転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第五十七話

 

 夕食を食べ終えて食器類も片づけた後、シリウス達は〈ラッククローバー〉と向き直って話をしている。

 

「ルヴェン達はこれからどうするんだ?」

「俺達はこの先の都市、“テトラニーア”を拠点にしているんだ。そこに戻るさ。君達は王都に行くんだったな。テトラニーアまでで良かったら連れていくぞ?」

「それとテトラニーアの案内も頼む。数日は滞在するつもりだから。それがポーションの代金ということで」

「案内は構わんが…いいのか?全然釣り合ってないが…」

「言ったでしょ。別に構わないって」

「そうか…分かった」

「ルヴェン、天幕を張り終えたぞ」

「おう、分かった。リーサ、火の番はしなくていいから今日は休みな」

「うん…えっと、おやすみなさい」

「?ああ、おやすみ」

 

 何故かシリウスの方を見て挨拶してからリーサは天幕に入った。シリウスは何が何だか分からなかったがルヴェン達は何とも言えない顔をしていた。

 

「なあセネディ、あれやっぱり…」

「…でしょうね。まだ気づいてないみたいだけど…あの子が選んだ道だから祝福してあげたいけど…」

「成長に喜ぶべきか、その道に行った事を嘆くべきか…」

「?まあいい。私も寝るかな」

「ふあ~…オラも眠くなってきただ…」

「そして今日も僕は外なんだね…」

「何だ、天幕持ってないのか?なら狭いがこっちで寝るか?」

「え、いいのかい?」

「俺は構わんぞ」

「ああ。まず俺が火の番をしよう」

「じゃあその次が私ね。それまで寝るわ。お先」

 

 火の番に残ったエバンを除いて皆天幕に入った。

 

「よいしょ…カペラ、ピーニ、悪いがしばらくの間荷物の中で静かにしててくれ」

「彼らには言わないの?」

「大丈夫だと思いたいが…もうちょっと様子を見る」

「まあその辺はシリウスに任せるわ。私も寝よっと。おやすみ」

「ああ、おやすみ。ポラリス、アトリア、カペラもおやすみ」

 

 寝床に入り皆に毛布を掛けてシリウスも眠った。

 翌朝、各々が目を覚ましエバンが作ったスープとパンで朝食を取っている。シリウスはエバンに許可をもらってスープを薄めてポラリスとアトリアに食べさせている。

 

「ポラリス~、あ~ん」

「あ~」

「アトリア~、あ~ん」

「ぁ、あ」

「可愛い…」

「そうね」

「子供が笑顔なのは良い事」

「だな」

「んだんだ。およ?このスープうめえな」

「はぁ~、温まる…」

 

 ポラリスとアトリアが笑顔なので自然と皆も笑顔になっている。朝食を食べ終え片づけも終わり出発の準備も整った。

 

「よし、行こうか」

「テトラニーアまで後どのくらい?」

「そうだな…遅くとも明日の昼ぐらいには着くかな」

「まだそんなにあるのかい…」

「大丈夫だ。一日なんてすぐだ」

「うむ」

「それにしても…あなた、荷物多くない?」

「そうか?」

「うん、多い。重くないの?」

「いや別に。まだいけるぞ」

「凄い…」

「まあ、これのおかげもあるけどな」

 

 シリウスは右手の指に付けている魔具を見せた。

 

「それって、魔具!?しかも二つも!?」

「なにぃ!?」

「なんと」

「うわあ」

「およ?」

「何だって!?」

「体力回復と力増強だ。どっちも気休め程度だけどな」

「いやいや!?一つだけでも高額なのよ!?一体どうやって!?」

「一個は買った。もう一個は贈り物だ」

「贈り、物…!?」

 

 未だに自分の感情に気づいていないリーサだが贈り物と聞いて心を掻き乱されている。

 

「(気になったのはそっちか…)」

「(何故まだ気づかん)」

「(焦れったいわね…でも甘酸っぱくて何だかドキドキするわ…!)」

「(な、何で私はこんなに動揺してるの…?き、昨日からおかしい…!)」

「(魔具まで持ってるなんて…ズルいぞ!僕にも貸してくれ!具体的には体力回復の方を!)」

「(まぐって何だったかな?)」

 

