転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第四十四話

 

 レムドーに来て翌日の朝。

 日光で目を覚ましたシリウスはいつものように着替えてポラリスのおしめを変えて洗濯した後部屋に干した。

 

「今日は日課は止めとくか。ご飯を食べて宿の位置を確認したら観光だ」

 

 ポラリスを抱き上げて朝食を取りに下に降りた。酒場は疎らに人がいて朝食を取っていた。

 

「はーい、朝食ですね。スープとパンですけどいいですか?」

「はい、お願いします」

 

 ウェイトレスが注文を聞いて厨房へ向かい、シリウスはポラリスと手遊びをしながら朝食が来るのを待った。

 

「はーい、お待たせー」

「ありがとうございます。ではいただきます」

 

 ポラリスに薄めたスープを飲ませつつシリウスもスープにパンを浸しながら食べた。他の宿泊客から物珍しそうに見られながら黙々と食べ進め終わるとさっさと部屋に戻り出かける支度をした。

 

「剣持った。財布持った。肩掛けカバン持った。ポラリス持った。オッケー、出発」

「あ~」

 

 忘れ物が無いか確認してから宿を出てレムドーの散策へ出掛けた。

 レムドーは歴史ある町なので過去に幾度も戦火に巻き込まれている。敵側に占拠されたり、破壊されたりを何度も体験しており今も町の至る所にその爪痕が残っている。破壊された家を修繕した事でレンガの色が違ったり、壁に矢が刺さった跡や刃物で斬られた跡などが残っている。

 

「(古い町を観光するのって結構テンション上がるな)」

「ちょっと…!離して…!」

「ヘッヘッヘ、いいじゃねえか」

「俺達と楽しもうぜ~」

「…ああいうのがいなかったらもっと良かったんだけどなぁ…はぁ…」

 

 お腹が出ている丈が短い服とショートパンツという少し露出がある服を着たハンターの女性が複数の男に囲まれて路地裏に無理矢理連れていかれそうになっていた。シリウスは流石に見て見ぬふりはできないのでどうしようかと辺りを見回した。

 

「あ、兵士さーん」

「ん?どうした?」

「あそこ」

「何だ?…おい!そこで何をしている!」

「げっ!?巡回だ!?」

「逃げろ!」

「待たんか!」

「追え!逃がすな!」

 

 ちょうど兵士が巡回していたので報告したら男達は逃げ出し兵士達は追い掛けていった。襲われていた女性は無事そうだったのでシリウスはその場から静かに離れて散策に戻った。

 

「やっぱ治安悪いな…表通りでも気をつけないとな」

 

 シリウスは一際賑わっている市場に足を踏み入れた。ターエルより大きい町なので種類も豊富で見ているだけでも楽しめるほどだ。

 

「おーおー、デカい魚。そしてカラフル。肉もいっぱいあるなー…そしてここにもあるか蟲肉。ジャイアントアントの肉にフォレストスパイダーの肉…やっぱ食べれるようにならないといかんのか?…今は置いておこう。野菜も山積みだな。カラタマにマルイモにナガニンジン。アマイモ?サツマイモみたいなのか。色々あるなー。値段はターエルの1.5倍ぐらいか…まあこっちが普通なんだろうな」

 

 市場をある程度見終わり続いて店の方を覗いてみると品揃えはターエルと似た感じで違うのは値段ぐらいだった。

 

「高え…いかんな。ターエルで慣れちまってる。直さなきゃこの先何も買えんぞ」

 

 色々見て回った結果、シリウスの中の金銭感覚がターエルのもので固定されかかっているので直す必要が出てきた。店を離れて散策を続けていると大きな建物が見え、ちょうど武器を持った粗暴そうな男達が中に入っていった。

 

「あそこがギルドか…行ってみるか」

 

 男達に続いてシリウスもレムドーのギルドに入った。中の間取りはターエルと大きく変わらず、広いロビーがあって奥に受付があり壁に依頼書が張ってある。シリウスはどんな依頼があるのか見ていると周囲から視線を感じた。

 

