転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第四十五話

 

 翌朝。

 いつものように着替えてポラリスのおしめを変えて洗濯を済ませた後朝食を取って部屋に戻ってきた。

 

「今日はどうするか…昨日歩いたから大体の地理は把握したけど…労働系なら何とかできるか?まあ、行ってみて決めるか。っと、その前に今日は日課をしておくか」

 

 ポラリスを抱き上げて剣を持って宿の裏手に行ってみた。やや狭いが剣を振り回せるスペースはあったので近くの箱の上に上着を敷いてその上にポラリスを置いてから素振りを始めた。

 両手で剣を持って上段から振り下ろす。それを百回繰り返した後、ポラリスを抱いて右半身を前にし今度は剣術に沿って振っている。

 唐竹、袈裟切り、逆袈裟、右薙ぎ、左薙ぎ、右切り上げ、左切り上げ、逆風、刺突。

 ポラリスに当たらないようにしつつ戦闘時と同じ速度で振り続けている。日課の素振りを終えると汗を拭いながら部屋に戻りギルドへ向かう準備を始めた。

 

「…よし、行くか」

 

 ギルドへの道筋は何となく覚えており、宿を出てそちらの方へ向かっていると途中でハンターの一団がギルド方面へ歩いていたので便乗してその後を付いていった。ギルドに到着し一団の後に続いてギルドに入ると一斉に視線を感じた。

 

「おいあれ…」

「…ああ、昨日の」

「見た感じは普通だが本当にあいつなのか?」

「ああ。俺は全部見たぞ」

「うぅ…思い出したらまた腰が引けてきた…」

「あれはな…耐えるとかそういう次元じゃないからな…」

「昨日のあの娘だ」

「あんたが言ってた子ね…確かに。中々できるわね」

「あの剣ってソルジャーアントの牙じゃない?」

「ホントだ」

「アレを倒せるって事は五級なのも納得だわ」

 

 男達は昨日の事を思い出して若干腰が引けて少々青褪めており、女達は冷静に観察しながら評価して話し合っている。

 

「(まーた見られてる…面倒だ。無視しよ)」

 

 関わっても碌な事が無いと視線を無視して依頼が張ってある掲示板へ向かった。

 

「(労働系はあるけど…ほとんどが荷下ろしとかそういうのだな。そういう系はやめとこ。うーん…お?)」

 

 依頼書を一つ一つ手に取って確認していくもののポラリスを抱いたままできそうな仕事が中々見つからずにいたが、偶々手に取った依頼書は他と違った。

 

「何々?〈急募!接客・会計ができる方大募集!報酬は1000リクル!〉。急ぎらしいな。報酬はかなり高めだけど…仕事内容って何だろうか?」

 

 取りあえずその依頼書を持って受付へ向かった。

 

「すいません。この依頼書なんですけど、この店って何を扱ってる店ですか?」

「どれどれ?…あぁ、この店か。この店は服を売ってる店だよ。商人とか貴族とか金を持ってる人が買いにくるよ」

「へー…まあいっか。これお願いします」

「はいはい。じゃあこれ半紙ね。場所はここ。急ぎらしいから今から行ってくれる?」

「分かりました」

 

 店までの地図を貰ってシリウスは早速向かった。店は商人エリア内の大通りに面している一等地だった。店に入ると店長らしき人が相当焦っているのか同じ場所を行ったり来たりしている。

 

「あの…」

「!!来た!依頼を受けてくれたハンターだよね!?そうだよね!?」

「うぇ!?え、ええ。そうですけど…」

「良かった!これで何とかなる!時間が無い!早速こっちに!」

 

 かなり切羽詰まっているらしく挨拶もそこそこに奥へ連れていかれた。

 

「まずこれ!これに着替えて!早く!」

 

 店の制服を押し付けられて更衣室らしき場所に押し入れられた。

 

「…いや、時間が無くて焦るのは分かるけどさ。もうちょっと説明してくれよ…」

 

 説明も無しに着替えろと言われプチ不満が出たが取りあえず着替える事にし渡された服を見てみると燕尾服だった。

 

「…普通は女性用の服を渡すと思うんだけどな。焦ってたから間違えたんだろうな」

 

 スカートは慣れないのでシリウス的には問題は無かったのでさっさと着替えた。

 

