転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第五十四話

 

 ルーデニック近郊の森の中をシリウスは追手が来ていないかと後ろを気にしながら歩いている。

 

「そこまで警戒しなくても大丈夫よ。精霊も近くに誰もいないって言ってるわ」

「…分かってはいるんだがな。どうしても気になってな」

「心配性ね。まあ分からないでもないけど」

 

 シリウスの肩の上に乗っているピーニはポラリスとアトリアに視線を向けた。二人は何の不安も無くシリウスの腕の中で眠っている。

 精霊に協力してもらいながらしばらくの間平和に森の中を歩いていると何か音が聞こえた。

 

「っ!何か聞こえた」

「え?そう?…あら、なあに?ふんふん…精霊がこの先に誰かいるって。人数は?…一人だって」

「一人?追手じゃないのか?いや、決めつけるのはまだ早い」

 

 シリウスは剣を抜いて音が聞こえた場所へ音を立てないように慎重に向かった。その場所は大きな木の根元でそこに誰かが寝ていた。

 

「グガー…グゴー…」

「追手じゃなさそうだな。というか、こんな所で寝るなよ…」

 

 シリウスは剣を納めて寝ている人物に近づいた。

 身長はシリウスよりやや低めで少しぽっちゃりした体型のシリウスと同年代ぐらいの女性だ。兜を被り、鎖帷子を着て、篭手と具足を付けており、近くに肩当てと大盾と手斧が荷物と一緒に無造作に置かれていた。物凄く無用心な姿に逆にこっちが心配になるほどでシリウスは警戒レベルを大幅に下げた。

 

「…おい、あんた。こんなとこで寝てたら危ないぞ」

「グオー…んが?」

 

 大口を開けてイビキを掻いて寝ていた女性は声を掛けられて目を覚ました。

 

「ふわあああぁぁぁ…ムニャムニャ………グオー…」

「起きろ!」

「んがっ」

 

 大きな欠伸をした後座ったまま二度寝に入ろうとした女性を一喝すると再び目を覚ました。

 

「ううん…なんだ~…?およ?おめえさんは誰だい?」

「通りすがりのハンターだよ。こんなとこで寝ていると危ないぞ」

「いやー、眠くなっちまってちょっと仮眠するつもりがガッツリ寝てただ。ガッハッハッハ!」

 

 女性は愛嬌のある顔で豪快に笑っている。僅かに会話しただけだがシリウスはこの女性が細かい事は気にしない良い人だと分かった。

 

「やれやれ…」

「およ?おめえさん、ハンターなのか?奇遇だなぁ、オラもハンターだ」

「ハンターならこんな危ない所で寝るなよ…」

「ガッハッハッハ!気にしない気にしない!」

 

 女性もハンターらしく首元を見てみるとシリウスと同じ五級のペンダントが見えた。

 

「オラはエベッタ・ルドリットっていうだ」

「私はシリウス・ノクティーだ」

「よろしくな~。およ?赤子もいるのか?そっちもよろしくな~」

 

 女性、エベッタは呑気に自己紹介しながら立ち上がり装備を付けて荷物を持った。

 

「聞いていいか?何でこんなとこにいるんだ?町ならそんなに遠くは無いぞ?」

「いやー、その、何というか、うん…」

「言いたくないなら言わなくてもいいが」

「…いや、言うだ。実はチームを追放されちまって町に居づらくなってな。昨日の夕暮れに町から叩き出されちまったんで取りあえずここで休んでいただよ」

「…いやいやいや。あり得ないだろそれ…追放するにしても何で町から叩き出されないといけないんだ?」

「あー…オラは何もしてないんだがな、何かオラが店から商品を盗んだ事にされちまってな~。それで追い出されちまっただ」

「…あり得ねえ…そこは断固抗議すべきだろ」

「でもなー…オラ、そういう頭を使うの苦手でな。それにチームの仲を悪くしてたのオラだし」

「何かしたのか?」

「う~ん…オラは普通にしてたんだがな…仲間はオラを見て苛ついた顔をしてたな~」

「そんな呑気に言う事じゃないぞ…」

 

