転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第五十話

 

「いやぁ、本当に助かりました!危うく素寒貧になるところでした!」

「いえいえ、さっきも言いましたけど成り行きですので」

 

 盗賊に襲われていた商人を助けたお礼で馬車に乗せてもらったシリウス。

 

「次の村か町にはどれくらいで着くんですか?」

「そうですな…この調子だと次の村には一、二時間ほどですな。町はその村から二日ほどですぞ。町には私どもの店があるので是非ともお立ち寄りください!色々サービスさせていただきます!」

「あはは…ありがとうございます」

 

 襲われていたのにすぐに切り替えて宣伝をする商魂逞しい姿にシリウスは苦笑してい

る。

 

「う~…ふえええぇぇぇ…」

「おっと、ポラリス~、どうした~?すいません、ちょっと失礼しますね」

「ええ、構いませんよ」

 

 ぐずつきだしたポラリスとアトリアを抱えて馬車の後ろの方へ移動した。

 

「よしよし、大丈夫」

「ねえ…ちょっと…そこのあなた」

「ん?」

「こっちよ、こっち」

 

 アトリアを抱えながらポラリスをあやしていると小さな声が聞こえてきたので声がする方を振り向くと、鳥籠に羽が生えた30㎝ぐらいの女の子が入っていた。フェアリーと呼ばれる種族で自然の奥深くで暮らしており滅多にお目に掛かれない希少な種族だ。

 

「あなた、あいつの仲間?」

「いや、違うけど」

「ならここから出して!私、あいつに捕まったのよ!」

「どゆこと?」

 

 シリウスが詳しく聞くとこうだった。

 彼女、ピーニは森の奥深くで仲間と一緒に暮らしていた。ある日、仲間と木の実を取りに出かけると恐ろしい魔物に襲われて皆散り散りになり自身も迷子になってしまい、さらに嵐にあって遠くまで飛ばされてしまった。気がついたら見知らぬ土地で当ても無く彷徨っていると運悪く商人に捕まってしまった。この商人はご禁制の品物を扱っているらしく、シリウスがチラッと品物を見るといかにも身体に悪そうな物やヤバそうな物が見えた。

 

「助けない方がよかったか…?」

「そんなことよりここから出してちょうだい!」

「でもすぐにバレそうだな…そうだ、さっきのごたごたで籠は落ちた事にすればいいか。籠だけじゃなくて他の物もいくつか落とせばいけそうだ」

 

 シリウスは短剣を抜き、商人の方を気にしつつ音が鳴らないように慎重に鍵を壊した。

 

「やーっと出られたわ…」

「まだ安心するには早いよ。一旦私の荷物に入ってて」

「分かったわ」

 

 ピーニはシリウスの荷物の中に隠れて、シリウスは籠と落ちても不思議ではない所に置いてある品物をいくつか馬車の後ろから一つずつ投げ捨てた。

 

「ポラリス~、たかいたか~い」

「あ~♪」

「アトリアも、たかいたか~い」

「…」

 

 静かにしていたら不審に思われるかもしれないのでポラリスとアトリアをあやした。商人はその声を聞いて微笑ましそうにしており、シリウスの犯行に全く気づく事は無かった。

 

「すいません、お待たせしました」

「いえいえ、構いませんとも。とても仲がよろしいのですね」

「ええ。私の可愛い娘達ですから」

 

 後ろに意識が向かないように村に着くまで商人と世間話をして気を逸らし続けた。

 しばらくして馬車は“ソンカ”の村に到着した。ソンカは農業と牧畜で生計を立てているどこにでもあるごく普通の村だ。商人は村長に挨拶した後、村の広場で手早く普通の商品を並べて早速商売を始めた。村人達が集まり、あれやこれやと商品を見ているのを横目にシリウスは村長と話している。

 

「この村には宿は無いんですか…」

「ええ。ご覧の通り寂れた村ですのでここに泊まる旅人はおらんのです」

「そうですか…なら、どこか使ってもいい場所はありますか?もちろんお代は払います」

「そうですな…屋根のある所は…うーむ、家畜小屋ぐらいしかありませんな…」

「そこで構いませんよ。いくら支払えば?」

「い、いえいえ!?そんな所に態々支払わなくても構いませんぞ!?」

「見知らぬ人物を泊めてくれるんです。そこがどこでも対価を支払うのが礼儀でしょう」

「う、うーむ…そ、そこまで仰るのなら…」

 