 自分の感情に気づかず困惑しながら自問自答しているリーサをルヴェン達は生暖かい目で見守っており、クルフは体力回復の指輪を物欲しそうに見ていて、エベッタは首を傾げていた。

 

「…そろそろ行かないか?」

「はっ!?そ、そそそそうだね…!」

「動揺しすぎだ…でもそうだな。行くか」

 

 ルヴェンを先頭にシリウス達とラッククローバーは歩き始めた。代わり映えしない平原を歩き続けているが話し相手がいるので以前よりは退屈せずに歩けている。

 

「魔法も使えるんだ…」

「ああ。覚えておいて損は無いって思ってな。初級や下級でいいから覚えた方がいい魔法とか無いか?」

「うーん…ティンダー、レビテーション、ライト、フラッシュ、フロート…後は、マジックシールドとか?」

「マジックシールド…魔法の盾か。どのくらいまで耐えられるんだ?」

「えっと…剣とかは魔力次第だけど数発ぐらい。魔物は相手によるけど一発耐えられたらいい方」

「ほうほう…」

「…色気の無い会話だけど、仲良さそうね」

「そうだな。見ろ、あの楽しそうな顔」

「…嬉しい反面、悔しさもある」

「ああ…そうだな」

 

 リーサは両親と妹の四人家族だったが母親を流行り病で亡くし、母親を亡くしたショックで父親はおかしくなりギャンブルにのめり込み多額の借金を作った後、リーサに全てを押し付けて夜逃げした。借金取りはリーサと妹を娼館に売って稼がせようとしたが、リーサが必死に懇願して一年以内に借金500000リクルの半分の250000リクルを返すという条件で何とか猶予をもらえた。普通であれば到底返せないほどの金額だが幼い妹を守るためにはそれしか方法は無くリーサは必死に働いている。

 ハンターの依頼をこなしつつ空いた時間で短期の仕事をいくつも掛け持ちして金を稼いでいる。ルヴェン達もリーサの無茶を少しでも軽減させようと分け前を多くしたり、少しでも報酬がいい依頼を選んだり、魔物がいたら積極的に狩ったりしている。だが疲労が溜まった身体で依頼をこなすのは難しく、またかなり無茶をするので何度も危機に陥っており今回も希少な薬草の採取の依頼で一本でも多く採ろうと欲張った結果、魔物の接近に気づけず重傷を負った。

 それでも無茶をした成果は出ており、250000リクルまで後65000リクルまで返せている。今回の依頼で薬草だけでなく魔物の素材も手に入ったので諸々売れば少なくとも15000リクルは手に入る。だが返済期限が一週間を切ってしまっており残り50000リクルを返す当ても無い。笑顔も無く追い詰められた表情を浮かべるリーサに何もできない自分達を恥じており、信じてもいない神に祈る事しかできなかった。

 そんな時にシリウスと出会いリーサは変わった。あの見ていられない表情ではなく友人と気軽に話し合うような柔らかい表情をしている。ルヴェン達はそれが嬉しい反面、自分達がその表情を引き出せなかった事が悔しかった。

 

「へ~、妹がいるのか」

「うん。今は宿屋の人に預かってもらってる」

「どんな子なんだ?」

「わがままを言わないいい子。でも私に気を遣って言わないだけ。もっと迷惑を掛けてもいいのに…」

「その子は優しいな。疲れてるリーサを心配して休んでほしいんだろ」

「でも…」

「なら一緒にいてやればいい。それだけでもその子は嬉しいはずだ」

「…私だって一緒にいたい。でもダメ。一刻も早く稼がないと…でないと…」

「リーサ…」

 

 シリウスに相当心を許しているのか家族の事まで話している。そしてシリウスは両親の話が出てこず預かってもらっている発言、そして金を稼がなければならないという発言から色々と察した。追い詰められた表情をしているリーサに心を痛め自分に何かできないかと考えている。

 

「(またピーニからこのお人好しって罵られるな…でもまあ、誰かを助けるのに理由なんていらんしな。受け売りだが。確かそれなりに金は持ってるから何とかなるか?)」

 

 シリウスは新しくできた友人を助ける気満々だった。そしてそれは荷物の中で二人の会話を聞いていたピーニに筒抜けだった。

 