 エベッタの追放理由は仲間との不和が原因だった。エベッタはのんびりしており、誰かと話していてもすぐに違う事に意識が行ってしまう。会話をしていても一人だけ話を聞いていなかったり、移動中ものんびりしているので足が遅く、置いていくわけにはいかず歩幅を合わせると移動時間が倍以上掛かってしまった。そんな事が何度も起こりついに仲間がキレて追放される事になった。そして仲間の一人が今まで積もりに積もった苛立ちを発散させるために露店から商品を盗んでエベッタの荷物に入れた。それから盗んだのを見たと大声で叫び荷物から商品が出てくると町の住民達によって町から追い出されてしまった。シリウスは話を聞いただけだがどう考えてもエベッタが悪いと思えなかった。

 

「…私は王都に行くが、よかったら一緒に来るか?」

「(言うと思ったわ…このお人好しっ)」

「およ?いいのかい?オラ、頭も悪いしトロいぞ?」

「別に構わんよ。まあ、遅かったら流石に一声を掛けるけどな」

「なら、よろしく頼むだ」

 

 ピーニの小声での罵倒をスルーし、エベッタと共に王都に向かう事になった。

 

「シリウスはどうして王都に行くだ?」

「特に目的は無いんだがな…ちょっとゴタゴタに巻き込まれて逃げてるところだよ」

「ほえ~、そうなのか~」

「…それでいいのか?」

「ん?何がだ?」

「一応追われてる身だぞ私は。一緒に来るってことはそれに巻き込まれるって事だ」

「…おぉっ!?そういやそうだ!でもシリウスは巻き込まれただけだろ?何かやったわけじゃねえだ」

「まあ、それはそうだが…不安になったりしないのか?」

「大丈夫だ!何とかなるだ!」

「…やれやれ」

 

 細かい事は気にしない性格と分かっていたが、実際話すと呆れと共に頼もしさも感じた。互いの事を話しながら森の中を歩いていると精霊が何かを感じ取った。

 

「(…シリウス、精霊がこの先に何かいるって)」

「…!エベッタ、止まって」

「~♪ん?どうしただ?」

「この先に何かいる」

「およ?そうだか?」

 

 シリウスが耳を澄まし気配を探ると、確かに音が聞こえ何かがいる気配も感じ取れた。シリウスが剣を抜くとエベッタも手斧を持ち大盾を構えた。音を立てないように慎重に歩き気配がある所まで行き、木陰から覗くとそこには魔物と男性がいた。男性は木の上の太い枝にいて泣き叫んでおり、木の下にいる魔物はジャイアントアント三体だった。ジャイアントアントは木の上に向かって顎を鳴らしながら登ろうと試みている。

 

「ひいいいぃぃぃ!?く、来るな!来るなあああぁぁぁ!」

「…なーんか見た事がある顔だな」

「あいやー、これはヤバイだ。助けねえと」

「そうだな。私が魔法を撃った後、一体任せていいか?」

「任せるだ!」

「よし…行くぞ!【マジックボルト】!」

 

 シリウスが放ったマジックボルトは一体のジャイアントアントの頭部に直撃した。

 

「ギイイイィィィ!?」

「ギィ!?」

「ギキィ!」

 

 頭部を半分抉られた一体は倒れ、奇襲を受けた残ったジャイアントアントは木の上の男性を放っておいてシリウス達に向き直った。

 

「左、任せた!」

「任せるだ!おりゃあ!」

 

 エベッタはジャイアントアントの突進を大盾で防いだ。

 

「ふんぬっ!とりゃあ!」

 

 力任せに横に弾き、手斧で触角を斬り落とした。痛みで悶えるジャイアントアントの頭目掛けて手斧を力一杯に振り下ろし止めを刺した。エベッタが盾で突進を防いでいる間にシリウスはジャイアントアントの突進を回避しながら触角を斬り落とした。

 

「ギイィ!?」

「終わりだ」

 

 倒れて悶えるジャイアントアントの目に剣を突き刺して止めを刺した。木の上で怯えていた男性は鮮やかな戦闘に目を奪われていた。

 

「す、凄い…!」

「こっちは終わったぞ」

「こっちもだ。魔法も使えるなんてシリウスはすげえなぁ」

「そうでもない。私より凄い人なんて探せばゴロゴロいるさ。さて…」

 

 シリウスは木の上にいる男性を見上げた。

 

「おいあんた。終わったから降りてこい」

「わ、分かってるさ!」

 

 男性はおっかなびっくり木の上から降りてきた。正面から男性を見ると昨日ルーデミックで仲間からチームを追放されたあの優男だった。

 

「で、あんたは?」

 

 シリウスが尋ねると優男は髪をかき上げて自己紹介をした。

 

「フフン、僕の名前はクルフ。クルフ・ビットリン。この国で最高のハンターとなる男さ!」

 

