!」
「「!?」」
「嬢ちゃんに頼りっぱなしで恥ずかしくないのかい!いつまでも嬢ちゃんにおんぶにだっこで本当にいいと思ってるのかい!」
「そ、そんなことはない、けど…」
「で、でも…」
「でももだっても無い!嬢ちゃんが決めた事にいつまでもグチグチ言ってんじゃないよ!」
シリウスは言い過ぎではと思うものの二人のために敢えて悪役を引き受けた女将のために何も言わなかった。シリウスが何も言わないのは女将の言葉が正しいからだと思った二人は再び俯いた。
そのままの空気で解散した三人。終始俯いたままのリヤンとミーリは暗い表情でそれぞれの家路についた。ベッドに倒れ込みそのまま何も考えずに眠りたい二人の頭を過ぎるのは女将の言葉。
二人とも本当は分かっていた。
実力不足なのも、知識不足なのも、シリウスにおんぶにだっこな状態なのも、全部自分達が弱い所為なのだと。弱い自分達の所為でこれ以上シリウスの足を引っ張るのは耐えられない。
ずっと一緒だと思っていた。いつか別れる時が来ると分かっていたが、それはもっと先の話だと気づかない振りをしてきた。だが現実は残酷だった。
シリウスと離れる事を想像すると心が乱れ涙が溢れ出してくる。枕に顔を押し当てて嗚咽を零さないように耐えていたが、いつまで経っても収まってくれずその内泣き疲れて眠っていた。
一方シリウスの方も自分の所為で暗い表情をさせた事に後悔していた。
「はぁー…やっぱりいきなり出ていくなんて言わずにもっと前に言っておけばこうはならずに済んだかもしれんな…やっちまった。はぁー…」
ポラリスを抱いたままベッドに転がり溜め息ばかり付いている。落ち込んでいるシリウスにポラリスはシリウスの頬をペチペチと叩いている。
「ま~」
「ああ、大丈夫だよポラリス。ママは大丈夫」
シリウスは慰めようとしてくれたポラリスの頭を優しく撫でている。気持ち良さそうにしていたポラリスはそのままシリウスの腕の中で眠った。
「…私も寝るか」
起きていたら気が滅入るのでシリウスも毛布を被って眠る事にした。
翌朝、いつものように身支度を終えて朝食を取りに酒場へと向かった。
「おや、嬢ちゃんおはよう!」
「女将さん、おはようございます。昨日は嫌な役をさせてしまってすいませんでした」
「ああ、いいんだよそんな事!ああいう子達にはあれぐらいガツンと言わないとダメなのさ!」
「うーん、そういうもんですかね…?」
「そうさ!さあ!ご飯食べて切り替えていきな!」
女将が持ってきた朝食を食べながらシリウスは今日の予定を考えている。
「(リヤンとミーリは…もう少し時間を空けるか。考える時間も必要だろうしな。今日は日課の後にお世話になった人に挨拶回りをするか。まずギルドに行ってヴァレットさん達に挨拶して、それからミネアさんとマロスさんとコニーさんにも挨拶しとかないとな。後鍛冶屋の店主さんにも一応言っておくか。多分うるせえって言われるだろうけど。マイロさんは…まあ、会えたらでいいか。あ…しまった。ラトミシアさんの事を忘れていた。絶対リヤンとミーリ以上にゴネるぞあの人は。ぬおおおぉぉぉ…!どうしよう…!と、取り合えず今日は他の人達の挨拶を優先しよう。多分、いや絶対丸一日は潰れるからな)」
朝食を取り終えた後はいつものように日課をこなしそれからギルドへと向かった。ギルドに入るとそれなりの数のハンター達が集まって何やら話しており、その中にはヴァレットもいた。
「ヴァレットさん」
「おお、嬢ちゃんか。聞いたぞ、町を出るんだって?」
「もう噂が流れてるんですか?早過ぎでしょ…」
「どうやら本当らしいな…まあ、嬢ちゃんが決めた事だ。俺がとやかく言う資格は無い。教導も教える事は全部教えたしな。だが気をつけろよ」
「ええ、分かってます。ヴァレットさん、今までお世話になりました」
シリウスはヴァレットに深く頭を下げた。
「相変わらず真面目だな…気にするな。俺が好きでした事だ。それで出発は何時なんだ?」
「何もなければ五日後ぐらいにしようかと」
「そうか。行先は決めてるのか?」
「取り合えず王都を目指そうかと。それからはまた考えます」
「そうか。嬢ちゃんなら大丈夫だとは思うが道中も含めて気をつけろよ」
「はい、ありがとうございます」
シリウスはヴァレットと別れてお世話になったハンター達に挨拶へ向かった。
「…まさか全員に声を掛けて回る気か?本当に真面目だなぁ…そうだ。おい、ちっと提案なんだが」
「どうした?」
「何だ?」
「実はな…ヒソヒソ」
「それいいな」
「よし、他の連中にも声を掛けてくる」
「頼んだぞ」
ヴァレットは他のハンター達と結託して何かしようと動き出した。見知ったハンター達に声を掛け終わった後、シリウスはギルドを出てミネアの店へ向かった。
「失礼します」
「!!シリウスちゃん!町を出てくって本当なの!?」
「ぬお!?え、ええ、そうですけど」
シリウスを見た瞬間、ミネアはシリウスに詰め寄り噂の真意を確かめた。
「はぁ~…本当なのね。寂しくなるわねぇ…」
「あー…何かすいません」
「いいのよ、気にしないで。シリウスちゃんの人生だもの。私がとやかく言う資格なんて無いわ。でも本当に気をつけてね」
