転生したと思ったらママになっていた件   作:大神降ろし

63 / 124
後半あたりで少々読み辛いところが出てきます。


第六十三話

 

 瀕死の重傷を負ったジャイアントスネークを追い掛けてシリウスとリーサは森の中に入った。森の中は魔物達が通った後でかなり荒れており石が散乱し草木が倒されていた。その中をジャイアントスネークの血が点々と落ちている。

 

「分かりやすい目印だな」

「シリウス、本当に行くの?態々倒しに行かなくても…」

「それもあるが…あそこで逃げた理由が気になってな」

 

 シリウスはリーサと共に森の奥へドンドンと進んでいる。途中で魔物に出くわさないかと警戒しているが魔物の気配は感じなかった。

 

「いないな…やっぱりあのデカい魔物が原因だったみたいだな」

「ロックコングはもっと山の方に住んでるはずなのに…何で下りてきたんだろ?」

「山の食料が少なくなったか、住処を別の魔物に追い出されたか、はたまた別の原因か…山に行けば分かるかもしれんがな。それはギルドの仕事だろ…お?」

 

 点々と落ちている血を辿っていくと洞窟に着いた。シリウスとリーサは臨戦態勢になりながらゆっくりと洞窟の中に入った。洞窟はそこまで深くなく少し歩くと一番奥まで来れた。そこには大量の血を流しながら荒い息を付いているジャイアントスネークがいた。何かを守るようにとぐろを巻いており、入ってきたシリウス達を威嚇している。

 

「シュー…シャア!」

「あれは…?」

「もしかして、卵?」

 

 とぐろの中心には巣があり卵があったが、大半が他の魔物に喰われたのか割られており中は空っぽだった。だが一つだけ無事な卵がありジャイアントスネークはそれを守っていた。

 

「そうか…お前は卵を守ろうと…」

 

 瀕死のジャイアントスネークはそれでも卵を守ろうとシリウスを睨みつけている。シリウスの中の戦意は急速に消えていき剣を納め、そして無防備にジャイアントスネークに近づいていった。

 

「ちょ!?シリウス!?だ、ダメ!」

「シャア!」

 

 シリウスの行動にリーサは慌てて止めるが既にジャイアントスネークの間合いに入っていた。ジャイアントスネークは血を吐きながら威嚇するが、シリウスは構わずに近づき徐にジャイアントスネークの鼻先に触れた。シリウスの突然の行動に意図が分からず戸惑い固まるジャイアントスネーク。

 

「…すまない。母親なら子供を守るのは当然だよな。それに気づかずに私は…私も母親なのに…すまない」

 

 後悔に満ちたシリウスの表情を見てジャイアントスネークの中にあった敵意は少しずつ薄れていった。

 

「シュー…グプッ」

「!おい!?しっかりしろ!」

 

 少しの間見つめ合っていたシリウスとジャイアントスネークだったが、ジャイアントスネークが吐血し力無く倒れた。シリウスは慌てて近寄り何とかしようと水薬を取り出そうとした。

 

「シリウス…」

「リーサ!手伝ってくれ!」

「シリウス…その子は、もう…」

「…!!」

 

 リーサの言葉にシリウスは歯を喰いしばりながら俯いた。

 シリウスも分かっていた。このジャイアントスネークの命は風前の灯火だということに。それでも動かずにはいられなかった。何かせずにはいられなかった。

 

「シュルルル…」

 

 シリウスの姿を見たジャイアントスネークは最後の力を振り絞り身体を起こし卵を咥えシリウスの前まで持ってきた。

 

「…私に託す、そういうことか?母親であるお前を殺した私に育てろと?」

「シュルルル…」

 

 ジャイアントスネークはただシリウスをジッと見詰めている。

 

「…分かった」

 

 しばらく見つめ合った後、シリウスは卵を受け取った。卵を託したジャイアントスネークはゆっくりと地面に横たわった。最後の心残りだった子供をシリウスに宅せたので思い残す事は無くなった。心の底から悔いていたシリウスなら自分の子供をきっと立派に育ててくれる。そう信じているジャイアントスネークはシリウスとリーサに看取られながら静かに息を引き取った。

