転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第四十九話

 

「相も変わらずだだっ広い平原しか見えんな…」

 

 ラーゼル達と別れてから道に戻り王都へ向けて歩いているシリウスだが、景色は同じようなのがずっと続いている。ほとんど変化の無い景色に辟易としながらも歩く速度は変わらない。こまめにポラリスとアトリアを見ているが、ポラリスはお昼寝中でアトリアは物珍しそうに周囲を見ている。二人の様子に笑みが零れるが状況は全く変わらず気分は上がらなかった。

 

「しかもラーゼルさん達、いや、さん付けしなくてもいいか。ラーゼル達からいつの間にか持たされていたし」

 

 シリウスが取り出したのは財布だがその袋はパンパンに膨れていた。ラーゼル達と別れて歩いていた時にふと硬貨が擦れる音が荷物の中から聞こえたので、不審に思って取り出してみたら金貨と銀貨が一杯詰まった袋が出てきた。数えてみたら金貨十枚、銀貨百枚、合計110000リクルが入っていた。誰かが提案して全会一致で可決され、奴隷商から奪った物資に入っていた物をお礼も兼ねてシリウスの荷物にコッソリと入れていた。

 

「…まあ、私も同じ立場だったらするけどさ。実際貰ってすごい助かるけどさ。自分達の分はちゃんと取ってると思うけどさ。何か、こう…モヤっとする」

 

 非常に有難いがモヤっとしたものを抱える事になり、苦い表情をするシリウスだった。

 なだらかな平原を歩き続けていると前方に三叉路が見えてきた。立札も合ったので確かめようとしたら何か気配を感じた。

 

「(これは…数は五。大きさは…人ぐらい、ってか人だな。道の右に二人、左に三人。盗賊だな。敵意っていうか下品な笑い声が聞こえてるぞ。もっと抑えろよ。ド素人か)」

 

 鴨が葱を背負ってやってきたと思っているのか、小さく下品な笑い声が聞こえている。右の二人は藪に、左の三人は岩の後ろに隠れているらしく、シリウスは取りあえず右から攻略する事にした。

 

「加減なんてせん。【ファイアーボール】!」

「「うおあああぁぁぁ!?」」

 

 込められるギリギリまで魔力を注ぎ込んで威力が増したファイアーボールが放たれて藪ごと二人を吹き飛ばした。直撃はしなかったが着弾した衝撃で吹き飛んでそれなりの勢いで地面に叩きつけられて悶絶している。

 

「うおっ!?マジかよ!?」

「くそっ!魔法使いか!」

「だったら近づいてしまえば何にもできねえだろうが!」

 

 仲間が一瞬でやられて残っていた三人も岩の後ろからでてきて、腰から剣を抜いてシリウスに襲い掛かった。

 

「金目の物を置いていけば見逃してやろうと思ってたが止めだ!」

「腕の一本ぐらい覚悟しやがれ!」

「よく見れば別嬪じゃねえか!俺が可愛がってy「死に晒せ!」げぶぁ!?」

 

 問題発言をした盗賊の顔面を剣の峰で思いっきり叩いた。物凄い痛そうな音がして盗賊は背中から倒れた。

 

「こ、こいつ、強いぞ!?」

「ガキが舐めやがって!」

「お、おい!?」

 

 また一人やられた事で一人は怖気ついたが、もう一人は怒りのままシリウスに突っ込んでいった。上段から振り下ろされた剣の軌道を見切り、横に一歩ズレて攻撃を回避した。勢い余って剣は地面に刺さり盗賊は抜こうとしているが、背中ががら空きだったのでシリウスは盗賊の後頭部を剣の峰で叩いた。

 

「うべぇ!?」

 

 汚い悲鳴を上げて盗賊は白目を剥いて地面に倒れた。

 

「まだやるか?」

「ひ、ひいいいぃぃぃ!?」

 

 全員やられて残った盗賊は仲間を置き去りにして逃げていった。

 

「置き去りかよ、ったく…ビビッて逃げるなら最初っからするなってんだ」

 

 無傷で盗賊を撃退したシリウスは地面に倒れている盗賊を放置して歩き出した。

 

「さっさと離れるか。報復に来られても面倒だし。ポラリス、アトリア、大丈夫?」

「ま~」

「…」

「…うん、大丈夫そうだね。よしよし」

 

 手を伸ばしてくるポラリスとシリウスを見つめるアトリアを撫でてシリウスは先を急いだ。休憩を挟みつつ数時間ほど歩いたところで何かが聞こえた。

 