 大口を叩き気障な言動に眉をひそませるシリウスだが、そこはかとなく小物臭を嗅ぎ取っている。

 

「そうか、じゃあな」

「待って行かないで助けてー!」

 

 シリウスが見捨てようとした途端、手の平を返すというより素が出てきて泣きながら情けない声を出してシリウスに縋ってきた。シリウスが睨んだ通り口だけの小物だった。一応首にハンターの証であるペンダントが見え、背中に槍も背負っているので全く戦えないというわけでは無さそうだが泣き喚く姿を見るとかなり怪しかった。

 

「およ?どうして泣いてるだ?」

「小物だからじゃね?ええい、泣きつくな、鬱陶しい」

 

 シリウスに縋ろうとしがみつこうとする優男、クルフをシリウスは冷たくあしらっている。

 

「頼むよ!頼むよおおおぉぉぉ!」

「ふえええぇぇぇ…」

「ぅ、ぅ…」

「いい加減にしろ!ポラリス、アトリア、大丈夫だよ、よしよし」

 

 クルフの大声でポラリスとアトリアが泣き出してしまい、キレたシリウスはクルフを突き飛ばし二人をあやしている。突き飛ばされたクルフは尻もちを付いている。

 

「いてて…な、何をするんだ!?」

「あ"?」

「ぴぃ!?いえ、なんでもありません」

 

 殺気だったシリウスの視線を受けてクルフは怯えて静かになった。ポラリスとアトリアが泣き止むまでその状態が続いた。ちなみにエベッタはシリウスが二人をあやし始めた辺りでジャイアントアントの解体を始めていた。牙と甲殻を取り外し、肉を切り取って荷物の中にあった袋に入れている。

 

「いっぱい取れただ♪シリウス~、今晩は肉を焼くだ~」

「…マジでそれ食うのか?」

「シリウスは食ったことねえのか?美味いだよ」

「…流石に虫肉は食った事はないな」

「いっぺん食べてみるだ。ところで、そっちは誰だい?」

「君は話を聞いていなかったのかい!?」

「いやー、これを解体するのに夢中になってたから聞いてなかっただ」

「…なるほど。前の奴らはこれに苛ついてたのか。そこまで怒る事か?」

 

 クルフがエベッタに気障な自己紹介をしている横で一人納得しながら疑問に思っていた。

 

「…そろそろ行くぞ。どっかの誰かさんが騒いだ所為で他の魔物が寄ってくるかもしれんからな」

「分かっただ」

「…そのどっかの誰かって僕の事だろ!?それぐらい分かるぞ!」

「分かってるなら静かにしろ。置いてくぞ」

「静かにするから置いてかないでー!」

 

 同行者が増えた矢先にまた同行者が増えてしまった。

 

「はぁ~…今日はイベントが盛り沢山だな…」

 

 溜め息を吐きながらシリウスは先頭に立ち森の中を歩き、その後ろをエベッタとクルフが歩いている。

 

「…なあ、どこに向かってるんだい?」

「王都方面だ。ちょっと訳ありだから道は歩けん」

「訳あり?…はっ!?ま、まさか、犯罪を犯した、とか…!?」

「そうだとしてもどうする気だ?一人でルーデニックに戻るか?仮に私が犯罪者であんたがルーデニックに戻って報告したとしても、日頃から大口叩いているあんたの言葉を聞く奴はいるのか?」

「ふぐぅ!?」

「ついでに言うと仲間から追放されてるんだろう?その情報は既に広がっているだろうから、あそこにあんたの居場所はあるのか?」

「ひぎぃ!?」

 

 言葉の刃がクルフに次々と刺さっていく。どれも事実なので否定できず呻くしかなかった。

 

「うぐぐ…!」

「どうしただ?腹でもいてえのか?」

「…話は聞こえてたか?」

「なんか話してるのは分かったけんど、よく聞いてなかっただ」

「やれやれ…関係のある話の時はちゃんと聞けよ?」

「分かっただ。すまねえだ」

「か、彼女には、ずいぶん、や、優しいじゃないか…」

「エベッタは素直だからな。自分の非を認めないような狭量な奴に優しくする気はない」

「げふぅ!?」

 

 ポラリスとアトリアを泣かしたのでクルフにはかなりの塩対応なシリウス。思い当たる節しかないクルフは呻きながら俯いている。

 

