転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第五十八話

 

 日が傾き辺りが段々と暗くなり灯りが無いと歩くのが難しくなってきた平原をシリウス達は歩いている。

 

「すっかり暗くなっちまったな」

「もう少しで着くはずなんだけど…」

 

 ルヴェンは松明を作って辺りを照らしながら先頭を歩いている。昼間のスケルトンで休憩を取ったり、警戒しながらゆっくり進んだ所為で時間を取られてしまい、予定ではすでに野営地にいる予定だがまだ平原を歩いていた。

 

「はぁ、はぁ…」

「リーサ、大丈夫か?」

「だ、大丈夫…」

「無理すんな。顔色、悪いぞ。ほら、肩貸せ」

「荷物は俺が持とう」

「ごめん…」

「ぜぇ、ぜぇ…」

「おーい、頑張れー」

「相変わらずクルフは体力が無いな」

 

 大分治ってきているがまだ傷口が痛むリーサと体力が無いクルフは遅れており、シリウスとエバンとエベッタがフォローしている。ルヴェンの持つ松明とシリウスのランタンの灯りだけが辺りを照らしている。

 

「…見えた。ほら、あそこ」

「あったあった。やっと着いたな」

 

 大きな岩が円形状に立ち並びその中央がちょっとした広場になっておりハンターや旅人などが野営地として使用している。

 

「やっと着いた…」

「誰も使っていないみたいだな」

「さっさと天幕を張ってしまいましょう」

「俺は枝を集めてくる」

「オラも行くだ」

「ぜぇ、ぜぇ…」

「こんなとこで座り込むんじゃない」

 

 各々が野営の準備に取り掛かった。天幕を張り終えて焚き火もおこし今は夕食を作っており、今日はエバンがシリウス達の分も作ってくれている。

 

「本当にいいのか?」

「ああ。今回、シリウスがいなければ危なかった。その礼だ」

「まあ、こんなもんじゃまだ足らんかもしれんが、それはまた今度ってことで」

 

 鍋の中のシチューには野菜の他に燻製肉が入っておりその上からチーズも入れられている。鍋の横には小さめの鍋もありそちらはポラリスとアトリアの分だ。

 

「ふむ…よし、できた。器を」

「待ってました!」

「オラ、腹ペコペコだ!」

「はしゃぐな、腹ペコ共」

 

 全員に夕食が行き渡り早速食べ始めた。

 

「ん~!美味いだ!」

「あぐっ!はぐっ!」

「あ"ー沁みる…」

「オッサン臭いわよ」

「ん…美味しい」

「うむ、今日のも問題ない」

「ポラリス~、あ~ん」

「あ~。あ~♪」

「アトリア~、あ~ん」

「あ、あ。お、お♪」

 

 シリウスはポラリスとアトリアに食べさせながら荷物から注がれる視線にどうするか悩んでいた。

 

「(うーん、どうするか…話しても大丈夫そうなんだけど、リーサがな…ピーニを見て良からぬ事を考えそうで嫌なんだよな…かといってパンだけで我慢させるのも酷だよな…ぐぬぬ)」

「…シリウス、これを」

「ん?」

 

 エバンがシリウスにシチューの入った器を渡してきた。

 

「え?いや、もうあるけど(バレたか…?)」

「リーサの方は今ルヴェンとセネディが壁になっている。今なら大丈夫だ」

「…いつ知った?」

「昨日の夕食時に。気づいたのは俺だけだ。ルヴェンとセネディには聞かないように言ってある。俺も何も聞かん」

「…ありがとう」

「気にしなくていい。判断は間違っていない。今のリーサに見せれば良からぬ事になるのは目に見えている」

 

 エバンはピーニの存在に気づいていた。妖精の羽は市場に滅多に出回らないので希少価値が高く上手く売る事ができれば100000リクルで売る事も可能だ。借金の返済期限が目前まで迫っているリーサが見れば何が何でも手に入れようとする可能性があった。

 

「悪いがリーサに見つからないようにしておいてくれ。俺も協力しよう」

「分かった。ありがとう」

 

 シリウスはリーサから見えないように自分の後ろに器を置いた。

 

「うまうま」

「(プルプル)」

 

 隠れながら食べるカペラとピーニに悪いと思いつつ今はそれしか手が無かった。

 

