転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

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第六十一話

 

 難癖付けてきた男達を撃退し役人から逃げてきたシリウス達は第三市街の宿屋まで戻ってきた。

 

「ふぅ…これで一安心だな」

「数は多かったが、本当に数だけだったな」

「こちらが弱いと決めつけていたのだろう」

「武器を取り出される前に終わってよかったわ」

「ルーナ、大丈夫だった?」

「うん!おねえちゃんたちがまもってくれたからこわくなかった」

「そっか」

「いやー、皆怪我が無くてよかっただ」

「ぜぇ…つ、疲れたよ…」

「このぐらいで疲れるなよ。この先やっていけんぞ」

 

 宿屋に併設されている酒場に入り席に座り、各々好きな飲み物を頼んで一息付いている。

 

「おっと、忘れるところだった。報酬を分配するぞ」

「…そういえばそうだったな」

「貰い終わった直後だったもんね」

「忘れてた」

 

 ルヴェンは肩掛けのカバンから報酬が入った大袋を取り出した。テーブルの上に置かれるとかなり入っているのか硬貨が擦れる音がした。

 

「依頼の報酬と素材分も合わせて70000リクルだ」

「随分多いわね…」

「元々依頼人も不明な怪しい依頼だった。恐らく口止め料も含まれているのだろう」

「詮索するな、ってこと?」

「そんな依頼もあるんだな」

「滅多に無いがな。そういうのはギルドが弾くのだが、今回は断れない事情があったのだろう。例えば権力とかな」

「貴族絡みか…あーやだやだ」

「まあ、これ以上は止めとこうぜ。詮索し過ぎると碌な事が無いからな。えー、食料とかポーション分を除いて…一人当たり15000リクル、だな」

「ちょっとした大金だな」

「何に使おうかしらねー」

「…」

「リーサ?どうした?」

「何に使えばいいか、分からなくて…シリウスなら何に使う?」

「私か?10000リクルは残して残りは全部ポラリスとアトリアのために使うな」

「そうなんだ…凄いね…」

「そうでもない。リーサの方が凄いさ」

「あぅ…えへへ」

「ふっ…金の使い道は、そうだな…ルーナちゃんと一緒に服とか買いにいって、その後は美味しい物でも食べたらいいんじゃないか?」

「そう、だね…そうする。ルーナ、お姉ちゃんとお買い物行こ?」

「え、でも…」

「大丈夫、もう大丈夫だから。だから可愛い服を買って、美味しい物を食べに行こ?」

「…うん!えへへ♪」

 

 ルーナの満面の笑みにリーサも笑みが零れている。

 

「へへっ…セネディとエバンはどうする?」

「俺は配達を頼んだ後、盾を新調しにいく」

「ああ…いつものか」

「私は、そうねえ…疲れたから部屋で休んでるわ…そうだわ!リーサ、買い物にシリウスも連れてくのはどう?」

「えっ!?」

「私もか?」

「町も案内できるし、さっきの逃げ出した奴らが仕返しに来ないとも限らないわ。是非そうするべきよ!」

「えっ!?いや、えっと…!?し、シリウスにも都合があるだろうし…!」

「私は別に構わんぞ。元々町を散策するつもりだったからな」

「あぅ…えっとえっと…!?る、ルーナはどう?」

「おねえちゃんたちとおかいもの!」

「う、うぅ…」

「嫌なら別に無理にとは言わんが」

「嫌じゃない!行きたい!」

「お、おぉ…そうか」

 

 シリウスが辞退しようとすると勢いよく顔を上げて否定するリーサの勢いにシリウスは気圧され戸惑っている。その様子をルヴェンとセネディはニヤつきながら見ている。

 

「…少しお節介がすぎんか?」

「こうでもしないといつまでも進展が無いじゃない。そんなのつまらな、じゃなくてもどかしいじゃない」

「そうだぞ。俺達はただ優しく見守っているだけだ。断じて面白がってなんてないぞ」

「隠せてないぞ。全く…」

 

 野次馬根性丸出しのルヴェンとセネディにエバンは溜め息を吐いている。

 

