転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第五十九話

 

 道なりに進み平原を抜けていくつもある丘を歩いているシリウス達。最後の丘の頂上に立った時、テトラニーアが見えた。

 テトラニーアは王都、アールレディアに次ぐオルティナ王国で三番目に大きい都市だ。少し小高い丘の上に立派な城が建っておりその丘の下に都市が広がっている。壁で囲われており三方にある門から人や馬車がひっきりなしに行き交っており交易も盛んに行われている。

 

「でっけえ…」

「テトラニーアはオルティナで三番目にデカい都市だからな」

「入るには審査がいるがハンターだからそこまで時間は掛からんだろう」

 

 丘を下り大きな道に出てテトラニーアへ向かった。門に近づくと審査待ちをしている商人がいるが、シリウス達がハンターのペンダントを見せるとそれだけで入れた。

 

「…あれだけで入れていいのか?」

「毎日大勢行き交うからな。全員を細かく調べるには時間も人も足りないんだよ」

「だからハンターの場合は証を見せるだけで通れる」

 

 門を潜ると壁は白く、屋根は赤で統一された美しい町並みが広がっていた。石畳の道も広く馬車がすれ違えるほどあり、また道にはゴミ一つ落ちていない。路地裏も同じで荷物がいくつか置かれているものの綺麗にされている。

 

「おー」

「取りあえず宿に向かうか。こっちだ」

 

 ギルドへ向かう前に一休みするために一行は宿屋へ向かった。ルヴェンの後ろを歩き十分ほどでラッククローバーが拠点にしている宿屋に着いた。

 

「ここだ。“木漏れ日亭”。ここのシチューが美味いんだよ」

「シチュー目当てにここに泊まる者も少なくない」

「ホントだか?オラ、腹が減ってきただ…」

「夕食になれば食えるだろう。それまで我慢しろよ…ん?宿、何か騒がしくないか?」

「あん?…確かに。何だ?酔っ払いでもいるのか?」

 

 宿屋の前には騒ぎを聞いた野次馬が群がっており掻き分けて中に入った。

 

「やだ!やだやだやだ!はなして!」

「うるせえ!大人しくしろ!殴られてえのか!?」

「ひぃ!?」

「止めねえか。大事な商品だぞ」

「す、すいません!」

 

 趣味が悪く無駄に金が掛かっていそうな服を着て装飾品をジャラジャラと付けている太った男が屈強な男達を引き連れて少女を連れていこうとしていた。

 

「ルーナ!?」

「!!おねえちゃん!」

「やっと帰ってきたか。先に連れていくところだったぞ」

「どういうこと!?何でルーナを!?」

「何でも何もあんたが借金を返しきれなかったからだろ?」

「期限までまだ一週間はあるはず!お金だって後60000ほどなのに!」

「いーや違う。115000だ」

「なっ!?そんなはずはない!ちゃんと数えてた!間違ってない!」

「確かにな。あんたはコツコツと返してたさ。利子分以外はな」

「り、し?」

「そうだ。期限までに支払わなければ利子が付くってちゃんと書いてたぞ。ほれ」

「…!そ、そんな…」

 

 借金取りの男が証文を見せるとリーサは奪い取るように証文を取り隅から隅まで読んで愕然とした。そこには確かに借りてから半年以内に半分返さないと利子として50000リクルが付くと書いてあった。

 

「分かったか?ちなみに言っとくが後から付け足したわけでもないし、読めねえ大きさでもないぞ。単純にあんたが見逃しただけだ」

「嘘だ…そんなの…」

「あんたが何を言おうと事実は変わらねえ。残り一週間で115000は払えねえだろ?だから約束通り連れていくのさ。あんたも一緒にな」

 

 絶望して膝をつくリーサに男達が近寄る。

 

「ふざけんなよお前!」

「その子達に触るんじゃないわよ!」

「連れていかせんぞ」

「ああん!?何だてめえら!」

「邪魔だ!どけ!」

「お仲間かい?悪いがこっちには証文がある。訴えても勝つのはこっちだ。悪い事は言わねえからそこをどきな。今なら見逃してやる」

 