「ん?何だ?」

 

 シリウスが目を瞑り耳を澄ませると風の音に交じって人の声が微かに聞こえた。

 

「複数の人の話し声…少しずつだけどこっちに近づいてくる…さっきの盗賊がお礼参りに来たか?面倒な…撒くか」

 

 シリウスは道を外れて森の中に入り深い茂みの中に身を潜めていると話し声が聞こえてきた。

 

「おい、本当にこっちなんだろうな?」

「へ、へい!確かでさぁ!」

「こっちの道へ向かったのは間違いねえです!」

 

 シリウスが撃退した盗賊が仲間を連れてシリウスを探している。足早に去ったが意識を奪っていなかったので逃げた姿を目撃されていた。

 

「にしても、大の男が五人も集まって返り討ちに合うなんてホントかよ…?」

「寝惚けてたんじゃあねえの?」

「ホントだって!女のガキ一人にやられたんだって!」

「それはそれで情けねえけどな!」

「確かに!ギャハハハ!」

「オメエら、うるせえぞ!静かにしねえか!」

「「「「「す、すいやせん!」」」」」

「ったく、どいつもこいつも役に立たねえ…」

 

 盗賊達は道に広がりながらシリウスが隠れている茂みの横を通って歩いていった。

 

「(探すんだったら犬とか使えよ。いや、いるかは知らないけど)」

 

 盗賊達のお粗末な探し方に心の中で突っ込みつつシリウスは立ち上がった。

 

「あの様子じゃ次の町か村まで行きそうだな…いや、その前にリーダーっぽい奴が飽きて引き上げるか?どっちにしろ道を歩くのは得策じゃないな…森の中を通るか」

 

 シリウスは道に沿いながら森の中を通る事にした。剣を抜いて茂みを掻き分けて全方位を警戒しつつ歩いているので道を歩いていた時より速度が落ちている。ポラリスとアトリアがいるので若干警戒し過ぎており、少しの音にも過敏に反応している。

 

「…いかんな。過敏になってる。これじゃ持たんぞ。でもなぁ…」

 

 自分でも過敏に反応している事に気づいているものの二人を守れるのはシリウスだけなのでどうしても過敏になってしまう。悩みながらも警戒しながら進んでいたら前の方からまた話し声が聞こえてきた。

 

「ったく、とんだ無駄足だったぜ…」

「ホントにそんな女いたのかよ?」

「嘘じゃねえ!ホントだって!」

「でもどこにもいなかったじゃねえか。態々遠出したってのによぉ」

「き、きっと森の中に逃げたんだ!」

「うるせえ!この役立たずが!てめえの所為で無駄な体力を使ったじゃねえか!」

「ギャア!?あ、兄貴、嘘じゃねえですって!ホントですって!」

「黙れ!このゴミクズが!」

 

 本当の事を言っているのに信じてもらえず、リーダー格の男と仲間からボコボコにされている。一頻り殴る蹴るの暴行をした後、ボロボロになった盗賊を引き摺りながらアジトへ去っていった。

 

「あーあー、可哀想…まあ、同情はせんがな」

 

 当面の危機が去ったのでシリウスは森から出て道に戻り歩き出した。日がだいぶ傾いてきたので野営するのに良さげな場所を探して天幕を張った。火を起こして料理を作りポラリスとアトリアに食べさせている。

 

「ふ~、ふ~、ポラリス~、あ~ん」

「あ~」

「ふ~、ふ~、アトリア~、あ~ん」

「…」

「うーん、まだ話せないか…いや、まだ一日しか経ってないんだ。焦っちゃ駄目だ」

 

 長い目で見守る事に決めたが内心は早くアトリアの声を聞きたいと思っている。

 

「そういや、ラーゼル達は大丈夫かな?私と違ってキャンプとかには慣れてそうだけど…追手もまだ来てないよな…?」

 

 別れて半日ほど経ったがラーゼル達の事が気になりだし、同時にブーナガストの事も気になり出した。ボヤ騒ぎを起こして大混乱させたが一晩もあれば火は消せるし、消した後は色々調べるだろうから既に逃げた事も察知されているかもしれない。

 シリウスの懸念通りブーナガストでは奴隷達が逃げ出した事に気づき騒動になっていた。

 

「さっさと人を集めて連れ戻さんか!この事がプトグロア伯爵様の耳に入ったらわしの首が飛ぶのだぞ!?いやわしだけじゃない!お前達の首も飛ぶのだぞ!」

「は、はい!直ちに!」

 