「ホントどうしただ?…そういえば助けてって言ってなかったけか?」

「…そういやそうだな。おら、言え。聞くだけ聞いてやる」

「うぅ…本当に冷たい…さっき君が言ったようにルーデミックに居づらくなったから他の町に行こうとしたさ。そしたら、道を強面の男達が塞いでて一人一人確認してたのさ。怖かったから道を外れて歩いていたらあいつらに襲われて…」

「やっぱり待ち伏せしてたか…森を通って正解だったな」

「なんだ?シリウスの知り合いか?」

「知らないよ。訳ありって言ったろ?それ関連だよ」

「そうなのか~」

「…分かってないなこれ…やれやれ」

「君の所為か!おかげで僕はこんな目に合ってるんだぞ!」

「知らねえよ。自業自得だろ?私は悪くない」

「まあまあ、喧嘩はよくねえだ」

 

 途端に元気になったクルフがシリウスに食いかかるがシリウスは軽くあしらい、エベッタは間に入って宥めようとしている。

 

「はぁ…取りあえず歩くぞ。こんな所で立ち止まってる方が危ないからな」

「分かっただ」

「くっ…!話はまだ終わっていないからな!」

 

 シリウスの号令で再び歩く出した一行。森の中を歩いていると微かに羽音のようなのが聞こえてきた。

 

「止まれ」

「どうしただ?」

「ぜぇ、ぜぇ…」

「羽音が聞こえる」

「羽音?…オラには聞こえないだ」

「確かに聞こえた…こっちから聞こえる。回り道するぞ」

「はぁ、はぁ…ま、待ってくれ…」

 

 剣を抜いて警戒し出したシリウスに倣いエベッタも手斧を持って後ろに付いていき、クルフは槍を杖代わりにして息絶え絶えになりながら二人を追い掛けている。少し歩くと羽音が大きくなりだしエベッタの耳にも聞こえた。

 

「おお!聞こえただ!シリウスはすげえなぁ!」

「静かに。向こうに聞こえる」

「おっと、すまねえだ」

「ぜぇ、ぜぇ…」

「近づいてくるな…隠れよう」

 

 羽音が少しずつシリウス達へ迫ってくるのを感じシリウス達は茂みの中に隠れた。

すると一体の魔物が姿を現した。

 魔物の名前は“フォレストビー”。

 フォレストビーは体長が1mほどもある巨大な蜂だ。不用意に近づいたりしなければ害は無いが、一度手を出すと集団でどこまでも追い掛けてくる。腹の先端に針を持っており毒は無いが突き刺してくる。針は30㎝ほどもあり当たり所が悪ければ死ぬ凶器だ。シリウス達の前に出てきたフォレストビーはノロノロと飛び、辺りを忙しなく見回している。

 

「…どうやら見回りみたいだな。このままやり過ごそう」

「分かっただ」

「ぜぇ、はぁ…」

 

 エベッタは頷いたがクルフは息を整えるのに忙しかった。

 

「そんな体力でよくハンターができたな」

「し、しょうがない、じゃないか…はぁ、はぁ…こんなに長い時間、も、森に入った事なんて、はぁ、無いんだから…」

「依頼で来た事ないのかよ…」

「い、今までは平原ばかりだったから…」

 

 シリウスの呆れたような視線から逃げるようにクルフは顔を逸らしている。

 

「フォレストビーの蜂蜜はうめえんだよな~…」

「駄目だぞ。この人数で巣の攻略は流石に無謀過ぎる」

 

 フォレストビーの巣の中には蜜などが大量に蓄えられている。非常に甘く栄養価も高いので人気だが、取るには巣を攻略しなければならない。当然フォレストビーも巣に侵入しようとする不届き者を撃退すべく襲い掛かるので巣の攻略は大人数で行うのが普通だ。かなりの数のフォレストビーを倒さなければ蜜などは取れないので依頼の報酬はかなり高額で、しかも金だけでなく蜜も貰えるので依頼書が張り出されるとハンター達が我先にと群がるほど人気だ。

 去っていくフォレストビーをエベッタは名残惜しそうに見ていたが追いかけようとはしなかった。

 

「…よし、行ったな」

「蜂蜜…」

「またどっかで食えるさ。ほら行くぞ」

「ま、待ってくれ…もう少し、休ませて…」

「置いてくぞー」

「行くから置いてかないでくれー!」

 

 フォレストビーが去っていった方角を避けて再び森の中を歩き始めた。森を出るための道のりはまだ遠い。

 

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