「何だあいつ?」

「依頼人か?いやそれならあんなとこにいないよな」

「…おい、首元見てみろ」

「ペンダント、っておいおいあの色…!」

「五級だと!?あんなガキが!?しかもガキを抱いて!?」

「どっちもガキになってるじゃねえか。別けろよ」

「うるせえ!それどころじゃねえだろうが!」

「あんなに可愛いのに…やるわね」

「私達より年下よね?十五、六歳ぐらい?」

「いったいどんな事すれば五級になれたのかしら?」

「呑気な事言ってる場合か!何であんな奴が!」

「おいおい、こいつ妬いてやがるぜ」

「自分が万年六級だから嫉妬してんのか?」

「ギャハハハハ!情けねえ!」

「テメェ!」

「ぐわっ!?何しやがる!」

「おお!?喧嘩か!?」

「ハッハッハ!いいぞ!やれやれ!」

「止めなさい!みっともない!」

「言っても聞かないわ。ほっときましょ」

「ギルド内で喧嘩は止めてください!ちょっと!聞いてます!?」

「(私の所為か?いや、私は関係無い。無いったら無い)」

 

 ロビーの一角で喧嘩が始まったが、シリウスは巻き込まれたくないので視線を向けなかった。仕事でもしようかと思ったが、まだレムドー近郊の地理を把握していないので見るだけにしておいた。

 

「労働系と採取系はターエルと一緒だな。荷物運びに売り子と薬草採取と山菜採取。討伐系は…ゴブリンの調査及び討伐。この辺にも逃げたのかね?ジャイアントスネークの討伐。確かでっかい蛇だったな。アナコンダぐらいか?ジャイアントキャピラーの駆除。何々?〈大量発生して農作物が食べられているので駆除してください〉。害虫扱いかよ。ファストホークの捕獲。あー…確かデカくてやたらと速い鷹だったかな?それを捕まえろと?無理無理。というより捕まえて何するんだよ?ペットにでもする気か?」

 

 依頼を一つ一つ確認しており、口では色々とツッコんでいるが頭の中ではどう攻略するかをシミュレートしている。見た事が無い魔物は勝手にイメージした姿になっているが。一通り見て回った後、喧嘩をしている方に近寄らないように受付に向かった。

 

「すいません。資料とかは閲覧できますか?」

「え?…ああ、ハンターでしたか。ええ、そちらの部屋に置いてありますよ」

「ありがとうございます」

 

 一瞬怪訝な顔をした職員だったがペンダントを見てすぐに思い直した。シリウスは案内された部屋に入り、積み上げられている資料を適当に取って見ている。

 

「…全然整理されてないな。やる気が無いのか、人手が足りないのか。せめてジャンルぐらい別けてほしかったな」

 

 そこは資料室とは名ばかりの物置と化していた。

 魔物の生態の次の資料がレムドー近郊の地図だったり、先のゴブリンの大移動の時に発生した被害状況の報告書の次の資料が問題を起こしたハンターの一覧だったりと雑多に積まれていた。

 

「ここにあっちゃいけない物もあるんですけど…報告書とかここに置いちゃいかんでしょうに…」

 

 関係者以外は見てはいけない代物もあるが、ここに置いている方が悪いとちゃっかりしっかり見ているシリウス。小一時間ほど資料を見ていたがポラリスがお昼寝から目を覚ましたので資料を片づけて部屋を出た。流石に喧嘩は終わっており当事者らは仲間にからかわれながら手当てされていた。

 

「(私は関係無い。私は無関係)」

「おい!そこのガキ!」

「(マジかよ…)…何ですか?」

 

 関係無い人を装って通り過ぎようとするが見つかってしまった。

 

「何でテメェみたいなガキが五級になれたんだ!?あぁ!?」

「おい、止めとけ」

「さっき散々絞られたのにまだ懲りてないのか?」

「うるせえ!黙ってろ!おい!さっさと答えろ!」

「…私の実力を認めたんでしょ」

「はぁ!?嘘つけ!テメェみたいなガキが五級に上がれるような魔物を倒せるわけねえだろうが!どうせ身体使って手に入れたんだろうが!そうに決まってる!」

「ふえええぇぇぇ…」

「よしよし。大丈夫」

「うるせえ!ピーピー泣いてんじゃねえ!黙ってろ!」

 