 ある程度は支払いたいシリウスと少しでいい村長との激しい攻防の結果、銅貨50枚、50リクルで家畜小屋に泊めてもらえるようになった。

 

「やあ、牛さんに豚さん。今日はよろしく」

 

 案内してもらい家畜小屋に入ったシリウスは先住民の家畜達に挨拶して寝れそうな場所を探した。

 

「…この辺でいいか。よいしょっと。さてまずは掃除だな」

 

 シリウスは家畜小屋に置いてある箒で周辺の掃除を始めた。糞などは無かったが、藁が散らばっていたり家畜の餌が零れていたりして少し汚かったが、見る見るうちに綺麗になった。

 

「こんなもんか。後はこの藁を失礼して…よっと、これでよし」

 

 藁を敷き詰めてその上に大きな布を敷いて簡易ベッドが完成した。

 

「寝床はこれでオッケーっと」

「…ねえ、出ても大丈夫?」

「ああ、今なら大丈夫だよ」

 

 荷物に隠れていたピーニが出てきてベッドの上に着地した。ベッドの上にいたポラリスとアトリアはピーニを見て首を傾げている。

 

「ん~~~、はぁ…やっと伸び伸びできるわ~」

「君はこれからどうするんだ?」

「そうね…家に帰りたいけど、ここがどこか分からないしどうしようかしら…」

「ここはオルティナ王国らしいよ」

「らしいって何よ…ってオルティナ!?そんなとこまで飛ばされたの!?」

「一体どこから来たんだ?」

「フェアンダリアっていう所よ。知らない?」

「知らん!」

「胸張って言う事じゃないわよ!?とにかくここからかなり遠い所よ」

「戻れるの?」

「…正直、無理ね…どうしよ…」

 

 頭を抱えて悩むピーニを見てポラリスは手を伸ばして捕まえた。

 

「う~」

「のわあ!?何するのよ!放しなさい!」

「…」

「あんたも突っつくんじゃないわよ!」

 

 ポラリスに捕まりアトリアからは指先で突っつかれて玩具にされているピーニ。

 

「二人も大丈夫そうだな…なあ、時間は掛かるし相当寄り道するけどよかったら連れていこうか?」

「え!?いいの!?だから止めなさいってば!」

「フェアンダリアだっけ?今言った通り相当回り道するけどそれでもいいなら」

「もちろんよ!お願いするわ!後、そろそろ助けてちょうだい!」

「あいよ。は~い、ポラリス~、アトリア~。おしま~い」

 

 ピーニを捕まえていたポラリスの手を優しく解き、突っついていたアトリアと一緒に抱き上げて膝の上に座らせた。

 

「はぁ…災難だったわ…」

「そんなあなたに悲しいお知らせです。これから私と一緒に旅をするから必然的に二人とも一緒にいる事になります」

「ハッ!?確かにそうだわ!」

「まあ、痛い事はしないように言っておくから諦めな」

「ぐぬぬ…!」

 

 こうしてピーニはシリウスに同行する事になり、そしてポラリスとアトリアの玩具にされる事になった。

 

「さーて、夕食まで暇だし日課でもするかね」

「日課?」

「見れば分かるよ」

 

 シリウスは剣を腰に差して、ポラリスとアトリアを抱き上げてピーニを肩に乗せて外に出た。チラッと広場を見ると商人と村人の値段交渉が白熱していた。家畜小屋の横にあった木箱の上にポラリスとアトリアとピーニを置いてシリウスは日課の素振りを始めた。

 

「ふっ!ふっ!」

「日課って素振りの事なのね。毎日してるの?」

「ああ!継続は!力!だからな!」

 

 上段からの素振りと型の素振りを終えてポラリスとアトリアを抱き上げた。

 

「できるかな…?ゆっくりやってみるか」

 

 ポラリスだけならできたが、アトリアも抱いてするのは初めてなのでゆっくりと素振りを始めた。ポラリスとアトリアを揺らさないように慎重に振り、一振り毎に二人の様子を確かめ、徐々に振る速度を上げていった。

 

「ふっ!はあっ!…ふぅ…二人とも大丈夫?」

「ま~」

「…?」

「…うん、大丈夫そうだな。よしよし」

「は~…すごいわね」

「私はママだからな」

「意味が分からないわよ。何でそんなに得意げなのよ」

 

 汗を拭いたシリウスがピーニと話していると広場の方から商人の悲鳴が聞こえた。

 