「見た感じ問題無いが…これでいいか…?まあ行くか。お待たせしました」

「来t、何で!?」

「何でって、渡されたのがこれなんですけど」

 

 更衣室から出てきたのは男装の麗人だった。燕尾服を着こなしており髪の毛を整えれば完璧な男装の麗人となるだろう。一緒にいた従業員の女性陣は顔を赤くし見惚れている。

 

「ぐぬぬ…!今から着替えさせるのも間に合わないし仕方が無い!そのまま頼むよ!」

「分かりました」

「あの、店長?その赤ちゃんは?」

「……何でいるの!?」

「いや、最初っから抱いてましたけど」

「ぬおおおぉぉぉ…!もうそのままでいいよぉ!」

「店長…!早く出ないと遅れます!」

「分かってる!後は頼んだよおおおぉぉぉ!」

 

 焦りに焦って涙目になり始めている店長は数人の従業員と大急ぎで荷物を持って出ていった。

 

「ごめんね。貴族様の邸宅に行かなきゃならなかったんだけど、従業員が数人病気で倒れちゃったの」

「それで依頼を出したんですね」

「そうなの。接客と会計ができるハンターなんていないって皆思ってたんだけど来てくれて助かったわ」

 

 現在店にいるのはシリウスの他に話している女性従業員と奥で作業している二人の職人の計四人だった他の従業員は皆店長に付いていっているので実質二人で乗り切らなければならない。

 

「思ってた以上に大変ですね…」

「そうねぇ…最悪、今日は休みにするかって店長も悩んでいたみたいだけど…ここの家賃の支払いがそろそろだから中々休むわけにもいかないのよねぇ…」

 

 割と切実な事情があり休むに休めなく、だが従業員がいなければ店を開ける事もできず、でも貴族からの呼び出しに応じないわけにはいかず、にっちもさっちも行かなくなり藁をもすがる思いで依頼を出したそうだ。

 

「仕事の内容だけどあなたはここに座って会計をしてくれる?値段はここに書いてあるわ。私はお客さんの相手をするからお願いね」

「分かりました」

 

 シリウスは受付に座り膝の上にポラリスを乗せて値段を覚えようと値段表を見ている。指導役の女性従業員は見本の服の埃を落としたり、色とりどりの布の在庫を確認している。しばらくの間静かな時間が過ぎていたが長くは続かなかった。

 店の前に馬車が止まる音がしてドアが開き客が入ってきた。妙齢の女性とその女性と顔立ちが似たシリウスと同じぐらいの歳の女性がメイドを連れて入ってきた。

 

「まあ!セヘル夫人!アニエラ様!よくお越しくださいました!」

「あら?今日は店長はいらっしゃらないのね?」

「申し訳ございません。店長と他の者はレムドー子爵様から呼び出しがございまして外出しております」

「そう、なら仕方が無いわね。今度そのレムドー子爵がパーティーを開くから娘の新しいドレスを見繕ってほしいの」

「かしこまりました。ではアニエラ様、採寸をしますのでこちらへ」

「分かったわ」

「シリウスさん。セヘル夫人にお茶をお出しして。お茶は裏にあるわ」

「分かりました」

 

 シリウスは貴族の二人に一礼しポラリスを抱いて奥へ向かった。

 

「…あの方は?見ない顔だけど?」

「えっと…実は従業員が数名病で伏せておりまして、少々人手が足りなかったもので急遽来てもらったハンターの方です」

「ハンター?見たところ娘と同じぐらいの歳に見えたけど?」

「その…私どもも詳しくは…」

「そうなの…ハンターは粗暴で汚らしいと思っていたけど、ああいう方もいるのね」

「でもお母様?さっき赤ん坊を抱えていましたわ。いくらなんでも赤ん坊を抱えたハンターなんているわけありませんわ」

「…まあ、なんでもいいわ。アニエラ、まだ行く所があるのだから早くなさい」

 

 シリウスが奥の給仕室で紅茶を入れようと悪戦苦闘している間にそんな会話がされていた。給仕室に紅茶の入れ方が書かれた紙が合ったのでそれの通りにしているが、やった事が無いので時間が掛かっていた。

 

「これで…いいのか?書かれてる通りにしたが…不安しかない。ええい、あまり待たせる訳にもいかん。行くしかない」

 

 高級そうな銀のトレイにティーカップや砂糖壺などを乗せて、音を立てないように慎重に運んだ。

 

