転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第五十六話

 

 森を出て道に戻ってきたシリウス達。

 シリウスは注意深く周辺を確認したがそれらしい人影や気配は無かった。

 

「…どうやらいないみたいだな」

「ありがとね…精霊は森に帰したわ。いつまでも連れていけないからね」

「ああ、もう大丈夫だ。後は何とかする」

「んー、お日様が気持ちいいだ」

「ぜぇ、ぜぇ…み、道だ…!」

「さてと…王都はこっちだな。行くぞ」

「分かっただ」

「ま、待ってくれ…!」

 

 先頭からシリウス、エベッタ、クルフの順に道を歩いている。なだらかな平原がどこまでも続いており遠くの方までよく見えるが次の町はまだ見えず、時々小動物が草むらから顔を出すぐらいで実に平和だった。心地良い陽気にポラリスとアトリアはシリウスの腕の中でお昼寝しており、シリウスはそれを慈愛に満ちた表情で見ている。エベッタは半分ほど寝ながら歩いており、クルフはそんな事に気を向ける余裕が無いぐらい疲れていた。

 変化が合ったのは道の脇にあった岩場で休憩していた時だった。

 

「ポラリス~、はい、お水。ゆっくり飲んでね」

「あ~」

「グオー、グガー…」

「んぐっ、んぐっ…ふぅ…」

「アトリアも、お水、はい」

「ぁ、お、ぅ」

「ちょっとずつ声も出てきたな。良い事だ…ん?」

 

 何かに気づいたシリウスがそちらの方を向いてみると平原の草むらを何かが走っていた。

 それは鹿だった。その鹿の名前は“リトルホーン”。

 シリウスが以前見かけたビッグホーンの小型版みたいな魔物だ。ビッグホーンと同じように角が生えているがそこまで大きくなく、身体も小さくてシリウスが知っている鹿と同じぐらいの大きさだ。森や山に生息している臆病な魔物で走る速度はかなり早く悪路もスイスイと走れる。ビッグホーンと同じで角は薬の材料になり肉もそこそこ美味しく毛皮も生活に使えるので農村では貴重な資源でもある。そのリトルホーンが走っておりその後ろを狼が追い掛けている。

 追い掛けている狼の名前は“グラスウルフ”。普段は森の中で暮らしており獲物を探して平原に出てくる事がある。こちらもシリウスが以前見かけたワイルドウルフより小型で危険度は低いが森を歩いている人を襲う事もしばしばある。グラスウルフが獲物としてリトルホーンを追いかけ回しているが中々追いつけずついに諦めたようだ。ただグラスウルフが止まった場所がシリウス達が休んでいる岩場のすぐ近くで少しでも岩場の方を向けば気づかれてしまう。

 

「(おいおい、マジかよ…何でそこで止まるかね)…静かにしろよ」

「わ、分かってるさ…」

「モゴモゴ…」

 

 イビキをかいて寝ていたエベッタの口を抑えながらシリウスとクルフは息を潜めている。グラスウルフ達は踵を返して森の方に移動していったが、一番後ろにいた個体がふと岩場の方を向いてしまった。

 

「あっ」

 

 もろに目が合い少しの間沈黙があったがグラスウルフが再起動した。

 

「ウルルルル…」

「グウ?」

「ガウ!ガルルルル…」

 

 唸り出した仲間に反応して集まりだしシリウス達に気づくと一緒に唸り始めた。

 

「バレたか」

「どどどどどうするんだい!?あわわわわ!?」

「おおー、集まってきただー」

「そんな呑気な事を言ってる場合かい!?」

「うるさいぞ。さっさと槍を構えろ。この場で迎え撃つ」

「ここで!?冗談だろ!?」

「ここだったら背後を気にする必要は無い。上がろうとするところを狙えばいいだけだ」

 

 シリウスは岩場から動かず迎撃を選択した。グラスウルフ達は逃がさないように岩場の周りを囲うように動きジリジリと詰めてきている。

 

「あ、ああ…もう逃げれない…おしまいだ…」

「情けない事を言うな。来るぞ」

「オラは負けないだよ!」

「ガアッ!」

 

 一体の合図でグラスウルフ達は動き出した。岩場を登ろうと跳んできたところにシリウスは剣を振るった。

 

「落ちろ」

「ギャイン!?」

 

 斬られたグラスウルフは岩場から落ちていき地面で藻掻いている。

 

