「た、助かった、のか…?」
「あの子は、何者だ…?」
「村じゃ見ない顔だが…昨日の馬車の客か?」
「別に誰だっていい!俺達を助けてくれたんだ!」
「う、うおおおぉぉぉ!ありがとう!」
「あなたは命の恩人だわ!」
一部始終を見ていた村人達から歓喜の声が上がるとシリウスはビクッとした。
「…あー、喜んでいるところすみませんが、まだいないとは限らないのでちょっと協力してもらえませんか?」
「え!?ま、まだいるのか?」
「いえ、あくまで可能性です。どこかに隠れているかもしれないので一応確認しておかないと」
「そ、そうだな、分かった」
「それなら俺も行こう」
シリウスは短剣を持った猟師と斧を持った木こりと全ての家を確認して回った。一軒一軒隠れる事ができそうな場所を重点的に確認していったがゴブリンはいなかった。村の中央では村人達が集まって怪我人の手当てをしたりそれぞれの無事を喜んでおりシリウス達が戻ると村長が寄ってきた。
「ど、どうじゃった?」
「どこにもゴブリンはいませんでした。もう大丈夫ですよ」
「そ、そうか、良かった…」
「もう大丈夫なんだな!?」
「良かった、良かったよおおおぉぉぉ…!」
「いやはや…一時はどうなることかと思ったわい…」
「だがこれで一安心だな!」
「しかし…結構荒されたな…」
「確かに。こりゃ直すのに結構掛かるな」
「まあ、誰も死ななかったし、それで良しとしよう」
安全だと分かり誰もが胸を撫で下ろしていた。
「しかしゴブリンが出てくるとはな…」
「確かに…滅多に出てこないからな。油断したぜ」
「数も多かったし。いつもなら二、三体程度だしな」
「こりゃハンターに依頼した方がいいんじゃないか?」
「むう…そうじゃな。後でその辺も考えねばな。じゃがまずは…」
村長はシリウスに向き直り深々と頭を下げた。
「おぬしのおかげで皆助かった。本当にありがとう」
村長が頭を下げた事を皮切りに村人達も頭を下げた。
「ありがとう!本当にありがとう!」
「あなたのおかげで皆助かったわ!」
「君は村の英雄だ!」
「いやいやいや、英雄とか止めてください」
もてはやされる事に慣れていないシリウスは結構必死になって頭を上げさせようとしている。しばらくして何とか頭を上げてくれて安堵の溜め息をついた。
「さて、まずは壊された所を直すところからじゃの。皆、手分けして頼むぞ」
村長の号令で村人達は村のあちこちへ散っていった。男達は壊れた家財などを外へ運び出したり、壊れた柵を直したり、家畜の無事を確かめに行ったりし、女達は怪我人を治療したり、物が散乱している部屋を掃除したりしている。
「お姉さん!」
「まー!」
終わったのを見計らって宿屋からポラリスを抱いたチュミーが飛びだしてきた。後ろから祖父母もやって来てシリウスの顔を見て安堵している。
「お姉さん!」
「まー!まー!」
「よしよし。ポラリス、もう大丈夫だよ。ママはここにいるよ。チュミーちゃんもありがとね」
全力でシリウスに抱きつくポラリスとお腹に抱きついているチュミーを優しく抱き締め返してあやしている。
「無事だったか。良かった…」
「大丈夫?怪我はしてない?」
「ええ。怪我一つありませんよ。そちらも大丈夫でしたか?」
「ああ。幸いうちは何も壊されたりはされておらんよ。君のおかげだ」
「いえ、ただ娘を守るためにした事ですから」
祖父母と無事を確かめ合っていると壮年の男性が近寄ってきた。
「あ、馬車の御者さん」
「ああ、こちらでしたか。実は馬車の出発を少し遅らせようと思っていまして。流石にこの状況で出発するのも気が引けますので、大体昼頃に出発しようと思っています」
