本当にありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
シリウス達はおままごとや布で作ったボール遊びなど色んな事をして遊んでいた。
「…そろそろ夕食だな。ルーナちゃん、そろそろ終わろっかー」
「えー…」
「ご飯の時間だよー」
「ごはん!」
「よしよし、じゃあ行こっか。ポラリス、アトリア、スピカ、カペラ、ご飯食べよっか~」
「あ~」
「あい」
「…ぅ、う、ん…」
「(プルプル)」
「ぜぇ、ぜぇ…」
「はぁ、はぁ…な、何で、そ、そんなに、はぁ、げ、元気、なの…?」
「子供ってのは全力で遊ぶもんだ」
「はぁ、い、いや、ルーナ、じゃなくて、はぁ、シリウス、の方…」
「私か?日頃から鍛えてるからな」
疲労困憊なピーニとリーサを連れて未だに元気いっぱいなルーナと手を繋ぎながらシリウスは下へ降りていった。ちょうどルヴェン達も降りてきたところで皆で席に着いた。
「どうしたのリーサ?」
「ルーナ達と遊んでた…疲れた…」
「あらあら、フフフ…」
「ハハハ、まあ飯を食えば元気になるさ」
「ふっ…」
「エベッタとクルフは今回の報酬で何か買うのか?」
「そうだなー…オラも新しい盾を買おうかなー」
「確かにな。スケルトンの時に矢が刺さりまくってからな」
「僕は防具を買う事にしたよ。流石に何も着ないのは危ないしね」
「そうしろ。クルフなら…胸当てと篭手辺りかね」
「鎧じゃ駄目なのかい?」
「駄目じゃないがかなり重いぞ。今のお前が付ければきっと動けなくなるぞ」
「そ、そんなに重いのか…」
「そうだな。クルフは胸当ての方がいいと思うぞ。俺も胸当てを着けてるしな」
「うーん…そうだね。そうするよ」
「ハーイ、いらっしゃい。ご注文はいつものかい?」
「おう。今日のオススメを八つと赤ちゃん用のを三つな」
「ハーイ」
注文を聞いたウェイトレスは厨房へ戻っていった。料理が来るまでの間他愛の無い話で盛り上がり、料理が来てからはその美味しさに舌鼓を打っている。今日のオススメはカラタマのスープとキノコのチーズグラタンだ。
楽しく食事をするシリウスを一人の男がジッと見ていた。黒で統一された服を着た怪しい男は明らかにシリウスに敵意を持って見ている。
「…?またか…」
「シリウス?」
「また誰かに見られてる気がする…」
「子連れのハンターが珍しいんじゃないのか?」
「いや…何か敵意みたいなのも感じる気が…」
「…穏やかじゃないな」
「もしかしたらちょっと前の奴らかもしれないわね」
「ああ、あいつらか。何人かは捕まらなかったんだったな。あり得そうだな…」
「…ここで手を出す事はしないと思うが気をつけろ」
「そうする」
シリウスは気を引き締めて視線を気にしつつ食事を続けた。食事は終えたが視線が気になるのでシリウスは早々に部屋に戻っていった。
「本当にこの前のチンピラか?…待てよ、そういえば…そっちの可能性の方が高そうだな。なら様子見とかはせず…対策しとくか。ピーニ、一つ頼みがあるんだが」
「頼み?」
シリウスは何も無ければそれに越したことはないが念の為対策を施す事にした。対策を終えた後はいつも通りに寝る準備を済ませて眠った。
深夜。
夜勤の者以外は寝静まった町の中を黒ずくめの男が音も無く走っている。男は宿屋に着くと路地裏に回り込み壁を伝って屋根に跳び乗った。屋根の上を静かに移動しある部屋の窓を短剣を器用に使って鍵を開けた。その部屋はシリウスが泊っている部屋だ。男はベッドに忍び寄りベッドの上の膨らみに躊躇なく短剣を突き立てた。
「…?…!?」