「とりゃあ!」

「ギャン!?」

 

 エベッタもシリウスを真似て近くに来たグラスウルフを大盾を使って下に落としている。

 

「く、来るな!来るなあああぁぁぁ!」

「キャン!?」

「ガウ!?グルルルル…」

 

 クルフは半狂乱になって槍を振り回しており、それがグラスウルフに当たって下に落ちている。シリウス達とグラスウルフ達の攻防がしばらく続いたが、やがてグラスウルフ達はシリウス達を襲うのは困難だと分かり森へ逃げていった。

 

「終わったか」

「勝っただ!」

「ぜぇ、ぜぇ…や、やったぞ…」

 

 周囲を確認し何もいないと分かったので岩場を降りた。下には倒したグラスウルフの死体が二つほど転がっていてエベッタは嬉々としてナイフを取り出し解体を始めた。

 

「ふっふ~ん♪肉♪肉♪」

「こいつも食べられるのか…毛皮は使えないのか?」

「毛皮も売れるだよ。でもそんなに高く売れなかっただ」

「それでも無いよりマシだ。飯代ぐらいになれば御の字さ」

「んだな。なら取っとくだ」

「そっちは任せた。私はこっちをやる」

「えっ!?き、君もやるのかい?」

「当り前だろ、何言ってんだ」

 

 解体を見ないようにそっぽを向いていたクルフはシリウスの発言に驚いている。クルフは解体ができず、かつての仲間に無理矢理やらされた時は耐えきれず吐いてしまった事がある。シリウスはポラリスとアトリアに血が飛ばないように気をつけながらグラスウルフを解体し始めた。皮と肉の間にナイフを入れて慎重に動かして皮を取り、肉もエベッタから助言を受けながら切り取っていく。

 

「よっ…これで全部か?」

「んだ。シリウスは解体もうめえな」

「慣れだよ慣れ。ところで肉は売れるのか?」

「えっ…売るだか…?」

「そんなに悲しそうな顔をするなよ。これは売らないから」

「ほっ…もし売るなら肉屋が買い取ってくれると思うだ」

「そうか、覚えておこう。で?これは夕食か?」

「んだ!」

「だろうな。なら今夜はステーキと野菜と肉のスープでもするか」

「おお!美味そうだ…!」

「この袋は肉用にするか…よし。さて、行くか。いつまでそっぽを向いてる気だ。さっさと行くぞ」

「ま、待ってくれよぉ!」

 

 手とナイフを水で洗い流し肉を荷物に仕舞い道に戻って再び歩き始めた。似たような風景が延々と続き辟易としてくるものの歩く速度は変わらないシリウスの後ろを半分ほど寝ながら歩いているエベッタと半死半生なクルフが続いている。数時間歩き続けたが町に辿り着けそうに無いので再び野営をする事にした。道の脇に今朝休憩に使った岩場と同じような場所があったのでそこで野営する事にして天幕を張り焚き火を付けてから夕食の準備に取り掛かった。

 

「肉は任せたぞ」

「分かっただ!ふっふ~ん♪」

「クルフはこれを周りに張ってくれ」

「これは…ロープと鳴子?」

「何かが近づいてきてもそれで気づけるだろ」

「なるほど…」

「何で知らないんだよ…」

「うぐっ…は、張ってくる!」

「逃げたな…まあいい」

 

 肉の焼ける良い匂いが辺りに立ち込めお腹が鳴る音が五つ聞こえた。

 

「まだかしら?お腹が空いて仕方ないわ」

「もうちょっとで焼けるだ♪」

「お腹空いたよ…」

「あ~、う~」

「あ、ぅ、お」

「ポラリスとアトリアにはまだちょっと早いかな~」

 

 ポラリスとアトリアも肉を食べてみたそうにしておりシリウスは苦笑しながら止めている。

 

「よし!できただ!」

「待ってました!」

「早くくれ!」

「落ち着け、腹ペコ共」

 

 全員にステーキとスープとパンが行き渡ったところで食べ始めた。

 

「あぐっ!美味いだ!」

「美味しい!あむっ!」

「美味しいわ~♪」

「いただきます。ポラリス~、あ~ん」

「あ~。あ~♪」

「アトリア~、あ~ん」

「あ、ぉ。お、お♪」

「カペラ~、あ~ん」

「(プルプル)♪」

 

 肉に齧りついて皆笑顔になっておりシリウスもステーキを食べた。

 

