転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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申し訳ございません。手直ししてたら遅くなりました。



第五話

 

 太陽が昇り新しい朝が来た。

 全てに分け隔てなく日の光が差し生き物達が目を覚ました。

 少女も例外ではなく日の光が顔に当たって眩しさで目が覚めた。身体を起こしたがまだ寝惚けているようで間抜けな表情を浮かべながらボーっとしている。

 

「ふあ~~~、ねみぃ…ん?」

 

 欠伸をしながら手をベッドの上に置いたら何か温かくて柔らかい物に当たった。何気なくそちらを見ると赤子がスヤスヤと眠っていた。

 

「あん?あ、あ~…そうだった…転生したんだっけか…」

 

 目が覚めたら夢だったらいいなと寝る直前に思っていたのだがそんなことはなかった。げんなりした顔をして溜め息を吐いたら赤子が目を覚ましたのかモゾモゾと動き始めた。

 

「ふええぇぇぇ…」

「おいおい、朝からどうした。ん?おうふ」

 

 起きて早々に泣き始めた赤子だったが原因はすぐに分かった。粗相をしておりそれで泣いている。

 

「マジかー…いや、赤ちゃんだからしょうがないけど。えーっとおしめと何か拭くもの」

 

 着ていた服を脱がして拭くまでは出来たがおしめを変える事など当然やった事は無いので右往左往、悪戦苦闘している。

 

「えー、これをこっちに…うん?何か違うな。こっちか?いやこれをそっち?ん?」

 

 十数分ほどしてようやく出来上がり、安堵の溜め息を付いた。眠気はすでに取れており、赤子も気持ち悪さが無くなって嬉しいのか手足を動かしている。

 

「はぁ~、朝から疲れた…これを毎回やってる全国のお母さんすげえな。マジ尊敬するよ」

 

 立ち上がって着替えた後、赤子を抱き上げて居間に向かった。

 昨日のうちにある程度片付けたが荒らされてボロボロで血の跡も残っている。それらを何気に見ていたら昨日考えていた予定を思い出した。

 

「あー、そうだった。墓掘らないと。朝飯はまだ大丈夫か?」

 

 赤子を見ると特に泣いたりしていないのでまだ大丈夫と判断し裏口へ向かった。

 外に出ると昨日倒した魔物の死体も残っており昨日の出来事を思い出したのか少女は早足で農具入れの小屋に向かいスコップを取り出した。赤子を揺り籠代わりの布を敷いた竹籠の中に入れて、ちょくちょく気にしながら二人分の穴を掘り始めた。ただの穴掘りだが現代日本で育った者なので穴を掘る経験などほとんど無い。

 

「ぜー、ひー、こ、こんなに、ぜー、大変、ひー、だったけ?」

 

 まだ半分しか掘れていないがすでに疲れ切っており、大量の汗を掻き息は荒い。それでも必死に掘り進め何とか二人分の穴を掘る事ができたが力尽き、穴の横で大の字になって倒れ込み荒い呼吸を繰り返している。数分ほど言葉も無く荒い呼吸を繰り返していただけだったが、ようやく動き始めた。手足を生まれたての子鹿のようにプルプルさせながら、スコップを杖代わりにしながら立ち上がった。

 

「ふぬおおぉぉぉ…っ!こ、これしきいいぃぃぃ…っ!」

 

 そのまま何とか赤子の元まで歩き壁を背に座り込んだ。荒い呼吸のまま赤子を膝の上に乗せて赤子が手を伸ばしてくるのをあやしながら休憩している。ようやく呼吸も落ち着いてきたので再び赤子を竹籠の中に入れて家の中に入っていった。

 布を掛けて端に寄せていた少女の両親の遺体に手を合わせ頭を下げた後、脇の下に手を差し込み引き摺り始めた。少女一人では大の大人を運ぶのは無理なので引き摺るしか方法は無かった。落ち着いた呼吸がまた荒くなりながらも二人を掘った穴に入れ手を組ませた後土を優しく掛けて二人を埋めた。

 傍にあった石を墓標代わりにした後、その場でしゃがみ込み手を合わせて黙とうした。

 一分ほど黙とうした後、しばらくの間少女は墓をジッと見ていた。その目には少女の身体を奪ってしまった事への罪悪感が込められていたが、目を閉じて立ち上がった。

 

「…さて動きますか。まずは飯を作って、ああ、汚れた服も洗わなきゃいけないか」

 

 気を取り直すように声を上げながら赤子を抱き上げ竹籠を持って家の中に入っていった。赤子を再び竹籠の中に入れた後、汗塗れの服を脱いで新しい服に着替えてから炊事場にある水甕の中から桶で水を汲みそこに汚れた服を入れた。洗剤などの便利な物は無いので手で擦るしかなかった。