突き刺した短剣の感触に違和感を持った男がシーツを捲るとそこには丸めた毛布が置いてあった。気づかれていたと驚き硬直する男に隠れていたシリウスが小剣を抜いて斬りかかった。
「!!ちぃっ!」
寸でのところで気づき短剣で受け止めた男だがその重さに内心驚いていた。
「やっぱり来たか。こんなとこで手は出さないって皆が思っているはずだから、もしかしたらと思って対策して正解だったな」
「くっ…!何故気づいた!?」
「あんなに露骨に敵意を見せたら気づくだろうが」
「ちぃっ!だが、貴様を殺せばいいだけだ!」
男は両手に短剣を持ってシリウスに襲い掛かり、シリウスは小剣と短剣を持って迎え撃った。右袈裟で斬りかかってくるのを左の短剣で左に弾き、右の短剣の刺突を小剣で右に弾きながら男と立ち位置を変えた。振り返った男は間髪入れず大上段から振り下ろし、シリウスは小剣と短剣を交差させて受け止めた。
「ぐぅ…!?はぁ!」
「ぬおっ!?くっ!?ぐあっ!?」
力任せに弾き飛ばして短剣で斬りかかったが避けられたので一歩前に踏み出して回し蹴りを放った。男は不意打ち気味に放たれた回し蹴りを受けてベッドに倒れ込み、シリウスは小剣で斬りかかるが男はベッドから転げ落ちて回避した。
「くそっ!(ちぃ!この女、予想以上にできる!これだけ音を立てたらすぐに誰かやって来る!それまでに女を殺してガキを連れていかねば!)」
「ふん(何とか付いていけてるけどこれ以上速度が上がれば対処できない!誰でもいいから早く来てくれー!)」
時間が無い男の後先考えない猛攻をシリウスは涼しい顔で捌いているが、内心は結構ギリギリだった。金属が打ち合う音はよく響いており、宿屋に止まっている者達全員が起き出している。
「何の音だよ…」
「うるせえぞ!」
「この音って…誰か戦っているのか?」
「上から聞こえるぞ!」
「もしや…!ルヴェン!」
「ああ!くっそ!こんなとこで手を出してくるなんて!」
「ルヴェン!この音って!」
「…!シリウスの部屋から聞こえる!?」
「セネディ!リーサといろ!」
ルヴェンとエバンは槍と盾だけを持ってシリウスの部屋を抉じ開けようとするが鍵が掛かっていた。
「くっそ!鍵が!」
「やむを得ん!ふんっ!」
鍵の掛かったドアをエバンはシールドバッシュで壊した。
「てめぇ!何してやがる!」
「糞がっ!想定外ばかりだ!」
二人が部屋に入ってきたのを見て不利を悟った男は開いたままの窓から逃げ出そうとしている。
「ふえええぇぇぇ…」
「!!そこか!」
「させるか!」
隠れているポラリスが泣きだしてしまい居場所がバレ、男は攫えないならと投げナイフを泣き声がした場所へ投げるがシリウスがそれを弾いた。男は当たったかどうかを確認する事無く窓から飛び降りて夜の闇に消えていった。
「待てっ!くっそ!逃げられた!」
「無事か!?」
「ああ。怪我一つしてない」
「そうか…良かった」
「シリウス!」
「大丈夫!?」
「リーサ、セネディ。ああ、大丈夫だ」
「ふえええぇぇぇ…」
「うー、うー…」
「(ガタガタ)」
「(プルプル)」
「終わったかしら?」
「ああ。もう出てきてもいいぞ」
シリウスが何も無い場所に声を掛けると景色が歪みポラリス達が出てきた。
「えぇ!?」
「ど、どうなってるの!?」
「よしよし、大丈夫だよ。ピーニが精霊にお願いして見えなくしてもらったらしい」
シリウスは戦闘音と怒号で泣き出したポラリスとアトリアとスピカをあやしつつ仕組みを話した。
「妖精は精霊と話せるって本に書いてたけど本当だった…!」