「(さっさとリーサの借金をどうにかしてやらないとな。でも後いくらぐらいあるんだろうか?50000ぐらいならポンっと出せるんだが…それ以上となると流石にな…というかどうやって聞き出す?いくら仲良くなった…仲良くなったよな?仲良くなったであろう人に借金の事を簡単には言わないよな…私だったら言わないし。ルヴェン達は…借金がある事は知ってるだろうけど、どのくらいなのかは流石に知らんよな…聞き出すの無理じゃね?)」

 

 ポラリスとアトリアに食べさせながら、やろうとしている事の難易度に今更ながらに気づいた。

 

「どうしたの…?」

「ん?何がだ?」

「難しい顔、してた」

「そうだったか?すまんな。特に何でもないんだ、気にしないでくれ」

「そう…でも、何かあったら言ってね。私、力になるから」

「ああ、ありがとう」

「(おお…仕掛けたかリーサ!)」

「(そうよ!その調子で押しなさい!押して、押して、押し倒す勢いでアプローチするのよ!)」

「(ルヴェンとセネディは楽しんでないか?こういうのは黙って見守るだけだろうに…)」

「シチュー、美味しいなあ…」

「あぐっ!ムグムグ…」

 

 恋愛ドラマを見ているような心境で見守るルヴェンとセネディ、二人を見て呆れているエバン、我関せず食事を楽しんでいるクルフとエベッタ、そしてシリウスにお礼を言われて頬を赤らめつつもはにかむリーサの二人。そこだけ甘酸っぱい空気が漂っているが、その空気を作っている片方は己の感情に気づいておらず、もう片方はそもそもそんな感情とは縁遠く関心すら持っていなかった。その空気は夕食を食べ終わるまで続いた。

 

「ポラリス、アトリア、美味しかったか?」

「あ~」

「あ、あ」

「そうかそうか」

 

 満足そうな顔をしているポラリスとアトリアにシリウスは笑顔になり二人の頭を撫でている。可愛らしいポラリスとアトリアに他の皆もつられて笑顔になっている。

 

「ふわあ~…今日は疲れたよ…」

「んだな…腹も一杯だからオラ眠くなってきただ…」

「そうだな。今日はもう休むか。じゃあ火の番は…」

「最初は私がする」

「いいのか?その子達は大丈夫なのか?」

「そこまで疲れてないし、膝の上に乗せて毛布で包めばこの子達も寒くないから大丈夫だよ」

「うーん…本当にいいのか?」

「ああ」

「…ならすまんが最初は頼むよ」

「つ、次は私がする」

「リーサ、怪我はもう大丈夫なの?」

「うん。もう痛くない」

「ならいいけど…無理しちゃ駄目よ?」

「うん、ありがとう」

「なら火の番は任せる」

「おやすみ」

 

 シリウスを残して皆天幕に入り眠った。シリウスは焚き火に枝を入れつつ自分の膝の上で毛布に包まって寝ている愛娘達の寝顔を見ていた。

 

「すぅ…すぅ…」

「うにゅ…」

「(可愛い…この天使達の寝顔を見たら争いなんて無くなるんじゃないか?いや無くなるだろ)」

「…言わなくても分かるわ。どうせ馬鹿みたいな事を考えてるんでしょ」

「馬鹿とは何だ馬鹿とは。私は真剣だぞ」

「より質が悪いわよ」

「(プルプル)」

「カペラもおいで。よしよし」

 

 誰もいないのでカペラとピーニも荷物から出てきている。ずっと荷物の中でじっとしていたのでピーニは羽を広げて伸び伸びとし、カペラはシリウスに甘えるようにすり寄っている。

 

「まあ、聞いてたと思うけどまだしばらくは隠れててくれ」

「分かってるわよ。見つかれば売られるかもしれないしね。このお人好しっ」

「まだ言うのか」

「まだまだ言うわよ。このお人好しっ」

「それは罵倒なのか?それにしてもエバンには気づかれたけど黙ってくれて助かったな」

「ポーション代として黙るように言っておけば良かったんじゃない?」

「それでも良かったかもしれないけど、それしたらリーサから獲物を見るような目で見られ続けられる事になってたぞ?」

「駄目ね。やっぱ現状維持でいきましょう」

「そうだな。宿に入れば少しはマシになると思うからすまんがもうしばらく我慢してくれ」

「分かってるわよ」

「(プルプル)」

「すまんな」

 

