続きをどうぞ。
なだらかな平原がどこまでも続いている。
穏やかな風が流れて、太陽は優しく照らし、青空がどこまでも続いている。
そんな平原にできた土の道を一人の少女が歩いている。
「う~ん…ザ・平原、だな。前世じゃ見た事も無い」
シリウスはどこまでも続く平原を見た感想を一人呟いていた。シリウスの腕の中にいるポラリスは心地良い温かさに負けてお昼寝の真っ最中。
「うーむ、もっと、こう…魔物が闊歩してたりとか、動物の骨が合ったりとかを想像してたんだけど」
シリウスが思っていた殺伐とした異世界ではなく、かなりのんびりとした異世界だったのでやや拍子抜けした感じだった。魔物に襲われないというのは全然ウェルカムなのだが、こう一体も見えないと何か違う感がしてならない。
ブラッドファング?あれは怖すぎなので遠慮します。
「ゲームで一番初めに出てくるようなモンスターとかはいないのか?スライムは?いや、スライムはゲームによっては強かったりするしなあ…ゴブリンはご遠慮願いたい。R指定じゃ有名だしな。集団で来られると即ガメオベラだし…じゃあ何がいいかなあ~?」
景色を見る以外暇なのか出会いそうな雑魚モンスターを想像しているシリウス。そうしていたらシリウスが持ち望んでいた事が起きた。
平原を何かが逃げており、それを黒い何かが追いかけていた。
「おっ?なんだなんだ?」
シリウスが目を凝らして見ると、鹿によく似た動物っぽいのが必死に逃げている。それを追いかけているのが狼に似た魔物だ。
鹿の名前は“ビッグホーン”。
名前の通り巨大な角が額から生えている。雄と雌の両方に角が生えており雄は額から一本だけ生えており、雌はこめかみ辺りから一対の角が生えている。角に目が行きがちだが身体は大きく体高は3mを超え体重も1t近くある巨体の持ち主。馬と同等以上の速度で走れ、険しい崖や岩肌が露出している場所でもスイスイと走れる。
肉は非常に美味で内臓も薬の材料に使え毛皮は防寒用として最適。特に角はそのまま使って武器にもなるし、高価な薬の材料でもあり非常に高値で取引されている。
ただ警戒心が非常に強く足も速いので早々捕まらず、巨体から繰り出される蹴りは人を簡単に殺せるほどの威力を持っている。
そのビッグホーンを追いかけている狼の名前は“ワイルドウルフ”。
シリウスが知っている狼より一回りほど大きくそれでいて狼より俊敏。ナイフのように鋭い牙と爪を持ち肉を簡単に引き千切れる鋭さを持っている。力も相当強く体当たりされると人など吹き飛ばされ肋骨が折れるほどだ。
1体でも手強いのに常に4~5頭ほどの群れで動いている。知恵も高く仲間の一体が囮になっている隙に背後から襲い掛かるといった連携もしてくる。
森の奥や山に生息しているので道を外れない限り出会わないのが唯一の救いだろうか。どうやら獲物を求めていたらビッグホーンに出くわし追い掛けているうちに平原まで降りてきたのだろう。
必死に逃げていたビッグホーンだったが遂に囲まれてしまった。額から生えている角を振り回して近づけさせないようにしていたが、一体のワイルドウルフが背中に飛び掛かった。そのまま背中に噛みつき怯んだところを残りのワイルドウルフが一斉に襲い掛かった。足を噛みつかれ地面に倒されたところを、喉笛に噛みつかれそのまま息絶えた。
「お、おお…凄い光景を見てしまった…弱肉強食なのは向こうと変わらないな…」
草むらに身を隠しながら一部始終を見ていたシリウス。
幸いにも風下だったのでワイルドウルフに気付かれずに済んだが、仮に見つかっていれば即ゲームオーバーだった。実は薄氷の上だったのだがシリウスは気付く事無く、獲物を巣に運び去るワイルドウルフを見ていた。
ふとビッグホーンが倒された所を見てみると、ビッグホーンの角が落ちていた。地面に倒された時に折れたらしく半ばでぽっきり折れている。
「これ、売れんのか?まあいいや、もらっとこ」
労せずして高級品をゲットしたシリウス。期待していたモンスターとの出会いも果たせたので再び歩き始めた。
何度か休憩を挟みながらしばらくの間歩いていたが平原はどこまでも続いており日も傾き始めた。
「やっぱ今日中にどっかに着くのは無理か。キャンプ地を探さなくては…」
辺りを見渡しながら歩いていると、いかにもキャンプ地として使えそうな場所を見つけた。3方向を岩に囲まれ頭上は木の枝が掛かっており雨風も凌げそうな場所だった。他の旅人も使っていたのだろう。焚き火や荷物を置いた跡が残っていてここを通る者達がよく使っていたようだ。