「うまっ。塩だけなのにうまっ」

「んだんだ♪」

 

 シリウス達が夕食を取っている時少し離れた所で森からハンターの一団が出てきた。

 

「うぅ…」

「クソッ、血が止まらない…!傷が深すぎる…!」

「そんな!?何とかならないの!?」

「ポーションも無くなった。何か手立ては…」

 

 仲間の一人が重傷を負い、しかも傷口が深いのか血が止めどなく流れている。布で止血をしようにも止まらずこのままでは失血死するのは時間の問題だった。

 

「!見て!あそこ!」

「灯り?誰かいるのかもしれん!」

「…他に手立ても無い。賭けるしかあるまい」

「よし!行くぞ!」

 

 一団はシリウス達がいる岩場へと近づいていった。そしてこういう時こそ周囲に気を張るべきだと教わったシリウスは誰かが近づいてくる気配を感じ取っていた。

 

「…カペラ、ピーニ、隠れてろ」

「シリウス?剣なんか持ってどうしたの?」

「およ?」

「んぐっ?」

 

 シリウスは膝の上に乗せていたポラリスとアトリアを地面に置き剣を持って立ち上がった。

 

「出てこい。そこにいるのは分かってるんだ」

「え?」

「およ?」

「へ?」

 

 シリウスは岩場の後ろに向かって剣を向けて臨戦態勢に入っている。

 

「待て待て。こっちに敵意は無い。コソコソして悪かった。今出ていく」

 

 すると岩場の後ろから両手を上げて誰かが出てきた。出てきたのは槍を持った目つきの悪い男と全身鎧を着て盾を持った大男と弓矢を持った気の強そうな女と杖を持って肩を怪我している少女だった。

 

「すまない。怪我人がいるんだ。手持ちのポーションは全部無くなってしまってな。助けてくれないか?」

「すまん、頼む」

「お願い」

「はぁ、はぁ…」

「…」

 

 頭を下げてくる男達と女をじっと見つめて見定めていたシリウスだったがやがて剣を納めた。

 

「こっち来い。ポーションぐらいなら分けてやる」

「すまない!リーサ、こっちだ」

「ご、ごめん…いっ!」

「無理しないの」

 

 仲間のために頭を下げたので少なくとも悪い人では無いと判断して受け入れた。

 

「およ?怪我してるだか?こっちに座るだ」

「ごめんなさい。ほら、座って」

「うん…」

「うわあ…痛そう…」

「ほら、これ使え」

「すまない、助かる。リーサ、ほら」

 

 シリウスは荷物の中から水薬を取り出して目つきの悪い男に渡した。男はリーサと呼ばれている少女に水薬を半分ほど飲ませて残りを肩の怪我の部分に掛けた。水薬を飲んだ事で青褪めた顔色も少しずつだが良くなってきている。

 

「これで一安心だな」

「良かったわ…」

「うむ」

「ごめんなさい…私の所為で…」

「リーサは悪くないわ。もうそんな事言わないの」

 

 俯くリーサを慰める仲間達を見つめるシリウス達。怪我の具合も徐々に良くなり一段落したところでシリウスに向き直った。

 

「改めて礼を言う。おかげで仲間が助かった。本当にありがとう」

「助かった」

「ありがとうね」

「あ、ありがとうございます」

「別に構わん、気にするな」

 

 頭を下げられたシリウスだが礼を言われる事に未だに慣れていないので軽く流した。

 

「俺達は〈ラッククローバー〉っていうんだ。俺はリーダーのルヴェン・ドルドスだ。よろしくな」

「俺はエバン・トヴァルス」

「私はセネディ・イーフットって言うの。よろしくね」

「わ、私はリーサネーア・ハーヴェネルです…」

 

 短い金髪の目つきの悪い男、ルヴェン・ドルドスと短い白髪の大男、エバン・トヴァルスと赤髪のセミロングの気の強そうな女、セネディ・イーフットと長い金髪の少女、リーサネーア・ハーヴェネル。彼らは全員四級の〈ラッククローバー〉というハンターのチームだ。

 

「自己紹介する流れか…私はシリウス・ノクティーだ」

「オラはエベッタ・ルドリットだ」

「僕はクルフ・ビットリンさ」

「よろしくな。ところで君がこのチームのリーダーなのか?」

「違う。そもそもチームでもない」

「そうなのか?てっきりそうだと」

「偶々知り合って向かう場所が同じだったから一緒に行動してるだけだ」

「う~…ま~…」

「う、ぅ、ま、ま」

「ポラリス、アトリア、どうした?」

 