「凄いわね…全く気づかなかったわよ…」
「セネディでも気づけないのか…」
「精霊の力は人を遥かに上回ると聞く。これぐらい造作もないのだろう」
「別にそこまで万能ってわけでもないけどね。ありがとねー」
「助かった、ありがとう」
終わったと判断して緑色の風の精霊が窓から出ていった。その光景が見えていたのはピーニと薄っすらとだけ感知できるシリウスだけだった。
「シリウス?誰にお礼を言ったの?」
「精霊だが?」
「…え?」
「…ん?」
「…へ?」
「…なんと」
「…?何かおかしいか?」
「…な、な、なんで、みえてるの?」
「??一度ピーニに見えるようにしてもらってからほんの少しずつだが見えるようになってな。と言っても薄ぼんやりとしか見えんが」
「「「………」」」
「…あー…他の誰かに言った事は?」
「いや、無いけど」
「…なら誰にも言わない方がいいだろう。精霊は普通の人には見えないからな」
「そうなのか」
訓練次第で精霊が見えるようになると思っていたシリウスだったがもちろんそんな事は無い。妖精や一部の種族以外は普通は精霊を感知する事はできず、ごく稀に感知できる者はいるがそれは先天的なものでシリウスのように後天的に感知できる者は皆無だ。
ルヴェンとセネディとリーサが絶句している姿を見てシリウスはそれが普通の反応なんだろうなと思い、誰にも言わないようにしようと思った。
「それにしてもさっきの奴はこの前の奴じゃないな」
「…多分私関連だ」
「心当たりがあると?」
「ああ。時期的に考えてもそろそろ来ても不思議じゃない」
「シリウス、それってこの前話してた?」
「そうだ」
「本当に大丈夫なの?今の奴一人でも結構厳しかったんじゃない?」
「…まあ、確かにな。でも魔法が使えて逃げに徹したら何とかなる気もするんだよな」
「…どうやら、俺達の知らないところで何かに巻き込まれたか、やらかしたらしいな」
シリウスの心当たりとは奴隷商の追手だ。男の正体はルーデニックで出くわした奴隷商の手下ではなく、奴隷商が雇った裏社会の者だった。
「(動きとかチンピラじゃなくて完全にプロだった。裏社会の奴を雇ったか。マズいな…ピーニにはああ言ったが一人でも増えたらアウトだぞ。あいつをどうにかして早く町を出ないと)」
シリウスは仲間がいる事を危惧しているがテトラニーアにいる追手は先程の男一人だけだ。逃げた奴隷達の行く先は分かっているのでそこに戦力を集中させており、他の都市には念のために一人ずつ派遣して確かめさせている。それを知らないシリウスは危機感を持ち真剣な表情で考えていたが、泣き止んだポラリスとアトリアとスピカが欠伸をした事で考えを中断した。
「お眠かな~。そうだよね~」
「ルヴェン、そろそろ戻ってこい」
「…はっ!?すまん」
「…私は何も聞いてないわよ」
「…シリウスがドンドン遠くなっていく…」
「色々考えるのは明日にしとけ…しかし、この部屋で寝るには少しな…」
ドアは破壊され、室内は戦闘の余波で壁に傷が付き、床は泥で汚れている。
「空いてる部屋があるか聞いてくるか」
「あ…な、なら…わ、私のへ、部屋で、ね、ねね、寝たら、い、いいいいんじゃ、ない?」
「リーサ、吃りすぎよ」
「でもルーナちゃんもいるんだろう?」
「る、ルーナなら、全然、だ、大丈夫、だ、だから…!」
「んー…なら一晩だけお邪魔させてもらおうかな」
リーサが一歩踏み出した事に小さくガッツポーズをするルヴェンとリーサをニヤニヤしながら見るセネディを無視してリーサはシリウスを連れて部屋に戻っていった。
「ルーナ、もう出てきてもいいよ」