「あら?何かしら?」

「…あれだな。籠が無い事に気づいたかもしれん」

「ち、ちょっと大丈夫?」

「大丈夫、任せて。取りあえず中に戻っていて」

「わ、分かったわ」

 

 ピーニを家畜小屋に戻しシリウスはポラリスとアトリアを抱いて馬車の方へ向かった。

 

「な、無い!?商品と籠が無い!?」

「どうしました?」

「あ、あの!ここに籠が置いてなかったですか!?」

「籠?いえ、無かったですけど…」

「そ、そんなはずは!?」

「あー、もしかすると追われていた時に落ちたかもしれないですね」

「ハッ!?た、確かに石に乗り上げたりした気が!」

「多分その時に落ちたのでは?今から行っても…多分盗賊に持っていかれたかもしれないですね」

「そ、そんな~…」

 

 シレっと嘘を付いたシリウスを疑う事無く信じた商人は肩を落として落ち込んでいる。

 

「まあ、諦めましょう。それに多少損をしましたけど全部持っていかれずに済んだから良かったじゃないですか」

「…そうですね。大損しなかっただけマシと思う事にしますよ。それにその損した分で命が助かったと思えば安いものですしね」

 

 シリウスの言葉に商人は考えを変えて気を取り直した。村人との商売でそこそこ儲けたらしく持っている袋からジャラジャラとお金の音が聞こえる。売れ残った商品を馬車に戻しているのを見ていると村長が近づいてきた。

 

「あの…そちらの方に少々ご相談があるのですが、よろしいですかな?」

「私ですか?ええ、構いませんよ」

「首に掛けているペンダントは、もしやハンターのでは?」

「ええ、そうですよ」

 

 シリウスは村長に見えるようにペンダントを持った。

 

「金!?ということは五級ですか!?まだ若いのに!?」

「ええまあ…色々ありまして」

 

 横で見ていた商人がペンダントの色に驚き、シリウスは苦笑している。

 

「なんと…ああいや、失礼。実はですな、森の中で人影を見たという者がおりましてですな」

「人影ですか…いつ頃ですか?大きさは?」

「確か…数日程前ですな。大きさは子供ぐらいです」

「森の中で子供ぐらいの大きさの人影…多分ゴブリンですね」

「やはりそうですか…村の者もそうではないかと危惧しておりまして。それ以来怖がって森に入ろうとせんのですよ」

「…それで私に森の中を確かめてほしいと?」

「そうです。お願いできませんかな?報酬の方もちゃんとご用意しますので」

「ふむ…(今から行って森の中を調査したら…日が暮れる前には帰ってこれるかな?)分かりました、引き受けましょう」

「おお、ありがとうございます」

 

 シリウスは家畜小屋へ戻り荷物を持って支度を始めた。

 

「え?どうしたの?」

「ちょっと森に行ってくる」

「いやいや、何でよ!?」

「依頼でな。森を調査してくる」

「私も行くわよ!ここにいたらまた捕まるかもしれないでしょ!?」

「まあ…その可能性も無くは無いな」

 

 ピーニは荷物の中に入り込みシリウスは外に出た。

 

「では行ってきます」

「お気をつけて」

 

 村長に見送られながらシリウスは森に入っていった。剣を抜いて警戒しながら森の奥へ歩いているが、静かで特に危険は感じなかった。

 

「うーん…特に問題らしい問題は感じないな…」

「そうね…この森には危険は無いみたいよ」

「分かるの?」

「ええ、フェアリーなのよ。精霊に聞けばすぐに分かるわ」

「精霊?」

「あんた精霊も知らないの?しょうがないわね、教えてあげるわ」

 

 精霊とは意思を持った魔力の集合体だ。

 自然がある場所ならどこにでも存在しており、大気中の魔力が一定以上集まれば自然発生する。発生したての低位の精霊は自我がほぼ無く自分が精霊ということぐらいの知性しか無いが、中位になると自我がはっきりし人と同じく個性を持つようになる。高位ともなれば人と同じか、もしくはそれ以上の知性を持つこともある。最高位の精霊も存在するが文献に僅かに記載されているだけで見た者は誰もいない。

 精霊は普通の人には感知できずできる者はかなり少ない。その数少ない感知できる者が精霊と対話して仲良くなって力を借りたり、または使役したりできるようになると精霊使いと呼ばれる。精霊は魔力の集合体なので振るう力はかなり強力で通常の魔法よりかなり強力だ。精霊の持つ力を借りて放つ魔法は精霊魔法と呼ばれる。だが精霊の力を借りるには努力だけでは借りれず、精霊を感知でき対話ができる才能が必要になるので精霊魔法が使える者はほとんどいない。