シリウスも例に漏れずここを使用する事にした。
「さて、あのセリフを言うか。こほん…ここをキャンプ地とする!」
使用できる場面が限られている名台詞を言えてご満悦なシリウスだった。
カバンから大きめの布を取り出してシート代わりにし、その上に丸めた布と毛布を敷いた。簡易ながらも寝床が完成しポラリスをそこに優しく置いて、周囲から枝を集め始めた。集めた枝を焚き火の跡に置き、荷物から火打石を取り出して火を付けた。無事に火が付いたので、野菜などを取り出して切ろうとしたがまな板が無かった。仕方が無いので比較的平らな石の上で野菜を適当な大きさに切った。動物の皮で作られている水袋を取り出し鍋の中に入れ野菜も入れた。
水はまだ残っているがすでに半分ほどになっている。
「どっかに川とかあればいいんだけど…足りるよね?村とか町まで持つよね?」
割と深刻な問題を抱えつつ料理を作っている。
出来た簡易なスープをお椀に注ぎすりこぎ棒で野菜を細かく磨り潰している。息を吹きかけて冷ましながらポラリスの口元に持っていった。
「ふーっ、ふーっ、ほーらポラリス、あーん」
「あー」
ポラリスは素直に口を開け離乳食を食べている。
ポラリスに食べさせながら時折自分の食事をしている。お椀が一つしかないのでシリウスは鍋から直接食べている。食事も終わりスープが残った鍋に蓋をしてお椀とスプーンを節約しながら水で洗い布で水気を拭きとった。
ポラリスを膝の上に乗せながら焚き火に枝をくべている。そのままぼんやりと火を見つめながらこれからの事を考えている。
「(村とか町に向かうまでは決めたけど、そっからどうするかなあ…異世界物でお馴染みの冒険者的なものになるか?私一人ならともかくポラリスはどうするよ?誰かに預ける?信用できる人を探すところから始めなきゃならん。一緒に連れていく?メッチャ危険じゃん。片手埋まるし私も危ないじゃん。でもなあ…というより、そもそも冒険者的なものがあるかもわからんしなあ…まあそれは行ってから決めるという事で。まずは道中だよなあ。今朝見た狼みたいなのが居たらマジヤバイしなあ。お上りさんみたいに歩いてたのはヤバかったかもしれん…今度から気を付けて歩こう)」
溜め息を吐いた後、ふと何気に空を見たら一面の星空が広がっていた。
赤や青や緑などの様々な色がキラキラと輝き、大きな天の川が流れている。前世ではお目に掛かれないほどの満点の星空だ。さらに赤い月と青い月が星々と共に輝いている。言葉も無くしばらくの間星空に見入っていた。
星空を眺めていたら膝の上にいるポラリスが眠くなったのか可愛らしい欠伸をしてシリウスにもたれ掛かった。
ポラリスが動いた事で星空観賞は終わり、シリウスも眠る事にした。ポラリスを寝床に優しく置きその隣に寝転んで毛布を掛けて目を瞑った。
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翌朝、日の光で目が覚めたシリウス。
横には可愛らしい寝顔をしているポラリスがいる。起こさないようにすっと寝床から立ち上がった。
「ふあ~~~、良く寝た。今日もいい天気」
体操しながら身体を解し、周囲を見回して異常が無い事を確認する。近くの岩に登り再度確認したが異常は無くむしろ良い情報があった。
「ん~?あれ、川か?」
道から少し外れた所に小川が流れており近くに魔物もいない。
早速向かおうと岩から降り戻るとちょうどポラリスが起きたところだった。昨日同様粗相をしたらしく、今にも泣きそうな顔になっている。
「おおーよしよし。大丈夫だからなー。泣くんじゃないぞー」
昨日より手際よくおしめを変えてポラリスを抱え、水袋と汚れた布やおしめを持って川へ向かった。
注意しながら近寄り危険が無いと判断して水を補給し布やおしめを洗った。洗っている最中でも時折周囲を見回したりポラリスを見たりと忙しくしている。
用事が終わってキャンプへ戻り火を起こした。枝を上手い具合に使い布とおしめを燃えないように位置を調整しながら火の近くで乾かしている。
その間に昨日のスープを温め直して食事にしている。いつものようにすりこぎ棒で細かく磨り潰してからポラリスに食べさせシリウスもパンと共に食べている。食事が終わり鍋とスプーンを洗い布で水気を拭きとった後、減った水を再び汲みに川へ向かった。汲み終わりキャンプに戻って身支度を整えた。洗濯物はある程度乾いたので折り畳みカバンに入れ焚き火を消した。
ポラリスを抱き上げて忘れ物が無いか確認し再び道を歩き始めた。
「さーて、行きますか。まだまだ先は長い」