 部下に喚き散らすのはラーゼル達を売ろうとしていた奴隷商だ。奴隷商はプトグロア伯爵の部下に一人だが同じような部下は大勢おり、ミスをして伯爵の顔に泥を塗った部下は誰一人として生きている者はいない。奴隷商はその事が分かっているので必死だった。

 

「クソッ、役立たず共め!状況が分かっているのか!クソッ!」

 

 苛立って髪の毛を掻きむしりグラスに入った酒を乱暴に呷った。

 

「ふぅ、ふぅ…!落ち着け…まだ時間はある。伯爵は隣国のパーティーに出席しているから時間はまだある。それまでに連れ戻せば何の問題も無い。あの火事の隙を付いて逃げ出したのは確かだ。目的地もアールレディアで間違いない。だがあの近辺にはわしの伝手がない。どうすれば…!?」

 

 行き先は分かっているもののどのルートで通るのか分からず、アールレディア近辺で待ち伏せをしようにも巡回に見つかれば逆に奴隷商の方が捕まってしまう。

 

「…仕方が無い。金は掛かるが奴らに依頼するしかあるまい。おい!誰か!」

 

 奴隷商は人を呼び手紙を書き始めた。ラーゼル達を捕まえるために奴隷商が良からぬ者達を呼ぼうとしている頃、ラーゼル達は森の中を歩いていた。

 

「はぁ、はぁ…おいラーゼル、そろそろ休もうぜ…皆も限界だ…」

「ぜぇ、ぜぇ…」

「はぁ、はぁ…」

「むぅ…余裕があるうちに距離を稼ぎたかったのだが…仕方が無いか」

 

 そろそろバレて追手の差し向けようと準備している頃だと分かっているのでラーゼル達は少しでも距離を稼ごうと夜の森を歩いていた。人間だったら暗すぎて灯りが無いと歩けないが、ラーゼル達は灯りが無くてもある程度は見えるので歩けているものの少し無理をしたので皆疲労困憊だった。流石に今日はここまでだと判断しここで一夜を明かす事にした。

 

「火を焚いてもいいですか?」

「ああ。まだ追手は来てないだろう。明朝には追手がブーナガストを出るはずだ」

「安心して休めるのは今日だけか…」

「うぅ…」

「おいおい。そんな事言うなって。大丈夫だ、何とかなるさ」

「だが…いや、すまない。変な事を言った」

「気にするな。不安に思うのはお前だけではない」

「…そうだ。皆、アールレディアに着いたら何がしたい?オイラは腹一杯肉が食いたい!」

「ふっ…そうだな…俺は釣りがしたいな」

「ワタシは空を思いっきり飛びたいです!」

「オレは酒が飲みたい!昼間っから浴びるほど飲んでやる!」

「私は花を育てたい!一面のお花畑を作りたい!」

「レーディ。お前は何がしたい?」

 

 イグロイが暗い空気を換えるために話題を変え、ラーゼルがそれに乗った。皆が口々に答える中、一人静かにしていたクォーターの女性、レーディにラーゼルが聞いた。

 

「私は…」

「何でもいいのだ。頭に思い浮かんだやりたい事、やってみたい事を言ってみてくれ」

「…あの子といたい」

「あの子?…シリウスの事か?」

「シリウスと一緒に笑い合いたい。旅をして同じ景色を見たり、一緒に食事をして一緒に寝たい」

 

 レーディは産まれた瞬間から誰にも愛されなかった。

 違うハーフ同士を組み合わせて見た事が無い子供を産みだすという論理が著しく欠如している貴族の遊びによってレーディは産まれた。両親は薬と魔法で狂わされてレーディを産んだ後死んだ。

 貴族達の見世物にされ続けたが飽きた貴族に奴隷商に売られた。全てに否定され拒絶され続け考える事を止めただ流されるだけであったが、そこでシリウスと会った。住民から悍ましい物を見るような目の中でたった一人悲しい目でレーディを見ていた。シリウスと目が合いそこからレーディの現状に対する怒りと悲しみを感じ取った。暗闇の中で蹲っていたレーディの心にシリウスは光をもたらしてくれた。

 

