転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

41 / 124
第四十一話

 

 宿屋に帰ろうとしたシリウスの前にリヤンとミーリが立っている。

 リヤンは寂しさを隠して眉間に皺を寄せて怒っているように見せており、ミーリは悲しさを隠さずに今にも泣きそうな表情をしている。流石に放っておくわけにはいかず近くのベンチに並んで座った。

 

「「「………」」」

 

 座ったはいいが誰も話そうとせず重々しい空気が漂っている。シリウスはどう話そうか悩み、リヤンはそっぽを向き、ミーリは涙を堪えて下を向いている。

 

「ふぅ…二人とも。私はこの町を離れる」

「…!」

「!う、うぅ…」

 

 シリウスが切り出すとリヤンはピクッと反応しミーリは改めて現実を突きつけられて涙が零れ落ちた。

 

「でもそれで私達の絆が無くなるわけじゃない。確かに寂しくなるが、離れてもずっと友達だ。それに約束したろ?次は一緒にやるって。また必ず会えるよ」

 

 それはシリウスが怪我をした時に言った言葉だった。二人を励ますために言ったが同時に本心でもあった。

 

「う、うわあああぁぁぁん!!」

「うえええぇぇぇん!!」

 

 シリウスの言葉を聞いた二人は堰を切るように泣き出してシリウスに抱きついた。シリウスは抱きついてきた二人を優しく抱き締めている。

 

「いやだ!離れたくない!何で行っちゃうの!?」

「すまん」

「やだやだやだ!行っちゃやだぁ!」

「すまんな」

 

 心に留めていた想いが吹き出してシリウスにありのままをぶつけている。シリウスはただ相づちをうちながら受け止めている。号泣する二人を見て通行人が見てくるが邪魔をせずに立ち去っている。しばらくの間二人は泣き続けた。

 

「…落ち着いたか?」

「ぐすっ…うん」

「ひっく、うううぅぅぅ…」

「ミーリはまだか…まあ取り合えず動くか。まだご飯食べてないんだろ?ほれ行くぞ」

 

 ぐずついているリヤンとまだ泣いているミーリと二人につられて泣いたポラリスを連れて宿屋に入った。泣いている三人を見て何事かと見てくる客達だったが、真ん中にシリウスがいたので色々と察してそっとしておいてくれた。

 

「おやおや。外で泣き声が聞こえたから何かと思ったら…そうかい。折り合いが付きそうだね」

「いやあ…どうですかねこれ」

「いやいや。思いっきり泣いて、吐き出してしまえば後はどうとでもなるよ」

「そうなんですか?」

「そうだよ。さあ!ご飯食べて元気だしな!」

 

 女将が厨房から夕食を持ってくるまでの間、シリウスは左右と前から抱きついてくる小さな子供と大きな子供をあやし続けた。

 

「やれやれ…いつの間に子供が増えたんだ?全く手の掛かる事だ」

「…違うもん。子供じゃないもん」

「はいはい、そうだな」

「うううぅぅぅ…」

「ほらほら、いい加減泣き止みなさい」

「ふえええぇぇぇ…ま~…」

「よしよし。ポラリス~大丈夫大丈夫」

 

 口では文句を言っているものの撫でる手付きは優しく、その姿は正しく母親であった。料理が運ばれてきた時は流石に離れて食べたが食べ終わるとまたすぐに抱きついてきたので、今日はもう離れないとシリウスも諦めた。夕食を食べている時から周囲の人達から温かい視線が注がれ続けていたのでそれから逃げるようにシリウスの部屋まで連れていった。部屋に入ってからも一向に離れず、シリウスが本を読んでいると横から覗き込んで一緒に読んでいる。

 

「結局こうなるのね…」

 

 寝る時間になっても状況は変わらずリヤンとミーリは腕に抱きついて寝る気満々だった。ポラリスはシリウスの胸の上ですでに夢の中である。

 

「はぁ~…おやすみ」

「おやすみ」

「おやすみなさい」

 