「分かりました。わざわざありがとうございます」
「いえいえ、それでは」
御者は他の馬車の客に伝えるために去っていった。
シリウスは村の復興を手伝おうとしたが丁重に断られてしまい手持ち無沙汰になったので、その辺の石に腰掛けてまだ抱きついているポラリスとチュミーを膝の上に乗せて頭を撫でている。
「ま~」
「どうしたポラリス?」
「にへへ~お姉さん~」
「チュミーちゃんまで。やれやれ」
甘えてくる二人に苦笑しながらも二人を撫でる手は優しいままだった。その様子を祖父母は微笑ましそうに見ている。五人がまったりとしている中、村の復興は着々と進んでいた。被害自体はシリウスが早期に解決したのでそこまで大きいものでは無く、怪我人が数人と家の中を荒されたのが一番大きい被害だった。それから少ししてようやくシリウスから離れた二人を連れて宿屋に戻り遅めの朝食を取った。メニューはパンと昨日のシチューを水でのばしたスープだ。ポラリスも美味しそうにスープを飲み、チュミーもシリウスの隣で美味しそうに食べている。
朝食後、チュミーにせがまれて昨日の話の続きを話す事になった。シリウスの膝の上に座って目をキラキラさせながら聞いていたが、楽しい時間はあっという間に過ぎ去り出発の時間が迫っていた。その頃になるとチュミーは俯いたままシリウスに抱きついて離れなくなった。荷物はまとめたが動けなくなってしまったシリウスは苦笑したままチュミーの頭を撫でている。
「これチュミー。いい加減にしなさい。困っとるじゃろう」
「…」
「うーん、困ったわねぇ…」
いつもなら祖父母の言う事は素直に聞くいい子なのだが今回は聞こうとしなかった。
「チュミーちゃん」
「…」
「別にもう会えなくなるわけじゃないよ。お姉さんはまた戻ってくるから。ね?」
「…いつ戻ってくるの?」
「うーん…それはちょっと分からないかなぁ…」
「うぅ…」
シリウスが正直に話せば泣きそうになりながら再び抱きついた。
「いつかは分からないけどちゃんと戻ってくるよ。約束」
「…ほんと?」
「うん、ほんと」
「…ほんとにほんと?」
「もちろん」
チュミーが顔を上げればシリウスの優しい笑顔が見えた。チュミーはその言葉を信じて抱きつくのを止めてシリウスの手を握った。荷物を背負いポラリスを抱き上げてチュミーと手を繋ぎながら馬車へと向かった。馬車では客が乗り始めていて見送りにきた村人達も集まっていた。
「おお!村の英雄様だ!」
「もう行ってしまうのか…」
「残ってくれれば安心なんだけどねぇ…」
「気をつけてくれよ!」
村人達からの声援を受けて苦笑しながら馬車に近づき、乗り込む前にチュミーに向き直った。
「じゃ、行ってくるね」
「…行ってらっしゃい!」
涙を拭いて精一杯の笑顔を見せてくれたチュミーに笑い掛けながらシリウスは馬車に乗り込んだ。
「じゃあ出発するよ。ほれ」
全員が乗り込んだのを確認して御者は馬を走らせた。村人達に交じってチュミーは馬車が見えなくなるまで手を振り続けた。やがて馬車が見えなくなると再び涙が溢れ出してきたが涙が流れる前に祖父がチュミーの頭を撫でた。
「じいちゃん…?」
「約束したじゃろ?また会えるって。ならいつまでも泣いていたらいかんぞ」
「…うん!もう泣かない!」
「ふふふ…さあ、帰りましょうか」
「うん!」
チュミーは祖父母と仲良く手を繋ぎながら家に帰っていった。馬車の中のシリウスはぐずついているポラリスをあやしていた。
「う~…」
「よしよし、別れちゃって寂しいね。でもママがいるよ」