「二人はどうしただ?」

「さあ?まあ、二人は出掛けるみたいだね。僕はどうしようかな…」

「おいおい、クルフは俺と鍛練だろ?」

「え"!?も、もうやるのかい?」

「当り前だ。そら、ギルドの鍛練場に行くぞ」

「わ、わ!?分かったから!引っ張らないでくれよ!?」

「行ってらっしゃーい。エベッタはどうするの?」

「オラは腹が減ったから何か食いにいくだ!」

「食べ歩きね。そうね…甘い物を食べたら疲れも取れそうだし私も行くわ。案内するわ」

「俺も出掛ける。日暮れ前にまた集まろう」

 

 ルヴェンとクルフはギルドへ、セネディとエベッタは食べ歩きへ、エバンは配達と装備の新調へそれぞれ向かった。残されたのは勢いに任せて叫んだが後から恥ずかしくなり顔を覆っているリーサと、何を買おうかと考えているシリウスと、二人と買い物に行けて嬉しいルーナだ。

 

「さて、私達も行くか。リーサ、そろそろ戻ってこい。私は何も気にしてないぞ」

「うぅ…」

「おねえちゃん!はやくいこ!」

「ふぅ…そうだね、行こっか」

 

 シリウスとリーサはルーナと手を繋ぎながら町へと出掛けた。

 

「えっと…ここは第三市街で新しい町。さっきいた所が第一市街で古い町。第二市街はその中間。第三市街は流行りの物とか新しい物をよく売ってる。第一市街は昔からある大きな店がある」

「なるほどな。なら第三市街で買い物するか」

 

 シリウス達は第三市街の商店街の方へ向かった。商店街は他国や王都などの大都市で流行っている物や最新の物が店先に所狭しと並べられている。金を持っていてそういう物に目がない市民達や貴族が挙って訪れており次々と購入している。

 

「人がいっぱいだな」

「ルーナ、はぐれないようにね」

「うん!」

 

 ルーナはシリウスとリーサの手をギュッと握り、シリウスとリーサも握り返した。三人は人の波に攫われないようにしながらのんびりと歩いている。

 

「子供用の服がある店は…あそこか」

 

 少し歩いているとお目当ての店に着いた。子供服の専門店で色とりどりの服の見本がたくさん吊られている。

 

「うわあ…!」

「いっぱいあるね」

「お?赤ちゃん用もあるな。後でポラリスとアトリアの分も探すか」

 

 ルーナは目をキラキラさせて服を見ており、リーサは種類の多さに驚いていた。シリウスはポラリスとアトリアの分も買うと決めつつ先にルーナに似合う服を探し始めた。途中で店員も混じってあれやこれやと相談しながら買う服を選んだ。ポラリスとアトリアの服も探したがシリウスがビビッとくる物は無かったので追加のおしめだけを買った。

 

「ありがとうございました!」

 

 ルーナに似合う服を買い店を出たシリウス達。

 

「えへへ~♪おねえちゃん、ありがとう!」

「ううん、気にしないで」

「かえったらおじちゃんたちにもみせる!」

「そうだね。皆もきっと似合うって言ってくれるよ」

 

 服の入った袋を両手で抱き締めるように持つルーナは満面の笑みだった。

 

「そうだ。ルーナちゃん、はいこれ」

「なあにこれ?」

「開けてみて」

 

 シリウスは小さな袋をルーナに渡した。ルーナが袋を開けると中には花柄のカチューシャが入っていた。

 

「これ…!」

「私からのプレゼント」

 

 先ほど店でルーナが物欲しげに見ていたのをシリウスがちゃっかり見ていた。

 

「~~~!」

「おっと」

 

 ルーナは嬉しさのあまりカチューシャを持ったまま黙ってシリウスに抱き着いた。

 

「しりうすおねえちゃん!ありがとう!」

「どういたしまして」

 

 満面の笑みでお礼を言うルーナにシリウスは笑いながら頭を撫でている。

 

「よいしょ…えへへ~、にあう?」

「うん、可愛い。お姫様みたい」

「えへへ~♪」

 

 貰ったカチューシャを早速付けて喜ぶルーナ。

 

「シリウス、ごめんね」

「気にしなくていい。私がしたくてやっただけだ」

「でも…」

「だから気にしなくていいって。買ってもらってラッキー程度に思えばいいさ」

「…無理だよ。シリウスにはいつも助けてもらってるのに…怪我をした時もポーションをくれて、こけそうになった時も助けてくれて、泣いた時も慰めてくれて、借金まで無くしてくれた。なのに、なのに私は何も返せてない…」