 考える事を止めたシリウスはそのまま寝た。

 リヤンとミーリはしばらくシリウスの寝顔を見ていた。二人の頭の中でシリウスと過ごした日々の事が蘇っている。ポラリスをあやし慈愛の表情を見せるシリウス、他愛も無い話で盛り上がり笑みをこぼすシリウス、魔物を戦い真剣な表情のシリウス、ミスをした自分達を叱る怒ったシリウス、酔っ払って愚痴を溢し抱きつく自分達を呆れながらも介抱するシリウス、そして穏やかな表情で眠るシリウス。思い出が頭を駆け巡り再び涙が込み上げてきてシリウスの腕を強く抱き締め、温もりを感じながら二人は眠った。

 翌朝、シリウスはいつもと違う腕の温もりで目が覚めた。

 

「ん…何だ?…ああ。そういやそうだったな」

 

 リヤンとミーリは眠ったままシリウスの腕をガチっと掴んで離そうとしなかった。

 

「こりゃ起きるまで離れんな…ポラリスが起きるまでに起きてほしいんだけどなあ…」

 

 一応身体の上に布を敷いてからポラリスを乗せているが気休め程度にしかならないと分かっていた。割と切実に早く起きてほしいと願っていたが叶わなかった。

 十分後。

 ポラリスと自分の服を洗濯し終えて部屋に干しているシリウスの姿があった。その後ろではリヤンとミーリが正座をして反省している。

 

「ごめん…」

「ごめんなさい…」

「気にするな。たまにある事だ」

 

 二人と一緒に朝食を食べに部屋を出て下に降りた。

 

「嬢ちゃん達おはよう!…うん、昨日よりスッキリした顔をしてるね!」

「そらまあ、あんだけ泣いて吐き出せばある程度はスッキリしますよね」

「「…」」

 

 二人は今更になって恥ずかしくなったのか顔を赤くしてそっぽを向いている。

 

「ハッハッハッハ!この調子なら大丈夫だね!さあ!ご飯食べな!」

 

 女将が持ってきてくれた朝食を三人で食べ始めた。

 

「今日はどこに行くの?」

「ん?何だ?付いてくる気か?」

「ダメなの…?」

「そんなに泣きそうになるな。今日はラトミシアさんの所に行く予定だ。多分一日潰れる」

「…ああ、あの人」

「あのビビリね。何でそいつの所に行くのよ?」

「そんなに喧嘩腰になるなよ。あの人は自己評価が低いから何も言わずに出ていけば見捨てられたって思うからな。ちゃんと言わなきゃならん」

「ぶぅ…」

「むぅ…」

「むくれんなー。昨日の二人と一緒だ」

 

 シリウスが指摘すると二人は赤くなって顔を横に向けた。

 

「くっくっく…まあそういうことだ。悪いな」

「…まあいいわよ。私達もちょっとやる事があるし」

「え?何かあったっけ?」

「あるの!いいから来る!」

「あたたた!?い、行くから!行くから耳、引っ張らないで~!」

「なんだかよくわからんが、気をつけてな~」

 

 リヤンに耳を引っ張られながら連行されていくミーリをシリウスは呑気に見送った。

 

「さーて…私も行くかね」

 

 色々と覚悟を決めてシリウスはラトミシアの店へ向かった。

 

「いらっしゃ、!!い、いらっしゃい!ま、待ってたよ!」

 

 ラトミシアは飼い主が帰ってきた子犬のように喜びながらシリウスを招き入れた。シリウスには尻尾がブンブンと降られているのが幻視できた。

 

「あはは、どうも。えー、実はちょっと大事な話がありましてね」

「話?」

 

 何だろうと呑気にしていたラトミシアだったが、シリウスの話を聞くうちに絶望の表情となり涙が溢れ出した。

 

「やだ、やだやだやだ。やだよ~…ふえええぇぇぇ…!」

「ちょちょちょ!?そこまで泣かなくても…!?」

「ふえええぇぇぇ…!行かないで~…見捨てないで~…」

「あ~ほらほら泣かない泣かない。よしよし」

 