 

「そして生まれつき精霊を感知できる種族はエルフとフェアリーだけなのよ」

「へぇ~。どうすれば見えるようになるんだ?」

「さあ?私は知らないわ。ん~…でも私が手助けすれば見るぐらいはできるかもね」

 

 ピーニはシリウスの頭の上に移動して手をかざした。ピーニの手から魔力が少しずつ出始め、シリウスの頭を覆っていく。

 

「おーい、何か包まれてるんだけど」

「私の魔力で覆ってるの。これで見えるようになる、はず。多分。きっと」

「自信が無いのね」

 

 シリウスは目を細めて周囲を見回すと透明のモヤモヤしたものが薄っすらとだが見えた。

 

「…その辺にモヤモヤしたのが浮いてるんだけど…これが精霊?」

「成功ね。それとも元々才能が有ったのかしら?そうよ。私にははっきりと見えるけどね。ちゃんと見えるようになれば精霊の姿形や色も分かるようになるわ」

 

 精霊は色によって属性が異なる。赤色なら火、青色なら水、緑色なら風、茶色なら土、黄色なら雷、水色なら氷だ。

 

「ほんとはもっと細々と別れてたりするけど大体そんな感じよ」

「へぇ~」

 

 ピーニの精霊講座を受けながらシリウスは森の中を調査しているがゴブリンに会うどころか異常一つ見当たらなかった。

 

「とっくに移動したか、他の魔物にやられたか…」

「ふんふん…そう、分かったわ、ありがと。精霊はこっちの方にゴブリンがいるって。ただ動かないらしいわ」

「動かない?…死体か?」

 

 ピーニが精霊から聞き出した情報の方へ歩くと本当に数体のゴブリンの死体があった。目立った外傷は無かったが近くに齧られた跡がある傘が太いキノコを持っていた。

 

「…毒キノコと気づかずに食ったのか」

「多分、勘違いしたのね。これと見た目がほとんど同じの美味しいキノコがあるのよ。違いは傘の太さだけで太い方が毒キノコよ」

「まあ、これで依頼は達成だな。死体はどうしようか?」

「大丈夫よ。そろそろ来るはず…ほら来た」

 

 ピーニが指差す方を見てみると、草むらから頭から茎と葉っぱが生えてつぶらな目をしているスライムみたいな魔物が出てきた。

 

「何あれ?」

「あれはモームよ」

「モーム?」

「見た事が無いの?」

「私がいた所じゃ見てないな」

「まあ、いるとこといないとこがあるから仕方が無いわね」

 

 モームとは不定形型の魔物で森などに生息している。魔物などの死骸や排泄物を食べて森を綺麗にし、木々の栄養分が詰まった糞を排泄するので〈森の掃除屋〉とも呼ばれている。危険性は全く無く、むしろ森を綺麗にして潤してくれる大切な存在で退治しても何の得も無いので益虫扱いされている。

 

「そんな魔物もいるのか」

「そうよ。ある程度大きくなったら身体を別けて自己増殖するのよ。あら?」

 

 ピーニが見つめる場所には他のモームより小さいモームが石の下敷きにされ藻掻いていた。

 

「随分鈍臭いのもいるのね。ほれ」

 

 見かねたシリウスが石を退けるとモームは勢い余って転がった。起き上がると周囲を見回してシリウスと目が合った。ジッとシリウスを見つめるモームに首を傾げるシリウス。

 

「ほら、そろそろ帰らないと日が暮れるわよ」

「おっと、そうだった」

 

 ピーニに促されてシリウスが村へ向かって歩き出した。シリウスを見つめていたモームは少しの間去っていくシリウスを見ていたが、やがてシリウスの後を追い始めた。

 

「…なあ」

「…なに?」

「…何で付いてくるんだ?」

「知らないわよ。私だって初めて見たわ」

 

 シリウスとピーニが振り返るとモームが地面を這いながら必死にシリウスを追いかけていた。途中で木の根っこに躓いたり、凹んだ地面に落ちたりするも諦めずにシリウスを追いかけている。

 