 仲間を連れていかせないとルヴェン達が立ち塞がるが、借金取りは証文を盾に強気に迫ってくる。ルヴェン達はいざとなればリーサと妹のルーナを奪い取って逃げようと覚悟を決めており、借金取りもそれを何となく察して部下の男達に目配せで合図を送っており一触即発の状況になっている。

 

「あわわ…!?た、大変だ…!?」

「オラはリーサの味方をするだよ!」

「うーむ…115000か…ん?」

 

 払おうと思えば払える額だがその後の事を考えると二の足を踏んでいたら懐に何か入っているのを感じて取り出してみた。

 

「…そういや拾ってたな。おいクルフ」

「何だい!?何かいい方法があるのかい!?」

「いや、これが何なのか知りたくてな」

「こんな時に何を言ってるんだい!?」

「こんな時だからこそ聞いてるんだ」

「ぐむっ…!…はぁ、分かったよ」

 

 興奮していたクルフだったがシリウスに諭されて少し落ち着きシリウスが拾った物を改めて見た。シリウスがスケルトンから逃げる時に拾ったのは古びたブローチだ。汚れているが宝石の装飾が施され貴婦人の肖像が描かれており、裏には貴族の家紋のようなものも描かれている。

 

「ななな…!?こ、これって!?」

「そんなに凄い物なのか?」

「凄いってどころじゃないよ!?これはフェルドロン侯爵の家紋だぞ!?」

「フェルドロン侯爵?」

「知らないのかい!?」

「知らん。まあ、とにかく侯爵様の物だって事は分かった。で?これを本人に持っていったらどうなる?」

「どうなるって…まず相当の礼金は間違いないよ。それから侯爵次第だけどスポンサーや後ろ盾になってくれるかもしれないね。商人ならかなり有利になるよ」

「それだけ分かれば十分だ」

 

 シリウスはフェルドロン侯爵のブローチをクルフから受け取り今にも殴り掛かろうとしているルヴェンの前に出た。

 

「シリウス?」

「ここは私に任せてくれ」

「だが…!」

「大丈夫」

 

 シリウスはルヴェンを宥めて借金取りの前に立った。

 

「あん?何だお前?」

「リーサの友人だよ。交渉したいんだが」

「関係無い奴は引っ込んでろ!」

「おい止めろ。それは俺が決める。てめえらは黙ってろ。それで交渉だって?」

「ああ」

「嬢ちゃん、俺を説得できるぐらいの材料が合って声を掛けてきたんだろうな?」

「当然。これだ」

「ブローチか?随分古い物だが、これが何だって…なっ!?」

 

 借金取りがブローチの家紋を見て驚愕しシリウスは勝利を確信してニヤリと笑った。

 

「どうやらこれが誰のか分かったみたいだな」

「お、おめえ…これを一体どこで…」

「交渉のテーブルについていない相手に何で話さないといけない?」

「うぐっ…分かった」

「し、シリウス…?」

「大丈夫、任せろ」

 

 宿屋の従業員に頼み空いている部屋で交渉が行われる事になった。部屋にいるのはシリウス達をラッククローバーとリーサの妹のルーナ、借金取りとその部下の男達だ。そしてシリウスと借金取りは椅子に座って対峙している。

 

「単刀直入に言うとだ。これやるからリーサの借金全部チャラにしてくれ」

「はあ!?てめえ、ふざけてんのか!?」

「おい、俺は黙ってろって言ったよな?」

「す、すいません!で、ですが!?」

「いいから黙ってろ。それで?それをして俺にメリットがあるのか?」

 

 借金取りは何も分かっていない部下達にも分かるようにシリウスに説明させようと質問してきた。

 

「分かってるだろうに…これをフェルドロン侯爵に返せば多額の礼金が貰える。それと侯爵との交渉次第じゃスポンサーとか後ろ盾になってくれる可能性だってあるぞ」

「あくまで可能性なんだな?」

「普段は門前払いなところを向こうが会ってくれるだけでも破格とは思わないか?」

「確かにな…俺の方にも十分メリットはあるか…」

 