 

「…」

「シリウス…」

 

 ジャイアントスネークの遺体に手を置いたまま俯いているシリウスにリーサは隣にしゃがんで背中を擦っている。しばらくしてシリウスは顔を上げた。

 

「…リーサ、もう大丈夫だ」

「…本当?」

「ああ」

 

 シリウスは立ち上がりいつも通りに振舞っているが、リーサは心配そうな顔をしている。

 

「大丈夫だって。心配性だな」

「心配するよ…!だってシリウスは、私の大事な人だもの…!」

「…そうか、ありがとな」

「ま~…」

「まま」

「ポラリス。アトリア」

 

 シリウスが落ち込んでいると思ったのか抱き着いてくるポラリスとアトリアを抱き締め返しているシリウス。それを見ているリーサは先ほどの自分の言葉を思い出し赤面していた。

 

「(わわわわ私、なななな何て事ををををを!?つ、つい勢いで言っちゃったけど…ば、バレた、かな…)」

「(三人に心配かけちまったな…そういやリーサ、私の事、大事な人って言ったか?友人から親友に格上げって事か?)」

 

 リーサは不安に思っているがそんな心配は不要だった。

 ポラリスとアトリアを存分に抱き締めた後にシリウスは背負い袋を下ろして荷物を開けた。

 

「カペラ、ピーニ、聞いた通りだ。宿屋に戻るまでの間、この卵を頼むぞ。食べるなよ」

「(プルプル)」

「食べないわよ。ジャイアントスネークの卵は食用じゃないのよ」

「そうなのか?」

 

 カペラとピーニに卵を預けているとリーサが驚愕の表情で見ていた。

 

「な、な、ななななな…!?」

「どうした?」

「…そういえば彼女に私の事言った?」

「………あ」

「しししシリウス!?ま、魔物が!?よ、妖精が!?あばばばばば!?」

「落ち着け。ちゃんと説明する」

 

 さっきまでのしんみりとした空気があっという間に無くなった。

 シリウスからカペラとピーニを連れている理由を聞かされたリーサだったが、知らなかったのは自分だけだと知り膨れている。

 

「悪かったって」

「むー!」

「いやだって、まだその時リーサは借金あっただろ?それで二人を見れば良からぬ事を考えそうだったんだよ」

「むー!」

 

 訳を話しても膨れたままのリーサにシリウスはお手上げだった。

 

「今回はシリウスが悪いわね」

「…やっぱり?」

「そもそも何で話さなかったのよ?」

「すっかり忘れてて…もう話したと思ってた」

「もう…変なところで抜けてるんだから」

 

 膨れてそっぽを向いたリーサと共に洞窟を出ようとしたシリウスは出る直前で振り返った。

 

「(お前の子供は必ず育ててみせる。だからゆっくり休んでくれ)」

 

 ジャイアントスネークを見ながら今一度心に誓い、洞窟を出て皆の所へ戻ろうとした。

 

「さて戻るか…ん?」

 

 その時、ふとシリウスはどこからか視線を感じた。周囲を見回して視線の元を探すと古びた塔を発見した。シリウスが今いる場所から塔までそれなりに距離があり、そこからは人影すら確認できない。

 だがシリウスは確かに感じた。

 目が合った、と。

 確信したと同時にシリウスの心が、行くべきだ、行かねばならないと叫び始めた。

 シリウスは心のままにその塔へ向かった。

 

「シリウス?どうしたの?ま、待って…!」

 

 リーサはシリウスを追い掛けて声を掛けるもシリウスは無言で塔へ歩いている。ただならぬものを感じたリーサは不安げな表情を浮かべながらシリウスの後を追っている。

 しばらく歩いて塔の下に辿り着いた。塔はかなり古い物で所々欠けていたり、苔がむしていたりしており、手入れが行き届いていなかった。だが人の出入りはあるらしくちょうど誰かが出てきた。シリウスが茂みから見るとメイドが一人出てきた。その顔は恐怖が浮かんでおり一刻も早くこの場から立ち去りたいと顔に書いてあった。メイドは手に鍋や食器が乗ったトレイを持ってワゴンに乗せて足早に立ち去った。シリウスが塔の入り口を見るとドアの鍵は開けっ放しになっていた。