 シリウスが町を離れると言ってからラトミシアは駄々っ子のように泣き始めた。リヤンとミーリ以上に厄介でいくらシリウスが説得しても聞き入れず泣いている。とにもかくにも泣き止ませないと話が進まないのでシリウスはなんとか泣き止ませようと抱き締めて頭を撫でている。しばらくして半泣き状態ながらも何とか会話できる程度に落ち着いた。

 

「話を戻しますよ?見捨てるつもりはないですけど、色んな町とか見てみたいんですよ。だから町を離れる事に―――」

「ふ、ふえええぇぇぇ…やーだ…!やーだ…!」

「またか…ええい、仕方が無い…!」

 

 再び泣き出したラトミシアをシリウスは強く抱き締めた。突然の出来事でラトミシアは泣くのを忘れるほどの衝撃を受けた。

 

「いいですか?私はここを離れてしばらくの間会う事はできなくなります。でもそれだけです。私達が友達なのは変わらないし、お互いを忘れる事も無いです。少しの間離れるだけです。また会えます。分かりましたか?」

「…しばらくってどのくらい?」

「それは分かりません。ですが必ず戻ってきます。何なら手紙も書きますよ」

「…きょう、いっしょにいてくれなきゃやだ」

「駄々っ子ですか…まあ、いいですよ」

 

 幼児退行したラトミシアの要望で今日は泊まる事になったシリウス。最速で宿屋から着替え一式を取ってきて急遽お泊り会が始まった。

 すっかり甘えん坊になったラトミシアは事あるごとにシリウスに抱きついて離れなかった。シリウスは今日だけだと諦めてラトミシアの好きにさせており、そのまま掃除や洗濯をこなし料理も作った。

 

「はいあ~ん」

「あ~」

「ちゃんと噛んでくださいね。ポラリス~あ~ん」

「あ~」

「ふぅ(やれやれ、世話の焼ける)」

「ジー」

「はいはい。ほら、あ~ん」

 

 大きな子供が増えて終始忙しかったがそこまで嫌ではなかった。食器などの片付けも終わり椅子に座って食休めをしながら本を読んでいると横からラトミシアが抱きついてきて一緒に本を読み始めた。しばらくそのままの姿勢で読んでいたが、ポラリスが欠伸をしたので寝る事になった。もちろんラトミシアも一緒で添い寝する事になった。

 

「ほら、寝ますよ」

「う、うん…(ち、近い…!)」

「何でそんな端にいるんですか」

「だ、だって…!」

「…あー、そういう。昼間に散々抱きついてきた癖に今更になって恥ずかしくなってきたんですか?」

「!?」

「図星ですか。ポラリスがもうお眠なので実力行使です」

「ふぇ!?」

 

 シリウスは恥ずかしがるラトミシアの手を掴んで無理矢理引き寄せた。シリウスの腕に抱き着く形でベッドに寝転んだラトミシアは至近距離で顔を合わせて赤面している。

 

「ではおやすみなさい」

「おおお、おや、すみ…」

 

 目をグルグル回してパニック寸前のラトミシアを放置してシリウスは寝た。左腕にポラリス、右腕にラトミシアを抱いてシリウスは普通に寝ており、ラトミシアはシリウスの寝顔を眺めていた。

 出会ってからシリウスは自分にずっと良くしてくれた。たどたどしく言葉足らずでもすぐに察してくれ、悪い事をすると自分のために叱ってくれ、自分のダメなところも引かずに理解してくれた。シリウスの存在はラトミシアの中でもかなりの割合を占めるほど大きい存在になっている。離れるのはやはりとてもつらい。今考えても涙が込み上げてきそうだ。でも、それでシリウスの邪魔になるのはもっと嫌だった。

 

「(今日だけ…今日だけだから…)」

 