「はい、ありがとうございます。後これ。残っていた支払いです」
「え"!?ま、まだ結構残ってたと思うけど大丈夫?」
「はい、大丈夫です」
シリウスは残っていたローン、21000リクルを一括で支払った。
「…うん、ちょうどあるわね。ねえ、本当に大丈夫?」
「ええ。ちょっと前にそれなりの額が手に入ったので」
「そう?それならいいんだけど…あ、そうだ。出発は何時なの?」
「一応五日後ですね」
「そうなのね。あ、頼まれてる上着は必ず仕上げるから待っててね」
「分かりました」
「これからコニーのとこにも行くんでしょ?私も行くわ」
ミネアも同行してシリウスは向かいのコニーの店へ向かった。
「いらっしゃい。あら!シリウスちゃん!」
「どうも。ちょっと挨拶に来ました」
「挨拶って…あの噂は本当なのね」
「ええ、まあ。色んな場所に行ってみたくて」
「そう…寂しくなるわね」
「コニー、お客さんかい?おや、シリウスちゃん。いらっしゃい」
「マロスさん」
「あなた、シリウスちゃんの噂は本当みたい」
「なんと!?そうなのかい!?」
「はい」
「そうか…寂しくなるな」
皆似たような事ばかり言っており、いかにシリウスの事を想っているのかが見て取れる。噂を聞いた者の大半は寂しがったり、嘆き悲しんだりした。シリウスは町を救った英雄で町の誰もがシリウスに好意的なのだ。
「くれぐれも気をつけるんだよ」
「他の町はここより悪い事を考えている人が大勢いるからそこも注意しなさいね」
「そうよ。物価とかもここより高いし、品質もあまり良くなかったりすることもあるからそこも気をつけてね」
「はい、分かりました。ところでマイロさんは?一応挨拶しておこうかと思って」
「マイロかい?ちょっと待ってておくれ」
マロスはマイロを呼びに奥へ向かった。
「シリウスちゃん、マイロちゃんと仲良いの?」
「いや、会ったのは一度だけで会話も無かったんですけど、挨拶無しもどうかと思いましてね」
「律儀ねぇ…」
「あら、良い事じゃない。マイロもこれくらいできるようになればねぇ…」
「まずは外に出して人と会話できるようにする事からでしょ?何なら私が話し相手になるわよ?」
「いや…いきなりミネアさんはマイロさんが気の毒では?」
「ぶふぅ!?く、くくっ…」
「ちょーっとシリウスちゃん!それどういう意味!?」
シリウスの発言にコニーは吹き出し、ミネアは怒り心頭でシリウスに詰め寄っている。といってもそこまで本気で怒っているわけでは無く、ただ聞き捨てならない発言が聞こえたので発言の意図を知りたかっただけだ。
「ま、まあまあ。ミネア、抑えて抑えて…ププッ」
「コニー!あなたもいつまでも笑わないでよ!」
歳の離れた友人同士のじゃれ合いをシリウスは微笑ましそうに眺めている。
「連れてきたよ。おや?どうしたんだい?」
「あ、あなた。いえ、今ね」
「コニー!言わないでちょうだい!」
「あら残念」
「??」
よく分かっていないマロスと後ろにいるマイロだった。
「どうもマイロさん」
「ん」
人見知りが激しく内気な性格のマイロは目線も合わさず言葉数も少なく返事をした。
「実は町を離れる事にしましてその挨拶に伺いました。それと遅くなりましたがとても良い靴を作ってくださってありがとうございます。大切に使わせていただきます」
シリウスの丁寧かつ律儀な対応にマイロはチラッとシリウスと目を合わせた。
「……あ、ありがと……が、頑張って…」
「はい」
声は小さく早口だったが返事を返したマイロは奥へ戻っていった。
「あなた…!マイロが…!」
「ああ…シリウスちゃんのおかげで少し変わったな。良かった…」
「うーん…シリウスちゃんは魔性の女になるわねぇ…」
「今度は私の台詞ですね。それはどういう意味ですか?」
先ほどの意趣返しでミネアが言い返してきたので今度はシリウスがミネアに詰め寄った。別れの挨拶に来たが寂しい雰囲気は無く明るい雰囲気に包まれている。その後も明るい雰囲気で世間話をした後、シリウスは残っていたローンの6000リクルを支払って店を後にした。
シリウスが次に向かったのは鍛冶屋である。
「失礼します」
「ああ?…またお前か」
鍛冶屋の店主は何度もやって来るシリウスを若干呆れた表情で出迎えた。
「ったく…で?今度は何だ?」
「いえ、今回は挨拶に来ました」
「はぁ?」
「実は町を離れる事にしまして」
「…それでわざわざ来たってのか?」
「ええ。何度もお世話になりましたし」
「馬鹿が。てめえと俺は客と店主ってだけの間柄だ。それ以上でもそれ以下でもねえ。分かったらとっとと帰れ。仕事の邪魔だ」
「それは失礼しました。今までお世話になりました。では失礼します」
シリウスを突き放すように邪険に扱う店主にシリウスは特に気にする事無く鍛冶屋を後にした。その後もシリウスは見知った人達に別れの挨拶をし続け、日が傾き始めた頃に一通り挨拶が終わったので宿屋へ戻ろうとした。
その時、二つの人影がシリウスの行く手を塞いだ。
「リヤン、ミーリ」
「シリウス…」
「シリウスちゃん…」