 

「シリウス、待って。勝手に入っちゃ駄目だよ…!」

「すまん、リーサ。でも私は行かねばならん」

「ど、どうして?」

「分からん。でも私の心がそう叫んでるんだ。ここで待っててくれ」

 

 リーサの制止を振り切ってシリウスは塔の中に入った。塔の中は薄暗く日も傾き始めているので灯り無しでは歩き辛かった。シリウスはライトの魔法を唱えて進み始めた。

 一階には階段の他に小物用の手動エレベーターがあった。シリウスは階段をただひたすら上っている。ポラリスとアトリアはいつもと違うシリウスを感じ取ったのか静かにしておりジッとシリウスを見詰めている。螺旋状の階段を上り続け最上階に着くとそこにはドアが一つだけあった。シリウスは一瞬迷ったがドアをノックした。応答は無かったが中で何かが動く気配を感じた。

 

「…誰かいるのか?入るぞ」

 

 シリウスは一声掛けてからゆっくりとドアを開けた。部屋の中はベッドと机と椅子と棚と最低限の物しかない部屋だ。

 そしてベッドの脇に隠れるように小さな誰かがいた。シリウスは見える位置に移動し五、六歩離れた場所でしゃがんだ。そこにいたのは腰まである艶やかな黒髪と丸くてくりっとした黒い瞳を持った三、四歳ぐらいの可愛らしい幼女だった。そんな幼女が怯えた表情を浮かべて震えながらシリウスを見ている。

 

「大丈夫だ。私は何もしない。ここも動かない」

「…(ガタガタ)」

「さっき目が合ったのは君だろ?名前は何て言うんだ?私はシリウスだ。この子はポラリスで、こっちの子はアトリアだ」

「あ~」

「あい」

 

 ポラリスとアトリアは怯えている幼女を興味津々に見ている。自分より下の子供がいる事で少し安心したのか、目にはまだ怯えが見えるが震えるのを止めた幼女。シリウスを見て、ポラリスを見て、アトリアを見て、またシリウスを見てを繰り返している。シリウスは幼女が落ち着くまでじっと待った。

 

「…な、な、なに、なににに、しし、しににに、き、きた、きたの…?」

 

 怯えは残り警戒もしてるがある程度は大丈夫と判断したのか、掠れと吃音で聞き取り辛いものの確かに幼女は喋り掛けてきた。急に喋れないぐらい長い時間一人でここにいたと察して心が痛んだシリウスだがそれを表には出さなかった。

 

「さっき外で誰かに見られたのを感じてな。一体誰だろうと思って来たんだ」

「…そそそ、それ、それだけ、けけ…?」

「うん、それだけ」

「…わた、わたしし、し、にに、に、ちか、ちかづ、かづ、いいたら、たら、あぶ、ぶぶ、なな、ないよよ…?」

「どうして?」

「…し、しし、しんん、じゃじゃ、じゃうう、うよ、よ…」

「(近づいたら死ぬ?どういうことだ?呪いとかか?)…触らなかったらいいのか?」

「…だ、だだ、だめ、だめめ…」

「(触らなくても駄目…もしかして魔力関連か?魔力封じ的な物があれば近づいたり触れるのか?)うーん、どうすれば…」

 

 シリウスは幼女を助ける前提で色々と考えている。

 鍵の掛かった入り口、怖がるメイド、閉じ込められている幼女。

 完全に権力者が関わっている特大の厄ネタだった。

 それでもシリウスは閉じ込められている幼女というだけで助ける気満々だった。アトリアの時と同じでここで幼女を見捨てたら母親を名乗る資格なんて無いと思っている。

 その時、幼女に異変が起きた。

 

「!!あ、ああ、だ、だめ、だめめ、め、にげ、げげ、にげ、てて…」

「へ?ぬおっ!?」

 

 幼女から膨大な魔力が放出され、シリウスは咄嗟にポラリスとアトリアを庇った。幼女から放出された魔力波はシリウスに直撃した。

 

「くっ!……………ん?」

 