仲良くなったチュミーと離れて寂しくなったポラリスをシリウスは優しく抱き締めて頭を撫でた。機嫌が戻ってきたポラリスはそのままシリウスの手で遊び始めた。ポラリスの好きにさせながら外を眺めていたシリウスだが心地良い日差しと馬車の揺れと戦闘の疲れで眠気が襲ってきたので、ポラリスを膝の上に置いてひと眠りする事にした。シリウスの手で遊んでいたポラリスだったが反応が無くなったので見上げるとシリウスが寝ていた。眠るシリウスをジッと見ていたポラリスだったがやがてシリウスの手を抱き締めたまま眠った。仲良し母娘に馬車の客は微笑ましそうにしていたた、眠る姿をみていたら自分達も眠くなってきたのでそれぞれ眠り出した。御者がふと振り返り馬車の中を見ると皆が寝ていたので苦笑し少しだけ馬を走らせる速度を落とした。道中問題も無くゆったりと走り続け、日暮れ前には次の町に辿り着いた。
町の名前は“レムドー”。
ターエルより規模が大きいその町は代々レムドー子爵が治める町だ。ターエルと同じように町の周辺を壁で囲い、門や壁の上には屈強な兵士が見張りをしている。町の中心にはレムドー子爵が住んでいる屋敷があり、貴族が住むに相応しいと言える豪華で大きな建物だ。貴族が住んでいる所為か守りは堅く町の出入りも許可証が無ければ入るのにかなりの時間が掛かりターエルよりも窮屈に感じられる。
「止まれ!」
馬車が門に近づくと門番が馬車を止めた。
「許可証は持っているか?」
「ええ、こちらに」
「ふむ…乗り合い馬車組合の者か。一応確認するぞ」
門番の兵士が指示すると数人の兵士が馬車に乗り込んだ。一人一人に目的などを確認しておりシリウスにも近づいてきた。
「この町には何をしに?」
「旅をしていましてそれで立ち寄りました」
「旅か。身分を証明できる物は?」
「これで大丈夫ですか?」
「む、そのペンダントはハンターの…うむ、十分だ…若いのに大変だな」
「ありがとうございます」
兵士達の確認が終わり馬車の町の進入が許された。門を潜り町に入るとターエルと似たようなレンガ造りの家が立ち並んでいる。しかしレムドーは古くから存在し古都と言えるほどの歴史がある町で、ターエルとは違い歴史を感じる重厚感があった。
馬車は町中を進み馬車の停留所に辿り着き止まった。
「皆、着いたよ。お疲れさん」
客はぞろぞろと馬車を降りて迎えに来た家族と家に帰ったり、宿屋へ向かったりしている。
「すいません、宿はどちらの方にありますか?」
「宿かい?それならこの通りを真っ直ぐ歩けば看板が見えてくるよ」
「ありがとうございます」
御者に教えてもらった方へ歩いていくとハンターであろう一団が歩いていた。ターエルにいるハンターとは違い、粗暴という印象を受ける見た目をしており、時々聞こえる会話も下品なものが多かった。
「ああいうのは普通なんだろうな。ターエルは多分例外だな」
登録料さえ払えば誰でもハンターになれるので例えば犯罪者ですらなることができる。それゆえハンターは粗暴であるという印象を持たれがちになる。最初に訪れた町がターエルで良かったとしみじみ思いつつ、宿を探していたら看板を発見した。数軒ほど建ち並んでいてシリウスはなるべく外観が綺麗でそれでいてそこそこ人の出入りがある宿に入った。
「いらっしゃい。泊りかい?食事かい?」
「泊まりです。二、三日ほど泊まりたいんですが」
「一泊500リクルだ。食事ありなら一泊800リクルだ」
「(高え…やっぱりターエルは例外なんだな)じゃあ、食事ありで。2400リクルです」
「…確かに。部屋は階段を上がって突き当たりの所だ。これが鍵だ。無くすなよ。食事は一階の酒場で取ってくれ。そっちの奥に水場があるから洗濯とかはそっちでやってくれ」