「…それは、いいな」

「ああ。シリウスといれば毎日楽しそうだ」

「ワタシも一緒にいたいです!」

「私も!」

「一緒に酒を飲んでみたいが…流石にまだ早いか」

「それは後の楽しみに取っておけよ」

「ふむ……アールレディアに着けば自由にはなれるが、金を稼がねばならんな」

「?まあ、そうだな」

「俺達は特殊な事情を抱えているから中々雇ってもらえないだろう」

「…確かにな。オレ達は何もしていないのにな」

「そうなれば付ける職は限られてくるな。例えばハンターとか」

「…!そういうことかよ!回りくどいぞ!」

「どういうことですか?」

「私達にも分かるように説明して」

「つまりだ。ハンターとなり俺達二十人でチームを組む。そしてそこにシリウスを招く。そうすれば共にいられるぞ」

「!!」

「いいなそれ!」

「ワタシ、ハンターになります!」

「私も私も!」

「ワッハッハッハ!今から楽しみだな!」

「レーディ、どうだ?」

「ああ…いいなそれ…」

 

 その場にいる誰もがシリウスと一緒に過ごす日々を想像して笑い合っている。必ずアールレディアに辿り着いて自由となり今思い描いているものを実現してみせると誓い合った。食事を取りラーゼル達が眠りに付いた頃、シリウスも夕食を終えて天幕の中で寝転がっていた。

 

「皆が無事だといいけど…まあ、大丈夫か。私より強いだろうし、色々知ってるだろうし。んじゃあ寝るか。ポラリス、アトリア、おやすみ」

 

 既に夢の中に入っているポラリスとアトリアを優しく撫でてシリウスは目を瞑り眠った。

 翌朝、いつものように起きて二人のおしめを変えて洗濯をした後、天幕を片づけて荷物を背負った。

 

「忘れ物…無し。よし、出発」

「あ~」

「…」

 

 道に戻って歩き出したが早々に止まる事になった。

 

「あん?何だ?」

 

 騒々しい音が聞こえてきたので振り返ると馬車が猛スピードで走ってきた。後ろから馬に乗った悪人面した男達が馬車を追いかけていた。どう控えめに見ても盗賊に襲われている商人にしか見えなかった。

 

「はぁ…今日は厄日だなこりゃ…」

 

 真っ直ぐこちらに向かってきているので巻き込まれるのは確実だった。

 

「た、助けてくれー!」

「ギャハハハ!獲物だー!」

「おらおら!積み荷を置いてけ!馬車もだ!」

「死にたくなかったら言う事を聞きな!」

「死ぬか、素寒貧になるか、どっちがいい!?」

「「「「ギャハハハ!」」」」

 

 商人は涙目で助けを呼び、盗賊達は下品な笑い声を上げながら追いかけている。

 

「気勢を削ぐか。【ファイアーボール】!」

「どうわあああぁぁぁ!?」

「な、何だ!?」

「魔法だ!どこからだ!?」

「見ろ!あいつだ!」

「もう一丁!【ファイアーボール】!」

「ぬあああぁぁぁ!?」

 

 二発のファイアーボールを馬の前辺りに着弾させて馬を驚かせて盗賊二人を落馬させた。背中や腰から地面に叩きつけられて盗賊は呻いており、その間に馬はその場から離れた。

 

「このくそアマがっ!」

「舐めやがって!調子に乗るなよ!」

「馬は傷つけたくないな…狙えるかな…?」

 

 残った二人は剣を抜いてシリウス目掛けて馬を走らせ、シリウスは馬に当てないように盗賊に狙いを定めている。

 

「もうちょい…【ライトニング】!」

「な!?ぐわあああぁぁぁ!?」

「馬に当てずに…!?クソッ!」

 

 速度を重視してライトニングを唱えると盗賊に吸い込まれるように当たった。撃ち抜かれた盗賊は落馬して呻いており、残った盗賊は仲間を置いて逃げていった。

 

「だから何で置き去りにするんだよ…仲間意識は無いのか」

 

 シリウスは残された馬を撫でながら愚痴っている。

 

「あ、あの…」

「ん?何ですか?」

「助けていただいて本当にありがとうございます!おかげで命拾いしました!是非ともお礼を…!」

「あー、いえ、ただの成り行きですのでお気になさらず」

「そういうわけにはいきません!それでは私の気が済みません!」

「んー…なら、次の村か町まで乗せてもらってもいいですか?」

「もちろんですとも!ささっ、どうぞ!」

 

 是非ともお礼をと言ってくる商人の圧にまけて次の村か町まで乗せてもらう事にした。馬車に乗り込むと中は様々な品物が所狭しと積まれていた。

 

「では出しますぞ!それ!」

 

 商人が馬を操り馬車は動き出した。

 

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