 ラトミシアはシリウスの腕を強く抱き締めて目を瞑った。泣くのも甘えるのも今日だけだと自分に言い聞かせながら眠った。

 翌朝になるとラトミシアは昨日自分に言い聞かせた通り、泣く事はせずいつも通りに戻った。…まだ若干甘えるようにシリウスに引っ付いてはいるが。

 それから出発の日までリヤンとミーリとラトミシアはシリウスに引っ付いて離れなかった。リヤンとミーリはラトミシアを牽制しラトミシアはそれに怯えながらも離れようとはしなかった。周囲の人達からは温かい視線で見守られ一部からは黄色い歓声が上がった。シリウスは出発までの辛抱と周囲からの視線を完全に無視しながら食料など旅の必需品などを買って回っている。他にも三人に引っ付かれながら取り置きしてもらった魔具を買ったり、ミネアに頼んでいたベストを受け取ったり、ミネアから餞別として裁縫道具一式を貰ったり、ミネアとコニーに自分がいない間ラトミシアの事を頼んだり、次の町への行き方を確認したりと割と忙しく動いていた。

 出発前夜。

 三人からの強い要望でシリウスの部屋で女子五人のお泊り会が開かれた。流石にベッドで添い寝するには狭すぎる、というか無理なので床に布団を敷いて寝る事になった。布団の上に座って、リヤンとミーリが話し、シリウスが相槌を打ち、シリウスがラトミシアに話を振り、時々ポラリスを皆で撫でるなど他愛もない話で盛り上がっている。

 

「そうだ。シリウス、これ」

「ん?何だ?」

 

 会話が一段落したところでリヤンがシリウスに小さな箱を渡した。目で開けるように言われたのでシリウスが箱を開けると中に入っていたのはどこか見覚えのある装飾が施された指輪だった。

 

「指輪?…どっかで見た気がするが…どこだったか………!?まさか魔具かこれ!?」

「正解。力が少し上がる指輪だって」

「おいおい…相当高かっただろこれ。どうしたんだ?」

「ミーリと話し合ってシリウスに何か贈ろうってなったのよ。それで考えた結果これになったの。値段は教えない。返却も不可」

 

 この力が上がる指輪の値段は30000リクル。

 リヤン個人では到底手が届かなかったが、話を聞いたジャイアントアントの巣の調査の時にシリウスが助けた新人ハンター達と協力し合って色んな人に声を掛けてカンパを募ってもらい何とか集めた。

 

「私からはこれだよ」

「ミーリもか…本とこれは…棒?」

「中級魔法の本と初心者用の杖だよ。値段は教えない。返却も不可」

 

 中級魔法の本の値段は7000リクル。

 この町で中級魔法が使える者はほんの一握りなので買い手がおらず倉庫で埃を被っていた。在庫処分できると本来は10000リクルするところを7000リクルにまけてもらったが、それでもミーリ個人では手が届かなかったが、こちらはシリウスの魔法の監督をしたエルフが金を立て替えてくれた。

 初心者用の杖の値段は2000リクル。

 魔法制御の補助をしてくれる物で初心者用なら大体一割程度制御を補助してくれる。これより上位の物なら三割ほど補助してくれるが値段は跳ね上がり数万リクルはする物もある。

 

「…あ、あの…これ…」

「ラトミシアさんまで…この本は?」

「え、えっと…ポーションの調合とかの本だよ。ね、値段は、お、教えない。へ、返却も不可」

 

 調合の本の値段は5000リクル。

 調合の初歩から応用まで図解付きで詳しく書かれており初心者から熟練者まで幅広くお世話になる本だ。ラトミシアも持っておりシリウスのために新しく買った新品だ。

 

「…皆、ありがとうな」

「べ、別に感謝が欲しくてしたわけじゃないし!」

「えへへ~」

「あぅ…」

 