 素直に答えたのに頭ごなしに否定されただけだなく色仕掛けで地位を手に入れたと言われたが、それだけならシリウスは適当に流すつもりだった。だがポラリスにまで八つ当たりしてきたので流石にカチンときた。

 

「なにそれ!最低!」

「ふざけるんじゃないわよ!」

「その子と赤ちゃんは何も悪くないじゃない!」

「おい、言い過ぎだろ」

「そんな証拠あんのかよ?」

「テメェの嫉妬からくる妄想だろ?」

「うるせえ!うるせえええぇぇぇ!」

 

 男はギルド中から非難轟々に合いながらも意見を撤回せず顔を真っ赤にしながら怒り狂っている。

 

「(もういいよな?ヤッちゃっていいよな?)…フンッ!」

「おごぉ!?」

「「「「「ひぇ!?」」」」」

「「「「「うわぁ…」」」」」

 

 我慢の限界を超えたシリウスは背中を向けている男の股間目掛けて思いっきり右足を蹴り上げた。寸分狂いなく右足は男の股間に直撃し、男は汚い悲鳴を上げ白目を剥いて倒れた。

 

「ふん…他に意見は?」

「「「「「あ、いえ。何も無いです」」」」」

 

 容赦なく急所を蹴り上げたシリウスに男達は内股になりながら白旗を上げた。周囲を睨みつけながらシリウスはギルドを出た。

 

「こ、怖えぇ…」

「全面的にあいつが悪いが流石に同情するな…」

「あれ大丈夫?去勢されてない?」

「よ、容赦ないわねあの子…」

「ちょっと怖かったわ…」

「でもあれぐらいガツンとやらないとまた難癖つけられるからいいと思うわよ?」

 

 倒れた男は仲間に救助されていき同情が集まる中、誰もがシリウスに注目し話題になった。

 

「あ"ー、腹が立つ」

「ひっく、ま~…」

「んんっ…ポラリス~もう大丈夫だよ~」

 

 ポラリスを抱き締めながら頭を撫でてあやすと同時にシリウスは心を落ち着かせようとしている。しばらくしてシリウスは落ち着きポラリスも笑顔を見せてくれた。

 

「さーて、気を取り直して散策の再開だ」

「あ~」

 

 シリウスはギルドを離れて大通りを歩き始めた。

 レムドーは中央の屋敷をを基点に円形状になっており内側から貴族、商人、市民の順番にエリアが広がっている。一般人は商人エリアまでは自由に出入りができるが、貴族エリアは許可が下りなければ入る事は禁止されている。ギルドがある場所は市民エリアと商人エリアの間でシリウスは商人エリアへ向かった。商人エリアは商人の邸宅や店の他に倉庫があり荷物を積んだ馬車が行き交っており、荷物を倉庫や店に運び入れたりしている。シリウスが歩いているのは倉庫街でレンガの倉庫が立ち並んでいる。

 

「こういうのはどこにでもあるんだな…」

「ま~」

「ん?どうした~?」

「あ~、う~」

「おしめか?それともお腹が空いたのか?…後者だな。よし、何か食べよっか~」

「あ~」

 

 ポラリスでも食べられそうな物を探しに歩き始めた。倉庫街を抜けて飲食店が並ぶ場所にやってきたが、どこも値段が高そうな高級店ばかりだった。シリウスが今いるのは貴族御用達の飲食店が立つ場所だ。シリウスはそこから外側へ向かうと商人や金を持った市民が入るような飲食店を見つけた。

 

「うーん…この辺にするか?でもこの辺でも高そうだな…一食1000リクルぐらいしそうだな…どっかに屋台みたいなのがあればいいんだが…お?」

 

 シリウスが辺りを見回していると移動式の屋台を見つけた。店を出す場所を探しているのか移動中らしくシリウスはその後を付いていった。屋台は市民エリアの通りで止まり手早く準備を始めた。屋台はサンドイッチとホットドッグを売っており早速ハンターの一団が買いに来ていた。