 オツムの足りない部下達もようやく分かったのか納得した表情をしている。借金取りは熟考していたが決めたのか顔を上げた。

 

「いいだろう、乗った」

「交渉成立っと。んじゃ、まずは借金は完済したっていう証拠をくれ。後でやいのやいの言われるのも嫌だからな」

「けっ、ちゃっかりしてやがる…ほれ、これでいいか?」

 

 借金取りは証文に完済した事をその場で明記した。シリウスはそれを受け取りルヴェン達にも見せて確認させた。

 

「ん…確かに。次はこっちだな。はいこれ。それと取った場所と状況も教えとこうか」

「そいつは有り難いが…いいのか?」

「こういう交渉は公正でないとな」

 

 シリウスは場所と拾った時の状況を教えた。

 

「なるほどな…大量のスケルトン…そういやあの事件が合ったのはちょうどその辺だったな…ならそのスケルトン達は…」

「まあ、後はそっちが好きにしてくれ」

「…そうだな。考えるのは後でもできるわな。よし、引き上げだ。行くぞ」

「「「「「へいっ!」」」」」

 

 借金取りは立ち上がり部下達は部屋の外に出ていった。

 

「…ああ、そうだ。これも伝えておかないとな。あんたの父親、見つかったよ」

「!!ど、どこに!?」

「ルペナっていう町だ。どうやらそこで女に入れ込んで相当貢いだらしくてな。俺とは違うとこからまた借金したみたいだぞ」

「え…」

「踏み倒そうとしてたみたいだが捕まったらしくてな。多分、日の当たるところにはもう出てこねえと思うぞ」

「…」

 

 借金取りはリーサの父親の事を伝えた後そのまま出ていきリーサは膝から崩れ落ちて床に座り込んだ。

 

「リーサ!?」

「おい大丈夫か!?」

「あは、あはははは…」

「しっかりしろ。取りあえず椅子に座らせるぞ」

 

 床に座り込んだリーサをルヴェン達は椅子に座らせるが、壊れたように笑うリーサに掛ける言葉が浮かばなかった。

 

「あはははは…いつか父さんが帰ってきて、一緒に暮らせる日が来るって思って頑張ってきたけど…そんなのはなかった」

「リーサ…」

「本当はね、分かってたんだ。父さんが私達を捨てた事は。でも信じたくなくて我武者羅に頑張ってきたけど…結局、私のした事って無駄だったんだね…あは、あはははは」

 

 涙を流しながら笑うリーサの姿はあまりにも痛ましかった。ルヴェン達は何も言う事ができず俯いて拳を握る事しかできなかった。

 

「無駄じゃないだろ」

「…え?」

「リーサが今までやってきた事は無駄じゃなかったはずだ」

「…違うよ。全部意味無かった」

「いーや、そんな事はない。リーサが今まで頑張ってきた事が無駄だの意味無いだと?そんなわけあるか」

「…いい加減にしてよ!」

 

 シリウスの物言いにリーサは苛立って怒鳴り立ち上がった。

 

「全部無駄だった!父さんは私達を捨てた!もう私には何も残ってない!これ以上私に構わないでよ!」

「たわけ」

「痛っ…!」

 

 激昂するリーサの額をシリウスは小突いた。

 

「何も残ってない?そんなわけあるか。失ったものばかり見てんじゃねえ。お前にも残ってるものはあるだろうが」

「そ、そんなもの…」

「妹」

「…!?」

「仲間」

「あ…」

 

 リーサは思わず声を出して後ろを振り返るとそこには泣きそうになっている妹のルーナと真剣な表情でリーサを見つめるルヴェンとセネディとエバンがいた。

 

「リーサ。お前が苦しんでいた事に気づきもしなかった馬鹿な俺達だが、お前の力になりたいんだ」

「あなたはもっとわがままを言ってもいいの。もっと私達に迷惑を掛けてもいいのよ」

「俺達は仲間だ。仲間は重荷を分かち合うものだ。俺達にもリーサの重荷を背負わせてくれ」

「うぅ…うー…!」

「おねえちゃん…」

「…うえええぇぇぇん…!」

「おねえちゃん!」

 