「(プルプル)」

「(どしたカペラ?え?ピーニがこのお人好しって?ハハッ、ですよねー)」

 

 案の定カペラ経由でピーニに罵られてしまった。俯いたリーサとの会話も止まってしまい助ける方法を考え始めたシリウスだったがルヴェンが止まった事で一時中断した。

 

「止まれ」

「どうした?」

「見ろ」

 

 ルヴェンの言葉に前を向くと霧が立ち込めていた。

 

「マズいな…」

「ただの霧じゃないのか?」

「いや、霧は問題ない。ただ場所が悪い」

「昔、ここで事件があり人がたくさん死んだ」

「ちゃんと埋葬されなかったから魔物化しているのよ」

「え?え?な、何が出てくるんだい…?」

「スケルトンだ。ほらあそこ」

 

 シリウスが指差す方を見ると霧の中から人間の骸骨が歩いてきた。

 スケルトンは放置され白骨化した死体に非業の死を遂げた魂が複数憑りついて魔物化したものだ。生前の意思は無くあるのは生者に対する理不尽な憎悪だけだ。

 

「くっそ!遅かったか!」

「武装している。厄介だ」

「マズいわ…!後ろからドンドン出てくる!」

「あ、ああ…もう、おしまいだ…」

「昨日もそんな事言ってたぞ。さっさと武器を構えろ」

「おら、頑張るだよ!」

 

 完治していないリーサを中央に置いて円形状に陣を張りスケルトンに供えた。スケルトン達は刃毀れした剣や斧を構えてカタカタと音を鳴らしながら包囲するように動いている。

 

「…ん?なあ、スケルトンってアンデッドだよな?」

「そうだが、それがどうした!?」

「なら十数秒だけくれ」

 

 シリウスは何かを思い当たり、しゃがみ込んで荷物を漁り始めた。

 

「こんな時に何を!?」

「前見ろセネディ!来るぞ!」

「この状況を打破する何かをしようとしているのだろう。なら時間を稼ぐまでだ」

 

 スケルトン達はルヴェン達に一斉に襲い掛かった。骨しかないのにどこにそれだけの力があるのかと思うぐらい攻撃は苛烈で重かった。

 

「ぬうっ…!」

「ぐぎぎ…!重いだ…!」

「槍は効果が薄い!振り回せ!」

「来るなっ!来るなあああぁぁぁ!」

「矢も意味が無い!こっちに来るんじゃないわよ!」

「下がって…!【ロックダーツ】!」

 

 エバンとエベッタが盾で防ぎ、ルヴェンとクルフが槍を振り回し、セネディは落ちている石を投げ、リーサは魔法を唱えて応戦している。

 

「悪い、待たせた」

 

 シリウスの声が聞こえたと思ったら辺りが青い光に照らされた。するとスケルトン達は襲うのを止めて光を嫌がるように後退し始めた。

 

「な、何だ?下がっていく?」

「この光は…」

「嘘でしょ…それって魔具じゃない…」

「凄い、どころじゃなかった。凄すぎる…」

「まだ魔具を持ってたのかい!?」

「およ?助かっただか?」

 

 シリウスが持つランタンの青い光がスケルトン達を遠ざけている。呑気な事を言っているエベッタ以外全員がシリウスの持つランタンを凝視している。

 

「あー…それは?」

「貰った。贈り物だ」

「贈り物…!?」

「リーサ、それはもういい」

「魔具をあげるなんてどんな金持ちよ…」

「いや、ターエルのハンターだな」

「あー、あそこか…ならちょっと納得できるな」

「あそこは善き人ばかりだ」

「こっちが心配になるぐらいお人好しだもんね…」

「壊れてたのを直したって言ってたな」

「なら、まあ…筋は通る、か?」

「何はともあれ危機は脱した」

「…そうでもないみたいよ」

 

 セネディの視線の先には光が届かない場所で弓を構えたスケルトンが複数いた。

 

「下がれ」

「オラ達に任せるだ!」

 

 盾持ちのエバンとエベッタが前に出て矢を防いでいるが、矢は次々に飛んでくる。

 