 その後は会話が無くなり、ピーニは焚き火の前で温まりながらダラダラし、カペラはシリウスに撫でられて気持ち良さそうにしている。ポラリスとアトリアの寝息と焚き火の音だけが響いている。シリウスはカペラを撫でつつ時折焚き火に枝を入れたり、ポラリスとアトリアの様子を見たりする以外は夜空を眺めていた。

 しばらくすると天幕からゴソゴソと音が聞こえた。

 

「カペラ、ピーニ、すまんが荷物に戻ってくれ」

「あら、もう?残念」

「(プルプル)」

 

 リーサが出てくる前にカペラとピーニは荷物の中に隠れた。隠れたと同時に天幕が開き眠そうなリーサが出てきた。

 

「うー…眠い」

「まだ寝てても構わんぞ?」

「ううん、大丈夫。シリウスは寝ていいよ」

「んー…実は眠たくなくてな。もう少しここにいるよ」

「そう…」

 

 シレっと嘘を付いたシリウスに何となく自分のためだと気づき気恥ずかしくて顔を逸らしながら隣に腰掛けた。

 

「あれ?荷物も置いてるの?」

「ん?ああ、二人がいつ起きてもいいようにな」

「そっか」

 

 嘘ではなく本当の事だが全ての理由を言わなかったがリーサは納得して追及しなかった。

 

「…」

「…(うぅ…何を話したらいいんだろう…家族の事とかは話したし、魔法の事も話したし、後は?うー…何も無いよぅ…)」

「どうした?」

「ふえ!?え、えっと、あの、その、えぅ…」

「落ち着けって」

 

 シリウスの隣に座ったはいいものの何を話したらいいのか思いつかず一人で悩んでいた。そこにシリウスから声を掛けられてテンパってしまい醜態を晒したと思い手で顔を覆っている。

 

「うぅ…」

「そんなに落ち込まなくても。元気出せって」

「えぅ…」

 

 シリウスはポラリスとアトリアとカペラにしているようにリーサの頭を撫でている。

 

「(恥ずかしい…!でも、気持ちいい…撫でられるのって何時ぶりだろう…確か…ああ、お母さんが生きてた時だ)」

 

 落ち込んだり、嫌な事が合った時はいつもリーサの母親が頭を撫でて慰めてくれた。そして連鎖的に当時の幸せだった記憶を思い出し涙が溢れてきた。

 

「我慢する事は無い。今、ここには私しかいない。だから泣け。泣いて全部出してしまえ」

 

 リーサが泣くのを我慢していたら涙をシリウスに見られた。シリウスは今まで聞いた話から色々と想像して大体の事情を察しており、リーサが今まで泣くのを我慢してきた事も察している。

 

「でも私は…!私が頑張らないと…!じゃないと…!」

「今は全部忘れていい。リーサはずっと頑張ってきたんだ。だから泣いてもいい。私が許すよ」

「うううぅぅぅ…!うあああぁぁぁ…!」

 

 シリウスの言葉に蓋をしていた様々な思いが溢れ出し声を押し殺して泣き始めた。シリウスはリーサを抱き締めながら頭を優しく撫でている。

 

「わ"た"し"か"か"ん"は"ら"な"い"と…!し"ゃ"な"い"と"あ"の"こ"か"…!て"も"…!ほ"ん"と"う"は"つ"ら"く"て"…!て"も"、て"も"…!」

「ああ、分かってる。分かってるさ」

「う"わ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"…!」

 

 今まで溜め込んでいたものを涙声で途切れ途切れ吐き出すリーサをシリウスはただ受け止め続けた。リーサの静かな慟哭はルヴェン達も聞いており、ルヴェンとエバンはもっと踏み込むべきだったと悔やみ、セネディは一番近くにいたのにリーサの助けに気づいてあげれなかった自分に憤ると同時に自分が情けなくて涙を流している。クルフは普段は気丈に振舞っていたリーサに重い過去があると知り自分なら耐えられるだろうかと自問自答し、エベッタは話の半分も理解できなかったがそれでもリーサに人には話せない辛い何かがあると知り優しくしようと決めた。