 

 リーサは俯きながら心の内を語った。助けてもらってばかりなのに何も返せない自分が情けなくて仕方がなかった。

 

「私は見返りが欲しくて助けた訳じゃない。私がやりたくてやっただけだ。怪我をした時は見捨てると目覚めが悪くなりそうだったから。こけそうになったのを助けたのは目の前でこけたら普通助ける。泣いた時に慰めたのは放ってた方が面倒だったから。借金を無くしたのは貴族のゴタゴタに巻き込まれたくないから向こうに押し付けただけだ。全部私の自己満足だ。だから気にしなくていい。この話題はおしまい、って言ってもどうせ気にするんだろう?なら昼飯奢れ。それでチャラだ」

「…本当に、いいの?」

「ああ」

「…分かった」

「なら行くぞ。さっきからルーナちゃんがこっちを見てるぞ」

「おねえちゃんたち、どうしたの…?けんか、してるの…?」

「喧嘩してないよ。何を食べようかって話してただけだよ」

 

 シリウスがルーナと話している後ろでリーサは頬を赤くし目を潤ませ熱い吐息でシリウスの後ろ姿を見ていた。

 

「(…ばか。ばかばかばか。シリウスのばか。諦めようって頑張ってたのに…そんな事言うなんて、ズルいよ…ズルいズルいズルい……………好き)」

 

 自己満足でやりたいからやっただけ。

 つまりリーサを助けたいと思ったから助けたのだとリーサはそう取った。

 シリウスの笑顔を見た時に芽生えた感情は理解していたが、シリウスに迷惑だろうし、何より知られて軽蔑するような目で見られたくなかった。だからその感情に蓋をして押し殺そうとしていたのだが、セネディのお節介によってその蓋も緩んでしまい、そして今のシリウスの言葉によって蓋は完全に開いてしまい、中の感情も溢れてしまった。溢れてしまえばリーサの心はもう止まらなかった。

 

「リーサ?どうした?行くぞ」

「…うん」

 

 リーサは赤くなった顔を見られないように俯いたまま歩き始めた。俯いて歩くリーサにシリウスはさっきの会話で怒らしたかと見当違いな事を思っている。

 

「(プライドを傷つけたか?まあ、ぽっと出の奴に今まで頑張ってきた事をあっという間に解決されたら思うところも出てくるか。うーん…謝って済む話じゃないし…それでさらに拗れちまえばルーナちゃんが可哀想だし…しばらく様子見か?)」

 

 女心を分かっていない畜生である。

 そのままの状態で食事処が建ち並ぶ場所までやってきた。食事処の他に屋台もいくつかあり、あちらこちらでいい匂いが漂っている。

 

「ルーナちゃんは何が食べたい?」

「えっとね、うんとね…あうぅ…」

「ふふふ。そんなに落ち込まなくてもいいよ。色々見ながら決めよう」

 

 色々あり過ぎて目移りして決められないルーナを連れて歩き始めた。リーサは先ほどからずっと黙ってシリウスの服の裾を摘まんでいる。

 

「(…なーんで服を摘まんでるんですかね?怒ってるんじゃないの?というか姉なんだから妹をちゃんと見なさい。いや、それだけ信頼されてるって事なんだろうけど)」

 

 鈍感なシリウスはリーサの行動に疑問を持っていた。

 

「えっと、えっと…あ!あれ!」

 

 ルーナが指差したのはドーナツの屋台だった。屋台の中で作られており、揚げたてを食べられるのでそれなりの人が列を作っていた。

 

「ドーナツか。んー…ポラリスとアトリアも食べれる、か?」

「はやくはやく!」

「そんなに急がなくてもドーナツは無くならないよ。それとリーサ、そろそろ戻ってこい」

「…うん」

「駄目だこりゃ…はあ、仕方がない」

 

 いつまでも俯いたままのリーサの額にシリウスは軽いデコピンを放った。

 

「わわっ…!?え?」

「戻ってきたな。ルーナちゃんがドーナツを食べたいってさ。行くぞ」

「え?あ、うん」

 

 ようやく戻ってきたリーサを連れて既に屋台の列に並んでいるルーナの元に向かった。少し待った後順番が来てドーナツを人数分買い、近くに置いてあるベンチに座り食べ始めた。

 