「クソッ!このままじゃ埒が明かんぞ!」

「え?弓持ちのスケルトン目掛けて全員で突っ込んでそのまま走り抜ければいいんじゃないの?」

「…あ」

「おい」

「ルヴェン、あんたね…」

「す、すまん。焦り過ぎた」

「話は聞いた。俺はいつでもいける」

「エベッタ。今から矢を防ぎながら弓持ちのスケルトンに突っ込むぞ」

「分かっただ!」

「よし…今だ!」

 

 シリウスの合図で全員一斉に走り出した。エバンとエベッタは飛んでくる矢を防ぎながら弓持ちのスケルトンにシールドバッシュを放った。

 

「ふんっ!」

「おりゃあ!」

 

 まともに受けたスケルトンはバラバラになりながら吹き飛んだ。地面にばら撒かれて倒したかに思えたがバラバラになったスケルトンのパーツが元に戻ろうとゆっくりと動いている。

 

「うわぁ…動いてる…」

「な、何で倒せないんだよー!?」

「こいつらは魔力で動いてる!粉々に砕くか、魔法で吹き飛ばすか、魔力を消すしか倒せん!」

「今のうちに行きましょう!」

「先に行け。殿は任せろ」

「オラもやるだ!」

 

 ルヴェンとセネディを先頭に霧の中を走っている。シリウスの持つランタンの青い光でスケルトン達は近づく事ができず、散発的に矢が飛んでくるだけだった。進行方向にいるスケルトンはルヴェンが蹴散らしている。

 

「うあ!?」

「おっと、大丈夫か?」

「う、うん…(ち、近いよ…!またドキドキしてる…!何で…?)」

 

 躓きかけたリーサを引き寄せて助けたら何故か顔を赤らめたリーサに疑問を持つシリウスだったが、足に何か当たるのを感じた。

 

「ん?…何ぞこれ?」

「急げ!」

「早くこっち!」

「おっと…ほら、行くぞ」

「う、うん」

「ヒイヤアアアァァァ!?」

「急げ。まだ飛んでくるぞ」

「効かないだよ!」

 

 落ちていた何かを確認する暇も無かったので懐にしまいシリウスは走り出した。少しの間走り続けたら霧を抜けれた。霧からある程度離れた所で振り向くと、スケルトンは霧から出たシリウス達を追い掛けるのを諦めて霧の中へ消えていった。

 

「何とかなったな」

「た、助かったあああぁぁぁ…」

「危なかったな…あのままいたらマジで全滅してたぞ…」

「ホントね…シリウスがいてくれて助かったわ…」

「この盾も新調せねばならんな」

「およ?裏まで刺さってただ」

「シリウスのおかげ…あ、ありがとう…」

「気にするな」

「ま~」

「ま、ま」

「ポラリスとアトリアも大丈夫そうだな。よしよし」

「全く動じてない…きっと凄い子達になる」

 

 僅か十数分程度だが濃い時間を過ごしたので皆疲れて座り込んでいる。エバンとエベッタの盾はずっと矢を防いでいたので穴だらけになっており一部は貫通していた。

 

「はぁ、少し休憩するか」

「そうね、流石に疲れたわ」

「霧がでるとは予測できなかった」

「スケルトンは日の光に弱いのか?」

「うん。日の光に当たると動きが鈍くなる。だからいつも夜にしか動かない」

「今回は霧が出て日の光を遮ってたから出てきたんだろうな」

「ほえ~、そうなのか~」

「僕も知らなかったよ」

「そんなに見る事も無いしな。いない所の方が多いと思うぜ」

「ただ洞窟とかは結構いるわよ」

「…一度スケルトンだらけの洞窟に入った事がある」

「ああ、あれか…あれは酷かったな…」

「五つのチームで来たのに生き残ったのは私達だけ。生き残れたのはホントに運が良かったわ」

「落ちてたポーションを投げまくった」

「ポーションでも怯むのか?」

「多分。効いたかどうか見てる暇が無かった」

「アンデッドだから回復系は向こうにしたら毒みたいなもんかもな…ふぅ、よしそろそろ行くか」

「そうね。ちょっとでもここから離れた方がいいしね」

「日暮れ前には次の野営地に着きたい」

「後どのくらいだ?」

「ん…この平原を超えた先の岩場。まだ見えない」

「ま、まだあるのかい…?」

「大丈夫だ。きっとすぐだ」

 

 町まではまだ遠い。

 

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