 

「はいいらっしゃい!何にします?」

「色々あるな…ジャムと卵とソーセージ、じゃなくて腸詰めを一つずつ」

「はいよー!全部で150リクルだ」

「はいこれ」

「毎度!」

 

 サンドイッチ二つとホットドッグ一つを買い食べられそうな場所を探し始めた。ターエルのようにベンチは置いておらずしばらく歩き回ると空き地を見つけた。何かを建てるには微妙に狭いので手付かずとなり子供達の遊び場と化しており、手入れがされておらず草木が生えてちょっとした公園みたいになっている。子供達は他の場所で遊んでいるらしく誰もいなかった。

 

「ちょうどいいな。ここにしよう」

 

 座るにはちょうどいい石に座り昼食を取り出した。

 

「いただきます。ポラリス~、あ~ん」

「あ~」

 

 ジャムのサンドイッチを少し千切りポラリスに食べさせた。ポラリスは笑顔で食べておりシリウスも釣られて笑顔になる。ポラリスがサンドイッチを食べている間にシリウスはホットドッグに齧りついた。

 

「うまっ」

 

 現代のよりも作りが粗いもののそれが逆に良い味を出していた。ポラリスが欲しがる前に急ぎ気味で完食しポラリスもお腹一杯にサンドイッチを食べた。

 

「ごちそうさまでした。ポラリス、美味しかった?」

「あ~♪」

「そっか」

 

 ポラリスの満足げな表情を見てシリウスも笑った。残ったサンドイッチを全て食べ終わり散策を続けた。

 飲食店が並ぶエリアを抜けて武器防具や水薬、魔具や野営道具などハンターが使用する物を売っているエリアへやってきた。他のエリアを比べて活気はあるものの言い争う声や喧嘩などが発生しており殺伐としている。

 

「おい!ポーションが一本2000ってぼったくりにもほどがあるだろうが!1000にまけろ!」

「ああ?ふざけんな!こいつはある筋から手に入れた特別製だぞ!」

「嘘つけ!どっからどう見てもただのポーションだろうが!」

「んだとっ!?」

「あっちでも言い争ってるな」

「おい、こっちで喧嘩してるぞ!」

「マジか!?見に行かねば!」

「くたばれ!」

「ぐはぁ!?くっ…この野郎!」

「があ!?やりやがったな!」

「いいぞ!やれやれ!」

「おら!そこだ!」

「腹だ!腹を殴れ!」

「ギャハハハハ!喧嘩を肴に飲む酒は美味いぜ!」

「(何だここ…世紀末か?こわっ、近寄らんとこ)」

 

 巻き込まれたくないのでそのまま来た道を引き返した。

 

「これで大体見たかな?貴族エリアは見てないが、うーん…正直貴族に興味は無いけどどんな風貌してるのかだけ見に行くか。まだ日暮れには時間あるし」

 

 エリアに入れずとも遠目に見る事はできるのではと思い貴族エリアへ向かった。貴族エリアは鉄柵で囲われておりいくつかある門には屈強な兵士によって守られている。

 

「(あんな大きい家はいらんな。どうせ使わん部屋が出てくるし、掃除も大変だ)…お?」

 

 遠目に貴族の邸宅を眺めていると一台の馬車が門から出てきた。シリウスと擦れ違うように馬車は先ほど歩いた高級飲食店の方へ向かっていった。擦れ違う時に中にいた貴族が少しだけ見えた。豪華で煌びやかな服を着て、成金全開のキラキラしたアクセサリーをたくさん付けた如何にもな貴族だった。

 

「(見た奴が偶々そういうのなのか、それともここにいる奴ら全員がああいうのか、判断しづらいな…)さて、そろそろ帰るか」

 

 目的を果たしたのでシリウスは宿へ帰る事にした。宿までの道筋は意外と覚えておりすんなりと帰れた。夕食を取った後はいつものように歯を磨いて寝間着に着替えポラリスと仲良く寄り添いながら眠った。

 

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