「あーむっ!ん~♪」

「美味しい?」

「うん!」

「そっか」

「(日本とさして変わらんな)ポラリス~、あ~ん」

「あ~。あ~♪」

「アトリア~、あ~ん」

「あ。お、お♪」

 

 しっとりとした食感と程よい甘さにポラリスとアトリアも美味しいのか手足をバタつかれている。微笑ましい光景に通行人も釣られて笑顔になっている。ドーナツを食べ終えた後も三人で仲良く手を繋ぎながら町を歩いた。服とカチューシャ以外は買わなかったがそれでも楽しいのかルーナはずっとニコニコと笑っていた。日が暮れてきたので宿屋に戻ると既に皆帰ってきていた。

 

「おう、戻ったか」

「お帰り。リーサ、ルーナ、シリウス」

「うむ」

「お帰りだ」

「…」

「ただいま」

「遅くなった」

「えへへ~♪みてみて♪」

「あら、可愛い。買ってもらったの?良かったわね」

「よく似合っている」

「えへへ~♪」

 

 ルーナは早速買ってもらったカチューシャを付けてセネディとエバンに見せびらかしている。

 

「…」

「クルフが死んでるんだが」

「変な癖が付いてたから矯正させてたんだがこれが厄介でな。気を抜けばすぐに戻っちまうからできるまで休憩無しって言ったらこうなった」

「そらそうなるよ」

「ちなみにまだ矯正しきれてないんだよな…」

「癖はすぐには直らんさ。エベッタが何してたんだ?」

「町に行って屋台とかを回っていっぱい食べてただ!」

「夕食は食えるのか?」

「もちろんだ!まだまだ食えるだ!」

「よく食うねお前は…部屋に荷物を置いてくる」

「私も。ルーナ、行こ」

「うん!」

 

 シリウスとリーサとルーナは一度部屋に戻り買った物を置きに向かった。シリウスはすぐに出てきたがリーサとルーナは少し遅れて戻ってきた。

 

「じゃーん!」

 

 戻ってきたルーナは今日買ってもらった青色のワンピースと白のエプロンドレスを着て出てきた。

 

「買ってもらった服か。似合ってるぞ」

「ホント。まるでお姫様みたい」

「うむ」

「おお?よく似合ってるだ!」

「ルーナちゃん、とっても可愛いよ」

「えへへ~♪」

「ルーナ、よかったね」

「うん!」

 

 死んでいる一名を除いて皆から褒められてルーナは頬を赤く染めながら嬉しそうにはにかんでいる。

 

「それじゃ飯にするかね。俺達はオススメにするがシリウス達はどうする?」

「私もそれでいい」

「オラもだ!」

「…」

「クルフも同じのにしとくか。おーい!」

「ハイハイ。ルヴェン、今日は何にする?」

「オススメを八つくれ」

「オススメを八つっと…他には?」

「すみません。赤ちゃん用の薄いスープとかできます?」

「赤ちゃん用?んー…まあ聞いてくるわ」

 

 ルヴェンが顔見知りのウェイトレスに注文し雑談しながら料理が来るのを待った。

 

「はーい、お待たせ―。今日のオススメのシチューと肉の香草焼きだよ」

 

 ウェイトレスがトレイに料理を乗せてやってきてテーブルの上に置いた。今日のオススメはキノコと野菜が入ったシチューと肉を香草で焼いたステーキとパンとチーズだ。

 

「こっちが赤ちゃん用ね」

「ありがとうございます」

「んじゃ、食うか」

「待ってただ!あぐっ!美味いだ!」

「ほんと、よく食べるわね…」

「…うむ、今日の料理も美味い」

「ルーナ、服を汚さないように食べるんだよ」

「うん!あーむっ!」

「…いいにおいがする…あむ…おいしい…」

「ポラリス~、あ~ん」

「あ~。あ~♪」

「アトリア~、あ~ん」

「あ。あ、お♪」

 

 美味しくて笑顔で手足をバタつかせるポラリスとアトリアに釣られて皆も笑顔になっている。他愛のない話で盛り上がりながら楽しい夕食は過ぎていき、終わった後もポラリスとアトリアとルーナが欠伸をするまで話は続いた。

 そろそろ寝ようとなりそれぞれ部屋に戻っていった。シリウスも寝る準備を終えてポラリスとアトリアをベッドに寝かせていつものように隣に寝転がって眠った。

 

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