 しばらくの間リーサはシリウスの腕の中で泣き続けた。やがて泣き疲れたリーサはシリウスに抱き着いたまま眠った。シリウスは慈愛に満ちた表情でリーサの頭を撫でており、途中リーサの泣く声で目を覚ましつられて泣きそうになっていたポラリスとアトリアをもう片方の手であやして寝かしつけている。

 

「また大きな子供が増えたな。やれやれ、手の掛かる子ばっかりだ」

 

 リーサが寒くないように羽織っている外套を背中に掛けてあげ火の番を続けた。

 その後、起きてきたルヴェンと火の番を交代したが抱き着いているリーサの所為で動けなかったのでそのまま外で眠った。

 翌朝、シリウスが起きた時にはルヴェンとエバンとセネディが既に起きていた。

 

「ん…おはよう」

「あら、おはよう」

「おう、起きたか」

「おはよう。今、朝食の準備をしているところだ」

 

 シリウスが身体を起こすとリーサも目を覚ました。

 

「んぅ…おはよう」

「ああ、おはよう」

「リーサ」

「セネディ、え?ど、どうしたの?」

 

 起きたリーサを突然セネディが抱き締めた。

 

「リーサ、ごめんね。気づいてあげられなくてごめんなさい」

「すまねえ…リーサがこんなに苦しんでいたのに俺達は何もできなかった…」

「もっと踏み込んで聞くべきだった。仲間失格だ」

 

 仲間達からの懺悔に昨夜の事を聞かれていたと知り恥ずかしくなったが、泣きながら抱き締めるセネディと悔いた表情をしているルヴェンと落ち込んでいる雰囲気を漂わせているエバンを見てリーサの心は温かさに包まれた。本気でリーサの事を想ってくれていた事を知りリーサの目から涙が溢れ出しセネディを抱き締め返した。

 

「ち、違う。皆は悪くない。わ、私が意固地になってただけで…」

「違うわ。リーサは何も悪くない」

「そうだ。悪いのは気づきもしなかった馬鹿な俺達の方だ」

「こんな頼りない俺達だが、リーサの力になりたいのだ」

「頼りない事なんて無い…!皆、私の大切な仲間だよ…!」

「リーサ!」

 

 リーサとセネディは泣きながら強く抱き締め合い、ルヴェンは目尻に涙を浮かべながらリーサの頭を優しく撫で、エバンは表情は変わらないものの優しく見守っている。

 

「へへ…オラも泣きそうだ」

「い"い"は"な"し"た"な"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"…」

「泣きすぎだろ…ん?おっと、ポラリス、アトリア、おはよう。おしめ変えようね~」

「う~」

「う、う」

 

 話の途中で起きてきたエベッタとクルフは感動してもらい泣きしているがシリウスは平常運転だった。もちろんシリウスも仲間が互いに想い合う感動的な場面だと思っているし、涙こそ流しはしないものの感動しているがシリウスの中の優先順位は揺るがなかった。抱き合うリーサ達に背を向けてポラリスとアトリアのおしめを変えていた。

 

「…シリウスさ、こんな感動的な場面なのに何でいつも通り何だい?もっと、こう…あるだろ?」

「涙は出んが感動しているさ。それでも私は子供達が最優先」

「それは、わかるけど…」

 

 数分後、泣き止んだリーサ達は少し恥ずかしそうに戻ってきた。

 

「あー…すまんな。変なところみせちまって」

「気にしなくていい」

「オラ、感動しただ!」

「いやー、良いものを見せてもらったよ」

「うぅ…恥ずかしい…!」

「あらあら、赤くなっちゃって、ふふふ」

「ふっ…では朝食にしよう」

 

 温め直したスープとパンで朝食を取っているがその間もリーサはニコニコとご機嫌だった。笑っているリーサを見てルヴェン達も笑顔になり笑顔に満ちた食事に食事になった。朝食を終えて天幕も畳み終えて出発の準備が整った。

 

「さて、行くか。ここまで来ればテトラニーアはもう少しだ」

「この先に丘がいくつかあってそれを超えた先だ」

「後二、三時間ほどで着くわ」

「やっとベッドで寝れる…!」

「うめえ飯をいっぱい食うだ!」

「やれやれ…こいつらは…」

 

 テトラニーアへ向けて歩き始めたシリウス達とラッククローバー。

 町までもうすぐだ。

 

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