「お待たせいたしました」

 

 夫人は貴族専用の応接室に通され飾ってある絵を眺めていた。シリウスはかなり待たせてしまったと思い内心焦っているが、シリウスが給仕室で紅茶を入れようとしている時に先ほどの会話があったのでそのおかげでそこまで待たせる事は無かった。シリウスは紙に書いてあった入れ方を思い出しながら慎重に紅茶を入れ音を立てないように夫人の前に置いた。

 

「…あなた、女性だったの?」

「え?ええ、そうですが」

「なら何故そのような格好を?」

「女性用の制服が無かったためやむなく男性用を着ております」

「そう…」

 

 燕尾服を着ていたので男と思っていたらしく声を聞いて少々驚いていた。理由を聞いて納得したのかそれっきり会話は無く、夫人は紅茶を飲みながら応接室の絵を眺めており、シリウスは数歩離れた壁際に静かに立っている。

 

「すぅ…すぅ…うにゅ…う~…ま~…」

「ポラリス?どうした?」

 

 お昼寝をしていたポラリスだったがふと目を覚ましてぐずつきだした。シリウスはすぐに反応しおぶっていたポラリスを抱っこしてあやし始めた。

 

「申し訳ございません。暫し失礼します」

 

 夫人に一言詫びて少し離れた所でポラリスをあやしている。

 

「…赤ん坊を抱えたハンターなのは本当らしいわね」

 

 慈愛に満ちた笑顔でポラリスをあやすシリウスを見て夫人は呟いた。ポラリスの機嫌が直った辺りで採寸が終わり奥からアニエラと女性従業員とメイドが戻ってきた。

 

「セヘル夫人。お待たせいたしました」

「構わないわ。さて、どんなドレスにしましょうか?アニエラ、希望はあるかしら?」

「殿方が私に夢中になって、他の令嬢方が悔しがる、そんなドレスがいいわ!」

「あなたねえ…全くこの子ったら…」

「(貴族っぽい会話だなぁ…ん?何か外が騒がしいような…?)」

 

 シリウスは甘えてくるポラリスの頭を優しく撫でていたら外が騒がしくなっているのに気がついた。男の叫ぶ声や兵士の怒号や走り回る音が徐々に近づいてきている。

 

「(嫌な予感がする)…失礼します。誠に申し訳ございませんが、暫しこちらの方へ」

「あら、どうしてかしら?」

「ちょっとあなた!平民風情が貴族に意見しないで!無礼よ!」

「お叱りは後程。何卒」

「シリウスさん?どうしたの?」

 

 良くない兆候を感じ取り無礼を承知で有無を言わさずその場にいる全員を応接室の端へ押しやった。全員が移動した直後、応接室のドアが蹴破られ男が入ってきた。

 

「ヒ、ヒヒッ。ヒヒヒヒヒ、ヒャハハハハ!」

「き、キャアアアァァァ!?」

「な、なな…!?」

「「ひぃ!?」」

「ちぃ!面倒な!」

 

 男は薄汚れた襤褸を纏い手には割れた酒瓶とボロボロのナイフを握っている。焦点の合わない目と口から涎を垂れ流す姿は違法な薬を接種した薬物中毒者そのものだった。

 

「やっと追いついたぞ!」

「た、隊長!貴族の方が!?」

「な、何だと!?クソッ!」

 

 追い掛けてきた兵士も入ってきたが男を刺激して貴族が人質にされたり、傷つけられたら自分達の首も飛びかねないので迂闊に動けずにいた。

 

「ヒャハハハハ!ヒャーハハハハハ!」

 

 男は割れた酒瓶とナイフを振り回して兵士を近寄らせず少しずつ貴族の方へ迫っている。

 

「い、いやあああぁぁぁ!?来ないでえええぇぇぇ!?」

 

 アニエラは恐慌状態に陥って泣き叫んでおり、夫人はアニエラを抱き締めて震えており、メイドと女性従業員は身を小さくして震えている。

 

「ヒャッハァ!」

「うるさい!」

「ヒャバ!?」

 

 男は震え怯える貴族を見て悦に浸っていたが、隙を見てシリウスが男に殴りかかった。男の頬を殴りよろめいたところに蹴りを放った。

 

「お帰りください!」

「ヒャボ!?」

 