「えぇ…すごい良心が咎めるんだけど…親と勘違いしたのか?」

「…産まれてすぐに自立するはずなんだけど…それか助けられたから恩返ししたいとか?」

「そんなに知性あるの?」

「無いはずなんだけど…どうするの?一応魔物だけど危険は全く無いわよ」

「……はぁ、仕方が無い」

 

 シリウスは転んで目を回しているモームを手の上に置いた。モームは姿勢を戻した後シリウスをジッと見つめており、シリウスも見つめ返すがモームが何を思っているのか分からなかった。

 

「…取りあえず連れてくか」

「だろうと思ったわ。短い付き合いだけど、あんた、お人好しだもの」

「否定はしない」

 

 シリウスはモームをそのまま手の上に乗せて村へ戻っていった。村に近づいてきたのでピーニはモームを一緒に荷物に隠れた。

 

「戻りました」

「おお、ご無事で何よりです。どうでしたか?」

「ええ、もう大丈夫ですよ。周辺も見てきましたが何も無かったです」

「そうですか…!態々ありがとうございます」

「いえ、仕事ですから」

 

 シリウスは倒したとは言っていないが、村長はシリウスがゴブリンを倒してくれたと思っている。シリウスも勘違いに気づいたが態々訂正させなくても結果は変わらないので黙っておいた。

 

「こちらは報酬です。どうぞお受け取り下さい」

「…いやいや、こんなに受け取れませんよ」

 

 村長から貰った袋には銀貨が二十枚、2000リクル入っていた。村長は知らないが今回の依頼の相場は1000リクル前後だ。シリウスも相場は知らないが以前のジャイアントアントの調査よりは安いと考えている。

 

「いやしかし」

「…ならこの半分だけ貰います」

「ですが…よろしいのですか?」

「ええ」

 

 袋から半分の銀貨十枚だけ取って返した。村長と別れてシリウスは家畜小屋へ戻り、夕食を作るために必要な物を荷物から取り出して外に出た。枝を組んで火を付けて鍋に水を入れて切った野菜を入れていきスープを作った。

 

「さて、いただきます」

「なあにそれ?」

「食事の前の挨拶さ。ポラリス~、あ~ん」

「あ~」

「アトリア~、あ~ん」

「…」

「じゃあ私も貰うわね…味、薄くない?」

「この子達も食べるからね。どうしても味が薄くなる。塩なら少しだけあるけど使う?」

「…いえ、いいわ。作ってもらって文句を言うのはおかしいしね」

「そういや、モーム、だっけ?何を食べるんだ?」

「野生なら魔物の死骸とか、木の実とか、山菜とか食べてるわね」

「木の実…ドライフルーツならあるけど、いけるかな?」

 

 シリウスの隣にいるモームは焚き火を興味深そうに見ていたが、呼ばれたと思ってシリウスの方を向いた。シリウスが手の上にドライフルーツを乗せて差し出すと首を傾げるように頭の葉っぱを揺らしている。しばらく見つめていたが徐にシリウスの手の上に乗りドライフルーツを食べた。ドライフルーツはモームの体内に入り徐々に溶けていった。

 

「おぉ…そうやって食べるのか」

「野生のモームも死骸とかに乗っかって食べてるわ」

 

 ピーニと話しながらポラリスとアトリアとモームに食べさせていった。

 

「はい、ごちそうさまでした」

「それも挨拶?」

「こっちは食後の挨拶だな。ん?ピーニ、隠れてろ」

「え?んげ…」

 

 ピーニが振り返ると商人がこちらに歩いてきていた。幸いシリウスが陰になって見えていないようだ。

 

「ああ、どうも。明日の事でお話がありまして」

「何ですか?」

「出発の時間ですが昼前には出ようと思っておりますがいいですか?」

「ええ、もちろん構いませんよ」

「ではそのように。ところで本当に家畜小屋でいいんですか?狭いですけど馬車の中を使っていただいても構いませんよ?」

「いえ、寝相で商品を壊してしまってはいけないので。ではおやすみなさい」

 

 商人の誘いを断りシリウスは焚き火を消して鍋などを持って家畜小屋に入った。家畜達は既に寝ていたので鍋などは明日片づける事にしてシリウスは静かに寝床に入り、ポラリスとアトリアを優しくベッドに置いて毛布を掛けた。

 

「ふわあ~…おやすみ~…」

「ああ、おやすみ」

 

 大きなあくびをしてピーニは毛布の中に入って寝た。シリウスは眠り始めたポラリスとアトリアの額にキスして目を瞑った。

 

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