部屋の中にはルーナがいなかったが、リーサが呼びかけるとベッドの下からルーナが出てきた。
「おねえちゃん?あっ!シリウスおねえちゃん!」
寝ていたが騒動で目が覚めてリーサに言われてベッドの下に隠れていたルーナはリーサとシリウスに駆け寄って抱き着いた。
「シリウスおねえちゃん、どうしてここにいるの?」
「あ、えっと…」
「お部屋で虫さんがいっぱい出てきてね。寝れなくなっちゃったからルーナちゃんと一緒に寝ようと思って来たんだ」
「ほんと!?」
シリウスが即興で作り話をするとルーナはあっさりと信じ、一緒に寝れると知って目をキラキラさせている。全員で寝るのは少々手狭だがベッドに寝転んだ。端からシリウス、スピカ、ポラリス、アトリア、ルーナ、リーサの順だ。
「うぅ…何で私まで同じベッド…?」
「ルーナちゃんが一緒がいいって言ったからだろ」
「えへへ~♪」
大好きな姉と優しくてカッコイイシリウスと一緒に寝れてご満悦なルーナ。終始笑顔だったが、ぐっすりと寝ているポラリス達につられて眠気を感じて、リーサとシリウスの手を握ったまま眠った。
「ほら、私達も寝るぞ」
「…ねえ、シリウス」
「ん?」
「シリウスはどうしてそんなに強いの?」
リーサから見たシリウスは、どんな魔物や借金取りみたいな怖い人にも臆せず立ち向かい、どれだけ危機的状況に陥っても冷静に対処できる完璧超人だ。
「…まあ、そう見えるかもしれないが、私はそんなに強くないよ。強くあろうとはしてるけどな」
「何のために?」
「子供達のため」
リーサの問いに即答しシリウスは寝ている子供達を優しく撫でた。
「この子達を守るためならどんな事だってする。この子達を守るためならどんな苦行だろうと耐えてみせる。この子達を守るためにどこまでも強くなろう。そう思ってるだけだよ」
慈しむように子供達を撫でているシリウスは内に秘めた決意を語った。シリウスのその決意に満ちた真剣な表情を見てリーサは熱に浮かされたように頬を赤くしてシリウスに見惚れていた。
「ふっ、クサイ台詞を言ったな。ほら、寝よう」
「うん…」
シリウスはルーナと手を繋ぎながら目を瞑った。リーサはしばらくの間シリウスの寝顔を眺めていた。
初めてシリウスと会った時は自分と同じで幼い妹を一人で育てていると思い親近感が湧き、後に母親と分かるがそれでも一人で二人もの子供を育てている事に素直に凄いと感じた。その後浮かべた慈愛に満ちた表情を見て顔が熱くなり、次第にシリウスの事が気になるようになった。その感情が何なのか分からず、だが心地良いもので自然とシリウスの近くにいるようになっていった。その心地良い感情が恋だと分かったのは父親の事を聞かされて自暴自棄になった時だった。シリウスに厳しくも優しく諭されて自分は一人ではないと気づかせてくれた。その時に感じた胸の高鳴りで自分がシリウスに恋をしている事を自覚した。自覚して恥ずかしくなるが、それ以上に一緒にいたいという思いが勝ち、自覚してからもシリウスの近くに居続けた。
シリウスは嫌がる事無く一緒にいてくれて、シリウスの色んな表情を見れた。
ポラリス達といる時の慈愛に満ちた表情。
魔物と戦う時の真剣な表情。
自分達と話している時の優し気な表情。
全てリーサの宝物だ。
…リーサは何となく察していた。
シリウスとの別れが近づいている事に。
だから恥ずかしかったが一緒に寝れるように提案したのだ。
ルーナと繋いでいる手を解きシリウスの手を握った。悲しみが膨れ上がってきて涙が溢れてくるが、耐えるように手を強く握り眠るルーナを抱き締めて目を瞑った。