 シリウスのお礼にリヤンはツンデレを発動し、ミーリは素直に喜び、ラトミシアは恥ずかしそうに俯いた。それからも和気藹々とした話は続きポラリスが欠伸をしたところで眠る事になったが、そこでひと悶着があり誰がシリウスの隣で寝るかで揉めに揉めた。最終的にリヤンとミーリが隣に、ラトミシアはシリウスのお腹に引っ付いて寝る事になった。ポラリスはシリウスの胸の上ですでに夢の中だ。誰もシリウスの意見を聞いてくれなかったのでシリウスは考える事を止めて眠った。

 

 出発の日。

 町の正門にはそれなりの数の人がシリウスを見送るために集まっていた。

 

「集まり過ぎでしょ…皆暇なんですか」

「おいおい、ずいぶんなご挨拶だな」

「そうだぞ。俺達は嬢ちゃんを見送るために集まったんだ。断じて暇じゃねえ」

「嘘つけ。お前は年中暇だろうが」

「おめえ、それ言っちゃあいけねえよ」

「シリウスちゃん!無理しちゃダメよ!危ない人には近寄らない事!危ない所にも行っちゃダメ!近づいてくる男には一層気をつけなさい!男は皆狼なのよ!」

「分かってますから、落ち着いてくださいミネアさん」

「寂しくなるわねぇ…」

「確かにね。でもコニー、ここは笑顔で見送ってあげよう。ほわ、マイロも」

「う、うん…」

「また来ておくれよ嬢ちゃん!あの部屋はいつでも使えるようにしておくからね!」

「皆さん、わざわざありがとうございます」

 

 シリウスが集まった人達に最後の挨拶をしているとヴァレットが近づいてきた。

 

「嬢ちゃん」

「ヴァレットさん。わざわざ来ていただいてありがとうございます」

「なに、構いやしねえよ。それより他の連中と相談してな。餞別だ。持っていってくれ」

 

 ヴァレットは手に持っていたランタンをシリウスに差し出した。所々装飾が施されているそれはただのランタンではなく魔具だった。どう見ても逸品であることは間違いなく、その証拠に見送りにきたハンターの中には手で顔を覆ったり、天と仰いだりと呆れている者もいる。

 

「いやいやいや。そんな高価な物は受け取れませんって」

「いいんだよ。嬢ちゃんのために皆で金を出し合って買ったんだ。貰ってくれないと意味が無い」

「えぇ…んー…はぁ、分かりました。ありがとうございます」

 

 根負けしたシリウスは渋々ランタンを受け取った。

 

「俺から言う事は特に無いな。嬢ちゃんなら立派なハンターになれるさ。それこそ歴史に載るようなそんな凄いハンターにな」

「言い過ぎですって…」

 

 ヴァレットなど他の面々とは明るく別れの挨拶をしていたが三名ほど暗い雰囲気を醸し出している。

 

「さーて、いつまでも放置はできんな。まずは…リヤン」

「…なによ」

 

 リヤンは散々泣いていたのか目が赤く充血していた。

 

「いいか?私はもういなくなるんだからちゃんと考えて動くんだぞ」

「わ。分かってるわよ…」

 

 俯くリヤンにシリウスは顔を上げさせてリヤンの額にデコピンを放った。

 

「いった…!何するのよ!」

「やかましい。いつまでも下向いてんじゃねえ。胸を張って前を見ろ」

「!!」

 

 下ばかり見るリヤンにシリウスは檄を飛ばした。リヤンの目に涙が溢れ出してきたが力が戻ってきたので大丈夫と判断した。

 

「ミーリ」

「うえええぇぇぇん…」

 

 さっきからずっと泣いているミーリはシリウスの言葉に反応せず泣き続けている。シリウスは軽く溜め息を付きながらミーリの頭を撫でた。

 

「ミーリ、よく聞け。お前はできる子だ。もっと自信を持て」

「し、シリウスちゃん…」

「ほら立って。涙も拭け。大丈夫、ミーリならやれるさ」

 

 頭を撫でながらミーリと目を合わせて微笑むと、ミーリも涙目だが目に力が戻ってきた。

 

「よし。さーてラスボスだな…ラトミシアさん」

 