「分かりました」
鍵を貰ってシリウスは二階に上がり突き当たりの部屋に入った。部屋は思ってたより綺麗だったが少し空気が澱んでいたので、シリウスは窓を開けて換気しベッドのシーツなどを叩いて埃を取った。
「…ここもまだマシなんだろうけど、それでもこんな感じか…マジでターエルすげぇ…」
安いだけでなくサービスも凄かったターエルの凄さを改めて感じた。埃を取っ払った後、テーブルの上に避難していたポラリスを抱いてベッドに座った。シリウスに甘えるように手を伸ばしてくるポラリスに頬擦りしながら抱き締めた。
「あ~♪」
「フフッ、よしよし」
そのままベッドに寝転び夕食の時間までポラリスとイチャイチャしていた。
「…そろそろか。ポラリス~ご飯食べようか~」
「あ~」
財布を持って部屋を出て下に降り酒場へ向かった。酒場はまだ空席があったがそれも徐々に埋まり始めていた。
「はーい、いらっしゃい。あら?子連れ?珍しいわね…」
「赤ちゃんでも食べれそうな物ってあります?」
「んー…スープならあるけど、ちょっと味が濃いかもね…一応料理人に言ってみるけど期待しないでね」
「ありがとうございます。それとオススメは何ですか?」
「今日のオススメは肉がゴロゴロ入ったシチューよ」
「ならそれをお願いします」
ベテランのウェイトレスは注文を受けて厨房へ向かった。
「おい見ろ」
「あん?…何だあいつ?」
「子連れたぁ珍しい」
「よく見れば中々別嬪じゃねえか」
「ヘッヘッヘ。服を着てて分かり辛えが身体つきも悪くねえぜ」
「はっ!テメェみたいなのが声を掛けたところでフラれるのがオチさ!」
「んだと!?」
「ちげえねえ!ギャハハハハ!」
下品な会話の中で自分が話題に上がりシリウスの眉が吊り上がるが、絡みに行けば面倒な事になるのは目に見えているので無視した。
「はーい、お待たせー。そっちの子供の分の薄めのスープも持ってきたわ」
「ありがとうございます。ポラリス~食べよっか。いただきます」
シリウスはポラリスのスープを少し掬い飲んだ。赤ん坊には少し濃い気がしたので一応持ってきた水袋の水をスープに注いで薄め始めた。再び飲んでみると十分薄まったのでポラリスに飲ませたら普通に飲んでいるので問題は無さそうだった。シリウスはポラリスにスープを飲ませ合間にシチューを食べている。
「(肉の味がする。そらこんだけ肉が入ればそうなんだけど…なーんかあんまし美味しくない。灰汁とか取らないと美味しくならない、だっけか?ダメだ、忘れた。肉も硬いし、食事もターエルの方が上だな。いや全部食べるけどね)」
シチューの評価を内心で付けつつ食事を進めた。
「ふぅ…ごちそうさまでした」
「あ~」
食事を終えると誰かに絡まれる前にさっさと部屋に戻った。部屋に戻りポラリスをベッドの上に置いてから荷物から着替えなどを取り出した。
「(明日はこの町を観光するか。治安は…一応兵士が巡回してるけどあんまり期待しない方がいいかな。裏通りとかは行かない方針で。この町にもギルドはあるらしいから顔を出そうかな?でもさっきの連中みたいなのがいっぱいいるんだろうな…こっちは一人だし、ポラリスもいるから揉め事は回避しないとな…まあ、ギルドの中ならそこまでの事はしてこないだろう…多分。もししてきたら股間を狙うか)…ん~?どした~?」
「ま~」
「どしたどした~♪」
「あ~♪」
シリウスに甘えて手を掴むポラリスを捕まえて全身を擽り始めた。眠たくなるまでポラリスとイチャつきまくり、歯を磨いて寝間着に着替えた後仲良く眠った。