 ヤクザキックが炸裂して男は兵士達の間を抜けて応接室から蹴り出された。

 

「…はっ!?な、何をしている!早く取り押さえろ!」

「「「は、はい!」」」

 

 シリウスが殴りかかった時から呆然と見ていた兵士は我に返り慌てて男を取り押さえた。

 

「ふぅ…付けてて良かった、力の指輪」

 

 付けたままにしておいた魔具のおかげで簡単に男を蹴り飛ばす事ができたが、これが無ければもう少し苦戦していたかもしれなかった。

 

「た、助かった、の?」

「ええ、もう終わりましたよ。あ、兵士さん。こちらの方々の保護をお願いします」

「あ、ああ、分かった。協力感謝する」

「…う、うわあああぁぁぁん!!」

「ああ…良かった…」

「奥様!お嬢様!ご無事で御座いますか!?」

「む、使用人か。すまんがお二方を馬車の方へ」

「は、はい。さ、こちらへ」

 

 馬車で待機していた老年の執事が夫人とアニエラを連れ出し正気に戻ったメイドもそれに付いていった。

 

「シリウスさん、大丈夫?」

「ええ、大丈夫ですよ。そちらも怪我が無くて何よりです」

「ま~」

「ポラリスも大丈夫そうだな」

「そう、良かったわ…それにしても、最近増えたわね…」

「ああいうのが増えたんですか?」

「ええ。浮浪者だけじゃなくて富裕層の人も危ない薬を使ってる人が増えてるみたいなの。噂じゃ闇組織が薬を売りまわってるらしいわよ」

「うへぇ…(マジかよ…ええい、こんな町にいられるか。私は次の町に行くぞ)」

 

 本当はもう少し観光してから次の町に行くつもりだったが、予定を変更して明日にでもこの町を出ていく事にした。

 

「失礼します」

「あら、セヘル夫人の執事さん。どうされました?」

「奥様とお嬢様の体調が優れないので本日はこれで失礼させていただきます」

「…そうですね。あんな目にあわれたのですから仕方がありませんわね。分かりました。後日邸宅の方でドレスの詳細を詰めるという事でよろしいでしょうか?」

「分かりました。お二方には私からお伝えいたします。ではこれで」

 

 執事は一礼し馬車に戻り馬車は足早に去っていった。

 

「さて、私達も仕事に戻りましょうか。まずは掃除ね」

「分かりました」

 

 多少とはいえ荒されたので仕事は一時中断し掃除と片付けをする事になった。奥にいた職人二人も手伝い歪んだドアを修理し、泥だらけの床を綺麗にし、床に落ちた見本品を回収し洗濯して綺麗にした。その後は普通の客が訪れて注文したり、商人が荷物の納品に来たりと実に平和な時間が過ぎていった。

 日が暮れる前に店長達も戻ってきて、昼間に起こった出来事を報告すると疲労と心労で白目を剥き泡を吹いて倒れてしまった。店長は従業員によって自宅へと運ばれていった。

 

「今日はありがとうね。おかげで助かったわ」

「いえ、仕事ですから」

 

 仕事が終わり店長の代わりに今日一日一緒にいた女性従業員が見送ってくれ、シリウスは依頼完了の報告をするためにギルドへ向かった。

 

「すいません。依頼完了の報告にきました」

「半紙を…はい、確かに。これが報酬ね」

「ありがとうございます。それと乗り合いの馬車ってどこに行けばいいですか?」

「それなら正門前辺りにあるよ」

「ありがとうございます」

 

 シリウスは報酬の入った袋を貰った後、ギルドを出て正門の方へ向かった。正門前にはちょうど乗り合いの馬車が入ってきたところで乗っていた客が降りてきた。

 

「すいません。少しいいですか?」

「ん?何だい?」

「王都方面に行く馬車ってありますか?」

「王都の方かい?ちょっと待ってておくれ」

 

 御者の男性は乗り合い馬車組合の建物に入り確認してくれた。

 

「あー、残念だが昨日出たところでしばらくは無いね。次の便は五日後だそうだ」

「そうですか…分かりました。ありがとうございます」

 

 出鼻を挫かれやや気落ちしながら宿へ戻った。

 

「やれやれ、予定通りにはいかんな…しゃあない、歩いていくか」

 

 次の町まで歩いていく決意をし荷物を改めて確認し始めた。

 