 ルヴェンと話していたらポラリスとアトリアが寂しくなったのかシリウスを呼び、シリウスはすぐに反応して会話を切り上げた。

 

「ま~」

「ま、ま」

「よしよし」

「おいおい。こんな所に子供がいるのか?」

「あら、可愛い」

「セネディ、そこじゃない」

「連れてきて大丈夫なの…?」

「頼れる人がいないからな」

「え…?両親は…?」

「リーサ、止せ。ハンター同士の詮索はご法度だ」

「あ…ごめんなさい…」

「構わんよ」

 

 シリウスは別に知られても問題無かったが、ルヴェンが言った通りハンター同士の詮索は諍いの種になるのでご法度とされている。

 その時、誰かのお腹の音が鳴り響いた。

 

「あぅ…」

「プッ…」

「クックク…」

「あらあら、ふふふ」

 

 鳴ったのはリーサのお腹だった。

 

「お?腹が減ってるのか?なら一緒に肉を食うだ!」

「え?いや、でも…」

「気にするな。皆で食えばうめえぞ。すぐ焼くからな」

「ならスープも温め直すか」

「すまないな。助けてもらっただけでなく夕食まで…この恩は必ず返す」

「別に構わん」

「んだんだ」

 

 エベッタは残っていた肉を焼きだし、シリウスはスープを温め始めた。夕食ができるまでの間男性陣と女性陣に別れて会話が進んでいる。

 

「へぇ…〈スピアービル〉の〈猛き槍〉に憧れてハンターになったのか」

「昔、彼らに助けられた事があってね。その時の事が忘れられなくてさ」

「分かる、分かるぞ。昔の憧れは捨てられないもんな」

「うむ」

「この肉を焼いてる時が一番堪らないだ~」

「そうね。そうだ、確かここに…あった。この香草を一緒に焼けばいい味になるわよ」

「お~、そうなのか?なら焼くだ」

「赤ちゃん、可愛い…」

「う~?」

「う?」

「やらんぞ。私の子だ」

「い、いや、そういうので見てたわけじゃ…」

「私の娘達が可愛くないと…?」

「ち、違う…!可愛いよ…!だから怖い顔で迫ってこないで…!」

 

 一部を除いて実に平和な会話がされていた。肉が焼けスープも温まったので〈ラッククローバー〉の面々と一緒に夕食が再開された。

 

「うめぇ!」

「うむ…うむ」

「香草がお肉の味を引き立てて美味しいわ」

「このスープの味付け、好き」

「あぐっ!美味いだ!やっぱ皆で食えばうめえな!」

「こっちの香草の肉も美味しい!」

「うまっ。塩だけじゃなくて香草とかも買っとくか?」

「(じっー)」

「おっと…ほら、静かに食べろよ」

「(うまー♪)」

「(プルプル)♪」

 

 荷物から無言の圧を感じて誰もシリウスの方を見ていない事を確認しながらカペラとピーニに肉を渡している。人が増えた事でポラリスとアトリアは静かになっており、シリウスに抱き着きながら増えた人を見ている。

 

「大丈夫、ママがいるよ」

「ま~」

「ま、ま」

「よしよし」

 

 怖がっているのではと思ったシリウスが二人を抱き締めて安心させようとしている。その慈愛に満ちた表情を見て全員手が止まった。

 

「シリウスが優しい顔をしているだ」

「僕にもその優しさを分けてほしいよ…はぁ…」

「…さっきと全然違うな。いや、当然か」

「正しく母親の姿」

「リーサと同じぐらいの歳でしょ?あの歳ですごいわね…」

「えぅ…(な、何だかドキドキする…何で…?)」

 

 一人シリウスのギャップに新しい扉を開きかけている者がいるが〈ラッククローバー〉の皆は先ほどの真剣な表情との違いに驚いている。

 

「…何見てんだ?」

「うぇ!?な、ななな何でもない…!」

「?」

「おいセネディ、リーサ、まさか…」

「…可能性は高いかもね」

「むぅ…その道は苦難の道だが…」

「どうしただ?」

「さあ?僕にも分からないよ」

 

 一人テンパるリーサに首を傾げているシリウス達とリーサの変化に仲間内で相談し合うルヴェン達。そこだけまったりとした空気が流れていた。

 

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