 

「んっしょ、よいっしょ、冬場なら、地獄だなこりゃ」

 

 ある程度擦った後は雑巾を絞るように水を切り、新しい桶に放り込んだ。次に赤子の服を洗い、最後におしめを洗った。洗い終えた服の入った桶を持って家の外へ出た。

 家のすぐ近くに洗濯物を干していた棒があったが、襲撃の際に土台が壊されていて物干し竿だけが転がっていた。どうするかと少女は辺りを見回したら、丁度良い位置に木の枝が伸びていたので枝と窓に物干し竿を引っ掛けた。高さも丁度良かったのでそこに洗濯物をドンドン干していった。干し終えて小さな達成感を感じていた少女だったが、家の中から赤子の泣き声が聞こえてきた。

 

「ふええぇぇぇ…、ふええぇぇぇ…」

「おーっと、いかんいかん」

 

 少女が見えなくなって不安になって泣き始めた赤子の元に急ぎ足で戻り抱き上げた。

 

「ほーら、私はここだぞ。よーしよし。大丈夫大丈夫」

 

 すっかり慣れたように赤子を抱き締めながら背中を優しく擦りながらあやしている。赤子も少女に懐き始めたのか、べそをかきながら少女の服をギュッと掴んでいる。少女はそれに気づき、胸の奥が温かくなる感覚に襲われた。

 

「(これが母性本能か…マジで女になっちゃったのか。いや、前世が男だったのか知らないけど)」

 

 母性本能が目覚めたものの気恥ずかしい気持ちもありやや持て余し気味だが、表情は物凄く優しい笑顔で知らない者が見れば母親だと思うほど。その表情は赤子が泣き止むまで続いた。

 ようやく赤子が泣き止んだら、キューという音が少女のお腹から鳴った。

 

「そろそろご飯にしますか。よーしご飯食べようなー」

 

 少女は笑顔のまま赤子を抱いて家の中に戻っていった。

 昨日作ったスープの入った鍋を火を入れた暖炉に敷き、昨日同様赤子用に小さな鍋に水を入れて野菜と芋を入れて煮ている。すりこぎ棒で細かく磨り潰して離乳食が出来上がった。スプーンに掬って息を吹きかけて冷ましながら赤子の口元に持っていく。

 

「ほーれ、あーん」

 

 赤子もお腹が空いていたのか素直に口を開けて食べている。

 母性本能に目覚めた少女は赤子が食べているのを見るだけでほっこりした気持ちになっており、自分の変化に若干戸惑っている。

 

「(まあ別にいっか)はーい、あーん」

 

 考える事を止め素直に受け入れて赤子のご飯を食べさせるのに戻った。

 昨日同様食べ終わった後に背中を優しく叩いてゲップさせて口を拭いた後、少女もスープとパンを食べ始めた。

 

「もぐもぐ(これ食い終わったら荷物もう一回確認しとくか。洗濯物乾いてないけどカバンに括り付けて歩いてたらその内乾くだろ)」

 

 この後どうするかを考えていたらあっという間に食べ終えた。使い終わったお椀とスプーンを水に付けてサッと洗い布で拭いた後戸棚に仕舞った。赤子の様子をチラチラ見ながら荷物を確認している。

 

「おしめ足りるかな?まあ最悪、適当な布でやれば何とか…ああいや、それだと肌に影響が…あるのか?ないのか?」

 

 不安要素がチラッと出てきたが何とかなる、何とかして見せると思い直して席を立ち洗濯物を取りに行った。案の定乾いておらず水は滴り落ちていないが湿っていた。分かり切っていた事なのでそのまま取り込み荷物に括り付けた。

 

「あ、そうだ。折角だしやっとくかな」

 

 少女は何かを閃いたらしくいそいそと裏口へ向かった。

外に出て魔物の死体に近付き覗き込んだ。瞳孔は開ききって何も写しておらず血は未だに乾ききっていないが、また動き出すのではないかと思えるほど存在感がある。

 徐にポケットからナイフを取り出してビビりながらも前足に突き刺した。少女がやろうとしている事は解体して魔物の素材を得る事だ。某狩りゲーなどでお馴染みだが実際やるとなると中々上手くいかない。

 

「ふんっ!ぐぬぬ…中々取れないな。つーかこのナイフ切れ味悪すぎんよ」

 

 切れ味の悪いナイフで何度も突き刺しては爪を取ろうと奮闘し、何度目かでようやく取る事が出来た。爪を手に取って見ると軽いのに硬く、今少女が持っているナイフより切れ味が鋭そうだ。試しに農具入れの小屋の壁に刺してみたら軽く押し当てるだけで半ばまで刺さった。