 ルヴェン達の言葉にリーサは今まで溜め込んできた様々な感情が決壊して崩れ落ち子供のように泣き出した。ルーナはリーサに抱き着いて一緒に泣き、セネディは泣きじゃくる二人を抱き締めて、ルヴェンは二人の頭を優しく撫でて、エバンはリーサの背中を撫でている。

 

「やれやれ、世話が焼ける…」

「うおおおぉぉぉん!泣けるだー!」

「い"い"は"な"し"た"な"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"…」

「だから泣きすぎだ…」

 

 もらい泣きして号泣するエベッタとクルフ、世話が焼けると言いつつもその表情はとても優しいシリウスだった。リーサは泣き続けて数分後、ようやく泣き止んだ。

 

「…セネディ、もう大丈夫…」

「もういいの?」

「うん…」

 

 鼻を啜り目も赤いがリーサは顔を上げた。その表情はスッキリとしており、傍目から見ても乗り越えたと分かるほどだった。

 

「うん、もう大丈夫そうだな」

「うん…その…ご、ごめん…」

「謝罪はいらん。欲しいのはそっちじゃない」

「あ…えっと…あ、ありがとう…」

「ああ」

 

 消え入りそうな声でシリウスに礼を言ったリーサにシリウスは笑い掛けた。その笑顔を見た瞬間、リーサの心臓は大きく脈動した。

 

「えぅ…」

「ん?どうした?」

「な、なんでもないぃ…」

「あら?あらあらあら♪」

「やっと自覚したか…」

「気づくのが遅い」

「ん?一体どうしただ?」

「さあ?僕にも分からないよ」

「おねえちゃん?どうしておかおまっかなの?」

「る、ルーナ…!しーっ…!」

 

 遂に誤魔化せないぐらいシリウスへの想いを自覚してしまい、リーサは顔を真っ赤にして手で覆っている。それをニヤニヤと見つめるルヴェンとセネディ、二人を見て溜め息を吐くエバン、分かっていないエベッタとクルフ、無自覚に追い打ちをかけるルーナ。

 そして当の本人のシリウスは。

 

「??」

 

 全く分かっていなかった。

 この世界に突然やってきて知らなければならない事が多くあった。世界の常識、魔物の対処法、武器の振り方、魔法の会得等々、様々ありそれらを必死に学んできた。その中で恋愛に割く余裕などなく、以前からさして興味も無かったのでそっち方面では疎くまた鈍い。

 そしてシリウスはママだ。

 当然最優先事項は子供達であるポラリスとアトリアだ。誰かと恋に落ちれば子供達がおざなりになるかもしれない。シリウス的にそんな事は許されない。

 そして出来上がったのが恋愛方面では役に立たない朴念仁だ。

 リーサもようやく落ち着いたのでシリウス達は部屋を出て受付へ向かい部屋を取った。

 

「一泊1000リクルか…どんどん高くなるなあ…」

「そうか?そんなもんじゃないのか?」

「ターエルなら一泊300リクルだぞ」

「…安すぎね?」

「あそこは物価も安いから住みやすいだろうな」

「人も良い人ばっかりだしね」

 

 運よく三部屋空いており、シリウスとエベッタとクルフがそれぞれ部屋を取り荷物を置いて必要な物を持って部屋を出た。

 

「悪い、待たせた」

「気にするな。それじゃ町を案内するぜ。っと、その前にギルドに向かっていいか?依頼完了の報告しなくちゃならないからよ」

「ああ、構わない」

「ルーナもお散歩、行く?」

「いく!」

 

 借金が無くなり感情を押し殺す必要も無くなって身も心も軽くなったリーサは、姉と一緒にいられて嬉しいルーナと手を繋いで笑い合っている。その場の皆がリーサが笑っている事が嬉しくて笑顔になっている。

 一行はテトラニーアのギルドへ向かった。

 

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