「着替え…オーケー。おしめ…オーケー。食料…オーケー。水…明日の朝に補充。金…オーケー。そういや、今日の報酬はっと…銀貨十枚。1000リクル」

 

 荷物の確認が終わったので夕食までポラリスと遊ぶ事にした。持っている動物の玩具を出してポラリスの前で振ったり、歩かせたりしポラリスはそれを笑顔で捕まえようとしている。

 

「あ~♪う~♪」

「(娘が可愛い…やっぱ新しい玩具を用意しないとな。いらない布と綿でぬいぐるみでも作るか?布と綿は買うとして、デザインはどうするか…犬、猫、兎、豚、馬、牛、熊。何にするか…うーん)」

 

 ポラリスと遊びながらぬいぐるみのデザインに悩んでいる。悩み過ぎてぬいぐるみのデザインが河童になるぐらい迷走し始めた頃にポラリスのお腹から可愛らしい音がした。

 

「おっ?お腹空いたな~ご飯食べよっか~」

 

 手を伸ばしてくるポラリスを抱き上げて部屋を出て酒場へ向かった。客が入り始め込んでいたが何とか席に付けた。

 

「いらっしゃい。今日のオススメはキノコのシチューとマッドクラブのボイルだよ」

「それをお願いします。あと薄めのスープも」

「はいはーい」

 

 料理を待っている間もぬいぐるみのデザインを考えていると話し声が耳に入ってきた。

 

「おい。あいつだろ?」

「あん?…ああ、噂の…」

「なんだ?その噂って?」

「知らねえのか?今日薬でラリった奴が暴れてな。そいつを一発で殴り飛ばしたらしいぜ」

「そのラリった奴は結構デカかったって聞いたんだがマジかよ?」

「マジだ。知り合いの兵士に聞いたから間違いねえ」

「あんな見た目しててどんな怪力してんだ…」

「おっかねえ…」

「(まーた変な噂が広がってるぅ…)」

 

 事実が微妙に改変されており何とも言えない表情になるシリウス。

 

「お待たせ―」

「あー、ありがとうございます…食べて忘れよう。いただきます」

 

 今日のメニューはキノコのシチューとマッドクラブのボイルとパンだ。

 マッドクラブは蟹型の魔物でその名の通り泥がある場所で生息している。体長は30~50cmほどだが歳を重ねる毎に脱皮して大きくなり、最大で馬車ぐらいまで成長したという記録がある。小さいうちは危険はほぼ皆無なので簡単に捕獲でき養殖して売買している者もいるほど人気だ。値段もそこまで高くなく庶民から重宝されている食材でその肉はボイルすれば身がプリプリしていて大変美味である。

 

「うまっ。こっちでも向こうと同じで蟹は美味いな。ポラリス~、あ~ん」

「あ~」

 

 ポラリスにスープを飲ませつつシリウスもシチューや蟹を食べている。

 

「ごちそうさまでした。ポラリス~、お腹いっぱいになった?」

「あ~♪」

「そっかそっか」

 

 お腹が膨れて満足げな表情をしているポラリスを見てシリウスも笑顔になっている。その笑顔を見て見惚れる客が数人いたがシリウスは気づかず、気づいたとしても噂を聞いて見ているとしか思わないだろう。注目されつつさっさと部屋に戻り、いつものように歯を磨いてポラリスと一緒に寝た。

 翌朝。

 いつものように着替えてポラリスのおしめを変えて洗濯を済ませた後荷物を纏め始めた。洗濯物は背負い袋に括り付けて乾かす事にした。部屋を簡単ながらも掃除し忘れ物が無いかを確認した後部屋を出て受付へ向かった。

 

「お世話になりました。これ鍵です」

「おう。まあ気をつけてな」

 

 宿を出て正門の方へ向かい、途中で井戸から水を汲んで水袋に満タンまで補充した。正門までやってくると依頼で外に出るハンターや他の町や村に向かう商人などが次々と正門から出ている。

 

「すいません。王都方面ってどっちの方角ですか?」

「王都か?それなら右の道だ。道中分かれ道があるが立札があるから分かるはずだ」

「ありがとうございます」

 

 門番に道を確認したところでシリウスも門を潜ってレムドーから出た。

 

「さーて、こっから旅の本番だな。頑張るぞ~」

「あ~」

 

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