 

「ええ…切れ味良過ぎ…こわっ」

 

 余りにも良過ぎたので逆に怖くなったが、ナイフはナイフで切れ味が悪過ぎるので考えた結果爪の方を使う事にした。再び解体作業に入ったが爪にしてから作業が捗る捗る。さっき苦戦していたのは何だったのかと思うほどの作業スピードだった。あっという間に作業が終わり、得た素材は爪10本と牙4本。毛皮もと思ったが解体難易度が少女には高過ぎたので断念した。

 

「少女は、牙のお守りを、手に入れた、ってか?防御力1と攻撃力5上がりそう」

 

 お守りにするには切れ味が鋭すぎて、下手に首から掛けたりしたら突き刺さったり切り裂かれたりする可能性も無くは無い。採って早々持て余し気味になったが、少女は魔物の素材を買い取る店もあるだろうと軽く考えている。

 赤子がまた泣くのではと心配になり足早に家に戻ると、既に不安そうな顔で少女を探す仕草をしていた。その仕草にまた胸の奥が温かくなり、不安そうな顔を見るとそんな顔をさせてしまったという思いが湧いてきた。当初は厄ネタだと思っていたが完全に絆されてしまっている。少女は何とも思っていないが。

 

「おおー、ごめんよー。私はここだぞー」

 

 少女を見つけると手を伸ばしてきたのでそのまま抱き上げると、少女の服をギュッと掴んだ。背中を優しく撫でながら赤子が落ち着くまであやし続けた。

 

「…さて、そろそろ行くか」

 

 赤子が落ち着き準備もできたので出発する事にした。

 暖炉の火を消し、パンパンになったカバンを持ち、忘れ物が無いか家の中を見回した。

 

「さて、最終確認だ。赤ちゃん、ヨシッ!荷物がパンパンに入った肩掛けカバン、ヨシッ!護身用のその辺に転がっていた鉈、ヨシッ!」

 

 確認が終わると裏口へ行きお墓に手を合わせた。

 

「さよなら、かな。いや、行ってきますか?」

 

 少女の両親に挨拶し終わり、村の出入り口へと歩き始めた。村に特に思い入れなどは無いので振り返る事無く出ていった。

 

「…あっ。肝心な事忘れてたな…名前、どうしよっかな…」

 

 今まで困っていなかったがこれからは名前が無いとあまりにも不自然だと気付いた。こういう時に限ってご都合主義みたく記憶が戻らず、自分で決める羽目になった。

 

「ぐぬぬ…何て名乗ろうか…それにこの子にも付けなきゃいけないし…」

 

 赤子を見ながら悩んでいたら赤子と目が合った。

 紫色の瞳という異世界ならではの配色だが、少女はそれ以外に気を取られていた。少女には赤子の瞳がキラキラと輝いて見えた。少女が前世込みで見た事がないような物だ。

 

「(まるで星だな…星、か…星関連から、何か…)」

 

 星のようだと思った少女はそこから名前にできそうな物を考えている。

 

「(星…輝く…星座…天の川…銀河…北極星…北極星?北極星は確か)ポラリス…だったか?ポラリス…ポラリス…」

 

 赤子をジッと見ながらポラリスと呟き、しっくりくるか確かめている。

 現代日本ではポラリスはこぐま座の一つでこぐま座で最も明るい星であり北極星でもある。

 

「…うん、いいな。よし、今から君は“ポラリス”だ」

 

 赤子改めポラリスはよく分かっていないようで首を傾げている。

 少女はこの子がどんな時でも迷わず優しく誰かを導ける、そんな子になればという思いも込めて名付けた。

 

「私の名前も星繋がりでいいか。つーかすっかり一人称が私になっちゃてるな…まあいいか。えーっと、星、星…一個浮かんだけどいいのかな?名前負けしそうだし微妙に合わない気もするけど…でも、他に浮かばないしな…はぁ~しゃあない、“シリウス”で行こう」

 

 現代日本ではシリウスはおおいぬ座の一つで太陽を除くと地球から見える星の中で最も明るい星。

 少女改めシリウスはポラリスを抱えて道を歩き始めた。

 道は分からない。

 誰がいるか分からない。

 何が出てくるか分からない。

 何があるのか分からない。

 どうすればいいか分からない。

 分からない尽くしだが、それでもシリウスが絶望せずにいられるのは腕の中にいるポラリスのお陰だ。自分に懐いていて今も服をギュッと掴んでいるポラリスを守るためにシリウスは決意を新たにした。

 

「何とかするか。いや、してみせる」

 

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