 痛みに耐えようと目を瞑り歯を喰いしばったシリウスだが、いつまでも痛みが来ないのでキョトンとした顔になっている。

 

「何だったんだ今の?」

「…え?え?なな、なん、なんで、で…?あ!?ま、また、またた!?」

 

 再び幼女から魔力波が飛んできてシリウスに直撃したがやっぱり何ともなかった。

 

「んー?よく分からんが、今のが近づいたら死ぬって言ってたやつか?なら大丈夫だな」

「ちょちょちょ!?なん、何だったのよ今の!?」

「(プルプル)!?」

 

 異質な魔力を感じて荷物からカペラとピーニが飛びだしてきた。

 

「おう、そっちも無事か」

「無事か、じゃないわよ!?今の何なのよ!?」

「そんなにヤバかったのか?」

「ヤバいなんてもんじゃないわよ!?今のでこの辺に迷い込んでいた精霊が消えたんだけど!?精霊が消えるなんてよっぽどよ!?」

「(プルプル)」

「ほら!カペラも怖がってるわよ!魔物ですら今のに触れたら即死よ即死!」

「大丈夫かカペラ?よしよし、もう大丈夫だぞ」

「話を聞きなさいよ!」

「聞いてるよ。猛烈に、激烈にヤバいんだろ?でも私達は何とも無いだろ?」

「それは…!…何で無事なのかしら?…そういえば何かに包まれた感じもしたような…」

「んー?私は何もしてないぞ(ピーニが慌ててるってことはピーニじゃないし、カペラも怯えてるから違う。なら消去法でポラリスかアトリアって事になるが…)」

「ま~」

「まま」

「…ま、いっか。別にそれで害は無いし」

「ちょっと!?それでいいの!?」

「私は気にしない。それよりもこの子だ」

 

 幼女は何ともないシリウスに驚いておりシリウスを凝視している。

 

「…な、なな、なん、なん、で、でで…?」

「さあな。とにかく私達は近づいたり触っても大丈夫な人だが、そっちに行ってもいいか?」

「…あ、あぅ、ぇうぅあぅぁ…」

 

 どうしたらいいのか分からず言葉にならない声を上げてパニックを起こしている幼女にシリウスはゆっくりと近づきそっと頭に手を置いた。幼女はビクッと身体を震わせ、だが優しく、温かい感触に恐る恐る顔を上げた。そこには優しく微笑むシリウスがいた。

 

「どうした?」

 

 目が合うとシリウスは頭を優しく撫でながら聞くが、幼女は何も答えずただシリウスを呆然と見上げていた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

な、何だこれは!?こんな…こんな事が…!?

の、呪いよ!魔女の呪いだわ!

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 幼女は産まれてからずっと疎まれてきた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

ひぃ!?近づかないで!?

寄るな!化け物が!

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 誰もが幼女を恐れ化け物扱いをした。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

し、死んでる…!?

やっぱり呪いだ…!魔女の呪いなんだ!

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 疎まれながらも育ったある日、幼女の魔力が暴走し何人もの人が死んだ。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

森の奥の古塔に幽閉する。

お前は二度と外に出る事は許さん!

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 それが切欠で幼女はこの塔に幽閉された。日に一度、食事をドアの隙間から出されるだけでそれ以外は外部との接触を一切断たれた。幼女に許されたのは小さな窓から外を眺める事だけだった。

 誰も幼女に触れるどころか近づこうとしなかった。

 幼女は知らない。誰かが傍にいる安らぎを。

 幼女は知らない。頭を撫でられる温もりを。

 幼女は知らない。愛を。

 知らない。

 知らない。

 どうすればいいのか何も分からない。

 冷たく暗い場所でずっと一人ぼっちでいた幼女はどうすればいいのか、どんな顔をすればいいのか分からなかった。

 だが幼女の目からは一筋の涙が零れ落ちた。

 シリウスの幼女を助けたいという想いは幼女の凍り付いた心に確かに届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(口惜しや…今一歩のところで……‥まあよい。機はいくらでもある。精々残された時間を楽しむがよい…クッフフフフ…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(ナゼダ…ナゼ…ナゼジャマヲスル…コノママデハ…ダガチカラハマダ…ドウスレバ…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。