 ラトミシアはリヤンとミーリと違いさっきからずっとシリウスの腰に抱きついている。

 

「やれやれ。…いつまでそこにいるんですか?」

「ぐすっ…」

「離れてもずっと友達だって言ったでしょうに…信じてくれないんですか?」

「そ、そんなことない!」

「ならいつまでもそんなとこにいないで、ほら立って。駄々を捏ねない」

 

 引き剥がされるようにシリウスに立たされるラトミシアはずっと泣いている。

 

「また必ず会えますから。少しの間さよならです」

「うぅ…」

 

 これ以上いたらまた抱きつかれると思ったシリウスは待ってもらっていた乗り合いの馬車に飛び乗った。馬車はターエル近郊の町や村を定期的に周っている。

 

「すいません、待ってもらって」

「いやいいんだよ。こういうのは偶にあるからね」

 

 御者の壮年の男性は笑って許し他の客も許してくれた。

 

「じゃあ、出発するよ。ほれ」

 

 御者は手綱を操作して馬車は動き出した。

 

「「「シリウス(シリウスちゃん)!!」」」

「行ってくる!またな!」

「頑張れよー!」

「しっかりな!」

「身体に気をつけるんだよー!」

「無理はダメよー!」

 

 見送りにきた皆が激励を飛ばしながらシリウスに手を振っている。リヤンとミーリとラトミシアも泣きながら手を振り、シリウスも馬車の中からお互いが見えなくなるまで手を振り続けた。

 

「行っちまったな…」

「そうだな…」

「…さーて、仕事に行くとするかね」

「そうだな。今日も頑張るか」

「よう、ヴァレット。今日はどうするんだ?」

「もちろん教導さ。やる気に満ちてる奴がいるからな」

「へへっ、そうだな」

 

 ヴァレットの視線の先には涙を拭ったリヤンとミーリがいた。目は赤いものの今までに無いほどやる気に満ちている。

 

「お前ら、準備してこい。今日もミッチリ教えてやる」

「上等よ!さっさと終わらせてあっという間に五級になってやるんだから!」

「わ、私!頑張る!」

「ハッハッハッハ!そこまでやる気に溢れてちゃ仕方が無い!俺も本気で教えてやる!」

「え!?い、いや別にそこまでは…」

「そ、そうだよ。ふ、普通で…」

「なあに!遠慮するな!さあ!張り切って行こうか!」

「「やめて!?」」

「「「「「ハッハッハッハ!!」」」」」

「皆楽しそうね。さあて、私も頼まれた事だし…ラトミシアちゃん、だったかしら?」

「ぴぃ!?」

「もう!そこまで怯えなくてもいいじゃないのよ!」

「や、やっぱりミネアがすると気の毒になるわね、プフッ!」

「ちょっとコニー!」

「ふふふ。そうだ、いい機会だからマイロも人と話す練習をするか」

「え!?い、いやぼ、僕は別に…」

「なあに、遠慮するな。さあ、張り切って行こう」

「ちょ、ちょっと…!」

「ハッハッハッハ!!」

 

 悲しかったり寂しかったりするが皆笑顔で前を見て歩き始めている。

 

「………また一人か」

「ま~」

「いや、一人じゃないな。ポラリスがいるもんな」

「ま~♪」

 

 ターエルを離れて少し寂しそうにしていたシリウスだったが一人ではないので気を取り直した。寂しそうに見えたシリウスに気を遣ったのか声を掛けてきたポラリスの頭を優しく撫でてあげている。

 

「良い人達でしたね。ご友人ですか?」

「ええ。いや、親友ですね」

 

 一連を見ていた馬車の客が話しかけてきた。始めは認めたが、シリウスの中ではすでに掛け替えのない人達になっているのですぐに訂正した。尋ねた人も他の人達も微笑ましそうにしている。

 

「さーて、これからどうなることやら…まあ、どうとでもするけどな」

「ま~」

「な~に、ポラリス♪」

 

 ポラリスとイチャつきながらシリウスの長い旅は始まった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。